シナリオ詳細
汝、パン派か? 米派か?
オープニング
●パンだよな? 貴様パンだよな? パンって言えよ。
『――止まれ、そこの貴様』
深緑の美しき森の中――一つの声が歩く者を呼び止めた。
が、振り向けど声の主は見当たらない。
おかしい。錯覚だったか……? 怪訝な顔をしながら再び歩き出そうとすれば。
『待てと言っているだろうが貴様!! 我々の姿が見えぬとでも言うつもりか!!』
やはり声が聞こえる。どうやら錯覚ではなさそうだが……しかしどこから……
「んっ?」
と、気付いたのは足元――そこに在ったのは一枚のパンだ。
スライスされた食パンが落ちていて、しかも声を発した様な……
いや待てよく見ると一枚ではない。草陰の方に見えるは二枚、いや三枚。
――気配を感じる。そこかしこにまだパンが潜んでいると!
『貴様、食事の際はパン派か?』
「――えっ?」
『パンを食するかと聞いている! まさか我らが仇敵、米派では無かろうな!!』
何言ってんだこいつら? 予期せぬ言葉に思わず困惑してしまい――
しかしそれがいけなかった。
注意散漫になっている内に周囲を食パンたちに取り囲まれていたのだ。
多い。五、八……いや十……もっといるか? いずれもがただならぬ気配を醸し出している。此れは――返答を仕損じれば、己が命に関わると直感していた。食パン相手だけど。
『あいやまたれぃ! 斯様な言動を強制するその見下げはてた心許すまじ!』
瞬間。己が背後に回り込んでいた食パンたちが吹き飛んだ。
なんだなんだ。思わず反射的に伏せて背後へと視線を送れば、そこに居たのは――
『おのれ現れたな下等たる米粒共め! 今日こそ根絶やしにしてくれるわッ!!』
『しゃらくさいわ洋風被れの伴天連共が!! 根絶やしにされるは貴様らじゃ――!!』
「なにこれ」
米粒の集合体だ。およそ茶碗一杯分位の塊が宙に浮いてパン達と激しく罵り合っている。君達どこに口が付いてんの?
直後に始まるは抗争。
地を跳ねるパンと飛行する米粒たちによる戦争が伏せている通行人の上にて。やめろよどっか別の場所でやれよと思うのだが、しかし最早言葉で止まる様な勢いではない。地を這いながら慎重に戦場を離れようとしつつ。
『待てぇええええ!! 人間、貴様はパン派か! 米派か!!』
『答えよぉおおお!! 返答によっては容赦せんがなぁあああ!!』
しかし気付かれれば後ろから凄い勢いでパンと米達が追って来た!
ああどうしてこんな事に――自分はただ、この先にあったお店に行きたかっただけなのに!
●米だよな? 米。米以外応える奴の気が知れんね?
「……と言うような事件がどうやら私の店周辺で起こっている様でして……困っているんですよ」
「はぁ」
後日。深緑に訪れ話を聞いてるのはリリファ・ローレンツ(p3n000042)だ。
ここは人里から少し離れた所にある飲食店――森の中に、木々に隠れるようにして建てられている様子からは、知る人ぞ知る名店の様な雰囲気を感じさせる。実際、そんな感じの評価を受けているお店らしい、が。
「パンと……お米ですか?」
「ええ。まぁ多分魔物ですね。怨霊なのか突然変異なのか分かりませんが、この辺りで出没するんですよ。今の所怪我をした以上の犠牲者はいないんですが、そんな者が出ると話が広まれば……」
「ああその内お客さんの足も遠のいちゃいそうですね……」
成程、早前に解決せねばお店にとっては死活問題な訳だ。
話によると近隣を歩いていればその内出現するのだと言う――パン達は神秘による魔術を多用するハイブリッドパンであり、米達は突進と体を拳の様に変化させて殴る物理アタッカー米なんだとか。
そして彼らは通行人に出会うと必ず聞く事がある。
「パン派か米派か答えよと……パンと答えたらパンからは攻撃されなくなるんですが、米からの攻撃は激しくなります。米と答えると逆のパターンで、応えなかったり両方とか応えると、パン・米両方から攻撃されます」
なんなんだアイツらは。賛同者すら根絶やしにしたいのか。
……攻撃が苛烈になれば傷を負う可能性もある、が。片方から攻撃されなくなるという事は上手く行動すれば数が多い連中の中に混ざって敵を討てるかもしれない。両方の陣営に混ざってかき乱してもいいだろう……
どうするかは作戦次第だろうが――おっとそういえば。
「ちなみにこのお店って出されるのはパンなんですか? それともお米? 両方?」
「いえ、ウチはスイーツ専門店です。ああなんでしたらケーキでも食べていきますか? 深緑ミルク工房から取り寄せた新鮮なミルクを使ってるんですよ。絶品ですよ」
「わーホントですか! 食べます食べますー!」
わっくわくしながらケーキを頂くリリファ・ローレンツ。
うーん美味美味。やっぱりパンとかお米とかじゃなくてスイーツですよねスイーツ!
