シナリオ詳細
<Raven Battlecry>涙欠のソリチュード
オープニング
●
きらきらと。ひかる明かりがテントの天井に揺れている。
キシキシと。痛む傷口をグワギ・ロンゴの指が絞り出すように動いていた。
「アルビノの血は媒介になる。のうジュリア、お前の血は質が良いのう」
ギラギラした目で少女の腕から流れる血をグワギは器に集めていく。
どうしてという声は首の魔法具で封じられていた。
呪術が込められた魔法具はジュリアの身体を楔で覆う。
――言葉を封じ。
――自死を封じ。
――絶対的服従を課す。
呪術封印の魔法具がジュリアの首には嵌められていた。
ただ、命じられるままグワギに血や肉を与えるだけの生贄。
『呪術師』グワギ・ロンゴは白子(アルビノ)を媒介に呪術を使っているのだ。
貧血で意識が朦朧としてきたジュリアは、ゆらゆらと揺れる視界をアルビノの目で見つめる。
起き上がることは出来ず、ぐったりと横になったまま。
どうして。という言葉はもう何度も頭を巡った。
それまでの自分はアルビノだということを気にも止めずに過ごしていたのだ。
家族は優しくて、友達もアルビノだからと特別扱いもしなかった。
普通に過ごしていたはずなのだ。
それがある日。突然、独りぼっちになってしまった。
友達と遊んだ帰り道にこのグワギに連れ去り、魔法具で自由を奪い隷属にした。
なんと腹立たしいのだろう。
どうして自由を奪われなければならないのだろう。
アルビノだったからか。抗う力がなかったからか。
イレギュラーズから奪った願いを叶えるという色宝は偽物だった。
本物だったら、この最悪な場所から解放されるのだろうか。
――その色宝が欲しいか。
誰かの声が聞こえた。
ジュリアの意識は朦朧として視界が覚束無い。この声はグワギだろうか。
――色宝が欲しいか。
グワギの声にも聞こえるし、自分自身の声にも聞こえた。
欲しい。
その色宝が欲しい。
そうすれば。家族のところに帰れるのだ。
帰りたい。帰りたい。家族のところに帰りたい――!
「ぁ……ぐぅ……」
「何じゃ、ジュリア。わしに反抗するのか?」
腕の傷口から血を搾り取るグワギを振り払おうとするジュリア。
しかし、ギリギリと首の魔法具が締まって皮膚に食い込んでいく。
薄く目を開けると、グワギの頭上には邪精霊が召喚されていた。
「もっと血が必要なのだ。この精霊を呪術により使役するにはお前の血が。だから大人しくしろ。なあに殺しはせんさ。お前にはまだまだ利用価値があるからなぁ! ガッハハハ!」
ジュリアから取った血で精霊を縛り付けるということは、契約者の代償を肩代わりするということ。
血で描かれた魔法陣が完成すれば、ジュリアの身体にバチバチと電流が流れる。
「ぅ……!」
「アルビノはこの呪術に耐性をもってるからな。必死に耐えるんじゃぞ。さもないと死ぬぞ」
痛みが全身に駆け抜けて涙が浮かんできた。
耐えがたい苦痛を浴びるなら。いっそ無くなってしまったほうが良いのではないか。
しかし、ジュリアは夢見るのだ。家族のところに帰るという夢を諦めていない。
声が聞こえた――
「いくら暴れても、その魔法具はお前如きの力ではとれん……」
バキリと魔法具が音を立てて地面に転がった。
「な、なにぃ……!? 馬鹿な!? お前何をした!?」
「煩い」
「何じゃとぉ! 口の利き方に気を付け……ぬぅ!?」
「煩いよ。お前煩い」
グワギの首をジュリアの手が締め上げていく。
この男のせいでこんな惨めな思いをしてきたのだ。
ならば、今度は自分がこの男に惨めな思いを与えるべきだろう。
グワギを地面に叩きつけて、顔を踏みつけるジュリア。
「今から、お前は私の隷属だ! 傅いて一切の反抗も許さない! 邪精霊の媒介はお前だ!」
魔法陣の上に投げられたグワギ。
「アルビノじゃないお前はどれだけ耐えられるんだ?」
その日、グワギ・ロンゴは邪精霊の生贄になった。
