PandoraPartyProject

シナリオ詳細

雪夜を駆ける想望

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング



「――勝負よエルス・ティーネ!!」

 またか、と思うような声がエルス・ティーネ (p3p007325)の耳元へと届く。
 振り向いた先にいたのは赤毛の少女――その名をレッド・ドッグと言う。
 彼女はラサの傭兵だ。そして長たるディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)に心酔しておりその名や姿を彼に似せて……同時に、彼に近付かんとする者がいれば敵対心を露わにする者。
 その経緯からレッドとエルスは以前依頼上で争った事がある。正確には敵対したというよりは、どちらが先に目的を果たせるかレースをしたという方が近いが……まぁその時の仔細は省くとしよう。ともあれこの登場の空気は正に『その時』に似ていて。
「ま、また貴女なの。あの、私忙しいのでこれで……」
「こらッ! 雑ね対応が!!
 でも逃がさないわよ――負けたままじゃ終われないの!!」
 路地裏の方に駆け抜けようとしたエルスだったが、恐ろしい勢いでレッドが回り込んで威嚇してきた。犬かお前は!
 ともあれレッドはどうやら以前の勝負でエルスに敗れて、それ以降彼女をずっとマークしていたようだ。自らを上回った者に対する警戒と――そして彼女自身の気質が負けっぱなしを許さないのだろう。
 壁際に追い詰められ、腕で蓋をされ……これって所謂壁ドン……
「もうすぐシャイネンナハトだわ。これに伴って一つ、依頼が出ているのよ……
 そう。子供達にプレゼントを密かに届けるという依頼がね……!」
 顔が近い顔が近い。圧が凄い。
 しかし言いたい事はこういう事か――
「そ、それでどれだけ届けられるか勝負を……と?」
「察しが良いわね流石だわ! これは一部の者にだけ伝えられている依頼なのよ。あちこちの子供達をビックリさせる為にね――依頼を受ければその一角を担当する事になるわ。そこで勝負よ!」
 シャイネンナハト――他の世界でいう所の『クリスマス』に該当する混沌の行事。
 つまりはサンタ的な役目を……と言う事か。
 レッドが捲し立てる様に喋る内容によると住宅街を中心として、それから商人の住まう高級住宅街、傭兵達が拠点とする宿舎にもいくらか届ける必要のある依頼らしい。そういった場所はネフェルストのあちこちにある故、一人や二人にだけ話が行っている訳ではないようだ。
 プレゼントの中身は美味しいお菓子が大量に入っている箱。
 そして期日はシャイネンナハトの前日の夜。
 当日になるかならないかという時間帯に子供達にサプライズを――という事で。
「……なるほど、ね」
 思考する。シャイネンナハトの前日、か……
 レッドはともかく――悪くはないかもしれない。なにせ、シャナネンナハトと言っても……
「……予定はないしね。どうせディルク様とは……」
「んっ? 今なんて言った? まさか! 貴女もうあの人と何か約束をッ――!!」
「ち、違うわよ!」
 慌てて否定するエルス。予定がある? いやむしろ逆だ。
 先日のラサで開かれたローレット・トレーニングにおいてエルスは『デート』を賭けた試合を申し込んでおきながら――敗北してしまった。つまりそれは転じて言うと……シャイネンの誘いを断られたという事であり……
「??? まぁいいわ! これはディルク様も『子供達にサプライズ? まぁいいんじゃねーの?』っていう感じで承諾を頂いている商会の企画でもあるからね! 果たせば一目置かれるのは間違いないわ……!」
「えっ――これはディルク様が――?」
 上手くいけばお褒めの言葉を貰えるかもね! とレッドは頬に手を当て熱き抱擁を想像中。
 しかし――ディルクの承諾もあっての事――?
 ならば、もしかしたら。刹那の瞬きであろうともしかしたら彼と会える機会となるかもしれない……? いや彼の事だ。きっと軽く目を通して『別に良し』としただけだろうし、レッドが言う程この案件の事は気にしていないかもしれないが……
「貴女だって見過ごせないイベントでしょう?
 まぁ十中八九逃げたりなんてしないでしょうけれど……待ってるわよ。
 そして覚えておきなさい。あの方からお褒めの言葉を貰うのは――私よ!!」
 言うだけ言ってレッドは跳躍。意気揚々とばかりに街の中へと消えていく。
 きっと傭兵仲間と共に参加する為に準備に向かったのだろう。
 ……さてどうしたものだろうか。

 雪降り注ぐ中。手の平に落ちてくる雪を溶かしながら――エルスは思案していた。

GMコメント

 リクエストありがとうございます!
 恋心の争いはどこまでも……以下詳細です!

