PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Raven Battlecry>ティタノマキア

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●かつての残滓
 色宝。
 かつて存在したとされる大精霊『ファルベリヒト』より別たれた『小さな奇跡』と呼ばれる秘宝の事だ。その経緯から元々は一つの巨大な力であったとされている。

 願いを叶える。

 そう噂されているのは欠片として小さく散らばったモノに傷を癒す力――単体ではある程度でしかないが――備わっていたからだろう。
 複数集めた時にはどうなる。或いはもっと多くの量を。
 かつての一つとしてあった神秘の時代にあった『奇跡』を再現できるのでは――?
「進め。この先だ」
 ラサ砂漠地帯が一角ファルベライズ遺跡。
 先述の色宝が多く見つかっている地域であり、学者やラサ商会によって調査が進められていた地である――その遺跡の中。深部へと向けて突き進むは大烏盗賊団が者達。
 彼らはどこからか色宝の存在を知るや否や、奪取に向けていち早く行動を開始した……
 が、度重なるイレギュラーズの妨害、並びにラサ商会の掃討作戦も相まってその戦力をすり減らしつつあった。
 このままではやがて身動きが取れなくなる――
 危惧した彼らは、しかしついにファルベライズ遺跡の『内郭』の発見によって大規模な行動を開始する。戦力を二つに分けたのだ……一つはラサの首都ネフェルストへの攻勢。もう一つが――その『時間稼ぎ』をしている間に内郭を進む事。
 もしネフェルストへの攻撃が成功すれば、今まで確保されていた色宝を強奪する事が出来る。そちらが駄目だったとしても主力を向かわせた内郭攻略部隊が上手くいけば誰も手に取っていない色宝を確保できる――
 戦力分散となるか、乾坤一擲の策となるか。
 全ては成されてみなければ分からぬ事だが、しかし。
「我らは進むしかないのだ。ここからネフェルストへはどうしようもない――
 後ろは気にするな、ただ前に進め」
 大烏盗賊団が幹部の一人、カーバックは部下を引き連れながら指揮を執っていた。
 この先は遺跡の中核だ。今まで発見されていた部分は所謂かな外郭……文字通り表面部分であり、大烏盗賊団が求めた大量の色宝は――この先にある目算が高かった。
 実際、深部に降りる度に神秘の気配が濃くなっている。
 地上から離れれば淀むはずの空気が、何故か透き通っているかの様に清らかに感じるのだ。大烏盗賊団の者達は胸に高鳴る高揚を思わず抑えきれぬ程で……
「おぉ? な、なんだありゃあ?」
 と、その時だ。盗賊団員の一人の目の前に現れたのは――大きな扉。
 石で造られているように見えるが、触ってみればそれ以上に頑丈そうな様子を漂わせ、人を遥かに超えるサイズは厳かな雰囲気を感じる。明らかに『何か』を感じさせる扉であり……なによりこの先から。
「――神秘を感じるな」
 カーバックは紡ぐ。
 ああここだ。この先にこそ己の求めしモノがあるのだと、確信した――その時。
 地響きが鳴り響く。
 地震か? こんな所で押し潰されるなど冗談ではない――盗賊団達の中にどよめきが広がり。
「違う。上だ」
「えっ?」
 カーバックが跳躍した、直後。そこへ降り注いで来たのは『大きな岩』
 下敷きになった団員がいたのか赤き液体がその岩から流れ出してきて……しかしそれだけには終わらない。なぜならばその『岩』がゆっくりと動き出したのだから。
「な、な――こいつは、岩じゃねぇぞ!? 巨人!!?」
 見上げた盗賊団員。指差しながら周囲に警戒を齎した先に居たのは――
 言う様に、正しく『巨人』と見間違う様な存在であった。より厳密には、巨人に見える様な存在の『上半身だけ』だけだが。腹から下の部分は元から無いのか、或いは欠けてしまっているのか分からないが、無いように見える。
 確実なのは一つ。この巨人は彼らを敵視している。
 扉に近付く全ての存在を。
 守護者だとでもいうのか――なんだこの化け物は。なんだコイツは。
 ざわめく盗賊団達。されど明確な敵意を持つ者を前にしてただ無防備でいる筈もない……即座に迎撃の構えを見せ、纏めて潰されぬ様に散れば。

「……アトラースか。こいつ、まだ生きていたのか」

 カーバックだけは、小声で何かを呟いた。
 それはまるで『懐かしい者』を見るかのように。まるで久々に会った者を見るかのように。
 巨人より発せられし、低く唸る声にかき消され誰にも聞かれはしなかったが――
「散れ、散れ! 動きはおせぇぞ! 纏まらないようにしつつ奴をぶっ壊して……」
「ま、待て! カーバックさん、扉の奥から妙な奴が……!」
 もはや盗賊団員たちにとってはカーバックの呟き所ではなかった。
 脅威となるは襲い掛かってきた巨人だけではなかったのだ。
 ほんの一瞬。誰もの注意が離れた時に扉が微かに開いて、そこから『何か』が飛び出してきた。盗賊団に襲い掛かるその影は……