●
さらさらと砂漠の風が『真心の花』ハルジオン(p3n000173)の髪を抜けて行く。
「今回はちょっと大変かも」
いつになく真剣な面持ちでハルジオンは依頼書を差し出した。
そこに書かれているのは大鴉盗賊団の名前。
ハルジオンの説明を掻い摘まむと、過激化する大鴉盗賊団の強襲の最中、フィオナ・イル・パレストは独自の情報網を駆使し、大鴉盗賊団の『情報』を手に入れたのだという。
「盗賊団はネフェルストの倉庫に集められた色宝を狙ってる」
襲ってくると分かっている盗賊団ならば、防備を固め迎え撃つのが定石だろう。
ネフェルストに立ち入らせることなく、周辺の街や街道で迎撃作戦を行う。
「しかし。そんな重要な敵の情報が簡単に『こちら側』に漏れてくるのでしょうか?」
アリシス・シーアルジア(p3p000397)がハルジオンに尋ねた。
「良い所に気がついたねアリシスさん。そう、おそらくこれは陽動」
この大鴉盗賊団によるネフェルスト強襲には、敵の幹部達は参加していないのだという。
「つまり、ネフェルストにイレギュラーズを集中させて、自分達は他の事をしようと?」
しかし目的は何なのだろう。
アリシスがハルジオンの説明を待つ。
「大鴉盗賊団のボスの狙いはファルベライズの中核っていわれてる」
ファルベライズは外郭と内郭の二層構成であるが、更にもう一層中核となる地下遺跡が存在していた。
パサジール・ルメスのみが立ち入ることが赦されたその場所に大鴉盗賊団のボス・コルボ一行は侵入しようとしている。
「なるほど、だからレーヴェン・ルメスが浚われたのですね」
レーヴェン・ルメスが居なくなったのはそういった理由なのだ。
「皆には色宝を狙ってネフェルストに向かってくる大鴉盗賊団を迎撃してほしい」
ファルベライズ中核は気になるが、ネフェルストに向かってくる敵の迎撃も重要な任務だ。
「でも、気を付けて。皆に迎撃してもらう敵の中に魔種がいる」
「魔種ですか」
「そう。白骨のキジーツと呼ばれた呪いの乙女ジュリア」
「彼女が……」
アリシスは以前ジュリアと交戦したことがある。少女が敵の呪術師グワギ・ロンゴに隷属させられている白子(アルビノ)だと見抜いたのはアリシスだった。
そして、呪術の生贄にされていることも推察した。
アルビノとして生まれてきた普通の少女だったのだろう。
しかし、それが反転し魔種となって、今度はジュリアがグワギを使役しているらしい。
「彼女の狙いは色宝。それは確か。でも、本当にしたいことは色宝を手に入れる事じゃ無いと思う」
逃げ出したい。安らかな所で眠りたい。それはハルジオンにも覚えがあるのだ。
「だから、ジュリアに救いをあげてほしい」
祈るように、ハルジオンはイレギュラーズに頭を下げた。
- <Raven Battlecry>涙欠のソリチュード完了
- GM名桜田ポーチュラカ
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年12月21日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
砂塵吹き荒れるラサ傭兵商会連合首都ネフェルスト。
ザラザラとした砂が靴底に食い込む。
「陽動、ね。小賢しい事をする……なんて、盗賊はそういうものだったわね?」
溜息を吐いた『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)は周囲を警戒している。
「どうあれ、通す訳にはいかないのだけど……私の故郷、あまり荒らされては困るもの。これで結構故郷想いなのよ?」
魔種も居ることだろうし。ついでに楽しませて貰おうかと微笑んだ。
清楚な振る舞いや温厚な態度は大人びた雰囲気だが、その実、内側に戦鬼を宿した戦闘狂。
戦いとあらば身体が震えてくる。獲物を見つける狩人の目で佐那は砂漠の尾根を見つめていた。
