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シナリオ詳細

再現性東京2010:サンタこぞりて

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●きよしこのよる
 ──ジングルベール、ジングルベール……。
 どこからか楽しげな歌が聞こえてくる。
 さっきから降り始めた雪の中、赤羽・大地(p3p004151)は時間を確認しようと広場の片隅でaPhoneに目を落としていた。
 そこに──ドン、と誰かがぶつかって来た。
「あ、大地さん!」
 声をかけられて大地は駆け込んで来たのがリーナ・シーナ(p3n000029)だと気付く。
「この間は紙魚紙魚退治ありがとうございましたー! 書き換えられた本も結構評判みたいですねー!」
「え……」
 呑気に話すリーナの言葉は頭に入って来ない。
「これは、夢か」
 目の前の広場には大小様々なクリスマスツリーが並んでいて、クリスマスソングがひっきりなしに流れている。
 それは別に良い。この世界では『シャイネン・ナハト』が行われる時期だが、ここは再現性東京2010街『希望ヶ浜』なのだから、いつものように『東京』をなぞらえたイベントが行われているだけだ。
 だが、顔を上げた大地の目に入ったのは、雪降る夜空を走るたくさんのトナカイが引いたソリだ。
 もちろん、ソリの上には大きな白い袋を乗せた──。
「あ、やっぱりアレ気になりますよねー? こちらにお住まいならご存知かもしれませんがアレはサンタクロースと言って──」
「夜妖、か?」
「そんなモノです」
 リーナはちらりと後ろを振り返った。
「紙魚紙魚の事件の後に大地さんが言ってたじゃないですか。逆に『本に書かれた内容を現実化できる夜妖はいないのか?』って。気になって調べてみたんですが、まあビンゴでしたよねー」
 華やかなクリスマスカラーのネオンを背に彼女は苦笑した。
「大地さん、学園へ連絡して貰えますか? 特待生の皆さんに出動をお願いしないといけないみたいです」
 彼女の後ろの広場ではクリスマスイベントが始まっている。学園の生徒が多いが一般人もだいぶまじっているようで、その誰もが笑顔だった。
「じゃっ、私は先に行って詳しい状況を調べて来ますね―! また連絡します!」
 そうして、リーナは広場へ駆け戻って行った。


●ジングルベル
 広場の北側は、クリスマスイベントで華やぐ南側に反してしんと静まり返っていた。
 午前中に子供たちを対象に行われた迷路がしんしんと降る雪の中にぼんやりと光っている。
 プレゼントをたくさん生らせたもみの木、楽し気に笑うサンタクロース、雪化粧の館などが描かれた厚めの板。それらを模した大道具。昼間のイベントのためか照明は無かったが、北側にもいくつか設置されたクリスマスツリーのライトがチカチカと明滅していたり広場に元々あった照明がくぐもった光を落としていたし、何より南側のイベント会場から眩しいほどの光が差し込んでいて、薄暗いものの細部まで良く見えた。
 カッチカッチカッチ──。
 迷路の中の小さなクリスマスツリーの調子の悪そうなライトが小さな音を立てる。
 薄く雪の積もったベニヤ合板で作られた、昼間サンタ人形が乗っていた玉座に小さな子供が座っていた。
 カッチカッチカッチ──。
 この寒さの中でほぼ半裸の子供はぼろぼろの布を纏って、目の辺りを小汚い包帯で乱雑に巻いていた。
 なのに、その子供──仮に、『彼』は古い絵本を読んでいた。
 その細い指が文章を、絵をなぞる。
 すると、地震のような轟きがふたつ、空虚な迷路に響いた。
 よくわからない言葉のようなものを彼は呟いて笑った。
 崩れないバベルによって意味だけ読み取るなら、それは「食ってこい」と言っていた。
 カッチカッチカッチ──……。
 轟きはオークの唸り声だった。
 現れた二体のオークはそれぞれ持った得物を振り回し、華奢な合板の迷路の壁を粉砕した。
 明滅する小さなツリーもまた、残骸と成って吹き飛んだ。