●依頼達成条件
 1:レッド・ドッグ達よりも担当区画内へ多くのプレゼントを届ける事。
 2:『直接的』な暴力行為を依頼中は行わない事

 双方を達成してください。

●ルール
 1:定められた区画内の家(の子供達の枕元)にプレゼントを届けてください。どこからどこまでが区画内なのかはなんとなく分かるモノとします。
 2:子供達は全員すやすや寝ているものとします。
 3:プレゼントを届けて脱出した後は子供達は起きて気付きます。なので、例えばレッド達が届けた後から自分達の分を足したりこっそり入れ替えたりなどは出来ないものとします。これは当然レッド達も同様です。
 4:プレゼントの重量や、一人で何個持てるか~などは考えなくて構いません。ただ『運搬性能』などなんらかのスキルを持っていると『運びやすい』状態として速度にプラスの補正が付くものとします。

●フィールド
 ラサの首都ネフェルストの一角です。
 以下、三つのフィールドにプレゼントを届けるのが今回の依頼です。
 それぞれ異なる特徴があります。一か所ずつ全員で回ってもいいですし、分散して同時攻略してもいいでしょう。

・住宅街
 所謂普通の住宅街です。プレゼントを届ける候補が最も多い地点です。
 一般的な家々なので後述の地点と異なり警備の者はいたりしません。
 迅速に届ける事が重要となるでしょう。
 プレゼントを届ける割合の約45%を占めます。

・商人街
 一言でいうなら高級住宅街です。ちょっと敷地の広い家が中心です。
 家のセキュリティ自体が厳重だったりするので鍵を容易く開ける技術や、侵入者を感知して警備音を鳴らす魔術を掻い潜る(罠対処など)技能があると便利でしょう。
 プレゼントを届ける割合の約20%を占めます。

・傭兵宿舎
 傭兵達の家が多い地点です。
 傭兵の中には子供がいたりするので、彼らに届けてもらいます。
 家のセキュリティ自体は高級住宅街に比べ大したことはありませんが、傭兵としての警戒があるというか……うっかり物音を立てたりすれば即座に気付かれる恐れがあるので、隠密に行動できるスキルがあると便利でしょう。
 プレゼントを届ける割合の約35%を占めます。

●敵(?)戦力
●レッド・ドッグ
 ラサの傭兵の一人です。ディルクに対して明確に恋心を抱いており、名前はおろか外見も彼をイメージしているとも……別に悪人ではないのですが、ディルクに近寄ろうとする者がいれば激しい威嚇行動をする事もあるようです。嫌がらせとかその他色々も。
 ただし恋敵――ライバルに認定した者――に関しては正々堂々と争う傾向があります。
 真正面から叩き潰したいのかもしれません。特に前回(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4445)自身を上回ったエルスの事は色々な意味で注目している様です。
 今回傭兵仲間7人と共にプレゼントを配る準備を進めている様です。
 主に『住宅街』と『傭兵宿舎』に人数を絞るつもりなのだとか。

●備考
 シチュエーション的にはシャイネンナハトの前日の夜という設定です。(あくまで本依頼におけるシチュエーションの話ですので、参加したからといって時間的拘束などはありません。気にしないでください)
 ファミリアーや式神などに運ばせてもOKですが、彼らでは例えば窓を開けたり鍵を突破する事などに難があるかもしれません。

 OP中ではディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)の存在が示唆されていますが、リプレイ中でディルクが登場するとは限りません。

  • 雪夜を駆ける想望完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月31日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
※参加確定済み※
ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)
異世界転移魔王
エシャメル・コッコ(p3p008572)
魔法少女
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ


 聖夜に駆けるはサンタか、それとも恋による争いの火蓋か。
「コッコッコー♪ 今日も今日とておたすけなー! うんうん成程なるほどーれっどどっぐとかいうねーちゃんと、えるすてぃーねのねーちゃんのラブバトルな! しょーち、しょーち!」
「ラ、ラブバトルとかそういうのじゃなくて……ええと、いいから頑張りましょうね!」
 ちがうのか? ちがうのか? 『魔法少女』エシャメル・コッコ(p3p008572)は『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)の顔を覗きながらテンション高めだ。今日のお助けはちょっぴりラブの気配を感じるぜ!
 とにかくレッド・ドッグよりも多くのプレゼントを配ればいい訳だ。
 以前の依頼ではもうちょっとこう、強引と言うか……そんな感じだったけれど。
「前回よりは柔らかい印象なのかしら……」
「レッド・ドッグ? ああ、そういえば以前何かの依頼でぶつかった事があるような無いような……まぁつまりは今回も競争って訳だな。はぁ、恋を巡る戦いってのは根深いねぇ……」
 なんだかんだと色宝争奪での素早い行動である程度一目置いているのかもしれない――『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は吐息一つ漏らしながら、ラサの街中を眺めていた。
 まぁレッドの心境はともあれ、内容が異なろうと負ける訳にはいかない。
 負けたらきっとドヤられながら赤犬の所に喜々として報告に行くレッド・ドッグの姿も思い当たるし……うぐぐ、やっぱりそうだ! 絶対負けられない! エルスは胸の内に焦がれる思いを抱きつつ、見据えるは住宅街だった。
 あちらに配るべき対象が大量にあるのだから。
「やれやれ、奇妙な……と言う程でも無いが、思わぬ再開だな。
 ま、今宵は犬と言うより――色見はどことなくトナカイの様だが」
 更に世界に次いで『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)もかつてのレッドとの出会いを想起していた。エルスと同じく、ある程度は丸くなったのか? と思うが、勝負ならやはり負ける訳にはいかない思いも同じく。
「またけちょんけちょんにしてやるとしよう。また負けてべそをかかなければいいが」
 故に愛無は今のトレンドを取り入れ、プレゼントに更に追加を加える。
 子供達が喜びそうなものにするのだ。そもそも誰それが企画した云々以前に――これは子供達の為の催しにして、子供達にとっては自ら達の勝負など一切関係ないのだから。
「一年に一度の祭事。当の主役たる子供達が満足できなければ本末転倒だろう」
 そう言いながら街へと往く。プレゼントを配る為に。
「なんか……なんだぁ、この依頼? プレゼント、ねぇ。んな依頼がラサでもあるとはぁな……まぁ、レディの頼みとあればやるっきゃねーけどさ!」
「ええ。子供達の笑顔の為にも一肌脱ぐとしましょう。
 ふふっ、子供達が喜ぶのが目に浮かびそうです」
 そして――とにかくプレゼントを配ってくればいいんだろ? と『兄貴分』サンディ・カルタ(p3p000438)はラサの街を駆け抜け、同様に『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)もまた夜道を往く。
 幻はエルスと同様に住宅街へ。一方でサンディは嵐が如く駆け抜けながら場を見極めんとしていた。
 住宅街の手が足りているのならそちらに入るべきだろう。だがそうでないならば効率を考えて別の場所へ行くのも手だ――今は馬車を渡してその支援を行うとしようと思考して。
「サプライズ、か。起きた時には届いている品物……
 告知なく配られたものを口に入れる事が出来るのは、治安の良さの証だな」
 その時、アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が目標の家の窓に接近する。
 サプライズ――それは信頼あってのものだ。
 例えば贈られた物に毒物が含まれていたらどうする?
 極端な例かもしれないが、しかし『配られたものを受け取る事が出来る』というのはそれだけで掛け替えのないものなのだ。ラサも先日大鴉盗賊団との戦いはあったが――しかし特に大きな混乱もなく聖夜を迎えられている事からも、やはり安定しているのだろう。
「同時に、物を配ってくれと信頼されたのなら、応えなければ」
 口端に小さく、笑みを作る。
 滞りなく配ろう。今日が平穏かつとてもいい日であると――する為に。