「色宝の回収作戦は参加しましたが、あれから大事になってますね。盗賊団の襲撃に魔種も一緒、ですか」
『真心の花』ハルジオン(p3n000173)から受け取った依頼書を思い出し、『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)は拳を握りしめた。
その中に記された『白骨のキジーツ』ジュリアについて思う所が無いわけでは無いのだ。
呪術の生贄にされた奴隷の少女。それが魔種となってしまった。彼女の生涯はいったい何だったのだ。
無情で残酷。ステラは胸が締め付けられる。
「帰してあげる事は……いえ、来るなら倒すのみです」
「この世界の人には反転という『逃げ道』があります。憤怒、悲哀、憎悪、渇望……
奴隷扱いはそういう感情を容易に生み、故にこうなったのでしょう」
ステラの葛藤に『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が声を掛ける。
「アリシスさん」
「仕方が無かった……と言い切るには悲しすぎる事柄です。その心は大切だと思います」
「はい」
それでも戦わなければならないのだ。
「グワギ・ロンゴ……本当に愚かな男」
私利私欲に駆られ、少女を魔種へと貶めた『呪術師』グワギ・ロンゴに呆れと嫌悪を向けるアリシス。
「いわゆる”アルビノ狩り”の犠牲者、だったのでしょうか、彼女は」
「おそらくそうですね。グワギが居た場所では白子(アルビノ)は呪術の媒介として利用する習慣があったようです」
『その色の矛先は』グリーフ・ロス(p3p008615)の問いかけにアリシスが応える。
「世界が違えば、ニアがそうあったかもしれませんし、彼女は平和な一生を送ったのかもしれません。
……全ては仮定ですし、あるのは今、彼女は魔種となってしまったという現実だけ」
自身の出自と重ね合わせ。グリーフは物思いに耽る。
もしもそうであったなら。何度も繰り返してきた押し問答だ。
それが行き着く先は決まってどうしようもない現実だった。
『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)は黒布の下に隠された唇を歪める。
「明らかに陽動、とわかっている上での戦闘か。面白い。陽動は我ら忍もよくやる手だ」
だが。敵の中に魔種が居る。それも訳ありと来たものだ。
魔種になり得るものに所以が無い事は到底ありはしないのだが。
「あの女の子、お家に返してあげられないのかしら……」
腕の中から章姫が不安そうに鬼灯を見上げた。懇願するような悲しいような瞳。
「……難しいと思うよ、章殿」
「なぜ? あの子が魔種だから? けれど、お家に返してあげないと可哀想なのだわ」
「そうだね。それが彼女の運命だったから」
「悲しいわ」
「……さあ、舞台の幕を上げようか」
俯く章姫を一撫でして鬼灯は持ち場に着く。
「悪いのは呪術師なんだろうが、こうなっちまった以上はしかたねぇか……
言い訳をするつもりはねぇ、恨むなら存分に恨みな」
『特異運命座標』ドミニクス・マルタン(p3p008632)がVULGARを構え戦闘態勢に入った。
おそらくもうそろそろ敵がやって来るのだろう。
空気が危険な匂いを乗せてきている。
「ああ、そろそろ来るぜ。そんな感じがする」
ドミニクスの声に『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は気を引き締めた。
「陽動部隊の迎撃ね……陽動とはいえ、隙を見せれば色宝の奪取や略奪も行うだろうし、気は抜けないよね。それにすぐ近くにも街があるし、不安に思う人達を守る為にも頑張らなきゃ!」
スティアは拳を握りしめて気合いを入れる。
物陰から殺気が立籠めてきた。
「大勢で叩けば宝を奪取できる、なんて随分と舐めた考えなのではなくて?
