シナリオ詳細
悪魔殺しのメソッド。
オープニング
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まずは悪魔を殺すこと。次に、魔女。最後に神を殺すのが、メソッドだ。
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その町を“悪魔”と呼称される生態が襲い始めたのは、最近のことだった。
理由もわからないし、正確な時期もわからないし、その撃退方法がわからなかった。
教会は高名な司祭を送り込んだが、その大方は悪魔の前に無力で、返り討ちにあった。
私の眼前には、そんな悪魔の、一体が居る。
醜い姿だ。
身体の一部は腐り、熱を産み、臭いを巻き散らす。
大まかに云えば、人型。縮尺を三倍にして、つまり縦と横に三倍に大きくしたのが、寸法。
悪魔は、乳房らしき器官が四つむき出しになり、身体の右側半分は獣、より具体的には熊の様だった。左腕は錆びついた巨大な斧と同化していた。
「これが悪魔、ねえ」
上から声がした。隣に立つ“魔女”の声だ。黒い髪は腰にまでまっすぐ伸び、漆黒の喪服に身を包んでいる。背は私より頭二つ分高く、鋭い眼光が、好奇心に満ちてその悪魔を視ていた。
「戦うんですか?」
らしくない魔女の言葉に思わず問いかけると、彼女は「いや」と首を横に振った。
「戦うな、と教会から言われている。それは、“彼ら”の仕事だ」
彼ら? そう首を傾げた私に、魔女は「選ばれた者達さ」と可笑しそうに答えた。
「では、私たちは、一体何をするのですか?」
「彼らは悪魔を倒す力を持つが、悪魔を倒す場は作れない。私はその場を作る」
「私は?」
「お前は見ていなさい」
何を? 二たび首を傾げた私に、魔女はようやく視線を自分と合わせた。
「悪魔殺しとは如何なるものなのか、を」
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イレギュラーズに、教会からの依頼が入った。
内容は教会が“悪魔”と呼称する新生の外敵生態に対する武力的な制圧であって、すでに、教会は武装司祭を投入しているが、効果は薄く、被害が募っているということだ。
悪魔は通常の兵器を概ね無効化する適性があるが、武装司祭による祈り、魔術はその無効化適性を軽減することを、教会は突き止めている。
今回、教会は“魔女”と呼ばれる女性を召喚し、その魔術の発動を担わせている。魔女はその魔術に長けており、彼女の存在下では特異運命座標の攻撃は通常通り被弾するであろうとの観測だ。
悪魔が発生した町は多数の住民に被害が出ているが、既に大方の生存者は退避が済んでおり、その周囲は教会により遮断されている。町の中には、魔女と、その付き添いの二名だけが居る。
教会は信仰上の理由から魔女とは大きく相反しており、実益上の付き合いしか出来かねるため、対悪魔の武装要因は投入しない。一方で、魔女による魔術が消失すれば特異運命座標への危険性が高まるため、彼女の防衛も作戦上重要である。しかし、と教会の人間は続ける。恐らく魔女には特段の気遣いは必要ない、と彼は云った。そして、悪魔を殲滅するうえで、一つだけ遂行して欲しいことがある、とも彼は云った。
「悪魔の心臓だけは、持ち帰ってきてください。腐っていても、何でも構いません」
話がまとまり、教会の男はギルドを去る。
ふと一つの疑問が頭をよぎり、イレギュラーズの一人が男の背中に投げかけた。
「何故、“悪魔に心臓がある”と?」
足を止めた男は、首を傾げながら振り返り、「さあ? 私もそのように伝えろと言われただけでして」と呟くと、そのまま姿を消した。
扉の外からは「神のご加護があらんことを!」と聞こえてきた。
- 悪魔殺しのメソッド。完了
- GM名いかるが
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月13日 22時07分
- 参加人数6/6人
- 相談10日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
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参加者一覧(6人)
リプレイ
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「悪魔が出たの。そう……。それじゃあワタシの、天使の出番なのね!」
