シナリオ詳細
ノルダイン流『冬支度』
オープニング
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「ったくよ。騒がしい奴等だぜ。で、何だ。俺はキラっキラの帝都生活が気に入ってるんだがよ」
耳をほじった小指をふっと吹いた『氷剣』ヴェガルド・オルセン(p3n000191)が、自慢の剣ウルフバートを肩へ担ぎ上げる。
「でよお。それしきの人数で、この俺をどうする気だ? まさかヤんのか?」
ヴェガルドを取り囲んでいるのは、兜をかぶり斧を持った三名の男達だ。
「かつてのスウェン村の長、氷剣ヴェガルドだな。統王に帰順するか死ぬか、ここで選べ」
「ダハハ! 気に入ったぜ! そいじゃ早速、戦乙女に連れてってもらえよ!」
――幾合かの剣撃を制し、ヴェガルドは血糊を払った。
足元に転がる三人は、最早いずれも息をしていない。
「なってねえなあ。あーあ、もったいねえ命だぜ。ニシンでも漁って暮らしてりゃいいものをよ」
男達は鉄帝国北東部の貧しい峡湾と森林に覆われたヴィーザル地方出身だ。
鉄帝国は領有を主張しているが、支配するには旨味が少なく――むしろ負担となるであろうから――対応はなおざりになっていた。
ヴィーザルに住む三部族『ノルダイン』『ハイエスタ』『シルヴァンス』はまつろわぬ民として抵抗を続け、その代表シグバルドはあろうことか統王を名乗り、ノーザンキングス連合王国と主張している。
当然、鉄帝国と彼等の仲は犬猿だが、三部族同士はおろか、部族内同士ですら険悪な連中だ。
ことノルダインの戦士達はヴァイキング(海賊)として、近隣の浜を荒らし回るのが常だ。
先程ノルダイン出身のヴェガルドを襲ったのも、またノルダインの戦士であった。
要するに内輪もめといえば、内輪もめである。
問題は――ここが鉄帝国の帝都スチールグラードであったことだ。
(……連中、さてはなーにか企んでやがんな。いや、考えすぎか?)
荒事は日常茶飯事とはいえ、わざわざ帝都に乗り込んで、同族に帰順を訴えかけ、さもなくば殺すとなると、やはり尋常の沙汰とは思えないのだった。
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ローレットから依頼を受け、イレギュラーズは鉄帝国の酒場に居た。
「まあ、そんな訳でよ。ちいっと手え貸して欲しいんだわ」
イレギュラーズは話の続きを促した。
「んでな、例のスラムの跡地に、俺の村の連中が移住しててよ……」
ヴェガルドの話によると、峡湾の民ノルダインは、そろそろ『冬支度』を始める頃合いらしい。
ヴァイキングの冬支度といえば、当然ながら略奪だ。
そしてどうやら彼等の一部が、今年は『同族狩り』を行い始めたということだ。
戦士達に帰順を求め、従わなければ殺す。
あちこちの村やなにかに、アプローチを始めたらしい。
「なーんか裏があるんじゃねーかなーとも思うんだが、まあそれは分からねえ」
ヴェガルドの場合は、ここ最近は帝都で闘士をやっており、最早ほとんど無関係でもある。
それをわざわざ探しに来たあたり、何かを焦っているようにも見えるのだと述べた。
「そんでまあ、たぶん狙われるんだわ。俺の村の連中がな」
そんな動きを察知したヴェガルドは、一族が襲われないように助けたいらしい。
それでローレットに依頼を出したという訳だ。
一族はヴィーザルを離れ、今はスチールグラード――ギアバジリカ跡地で暮らしている。
「俺的には守るべきもんを守ること。
あんたらとしちゃ報酬を貰って村の連中に恩も売るって話だ。悪くねえだろ」
顔を近づけ「あとな」と付け加えたヴェガルドの視線が、突如鋭くなる。
「こりゃ推測にすぎねえんだがよ。統王シグバルドは――そのうち絶対、あんたらの敵になるぜ」
- ノルダイン流『冬支度』完了
- GM名pipi
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月25日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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スチールグラードに眠っていた古代の機動要塞――
ギアバジリカの亡骸は、寄る辺なき人々の安寧を守る砦のように鎮座している。
「統王に帰順するか死かなんて、穏やかじゃありませんね」
「本当にね。俺はヴィーザルの事はあまり良く知らないけど」
呟いた『小さな決意』マギー・クレスト(p3p008373)に、スチールグラード出身の地元民『Dainsleif』ライセル(p3p002845)が応じた。
鉄帝国東北部の大森林地帯ヴィーザルでは、このところ各所で小競り合いが繰り広げられている。