ラサにはイレギュラーズだけでなく、戦い慣れた傭兵もいますのに」
『嘘に塗れた花』ライアー=L=フィサリス(p3p005248)は月光の妖精達を纏う。
「ファルベライズの中核に向かっているという盗賊たちはイレギュラーズのどなたかが対応なさるでしょうから、私たちはここでしっかり足止めしなくてはね」
ライアーの声に頷いたスティアは見晴らしの良い場所に上がり、敵影を視認する。
「来たよ――!」
スティアの甲高い声がネフェルストへ続く街中へ響き渡った。
●
「魔種は余裕がない限りは撃退に留めておきましょう」
佐那の声にイレギュラーズは了解したと頷く。されど、それに一番納得していないのは佐那自身だ。
戦鬼の血が騒ぎ立てる。だが、ここは。
「……方針だからね。まぁ逃げられたとて、いずれ邂逅する機会はあるでしょう。無論、逃げないつもりならとことんやらせて貰うけれどね?」
そう。向こうがむかってくるのならば、斬ることができる。
佐那にとってはそっちの方が都合が良いとさえ思えた。
剣が盗賊の初撃を捉える。
火花を散らしながら剣が交差すれば戦闘開始の合図だ。
雄叫びを上げながら迫ってくる盗賊と佐那は切り結ぶ。
敵の胴に傷が走り、そして佐那の腕にも血が流れた。それを見た佐那は楽しそうに笑う。
「はは。こうでなくちゃ。面白くない」
弱い雑魚を切り伏せるだけでは、面白みに欠ける。
戦闘は血肉躍る場所でならなくては。戦いの幕が切って落とされた。
「砂嵐の恐ろしさは貴殿らがよく分かっているだろう? 其の儘傅いて地に伏せろ」
「人の物を盗っちゃダメなのよ? 知らないの?」
熱砂の精を呼び覚ました鬼灯は盗賊へと照準を向ける。
重く殺意を孕んだ砂の嵐が盗賊の頭上に降り注いだ。
「うわぁ!」
「くそ!」
高温の砂が盗賊団を襲う。砂嵐が吹いたように視界を奪われ立ち尽くすしかない。
その鬼灯が作り出した隙を狙い、スティアが前に出て行く。
グワギとジュリアを抑えるためだ。
「皆が大鴉盗賊団を倒しきるまで時間を稼ぐんだ!」
持ち前の耐久力で前に進んで行くスティア。
死角の無い場所で戦闘を始めたイレギュラーズは苦戦を強いられた。
原罪の呼び声に誘われた盗賊達の狂気は、予想よりも遙かに生々しく。
まるでゾンビの様にイレギュラーズに襲いかかった。
グリーフの左胸部のコアに誘われた盗賊団は思惑通り引き寄せられる。
「精霊に認められて手に入れたあの色宝の輝きには劣るかもしれませんが」
その身に宿した防御衝撃は何人の攻撃を寄せ付けない。
そして、グリーフは決して倒れる事の無い無敵の盾であった。
「あなたはとても強いんだね」
敵にしてみれば、グリーフの盾は脅威であったのだ。普通の盗賊団だったならば百人力の頼もしさ。
しかし、攻撃の効かない相手に対して執拗に剣を向ける道理は無い。
「だったら、他の人を叩いた方が賢明かな。グワギあっちに攻撃を」
グワギは後衛に居るドミニクスへと狙いを定める。
呪術と精霊の力を組み合わせた大威力の魔法が戦場を突き抜けた。
命の焼ける匂いが立籠める。
血を吐き出して可能性の箱をこじ開けたドミニクスは仕返しとばかりにグワギへと弾丸を打ち込んだ。
ドミニクスとグワギの射線にお互いの魔力と弾丸が炸裂する。
「何よりも優先すべきは、この場を突破させない事」
アリシスは盗賊達をグリーフと分担し引き寄せながら、先ほどの攻撃の応酬を分析していた。
「やはり、指揮能力が高いのでしょう」
「厄介だね」
考え無しに剣を振るうだけの盗賊ならば御しやすいけれど、優秀な指揮官が居れば話は別だ。
歩兵が金になりうるのだとアリシスとスティアは眉を顰める。
スティアはグワギの前に立ちはだかりドミニクスへの攻撃を少しでも逸らした。
「ほお。仲間思いだなぁ。だが、もうヤツは立ち上がれまい」
地面に伏しているドミニクスにスティアは唇を噛みしめる。
グワギに幾弾かの攻撃を浴びせられた事は行幸だっただろう。
肩から血を流しているグワギの動きは鈍くなっている。
されど、盗賊の数も減っておらず、ジュリアは健在だった。
「短期決着に持ち込みたかったのですが」