●もろびと、こぞりて
 時計が午後六時を知らせる鐘を鳴らした。
 大きめのその広場はクリスマス色に飾り付けられ、あちこちに大小さまざまなクリスマスツリーが置いてある。
 北は午前中にクリスマス限定迷路などで利用されて賑わっていたが今はイベントを終えて無人だ。
 対して、南は午後からのイベントスペースとして今まさにクリスマスを楽しむ人々で大盛況だ。
 ケーキやスープ、チキンの無料提供、コスプレの貸出、フォトスポット、手品やパントマイムのパフォーマー。ステージではクリスマスに馴染み深いの聖歌やゴスペルソングが途切れることなく──それらは東京のクリスマスを完全に模していて希望ヶ浜の人々を楽しませていた。

 時刻を告げる鐘が鳴る南側をちらりと見たリーナだったが、すぐに視線を目の前の特待生たちに戻す。
「いつもながら素早い対応、助かります」
 追って知らされたリーナの情報のままに特待生たちは人気のない北側、イベントの終わった迷路の外に集まっていた。
「先程ご連絡した通り、敵はこの迷路の最奥に三体。夜妖が一体、その夜妖が作り出したモンスターが二体です。
 ディーセスメルクマール、Dメルクって呼んでいるんですけど、本に書かれた物事を一時的に現実に引き出す力を持っています。これは見た目こそひ弱な子供の姿をしていますが、食うことしか考えない心無い邪悪な夜妖です。情けとかかけても無駄ですからねー」
 その時、ドン、と音が鳴って夜空が明るく光った。
「あ! はじまりましたねー!」
 サンタクロースが右往左往する夜空を花火がドンドンと上がっている。華やかなBGMが一段と大きくなった。
「イベントの花火の時間を早めてもらいました。これでしばらくお客様の注目は空に向かうので多少暴れても構いませんよー」
 ちなみに、夜空で花火を避けて右往左往するサンタクロースはほんものなのだろうか。
「……Dメルク製の実態のある幻ですが……。まあ、サンタさんにもちょっとの間頑張ってもらいましょう」

GMコメント

●目標
 夜妖Dメルクとオークを倒す
 退治後にクリスマスを楽しむ


●ステージ
 クリスマスを前にしたある冬の日午後六時くらい(日は完全に落ちているが照明あり)
 学園近くのクリスマスツリーが並ぶイベント広場
 南側:クリスマスを祝うイベントが行われており何も知らない人々がいる
 北側:イベントが終わった誰も居ない迷路(最奥に敵が出現)
・迷路
 壁は厚めで上を人ひとり走れる程度・高さは3m・通路の幅は4mほど(薄暗いが光源は必要ない)
 ※オークが暴れているために荒らされており迷路としての機能は最早果たしていない
 最奥のゴール地点にDメルク、そこへ入るための二本の通路にオーク二体(南へ向かっている)
・空
 たくさんのサンタがそりを引いて走っているが、人々はプロジェクターで投影されたイベント演出だと思っている


●実現化された本「びっくりサンタのクリスマスパーティー危機一髪」
 クリスマス当日。サンタたちがクリスマスプレゼントを用意していると、邪悪なオークたちがプレゼントを壊しに襲ってやってくる。驚いたサンタたちがそりに乗って一斉に空に逃げるシーン。
 ※この場面にはこれ以上の登場人物は存在しないため、Dメルクが敵を増やす心配はなく、サンタは敵対しない。


●敵
 ・夜妖 ディーセスメルクマール(略称:Dメルク)
 Dメルクは目元にボロボロの包帯を巻いた半裸の子どもに似た姿をしている(性別はない)
 本に書かれた内容を一定時間現実化する危険な夜妖。
 実体化させた魔物は受肉し天候すら操るがそれらはすべて幻、一定時間で消えてしまう。
 ただし、被害は残る。強力な幻ほど実体化する時間は短い。
 今回の個体の力はそこまで強くないが非常に素早くオーク二体に守られている。
 クリスマス世界で人々の生気を喰らうのが目的
 全長1m弱。鋭い爪と牙を持つ。
 反応:敵対(和解はありえない)言葉は話すがすべてが空虚

