シナリオ詳細
<Raven Battlecry>色宝で若者に未来を
オープニング
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乾いた砂漠を盗賊たちが往く。
砂の色をしたフード付きの外套を羽織った盗賊たちが向かうのは、美しいオアシスの街『夢の都ネフェルスト』。
「もうすくだな」
「ああ、もうすぐだ」
仲間に声を掛けられ、集団でも特に年長の男が頷く。
ネフェルストの倉庫を襲撃し、そこで管理されている色宝を手に入れる――それが彼らの目的だった。
背も高く屈強な、いかにも盗賊といった風情のその男に纏わりつくようにして話しかけるのは、ようやく少年の域を出るかどうかという年頃の二人の盗賊。
「なあ兄貴、今回は俺たちも分け前貰えるんだろ?」
「願いが叶うお宝かぁ。貰ったらどうしようかなぁ」
二人ともそれなりに鍛えてはいるのだろうが男と比べれば頭一つ分ほど背が低く、線も細い。
「お前ら……まだ仕事がうまくいくと決まったわけじゃないんだぞ」
窘める男に二人が答える。
「勿論そんなことわかってるよ」
「兄貴は心配性だなぁ」
「いいからさっさと持ち場に戻れ」
「「はーい」」
別の男に注意され、二人は集団の後方へと戻っていく。その後ろ姿をちらりと見遣り、年長の男が息を吐いた。
まだ経験の浅い彼らはこれまで「痛い目」に遭ったことがない。それ故か、大仕事を前にしてもどこか緊迫感に欠けているように見える。
仲間への信頼だと言えば聞こえはいいが……ある意味まだ純粋な年少者二人の行く末を思い、年長の男は再び息を吐く。
「こんな稼業からは早く抜けさせてやりたいんだが……」
漏れた本音に同意するかのように、別の男が年長の男の肩を叩く。
「色宝が手に入れば、あの二人くらいはなんとかしてやれるかもしれん」
色宝の力など当てにしてはいないが、上手く売り捌けば当座の金くらいは用意してやれるのではないか。
「……そうだな」
その言葉を最後に会話は途切れた。
盗賊たちは、ただ黙々と砂漠の中を歩いていく――。
●
「フィオナさんが手に入れた情報の概要は皆さんもうご存じなのです?」
集まったイレギュラーズを前に、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が問いかける。
フィオナ・イル・パレストが独自の情報網を駆使して手に入れた情報は「大鴉盗賊団がネフェルストへの強襲作戦を計画している」というもの。その狙いの一つは当然ネフェルストの倉庫に集められた『色宝』。
もう一つの狙いは、その強襲作戦に対する防衛に傭兵やイレギュラーズがかかりきりになっている隙をつき『頭領のコルボを初めとする幹部達の別動隊がファルベライズの中核へと向かう手筈を整える』こと。
「ファルベライズのことも気になりますが、ネフェルストの防備も大事なのです!」
集まったイレギュラーズにユリーカが提示したのは、ネフェルスト強襲を目論む盗賊グループの迎撃依頼だった。
近場にあるテーブルの上にネフェルスト周辺の地図を広げ、ユリーカは説明を続ける。
「この盗賊たちはこっちの方角からネフェルストを襲撃するみたいなのです。なので、皆さんにはこの辺りで彼らを迎撃して欲しいのです」
地図の端からネフェルストに向けて動いていたユリーカの指が、ネフェルスト郊外のある箇所で止まる。
「ここはオアシスの外れなのですが、周りに大きめの茂みや砂岩があって相手を待ち伏せるのに丁度いいと思うのです」
普段人の往来がある場所でもなく、無関係の誰かを巻き込む可能性もない。
「盗賊グループの構成はですね……」
言いながら手にしたボードを覗き込むユリーカ。
「ロングソードを持った男が六人と、投擲もできるらしいナイフを装備している男が二人、あとクロスボウ所持の男が四人で総勢十二人なのです」
何か特殊な能力を持っているわけでもない、ある意味ありふれた盗賊の集団である。
「それぞれが訳アリというか……好きで盗賊になった人たちではなさそうなのですが」
流石に個々人の詳細な情報までは手に入らなかったが、彼らにはどうしようもない貧困層の出であったり身寄りがなかったり故郷で迫害を受けて流れてきたりと色々と背景があるらしい。
「でも盗賊は盗賊なのです。戦わずに引いてくれる人たちでもないのです」
ユリーカがイレギュラーズの面々に視線を送る。