そう言った女の蒼色の瞳が凛と輝き、背中に従えた二対の白翼が揺れた。しかし女は、その人形の様に白く細い指を自らの唇にあて、続けて首を傾げる。
「んー……、命を奪うから死神ってのも悪くないわね。
でも、悪魔と戦うのならやっぱり天使でしょ」
繭の様に艶やかな、黄金色の長髪を揺らす美女。エンジェル・ドゥ(p3p009020)は口の端を吊り上げながら、美しい満月を見上げた。
「……しっかし、なーんか妙だよな」
靴の紐を締めなおしながら『レディの味方』サンディ・カルタ(p3p000438)が息を吐く様に呟いた。
「妙?」
『ハニーゴールドの温もり』ポテト=アークライト(p3p000294)が訊き返すと、サンディは首を縦に振る。
「敵は正体不明の魔物とかじゃなくて“悪魔”で、しかも“魔女”や“教会”は心臓の有無と対処の術式を知っている。
魔女と教会に確執があるのは、まだいい。だが、危険性を知りながら、戦闘部隊“だけ”は出さない」
サンディの指摘に『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)も首肯し、口を開く。
「正体不明の敵にしては、少し、詳しすぎるような気がしちゃうよね……。
悪魔と呼ばれているけど、なんだか元は人間だったんじゃないか、って思えちゃう」
スティアの一歩踏み込んだ推測に、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は目を細め口を開く。
「天義の町が襲われている事は見過ごせないけれど、なんだか引っかかるのよねぇ。
まさか、“悪魔”は作られた存在……なんて、考えすぎかしら」
「違和感、疑問は尽きませんが……。
何にせよ依頼として受けているからには、それをこなしてから考えることにしましょう」
『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)がアーリアの言葉を受けながら話を切り上げた。
「ふん、まるでなんかの劇をやらされてる気分だ。
ま、役者ってのもたまにゃー悪かねぇよな!」
そう言ったサンディは、地面を蹴り上げて宙へ飛ぶ。その視線の先には、町を囲む教会の武装司祭たちが焚く無数の火が、揺らめいてた。
●
中央広場へと急行したイレギュラーズの視線の先には、事前情報の通り、三つの影が確認できた。
「これが悪魔、か。正直、そんなものが存在するとは思えないが……。
例えそれが本当の悪魔でも、或いは作られた存在であるとも、ここで止めてみせる!」
そう言ったポテトの眼前には異形の“悪魔”。一つ目の影だ。
腐り堕ちた巨躯。
瞳に光は無く、其処に意志があるのかも分からず。
理解できたのはその両腕に一面にこびり付いた血液。
酸化され黑くくすんだ血液が、悪魔に真実の敵意があることを教えてくれた。
「私たちは、本件の対処のために参りました。
……あれが“悪魔”と呼ばれるものなのですね」
クラリーチェが言いながら見つめたのは二つ目の影。
「返事は求めません。貴女が、魔女ですね」
長身を漆黒の喪服で包んだ美女。
曰く、魔女。
「初めまして、“クラリーチェ”。お気遣いどうもありがとう。
と云っても、なあに、私にすべきことはその殆どが既に終わっている。
あとは、貴方たちの仕事が終わるまで、私はこの町に居るだけでいい」
魔女は穏やかに微笑みながら言ったが、クラリーチェは僅かに動揺していた。
まるで旧来の友人の様に、魔女が自然に自身の名を呼んだからだ。
「一先ずは貴女の術式の御蔭で私たちが全力で戦える。そのことに礼を言おう。
付き添いの娘に、怪我はないか」
ポテトが軽く頭を下げると、次いで三つ目の影。魔女の付き添いの娘だ。
「礼を言う必要など無いさ、“ポテト”。それは本来、教会が言うべき言葉さ。
レテ、お前、怪我などしてないだろう?」
魔女は付き添いの娘――レテ――に振り向くと、レテは「はい」と頷いた。
「レテ……さんは、こちらの方の傍にいてくださいね。
貴女が狙われないように気を付けますから」
クラリーチェが言うと、魔女は笑った。
「あまり過保護にしないでやってくれよ。その子には、今日の事は見せてやりたくてね」
「あんまいい趣味じゃねーなそれ! ま、人様の事をとやかく言う心算はねーけど、さ!」
ポテトがサンディとスティアに強化術式を施すと、サンディは颯爽と悪魔の元に駆ける。
「まずはこの悪魔を倒すことが先決だね!