ステラはギリリと歯を食いしばる。
見晴らしの良い地点での迎撃は功を奏しただろう。
ステラの予期した複数方向からの襲撃を防げた事は行幸だった。
しかし。点在するターゲットとグワギの射線を避ける作戦は混戦の中の隙を作ることになる。
避け得なかった膨大な質量の火力はステラの腹を焼いた。
「今、回復します」
アリシスはステラの傷を癒す。
「ありがとうございます」
口から出る血を手の甲で拭ってステラは走りだした。
自分に出来る事はグリーフやスティアの様に耐えることではない。
アリシスの様に臨機応変に手を変える事でもない。
力の限り剣を叩き込む。それだけだ。
この背に守るのはネフェルストの人々。負けられないのだ。
自分の領民が自分を頼りにしてくれるように。ネフェルストの人々はイレギュラーズであるステラ達を頼りにしてくれている。それに応えるのは世界の救世主たるステラ達の義務。
「だから、負けられません!」
気迫を纏い、ステラは盗賊に剣を振るった。
――――
――
ライアーは戦場を見渡す。
自分達が見晴らしの良い場所を選んだ事で街への被害は少なくなっているだろう。
盗賊達の数も確実に減らす事が出来ている。
しかし、イレギュラーズの被害も大きくなっていた。
特筆すべきは盗賊の凶暴化。呼び声に晒され続けた盗賊は未だ魔種とは成っていないが、命を省みず攻撃を繰り返してきたのだ。
汗がライアーの背を伝っていく。
「ねえ、貴女はどんな思いで反転したのかしら」
ライアーはジュリアへと声を掛けた。少しでも気をそらせる為だ。
「家族の元へ帰りたいのなら帰ればよろしいのではなくて?」
「この色宝が手に入ったら家族に所に帰れるの! だって願いが叶えられるんでしょ!」
「本当に帰れると思っているのかしら?」
ライアーの言葉にジュリアは動揺する。この色宝は願いを叶えるのだから家族の元へ帰る事が出来ると思っていた。けれどそうではないのか。
「戯言に耳を傾けるな。ジュリア、色宝を手に入れるのだ」
「煩い! お前が指図するな!」
ジュリアはグワギの言葉に激昂し彼を縛り付ける隷属の印を強める。
「くそぉ!」
グワギの身体が精霊に侵食されていくのが分かった。
憎悪に満ちた殺意がライアーに向けられる。
「……こうなってしまっては哀れですわね。この人が人であったときのこと、私は存じ上げませんけれど」
放たれた攻撃にライアーの身体が包まれた。
「逆に自分が儀式の贄にでもされましたか。見た所、もはや精霊に魂すら喰われているようですね。
――その罪深き残骸、精霊諸共祓って差し上げましょう」
アリシスの声が砂に舞い上がる。
光を束ねた剣を振るい、断罪の秘蹟がグワギへと突き刺さった。
●
満身創痍という言葉が正しいのだろう。
佐那は視線を動かしてグワギとジュリア、それに戦場全体を見る。
戦場となった広場には夥しい血がまき散らされて居た。
それはイレギュラーズのものであり、盗賊団のものでもあった。
彼等は狂気に侵され、暴走する獣のようにイレギュラーズへ食らいついたのだ。
ドミニクスとライアーが倒れ、ステラも息絶え絶えに伏せていた。
特にステラの猛撃とグリーフの盾が無ければ、今よりももっと被害は大きくなっていただろう。
命を守る事への代償は大きかった。
佐那とて例外ではない。
「いずれにせよ、グワギとジュリアは危険な敵。片方が魔種である事を抜きにしても、妙な術を使うという事もあるし……」
耳を研ぎ澄ませた佐那がぜぇぜぇと息を吐いた。
「まぁ、そんな敵だからこそ。心が躍るというものだけれどね?」
「小賢しい小娘が!」
「はっ! そんな小娘にやられてるのは誰だよ!」
佐那は決死の覚悟で一歩前に踏み込む。
この太刀はグワギの命を奪うには足りないのかもしれない。惜しい。実に惜しい。
けれど、佐那がグワギの隙を作り出す事で、仲間の攻撃が繋がるのだ。
「今だ――!」
「任せろ」
佐那の影に隠れて鬼灯が姿を現す。
その手に輝く闇の月がグワギを捉えた。
研ぎ澄まされた狙いは闇月を落とし。グワギの命を精霊共々食らい尽くした。