「思うところはあるかもですが、ネフェルストの防衛が最優先事項なのです。まずは彼らがネフェルストに侵入しないよう、対処をお願いするのです!」
そう言って、ぺこりと頭を下げるユリーカであった。
- <Raven Battlecry>色宝で若者に未来を完了
- GM名乾ねこ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月20日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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申し訳程度に水気を孕んだ風が吹き、乾いた草の葉を揺らす。
「よし、まずはこんなもんかな」
茨で構成されたバリケードを前に、術符を手にした『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が頷いた。
ここはオアシスの外れ――バリケードの後方には美しき夢の都ネフェルストの街並みが。そして前方には広大な砂漠が広がっている。
「あとはこれに砂を被せて……っと。できればあと幾つか設置したいところだが」
「ちょっと待ってて」
彼の言葉に、『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が目を閉じる。
「精霊たち、いるかしら? 色宝を守るために力を貸してほしいの」
ややあって返ってきた精霊の答えに、オデットはほんの少しだけ難しい顔をしてみせた。
「沢山作っても隠してる時間がないかもしれないわ」
「あら、それは大変~」
おっとりとした口調で言うのは『貯蔵食品の紅茶たいむ』レスト・リゾート(p3p003959)だ。
「錬ちゃんはどこに仕掛けを作りたかったのかしら~?」
「最低あそことあそこ……かな? 変に逃げられないようにしたかったんだが」
錬が指さす先に視線を送り、レストがふんわりと微笑む。
「あの草のあるあたりなら、おばさんの力でなんとかなるかもしれないわよ~」
レストの前に煌く魔法陣が現れる。そこから現れるのは、水の入った如雨露。如雨露の口から水を注げば、砂地に弱弱しく生えた草は瞬く間に大きな茂みへと姿を変えた。
「茨のバリケードなら、茂みの後ろに設置しておけば見つかりにくいと思うの~」
「それなら砂で隠す数も減るし、時間も短くて済むわね」
オデットが頷くのを確認し、錬が他のイレギュラーズに声を掛ける。
「悪い。急いでバリケードを用意するから隠すのを手伝ってくれ」
即座に応じる仲間たち。感謝しつつ、錬は新たなバリケードを築いていく。
「生きる為に仕方なく盗賊稼業に手を染める……ですか」
完成したバリケードを隠しながら、『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)がぽつりと呟いた。
「そうせざるを得なかった、というのはよくあることなのでしょうね」
『しあわせ紡ぎて』ニコル・スネグロッカ(p3p009311)が続ければ、『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)も口を開く。
「貧すれば選択の余地の無くなる感じはこちらでも変わらないものなのですね」
ヘイゼルの郷里でも、それは同じだった。
「理解はしますが、同情は出来ません」
頭を振りながら息を吐くルーキス。
「盗賊は盗賊、と切り捨てる事は簡単なんだがな」
「できればなんとかしてあげたいのよね~」
肩を竦める錬にレストが言い、ヘイゼルも少し考えるような素振りをしながら同意を示す。
(私としては色宝狙ってくる奴は問答無用したい気分なんだけど)
精霊たちから情報を集めながら、オデットは心の中だけで独り言ちた。
訳アリだろうがなんだろうが悪事を働いてきた事には変わりないだろうに。それでも何とかしてやりたいと願う者がいる。
ならば、それに乗ってみるのもいいかもしれない。
(それが人間の面白いところだものね)
オデットの思惑をよそに、仲間の会話は続いている。
「やろうと思えば全員仕留められるとは思うんだよな」
シラス(p3p004421)の言葉は誇張ではない。相手はごくありふれた盗賊、全員を仕留めるつもりで奇襲すれば事はもっと簡単に済むはずだ。