「縺雁燕驕斐?縺ェ繧薙□?」

 その影は……これまた、なんだ?
 姿は土塊の様であり、辛うじて人型である事は分かるが輪郭が安定していない。同時に、何か言語の様なモノを発しているのだが……耳で聞き取れない。およそ意味のある言葉ではないのだろう。
 一瞬だけ開いた扉の奥から現れたこいつは――? これも守護者なのか――?
「これではない」
 だが、カーバックは紡ぐ。
「これではない。これではないのだ。こんなモノでは」
「カ、カーバックさん……?」
「――こんな土塊なんぞに用はない。私が用があるのはこの先だ……殲滅し、扉を開けるぞ」
「しかしこんな化け物共を前に!」
 一度退いて態勢を立て直すべきではないか――
 そう進言しようとした部下へ、カーバックは己が刀を向けて。
「分からぬのか。我々は先のラサ商会の攻勢作戦により戦力をすり減らしている。
 余力はないのだ。余剰は無いのだ。退く場所があるとでも思ったか?
 生きる道は前にしかない――進め。もしくは死ね」

●天秤傾くは
 リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)はカーバックの調査を行っていた。
 彼女は以前――カーバックと色宝を巡って戦いを交えた事がある。その折の詳細は省くが……只の盗賊とは些か異なる雰囲気を醸し出していたカーバックの事がふと気になり、大烏盗賊団の情報を集めていたのであった。
 あれは何者だろうかと。色宝を求めて何をするつもりか――
 だからだろうか。ラサ商会が大烏盗賊団の動きを察知した時、カーバックの姿を見つけたとイレギュラーズであるリュティスに連絡が入ったのは。
 ネフェルストへの攻撃と遺跡への進撃。
 今から追跡すれば間に合うと判断され、そして。
「……ふむ。これは少しばかり予想外な展開になってきたようだな」
「ええ――さて。どう動いたものでしょうかね」
 ラサの名声も高き恋屍・愛無(p3p007296)と共にカーバックを追跡したのだ。
 愛無自身も以前、奴とは会った事がある。
 奇妙な縁もあるものだと思ったが……さてしかし、急ぎ追いかけてみればこの戦闘は如何な事か。
 洞窟内。天に届く程の巨人が一体と、地を這う盗賊団に攻勢を仕掛ける『何か』
 ――ただ単純に盗賊団と戦えばよいという状況ではなさそうだ。
 特に巨人がまずい。奴の一撃は洞窟を揺らし、今にもこの場が崩れんとしている。
 出来るなら盗賊団との潰しあいを待ちたい所だが……これは待っていれば場そのものがなくなってしまうかもしれない。あの気になる『扉』もある事だ――
「やれやれ。まぁ、やれるだけやってみるとしようか」

GMコメント

●依頼達成条件
 フィールドが崩壊する前に、全敵勢力の撃退・撃破

●フィールド
 ファルベライズ遺跡中核地点。
 石造りの大きな『扉』がある前で戦闘を行います。周囲はうすらぼんやりと光源(光る石)があり、特別に灯りは必要ありません。扉の前は広い空間であり、30mまでなら飛行する事も可能です。

●敵勢力A『守護者?』
●アトラース
 一言でいうならば『巨人』です。
 人を遥かに超えるサイズ――の上半身のみを持ちます。下半身は元から無かったのか、或いは破損したのか不明ですがとにかく無いようです。
 動きは緩慢ですが非常に優れた攻撃力と防御力を誇り、また範囲攻撃を多用します。

 更に『物理』攻撃に対しては最終ダメージをある程度減少させる効果があるようです。

 アトラースの攻撃は『フィールド』そのものにも影響しています。
 戦いが長時間続くとフィールドそのものが崩壊する恐れがありますので、ご注意ください。

●???×6(便宜上『土塊の人形』と呼びます)
 『扉』の奥から出てきた人型の土塊です。
 ゴーレムの一種であると思われますが――?

 アトラースと比べ、非常に素早い速度で移動します。
 孤立している人物、数が少ない集団を狙う傾向があるようです。

 また、其れを見た『あなた方』は死者を思い出す可能性があります。
 ですが、名を詠んではいけません。
 名を詠ぶとその者が定義されてしまいます。
 ――あなたの詠んだ名の姿を持つようになるのです。

●敵勢力B『大烏盗賊団』
●カーバック・???
 黒衣を身にまとった盗賊団の人物です。
 刀の様なモノを所持しており、特に刺突の技に優れている様です。
 ただの盗賊と言う訳でなく、遺跡における罠や学術的な知識を持っているようで不思議な様子を漂わせています。またその言動には多くの『妙』な点があるようですが……?