- 汝、パン派か? 米派か?完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月30日 22時01分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
『黒紫夢想』アイゼルネ(p3p007580)は思考する。
どうしてこんな不毛な争いに参加したんだろう――と。
目前。米がパンを口汚く罵り、パンが米を蔑んでいる。依頼を成す為にもまずは連中を探さねばならないと……歩いて五分もしない内にこれである。どうなってんのこの森の治安?
「……美味しければどっちでもいいと思うんだけど、ダメなのかな」
「何かスゲェ変なのに絡まれたっスね……なんスかこの光景。この世の終わりっスか?」
さすれば『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)も似たような想いを抱くものだ。あまりにも直球過ぎるビジュアル。あまりにもド直球過ぎる罵倒の数々。
葵自身としては美味けりゃどっちでもいいスタンスである。
まぁ強いて言うなら半吸血鬼たる身では血派と言った所だが――とにかく。
「おいおい……ただでさえ一切れのパンやおにぎりの欠片でさえ食うのに困ることもあるのにどちらかを潰す? は、はは……――上等だ」
斯様な争いに憤怒するのは『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)だ。
くだらない。パンだの米だの……
例えば空腹の限りにある時にどちらが――などと思考する者がいるか。
ましてや嫌いな方は潰すなど、この世から消えて無くなれなどと……
「お前ら――『全殺し』にしてやる」
死神の異名通りに、全て等しく死を齎さん。
武器を構え往くイレギュラーズ――さすればやはり来るものだ、問いが。
『貴様ら、米派か! パン派か! 答えよ!!』
「……世の中には変わった魔物がいるのですね」
思わず『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は頭を抱えそうな心情に駆られる。周囲を索敵しつつ慎重に進もう……と思えば正にこれなのだから。
こうして近くで視て喋っているという現実を無視する分には美味しそうな食材ではある。
食べれたりするのでしょうか……? 思案するが、しかし。
「……いえ。私はパン派ですね。毎朝の食卓には必ずパンを用意しております」
「私は(どちらかという以前に肉派ですので、それに合うという意味で)米派ですね。ステーキにはライス!」
応えなければ両方から攻撃されるのみ――故にリュティスはパンと答え『夜明けの秘劔』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は肉派の意を込めながら米の方であると名乗りを挙げる――嘘か本当か以前にこれは作戦である。
パンと米の間に割り込み奴らを壁にしつつ機を視る為の。
背後から不意打ちする埋伏作戦とでも言おうか。そしてこの作戦の要となるのは。
「――応える事に意味はあるのかな?」
『何!?』
「ああ勿論応えるのは簡単だとも。だが、答えたとすればこの場で戦う必要がある……
それよりも君達は真っ先に殴るべき者達がいるんじゃあないかな?」
『観光客』アト・サイン(p3p001394)が言葉と共に視線を向ける先にいる――殺意を携えたクロバと『食パンは君を裏切らない』ベイク・ド・クロワッサン(p3p008685)の二人である。クロバは先述の通り、下らぬ事をぬかすパンも米も斬るつもりで――ベイクは――
「――米かパンか、どっちの味方だって?」
決まっているじゃないかと、己が指で額を抑えて。
「決まっているさ。どちらでもない。
この世で至大至高はただ一つ『食パン』のみさ」
美しきブルーの瞳が、己が五指の間より『敵』を捉える。
米は当然としてパンもである。良いかね? パンと食パンは異なるのだ。
特に私か、私で無いかも重要だ。その線引きは理解しておいてくれ。
――叫ぶと同時に放たれたのは物理的衝撃波と成り得るパンの大喝。
全てを震わせる魂の咆哮が戦場を穿つのだ。これぞ食パンの宣戦布告である!