「私には貴女の過去を否定はできませんし、滅する力もありません」
グワギと邪霊を討伐することは出来た。だが戦場には最大の脅威が残って居る。
ジュリアの前に立ちはだかったグリーフは彼女の邪魔をするようにステップを刻んだ。
「ただただ耐え、貴女の声に傾聴することしかできません」
「そこをどいてよ……色宝を手に入れないといけないんだから」
「色宝を得たいのなら、私達を倒して行く事ですね」
グリーフの後ろからアリシアの声が聞こえた。
「貴女の今の言葉・願いは反転したもの。貴女が帰れば、家族も魔に堕ちます」
「そんなこと無い。私はただ、家族のところに帰りたいだけ。殺したりしたいわけじゃない」
グリーフの胸に掴みかかるジュリア。グリーフよりもずっと小さい手。子供の手。
その手を掴んで抱きしめる。
「やだ。離して! やだ!! 帰るんだから!」
暴れても攻撃されてもグリーフはジュリアの身体を抱きしめたまま。
願いは魔を人に戻した例はないけれど。魂を家族の元に送る事はできるのだろうか。
グリーフはジュリアを抱えたままそんなことを思った。
「――今の貴女を、生きて帰らせる訳には行きません。貴女の故郷の方々の為に」
アリシスはグリーフの身体ごと光を放つ。
先日救えなかった故のこの始末。責任があるからと唇を噛みしめた。
「これで終わりにしましょう」
「嫌だ! 私は家族の所に帰るの!」
グリーフの腕の中から膨大な魔力が溢れ出す。
アリシスの放った光と拮抗するように押し返す力。
双方の魔力は膨れ上がり、光と砂嵐が辺りを包み込んだ。
全てを飲み込む爆煙は、首都ネフェルストに居ても見えたという。
――――
――
「色宝……、ようやく手に入れた。これで――」
帰る事が出来る。安寧を手に入れることが出来る。
ジュリアは手の平サイズのアクアマリンの色宝を手に取り嬉しげに微笑んだ。
光りと砂嵐が晴れた。
イレギュラーズが気付いた時にはジュリアの姿は無かった。
撃退したのではない。ネフェルストへの侵入を許したのだ。
保管されていたアクアマリンの色宝を一つだけ盗んでジュリアは何処かへと消えたのだそうだ。
ネフェルストに人的被害が出なかったのは、イレギュラーズが彼女を人として扱ったからなのだろう。
まだほんのかすかに、ジュリアらしい意思が残されていたのかもしれない。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
激闘だったと思います。
MVPは奮闘した方にお送りします。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
桜田ポーチュラカです。
初Hard魔種戦です。よろしくお願いします。
■依頼達成条件
ネフェルストの防衛
魔種の討伐または撃退
■フィールド
ネフェルスト近郊の街。
日差しがあるので視界に特に問題は在りません。
■敵
『白骨のキジーツ』ジュリア
儚げで綺麗な少女に見えます。全身を覆う黒いローブを着ています。
アルビノとしてグワギの呪術の生贄にされていました。
現在は反転して強欲の魔種になっています。
色宝を手に入れて家族の元に帰りたいと思っています。
指揮能力、ステータス向上付与、回復術に優れています。
攻撃力、HP共に高いです。
『呪術師』グワギ・ロンゴ
邪精霊の依代にされました。
人間の身体をしていますが、中身は化物です。
暴れたいだけのモンスターになっています。
呪術と精霊の力を組み合わせた技を使ってきます。
大威力の神秘貫通攻撃を仕掛けてきます。
『大鴉盗賊団』×12
村長グワギの部下達でした。
現在はジュリアに使役されています。
曲刀やナイフ等で武装しています。
原罪の呼び声の影響下にあります。
敵については<Common Raven>呪いの乙女に出てきますが、読まなくても問題ありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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