これ以上の犠牲者を出すわけにはいかない、此処で必ず止めるよ!」
スティアがサンディと同時に悪魔へと接敵する。この二人が、前衛として機能する。
「Dude、月が綺麗な夜ね! 明るくて……逆にこわーいことが起きるかも。ねぇ、デビルさん?
ワタシは貴方を天に送る命を受けた天使。――それじゃ、お命頂戴な」
「ふふ、こう見えて私も魔女の嗜みがあるの。悪魔殺しは任せてちょうだいなぁ」
不敵に呟きながら髪をかき上げたエンジェルと、魔導書を構えるアーリア。そしてクラリーチェは、悪魔からやや距離を取って布陣した。ポテトは前衛陣・後衛陣の様子を見ながら、それらが補助・回復の範囲に入る様に立ち位置を変える流れだ。
●
「さぁて、悪魔さん」
最初にアーリアの翠緑の瞳が、悪魔を捉えた。
菫色の髪を揺らし、アーリアが瞬きを一つ。
瞬間。
その虹彩は、琥珀色に変わっていた。
アーリアの視線が、悪魔を射抜く。
現出した魔眼は、悪魔を貫き――。
「まずは甘い蜂蜜酒の蜜の罠をどうぞ?」
「……!」
悪魔の腐りかけた表情が変わった。体躯を駆け巡る毒と削がれた耐久性に顔を顰めると、悪魔は咆哮する。
「アアアアアアア!」
悪魔の口は、糸の様なもので縫い付けられ、そこから漏れだす濁った音だけが町に響き渡る。
悪魔は巨大な右腕を振り上げて。それを、前方に大きく振るう。
「……っ!」
極めて単純な動作。しかしその威力と速さは、予想以上の熾烈さを物語っていた。
激しい衝撃音が町に鳴り響き、大地が揺れる。
思わず顔を歪めたスティアは、自身の周囲に構築したサンクチュアリでその悪魔の一撃を受け止めていた。
「……なるほど。これだけの威力なら、教会が二の足を踏むのも分からなくはないね。
だけど、私たちを敵にしてしまったのが間違い」
スティアは悪魔の右腕を弾き返すと、そのままセラフィムを構える。
「凍てつき。散りなさい」
蒼い風がスティアの髪を揺らし、刹那。
眼前には、悪魔を覆いこむ――氷結の花。
パリン、とその花が割れる。一つ、二つ、三つ四つ五つ、――やがて無数の氷片が花弁となり、悪魔の身を削いだ。そしてその反動でスティアにも痛みが走る。だが、悪魔の敵意がスティアへと注がれた。
「へ、お膳立ては完璧じゃねーか!
――おい、魔女さんよう。俺はレディの味方なんだ、こっから暴れるから少し下がってな!」
「ふ、よく弁えているではないか“サンディ少年”。
その可愛らしい紳士さに免じて、場を譲ってやろう」
魔女が恭しくサンディに一礼すると、五歩下がった。サンディはその魔女の様子に、にいと口の端を吊り上げた。
「傲岸だけど、美人だから許す!
だが悪魔。――てめーは倒す!」
サンディが軽やかな足捌きでスティアとは別方向に回り込み、そのまま魔力を帯びた拳を撃ち込む。
(心臓は取って来いと云われてるからな。別の場所を狙ってみるか)
敢えてサンディは、悪魔の左腕、即ち斧と同化した方の腕を穿つ。が、
「アアアアアアア!」
「――思ったより、やるじゃん!」
悪魔は左腕を大きく振り払いサンディの打撃を相殺する。そして、その鈍く錆びついた巨大な斧を、何度も何度も狂ったようにスティアのサンクチュアリへと振り下ろした。
「っ……!」
ギルド・ローレット内でも最上位クラスの堅牢さを誇るスティアと云えども、その攻撃に顔を歪める。
「あら、何がそんなにご不満かしら、デビルさん?