 住宅街の方はそう難しい事ではない。
 数こそ多いが、警戒されている訳でもなく。
 気配を断つことに優れている人物でもあるのならば尚の事に余裕だ。
「……しかしだな、勝手に家に入りプレゼントを子供の傍におくだけなのに、この衣装(はどうかと思うのだが……何の意味があるのだ? え、儀式用の衣装……? これがシャイネンナハトであるというのか……」
 『異世界転移魔王』ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)は、なぜか着せられていたサンタ衣装に疑問を呈しながら、しかし依頼であるのならば仕方ないと赤き衣を纏いて空を飛翔していた。
 屋根から屋根に飛び移り鍵のかかっていない窓から侵入。
 子供達の枕元に置いて――また次の所へ。
「さてさて。起きた時に枕元にプレゼントがある事、楽しみにして頂ければよいですが」
 同時に幻もまた住宅街を走っていた。
 速度には自信があるのだ――レッド・ドックなんぞなんのその。警戒が薄ければ余計な音を立てないようにさえすれば十分に配っていける故、レッド達の配送を邪魔する為に策も一つ。
「こちらの区画から攻めていけば――もう手出しされたと思うでしょう?」
 彼女がいるであろう方角の区画から潰していくのだ。彼女がこちらへと来れぬ様に……ああ、もしもここがオセロの盤面だったなら逆転事象が発生してとても面白い事になるのだが、そうでないのは残念だ。
 想像しながら苦笑し、幻は順に埋めていく。
 イレギュラーズ達は先のルーチェや幻の様に主に住宅街を中心に巡っていた。攻略が簡単、というのもあるからだが……後は『適材適所』も考えて、だ。例えば。
「――よし。警報装置は解除したぞ。
 全く、こんな家にも侵入させようとするとか……ま、だからこその依頼か」
 世界は商人街の方へと向かっていた。
 こちらは警備の厳しい箇所である――しかし世界は罠に対処する知識と技術があり、それを用いればさほど難しい事ではなくなるのだ。簡易の召喚陣を用いて顕現させた精霊は住宅街の手伝いに行かせている故、己が抜けた穴は埋められるだろうと思考し。
「こういう場所で地道にポイントを稼ぐのは大事だよな――レッド達がここに来れるかは知らないけれど、もしも来にくいならここでの数が意外と結果に影響したりするかもしれないし」
 枕元にまたプレゼントを一つ置いて。おっと次の家だと彼はまた巡る。
 どうしても無理な場合己がコネクションが通じないか交渉してみるとしよう。なぁにちょっと置かせてもらうだけですから――ねっ?
「……気付かれないようにそーっとな。そーっと」
 抜き足差し足忍び足。アーマデルは住宅街の方で静かに行動をしていた。
 ふぅ、しかし中々数が多いものである……余っているなら猫の手でも借りたい所だが。
「なぁ酒蔵の聖女……あ、いややっぱりなんでもない。無理だよな、うん知ってた。むしろついて来たら侵入先の酒を飲み干すだろアンタ。おい、そこのテーブルの上のものに手を付けようとするな」
 それはここの家の人達のモノだろと、己に付きまとう幻影を咎めて。
 とにかく次の家に向かおうとルートを確認する。幸いにして物質を透過する為の術や、近くで起きている者がいないか聞き耳を立てる事に優れていれば彼の隠密性と移動性は抜群であった。また、それに近いのが――
「ビビビビューン!!
 コッコのトックンの成果、今こそ見せる時ってヤツだもんな――!」
 コッコだろう。どんな家の屋上にも飛び立つ飛行の手段が在り、壁や煙突もなんのそのとする物質透過なる侵入手段があり、いざとなれば探知される技能から己を隠すステルスの術もあるのだ――! コッコ、完璧やろ? エッヘン!
「バビューンとプレゼントしまくりな! 良い夜過ごせよ!!」
 テンションは上げまくるが声はちゃんと静めているので問題なし、ヨシッ!
 サンタさんを待ってる子が多いここが終わればまた別の所へ行くとしよう。うん、多分商人街の方がいいのかな!
「ええと、あっちはルーチェさんやアーマデルさんが回ってくれてるわね……
 なら私はこっちの方を回った方がいいかしら。それなりのペースでは進めてるし」
「ふぅーん。つー事は、俺は傭兵宿舎の方に行くとするかね。愛無と合流してテキパキやってくるぜ」
 同時。エルスはそんな様子を確認しながら次なるルートを確認していた。
 今の所住宅街は調子が良いようだ。所々でレッドの姿が目撃されている様で、全て順調とは言わないが……幻による間接的妨害も効いているのかイレギュラーズが優勢に感じる。
 故にサンディは傭兵宿舎の方へ注視する事にした。
「大きな声じゃ言えねーが、これでも元々盗賊さ。
 盗みに入る――って訳じゃねぇが、侵入は任せとけよ」
 危険な所に入った事もあるのだと彼は紡いで、空想の彼方より至るもう一人の『己』に力を借りれば――飛行の加護を得るものだ。
 往く。真っすぐ飛べば障害物など関係ない。
 先行している愛無と合流するべく飛びながら周囲を眺めれ、ば。
「さて。どうやら『あちらさん』は――少なくとも目に見える範囲ではお利口さんな様でありがたい限りだな。赤犬も企画しているとなれば、迂闊な行動は出来ないのかもしれないが」
 丁度宿舎の一角から外へと出た愛無の姿を見つけた。
 愛無は若干以上レッド達の妨害が無いか注意していた……のだが、案外正々堂々として来ているのか、今の所彼女らの妨害があった雰囲気は無い。まぁ届けに行こうとしていた所が既に配られた後、と言うぐらいはあったが……
「まぁそれは向こうも同様だろうな」
「むしろ今の所だが、こっちが配ってる量が多い気がするぜ――なんだったら今からトナカイでも引っ張ってきて雰囲気づくりでもしてやるか」
 愛無と話しながらサンディはうーむと思考を。折角なので見栄えを良くしたい所なのだが、周囲が砂漠と言う事もあってかトナカイは厳しいか……? 野生の砂漠トナカイとかいないだろうか。パカダクラ?
 ともあれ気配を遮断する術を行使しながら各地を巡る。
 愛無は物質を透過する術を用いて侵入し、サンディは優れた運搬の力によって大量のプレゼントをスムーズに運ぶのだ。こういった複数の技能を持った者達が各所に別れる事によって、実に素早く依頼物を運べていた。

