PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Common Raven>強奪のファイブロライト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ヤツらが探してるって?」
「へい」
 頭を下げる部下。ふん、と小さく鼻を鳴らした男は目を細めた。今しがたの報告はイレギュラーズならもう知っていよう──ラサで大鴉盗賊団を叩くための準備が行われている、という内容だ。
 こちらとて容易に見つかるような場所へ砦を構えているわけもない。ラサの連中もそれは理解しているだろう。故に、あっさり情報が入る程度には話が広まっているのである。
 ラサとて大々的に情報を流しているわけではないだろうが、盗賊たちも生きていく上で情報は不可欠。大して隠すつもりもないならばその入手は難しくない。加えて他国から大量に物資を仕入れるという行動自体、盗賊たちに目をつけられているのである。
「こんなところで邪魔をされるわけにはいかねぇな」
「ではお頭」
「ああ」
 部下に返事をしながら立ち上がる男──巷を騒がせる『大鴉盗賊団』頭領コルボ。彼は足を踏み出しながら幹部たちへ出るための準備を命じた。
 大鴉盗賊団のために集められている物資だ。ならばそのまま頂いて仕舞えば良い。こちらとて色宝(ファルグメント)に惹かれた他盗賊団を内部へ引き込んでいるところであり、その分食料や水といった物資は必要なのだ。
「そう簡単にいくかよ」
 その視線を遥か遠く、砦より外のずっと先にあるだろう首都ネフェルストへ向けて。コルボは挑戦的に嗤った。



「もっと人手が欲しいところだが緊急だ、集まってくれ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)がかき集めたイレギュラーズは8人。通常の依頼であれば大抵この人数であるから、根本的にそれなりの厳しい依頼だろう。
「まず、ラサのファルベライズについて聞いたことはあるかな。これが前提の話だからね」
 FarbeReise(ファルベライズ)とはラサで見つかった遺跡群のひとつだ。ラサには様々な遺跡が存在しているが、新たに確認された遺跡なのである。ここに眠る数々の秘宝──願いを叶える宝の悪用を鑑み、首都ネフェルストにて『互いを見張り合う』という体制をとったのは少しばかり前のことだ。
 けれどもそこに賛同する者ばかりではなく、私欲に駆られて独り占めをしようとする者も少なくない。特に秘宝の情報をいち早く得ていた『大鴉盗賊団』の動きは警戒に足るものだった。
「だから今、ラサでは物資を集めて盗賊団の居所を探ろうとしている。君たちの中にも話が回ってきただろう?」
 以前行われたサミットにより、イレギュラーズの中には領地経営を始める者が増えつつある。彼らにも助力を求めるべく、ファレン・アル・パレストは正式な『取引』を持ちかけたのだ。限られた時間の中、今まさに物資は集められている途中である。
「その物資を大鴉盗賊団が奪おうと向かってきてる。しかも『頭領』までお出ましだ」
 大鴉盗賊団、そのトップに君臨する男はコルボと言う。以前から頭領として立つに相応しい力を持った人物であったが、近頃は特に規格外な力を身に着けているとも聞く。
 その頭が出てくるということもあり、盗賊団の士気はこれまで散発している盗賊団の事件より一段と高い。すでに大量の物資を積み込んだキャラバンへ接近しており、今からどのようなルートを通っても完全に守りきることは不可能だ。
「だから、すでに奪われた物資を躍起になって奪い返す必要はない。これ以上奪われないように追い払うんだ」
「何故?」
「敵わないからさ。ああ、言っておくけれどこれは君たちの責任じゃない」
 真っ向からやり合い、物資を取り返すには人が足りない。深追いしようとすればそれだけ不確かな危険性は高まる。故にオーダーは『いま無事であるものを守ること』だ。
 完全に倒せないまでも、奪った物資よりも奪われるものが──被害が大きいと判断したなら盗賊たちも引き上げていく筈だ。
「皆、無事で帰ってくるんだ。いいね?」
 強く念押しして、ショウはイレギュラーズたちをラサへと送り出した。



