シナリオ詳細
霊山縛る『天女』の指先
オープニング
●山に生贄を捧げよ
高天京から遠く離れた、カムイグラという国でも辺境の山里。
近傍に聳える霊峰は人々の信仰の対象であり、そこは長らく神のおわす地として人々の心の支えであった。
中央から排斥された獄人――という名もいずれ廃れようか、鬼人種達にとっては霊峰の奥はさらなる隠れ里となり、「生贄」の名目で送り出された者達は何に襲われることもなく、彼岸に近いとはいえなんとか生き延びた者達が住まっていた。
山里の者もそれを知らぬわけではない。「生贄」として里を放逐されたものは、その立場を以て役割が完結している。生贄という役割を与えられ、死せずして生き延びたならば山がそれを求めていなかったからだ、彼等は神の写し身ですらある、と自分達を納得させ、信仰のゆらぎを産まずに生きてきた。
その信仰が揺らいだのは、高天京にて『神逐』が成し遂げられたのと同時期である。
山里から明らかに、夜気を裂いて流れてきた炎と光の色、そして悪意ある何某かの異様な気配。
夜が明け、山里の人々は霊峰が既に神ではなく魔の座す場となってしまったことを知る。隠れ里から逃げ延びた(というより放たれた)生き残りは肉体の各所に手で締め上げられた跡があり、その部位はミミズがのたくったような跡で満ち、命が長くはないことを感じさせた。
「7日に1人、生贄を捧げよ。若く美しい女が佳い」
その伝言を残して、生き残りの全身の傷痕が隆起してそれを食い潰した。
人であったものから生まれた、生物なのかもわからぬ異形はそれからたっぷり四刻半(9時間)かけて怯える人々(主に逃げ足の遅い老人たちだ)に食らいついて貪って、その脅威を知らしめた。
「枯れた肉、腐った血。ああ、嫌なものを食べちゃったのねえ」
所変わって霊峰、隠れ里跡地。
そこに居座る異形の女は、遠く山里で死を迎えた己の『従僕』が口にしたものをしり、苛立たしげに吐き捨てた。
ヘビの下半身、その下部には牙の生え揃った口を備え、上半身はあられもない姿を残しつつ全身をのたうつアザのようなものは絶えず蠢き、彼女のなかに多数の『従僕』が生きていることを予感させる。
腕は8本。上半身全体をみっちり覆うようなそれの上に、しかしそれらの異形すべてを否定するかのような――非現実的極まりない美貌を備えている。
女の名を『天女・斑組紐』という。
神逐の折に現れた魔種集団『羅刹十鬼衆』がひとり、『華盆屋 善衛門(かぼんや よしえもん)』が肉腫を植え付け作り出した、複製肉腫ながら凄絶な実力を持つに至る『傑作』である――!
●悪意ある美女を討て
「……以上が、地方を見て回った人々から高天京にもたらされた情報だ」
羅刹十人衆のくだりは明らかに推測だがな、とベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は仲間達に告げた。
その実力を勘案し、さらに現れるであろう配下の力を加味すれば、斑組紐の実力は純正のそれに届く可能性が多いにあるという。
そして今尚、斑組紐は女を生贄として召し上げている――女は未来の宝だ。いずれ食われ続ければ村は子をなせず終りを迎えるだろう。
「調査に出向いた者達はそれなり手練だったが、1人を残して全滅したらしい。1人残ったのは、斑組紐の気紛れかもしれないが……とにかく危険度は非常に高いと見ていい。
今の所判明しているのは、8本の腕による猛烈な連続攻撃、ヘビの胴の口による凄絶な威力の噛みつき、体内の『従僕』を放っての寄生攻撃、さらにその美貌による洗脳だ」
多数の手数と多くの手段。それだけでも面倒だが、調査者の話では……生贄と隠れ里の人々の一部は、「生きている」のだという。ヒトとしてか、苗床としてかは不明だが。
「とにかく警戒を厳に、急ぎ対処に向かう。隠れ里自体が罠や妨害要素にはならないだろうが、動きに制限があると考えていいだろう。――俺達なら絶対に倒せる。行くぞ」
ベネディクトの声は、仲間達に信頼という重い枷を以て響いた。
- 霊山縛る『天女』の指先Lv:25以上完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年12月25日 23時15分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
依頼人達がいた村から、霊山の隠れ里へ向かう道は確立されていない。そも、隠れ里に辿り着くのは飽くまで『可能性』であり、捧げられた生贄が皆、生き延びるわけではないからだ。
それでもある程度の位置が知られているのは、人々が生贄に生き延びてほしいという願いが大なり小なりあったからだろう。
「古来から生贄なんてものはな、大抵意味のねぇものなんだよ。受け取った側は調子に乗る、奪われた側は余計に衰退する。……どっかで断ち切らなきゃならねぇんだ」
『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)はそんな中途半端な願いこそが我慢ならない。存在しない神に奉ずる生贄は結局、新たな人の営みを生んだ。そしてそれが、『天女』の餌と成り果てた。祈りはそのまま、歪んた存在の力になったのだから笑えない。
「いやはや、面倒な置き土産もあったもので御座るな……戦は終わっても、まだ何も終わって等いないとでも言うので御座るかね」