●大烏盗賊団員×25
 剣や弓、或いは魔術を行使する大烏盗賊団達です。
 前衛向きなのが15名。後衛向きなのが10名の編成の様です。
 強さはそれなりに。アトラースの攻撃を警戒してシナリオ開始時では散り散りになっています。イレギュラーズの介入以降にどうなるのかは不明です。

 なお。戦いがどう進むにせよ、イレギュラーズと共闘する事はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <Raven Battlecry>ティタノマキアLv:20以上完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年12月22日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
すずな(p3p005307)
信ず刄
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの

リプレイ


 扉はただそこに在る。
 古来より。時の流れに風化もせず。
 扉はただそこに在る。

「さて――あれらは一体なんでしょうね」

 渦中。見上げるは『血雨斬り』すずな(p3p005307)だ。
 願いを叶えるという色宝の事件を追って奥へと進めば――出でしは巨人と土塊。
 巨人の眼下には追っていた盗賊団が慌てており……
「何がどうなっているのか分かりませんが――全員切り伏せる、それで解決!」
「オッケー! それが一番だね! 皆纏めてぶっ飛ばせばいいって事で――ヨシッ!」
 ならばと『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)もまた両の拳を合わせて戦場へ。
 張り巡らせる結界が少しでも崩落を遅延させんとする――直接の攻撃は防げなくても、意図せぬ余波の一部でも防げればそれで良し。あの巨人がなんなのか。妙な動きを見せる土塊共はなんなのか――
 構いはしない。結局全部右ストレートでブン殴ればよいのだから!
 刀構えしすずなと共に突入する。まずに狙うは一点、盗賊の指揮系統であれば。
「チィ――イレギュラーズ共か。このタイミングでまたも邪魔に現れるとは目障りな……」
「不運ってか? いいや――お前らの運命はラサに喧嘩を売った時に決まったんだよ」
 カーバックの舌打ち。と同時に踏み込んだのは『アートルムバリスタ』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)だ。数は盗賊団の方が上……しかし巨人の攻撃に警戒する連中は分散している。
 ならばこの一時は間合いを詰める絶好の機会。
 黒き牙が如き大剣の一撃がルカより放たれる――その速度たるや神速。
 空を裂いて奴を穿たんとし、鈍い金属音を響かせ鍔迫り合って
「よぉ、また会ったな。お前何が目的だ?
 ――どうにもハゲ鴉に忠誠誓ってるようにゃ見えねえけどな!」
「しつこい男だ。あのハゲは、まぁ確かにどうでもいいが――私は私の目的を成すのみ」
 弾いて距離を取らんとする。が、逃がすものか。
 三勢力が入り乱れての混戦であれば流れを引き寄せる事が大事なのだから。
「一気呵成に攻め立てる。逃さんぞ、我が団長がラサに戻っているかもしれんのだ……
 無様はさらせん」
 求めるべくは『団長』が帰りし場所を護る事。
 その為に貴様らの様な鴉如きの好きにはさせぬと『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)もまた戦場を駆け抜けるのだ。
 願望器。死者の再現……色宝をもって何をするか。
 カーバックと首領たるコルボの目的はともすれば異なっているのかもしれない。
「だが止める」
 如何な真実があろうとも、阻止に変わりなし。
 故に愛無もまた攻撃をカーバックへと集中させる。粘膜から形成されし触手が奴を捉えるのだ――直上より降り注ぎし愛無の一片一片がカーバックを絡めとらんとして。
「――久々に傭兵らしく動けそうな依頼が舞い込んできたわね!
 こーいうので良いのよこーいうので!」
「ふふっ。私としては遺跡の中核なら、是非ともじっくりと調べたい所だけどね……あぁ歴史的建造物とは正に胸が躍るものだ。ま、それを一切考慮しない不遜な輩がいるのは――残念だけどね!」
 直後。回避の動きを取るその機動を読み切り『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)がスナイパーライフルの射線をカーバックへ。銃撃音が鳴り響けば、未知の遺跡たる空気を存分に味わいながら『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が精神の魔力を投擲。
 着弾させる。全霊たる一撃を込め、敵の防御を粉砕するかの如く。
 急がねばならない。カーバックを倒せばそれで終わりではないのだから。
 ゼフィラにとってはむしろ――