「盗賊だ!!」
「物資を持って西へ! ここは俺たちが食い止める!」
 そんな言葉を交わしたのは──はて、どれくらい前のことだっただろうか?
 狭まっていく視界には抜けるような青が広がり、どこか遠くで悲鳴と剣戟が聞こえてくる。仲間が戦っているのか、それとも商人たちが武器を手にしたか。最も劣勢は誰から見たとしても明らかであり、しかして逃げる余裕すらも残されていなかったが。
 十分な備えをしたつもりだった。警戒を緩めていたわけでもなく、キャラバンを逃すほどの余裕もあった。そのはずが、これだ。
 ギャッ!
 そんな音が聞こえて、なにかが頬に降りかかった。次いで近くで砂の巻き上がる感触。視界に嗤う盗賊が見える。
「おい、ソレで遊んでる暇はねぇぞ。運べ!」
「すんません!」
 しかし別所からの声に男は慌てた様子を見せ、踵を返した。また一面の青だけが視界に広がり、しかしふと影が指す。
「あン? 生きてるじゃねーか」
 目があった。眉をひそめられた。そこに映るのは──死にかけた、自分だ。自分を見下ろした男は大仰にため息をつき、ナイフを握った。
「あばよ」
 煌めく刃は躊躇いなく振り下ろされる。それが届く直前、誰かの制止を聞いたような気がした。

GMコメント

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●成功条件
 大鴉盗賊団が『物資を奪い切らない状態』での撤退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●エネミー:大鴉盗賊団
・『大鴉盗賊団頭領』コルボ
 大鴉盗賊団を取りまとめる男。色宝を自らの元に集めようとしており、その一環として他の盗賊団を自分の傘下へ入れ始めているとも言われています。そして色宝を『得たら少しは使って良い』と部下たちへ許可を出し、その士気を上げているとも。
 戦闘時は強力な至近ファイターとしてイレギュラーズの前へ立ちはだかります。元より名のある男ではありましたが、近頃は盗賊団のことを抜きにしても噂が広がっているようです。

剛腕:自らの筋肉を活性化させ、より攻撃的になります。
見切り:眼力を強め、視界をよりクリアにします。他者の動きも良く見えるでしょう。

・『俊足の』コラット
 コルボの部下であり大鴉盗賊団幹部です。見かけはよく酒場に居そうなおっちゃんですが、砂場をものともしない俊敏さと機動力を見せます。双剣使いのスカイウェザーです。
 大鴉盗賊団が有名でない頃から所属しており、コルボとは長い付き合いのようです。何かがあれば真っ先に駆け付けるのはこの男でしょう。

発破:部下がおかしなことをしていたら正してやるのが上司なのです。【BS回復70】
乱舞:砂の竜巻は無数の鋭利な刃となって。【流血】【混乱】

・盗賊×10
 コルボ、およびコラットの部下です。彼らの命令に従います。ブルーブラッド、スカイウェザー、オールドワンなどの混成団でそれぞれの特徴を生かしつつ戦ってくるでしょう。いずれも獰猛且つ好戦的です。

翻弄:死角からの攻撃です。【体勢不利】
守護:防御は攻撃でもあるのです【付与】【反】
飛矢:空から降る矢の雨です。【出血】【毒】【識別】

●フィールド
 砂漠の真っただ中です。隠れるような場所はありません。時刻は夕暮れ、天候は快晴。
 足場は悪いものの、盗賊たちは立ち回り方を心得ています。

 キャラバンは辛うじて商人がまだ1,2人生きていますが、他は護衛の傭兵も含め全員生き絶えています。生き残っている者も逃げるような力は残されていません。
 物資はまだ半分ほど残されています。イレギュラーズが盗賊たちを引き付けなければ戦闘中も空いた人員が物資をひとところにあつめ、持ち運びやすいようにするでしょう。全てが終わったらドロンです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 大鴉盗賊団を食い止め、物資を保護してください。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。

  • <Common Raven>強奪のファイブロライトLv:25以上完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年11月30日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ

●届かぬ叫び
「ダメ!!」
 『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)の上げた声は届かない。まだ件の場所へ若干の距離がある中、彼女に出来るのはファミリアーの視界を借りて命が刈り取られる様を見届ける事のみ。手を伸ばすにはあまりにも遠かった。
 ひとつ。またひとつ。砂上で消えゆく命がある。
(助けたい……でも、)
 花丸は小さく歯噛みする。今回の依頼は『盗賊団に物資を奪い切られる前に撃退』することであり、無情ではあるが運んでいた者たちの生死は問われていない。より依頼の成功率を上げるのであれば――つまりは、そういうことだ。
「すまないとは、思う」
 小さくこぼした『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はしかしと走る足元に視線を落とす。砂は柔らかく、足を沈ませて動きを鈍らせる。いつもよりも速度が落ちていることは明白。この状態で積極的な救助は望めないだろう。
「仕方ないと言えば、それまでだが。宿命だな」
 ラサの武装商人一家の1人である『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は花丸の様子にこの先の状態を予想して、それでも尚冷静に。盗賊が商隊を襲うのも、襲われるのも、もはや決まったこととしか言いようがない。これはどんな思惑が絡まなくとも今後なくなることがないだろう。
「もうそろそろだよ!」
 花丸の声に一同は緊張を高め、砂を踏む足に力を込める。『ひねくれ神官』カイロ・コールド(p3p008306)は現場が見えようかというところで自らへ魔術をかけた。傾いた太陽の光が身体能力を強化し、まるで飛べてしまいそうなほどに――実際なぜか飛べてしまうのだが――体を軽くする。
「いた!」
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が倒れた商隊を認めると同時、花丸が砂丘を飛び出し滑り落ちていく。倒れた傭兵へ刃を振り下ろさんとした賊はラダの鋭い銃弾で弾かれ、イレギュラーズたちの方向を見た。
「おい、何か来たぜ!」
「女だ」
「ガキじゃねえか」
 ざわつく盗賊たちは下卑た笑みを浮かべて花丸を見る。武器を握った彼らは傭兵たちに遺体を見せつけるように踏みにじり、向かってくる花丸を見た。その後方では変わらず物資を集める者と、やってきた乱入者を面白げに眺める2つの影がある。なんらかを小さく語り合い、目で笑って。
「――実力も見抜けないたぁ、まだまだだ」
「!!」
 花丸の横合いからその片割れ、『俊足の』コラットが肉薄する。それを完璧に受け流した花丸は敵陣の真ん中に転がり込む。敵のど真ん中――挑発するには良い具合の位置へ。
「花丸ちゃんをそう好きにできるなんて思わないことだよっ! 束で相手してあげる!!」
 彼女の挑発に乗せられる盗賊たち。コラットがあーあーやれやれと言わんばかりに肩を竦め、踏み出そうとしたところで『ろっくの伝導』恋屍・愛無(p3p007296)が立ちはだかる。
「進ませるわけにはいかない」
「へぇ。嬢ちゃん……いや、少年か?」
 コラットの問いに愛無は答えない。静かな瞳に再び肩を竦めた彼は瞬時に後方へ飛び退き、空へと逃げた。
「! 待て、」
「嬢ちゃん、待てと言われて待つ奴はいないのさ」
 始まる空での追いかけっこ。その下では『大鴉盗賊団頭領』コルボとカイロが相対している。相対している、というよりはカイロが余計な動きをさせないよう足止めをしている、というところか。
「初めまして。自己紹介でもしておきます?」
「ハッ。俺の事は知ってんだろ?」
 言葉と共に迫る右ストレート。手でパリングしながらカイロは笑みを絶やさず「そうですね」と返す。ああ、手がひりつく。受け流して『これ』とは。
「大鴉盗賊団の頭。コルボでしたね。私は神官のカイロ・コールドと申します」
「神官! お堅い天義からはるばるやってきたか――」
 嘲るような笑みを目元に浮かべたコルボだったが、ふと考え込むようなそぶりを見せる。そしてすぐさまカイロを見て目を細めた。
「ああ。てめェがカイロ・コールドか。どうもこの国でウロチョロしているようじゃねェか」
「おや、お見知りおき頂いていましたか」
 光栄です、の言葉は回し蹴りを受けて掻き消える。多少の『お喋り』」には付き合ってくれるようだが、そればかりともいられないようだ。
(まあ、いいでしょう)
 それで時間稼ぎになるのなら。カイロは立ち上がって杖を構える。すぐさま強力な打撃が彼を襲った。
「なんだ、やり返さねェのか?」
「ええ。つまらなくとも、暫しの間どうぞ宜しく」
 視線が交錯する。どうやら――『暫しの間』付き合ってくれるようだ。