「けど――」
望まぬ悪事に手を染めてきた盗賊たちに「できるならば別の道を」と望むのはシラスも同じ。
「殺してしまうのは、後からでも出来るしな」
●
ある者は茂みの影に、ある者は砂岩の後ろに――身を潜めて盗賊を待ち受けるイレギュラーズの遥か頭上を、レストが召喚した鳥が旋回する。
(来ましたね~)
鳥と五感を同調させていたレストがあたりを見回せば、少し離れた砂岩の後ろに隠れたオデットと目が合った。
どうやら彼女にも精霊から盗賊の接近が伝わったらしい。ややあって、別の茂みの影で透視を使い周囲を警戒していたルーキスにも盗賊たちの姿が視認できるようになる。
ルーキスがレストとオデットに交互に視線を送れば、了解したといった風に二人が頷く。
それに頷き返したルーキスの指がカウントダウンを始め、シラスは自身の思考の一部の自動演算化を開始した。
砂を踏む音が近づいてくる。ルーキスのカウントがゼロになった瞬間、ニコルが真っ先にその音の主目掛けて飛び出した。
「っ! お前は――」
誰何の声より早く、コンバットナイフを構えたニコルが名乗りを上げる。
「ネフェルストには行かせないわよ! さあさあ、お相手頂けるかしら!」
「上等だ!」
色めき立ちニコルに斬りかからんとした盗賊に向けて、砂岩の影から現れたオデットが手を向ける。すると盗賊の足元が突如ぬかるみ、立て続けに吹いた突風が盗賊の体をそのぬかるみの中へと突き落とした。
「ブァッ?!」
泥だらけで凍える盗賊に、レストの放った衝撃波が追い打ちをかける。
集団の後方では、『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)の歌声がクロスボウを携えた盗賊たちの心を惑わせ、その身を苦しめていた。
思わず耳を塞ぐ一人の盗賊目掛けて、側面の砂岩に身を潜めていたシラスが走り込む。すれ違いざまに叩きこまれた手刀をまともに喰らい、盗賊がその上体を大きく揺らす。
クロスボウの盗賊たちを援護しようとしたのだろうか、咄嗟に後方へと体を向けたナイフの盗賊たちにルーキスが迫る。
「あっ!」
気付いた盗賊が慌てて向き直るも、その反応は他の盗賊たちに比べて僅かに鈍い。
「お前ら落ち着け!!」
まだ冷静さを保っていたらしい盗賊が声を上げ、ちらりとネフェルストの街へと視線を向ける――が、それを遮るようにして茨のバリケードが起動した。
「見ての通りアンタらの襲撃は俺らの情報屋が掴んで準備は万端だ。万が一にも成功しない襲撃に未来を掛けられるか?」
バリケードの影から姿を現した錬の問いかけに、冷静さを保ったままの盗賊が返す。
「引けば未来があるとでも?」
多分に諦めを含んだ声だった。同時に、このまま引き下がるつもりがないことを示す言葉でもあった。
「もしも生活に困っているのなら、いいお話があるのだけれど~」
「……信じられないな」
レストの言葉にも盗賊は得物を構えたまま。答えに数瞬の間があったのは、捨てたはずの願いを僅かなりとも思い出したからだろうか。
「では力づくで止まっていただきます」
背後から聞こえきた声に振り返った盗賊の視界に、シラス同様側面の砂岩地帯にじっと息を潜めていたヘイゼルの姿が映る。
「まだいやがったか!!」
言葉に込められた怒りを呼び覚ます力に当てられたか、二人の盗賊がクロスボウを構えたままヘイゼル目掛けて突撃していく。
「何やってる距離を取れ!」
仲間の声は怒りに捕らわれた二人には届かない。ごく至近からヘイゼルに向けて放たれた矢の一本がその腕を掠め、もう一本がほんの僅か横に移動したヘイゼルの顔の脇を飛んでいった。
奇襲を受け、早々にまともな立ち回りができなくなった盗賊たち。その様子に、オデットがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「さぁ、楽しく暴れちゃうわよ。可哀想ね、盗賊さん?」
●
上段から力任せに振り下ろされた一撃を、僅かに体を沈みこませながら頭上に翳したコンバットナイフで受け止める。一度沈み込んだ反動を利用して相手の刃を押し返し、ニコルは誰にともなく問いかける。
「あなた達はどうしてこんなことをしているのかしら?」
戦いに不慣れそうな子を連れてまで――ちらりとルーキスと刃を交える二人の盗賊を見遣りそう続ければ、逆上した盗賊たちがニコルに殺到した。