「く、来るぞ――!! 逃げろ逃げろ――!!」

 瞬間。盗賊団の一人が叫んだと思えば――アトラースが動いた。
 大きく振りかぶっている腕。五指は開いてまるで蚊を叩く様な体勢から地を『薙ぐ』のだ。
 人を遥かに超えるサイズから繰り出されるその一撃は最早『波』という表現が適切か。
 対象になった地点の者は叫びながら逃げ、回避を試みて――
「わぉ、大混乱だね。じゃ新兵器の狙撃ドローンの性能、キミ達で試させてもらうよ?」
 その渦中を『狼殺し』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は往く。
 味方から離れすぎず、かといって近すぎずにならぬ距離を保ちながら放つのはドローンだ。
 初撃目標はアトラース、並びにその近くに布陣している獲物達で――
 爆撃する。
「な、なんだァ!?」
「ふっふふ。さぁ踊れよ踊れ踊り給えよ――
 狩られる獲物は散々踊って疲弊してくれるのがありがたい」
 盗賊達も巻き込んで彼女はドローン達を我が手の世に操るのだ。
 狼の名を冠し一撃を奴らへ。現代の牙たる一撃を――奴らへ。
 さすればその中をすり抜けてくる影があった……土塊達だ。
「縺ゅ◎縺カ?溘≠縺昴??」
「やれやれ。気持ち悪い土塊ですね、これ。一体如何なる技術を用いて創られたのか……」
 孤立している者を積極的に狙おうとする姿勢を見せる土塊達を見ながら『黒鉄の愛』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は小さく呟いた。盗賊団よりも巨人よりも、圧倒的な生理的嫌悪感を抱かざるを得ない。
 人の様な。そうでいて全く違うような……
 見据えていればやがて『誰か』に似ている様な気をも得るのだが――
「錯覚ですね、これは」
 されどヴィクトールは瞬時にその判断を斬り捨てる。
 あり得ない事だ『死者』を思い浮かべるなど。そもそも己の識る死者というのは先の海戦で先に海の向こうへと旅立ってしまった者達の他にない。少なくとも今の己の『記憶』からは、それ以外はないのだ。
 故に目前を注視する。カーバック。盗賊達の司令塔でもある彼を倒すまでは。
「一切触れさせませんよ」
「ええ――ご支援に、感謝を」
 ヴィクトールは己に守護の力を齎し『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)を護るのだ。
 黒き、不吉なる蝶を纏わせ見据えるは戦場全域。
「……カーバック。ファルベライズの奥で何をしようとしているのでしょうか。何やら彼の目的自体が、あの扉の奥にあるようですが……色宝を求める盗賊団の動きとは些か異なる気がしますね」
「ああ。だからこそ行かせてはいけない気がする。具体的な、確証がある訳じゃないが――」
 それでも絶対に、とアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は盗賊団より放たれし弓矢を弾きながら、カーバックを真っすぐに視ていた。
 土塊に巨人……カーバックだけはその存在を予見していたのか?
 周りと比べて落ち着いている様子――事情を知っている者故にかもしれない。
 色宝が『あるであろう』と曖昧な希望だけを持ってやってきた有象無象とは異なる明確な意志……ならば彼の思惑通りに進ませる訳にはいかないのだ。仮に『そう』でなかったとしても。
「色宝はお前達には渡さない」
 奇跡の力を盗賊団に渡す道理など一切ないのだから。
 故に彼は響かせる。それは未練の音色。志半ばにして斃れた英霊が残した、怨嗟が漆黒。
 刃が軋り歌う物悲しき音は鼓膜を震わせるばかりか、その魂をも削らせて。
「ここで朽ちろ。そもそも奇跡なんて代物は――集めるものじゃないんだ」
 それは集めれば時として純粋な暴力にもなり得るから。
 そういうものは集めて保存するより、小さく無害な祈りで消費した方が世の為だと。
 直後。奏でられし不協和音が敵の身を蝕まんと洞窟内に響き渡った。