・クリスマスの悪魔×3(赤・緑)
 赤と緑、それぞれの服を着たオーク。服はぼろぼろで手にはそれぞれ武器を持つ
 身長2m弱、一体で通路を塞いで暴れ回る程度、怪力・鈍重・肉食
 建物を破壊しながら襲い掛かる
 実体を持ち、モンスター同様、戦って倒せる幻。Dメルクを倒してもしばらく実体化し続ける
 あまり時間をかけすぎると南側の人々の下へ向かう可能性有
 赤の服:棍棒(近距離叩きつけ)
 緑の服:槍(遠距離攻撃、貫き攻撃)


●NPC
・リーナ・シーナ(p3n000029)
 世界を巡る商人または依頼の斡旋人

・一般人(50名程)
 戦う力を持たない希望ヶ浜学園の生徒たちと周辺住民の一般人
 シナリオスタート時には何も気づかずクリスマスを楽しんでいる
 しばらくすると、生徒から異変に気付くが生徒たちはフォローに回ってくれる
 ある程度の怪異はイベントの暴走として『掃除屋』が片付けます



●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
再現性東京は日本の都市東京を模した練達の特殊地域。
希望ヶ浜は異世界『地球』からこの世界に召喚され、この世界を受け入れなかった人々の聖域だ。多くの人々はモンスター(悪性怪異、夜妖)の存在等は無かったことにして『見ようともしない』。
そんな希望ヶ浜の平和を守るために練達から招かれたローレットのイレギュラーズたち。
彼らは様々な『怪奇現象』へ対応する人材育成を密かな目的とした私立希望ヶ浜学園の、生徒(特待生)や職員として人知れず夜妖を倒す任務をこなしている。
※PCの種族的な特徴は変わった理解ある学園の外では酷く変わったファッション等として処理されています。

●夜妖<ヨル>
この地のモンスターの呼び名。怪奇伝説に絡んだようなものが多い。
希望ヶ浜の人々にとっては存在してはいけない存在。


アフターアクションありがとうございます。
本に書かれた内容を現実化する夜妖を倒して、
『シャイネン・ナハト』の前に希望ヶ浜のクリスマスもお楽しみください!

  • 再現性東京2010:サンタこぞりて完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月05日 22時25分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
流麗花月
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
こむ☆すめ
赤羽・大地(p3p004151)
未来を、この手で
三上 華(p3p006388)
半人半鬼の神隠し
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
猪突!邁進!
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞
ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)
貴族の儀礼
アセナ・グリ(p3p009351)
灰色狼

リプレイ

●クリスマスの反対側
「具現化能力にはピンキリがあるが、今回のは結構厄介だな。より危険な書物に接触する前に、片を付けねば」
 『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の視線を辿って、『策士』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は空を奔るサンタクロースたちをまじまじと見る。
「んー……プロジェクションマッピングにしては精巧だと思わな……ないんだろうな」
 手を繋いだ親子が笑いながら空を指している。そこに異形への恐怖はない。
(まぁ、幸せならそれが一番だろ)
 ここにはモンスターも怪異も存在しないことになっているのだから。
「終わったあとは南のイベントに行けるのかしら……。キラキラに飾られたあの木? あれを眺めているだけでもきっと楽しいのだわ」
 『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)の黒い瞳が電飾を映して一緒にぴかぴか光る。
「おや──少しばかり失礼致します」
 北の迷路へ向かう道すがら、南イベント広場で何かを見つけた『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は仲間たちへ断ってから南会場へと足を踏み入れた。
「珍しい所で。これも巡り合わせで御座いましょうか」
 ステージを見ていた秘密結社『混沌平和機構』のバサナテル・グシュナサフが振り返る。
「|幻≪ゆめ≫?」
「アレ? 大地ナノカ?」
 どうしてそうなったのか、パフォーマーに混ざって楽しんでいたダイヤモンド・セブンの姿に、幻を追ってきた『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)も驚く。
「えっ、お前も来てたの? いつの間に? でも、ちょうど良かった、少し頼みたい事があるんだ。協力してくれないか?」
「協力ッテ?」
「私から説明させて貰ってもいいだろうか」
 『貴族の儀礼』ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)が進み出た。
「なんで偶々視察に来ていた僕が避難誘導なんかしなきゃいけないのさ。幻の頼みだからやってあげるけど、ちゃんとお礼はしてよね」
 一通り話を聞き終えたバサナテルが腕を組む。
「……ほラ、後で『ご褒美』もやるからサ。あァ、でも『首』は今はダメだゾ、皆の目もあるからナ」
 ダイヤモンドは頭上を行き交うソリを一瞥した。
「なるほどナ。赤羽がソコまで言うんナラ?」
 イレギュラーズたちは協力者を得た幸運を感謝した。
「ダイヤが居ると思わなかったけど、あっちの対応や避難誘導を頼めたし良かった」
「ふふ、まあそれなりの対価は考えなくてはいけませんが」