さあて。不吉で、息苦しくて、毒を含んだステキな天使の魔法をかけてあげるわ、ハニー」
エンジェルの放つ花の香りは、やがて死者の怨念のとなり、その禍々しい魔弾が激しい音と共に悪魔へと着弾する。
「グ……ガ……!」
悪魔の全身に、その身を苛む呪詛の数分のダメージが走る。悪魔がスティアへの攻撃の手を止めると同時に、
「こちらの教会がどんな教義であるかは存じ上げませんが。
悪魔とは、滅されるべきもの。それは、信仰における理です」
エンジェルが作り出した悪魔の隙を、クラリーチェは決して見逃さない。
静謐な鐘の音が響き渡る。
増幅された彼女の魔力が。
闇は嗤う。
鈴を転がすような声で嗤う。
黒いレェスの向こう側でころころ嗤う。
それは捕まったら、動けない。
身体を守る鎧も溶け落ちてしまう呪い。
『お友達、みぃつけた』。
――直後。
悪魔の頭が、爆ぜる。
醜くしゃがれた叫び声が、今までと違って――、クリアに聞こえた。
ポテトがその視線を悪魔へ移す。
悪魔の口を縛り付けていた糸が解れ、悪魔は口を開いていた。
「一筋縄ではいかない、か。それでこそ、出張ってきた甲斐がある」
ポテトがタクトを振るうと、神聖なる救いの音色が戦域を覆い、味方の傷を癒す。
「だが、天義の国で好き放題させてやれる程、私も甘くないものでね」
●
誰にも気づかれないように、一人の男が、建屋の影から交戦を眺めていた。
“魔女と相反するから”と、その戦力を出し渋る教会。彼らが悪魔の心臓を欲している理由。
悪魔の力を押さえるだけの実力を持ちながら、自らは戦わない魔女。彼女が付き添いの少女――レテを退避させないのは、何故か。
「分からないことだらけですね……。しかも」
言葉を其処で区切って、男の視線はクラリーチェへと注がれる。
彼の名は、エドアルド・“カヴァッツア”。生き別れた、クラリーチェの兄だ。
とある密教集団に属する彼は、此度の悪魔騒動と教会の動き。――とりわけ魔女の動向を探りに、ここまで来ていた。クラリーチェは兄が生きていることを知らない。しかし、エドアルドは、とある切欠で妹がローレットで活躍していることを、突き止めていた。
クラリーチェを眺めていたエドアルドは、しかし。
「――――」
魔女と視線が逢った。
その口元に、魔女は。
――張り付いた笑みを浮かべていた。
●
悪魔はその巨躯に似つかわしくなく、機敏にその立ち位置を変えた。そして、その攻撃は普通の人間で言えば三倍以上の射程を自ずから発現するため、悪魔を抑え込むことは、存外に困難だった。
「ホントは心臓にバーン!といきたいところだけど、あいにく今日のワタシは、恋の天使じゃないからね……」
禍々しい魔弾を惜しみなく放つエンジェルが、そんな悪魔の動きを牽制する。 エンジェルは悪魔の頭部を狙い撃ちしているが、脳の様な器官が稼働しているかは、まだ分からなかった。
「いくぞ、スティア!」
「うん!」
最前衛のスティアの大量消耗は、特に激しい。そこをカバーするため、ポテトが一時的に悪魔の攻撃を代わりに受ける。
「スティアが倒れれば陣形は一気に崩れるからな。回復の時間稼ぎくらいしか出来ないが……!」
「療術は、お任せください」
ポテトが悪魔の壮絶な剣戟を受けとめると、クラリーチェが両手を組み天に祈る。顕現する天使の福音は、傷ついたスティアやサンディらの傷を塞いでいく。
「ありがとう! それにしても、敵も固いね……!」
スティアが礼を言うと、再度前衛に戻り、ポテトは後ろに下がる。
「これだけ呪詛塗れでここまで動くだなんて、確かに予想外ね。
――なら、私にも考えがあるわぁ」
アーリアは虚空を指でなぞる。
それは紋章。
やがて結ばれた印が、結実して呪いへと生まれ変わる。
現れたのは、空間の。
――裂け目。
「いてらっしゃいな。“月の裏側”へ」
「アアアアアアア!」
言い終わった、刹那。
悪魔の体躯は消失と現出を一往復して、
「アアアア―――ガアガガガギギギ」
その身を激しく捩じらせると――全身から血液が噴出。