「人間の体を弄繰り回す悪趣味な奴……決戦の時に見たあいつの仕業だね……」
『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)は話に聞かされた『天女』の異形と所業に顔を顰めると、霊山へと視線を移した。遠巻きからでも察しが付くその瘴気の濃さは、少なくとも肉腫の枠組みでなんとかなるものが居るとはとても思えない。
『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は四神の防衛に立った時にその存在を識ったが為、より脅威としての実感が濃いのだろう。身震いする肩を抑えて顔を上げた。
「これから皆で新しく初めていこうとしてる時に、これ以上犠牲者を出すわけにはいかないよ!」
「奈緒という魔種に続いて今度は天女の複製肉腫か……複製肉腫とはいえど何やら異様な強さを持っているみたいだから、注意していこう」
神逐を成し遂げたというのに、それでも争いの種は尽きない。『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)にとってその事実はどうしても看過できない。後手に回ったとて、事態を収めねばならない。
『貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)の脳裏に浮かぶのはつい先日現れた魔種だが、それとこれとでは根本から『病巣』が異なる。魔種案件は『中央の腐敗の残り香』であり、羅刹十人衆の存在は『新たな脅威』の類である。新たなカムイグラにとってどちらもあってはならない存在だが、その別を違えれば間違いなく混乱の種となろう。
「命を貪る複製肉腫……この国には、未だ多くの病巣が巣食っているんだね」
『黒狼朋』マルク・シリング(p3p001309)はどこか悲しげな視線を霊山に向けた。救ったはずの国で起きる悲劇というのは、どうにもこうにも報われない。誰のせいでもないのに、自分を責めてしまうほどには。
「あれはもう救えまい。生贄の救済を第一にすべきだ」
『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は使い魔を通して隠れ里の地獄絵図を既に見て、知っている。相手は堂々と待っている。己の罪など認識せず、快不快のみを指標としてそこにいる。それはもう人に戻る余地はない。完全たる化け物だ。
「……嗚呼、芳醇な肉の匂い。若々しい男の匂い。人の魂が怨恨惨苦で歪む匂い。そんな匂いを漂わせて私の前に立つなんて、よほど『欲しがり』なのかしらね?」
やがて、霊山を登りまばらな茂みと雪を越えた先。イレギュラーズが『それ』と邂逅するのに、そう時間はかからなかった。
斑組紐。『天女』と銘打たれた複製肉腫の恍惚たる笑みを浮かべ、イレギュラーズを待ち構えていた。何がそれだけ嬉しいのか――聞くまでもあるまい。
「はっ、お前が天女? 笑わせてくれるぜ……醜女の間違いだろう?」
『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)が吐き捨てるように告げる。天女などとは笑わせる。余りにおぞましい異形を備えながら、鈴のなる声で迎え入れたソレを賛美するものなぞ、イレギュラーズには1人たりとて居やしない。それでも斑組紐が表情をぴくりとも変えなかったのは、圧倒的な余裕か否か。
「我々という存在が貴様達にとってどういう存在か、それを魂にまで刻んでやろう」
「化生といえど、所詮は肉種――等とは思わぬ、貴様は既に人を『喰い過ぎた』。臭いで解る……こびりついた人血の香りは、拙者には馴染み深いもの故なぁ?」
「そう、魂に――あなたの味を刻んでくれるのね? 楽しみだわ。そっちのあなたは『同類』かしら?」
マナガルムと幻介の挑発にさえ、斑組紐はゆるりと笑みを浮かべて返す。
同類扱いを受けた幻介は「御免被る」と短く吐き捨てた。
「あ……ああ、人、その姿は、神使様ァ……?」
「なんで」
「はやく」
助けて、ではないだろう。殺して、という懇願の響きが強い。度重なる苦痛に満たされた『神の生贄』は、『天女の生贄』に成り果ててなお人の心を残していた。それこそが天女の遊戯の一貫なのだ。忌々しいことに。
「人命救助と敵の殲滅。どちらも達成する。人々を守る、機動魔法少女として」
「ボクも黙っちゃいられないよ。なんとしても、ここで助ける!」
「アンタ達は私が救う。そして、生贄ごっこもお終いだ」
オニキス、焔、そしてミーナの3名が生贄達を前にして気を吐いた。ミーナとオニキスの表情は仮面の奥で見えはしないが、本質は同じものだろう。ここに居るものが、意志を違えるはずがない。
「咲々宮さん……10秒だ。その間、頼むぜ」
「応とも。仕事であれば、斬るも耐えるも同じこと。拙者には、アレが天女だろうと化生のたぐいだろうと関係ないでござる」
プラックが幻介の方を叩くと、幻介は獰猛な笑みを浮かべ斑組紐に照準を合わせた。
10秒。言ってしまえばあっという間だが、強敵相手には決して短くはない時間。その瞬間で受けた傷で、命の危機に至らぬと誰が言えようか。……言えるのは、死地に立った当人だけだ。
(30秒生贄を縫い止めるために、命を削る覚悟はできている……!)