 時を経るごとに混戦は激しくなっていた。
 色宝を手に入れるべく遺跡の深奥を目指さんとする盗賊団。
 盗賊団を先に進ませる訳にはいかぬと横より打ち付けるイレギュラーズ。
 そして――両者全てを『敵』と認識し打ち倒さんとする巨人と、追従する土塊。
 三勢力共に相容れぬ。協力の余地はなく、故に苛烈極まって。
「――私だけを狙ってくるとは、存外にせこい真似をする」
「そうか? 数だけは多い上に散々商会の目を盗んで遺跡を襲撃してたお前らの言えた事じゃねぇと思うけどな」
 カーバックと切り結ぶルカが常に距離を詰めて往く。
 巨人による一撃は地鳴りが轟く程の勢いがあるが、巨人から倒すのは決して得策とは言えない。奴が倒れれば盗賊達が分散する意味は薄くなり、カーバックは陣形を整えた上でイレギュラーズと土塊を相手にするだろう。
 そうなれば数の多い盗賊団が最も優勢になるのは確実だ。
 倍以上に違う数をまともに相手取れば覆すのは容易いとは言えず。
「だが私一人で相手をしてやる道理もない……おいっ! 幾人かこちらへ来い!
 イレギュラーズ共を押さえつけて――」
「させないよ! そう簡単に行かせるもんかッ花丸ちゃんを舐めないでよね!」
 故にカーバックだけに集中するために花丸が動くのだ。
 援護に向かわんとする盗賊団員を挑発する様に。挙げた名乗りと付き出す拳の一閃が戦場を蹂躙するのだ――さすれば、抜けて行った一部の盗賊団員たちも巻き込みながらカーバックを狙い打つ。
「後は……土塊たちの動きも気になる所だけどね」
 と、花丸が向ける視線は意思と狙いがあるのかないのか分からない土塊達だ。
 奴らは孤立――あるいは少数と成っている者達の下へと向かう事を優先している。それに盗賊もイレギュラーズの区別もない……今のところは数の多い盗賊団の方が少数になる場合が多く、あちらを襲う事を優先としているようだが――
 場合によっては土塊達の引き付けも行わねばならぬかと。
 しかし盗賊も土塊も両方同時にとはいかない。伸ばせる手は限られているのだから。
「だからこそお前にはこの舞台からさっさとご退場願おう」
 直後。アトラースの振り下ろしの衝撃を躱しながら愛無が往く。
 盗賊と土塊が潰し合っている内に。まだ此方に目を付ける前にと。
 陣形を統制し土塊の狙いからイレギュラーズが外れる様指示の言葉をとばしつつ、敵へとは咆哮を。
 それはただの声ではない。脳を揺さぶる衝撃を伴った叫び。
 口腔を振るわせ大気を揺らし。振動の波が頂点へと達すれば――物理的な撃と成す。
「未だこれより更に進まんとするならば、命を賭す事だ」
「チィ――流石に、イレギュラーズ共は一筋縄ではいかんな……!」
 跳躍するカーバック。刃を振るい、近付く者を斬りつけるがさてどうしたものか。
 こちらに援軍として向かってくる盗賊団員は花丸により止められている。流石に彼女一人で全てを止め切れている訳ではないが――しかし一度自らが後方に退いて合流を目指すべきか。
 イレギュラーズ達はカーバックに対して優勢だが、それは攻撃を集中させているが故。
 ならば攻撃が手中出来ない状況を作れば幾らでも挽回のしようはある――
 しかし巨人、アトラースの目に留まれば莫大なる一撃が降り注ぐ可能性も高まるものだ。
 些かの躊躇。
 そして花丸の手から逃れてこちらに零れてきている盗賊団員もいる事が、逆にカーバックの足を後ろへと運ばせない事となり。
「迷いは動きを鈍らせるものです。決断に勝る思考無し」
 そこへ突き込んだのがすずなだ。
「刺突は此方も得手とする所! どちらが疾いか、いざ勝負……!」
「くっ――!」
 跳躍、抜刀。
 刃を走らせる音が刹那の間にのみ存在し。肉裂く音を認識できる者はごく僅か。
 その一撃は風の如く舞い散り、流れるが如き斬撃の嵐。
 呼吸の暇すら勿体なき、死線を潜る彼女の刺突だ。
 カーバックの刃が防がんと振るわれるが――遅い。
 舞う様に。
 三途川の辺にて飛沫を挙げて剣撃鳴らす。
 退けば水面の底へ引きずり込まれる。臆す事こそ『船に乗る』と心得よ。
 あまりの撃に、すずな自身の身が反動に蝕まれるが――全ては一閃の下に迷いなし。
「さぁさぁさぁ。その状態から一体どれだけ凌げるのかな?」
 更にその狭間を縫うようにリコリスの一撃が放たれた。
 研ぎ澄まされた狩人の一撃がカーバックの足を穿つのだ――
 逃げられぬ様にすれば後はじっくりと料理するのみだから。いや、と言っても巨人の存在がある以上、あまり時間を掛けられぬのではあるが。
「カ、カーバックさん!!」
「おっと、させないわよ! 纏めて焼け焦がしてあげるわ!!」
 直後。カーバックの劣勢を視れば盗賊達も巨人たちよりもイレギュラーズへの攻勢を強める者だ。弓を放ち、魔術を放ちて後方からでも彼の支援をする――が。迎撃するかのようにワルツの雷撃もまた彼らを襲う。
 地を這う蛇の様に。カーバックを巻き込みつつ、敵だけを呑み込んで突き進む焔。
 互いの攻勢が――真正面より激突する。

『――』

 更に天より降り注ぐアトラースの一撃があれば凄まじい火力のぶつけ合いとなっていた。
 盗賊が薙ぎ払われ、しかしその衝撃はイレギュラーズ達の下へとも届き。
 それでもこの程度で退く選択肢は両者に存在しない。
「散会気味、なんだけどね……それでも中々厳しい、か」
 アトラースの放った一撃による衝撃波。
 激しい痛みを伴うそれを耐えながら、アーマデルはしかし動いていた。
 こちらも厳しいが、あの巨人にとっては全てが敵に見えているのならば厳しいのは盗賊達も同じ筈だ。いやむしろ数の多い彼らの方がダメージの総量としては上かもしれない――戦場を動き回る土塊達の撃もあれば尚更に。
「……しかし、あいつらの方にはどう見えてるんだろう?」
 やはり同じく『誰か』に見えているのだろうか。
 だがそれでも名を紡ぐ事はしていない。
 アトラースの出現からによるパニックでそれ所ではないのかもしれないが……
 まぁいい。いずれにせよ戦う意思があるのならば倒す事に変わりはないのだ。
 己に近付いてくる剣持ちの盗賊を相手に放つは酒の香だ。しかし、只の香ではない。
 それは死神の眷属たる名を冠する果実酒。彼岸と此岸の間に生る柘榴を漬けた――赤く、鮮やかにして、しかし死神の系譜に非ざる者の喉を苦く焼く『あちら側』の毒――
 投じる。吸うだけでも効果を齎す絶死の芳醇を。
「落ち着け。依然としてこちらが数の上で優勢なのだ、態勢を立て直せ!」
「冷静だね――でも無駄さ。隙があるなら私達は決して見逃さない」
 流れはこちらのものだと、ゼフィラはカーバックに紡ぎながら治癒の調べを皆に齎すのだ。
「ああでもそうだね。この遺跡における知識がありそうな君……知っているなら教えてくれないか? お礼と言ってはなんだけど、教えてくれたら君は見逃してもいい」
「――戯言を」
「いやいや案外戯言でもないんだけどね。ま、教えてくれないならその辺りは自分で調査するとしよう。その方が色々と楽しみもあるものさ」
 別に殺戮をしに来た訳でもないのだ。退くならば無理に追う事はしない。
 しかし当然カーバックも退かないものか。
 ならば是非も無し。仲間を支え、奴らを退け――この地をじっくりと調べさせてもらう事にしよう。
 激しい衝突が繰り返され、時の流れが一つ、また一つと刻まれれば変化もあるものだ。
 明らかにカーバックの動きが鈍くなっている。集中的に攻撃されているが故か。
 彼の能力は盗賊団の中では随一だがしかし、イレギュラーズ達を複数相手取って圧倒出来る程強いかと言われればそうではなかった。ルカやすずなの斬撃、愛無やリコリスによる射程攻撃を受け続けていれば疲弊もするもので。
「おのれッ『扉』を目の前にしてみすみすこのような……!」
 カーバックは人差し指と中指の間に刃を置いて、穿つ。
 ここで敗れてなるものか。ここで敗れれば何のために――
「貴方は、何者なのでしょうか」
 と、その時。
 カーバックの斬撃の間に割り込んだのはヴィクトールだ。
 閉じた聖域、侵されざるものたる加護を宿している彼の身は盤石で。
「如何なる理由か存じませんが、随分と扉に執着の様子」
「どうやら巨人や土塊の事も知っているみたいだしな――お前まさか」
 受け止めたヴィクトール。さすればアーマデルが続けば。
「あの土塊達と同じ存在――だったりするのか?」
「――」
「いやそのものではなく……適した表現が見つからないが、類似した存在、とかな」
 撃を紡ぎながらカーバックを見据えるものだ。
 今放った言葉は只の予測。確証あってのものではない。
 しかしまるでこの地を『知っている』かのような言動は――