彼等は帝国領内にもかかわらず、不遜にもノーザンキングス連合王国を名乗り盛んに闘争しているのだ。
依頼に同行する『氷剣』ヴェガルド・オルセン(p3n000191)の話によると、どうも彼等の一部があろうことか『同族狩り』を始めたという事で、俄にきな臭い気配を漂わせ始めている。
小競り合いでは済まなくなってきているという事だろうか――と、マギーは小首を傾げた。
気になることは多いが、まずは目先の対応だ。
「それじゃあ手分けして、皆に籠城してもらおうか」
ライセルが振り返り人差し指を立てた。
「ならば僕は注意喚起を勧告して参りましょう」
自身の胸に手を添え、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が恭しげに腰を折る。
幻としてはノーザンキングス統王シグバルドの様子や、ヴェガルドがノーザンキングスを離脱した経緯等についても知っておきたい理由もあったが、まずは住民の安全確保が先決である。
「皆様は近場から、僕は遠方から」
「村の人は俺達が大丈夫って言うまで出てこないように! 戸締まりしっかりね!」
「おうよ、俺が出向いてぶん殴ってやってもいいんだがな。手柄は若いのにくれてやるぜ!」
ライセルが声をかけた腰の曲がった老人は、豪快に呵々と笑った。
「小さなお子さんには、どうか目を配っていただけますよう!」
「そうさせてもらうよ! アンタ達、ありがとうね! 後でニシンのパイをご馳走するからね!」
「戦えばいつかヴァルハラに行けるんだろ!? おれだって戦士になるんだ!」
「ちゃんと毎朝、薪割りで鍛えたらね!」
母子もまたマギーに礼を述べる。
「勇猛な皆様におかれましても、僕が退屈させぬように致しましょう」
「おうよ。あんたらの戦いぶりってやつを、特等席から見さしてもらうぜ。
この通り、戸締まりはちゃーんとやってな!」
幻の言葉に素直に従った住民達は、家具を押してバリケードを作り始める。
何はともあれ、気になることは皆同様であろう。
それは『なぜ敵が襲ってくるのか』『何を考えているのか』といった素朴なものだ。
腕を組んだ『凡骨にして凡庸』浜地・庸介(p3p008438)は、愛刀の柄を指先でこつこつと叩いた。
実のところ、鉄帝国に来たのは初めてで、そういった不安もないわけではない。
「成程、厳しい冬を超える為に略奪を……」
「まあなあ、海賊は俺等の家業みてえなもんだがよ、っと。俺は最近はやってねえぞ?」
難しい表情で考え込んだ『新たな可能性』セレーネ=フォン=シルヴァラント(p3p009331)の呟きに、ヴェガルドが応じた。
――弱い者は奪われて、死ぬ。その代わり厳しい寒さと飢えで凍える事は無い。
強い者は奪った其れで、多少の温もりを得て生き残る――『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)の考える通り、ヴィーザルの冬は厳しい。
「喩えロクな物が得られなかったとしても……殺してやるだけ、慈悲なのでしょうね」
「だはは! 良いこと言うじゃねえか! 今度それ使っていいか?」
笑うヴェガルドに「それはどうも」と気のない返事を返し、未散は広大なギアバジリカの内壁を眺めた。
迷宮のように複雑怪奇だが、バラックでも寒さがしのげる分だけ、スラムよりはマシな環境か。
農耕に適さない鉄帝国それ自体が、古くから侵略を是とする風土を持つが、ヴィーザル地方の自然ははとりわけ厳しいと聞いている。そしてそのような過酷な状況下で生きる戦士達は、油断ならない相手とも。
「……なんともシビアな話ですね」
セレーネにとってはローレットのイレギュラーズとしての初陣であるが、依頼を引き受けた以上は、その剣を存分に振るう覚悟を決めていた。
それにしても、わざわざ遠路はるばる勧誘にやってきて、来てくれなければ手にかける、とは。
「……行動の振れ幅が大きすぎて余りにも乱暴です」
首を傾げた『夜明けの秘劔』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の言葉通り、どうもこの話には裏がありそうだ。
「性急な冬狩りはノーザンキングス蜂起の為の人集めとも考えられるけれど。
従わなければ殺すとはこれまた…繰り返せばジリ貧でしょうに」
そう答えた『絶巓進駆』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)もまた、同じ疑問を持っているのだった。
「ところでヴェガルド様、ラッセは顔見知りですか?」
リュカシスが振り返る。敵の頭目は赤髭ラッセという獰猛で残忍な戦士と聞いていた。
「戦闘後に敵を捕縛して情報を引き出したく。
後は……そうですね。舐められないよう、お力を貸して頂きたいです」
「あー、あいつは俺の従兄弟の嫁さん側の従姉妹の友達の……ダハハ! なんだったかな!?
