PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あなたが奏でて、私が歌う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●音楽の邪妖精
 深夜。
 深緑、アルティオ=エルムの迷宮森林。その遺跡を寝床にして身を休めていた新緑の旅人は、軽やかな笑い声で目を覚ました。
 寝袋の周りをぐるぐる回っている妖精がいる。
『ねえ、音楽は好き?』
 音符の形をした魔物たちは、
 ド、
  レ、
   ミ。
 音階をなぞるように、五線譜の魔方陣の上をぐるぐると跳ねた。
 敵対的ではなさそうだが……。
 ここ新緑においては、美しい妖精が旅人をたぶらかす話も枚挙にいとまがない。
 旅人は警戒して、荷物を引き寄せた。
『ここを通りたいのかしら?』
「君たちのすみかとは知らなかった。
そう騒がせる気はなかったんだ。……見逃してもらえるかな?」
『なら、楽器を一つおいていって』
『そうね、楽器を一つ置いていって』
「あいにくだが、俺は吟遊詩人じゃない。楽器なんて持っていないな……」
『あるじゃない、その』
「声が」
 男の声は、目の前の妖精からしていた。
 悲鳴を上げるための声は、もうなかった。
 男は泡を食って逃げ出した。
『あいにくだが、』
『あいにくだが、』
『あいにくだ~が~♪』

 背後から、自分自身の声。男の声だったものが響き渡っていた。

●音楽は好きかい?
「音楽は好きかい?」
 そう聞かれれば、吟遊詩人は迷いなく良く通る声と、その旋律で答えるだろう。
 ああ、好きだとも!
 体の中にはいつも鼓動のリズムが流れている。
 それに、何も歌ったりするだけが音楽じゃあないさ。
 戦いの中の剣と剣がぶつかる音。魔法が周囲を人薙ぎするときの爆発音。
 そして、すべてが終わった後の静寂。

 時として通じ合えないこともある。決して万能だとも思っていない。
 けれど、それは、きっと。何よりも雄弁な……崩れないバベル。

 吟遊詩人の『虹の精霊』ライエル・クライサー(p3n000156)は、音楽が好きで楽器を集めているというその邪妖精たちに興味を持った。
 同時に、聞いてみたいと思ったのだ。
 イレギュラーズたちならば、その妖精にどんな音楽を奏でるのだろうか?
 叶うならば、英雄たちの奏でる曲を聴いてみたい。

●元気?
「やあ、イレギュラーズチャン、元気?
僕はイレギュラーズチャンに会えなくて、さみしかったヨ。
ナンチャッテ」
”イレギュラーズチャン”なんて呼ばれたイレギュラーズたちはライエルのその態度に思わず引き返したくなるかもしれない。
 語尾には(笑)とつきそうなその男……。
 ライエル・クライサーだ。
 無駄に声だけはいいのだが、語り口がどうもオジサン構文なのが困りものだ。
「今日僕がイレギュラーズチャンたちに連絡したのは、イレギュラーズチャンたちとお話ししたかったからダヨ。
あ、ウソ。ウソ。帰らないで~! ご飯奢るから! ネッ!」
 なんとなくウソっぽい詩人の言うことには。
「迷宮森林に、”音楽の邪妖精”が出るってウワサを聞いてね。
吟遊詩人として見に行かないという手はない。行ったのはいいものの、声か楽器か迫られちゃった。
うっかり楽器を質に入れてしまったというわけダヨ」
 というわけで、詩人のトレードマークであるダブルネック・ギターが、その「音楽の邪妖精」に奪われてしまったのだという。
……というのは建前で、ライエルは何よりもはイレギュラーズたちの音楽に興味があったのだけれど。
 察しの良いイレギュラーズは、悪戯っぽくウィンクしたのがわかるだろう。
「そう凶悪な相手ではないヨ。草笛や木の実を差し出したらそれで満足して帰ったって話もあるんだ。
中には声を奪われた人もいるとは聞いたけれど、数ヶ月したら戻るようではあるんだ。
とはいえ、数ヶ月も話せないんじゃ困っちゃうし、僕もギターを弾きたくてね。
君たちの奏でる言葉……振るう武器。あるいは歌だって、踊りだって。
手段は何だっていいはずだよ。
ほどほどに懲らしめてあげてほしいなっ。
……そして、君たちの音楽を聞かせてネ」
 ああだ、こうだと話し合いを始めるイレギュラーズたちの喧騒。
(この瞬間がたまらなくイイネ)
 ああ、やはり、目の前のイレギュラーズたちの奏でる音というもの。本当に多種多様で……愛おしくて、大好きだ、とライエルは思う。