「――イレギュラーズとは勘の良い連中が多いものだ。そこの小僧を含めてな」

 瞬間。
 カーバックが紡いだのはアーマデルと――ルカに対してか?
 ルカとはかつての色宝争奪の折に会っており、その時も『ある会話』をしたものだが――
「カーバックさん、あぶねぇ!」
 同時。カーバックに迫るイレギュラーズがいれば盗賊団の者が庇うもの。
 ここまでカーバックの知識頼りで来たのだ。帰る折も彼がいなければ困る。
 故に身を呈して庇う者もいて――しかし。
「邪魔だ! 三下はどいてろッ!!」
 近付いてきた者――ルカは相手を掴み、力任せにぶん投げる。
 邪魔なものは遠くへと至らせればいいのだ。技と言う程のものではないが、しかし純粋にしてシンプルな方法であるが故に一度決まれば外しにくいもの。
 盗賊を投げ飛ばし。
 空いた側面に――撃を紡ぐ!
「ぐ、ぅ!!」
 入った一撃。それは刃を割り込ませる間も無く身を穿ち。
 しかし――それ以上を入れない。
 トドメになり得る一撃を。深き深き一撃を。
「何――?」
「お前は好かねえが、別に殺す程じゃねえ。こっちは忙しいんだよ、消えな」
 そのまま投げ飛ばす。宙に放って遠くへと。
 そうだ。盗賊達は究極的にはどうでもいいのだ。彼らはまだ『退く』という選択肢があるのだから。
 しかし『こいつら』は別だ。
「アトラース――神代の巨人の名を冠する者。これを倒さねば……終わりませんね」
 リュティスは言う。周囲に強烈な、聖域たる治癒の加護を齎しながら。
 見上げる存在。
 全てを敵視し扉を護らんとする――守護者達を。