 リーナと合流した北迷路前でイレギュラーズたちは空を見上げた。ひゅるりと細い音が鳴り夜空に広がる花火。轟く音と共に冷えた空気が震え呑気な歓声がここまで小さく聞こえた。
「年に一度の祝うべき祭事を血で染めるわけにはいかない。出来る限り早急に、無粋な客には帰って貰わなければな」
 ユリウスの言葉にイレギュラーズたちは意識を迷路へと移した。
「クリスマスを祝うためにも面倒な輩は退場してもらうに限るな。皆のクリスマスを守るためにも一肌脱ぐとしよう」
 ウェントゥス・シニストラを構えた『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)がそう言えば。
「再現性東京の平和は、平和を守るトナカイこと、シティガールメイが守るのですよ!」
 トナカイの着ぐるみを纏った『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)がシャキーンと勇ましくポーズを取る。
 ユリウスが作戦をまとめると『半人半鬼の神隠し』三上 華(p3p006388)が頷く。
「三人組には負担をかけることになり申し訳ないが、その分こちらも奮戦し戦果を挙げる事で報いるつもりだ」
 七人組で二体目のオークを倒す速度を上げ、二組で対応することによってオークたちの南側へ乱入する危険性を下げるとともに奥の夜妖の逃亡を防ごうというのだ。
「こちらも精一杯がんばりますね」
 最後にそう締めたユリウスへ、三人組を受け持った『新たな可能性』アセナ・グリ(p3p009351)とディチェット、メイが真剣な面持ちで頷く。
「私たちの目的は三つ。夜妖を倒すこと、オークを南側へ行かせないこと、時間をかけすぎて異変に気付かれないこと、だ」
 ユリウスが言うと、汰磨羈の腕の下を潜るように彼女の使い魔の猫が顔を覗かせ、一声鳴いた。
「互いの状況把握の為だ。別れる時はそちらに連れて行ってくれ」
「ありがとう」
 そして、二つのグループを作り共に迷路へと突入した。
 後ろからリーナがご無事でと見送る声が聞こえた。


●迷路
「破壊しながら進むというのなら、相応の物音がする筈。聞き逃してなるものか」
 研ぎ澄ませた汰磨羈と猫の聴覚が音を拾い、汰磨羈はすぐににやりと口角を上げた。
「ああ。音の尻尾を掴んだぞ」
「……潜んで不意打ちしてくる敵とは思い難いけれど」
 アセナが警戒しながら安全を確認すると仲間に合図を送る。
 青き血の本能により不意打ちを無効化したメーヴィンも周囲に気を配りながら素早く小さな迷路の壁に駆け上がっては身を伏せ、数メートル進んではするりと降りる。弱々しい電飾や遠いイルミネーションと垂れるような火花の滝に照らされたその影に気付く者はいないだろう。
「右に、もうすぐ──」
 メーヴィンの報告を聞いた汰磨羈が三人組へソリッド・シナジーを施した。
 地響き、振動。それから、目の前の陽気な妖精たちの絵が吹き飛んだ。
「赤だな!」
 土煙の中、敵の陰を真っ先に認めた華が叫ぶ。
「ここは任せて先に行ってくださいですよ!」
 メイはまっすぐに跳んでくる木材を避けてターゲットへ走る。続く、アセナとディチェット。その後ろを汰磨羈の使い魔たる猫は音もなく追う。
 共に無事で、そう口に出して交わす前に、大地に叩きつけられた巨大な棍棒のせいで雨のように瓦礫が降り注いだ。
「君の相手は私たちよ」
 アセナが名乗りを上げてオークの視線を先へ進む仲間たちから反らした。