GMコメント

●目標
 音楽の邪妖精「セレナーデ」と戦い、声や楽器を返してもらう。

●敵
セレナーデ×12
『あいにくだが♪』
『一体何をしているんだい♪』
『~♪ ~♪』
『あらこんにちは、イレギュラーズさん』
『一緒に音楽を奏でましょう♪』
「セレナーデ」は小さな音符のような外見をした音楽の邪妖精です。
 体長30cm程度と小柄ながらに、それぞれ自分よりも巨大な楽器を背負っています。
 ピアノを背負ってる者もいます(理屈は不明です)。
 奪った、というよりは本人曰く”もらった”幾通りもの声で喋ります。
 弱くはありますが神秘属性の範囲攻撃と、単体の打撃(よい音がする)、そして回復に優れています。

 音楽が大好きで、セレナーデは”楽器”を集めています。
 たとえばそれは木の実の入ったマラカスだったり、楽器だっり、人の声だったりします。
 音楽や舞い、華麗な剣戟などもまた好みます。
 闘いも”演奏”と認識しています。

 ひとセッション(戦闘)したいようです。
 満足すると楽器を少しずつ、ぽろりぽろりと落として行きます。奪った声も戻っていくでしょう。
 倒せば燐光をまき散らし、手ぶらで戻っていきます。音楽だけを手土産に。

●場所
 新緑、迷宮森林の<音楽の遺跡>です。
 周りは木々がまるでコンサートホールのようにどけている場所になっています。
 月明かりはスポットライトです。
 声は良く響き、音は良く通ります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAダネ。
 想定外の事態は絶対に起こらないよっ。

  • あなたが奏でて、私が歌う完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月10日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
リオーレ(p3p007577)
小さな王子様
ソニア・ウェスタ(p3p008193)
いつかの歌声
チュチュ・あなたのねこ(p3p009231)
優しくて不確かなすべて

リプレイ

●お誘い
「セッション? いいよ、朝までだってできちゃうよ!」
『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)の声は弾む。
「あなたから、きれいな音がする♪」
「ふしぎね、音が溢れているみたい♪」
 アリアは音の精霊だ。
 アリアの周りには自然と音が集まってくる。
 妖精が惹かれたのも必然だろう。
「音の精霊に音楽のお誘いをする妖精さんなんて、なんて粋なセッティングなんだろ♪」

 ぱ、と月光がライトを照らす。
 スポットライトのように、まるでそこに。
「あたしは、芸術のことはよく解らないけど……武も舞も演奏という発想は嫌いじゃないわ?」
 チュチュ・あなたのねこ(p3p009231)は、美しい肢体を魅せるように手を差し伸べ、視線を思いのままにする。
 帽子のつけ耳は、チュチュが跳ねるたびにぴくりと動いたかに見えて、スカートのつけ尻尾はふわりと揺れる。
 魅せるための、つくりものの可愛らしいパーツ。
 大切なほんとうは、しっかりと隠して。
 チュチュは、軽やかに舞台に降り立った。
 妖精の輪の中、音も立てずに。

「妖精にも、色んな種類があるのだねえ……。すごい、本当に音符の形をしているや」
 木々のざわめきに。妖精たちの言葉に。『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)は耳を傾ける。
「不思議ね♪ であったばかりなのに、もうずいぶんと一緒にいたような気がする♪」
(……ライエルさんとはローレット・トレーニングの際にご一緒させていただいた身。そのライエルさんが困って……困っ……いや、あの顔はそんなに困ってなかったような……?)
『眼鏡ヒーラー』ソニア・ウェスタ(p3p008193)の脳裏に浮かぶのはなんとものほほんとした吟遊詩人の姿だった。かっこつけた(つけられてない)ウインク。
「と、とにかく!ライエルさんが困っていても困ってなくても、他に困っている人もいるので!!!」
「音楽であそぶのは楽しそうだけど……声をうばったら、しゃべれなくなっちゃうの?」
『小さな王子様』リオーレ(p3p007577)は悲し気に目を伏せる。
「そうね♪ こえはひとりのもの♪」
「じゃあ、ダメだよ!」
「たまにとはいえ声まで取られるのは大変だね……」
『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)はへにょんと悲しそうな顔をする。
「ボク達がいっぱいあそんであげるから、それでガマンして?」
「みんなで一緒に楽しんでから、全部返してもらうね!」
「おだやかな木々♪」
「かわいい王子様♪」
「遠くからでも風の音が聞こえていたわ♪」
「……ふむ」
「きいん」
「きいん」
「せんしの歌♪」
 妖精の出方をうかがっていた『終翼幻想』クロバ・フユツキ(p3p000145)。
(声、正確には音を取ってしまう妖精か……悪戯好きなのが多いが声までとは結構邪妖精とは言え怖いことをするものだな)
「私たち、きんぞくの音も好きよ♪」
「そうか」
 とりあえず、声を返してもらうべく満足のいく”演奏”をするとしよう。
「剣士としてどこまでできるかわからないが――クロバ・フユツキ、参る!」