「黙れ!」
「お前に何がわかる!!」
一人目の刃を躱し、ソニックエイジを発動する。しかし流石に次々と繰り出される刃を全て避けることは叶わない。ある盗賊が力任せに振り回したロングソードはニコルの胴を強かに打ち据え、また別の盗賊が振り上げた刃がその白い肌に浅くない傷を残す。
「治療は任せて~。おばさんがついてるわ~」
顔を僅かに歪めるニコルの傷をレストの調和の力が癒した。ニコルがロングソードの盗賊たちをほぼ一手に引き受けていられるのは、能力の差は勿論だが傷を癒してくれる存在があればこそだった。そして、他の仲間たちも早期に決着をつけるべく的確に動いてくれている。
「ぐあっ」
錬が胸元に構えた鏡から放たれた光線に撃ち抜かれ、一人の盗賊が地に伏した。オデットの操る魔法が、別の盗賊の体力を削り取りその動きを鈍らせる。
「本当にこのままでいいと思っているのかしら?」
ニコルの問いに、レストも重ねる。
「あなた達、本当はこんな事をしたくないんじゃない~?」
「黙れ黙れ黙れ!」
帰ってくる言葉は同じ……しかし、盗賊たちの内心を現すかのようにその攻撃は荒く、杜撰になっていく。
「別に責めたいわけではないのよ? ――ただ」
続くニコルの言葉が、盗賊たちの胸に突き刺さった。
「あなた達はそれで『幸せ』なのかしら?」
目に見えぬ網で目の前の盗賊を絡めとり、その動きを阻害する。あがけばあがくほど獲物を苛む魔力製の切断糸が、動く度に盗賊に出血を強いる。
クロスボウの盗賊を一人縛ると、ヘイゼルはその盗賊と距離を取った。怒りに囚われた盗賊たちが、釣られるようにしてヘイゼルについていく。
そんな彼らに接近し、絶海拳『白浪』を放つクレマァダ。
「ハッ、そんな軽い拳で何が……」
言いかけた盗賊の鳩尾にクレマァダの青白い拳がめり込む。拳に貫手、開手。ごく軽い攻撃の連打に見えるそれは、見た目に反する威力で盗賊たちの体を打つ。
片膝をつく者、殴りつけられた頭を抑え呻く者……図体だけは大きな盗賊たちに、クレマァダは半ば呆れた様な声を出す。
「貴様ら本当に盗賊か?」
奇襲のせいで立ち回りはガタガタ、徒手を舐め碌に殺気もない。何某かの知略があるわけでもない。
……それどころか。
「うわっ!?」
聞こえてきた若い男の声に、片膝をついたままの盗賊がちらりとその目線を動かす。
「この状況でまだ味方の身を案じるとは」
人としては正しかろうが、盗賊……悪人の在り方ではないだろう。
「何を……!」
怒りから解放されたのか、立ち上がった盗賊がクレマァダにクロスボウを向ける。
放たれた矢を躱したクレマァダと入れ替わるように走り込んだシラスの魔力を帯びた手刀が、盗賊の首筋を的確に捉えその意識を刈り取った。
「まだ、武器を収めていただけませんか?」
彼我の力の差は大きく、盗賊たちは数の利さえ失っている。ヘイゼルの降伏勧告に盗賊が返す。
「悪いな嬢ちゃん、クズにはクズなりの矜持ってもんがあるんだよ」
「……そうですか」
ヘイゼルは諦めたように息を吐き、名乗り口上で盗賊たちの意識を改めて自身に引き付けた上で仲間に声を掛ける。
「すみません、後はお願いできますか」
ヘイゼルがそのまま力を振るえば、傷ついた盗賊たちの命まで刈り取ってしまいかねない。彼女の言葉に頷き、シラスとクレマァダはクロスボウを持った盗賊たちを無力化していく。
「本当に向いとらんな、貴様ら」
クレマァダが呟いた。
「そんなことは自分らが一番わかっておろうに……」
「うるせぇ! お前に何が」
「知ったような口を利く我が憎いか!」
一喝するととも掌打を放ち、一人を砂上に沈めるクレマァダ。
「……もうやめておけ、いいから」
●
一人が突き出したナイフをサイドに移動して躱し、斬りつけてきたもう一人のナイフの刃先を敢えて片手で受け止める。
斬りつけてきた盗賊が態勢を立て直す前に、慈悲を込めた一撃をその体へと叩きこむ。
ルーキスの攻撃をまともに受けた盗賊が、背を丸めてゲホゲホと咳き込んだ。
「こ……のっ!」
盗賊たちの中では特に年少の二人。ナイフを扱うその動きも、こちらの攻撃を避ける様も洗練されているとは言い難い。
改めてそれを確認したルーキスの表情が、ほんの一瞬だけ何とも言えないものになった。
理由は簡単、この若年の盗賊たちに少し前の自分が重なってしまったからだ。
(とはいえ賊は賊、御免……!)