「あら! デビルさん、痛そうね」
エンジェルがくすくすと感想を漏らすと、アーリアはその手を止めずに、今度は朱き花吹雪を悪魔へと吹き込む。
「――今よ!」
悪魔の動きが拘束される。
その隙にポテトとスティアが悪魔の両足を斬り。
クラリーチェとエンジェルが放つ魔弾が悪魔の両手を穿つ。
「これでおわりだ、悪魔!」
サンディが悪魔との間にある射程を殺す。
大きく振り被り、突き出す至高の一打。
それは、今作戦における最高火力の一撃であり――。
「墜ちろ!」
拳戟が、悪魔の頭を貫く。
ぽたり、とサンディの腕を伝う、一滴の血液。
サンディは一縷の迷いも無く勢いよくその腕を引き抜く。
項垂れた悪魔の頭部から、次の瞬間。
上下に噴水の如く血液が噴出。
――そこで悪魔は、漸く機能を停止した。
●
「……やった、か?」
ポテトが活動を停止させた悪魔の様子を確認しつつサンディへ視線を遣ると、「たぶんな」と悪魔の血液で塗れた腕を拭き取っているサンディが頷いた。
「悪魔って、死んだら何処に行くのかしら? 天国? 地獄? 其れともまた別の場所?
今夜のワタシは天使だから――せめて天国に逝かせてあげたいわ」
つんつんと悪魔を指でつつきながらエンジェルが言う。
「心臓は返してあげられないけどね」
スティアがエンジェルの言に続けると、アーリアが懐からナイフを取り出す。
「……さあて、ここからが本題ね。
私の習い立ての医療技術、まさかこんなところで役に立つなんて」
そういったアーリアの手は、僅かに震えていた。
(実践は初めてで……本当はすごく怖い)
アーリアのそんな心中を察するかのように、クラリーチェがアーリアの腕を優しく撫ぜる。
「私もお手伝いをしますね」
その様子にサンディががしがしと髪をかき上げる。
「……あー、見てらんねーぜ。俺も手伝ってやるよ。こいつの身体の向き、こっちでいいか?」
「ワタシは復活して暴れ出す……みたいなことがないように、警戒しておくわね」
サンディに続いてエンジェルもフォローに入る。
アーリアの手の震えは、何時しか収まっていた。
「……ありがとう、皆。そうね、女は度胸! やるわよ!」
覚悟を決めたアーリアは、ナイフの刃先を悪魔の胸元にあてる。
そのまま皮膚をなぞり、開胸。
眼に飛び込んでくる生々しい光景に喉に込み上げるものを感じるが、それを何とか飲み込む。
ポテトが背中を擦ると、気分はだいぶマシになった。
(……普段魔力で攻撃する私は、血肉の感触や命を奪っている実感は薄い)
腐敗した内臓を切り開き、辿り着いたのは巨大な心臓。
(……でも、戦うってことはこういうことなんだ)
アーリアは傷つけない様に、心臓だけを切り取る。
「……何か外部からの処置がされてないかも、調べるわね」
「うん。魔術の痕跡がないかも確認するよ」
アーリアの言にスティアもそう言って首肯する。
(何かの実験に使われたのか、それとも何かの媒体にされちゃったのか……。
きっと何かのきっかけで悪魔になったと思うんだよね……)
●
殺された司祭たちは、その魂が安らかに眠れますように……。
眼を閉じ、犠牲者達を追悼していたポテトは、周辺に存在する精霊を使役する。
「精霊たち。この淀んだ空気を浄化しておくれ」
実態の見えない協力者たちは、悪魔の死体から漂う腐敗臭と、辺りに立ち込める邪気を吹き飛ばす。
「漸く、深く息が吸い込めるな。さて、祝杯というには聊か貧相ではあるが、よく冷えた水がある。
まずは、悪魔の撃退を労おうか――魔女」
「気が利くな、ポテト。……うん、美味い水だ。こんな不愉快な夜には、ピッタリの祝杯だ」
「あまり気持ちのいいものではありませんが、一件落着でしょうか?」
クラリーチェが魔女に問う。
「ああ、そうだろうね。
ほら、終焉の匂いを嗅ぎつけて、司祭共が集まって来たよ」
町を囲んでいた教会の司祭たちが、イレギュラーズのもとへ歩いてくる。
皆、悪魔の死体に目を顰め、その光景を心底嫌そうに見遣った。