「うう、四方八方から音を浴びせられて頭がキンキンする……」
『森の善き友』錫蘭 ルフナ(p3p004350)の耳は良すぎる。
 その目も、その鼻も。感覚の鋭いルフナは、情報の過多におぼれそうになる。
「まあいいよ……神霊を満足させるための神楽ならば献じてみせようじゃんか」
 澱の森……大いなる神霊に愛される者。

(無作法に武力で倒してしまってもいいんだろうけど、満足させるだけでもいいなんて素直な部類なんじゃん?)
 津々流は、ルフナから自分のよく知る自然とは違うような、不思議な匂いを感じた。
「楽しめたらいいなって思っているよ。せっしょんかあ、なんだか楽しそうだよねえ。ソニアさん、音楽は?」
 津々流は龍笛を構える。
「えっと、少しだけ。実家にいた頃は、私の演奏に併せてお姉様が歌ってくれたりしていたものです」
 ソニアは、続いてストラディバリウスを。実のところ、結構な腕前だ。
 教育の水準は高かった。
 けれど、姉たちは……。張りのある声、正確なリズム。のびやかな感情。どれかの要素ではソニアを上回っていて、それ故に、ソニアの理想は高くなる。
 ……少しだけ、遠い日が懐かしくなった。

●震える歌と歌声を♪
「音楽の遺跡、月夜の演奏会……ロマンチックなロケーションだね」
 アクセルは構える。
 羽の音。
 ぱ、と広がる小さな音は、森の澄んだ空気を駆けて、隅々まで伝わった。
「そして相手は音楽の妖精、相手にとって不足なしだよ!」
 くるりと羽ばたいて繰り出す、ルーン・H。
 破壊のハガル。
 不可避の雹が硬質な音を奏でた。
(私も……)
 ソニアは構える、ストラディバリウスに気圧される。
 演奏の心得はある。けれども、プロとは違う。普通の楽器と、どちらにするべきか迷った。そのためにどちらも用意してきたのだけれど……。
 アクセルがこちらを向いた。
(気楽に、ね!)
 誘われるままに、音を重ねる。
 フリージングエッジ。ハガルからはじけた氷の刃が、舞い散る花弁に変化する。
 鋭くも優雅で、儚い音。
 調和する、二人の演奏は重なり合って響いていった。
「こおりの、花が咲いたわ♪」