『ぐあああ!! 貴様、パンの癖に我々をも!』
それを皮切りに米とパンと食パンとそれに混じるイレギュラーズ達の混戦が始まった。
パンの意を表明する者はパンの後方に回り、米の意を表明する者は米に回り。『特異運命座標』レべリオ(p3p009385)はその激しさの中で派閥の事を応えずに米の後ろに回っていた。
まるで潜むかのように。最初から米派であったかのように。
こっそりと――寝首を掻ける位置取りを探していた。
●
食パンと言う第三勢力の誕生は誰にとっても予想外であった。
米を駆逐せんとするパン。パンを打ち倒さんとする米。
両者に食パンを食べさせんとするベイク。
いずれの攻撃も苛烈、だが。ベイクは『優雅』さを決して忘れなかった。
「――君達は真の美味しさというモノを知らないのさ」
目前のパンにベイクが往く。
全身の膂力を一点集中。イースト菌達が集まり、己の力と成し。
一閃。それは巨大なナイフであった。
テーブルに置かれる食器のタイプ――にして、片手剣ばりに巨大なサイズであるナイフ。その一撃によって隙を見せた個体がいれば……その口、口……? 口の中に己が食パンを叩き込んで。
「さぁ味わいたまえ。食卓の真の覇者の味わいを、その舌で、その喉で……」
強引に咀嚼させるのだ。
顎……顎? 顎っぽい場所をクイッと引きよせれば、背後には後光が如きオーラも見えて。
『ぬぅなんだあの意味不明な奴は! まずは奴から排除して……』
「うるせぇ! 全殺しにしてやるっつってんだろうが、一列に並べオラァ!」
そんなベイクを排除せんと米が一匹戦闘態勢を取る、瞬間にクロバが割り込んだ。
斬撃。剛閃――粉微塵へと変えてくれる。
「米? パン? 日本人故に俺は米が主食だ、だが食べやすさの為にパンも嗜んだことがある……そこに何の違いがある? 米を食べたら罪なのか? パンを食べたら断罪されるのか?」
自らに迫る敵に対し、臆する事なく剣を構えて。
「ハッ、言ってやるよ。そんなことでしか己を主張できないお前らなんざ、ただの”見切り品”以下のド三流さ! そんな感じに惨めに落ちるぐらいならブリオッシュ片手に茶でもしばいてるわ、バ――カ! リリファの胸以下!!」
「ムキャ? なんて言いました今?」
なんか別方向から絶大な殺意がクロバに向けられているが、あれ敵が増えた?
だがこれでいい。これでパンと米の敵意は完全にこちら側に向けられている。
激しい攻勢が浴びせられるが何のその。この程度で倒れるかよッ――!