後はあの野郎、たしかドスケベのハゲだぜ。って聞きてーのは、それじゃねえわな」
「は、はあ。ええと」
「俺等ノルダインには幻想だのの連中みてえに、忠義だなんだ野暮ってえモンはネーわけよ。
つうても騎士様気取りのハイエスタの連中は別かもしんねえがな。要はてめーが食うためにやる。
欲しいもんは奪う。邪魔なやつは殺す。だあら下克上でも何でもありって訳だ」
辺ガルドが髭の先をつまんでひねる。
「ラッセの野郎もおんなじだろうぜ。俺はひと味ちげーけどな? ダハハハハ!」
あらかたの籠城準備が整った頃、金属質の床を叩く音が聞こえてきた。
「来たようですね」
シフォリィの声に、一同の表情が引き締まる。
「裏は後で聞くとして――まずは降りかかる火の粉を払いましょう!」
鋼の空洞に、抜刀の音が凛と反響した。
「よお、ヴェガルド」
「だはは! 久しぶりじゃねえか、ラッセよう」
「そいじゃ早速、殺ろうぜ!」
●
「それでは、よろしいでしょうか?」
「なんとか合わせてみますね」
未散の言葉に固唾を飲み込んだセレーネが、イレギュラーズ達が呼吸を合わせる。
一同に目配せするや否や、未散はノルダインの剣士へと閃光のように肉薄した。
スカーフがふわりと花開き、さながら夜会の姫君の如く、粗暴な剣士を上目遣いに見上げる。
「……っ、てめ、な」
半歩後ずさった剣士は、言い終える事が出来なかった。
ダンスでも始めるかのような優美さで、しかし構える鉄塊は凶暴な牙を剥きだしにしている。
炸裂する鋼鉄の花束から放たれた光は――その刃と弾丸は暴風と吹き荒れた。
剣士はかろうじて丸盾を構えようとするが、まるで意味を成していない。
先陣を切った未散と全く同時に、イレギュラーズもまた陣を整えきっていた。
「それではお客様――僕の奇術をご高覧あれ」
ハットを整え、優美に一礼。幻のステッキが軽やかに閃いた。
「何だ? 何しやがるつもりだ、てめえ」
ショーの始まりは、余りにドラスティックに。
舞い踊る青い蝶が、蜜を吸うように剣士を貪り絶叫が木霊する。
「お静かに。劇中のおしゃべりは、他のお客様の迷惑に御座います」
イレギュラーズの猛攻は止まる所を知らない。
「このウスノロ野郎! 俺が相手になってやるよ!」
赤い剣――Dainsleifを構えたライセルが朗々と言い放つ。
「んだコラ? 兄ちゃん、口の利き方がなってねえな」
「なあ、ノルダイン。弱いものを苛めるのが、そんなに好きか?