 不意の、転調。
 停滞を打ち破るように、雄々しい銃声が響いた。
 クロバが振るうは二刀。
 ハート・オブ・フィルマメント。深い蒼の刀身はただただ鋭く空間を切り裂き。
 ガンエッジ・フラムエクレール。雷のような刃紋は、轟音を奏でる。
 音の洪水。
 その反動をものともせず、クロバの攻撃は止まることはない。
 妖精たちはきゃあきゃあと楽しそうに音を浴びている。
 封刃・断疾風。
 はじける音。魔力が弾ける爆音。
 クロバの行く道には、音だけが残る……華麗な演奏(こうげき)。
「俺の演奏は少し激しいダンス付きだ。頑張ってついてきてもらおうか、妖精たち!」
「まあ、素敵なお誘いね♪」
 妖精たちは踊り出す。
 音楽と言えば……クロバはふと思う。あいつがいたらどう思うだろうかな……、と。
(歌を歌う人、楽器を演奏する人、戦いで魅せる人。
みんな色々なかたちで「せっしょん」するのだから、そうだねえ……)
 津々流が添えるのは、調和。
 ひとりで、強く主張することなく。ただ共にある風のように。
(みんなの「せっしょん」が一つになれるように、僕は龍笛で伴奏を務めよう)
 みんなを引き立てて魅せられるように。
 ゆったりとした風が吹く。
 不意に、厳しい冬から、春が来たかに思える。
 津々流が奏でるは、藹然たる四季彩巡。
 それは自然の摂理。芽吹き、茂り、枯れ落ち、眠る。季節の流れより譲り受けた祝福。和やかで強大な霊力は、「龍笛」という横笛に模って、優しくこの場を満たしていく。
「さあ、演奏を始めようか」
 そこに季節が生まれる。
「弾けるかしら王子様♪」
 クロバの激しいリズムを受け、止まることはない。
 流れるように、笛の音は響き渡る。
 激しいリズムは、津々流によってせきとめられ、ちょうどいいマーチとなっていた。
「大じょうぶだもん」
 リオーレは胸を張る。精一杯、”いげん”たっぷりに威張ったつもりでも、それは可愛らしく一生懸命に映る。
(クロバおにいちゃん見てわかったもんね。戦とうでもえんそうになるんだ)
「えいっ!」
 リオーレのメガ・ヒール。元気いっぱいの癒しの光は、燐光となってきらきら舞い落ちる。
「できた!」
 リオーレはぱっと顔を輝かせると、きょろきょろとあたりを見回した。
「爺!」
「はい、ここにおりますよ」
 忠実な使用人は、常に傍に控えている。
 深緑の奴隷騒動のときにはひやりとしたものだ。……今もまた妖精に声を奪われやしないかと思っているのかもしれない。
「お手伝いをいたしましょうか」
「うん!」
 ストリートビート。元気いっぱいの音を奏でて、音を重ねていく。
「色んな人の音を色んな長さで、じゅんばんこに重ねてねっ、
いろいろためしてみて、一番楽しい音を見つけるの!」
「あら♪」
「あら?」
 妖精たちは遅れて響く声に驚いて、それから面白そうに笑った。
「よう精さんの音楽もやってみたらおもしろそうだよね!」
「リピート」
「もう一回」
「「もう一回♪」」

 クローズドサンクチュアリ。ルフナが足を踏み入れれば、そこは閉じた聖域となる。
「?」
「!」
「どんなセッションがしたいの?」
 驚いたように、妖精たちはルフナを眺める。
「私たちに、そんなことを聞いた旅人さんがいたかしら♪」
(相手の音楽に耳を傾けずに一方的に自分の音を押し付けるなんてセッションの意味ないしね)
 ひそひそとささやきあい、そして。
「たのしいものを!」
「はげしいものを!」
「やさしいものを!」
 ……そして、不意に訪れる休符(沈黙)すらも。
 邪妖精たちには愛おしい。
 偶然を、この出会いを祝福して、次へと渡すバトンを旋律に乗せて。
……ちょっとしたジャズ(意地悪)も。ひらりと逃げていくような旋律も。
(ん、そっか)
 全部、愛しているんだね――君たちは。

(そりゃあやってることは悪い事だけどね?)
 声や楽器を奪うなんて、いけないことだけどね?
 でも、根底に流れるものは分かるよ。
「音楽は楽しいよね!」
 アリアは、相手が同じ価値観を持ってるような気がして、楽しくて仕方ない!
「あなたは音符のひと♪」
「きっと私たちでも、あなたから声を奪うことなんてできない♪」
 聞かせて、と乞われるままに。
 この音を、乗せよう。
「ちょっと痛いし辛いし苦しい歌だけど、是非聴いて行ってね」
 ディスペア・ブルー。
 アリアが声に乗せたのは、冷たい、冷たい、絶望の海。
 ほろりと涙をこぼすような思い。
「……好きよ♪」
「悲しい歌だって♪」
「誰かの思いがこもっているもの♪」
 だから、歌は面白い。

 黒猫のようにそろそろと。
 白樺のように真っ直ぐに。
 歩く姿にさえ、生と性を。
「ン……さあ、踊りましょう?」
 唇は艶やかに煌めく。
 チュチュはその全身で、誘いかける。
 ほんの僅かな指のしなり、腰の揺らぎ、瞳の光。
(あたしのあたしらしさを発揮しながら)
 くるりと回る、ほんの少しの遊び。
(柘榴のように、微笑んで)
 吐息をひとつ。甘い甘ぁい白桃のような声色を注ぐ。
(これがあたしの、あたしにとっての演奏、よ)