そして、それと同じくらい、不遜な視線を魔女へと向けた。
「これが、悪魔の心臓だ」
サンディが、アーリアから受け取った心臓をクラリーチェの用意していた麻袋に入れ、司祭に引き渡す。
「どうしてこんなものが必要なの?」
スティアが司祭に問いかける。司祭の顔が一瞬歪んだが、直ぐに表情を作り替えた。
「今後、同様の事象が発生した場合の対策検討を、と思いまして。
この度は、どうもありがとうございました」
言い終わりそそくさと場を離れようとする司祭の背中に、
「――“その石”、お前達には扱いきれないぞ」
微笑みを浮かべながら魔女が投げかける。ぴたり、と動きを止めた司祭は、忌々し気な視線で魔女を振り返った。
「不遜で卑しい魔女め。貴様は黙っていろ。
……空気が汚れる、さっさと此処から失せるがいい!」
「そんな言い方って……!」
「別にいいさ、レテ。言わしておくがいい」
魔女が食い掛るレテを抑えると、司祭は目を細めて踵を返し、姿を消した。
「……それにしても、心臓があるのに心はないって不思議。
動物も、どんな人でも、況やワタシにさえもあるのに――なんて。
そう思ったのは、ワタシが人型だからなのかしらね?」
「そいつにも心はあったさ。ただ、今はもう見えないだけ」
「ねぇ、魔女さん」
エンジェルの言葉に返した魔女に、アーリアが話しかける。
「“悪魔”ってなぁに?」
その問いに、魔女はふ、と嗤った。
「悪魔とは、教会の教義に反するものと定義されるだろう」
「質問を変えましょう。何故、心臓のことを“石”と?」
クラリーチェの問いに、魔女が今度は声を上げて笑う。
「あれは心臓などではなく、“石”だからだ」
「“石”……って、なに?」
スティアの問いに、魔女は笑いを止めた。
「あれは、」
魔女は、空を見上げる。
「原始の多様性、」
びゅう、と生暖かい風が、サンディの髪を揺蕩わせる。
「――《Petra Deus Ex Machina》(機械仕掛けの神の石)。
君たちが考えている通り、あの悪魔は――創られた存在なのだろう」
●
「アーリア君」
「……? あっ!」
何処からともなく自分を呼ぶ声にアーリアが周囲を窺うと、物陰に隠れるシメイ・シュフォールが居た。彼は、天義で『色々』と動いている。アーリアとも考え方が合致する協力者であって、此度の調査委を依頼していた。
「シメイさん、何か分かった?」
「アーリア君。これはかなり不味いことになるかもしれん」
「……どういうことかしら?」
シメイが目を細める。
「あの武装司祭たちは、――“検邪聖省”の人間だ。
奴らは……《Petra Deus Ex Machina》の封じ込めに、失敗した」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。
6名という限られた戦力の中で、前衛、後衛、療術・支援と全てがバランスよく連携されており、とても有利に戦闘を進めることが出来たと解釈します。その上で戦闘をより有利に進める活躍があった方に、MVPをお送りします。
またEXプレイングがありましたので、リプレイ文字数が通常より多めになっています。
また皆さんの行動によって、下記の事が判明しました。
・ 魔女の付き添いの少女の名は、“レテ”であること。
・ 武装司祭たちの所属組織は、“検邪聖省”と呼ばれる組織であること。
・ 悪魔の心臓は、只の心臓ではなく、《Petra Deus Ex Machina》(機械仕掛けの神の石)と呼ばれるものであること。
・ 検邪聖省は《Petra Deus Ex Machina》の封じ込めに失敗しており、その影響で悪魔が発生していること。
ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『悪魔殺しのメソッド。』へのご参加有難うございました。
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称号付与!