「くっ――! やるじゃないの、でも、まだ負けた訳ではないからね!」

 と、その時。家から出てきたエルスと鉢合わせたのはレッドだった。
 ……アノニマスの力で『誰でもない』者の雰囲気を醸し出し、住民には見つからないようにしていたのだが、レッドは目敏く見つけたようだ。彼女は前回の依頼で敗北しているが故に――二度目は認めがたい心境だろうか。
「……でも手は抜かないわよ。わざわざ負けてあげるほどお人よしじゃあないの」
 故に、エルスは改めて宣言する。そもそもこれはそちらが売ってきた喧嘩なのだからと。
 彼女にも彼女なりの想いがあるのだろう、それは分かる。
 けれど――自らにだってあるのだ。
 退けない思いが。
 ……まぁそれはそれとして以前は敵意を抱かれていた感じからライバルと認められる事には少しばかりソワソワとした気持ちはある。ただ――
「毎回会う度に何か勝負を挑んでくるのはちょっと……節度ってものがあるでしょ」
「煩いわね、恋に旬はないのよ! 春でも夏でも秋でも冬でも――この心に一片の曇りはないわ!」
 いやそれは関係ないのでは? と勝負を受けさせられる側のエルスは思うが、レッドは依頼を思い出したのか再び跳躍して街の方へと駆けて行った。
「……全く、時間を取られちゃったわ。ああ急がないと……!」
 聖夜は更けていく。プレゼントを配り終えるまで――あと少し。