●この舞台
(気がかりがあるのは困ったものよね?)
 チュチュは右手を妖精の視線を集めて、膝を折り、ほんとうの意図は後ろに隠す。
 ひょいと一飛び、距離を詰める。
 狙いは、吟遊詩人さんのギター。
 でもそんなことはおくびに出さずに、ゆっくりと妖精を手招きをする。
「おいで……満足させてあげるわ」
 儚き花の視線を送り、誘われる妖精に、一歩踏み出す。
 スローなフォックストロットのようなステップ。
 闇の爪痕が、虚空とともに音を切り裂く。
「よし、行くよ」
 アクセルの奏でる、その旋律は”うた”へと変わる。弦はゆっくりと行き来して、一つの曲をつむぎだす。
 ぱちん、と音が弾けて、笑う。妖精たちは劇に夢中。
 チュチュはひらりと、舞台袖に。ギターはそっと寝かしつける。
(気がかりがなくなったら、もっと自由にやれるでしょう?)
 ステージはまだ終わらない。
 第二幕。
 ルフナのボーイソプラノが、凜としてあたりに響き渡った。
(僕が一番慣れ親しみ、使い慣れた音楽だね)
 生じた小さな傷は、まるでなかったかのように塞がっていく。
 アクセルの奏でる柔らかい音色に沿って、言葉を紡ぐ。
 楽器を落とした妖精たちも、地面の上で楽しそうに揺れる。
(ね)
 津々流はふわりと羽ばたいた。
 光翼乱破。その背に生み出した光翼は、ゆっくりと羽ばたいて、きらきらと光の粉を撒く。
 激しい戦いのさなか、その時は平穏が訪れていた。
 邪妖精たちも、誰もが。それに見とれていたから。
(まだ続けよう)
 花嵐の伏籠から繰り出される桜吹雪は、だれも傷つけないものだった。狙いは一緒に歌うこと。ただゆったりと、今は舞うだけ。
(だから、ちょっとだけ。今は立ち止まって)
「♪」
 声が、ひとつ。
 もうひとつと重なっていく。
 一小節が終わり、休符が過ぎる。

 そしてまた戦闘(おんがく)は続いていく。
「よーし」
 勇壮な速弾きから、アクセルの神気閃光がぱちぱちと瞬いた。
「……風♪」
「風が、あなたを愛している♪」
「あなたの音を、遠くまで運ぶ♪」
「回復、任せていいですか?」
 ソニアがリオーレを振り返る。
「うん、がんばれるもん」
 ソニアは頷く。
「よし、こんどは激しく歌おうか♪」
「はい!」
 ソニアが繰り出す光翼乱破が、津々流の花びらと重なる。舞い踊る光刃は、激しくリズムを刻みだす。
「いくよ……蛇骨の調! ちょっとぞっとする歌だけど我慢してね!」
 アリアが紡ぐは呪詛の歌。
 耳をふさぎたくなるような、おぞましい歌。
 紅蓮の蛇となって全てを呑み込む、大きな濁流。
 ソニアはそれに激しい旋律を乗せる。アクセルの奏でる低音が、高音と混じり合って五線譜をなす。
「でも、それも――」
「――旅人さんの、優しいところも、ぞっとするところも――」
(好きなんだよね?)
 アリアは、歌う。
 手に取るようにわかるよ。

●アンコールにつぐアンコール
「さあ! クライマックスよ!」
 チュチュの声が、呪詛の歌にディスペアー・ブルーを重ねた。
 妖精たちも、砕けるような旋律を受ける。
「ン……良い音したわね?」
 それなら、次は別のコにしましょうか。
 倒したいわけじゃない。
 ただ、楽しむためには刺激も必要でしょう。
(だから今度はそっちのコたち)
 戯れて、きゃあきゃあと笑って砕けていく。
「あはッ、その調子よ!」
 グルーヴィーに、まぜてしまいましょう。
 アリアの言葉は嘆きを帯びる。
 噴き上がる怒りが燃えさかる。
 次の歌は、ウェンカムヒ。「悪い神々」の意味を持つ楽曲。
 清浄な大地に根差す古い神。……ここにも、そんなものがいただろうか。
 怨嗟の声。荒れ狂う神々。
 獰猛な怒りに身を委ねる。
(痺れる? 発狂する? 怒る? 全て聞き手の感性次第!)
 叫び、笑い、おののき、ぱちんと弾けて震え出す妖精たち。
 チュチュの死霊弓が、狂った妖精の一音をなだめた。
 荒れ狂う嵐を駆け抜ける風。
 クロバが振るい奏でる二刀は楽器でありながら、指揮のように指針を指し示す。
(月に捧げる激しくも想い深きこの夜曲(セレナーデ)を!)
 鋭い音は愛情を帯び、カムヒを撃ち払うかのように響いていく。
 それは、きっと。ここにいない誰かのための激しい歌。
(――まぁ、調べてみたんだけどセレナーデって恋人の為に引く曲でもあるんだよな。
聞いてもらえないのは、正直なところちょっと残念かな)
 AKAが、五線譜をなぞる。
 妖精たちはもうすっかり音を出し切ってしまったけれど。
「「せーのっ!」」
 アクセルとリオーレのメガ・ヒールが響き渡る。
 ソニアの、天使の歌声が、どこまでもどこまでも響いている。
 イレギュラーズたちにはまだ音がある。
 ルフナは、鎮守森を再現した。
 それは、変化を拒む森。
 葉擦れの音、風の通る音が仲間たちの気力と異常を癒す。
 妖精たちの声も、元通り。