『Comment te dire adieu』エンジェル・ドゥ(p3p009020)
GMコメント
■ 成功条件
● 仮称悪魔を殲滅し、その心臓を入手すること。
■ 情報確度
● Bです。OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、ここに記されていない追加情報もあるかもしれません。
■ 現場状況
● 場所
・ 《天義》にある町です。家やお店などの建築物がほどほどに立ち並んでいます。
● 時刻・天候
・ 夜。晴れており、満月のため、特に装備が無くとも通常は視界が良好です。
● その他
・ 依頼を受け、PCが町に到着した時点からシナリオが開始します。
・ 仮称悪魔はシナリオ開始時、町の中央広場で、魔女と対峙しています。
・ 町には、仮称悪魔と、友軍ユニットである魔女および魔女の付き添いの二名だけが居ます。
● 味方状況
■ 『魔女』
● 状態
・ 背が高く、非常に美しい女性。常に喪服を着ている。年齢・氏名不詳。
・ 魔術に長けており、今回、悪魔に対する防衛術式を町全体に構築したことで、PCの仮称悪魔に対する攻撃への大きな負補正を帳消しにしています。またその術式を維持するため、仮称悪魔を中心とした半径二十メートル以内の何処かに常に居る必要がありますが、PCは特段、彼女に対して気を遣う必要はありません。
● 能力値
・ 戦闘行動には参加しませんが、指示すれば回復魔術程度はしてくれるかもしれません。
・ 能力値不明。ですが、教会の断片的な情報および今回の防衛術式から、高い能力を有すると推測されます。
■ 『魔女の付き添い』
● 状態
・ まだ少し幼さの残る少女で、十代後半とみられます。氏名不詳。
● 能力値
・ 戦闘行動には参加しません。
・ 能力値不明。
■ 『教会』
● 状態
・ 町の周囲を多数の武装司祭で遮断し、仮称悪魔の封じ込めを行っています。
● 能力値
・ 戦闘行動には参加しません。
・ 能力値不明。
● 敵状況
■ 『仮称悪魔』
● 状態
・ 町に現れた人型の敵性生態です。
・ 人間に対して攻撃的であり多数の住民、武装司祭が殺害されています。
・ 心臓は通常の人間と同じ位置に存在します。
● 傾向
・ 一般的な常識、思考能力を有しておらず、理性的な会話はできません。
・ 特異運命座標や魔女たちを目撃すると攻撃を始めますが、視覚だけでなく嗅覚なども用い、敵を見つけ出す能力に長けています。
● 攻撃
・ 巨躯に似つかわしい破壊力と、似つかわしくない機動力を併せ持った攻撃を繰り出す強敵です。
・ 獣の様な右半身から繰り出される拳撃、斧と同化した左腕から繰り出される斬撃など、近接物理攻撃が主になります。腕が長く、射程が比較的広いです。
皆様のご参加心よりお待ちしております。
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