「よし他の米に続きますよ! パンを討つんですッ! パンは牛乳とはベストマッチ、しかしご飯もリゾットがあります、存在として負けてないですよ!」
「あーリリファもテキトーにどっちかに加担しておくんスよ。あと、クロバ達は狙っちゃ駄目っス。分かってるっスよね? さっきのは只の挑発だと思うスから……駄目っスよ、暴走しちゃ?」
魔物の中に紛れるシフォリィは米の中に混じって周りを扇動。自らも戦う姿勢を見せる事で不意打ちの作戦を悟られぬ様に立ち回るのだ――まずは敵を足す事から優先という建前で。
一方でパンの方に紛れている葵も、隣のリリファに耳打ちしながら行動を開始していた。リリファの殺意はクロバに向いている気がするが、まぁ、多分、その、大丈夫だろう。
「パンは種類が豊富だし、オシャレだよな。米にはない魅力っスわ」
怪しまれないように入った派閥の良い点を挙げながら紛れ込んで。
いや別に嘘ではない。嘘でないが――まぁだからといって敵対する側を滅ぼせばいいとまでは思わないというか、心底どうでもいいというか……とにかくパンを敵の攻撃の壁としながら、自らも合間を縫って敵を打つ。
無論――そうしていても時として攻撃が届いたりはするものだ。
「……流石に米の一撃は侮りがたいですね。申し訳ありませんが、前に出て頂いても?」
故に言うはリュティス。暗に『盾になってください』と言っているのだが。
「まさか毎日パンを食べているのに、こういう時は人間だけを矢面に立たせ利用しようとでも……? それは酷い扱いではないでしょうか? パンの絆など偽りのイースト菌でしたか……お米の方にこそ真の絆がありそうですね」
『む、むむぅ! 無論任せよ!』
守って下さらないならご飯に変えてしまいそうですと――これまた暗に『鞍替えしますよ』と言う意味を含んで彼らを肉壁、否、パン壁とする。ひ、酷い。このメイド、可憐なのに発想がこわいよぉ――と、そうしていれば。
「……成程。思った以上に単細胞な連中が多いみたいだね。これなら……」
機を見たアトが動き出すのだ。
感情を封印し、自らの敵意を悟られぬ様にしていた彼は米軍団の背後に回っていた。
奴らはベイク達に気を取られこちらへの注意が散漫と成っている――ならば――
「僕はパン派だァ――ッ!」
大きく息を吸って吐き出した言葉は、裏切りの序曲。
自己複製の魔術を銃弾に。米共の背後から――強襲したのだ。
強烈な火花が飛び散る程の勢い。散弾が如き一撃が奴らを襲って。
「森の中に長時間滞在する食糧物……味は分かりませんが、しかし衛生的には良くないかもしれないですね。まぁ――家畜の餌には良いのかもしれませんが」
『お、女ァ! 貴様、我らを家畜の餌と言うのか!!』
直後、リュティスも続く。
彼女の放つ光が敵のみを焼くのだ。敵の数は――二つの勢力に別れているとはいえ、いずれにせよ此方よりも数が多い。故にこそまずは多くの敵を巻き込み、イレギュラーズ側の優勢を確立せんとして。
『貴様ら、裏切りおったか!! おのれ人間がァア!!』
「えっ米派の俺が何故米を攻撃するかって? さっき言ったろう――? 俺はね『炊き立ての』米派なんだ。既に炊かれてから数日以上経ってる君たちの味方ではないんだよ」
更にレベリオも続く。レベリオは紛れ込んだ後に『炊き立ての米派』であると宣言していた――が、言葉のトリックである。此処にいる米の派ではないという事だ。
その背後から一刀両断。己が斬撃はこれより後はなしとする背水の構えが如く。
勿論あちらもやられっぱなしではない。貴様らがそのように裏切るのならば、こちらも容赦はしない――! 米の一撃がレベリオらを襲い、パンの魔術が葵らを叩くのだ。
「どっちも美味しいじゃ、ダメ? どうしても、ダメ?
……そもそも毒を入れたら、どっちも食べられないし……」
その時、反撃の一撃を紡ぎながらなんて怖い発想をするんだアイゼルネは。
「まぁ……こういう時はあれだよね。『喧嘩両成敗』っていう言葉があるよね……」
敵の背後に回り込み、一撃を加えて離脱。
己が暗器を光らせパンにしろ米にしろ害を加えよう。
喧嘩両成敗――そう、無為な争いをする輩にはどちらも思い知らせる必要があるのだから。
「そら見た事か。ふふふ、彼らはやっぱり分かっているよ――パンも米も一位ではないと悟っている。そう、この私……食パンこそが世界一であると思い知らせる為に、行こうか皆」
……ついでにちゃっかりと皆を食パン派にしているベイクにも思い知らせておいた方が良いのかもしれないが、まぁとにかく米とパンを倒してからにするとしよう――!
●
米の剛力。パンの神秘。
減ってはいるが元々三十体はいた故かまだ数は残っている――油断は出来ない状況だ。
「ハッ、安心しな……お前らの残骸は後で利用してやるよ!