●終幕
 カーテン・コールだ。
 チュチュは手足を折り曲げ、優雅なお辞儀をする。
「いち、に……よし、全部取り戻したね!」
 楽器を確かめるアクセル。おそらくはどこかで声を奪われた旅人も、きっと。
「うううん、結構重いね!」
「大丈夫かい?」
 アクセルはピアノを持ち上げる。
「うん、平気!」
「かえしてあげるんだよね」
 張り切って重いものを持ちそうなリオーレにそっと小さなトライアングルを渡す津々流。
「大切なものだから、そっと運んであげるといいよ」
「うん!」
「ありがとうございます、助かりました」
 リオーレを微笑ましく思いながら、ソニアは、ふと、姉たちから褒められたことを思い出す。
「さて」
 妖精たちを振り返るルフナ。
「これが僕の慣れ親しんだ範囲トータルヒールという戦闘の流れであり、基本形。
僕の慣れ親しんだリズム、なんだけどどうかな?」
「十分に満足してもらえたらいいのだけど……」
 津々流がほほ笑む。
「演奏と言いつつ剣を振ることくらいしかできない俺だが、全力を尽くしたつもりだ」
「私達とのセッションは楽しかった?」
 アリアへの、答えは決まっている。
 代わりに。
 パチパチと、尻尾を震わせて、小さな拍手を。
 それは次第に大きくなり、ざわめきになった。
 降り注ぐ花びら。
 口々にほめそやす妖精たち。
「すばらしいわ♪」
 それは、心からの賞賛だった。
「音楽ももっと今度勉強してみるか」
 呟くクロバ。

「ありがとう♪」
「ね、これね」
 妖精たちに、リピートサウンドをおずおずと差し出すリオーレ。
「これのやり方教えたら、自分たちの楽器でもなんとおりも楽しめるから、もうほかの人の声とらなくって良くなるかなぁ……」
「そうよね、いつか退治されちゃったら嫌だし……」
 アリアはそうだ、と元気よく頷いた。
「……もし音楽が欲しくなったら、また私の所に顔を出してね? 他の人にちょっかいを出すよりも、私の所にある楽譜や演劇の台本で目一杯演奏しよう!」
 それは驚きとなって広がり、妖精たちは跳ねまわる。
「折角知り合ったんだから、次の被害を防ぐためにも時々セッションしたいなあ!
ばいば~い!」
 きっとこれから、共存していくことができるだろう……。

「すごい活躍だったネ! アリガト! 助かっちゃっタヨ!」
「ところでなんでライエルさんは大事な楽器を手渡しちゃうのさ!」
「エー?」
 詰め寄るルフナに、とぼけたように首をかしげるライエル。
「音楽家にとって大事なものなんでしょう、武器には命をあずけるものなんだから大切にしなよね?!」
「そうですよ。危ないじゃないですか」
 と、ソニア。
「マ、君たちなら取り戻してくれると思ったからネ!」
「僕はライエルさんの言葉遣いも、音楽も結構好きなんだ」
 ライエルは一瞬言葉に詰まり、それからギターの旋律で答えた。
「良かったら今度は、ライエルさんの音楽を聞かせて欲しいな」
「それじゃあ、君たちの活躍を歌にしようカナ」
 人を困らせる邪妖精たちが、人と触れ合い、音楽を通じて、良い妖精となっていく物語。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ライエルが作った歌は、吟遊詩人により脚色がなされ、ときおり、新緑の酒場で聞くこともあるそうな……。果たして皆様はそれが自分を歌ったものだと気が付くでしょうか。
お疲れ様でした!

PAGETOPPAGEBOTTOM