 背後では激しく何かが破壊される音。
 七人組の後ろを走っていたブレンダが一枚の壁の前で立ち止まった。
 遠くに見える瓦礫。壁のすぐ向こうで聞こえる新しい激しい破壊音。
「申し訳ないが私はあまり物を探すのが得意ではなくてな……しかし、迷路もすでに壊れているのなら最短距離を通るために壁をぶち抜くのも手か」
 仲間たちが同意を示すや否やブレンダの前の壁は壊され、その向こうから鋭い穂先が迫って来た。


 大気を揺らす花火に混じって北側で大きな音がした。ダイヤモンドが目の上に手を翳してそちらを覗き込む仕草をする。
「あれナノカ?」
「ダイヤさん……も協力するんですか」
「だってサア、大地が面白そうなコトしてるんだモン。オレが放っておくと思ウ?」
「……では、モルゲンレーテ様の作戦に従おう」
 バサナテルと別れたダイヤモンドはナイフを取り出すとパフォーマーよろしく操りながら北側へ向かおうとする人々に声をかけ足止めする。
 頭までお花畑の再現性東京じゃ無駄かもしれないけど、などと内心ごちりつつ、バサナテルは早速発見した北側へ足を踏み入れた学生たちに向かって花火に負けないように声を張り上げた。
「みんな、迷路の方で通り魔が暴れながら、こっちに向かってて危ないから逃げろ! 死にたくなければ早く逃げるんだ!」
 ぎょっとする彼らへ早くしろと急かす。


 身構えていたようで襲い掛かった穂先を避けたブレンダ。その目の前で青い蝶たちが新たに現れた緑の服を着たオークに群がる。オーバーザリミットをかけた幻の奇術『真・蜜吸』だ。
「七人で出来るだけ早く倒すんだ!」
 遠距離組たちを守りながら、ユリウスが叫ぶ。
 タイミングを計っていた大地が血吸桜をオークへと放った。
 獣の咆哮。
 腹を貫かれたブレンダはメーヴィンに癒されながら再び前線へと飛び出す。
 巨大なオークとの戦いは途切れなく素早く行われた。
「これで仕舞いだぞ」
 壁を足場に飛び上がった汰磨羈の刋楼剣がオークの首を落とす。
「この奥だよな。大丈夫か」
 メーヴィンのクェーサーアナライズがまた仲間たちを鼓舞し、夜妖の戦いへの道を示す。

 棍棒がまた薄い板を粉砕する。
「行かせない、って言ってるのですよ!」
 メイが棍棒に負けじとばかりに攻撃を放つ。
 格闘の剣技を合わせた剣魔双撃でオークの槍先と渡り合うアセナだったが、避けきれなかった重い棍棒がアセナの胴を突いて壁に叩きつけられた。
「可愛らしい名前の夜妖だけど、これは怒られるだけじゃ済まないことよね。あのオークたちもこの子の幻なのかしら……」
 幻にしては痛いと感じながらも体勢を整える。
 三人の攻撃はオークの巨体を削ったが、同時にそれぞれに傷を増やしてゆく。
「メイさん、アセナお姉さん。離れて、なのだわ!」
 それでも、三人で重ねたダメージは積上げられ巨体を崩す。ディチェットの最後の一撃でメイのブルーコメットで恍惚としたオークはようやく地響きを立て瓦礫の中に沈みこんだ。
「……終わったのですか?」
「そう……なのよね?」
「ええ。──こっちは完了したわ。もちろん、迷路からは出さなかったわ」
 周囲は酷い有様だったが背後の広場のあたたかな灯りに翳りはないことを確認して、三人はほっと息をついた。
「にゃう」
 ディチェットの腕からするりと抜け出し、導くように走り出した猫を三人は追いかけた。