お前らの、これは冬ごもりの準備なんかじゃない。弱いもの虐めだ。
弱い者を虐げるのはな、声がデカいだけの弱虫がするんだよ」
ノルダインの戦士達が、立ち塞がるライセルへと、歯を剥き出しにして一斉に吠えかかる。
随分と、乗せやすい奴らだ。血の気があまりに多すぎる。
「……おい。あのクソ優男をぶっ殺せ」
そうと決まれば、ノルダインの戦士達にとって、やることは単純だ。
あのすかした優男(ライセル)を取り囲み、獲物を振り上げ、ずたずたに引き裂くのみ。
だが――成し遂げるには、余りに遅い。否、イレギュラーズが速すぎる。
彼等のいずれよりも早く、イレギュラーズは立て続けの猛攻をたたき込み続けていた。
「ヴェガルドさんは、シフォリィちゃんとラッセの抑えを頼むよ!
アンタは強いだろ? 頼りにしてるよ。もし彼女に何かあったら助けてやってね」
「ええ、お願いします」
「しょうがねえなあ」
ライセルの声に、シフォリィとヴェガルドがラッセの前に立ち塞がる。
「お相手しましょう」
「二人だろうが千人だろうが、かかってこいや!」
「帝都へようこそ、遠路はるばるお疲れでしょう」
「んだ、てめえは」
「そういう訳で、そのままお帰りになられては?」
(……ウワー! 速い! 楽しい! 弾丸みたい!)
未散と共に敵陣へ肉薄したリュカシスもまた、高揚を渾身の力に変え、剣士を殴り続ける。
兜が吹き飛び、次の一撃で身体をくの字に折り曲げる。
目を見開いた剣士は、だが獰猛そうに笑った。
リュカシスに向けて振るわれる剣は、しかしその身体に届くことは、遂に無かった。
最後の一撃――右ストレートで吹き飛んだ剣士は壁に叩き付けられ、泡を吹いて動かなくなる。
死んではいないが、戦う力は全く残されていまい。
「さて。お次のお相手はどなたでしょう?」
「こいつ、強え……面白くなってきやがったな!」
「実に迷惑な楽しみ方ですね」
リュカシスは再び次の相手へ向けて構えを取る。
「タイ捨流、浜地庸介、お前たちの首を刈りに来た」
「いいね。俺はオッド様よ」
丸盾を突き出す剣士が、剣を腰だめに構えて姿勢を落とした。
だが剣が迫る寸前。死極の刃が閃き、縫い付けるは後の先から、その先へ。
命を奪う凶刀が、二人目の剣士の胸を袈裟懸けに駆け抜ける。
赤い霧が舞い上がり、半歩退いた庸介は刀を霞に構えた。
「このまま畳み込みます、一気に終わらせましょう」
血花が舞い散る中、駆けるマギーは腕を交差させ、美しい拳銃のトリガーを引き絞った。
敵陣に乱れ咲く早撃ちは、盾を穿ち、兜を穿ち――だが弾丸の嵐が止むことはない。
小さな身体で舞うように、マギーはゆっくりと両腕を開きながら撃ち続け――
獲物を振り上げ迫り来るノルダインの戦士達を、文字通りの蜂の巣へと変える。
(――皆さんお強い。ならば私も一層、気を引き締めて参りましょう)
瀟洒な白刃が閃き、セレーネの正統剣技が続けざまにたたき込まれる。
「この村の方々へは指一本触れさせる事は致しません。
ノルダインの屈強なる戦士達よ、貴方方の流儀に従い、言葉ではなく力によって従わさせて頂きます」
「言ってくれるねえ!」
一合打ち合うたび、鋼の嬌声が硬質な床に反響し駆け抜けて行く。
反撃の機会をうかがい、盾で受け止めようとした剣士は、だが立て続けの猛攻を前に膝を崩した。
「――そこ!」
見いだした僅かな隙にセレーネはすかさず踏み込み、鎖帷子の隙間に剣を突き通す。
目を見開いた剣士が赤いものを吐き出し、よろめき、それでも鉄床を踏みしめる。
「っべえな、こいつら。速ぇ」
「話している余裕がおありなのですね――結構なことです」
透き通るような白銀の刃――サーブル・ドゥ・プレーヌリュヌを構え、シフォリィが踏み込む。
完全な水平を描く、余りに美しい軌跡と共に、ラッセの分厚い胸板が真一文字に赤く染まった。
「っちい! クソ小娘が! 美味そうな房あ抱え込みやがって。後でしこたまブチ犯してやるからよ!」
「威勢がいいねえ、ハゲちょびラッセ。てめえ如きにゃもったいねえぜ、なあ嬢ちゃん」
自慢の剣をたたき込んだヴェガルドが笑う。
「何を言ってるんですか……」