それだけの味がちゃんとあればだがな!」
同時。クロバは敵の攻撃を裁きながら、物言わぬ食材となったパンを回収していた。
奴らの戯言は気に入らないが、食材は大事にする男なのだ。魂が消え失せれば罪はあるまいと。
「さっきパン派って言ったけど――ワリ、正直どうでもいいんだわ。まぁどっちかというとパンってのも間違いじゃねぇけど」
『おのれ――パンに栄光あれ――!!』
そして葵もまた彼らを攻め立てる。確実に敵を一体一体減らしていくのだ。というかパンとか米とか以前にスイーツの方が気になるし……ああ。後でスイーツ店に行って楽しむとしよう――その為に。
「さ。そろそろ終わりにさせてもらうとしようか。所詮主食なんてのは肉の引き立て役さ」
「主食単体でのみの食卓など成立しませんからね、御覚悟を」
アトが駆け抜ける速度と共に敵を斬りつけ、リュティスの不吉を齎す蝶がパンの角より魔を注ぐ。さすれば。
『ぐああ! おのれ米め邪魔だ!』
『邪魔なのは貴様らだパンめ! こうなったのも貴様らがいたから!』
この状況、紛れ込まれ背後を取られたパンと米は明らかに不利である。
しかしそうなってもまだ口汚く互いを罵っており――全く協調する意思が見て取れない。レベリオの斬撃が米を襲えば、散発的に反撃を行うぐらいが精々である。ここまで追い詰められれば本来協力しない限り、最早状況打破できない気がするのだが……
「……きっと譲れないものがあるから、こうして争いが起きるんだろうね……まぁ私にはどうでもいいけれど」
直後。アイゼルネのナイフが彼方より飛来。
パンの絶叫が響き渡る中、遂にその総数がイレギュラーズ達よりも少なくなって……
『馬鹿な……貴様まで、どうして……』
「え、どうしてと言われても――答えは一つです。ご飯なんだから食べたいのは当然ですよ! パンがなければご飯倒せばいいじゃないって事です!」
別世界でのとある人物が発言した――実際には言ってないらしいが――の言葉をシフォリィは引用し、米へと斬りかかる。嘘ではない事と、ずっと味方する事は同一ではないのだ……!
「――君達の敗北の理由が分かるかい? ああ実にシンプルな事さ」
と、この依頼中クロバに並んで最も苛烈に攻撃を受けていたベイクが躍るように動きながら語る。
米の攻撃もパンの攻撃も、彼に傷を負わせどもその魂を奪う事は叶わなかった。
なぜなのか――? それは。
「そう、真に美味しいのは、私(食パン)だからだ。世界が私を生かすのさ」
だからベイクは死なない。血を流す姿すら食パンの美であると。
そして彼には同時に使命がある。
この混沌を極めし世界に平穏を齎す為に――躓いてはいられないのだと。
故に。
「さぁ、私と一緒に」
Shall.
「we」
Dance――
ウインク一つ。何が気に入らなかったのか、それまで歩を合わせなかった残存のパンと米は『こいつだけはぶちのめす』とばかりにベイクへ最後の力を振り絞って突撃を敢行。
ベイクはそれを受け入れる。
食パンをそんなに食べたいなら並んでご覧――と優しく紳士的に言葉を掛けながら、あっぶん殴られた。
●
やがて――戦いは終わった。
最後の米を倒し、全勢力を打倒したのだ。ベイクも恍惚なる笑みを浮かべながら倒れたので食パン派も壊滅である。ベイ――クッ!!
「まあどっちか片方なんて偏らないで、その時の気分で決めていいのではないでしょうか。それに……どっちか以前に、私は好きな人と一緒に食べる食事ならなんでもいいです」
森を抜け、店に辿り着いたシフォリィが口に含んでいたのは米粉パンであった。おいしい。
世の中共存する食材も出ているというのに、あの米とパンは……
まぁ事態は解決したのだ、よしとしようと――視線を向けたのはクロバの方へ。
「さ。シフォリィこっちもどうだ? 米と小麦粉を使ったふわふわのパンケーキだ――
熱い内に召し上がれ」
彼は戦闘で確保した米(粉塵)とパンの残骸を用いて料理を一つ。
死した後に初めて融合した彼らの果てである……
「ところでクロバさん。あの挑発の件なんですけれど」
「んっ? ああ名案だったろ、なぁシフォリィ。いや実にいい効果が出て――」
と、背後からいつの間にか迫っていたリリファにクロバが振り向けば、ムキャムキャタイムが始まった。ああ、クロバの頭に歯形が! ムキャァの歯形が!