生贄達の視線を受け止め、マルクは静かに前進する。後衛である彼構えに出る意味。敢えて敵に己を晒す意味を、違える味方は一人もいるまい。
覚悟せよ。この先おきる200秒足らずは、奈落に落ちるに等しき修羅の巷に踏み入る所業であることを。
●
「時間の猶予は無い、ならば──この時間の最中に己の全てを出し切る心算で臨むのみ!」
「邪魔する暇はあげないよっ……炎縛札!」
マナガルムの双槍が一気に雪崩込む従僕を薙ぎ、焔の札術が遠巻きに近づいてくいる生贄達へと舞い踊る。札の効果で動きが鈍った生贄達は、希うような表情で一同を見た。倒れるに足りず死の足音が聞こえ、自分達に憐れみと痛みの双方を向けてくるイレギュラーズ、そのアンバランスさに困惑するような、そんな目で。
「プラック」
「わかってるよ!」
オニキスの声にあわせ、プラックは彼女、そして己へと神威を授ける。一時の、仮初の権能とは言えその効果は絶大。すくなくとも、敵をかき分け突き進むに足る力を与えるだろう。オニキスはその好機を逃しはしない。
放たれた閃光は生贄と従僕を諸共狙えるだけ巻き込んで輝きを増し、その身を破魔の波長で包む。
「くっ、そ……邪魔だ!」
一見すれば順調に見えつつも、しかしことは単純ではない。シューヴェルトは、真っ先に生贄に近接戦を挑もうとして生き延びた従僕に阻まれ、全身をその捕食器官で貫かれる。堅牢とは言い難い肉体に掛かる負荷は大きく、戦いの厳しさを身を以て理解することとなる。
「はぁぁァッ!」
その猛攻が、あと20秒も続けばシューヴェルトは只では済まなかった。唐突に終わらせたのは、マルクの放った閃光が従僕達の動きを虫の息同然にまで弱らせたからだ。生贄を狙ったそれは殺傷力を伴わない。
が、シューヴェルトが『雪豹』の名を冠した銃を抜き、後退しつつ従僕を薙ぎ払うだけの時間は稼いだ。全滅には程遠いが、道をひらく程度はできる。
「私の子達に随分なことをしてくれるのねぇ、腹立たし――」
「何処を見ているでござる。貴様の相手は拙者だ」
めまぐるしい状況の変化に、斑組紐がようよう動き出したのと、幻介の一刀がその身を裂いたのとは同時だった。
置く斬撃は確実に斑組紐の胴を裂き、彼が与えうる傷を最大効率で叩き込んだ。はずだ。
それでも返礼とばかりに降ってきた都合八本の怪腕の驟雨をいなし切るのは至難。左右一対の挟撃は首を引いて、二節目左腕の突きを命響志陲で叩き落とし、反動で右腕の横薙ぎを逸らす。三対目右腕の大上段打ち下ろしを避けた先、下方から残り三本の腕が伸び上がって彼を強かに打ち据えた。
苛烈、というほかない乱舞。それでも体力の消耗を3割で抑えたのは彼の実力あってのこと。
「ちょっと痛むが我慢してくれよ! すぐに助ける、私達を信じろ!」
「大丈夫、僕達は諦めない! 最後まで、あなた達を救う……絶対に!」
ミーナが苦しげな――自分がその傷を負っているかのような表情で生贄の1人の胴を薙ぐように蹴ると、マルクが叫びと共に聖なる光を放つ。焔の札で動きを縫われたそれらを狙うのは彼ならずとも余裕があり、仲間達の尽力で死なない程度に痛めつけられ、倒れるものが半数を超えた。ミーナは素早くパカダクラに指示を飛ばし、シューヴェルトは出遅れた一瞬を巻き返すべく倒れた1人を担ぎ、斑組紐から距離を取る。
「最優先事項……人命救助。寄生生物の除去、迅速に、効率的に」
「あと1人……あと10秒! 死なせはしない、俺の槍に賭けて!」
オニキスは式神に1人預けると、マナガルムと息を合わせて残り1人へと集中攻撃を仕掛ける。全員を救うのは困難だと、イレギュラーズは分かっていた。救い漏らせば、己が不利になると、理解していた。だからこそ、彼等は己の命を削ってなお誰かのために奔走したのだ。