●夜妖
 オークを倒しその巨体が無くなると、破壊された迷路は奥までよく見渡せた。安っぽい玉座の上に細い身体の子供が座っている。
 ──Dメルクだ。
「物語を現実に映し出せるだなんて素敵な力をお持ちなのね。お友達になれたら良かったのに……とても残念なのだわ」
 ディチェットの切なげな声が壊れた迷路に響く。
「君は何がしたいの?」
 哀しげな子供の姿にたまらずアセナが尋ねた。
 だが──にんまりと口の両端を吊り上げてDメルクが嗤う。
『新しい、食事?』
「……お望みのお食事を出すことはできません。無粋なお客様には早々にご退場願います」
 幻がゆっくりと進み出た。
「そもそも、僕のギフトと似通っていて大変不快で御座います。それもクリスマスに悪用されているというのですから、気に入りません。僕のギフトは人に夢を魅せるためのもの。人を殺すためのものでは御座いません。
 そのようなお客様には僕のギフトをたっぷり味わってから、死んで頂きましょうか」
 幻の足元から夜妖の玉座まで、ぶわりと蝶幻影の花が咲く。
「夢を魅せるということがどういうことか、お客様にはたっぷり味わい、知って頂きたいですね」
 怯んだ夜妖追う華は視界に玉座に残された本が飛び込んで、彼女はふと思う。
(本の内容を現実化させることの出来る夜妖……妖怪なんかの本を渡したらそういうのを現実に出すことも出来るのだろうか──まあ、そんなことは今はどうでもいいんだ)
 軽く頭を振って追いついたメルクに照準を合わせる。
「人々が楽しんでいるイベントをぶち壊すのは悪いことなんだろう? それに、終わったらイベントを楽しめるみたいだしな」
 華が放ったレジストクラッシュが逃げようとしたDメルクに直撃した。
 それからの戦いは特に美しかった。
 幻の蝶変幻は花園や天国、遊園地を作り出し、時に青薔薇や蓮、クリスマスローズが夜妖を飲み込む。そこに大地が牡丹一華でアネモネを咲き誇らせ、また散らしてゆく。
 そんな幻想的な景色の中をイレギュラーズたちと夜妖はぶつかりあった。
「まさか、本当に俺が危惧していた事が起きるとはな。実体化には制限があるようだが……それでも、放ってはおけない」
「──招かれざる客にハ、帰ってもらわねぇとナ」
 大地たちは真直ぐに夜妖を見る。
 空に打ち上がる火花の名残がイレギュラーズたちの横顔をちらちらと照らし、壊れた電飾がDメルクを不気味に浮き上がらせた。
 微風がカサリと落ちた本の頁をめくる。
 細い身体が鞭のように早く動きイレギュラーズたちへと牙を剥いた。

 幻の呼び出したクリスマスローズから抜け出し、ふらついた夜妖へ元気な声が向けられた。
「お待たせなのですよっ!」
 瓦礫を飛び越えるのと同時にスーパーノヴァを放つメイ。
『ギャアッ』
 オークを倒した三人組たちが合流したのだ。
 だが、その小さな額へお返しとばかりに繰り出されるDメルクの鋭い爪。
 散らばる赤。
「うっ……あれあれ──ユリウスさんっ!」
「大丈夫だ! 夜妖を逃がすな!」
 メイを庇ったユリウスの影から汰磨羈が太極律道・斬交連鎖『刋楼剣』を放つ。間を置かずにアセナが追撃し、大地がクェーサーアナライズを放つ。
「ユリウス、下がるんだ」
「すまない。だが、私はまだいけるぞ!」
 合流したディチェットが空音のオーバードがメーヴィンの雷撃が続けざまに叩き込まれ、、ブレンダの舞うように美しい戦乙女の輪舞曲が素早く飛び回るDメルクを捕らえる。