 カーバックを投げ飛ばして以降、盗賊達の統制は乱れていた。
 その隙間を縫う様に動き続けるは土塊の人形たち。
 土塊達の損傷は深くないものだった。イレギュラーズ達がカーバックの打倒を優先した事に加え、少数の者を優先的に狙う性質であった故に、激戦区であったカーバックの周辺に来なかったからだ。
 そしてそれはアトラースも同様。
 かの巨人はまだそこにある。大きな大きな――腕を振り上げながら。
「かー! まずいねまずいね、また来るよあの拳が!」
 リコリスは駆ける。新兵器のドローンを飛ばしながら狙撃を繰り返して。
 跳躍。
 首に括りつけたスカーフが彼女に簡易なる飛行の力を齎す――いやよく見るとドローンに引っ張られてるだけだあれ。アトラースが拳を地に叩きつけた時の衝撃をもブーストにして『うわぁ』と慄きながら地スレスレを飛行している。
 一見するとリードで引き摺られている犬みたいに見えない事もない。しかもあれだ。今日はそっちの道の気分じゃないって散歩拒否の姿勢を示して主に引っ張られてる様な構図だ。いやあくまで構図なだけの話だけど。あれ? ドローン方がペット的存在だよね?
 ――ともあれアトラースの一撃は尋常ではなかった。
 振るう度に戦場全域を揺らす。そして天井から土の欠片が落ちてきていて。
「さぁ――貴方達を率いているモノは此処で倒れたよ。今なら進む以外の選択も取れる筈だよ……うん、勿論『進む』選択をするのも自由だ。でもね、そっちを選ぶっていうんだったら――」
 花丸ちゃんに容赦はないよ。
 彼女が残存の盗賊達に紡ぐ言葉は本気だ。逃げるならどうぞ。残るならぶちのめす。
 どちらでも構わない――いや面倒であるので二正面作戦などしたくないが。残るなら存分に相手をしてやろう。
 彼女は多くの団員を引き付けていた。故に傷もあれば流血もある。
 ――それでもその拳には未だ力が宿っているのだ。
 折れぬ意思と、魂も。
「さぁここからは手早く行こうか。知能があるのかないのか知らないが、彼に加減をする気はなさそうだ――遺跡を壊されたら堪ったものじゃないからね!」
 同時。戸惑っている盗賊達を無視してゼフィラの号令がイレギュラーズ達を覆う。
 それは彼らに纏う負の要素を取り除き、活力を与える戦場の瞬き。
 土塊達の警戒も必要だが――まずはアトラースだ。
 奴を一刻も早く倒さねば戦場が崩壊する。そしてそれはこの遺跡が潰れて無くなるという事。
 耐えがたい! 探求欲疼くゼフィラにとって遺跡が無くなるなど絶対に阻止しなくてはならない事だった。カーバック優先の事もあってかアトラースの傷は土塊達同様にまだ深くないが、あの緩慢たる動きに攻撃を当てるは難しくなく。
「つまり――ええ、大物狩りって奴よね!」
 であればとワルツは乗り気だ。構えし魔力駆動の大口径スナイパーライフル……
 これはこういう大物の為にあるものなのだから。
 如何に堅牢であろうと打ち崩そう。
「いくわよッ……シュ――トッ!!」
 込めた魔力がライフル内にて超収束し――放つ。
 それは一筋の雷が如く。全てを焼き尽くす、天の一撃。
 アトラースの額部に直撃する。激しい一撃が物理の耐性を貫いて、神秘たる絶技にて蝕もう。
「ええい、ですがやはり一撃で片付く程柔くはありませんか……!
 しかし! よく言うじゃあないですか……当たらなければどうと言う事はありません、と!」
 直後に駆け抜けたのはすずなだ。
 彼女もまた、遺跡そのものが危険である事を分かっている。なにせアトラースの巨体から繰り出される一撃は、近くの衝撃波を受けるだけでも――相当な『響き』が自らの肉体にも伝わってくるほどなのだ。
 直に受ければ大打撃となろう。しかしそれは当たればこその話。
 余波程度であれば耐えきれる。何を臆すことがあろうか!
 斬り込む斬撃がアトラースの身へと。堅き岩が如き身は刃の通りを悪くする、が。
「岩程度切れずして、遥か高みを目指せましょうか……!」
 通らないという訳ではないのだ。
 ならばより深く、耐性など知らぬとばかりの一撃を。
 その芯を斬り捨てるだけの威力を成せば良し。
「ああ。軽減されても問題ねえ強さでぶん殴りゃあ良いんだろうがよぉ!!
 なにも難しい事なんざありはしねぇ……巨人程度倒せなくて、コイツを背負えるかよ!」
 同じ事を考えるのがルカだ。彼の持つ黒き剣は――かのディルクが所有せし『黒犬』を模した者。
 彼はかつて(経緯と理由はともかく)竜と戦った事もある人物だ。
 その様な人物が扱っている者のレプリカを抱いて。
 たかが巨大である程度の存在に――二の足など踏めようものか。
 防御の上から撃ち砕く。跳躍し、大きく振りかぶった体勢から放つ撃を奴へと。
「――おっと。土塊の連中も来るぞ、警戒しておけ。背後を突かれれば流石に厄介だ」
「残っている盗賊の方に行ってくれると楽なのですが、全てそうとはいきませんか」
 瞬間。己が後ろへと迫っていた土塊に愛無が気付けば迎撃を。
 ヴィクトールもまた傷深き者を庇う動きを見せて――相対する。
 近くで見ればより気持ち悪さを感じるものだ。
 本当になんだこれは……まるでまだ形が定まっていない生命体の様な……
 しかし油断は出来ない。
 注意しておけば直撃は回避しやすいアトラースと異なり、素早く動く土塊達の一撃は細かくも正確だ。半端に凌げる様な勢いではなく、注視する必要がある。
「とはいえ――そうすれば今度は巨人の方ですか!」
 その時、ヴィクトールの直上より降り注ぐのは巨人の一撃だ。
 耐え忍ぶ。
 土塊達が地上で惑わし、アトラースが絶対の一撃を叩き込んでくるとは。
 連携――とまでは言わないが嫌な戦い方をする連中だ。
「……ましてや、見るだけで想起させてくるとは」
 同時。アトラースの衝撃を受けつつも未だ倒れはせぬアーマデルが見たのは土塊達。
 ――思わず名を呼びそうになる衝動に駆られるが、そうはしない。
 名を呼ぶ。或いは問うのは曖昧なものや相手を再定義する儀式に相当する。
 それは……ある種の交霊に等しい。
 呪いだ。
 だから――呼ばぬ。決して。
「《死》の気配の色濃い故郷では、生前の名は死と共に失われる……死者の名を呼べば惑わせるからな」
 正者を、だ。
 恐らくはこれもそういう類の者だろうかとアーマデルは思考し、敵の行動を予測。
 その動きを掌握し――予測の先へと攻撃を叩き込んで。
「…………ええ、過去に囚われる訳にはいきません。今を生きる者は、今を……」
 歩かなければならないのだと、リュティスは紡ぐ。
 盗賊達は頭を失って瓦解している。あとは攻め立てているアトラースをどれぐらいで潰せるか、だ。
 焦りは表情にこそ浮かばぬが――ほのかに心の奥底にある。
 地鳴りが響く度に己が髪へとチラつく土欠片がタイムリミットを教えてくるのだ。
 流石に生き埋めになればイレギュラーズとて必ず無事とはいえまい。
 それは巨人たちも同様の筈だが……魔物が如き連中は己が安全を考えていないような動きばかり。
 それでも、焦りから動きを雑にするわけにはいかないのだ。
 己は守護されている。ヴィクトールなどから、要として。
 そのような己が慌てるなどという蒙昧を――晒せるものか。
「如何なる未来がこの先にあるのだとしても」
 唯今は『現在』のみを見て行動する。
 盗賊団は行かせられない。そして巨人たち如きに邪魔も――されない。
 往く。
 損耗覚悟でアトラースを潰すのだ。全てが崩れれば体力が在ろうと何の意味もないから。
 花丸の拳が空を穿ちて土塊とアトラースへ。リコリスがドローンと共に駆けながら狙撃し、ルカの一撃とすずなの斬り込みがアトラースの外皮を只管に深く深く削ってゆく。
「さぁもうちょっとかな。大分――削れてきたよね」
 倒せる。言いながらリコリスは確信していた。
 威圧感は在れど、無敵の存在などではないのだ。
 土塊達が追い縋る様に迫って来るが、その程度で止まる様なイレギュラーズ達ではない――やがてアトラースの身に、長大な亀裂が走り始めて。