「随分なことをするものだから見ないようにしていたけど、あの子達もなかなかいい顔立ちをしているのね? ここの諦めに染まった子達とは大違い」
「アンタみたいに性根が腐ってちゃ、どんな美貌を持ってようが宝の持ち腐れだぜ。幻介さんと俺とを相手にしてどっちつかずなアンタじゃあな」
イレギュラーズの献身は、斑組紐にとっても慮外で、そして美しいものであった。もとより生かしておくつもりはなかった生贄達を、彼女が手の届かぬところへ持っていこうとしている。腹立たしいが、愚かしい純粋さは称賛すべきだと思えた。
そんな彼女を、プラックは罵倒する。当たり前だ。
斑組紐の言動の全ては、己の絶対優位が揺らがぬものという前提がある。人質を抱えながらも奪われて、それでも余裕をひけらかす姿は強がりなのか、はたまた本心なのか。幻介を痛めつけた手腕は本物だろうが、それが彼の足を怖気づかせるか、といえば断じて否だ。
「斑組紐、今まで殺してきた人達の痛み、今度はキミが味わう番だよ!」
「小癪……」
焔はカグツチ天火を振るって炎を放ち、残された従僕達を一掃しようと試みる。燃え上がり、弱りながらもそれでも襲い来る影は頑健な肉体を備えていることを否応なしに理解させる。
だが、続けざまにミーナの聖剣による暴威とシューヴェルトの連続射撃に晒されればどうか。一掃とはいかぬも、その殆どが力尽きるのは目に見えている。
「いくぞ! 天女の名を冠し肉腫とその従僕よ、覚悟しろ!」
「小癪だと、言っているのよ!」
シューヴェルトが気を吐くのと、斑組紐が激高するのとは同時だった。彼女の怒りに呼応するように湧き出た従僕は初期の数の倍に比し、イレギュラーズが救出した生贄以上の伏兵があったことを――生かさず殺さず、『救えなかった事実』を見せつける為だけに残していたことを想起させる。
見よ、そこな従僕に張り付いた髑髏を。生気すら残したその屍を。
「……貴様ッッ!!」
「マルク、その怒りを俺に預けろ。天女・斑組紐……俺の友を、その心を、随分と弄んでくれたな」
生贄達を救った達成感、仲間を癒せるという誇り。今この瞬間まで、斑組紐に正面から挑み比肩しうると築かれたマルクのささやかなそれらを、彼女は花を手折るようにへし折った。怒髪天を衝いてなお指先で紡がれたのは聖域への扉。血を吐くほどの怒りと仲間への献身の両天秤が傾かないその姿勢は、マナガルムをして最大の誇りであった。
「やはり貴様は『同類』では在りえぬ。殺したい、喰らいたいだけのために相手を甚振り食らいつく姿は天女どころか畜生に劣る。だから見よ、その醜い手の動きなぞもう見切ったわ」
幻介の殺気が膨れ上がる。初手から手にし続けた天衣無縫の極意は、ここにきてその精度を弥増した。迫りくる手を避けるではなく斬り、文字通り『手数を減らす』かのような猛攻で返す。
それを成し得たのは、新たに発生した従僕の何割かをプラックが引き受けたからでもある。
「この戦いに負けりゃ、また村の奴らが食い物になるのは明白……俺ァ、嫌だね」
「……この人は複製肉腫だから、多分、殺さなければ助けられるかも知れない。けど」
焔はどこかで希望をもっていた。彼女を殺さず戻せたなら、なんとかなるのではと。『天女』達を助ける道筋のひとつたりうると。
だが、仲間達の怒りを肌で受け、それはもう、このときばかりはかなわぬ願いなのだと痛感する。なれば、己のちからを十全に発揮するしかない。
「よぉ、クソ天女様よ。正直私は今怒ってんだぜ。女は子を育む、男は人を育む。人は宝だ、それを奪うてめぇは、死神の私が裁いてやるよ 」
「『人は宝』……そうね、私の子達を育ててくれる苗床としてコレ以上無い、宝の山ね」