迫る鋼の暴風を避けきったシフォリィは溜息一つ。
二人の眼前で再び巨大な戦斧を振り上げた赤髭ラッセは――いかめしい顔に大粒の涙を浮かべていた。
「ハゲってゆうなああああ!」
●
交戦開始から幾ばくかの時が流れていた。
一行の猛攻は強烈かつ尋常でなく素早い。
死をも恐れぬ敵は次々に倒れていったが、一方で一行も無傷ではない。
敵のカウンター攻撃、そして数々の火力は一行の体力をこそげ落としている。
「厳しい命の奪い合いに比べれば――まだ」
薄紅に染まった下唇を噛みしめている未散は、神速の猛攻を弓使いに見舞う。
血と斬撃、硝煙に彩られた戦場の様相は正しく削り合いである。
「あーあ、こんなもん? ダサいなあ。もっと、真剣にやれよ!」
「うるせえ小僧だな」
「それでもノルダインかよ! そんな弱くてもなれるのかよ!」
斧を捌き、答えたライセルは強く踏み込む。
強烈なカウンターを浴びた戦士はよろめき、赤い液体を吐き捨てた。
しかし未だ、イレギュラーズの優勢が覆ることは無かった。
「――オアアアアッ!」
まるで意味を成さない怒号と共に、大戦斧がシフォリィに迫る。
あえて一歩踏み込んだシフォリィは剣を突き出し、甲高い音と共に斧の軌道を逸らす。
巻き起こる暴風がその美しい肌に赤い線を無数に描いた。
しかし致命傷を避けきったシフォリィは更に踏み込み一閃――
「……クマのようですね」
「だな。頭のてっぺんだけ、まーるくハゲてるけどな! ダハハ!」
無数の傷痕を抱えたラッセは、それでも踏みとどまり続けている。
「クソが、これじゃ埒があかねえ」
弓使いと斧使いの戦士達が、頷き合う。
彼等の当初の目的は住人の虐殺であり、イレギュラーズとやり合う事ではない。
「そこから先には行かせません」
「随分コソコソなさっておいでで。やはり戦士ではなく観光客だったのですね」
異変に気付いたリュカシスとマギー、未散が、バリケードの前に立ち塞がった。
「あれやこれや、邪魔あしやがってよ!」
「それはこちらの台詞です」
激突は続いていた。
だが敵の数は着々と減り続け、遂に一行はラッセを取り囲んだ。
「お前たちの国には初めて来た。雪と寒さに鍛えられた戦士は強いと聞く。
お前たちはどうだ、誇りを以て強いと、己は強いと言えるか。
凡庸な男一人、倒せぬようなら、それもまた名前負けだな」
「この小僧が、言わせておけばぬけぬけと!」
庸介が放つ立て続けの斬撃は、ラッセの巨体に無数の花を咲かせている。
「終劇のお時間に御座います。最後の奇術をご覧あれ」
幻が放つ昼想夜夢の奇術は、全ての制限を払い、時間すら置き去りにするかのようにラッセを襲う。
幸福な白昼夢は、されど現実の悪夢へと変わり――
暴風のように荒れ狂うラッセは、しかし既に満身創痍だ。
口元から赤い泡を吹き、悪鬼のような形相で一行を睨め付け、大戦斧を振るい続ける。
暴風を受け止めた衝撃に脳髄を揺さぶられたセレーネは床を転げるが、だが反動を生かしてラッセに強烈な足払いを見舞った。
「終わりにしましょう」
真っ直ぐに腕を伸ばし、マギーは狙う。
明けの明星を冠する愛銃のトリガーを引き絞り。
命を――最後の灯火を消し去ることのない、慈悲の弾丸がラッセに吸い込まれた。
●
敵は残らずひっとらえた。
家屋の修理を手伝いながら、イレギュラーズは尋問を続けている。
ラッセには猿ぐつわを噛ませても良かったが、ヴェガルドは不要と判断した。
自害するタイプではないらしい。
「シグバルドが敵になるというのは、根拠のあるお話なんでしょうか?」
「ぼくも、それを識りたい」
セレーネと未散の問いに、ヴェガルドが唸り頭をかいた。
「わっかんね、けど連中どうもきなくせえんだよな」
「行動が余りに不可解です。ただ敵を増やすだけですから」
シフォリィの言葉は正論だ。
「そんな事をする理由があるとすれば、自ら敵に回るのを選ぶ時ぐらいです」
「あーあ、負けだ負けだ、まっちろい戦乙女が見えらあ。殺すなら殺せよ。好きにしろや」
縛られたまま仰向けに寝転がるラッセに、シフォリィは眉をひそめた。
「赤髭ラッセ、あなたが頭でしょう?