心の中だけで謝って、若い盗賊二人と対峙する。
息を合わせるようにしてルーキスに向かってくる二人。そのナイフは幾度もルーキスを傷つけるが、タイミングを見計らいながら飛んでくるレストの癒しの力もあって、その動きを止めることは叶わなかった。
とはいえ手数が多い分ほんの僅かに盗賊二人のほうが優勢か……しかし、それもクロスボウ持ちの盗賊の後処理をヘイゼルとクレマァダに任せたシラスが駆けつけるまでのこと。
ナイフを向ける二人の盗賊に、シラスは僅かに眉を寄せた。
(こんなケチなナイフ握ってる子供相手に戦うのはある意味辛いな)
盗賊たちにしてみれば、最初から勝ち目の薄い戦いだった。なにせ、数の差はあれど並みの盗賊と自分たちではその力に差がありすぎる。
包囲を突破しようにも、錬が築いたバリケードがある。奇襲が成功した以上すぐに一方的な展開になるだろう――シラスの予想はあたり、盗賊たちは一人、また一人と戦いから脱落していった。
クロスボウ持ちは既に全員が落ち、ロングソードの盗賊も……。
「まだやるかい?」
降伏を促すシラスの言葉に帰ってきたのはナイフの一撃。しかし、返す刀でシラスの手刀とルーキスの得物による一撃を立て続けに喰らい、一人が砂地へと崩れ落ちる。
「ディノ!」
残された一人が声を上げる。おそらくそれが倒れた盗賊の名なのだろうが、返事はない。
「お前らよくもディノを!」
「ディノ! エツィオ!」
ニコルと対峙し続けていた盗賊が叫んだ。
「あの子たちが心配?」
オデットの問いかけに、盗賊はきつく口元を引き締める。
「あなたが一言言えば、あの子たちもこれ以上痛い思いをしなくて済むのではない?」
「今が『幸せ』でないというのなら、協力できることがあるかもしれないわよ?」
「そうそう。色宝に頼るよりはこちらのほうが確実だと思うの~」
女性三人の畳みかけるような説得に、盗賊が息を吐く。
「そうだな……だが『けじめ』はつけにゃならん」
得物を構え直す盗賊に、幾人かのイレギュラーズが仕方ないというように首を振った。
――戦闘が終わるまで、もう少し。
●
……しばらくの後。
戦場となったオアシスの外れには、イレギュラーズの面々に叩きのめされた盗賊たちの姿があった。
ある者は力なくその場に座り込み、ある者は砂の上に倒れ込んだまま……一応すぐにでも動けそうな者には枷をつけてはいるが、今のところ逃げようという気はないらしい。
「アンタらの身柄は一度ネフェルストに預ける」
シラスの宣言に、年嵩の盗賊が答える。
「来るべき時が来ただけさ、異論はない……ただ」
視線の先を辿り何を言わんとしているか察したクレマァダが、その言葉の先を制した。
「貴様らが子供にまで罪を負わせるからじゃ」
「そうだな。……だが、置いておくわけにもいかなかった」
返答に、これ見よがしに大きなため息を吐いてみせるクレマァダ。
「まずはその身を清めよ」
貧しさからとはいえ、目の前の男たちが最悪の道を選んでしまったのは紛れもない事実。
「そういう前提で、なんだけど」
ニコルが会話を引き継ぐ。
「ラサの傭兵団とかで働いてみる気はない? これでもそこそこ伝手はあるからなんとかできると思うわよ?」
「ネフェルストで事後処理や復興作業にあたるというのもアリかもしれませんね。ローレットを通じて交渉することもできると思いますし」
ニコルとルーキスが提案する。
「そうね~、うちのホテルでも人手が増えるのは大歓迎よ~。色々なお仕事があるから盗賊ちゃんに会うお仕事がきっと見つかるわ」
レストまでもがにこにこ顔でそう付け加えれば、盗賊たちの顔に驚きが広がった。