「さぁ速攻・撃破よッ! 目指せジャイアント・キリングッ――!」

 最後の一撃。巨人の鉄槌が血に振るわれんとした時に。
 逃げず退かず立ち向かったのは――ワルツだ。
 一体ずつ確実にその身を撃ち砕こう。スコープ越しに捉える姿に脅威は感じないから。
 引き金を絞り上げる。
 対し、振り下ろされる一撃と交差する形で――その脳天を貫き穿った。
 拳が着弾。ワルツの至近で炸裂し、彼女の身が吹き飛ばされる。
 それでも闘志は衰えず、捉え続けた視線の先には――

 瓦解する、アトラースの姿があったのだ。

「――どーんなもんよ!」
「ワルツ様――お見事です。後は土塊達、を……」
 ワルツの傷は深い。しかし、死ぬようなものでなければなんとでもなろうとリュティスは即座に治癒の術を放ちて。
 同時に、見てしまった。
 土塊を。
 アトラースを撃破しタイムリミットがなくなり、微かに気が緩んだその時に――

「――旦那、様」

 見た姿は、己がかつて仕えていた主の姿。
 その名はキール。キール・クロイツァー。
 自らに。空腹のままに倒れる筈だった己に世界の色を教えてくれた御方。
 どうして、と。しまった、と思ったのはほぼ同時で。
 土塊の一体がぼんやりと『形』を成していく。
「……詠んだな。『ホルスの子供達』を」
 直後、言ったのは盗賊団員に保護されたカーバックだ。
 彼は戦域から抜けるように足取りを進めており――しかし。
「それは土塊……依り代と言うべき存在だ。
 紛い物の土塊の躯に精霊の魂を無理矢理与え――名前という最後の人格を得て人間とする」
「なに……?」
「厳密には出来るのは純粋な『人間』ではないが……これが色宝の果てにある――
 っと。チッ、少し喋り過ぎたな……」
 生かされたという意識が故か口を漏らしたカーバックを余所に、土塊は命を成す。
 それはリュティスのよく知る人物の形に。そして――

「繝ェ繝・繝?ぅ繧ケ窶ヲ窶ヲ」

 よく、分からぬ呻き声の様な何かであったが。
 『彼』は確かに述べた。意味を理解出来た。
 その『彼』は――『リュティス』と言ったのだ。
「まさか――いや、でもこんな危険な奴らを放ってはおけないよ! 全部倒して……!?」
 それでもと花丸が戦闘の意志を示した、その時。
 扉が、ゆっくりと開いた。
 鈍い、地を引きずる様な音を立てながら。
 同時に土塊達は一斉に退いていく。扉の奥へ。まるで帰るかのように。

 その奥から現れたのは――

成否

成功

MVP

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†

状態異常

ワルツ・アストリア(p3p000042)[重傷]
†死を穿つ†
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)[重傷]
懐中時計は動き出す
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)[重傷]
灰想繰切

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 カーバックから狙う戦術はとても的確だったかと思います。もしもアトラースから倒した(アトラースから狙っていた)場合、後々に盗賊団の陣形が整う為かなり厳しい戦況になる事が予想されました。
 皆さんの作戦あっての勝利でした。おめでとうございます。

 それでは、ありがとうございました。

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