『アアアア!』
 前衛を守るユリウス。華の剣魔双撃と打ち合って──時に素早くすり抜けつつも確実な一撃は夜妖を少しずつ押してゆき──その時は来た。
 素早い敵を、それより早くブレンダが的確に捉える。
「悪いがこれもクリスマスのため。貴様の物語はここで終わらせてもらう」
 空も裂く一撃、戦乙女の輪舞曲が悪夢に止めを刺した。
 幻の作り出した花弁が夜の中を雪のように舞った。


 砂のように消えてゆくぼろぼろの子供の姿に、やっぱりアセナは切ない思いを抱いてしまう。
(何だか優しくしてあげたくなるのだけど、駄目よね)
 消える影へ彼女は小さく囁いた。
「次に生まれてくる時は優しい子に生まれてきなさいね。上手くしたら皆を楽しませることができる能力だもの……」
 消えてゆく影が答えたのかはわからず、ただ本だけがぽつんと残された。
 唐突に、今まで意識外だった花火の音が耳に飛び込んできてメーヴィンは空を見上げた。
「ああ……」
 あれだけあった夜妖の幻が流れ星のように花火と共に光ながら堕ちてゆく。
「フィクションはフィクションのままで終わらせないとな? ……いや、この世界で言えたことじゃねーけどさ」
 すっかり瓦礫の山と化した迷路を見てアセナは嘆息した。
「片付けるくらいはするわ。老体だからあまり役には立たないでしょうけれど、放置しておくのは危険だし、もしかしたら怪我するかもしれないし」
「そうだな、皆でやろう」
 ユリウスを始め、一同はばらばらと危険な瓦礫を片付けた。一通り終わらせ汗を拭って埃を落とすと、途端に華やかな音楽が聞こえてくる。
「……ふぅ。お仕事だけじゃ疲れちゃうわね。終わったら少し楽しみましょうか。クリスマスツリーを観に行きたいわ。きっと綺麗よね」
 埃だらけの自分たちを少し複雑な思いで見たアセナへ、元気よく声をかけたのはリーナだ。
「お疲れ様です! ふふ、御用がありましたら今ならサービス致しますよ。例えば、パーティへ出かけるためのお手伝いなど是非」
 やがて、軽く身形を整え終えた華が今更ながらにと疑問を口に出した。
「ところで……オレはよく知らないんだが『クリスマス』とは何をする日なんだ?」
 幻は意味深な笑みを浮かべる。
「それについては言葉ではなくこれから体験致しましょう?」


●『クリスマス』
「通り魔は? 誤報?」
「警察が対処したらしいよ」
「あっ、北側立ち入り禁止になってる。忍び込んで迷路やりたかったなー」
 瓦礫を片付けて戻って来る頃には南会場にも避難から戻ってくる人、新たに訪れた人で賑わい始めていた。諸々の辻褄を合わせたのは掃除屋なのか今は居ないリーナなのか、たぶん、その辺りなのだろう。
 とにかく、誰ひとりとして被害を受けた人間は居なかった。
「ユリウスの作戦のお陰だよ」
「いや、全員が連携を取って素早く動いたからだ」
 見上げるメイへユリウスが応えた。
「協力してくれてありがとう」
 バサナテルとダイヤたちへ声をかけたのは大地だ。
「大地!」
「……無事のようですね」
 イレギュラーズたちは誰一人欠けることなく戻って来た彼らの姿に表情を緩める。
「ご協力、ありがとう御座います」
 ふわりと軽やかに躍り出る幻。
「それでは、僕の奇術をたっぷりお楽しみ頂きましょう」
 花火はとうに終わっていたが、南の広場はそれ以上の盛り上がりを見せていた。
 ひらりひらりとくるりくるりと。幻の蝶変幻によりイルミネーションの中に、より美しい幻たちが変幻自在に浮かび上がり、胡蝶の夢は驚きと歓声を生み出した。
「お礼は幻の奇術か。どういう仕組みになってるか聞くと怒るんだよな」
 バサナテルが呟くと、ダイヤが尖った犬歯を見せて笑った。
「だったら、オレはあっち側がいいナ」
 ダイヤの手の中でナイフが泳ぐ魚の鱗のようにぴかりと光った。
 小さなプレゼントボックスを模した椅子に座ってステージを眺めていた汰磨羈はケーキのクリームをぺろりと舐めとって汰磨羈は満足気に笑う。
「たっぷりの甘味と眼福。うむ、私たちの苦労も報われるというモノだな」
 大きなツリーに寄りかかっていた華も頷く。
「ああ。オレも理解したよ。クリスマスは美味しくて美しい。そしてたくさんの笑顔を与えるモノ、なんだな」
「美味しいものをもう少し、一緒にどう?」
 大きなツリーの木陰からサンタの帽子を被せられたアセナがジンジャークッキーの箱を抱えて顔を出した。
 すると、またどこか別のステージからゴスペルの美しい歌声が流れ始めた。
「あちらを見て来ても良いのかしら……!」
 ディチェットはたまらず、会場で貰った白いクリスマスローズの花束を抱き込んだ。
「かまわぬだろうよ」
「ありがとう! 今回は大人な方が多いから、少し夜更かししても大丈夫ね!」
 汰磨羈たちに軽く手を振って、スカートを翻してそちらへ向かうディチェット。
「楽しげな歌、そして今度は神々しい歌だな。何かを訴えているようだ」
 ユリウスもまた歌声が気になるようでディチェットの背中を見送りながら、行くべきか悩んでいるようだ。