ミーナの怒りに油を注ぐかのような斑組紐の言動は、どう贔屓目に見ても赦されるものではなかった。けれど、その言葉の饒舌さは翻って、その身がずたずたに裂かれた醜さを否応なしに露見させる。ミーナを噛み砕こうと開かれた大口は、決死の覚悟とともに放たれた悪あがきにすら見えた。
「欲望のために人々を苦しめる、お前は許さない……! マジカルアハトアハト、発射!」
「災いを灼き尽くせ……! 僕はその理不尽な死を遠ざける――!」
だから、オニキスの渾身の一撃がその大口を捉えたとき、斑組紐の絶叫が長く尾を引く。その口ごと、マルクの万感を籠めた魔光閃熱波が閃けば、なお悲鳴は強く響く。
彼女の制御を失った従僕達がメチャクチャに暴れ始めたのは、イレギュラーズにとっては悪い冗談のようだ。だが、翻ってそれは――勝利の凱歌への一節目にほかならない。
●
「全く、厄介な奴だったな。二度と会いたくねぇや」
「だが、未だに協力な連中がいるということも確かだ。……警戒、せねばならんな」
隠れ里の生き残りとなった生贄達は、イレギュラーズによって山里に戻されることになった。ミーナは疲れ切った表情で肩をすくめたが、マナガルムの言葉通り、恐らくはこれは終わりでもなんでも無いことは明白だ。
「こんなことをした、大本のひとがいるんだよね……いつか、倒さなきゃ」
焔は、救えなかった人と、そして……まだら組紐にすらも慈悲の残滓をのぞかせた。彼女をそうさせた大本は、今ものうのうと行きているのだろう。悲劇を量産するのだろう。いつか、その報いを受けさせねばならぬ、と。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
大変お待たせいたしました。
OPの通り従僕が多いため、単純に近づいて生贄を殴るというのはかなり困難でした。
その選択を採った場合、やや負傷が多いという部分はあります。
それでも勝利をつかめたのは皆さんの実力と、意志の力にほかなりません。おめでとうございます。
GMコメント
ほーら霊山に行く依頼だよ。
●達成条件
・『天女・斑組紐』の撃破
・(オプション・難度高)『生贄』3名以上の救出(3ターン以内の不殺フィニッシュ)
●天女・斑組紐
複製肉腫ですが、羅刹十人衆・『華盆屋 善衛門』によって弄り回された結果、恐ろしい力を持つに至った『天女』と呼ばれる複製肉腫です。
『従僕』と呼ぶ怪生物を身に宿し、他者に寄生させ拡散させます。『従僕』は本人の生死に関係なく、開放から9時間ほどは無差別に生物を襲って貪ります。それらに繁殖力はありません。
寄生した『従僕』は寄生主の死亡ないしは斑組紐の司令から3ターン後に突き破って出てくる習性を持ちます。
攻撃力・HP・EXAに特に優れています。攻撃の全てに『変幻(中)』を有します。
・蛇大口(物至単・威力大・流血、ブレイク)
・観音手(物近ラ・スプラッシュ(多)・混乱、苦鳴、麻痺、呪殺)
・従僕付与(神特ラ、自分中心に2レンジ・狂気。BS付与時、時間経過による解除の際、必殺大ダメージ)
・貴き美貌(神超単・万能、無、魅了)
●従僕×10
蛇と長虫の間の子のような怪生物。
物至単・HA吸収、必殺つきの攻撃を行います。
HPはそこそこ高め。
●生贄×5
「従僕付与」を受けた隠れ里の人々の生き残り、および山里からの生贄。
戦闘開始時に「司令」をうけ、3ターン終了時にそれぞれ従僕を5体生み出します。
寄生状態だからか、一般人よりは硬いです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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