なぜそんなに急いでおいでか、情報を寄越すなら仲間は逃して差し上げます。
市民に危害を加えないと約束するなら物資も用意しましょう。
さもなくば、頭を頂きます。具体的には赤髭を雑に剃ります」
「マジかいや、つか、や、やめてくれ、それだきゃ」
リュカシスの言葉にラッセが震え上がった。よほど髭が大事らしい。
「ボクも統王について聞きたい所です」
「どうしてシグバルド様は貴方方に、ここを攻めるように言ったのですか?」
マギーと幻もまた問いただす。
「さー、どうだかな。別の所と連み始めたっつう話は聞いたな。ホーケンだったか?」
「……鳳圏」
「シグバルド様はどのような方でどのようなお考えをお持ちなのですか?」
まさか帝国と徹底交戦でも考えているのだろうか。
ノーザンキングスの政治体制については、ヴェガルドが「強い奴が締める。そんだけだ」と答える。
「ま、ヴィーザルの連中が何考えてんのかってのは、いつだって決まってんだよ」
――単にたらふく、おまんまが食いてえのさ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
シグバルドは急速に兵力の集結を図っているようです。
その真意はようとして知れぬまま――
MVPはパーティを牽引し、作戦の要となった方へ。
それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
ノーザンキングスから足を洗った剣士ヴェガルドのお願い事。
スチールグラードのギアバジリカ跡地に攻めてくるノルダインの戦士を撃退しましょう。
●目的
ノルダインの戦士を撃退。
近くの住民への被害を極力低減する。
●ロケーション
ギアバジリカと呼ばれる、古代の超巨大な建造物内部です。
今はスチールグラードに鎮座しています。
内部は広大で、様々な集団が便利に利用しています。
戦闘になるのは、その中の広い部屋。
明るさ、広さは十分です。
ノルダインの戦士達が襲ってきます。
●敵
遠路はるばる襲撃してきました。
敵の目的はヴェガルド(と村の人)達の殺害と略奪です。
とるもんなんて、ほとんどないでしょうに……。
『赤髭ラッセ』
巨大な斧を担いだ凄腕の戦士です。
性格は獰猛で残忍。ヴァイキングらしいヴァイキングですね。
近距離のなぎ払いの他、単体の大威力攻撃、遠距離に真空破を飛ばす等出来ます。
出血、流血、ブレイク、必殺を持ちます。
『ノルダイン戦士(剣)』×4
剣と盾をもったバランスの良いビルドタイプです。
HP、防御技術、特殊抵抗に優れます。
大威力のカウンター攻撃を行う場合もあります。
『ノルダイン戦士(斧)』×6
斧と盾を持った、攻撃力の高い戦士です。
大威力の単体攻撃の他、近距離への範囲攻撃も保有しています。
『ノルダイン戦士(弓)』×4
弓をもった戦士です。
遠距離攻撃主体で、範囲攻撃も保有しています。
近距離でも一応格闘戦が出来ます。
●味方
『氷剣』ヴェガルド・オルセン(p3n000191)
屈強な北海の戦士で、今はラド・バウの闘士です。
至近単体攻撃、近距離列攻撃、中距離攻撃を持ちます。
保有BSは凍結、氷結、弱点、ショック
●近隣の住民
ヴェガルドの村の人達。
しっかり閉じて立てこもっています。
皆さんが戦っていれば普通に安全だとは思うので、あまり特筆すべき点はありません。
ただ、一応、敵の攻撃目標ではあります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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