「メリークリスマス、というやつだな」
 サンタクロースの衣装に着替えたブレンダがテラス席に座って幻たちの美しい奇跡を鑑賞する。手持ちのフォークは宝石のようにキラキラ輝くケーキにふんわりと沈んで、果実の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「うむ、美味い。たまにはこういう時間があってもいいものだ」
 陽気な歌を歌いながらトナカイ姿のメイがひょこっと顔を出した。
「ジングルベ~ル♪ ジングルベールなのですよ♪」
 あちこちを練り歩いてゲットしたお菓子の山を抱えてブレンダの隣に座ると、店員が彼女たちのテーブルにチキンやケーキ、温かなスープなどを置いてくれたのでふたりは礼を言う。
「メイは今年こそ、プレゼントを持ってくるサンタさんを見るためにお部屋で待ち受ける準備をするのですよ! 去年はいつの間にか眠ってしまって、その間にプレゼントが置かれていましたが……今年こそは徹夜用のお菓子とジュースを買って起きているのですよ!」
 フンスフンスと小さな鼻を可愛らしく鳴らすトナカイに周囲の優しい大人たちが次々にお菓子を与えたようだ。
「フフフ……これで今年こそはお部屋に来たサンタさんを目撃するのですよ!」
 意気揚々と宣言するトナカイ娘の眼は疲れと温かなスープとほどよく満たされた胃袋の精で若干トロンとしている。果たして聖者の来訪までに目が覚めるのか。
 一通り巡ってようやく席についた大地が選んだターキーの皮はパリパリと香ばしく焼かれてまだ温かかった。腹を満たしながら華やかな会場を見る。
「戦士たちの活躍は、誰も語らズ、知らズ、カ」
「だが、等しく俺達の目も耳も鼻も舌も、楽しませてくれる──守れてよかった」
 冷え切った身体をスープが温めた。
「俺の住む世界でも、『クリスマス』はあったけど……この再現性東京のクリスマスも、なかなかのものだな」
 白く曇った吐息の向こうでキラキラと輝くツリーたち。それはいつかの地球を大地に思い出させ、彼はそっと眼を伏せた。
 ぎしりと鳴らしてベンチに座ったメーヴィンは思う。
 夜妖の脅威などには目を向けない人々。その笑顔溢れるクリスマスの景色。
「……幸せならそれが一番だよな」
 希望ヶ浜というフィクションはフィクションのままに。
 彼らはこの東京のクリスマスを無事守りきったのだ。



成否

成功

MVP

ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)
貴族の儀礼

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
作戦が素晴らしく、オークたちが南会場まで辿り着くことはありませんでした。
お届けが遅くなって申し訳ございません。
東京のクリスマス、楽しんで頂けますように。

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