「おっ、取引先の深緑ミルク工房のポスターじゃないっスか……って、なんでリリファだけすげぇ恨めしい目してんスか?」
「気にしないでください。ええ――気にしないでください」
同時。葵が店内に貼られていたポスターを眺めれば、それは幾人かのイレギュラーズ(リリファ含)が映っていた深緑ミルク工房の宣伝ポスターであった。見る度ムキャムキャを思い出すポスターだ……!
と、その時。
「いやはや、すっごくシュールな戦いだった気がするね……だが、僕はこの依頼をまだ完遂してないと思うんだ、肉派として。なぁそうだろう――リリファ?」
えっ、とリリファが振り向いた先に居たのはアトであった。
……なんだその抱えている鍋は。人一人分入れそうな鍋は。
「ここに鍋がある、リリファにはこの中に入って煮込まれてもらう」
「はっ?」
「なあに、君は普段からスイーツを食っている人間、甘い出汁がきっと出てくるだろう。砂糖出汁に合うようにカムイグラのソイソースとソバでいただくとしようか――ああ、名前を付けるならこれはリリファをじっくり煮込んで頂く『鴨南蛮』って所かな。とても美味しいと思うんだリリファ――どうした、何を怖がっている」
後ずさりするリリファ。
ははは僕は肉食系観光客なんだとアトは紡いでじりじりと追い詰めていく。
だからリリファは食われるべきなんだ――なあリリファ、リリファ――
「……なにかこのお店のオススメ、ありますか?」
背後で始まる追いかけっこ。
その騒ぎを耳だけで聞きながらアイゼルネは店員に声をかけていた。
美味しそうなお土産に――目を輝かせながら。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
米もパンもおいしいもの!
ありがとうございました!!
GMコメント
皆さんはどっち派ですか? 私? うーん、お茶派。
●依頼達成条件
パンと米両陣営の魔物を全滅させる!
●戦場
深緑の森の中です。時刻は昼。
近くに人の気配はないので一般人の心配をする必要はないでしょう。
歩いていれば後述の魔物達が現れます。殲滅してください。
●パンの化身×15
地を跳ねるスライスされた食パン達。
どこに口が付いてるのか不明ですが喋ります。こわい。
神秘攻撃による魔術を多用します。
複数を狙う事に優れている様です。
米、並びに米派をまるで親の仇かの様に憎み、苛烈に攻撃を重ねます。
●米の化身×15
宙に浮かび常に低空飛行している米粒の塊達。
どこに口が付いているのか不明だがこっちも喋ります。なんなんだ……
物理攻撃による近接戦闘を多用します。
単体攻撃しかありませんがパンと比べれば攻撃と防御に優れています。
パン、並びにパン派を殲滅するのは使命と思っている節があり滅茶苦茶攻撃してきます。
●パンと米達からの質問
奴らが出てくると『汝はパン派? 米派?』と問うてきます。
パン、或いは米と答えると答えた方の種類からは攻撃を受けなくなります。
代わりに応えなかった方の種類からの最終ダメージが1.2倍になります。
答えない、両方と答えるなどと他の回答をすると両方から攻撃は受けますが、最終ダメージが増える事はありません。
●リリファ・ローレンツ(p3n000042)
依頼があるという事で話を聞きに来た子。スイーツ派。
勇壮のマーチをぷっぷくーぷー出来ます。その後は近接タイプ。
何か指示があれば囮とかに出来ます。
●スイーツ店
周辺で魔物が出ていて困っている依頼人の店です。スイーツ専門店。
深緑ミルク工房という美味しい牛乳販売店から取り寄せているスイーツが目玉なんだとか。後で食べてみてもいいかもしれませんね。或いは先でもいいですが。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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