「ちわーす!! コッコのお届けだぞ――!! いいオトナの皆、ゲンキしてたか――!!」
 相変わらず元気全開声は小声のコッコは傭兵宿舎にも現れていた。
 かくれんぼ魔法でおちゃのこさいさいしーななのでやっぱり侵入も簡単だ。
 忘れずお届けプレゼント! コッコがちょーかつやくし、えるすてぃーねをラブラブさせてやるのがおしごとなのだから! えっ!?
「さて。流石に住宅街と違って商人街の警備は少し厳しいな……
 侵入者を感知して警備音を鳴らす魔術……そんなものもあるのか」
 一方でアーマデルは残った商人街へと。警備魔術があるのだとすればそう簡単にはいかない……が、やりようはあるものだ。
 窓や戸口から離れた壁。屋根の辺りにまで万全に巡らせているとは思えない。
 維持もタダではないのだ――慎重に調べ、発見されないように侵入するとしよう。
 そうしていればやがて配る場所もなくなってきた。少なくなった地点に集中しているからか、レッドの陣営との遭遇も増えつつあって……
「今なら妨害も――だけど、やめておこう。俺達の仕事はあくまでもプレゼントを配る事だ。万一プレゼントが届かない、なんて事態になったら子供達が可哀そうだからな」
 世界は言う。配る側の争いで子供達の笑顔が失われてはならないと。
 向こうが妨害してきた場合はその限りではないが――しかし、そんな雰囲気もなさそうなのであれば、後は平和的に解決だ。相手に向ける感情と労力は子供たちに向ける方が有意義でもある。
「しかしまぁ、今回も今回で二人共よくやるなぁ……」
「わ、私は勝負を売られただけだから……!」
「まぁしかし、ディルク様は随分と愛されているのですね。エルス様もレッド・ドッグ様もディルク様を愛しているからこその『コレ』と聞きました――ディルク様もレオン様のような浮気性とは聞きます。大変ですよ、そういう手合いは」
 エルスの慌てる様子に幻は苦笑しながら言葉を紡いで。
 どうしてそういう男に女性が集まるのか理解は出来ないが――まぁ彼女らなりに感じている魅力があるのだろう。個人的にはやはり、いい男というのは、僕の夫のような。
「誠実で優しい方がいいに決まってますのに」
 やれやれと、感じながらまた一つプレゼントを届けていく。
 ――気付けば段々と雪が降ってきていた。
 ラサの様な地でも降る事があるのか――? ともあれ、美しい景色だ。
 白きに染まる傭兵の世界。
 常に物や人が動く国家において……一時の安らぎとなるのかもしれない。

「さて――最後の一つ! サクッと終わらせてやるかよ!」

 そうして迎えた逸品をサンディは空を掛けながら運んでゆく。
 馬車と共に空想の力による飛翔を行いながら。
 まるで――聖夜に駆ける本物のサンタであるかのように。

 Ho-ho-ho――

 その時どこからか聞こえた声の様なモノは――錯覚か、否か。
 ともあれ最後の一つを枕元へと置いて、これで終了。
「さて。お互いに配った数はカウントし辛いが……手元に残っているプレゼントの量を鑑みると、どう考えても此方が上である様に思うな?」
「うぐ、うぐぐぐぐ!」
 同時。ちらりと見据える愛無の視線の先にはレッドのチームに残っているプレゼントの数。配れていない量があるという事だ。元々余りが出るぐらい大量に用意されていたものではあるが……これではどちらが『上』か。分かるなと視線を巡らせ。
 恨めしそうにエルス達を眺めるレッド――やがて――
「くぅ! こ、これで終わったと思わない事ねッ――!!」
「ああ、走って逃げた! ……なんという、やられ際の台詞を……」
 駆けていくレッド。あんな感じだっただろうか……?
 シャイネンナハトの空気が些か彼女に妙な高揚を齎しているのかもしれない。
 ともあれ――そうか、終わったという事は――もうシャイネンナハトも目前か。

「……ディルク様。子供達へのプレゼンを配る依頼、完了しましたよ」

 彼女は呟く。ラサの街のどこかにはいるであろうディルクへと。
 お話しできる機会があるだろうか。もしも報告に行けたのならば、レッドさんが取って来た仕事で一緒にこなす事になりまして……と。そうしたら『おいおい前もなんか似たような事をしてなかった嬢ちゃん』なんて言いそうだが。
「ふふっ、流石にお会いできるとは限りませんかね」
 そもそも『振られて』いるのだ、先日のローレット・トレーニングで。
 だから今年は独りのシャイネンだと彼女は確信している。ハウザーやイルナスのいる酒場にでも行って、パッーと楽しんでくるとしようか……

 ――なお。酒場に出向いた先でディルクと出会う事になるのだが――それは未来の話。

「さてさて。エルス様がいつかディルク様とお付き合いできれば良いのですが……
 こればっかりは未来になってみないと、分からないものですね」
 雪降る中で幻は吐息一つ。
 ――恋の争いは聖夜の輝きの中へと溶けて行った。
 後に残るは子供達の笑顔。

 ああ――どうか祝福を。

『輝かんばかりのこの夜に!』

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 シャイネン・ナハトに輝きを!

 ありがとうございました!

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