「最悪、赤犬に投げればなんとかしてくれるんじゃないか?」
やや考えるような様子の錬に、シラスが応じる。
「だな、生かして働かせるメリットを説けば……」
罰を与えるだけが罪を償う方法というわけではないはずだ――。
イレギュラーズの話を半ば信じられないといった様子で聞く盗賊に、ヘイゼルが話しかける。
「私には伝手などありませんが、盗みなどせずとも旅人として生きる術くらいならお教えできますよ?」
「どうしても行き場がないっていうなら私の領地に来る? 深緑でよければ、だけど」
オデットが誘い、クレマァダも何気ない素振りで別の道を示す。
「海洋国のな。コン=モスカという領邦がある。カムイグラ発見からこちら、大忙しで人足が足りんのじゃ」
次々提示される新たな身の振り方に、目を白黒させる盗賊たち。
「……あんたらも大概お人好しだな」
「依頼は『ネフェルストへの襲撃阻止』だ。それが達成された以上、アンタらの更生を信じたいっていう仲間がいるなら俺はその手助けをするだけさ」
錬の答えに、盗賊が心底参ったといった様子で微笑んだ。
「そうさな……それが許される状況になったら、改めて考えさせてもらうとしよう」
答えるその表情は、まるで憑き物が落ちたかのように穏やかだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
皆様の尽力により盗賊グループのネフェルスト侵攻は無事阻止され、盗賊たちの身柄は一旦はネフェルストへ送られることとなりました。
何らかの判断が下された後、それぞれの道を進むことになるのだろうと思います。
この度はご参加ありがとうございました。
機会がございましたら、またよろしくお願い致します。
GMコメント
初めまして、この度GMとして登録されました乾ねこと申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
こちらは<Raven Battlecry>ネフェルスト郊外での色宝防衛戦のシナリオとなっております。
●成功条件
盗賊グループによるネフェルスト襲撃阻止
●地形
ネフェルスト郊外の砂漠地帯。
オアシスの外れにあたり、ネフェルスト寄りの場所には身を隠せそうな大きめの草の茂みや砂岩が点在しています。
そこより先は見通しの良い砂漠が広がっており、相手の視認、及び戦闘の支障になりそうなものはありません。
●敵の情報
大鴉盗賊団配下の12人の盗賊グループです。
生きるためにやむなく盗賊になった面子ばかり。特に年嵩の面子は盗賊など禄でもない稼業だという自覚があるようですが、残念ながら彼らには戦わずに引くという選択肢はありません。
・ロングソード持ちの男(6人)
そこそこ打たれ強く攻撃力もそれなりにあります。いわゆる前衛タイプ。
ロングソードでの斬りつけや、重みを生かした叩きつけなどを行います。
まとめ役らしき男が混じっていますが、戦力的には他の面子と大差ありません。
・投擲可能なナイフ持ちの男(2人)
他の盗賊に比べて攻撃や耐久は劣りますが、身軽で回避と命中が少し高めです。
攻撃方法はナイフで斬りつけたり投擲したり。
グループの中では年少者で、盗賊としての経験もまだ浅い様子。
・クロスボウ持ちの男(4人)
ロングソード持ちとナイフ持ちの中間ほどの、平均的な能力を持っています。
クロスボウでの射撃攻撃を行います。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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