●傾く西日
「痛い目見る覚悟はできてんだろうなあ?」
 戦いが始まって尚物資を奪わんとする行動は後を絶たない。『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は賊の1人へラリアットをかまして物資から遠ざける。そこへ空から矢の雨が降り注いだ。
「っと、」
「させない!」
 瞬間、白の花吹雪が舞う。魔術によって瞬間的に空中へ転移したアレクシアは、しかし重力のままに砂地へと着地する。重要なのは『転移』ではない。攻撃の手を集め、引き付けること。彼女の魔力に触れた賊らは標的を変えていく。
「そっちは頼んだぜ」
「任せて!」
 アレクシアは並大抵の魔術師ではなく、イレギュラーズの中でも突出している。グドルフはその背中ににっと笑みを浮かべ、自らの傷を治癒し始めた。
「お前ら、ペースに乗せられるな! お頭に殴られてぇか!」
 コラットの言葉に正気へ戻された賊たちは標的を変え、物資を狙わんと動き出す。さりとてそれを許すほどイレギュラーズは甘くない。死角からその命を刈り取った『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は冷めた目つきで賊を見下ろす。
「余り拙者たちを甘く見ないで貰おうか」
 咲耶の動きは流れるように。次へ、またその次へと暗器を向ける。不意に横合いから振りかぶられた鈍い煌めきを認めた咲耶は咄嗟に黒き炎の翼をはためかせ、砂を叩くようにして羽ばたき空へと舞った。睨みつけるブルーブラッドと視線が交錯する。
「おじさんたち、小娘ひとりも倒せないのっ?」
「このクソガキィ!!」
 それより少し離れたところで敵を引き付けなおした花丸は、砂で態勢を崩さぬよう踏ん張りながら攻撃を避け、受け止め流していく。視界の隅でちらつくのは愛無とコラットの追いかけっこか。
(コラットはまだおかしくない。でも、首領自ら『こんなこと』に動くなんて)
 誰もが予想外だった。イレギュラーズたちも思ったし、商隊の面々とてまさかの襲撃だったことだろう。大鴉盗賊団が宣戦布告じみたことをして動いていることは承知の上であったが。
 不意に遠方からの凶弾が敵の命を的確に刈っていく。リロードしたラダは無言で次の標的へと照準を向けた。
 こうしたことはラサで日常茶飯事――とまでいかずとも、決して珍しいことではない。だからと言って大人しく襲われる謂れもない。
(金も払わない奴にくれてやる物はない)
 奪われるくらいならば品ごと吹っ飛ばしてやるという気概。武装商人一家であるジグリ家の一員としても、依頼を受けたイレギュラーズとしても彼らに物資を奪われることは看過ならない。
「これ以上、肥え太られたら、迷惑、だ」
 エクスマリアの視線が大気を、魔力を震わせる。しかし仲間に引き付けられていないオールドワンの庇い立てによりエクスマリアの瞳がツキリと小さく痛んだ。
(ふむ。やはり、か)
 ブルーブラッド、スカイウェザー、オールドワン。種族の混合された敵はそれぞれが得意とする戦法でイレギュラーズに迎え撃ってくる。丈夫なオールドワンがタンクとして前へ出て来るのは道理だろう。コラットによって戦線を立て直されることはあっても、すぐさまかき乱していく戦法は確実に敵の頭数を減らしていた。
(あとはこちらの問題か)
 愛無は地上で行われる戦闘を横目で見ながらコラットを追いかける。俊敏な彼は捕らえたと思ってもすぐさますり抜け、引き付けんとすれば躱される。どこか愛無で『遊んでいる』ようにさえ見えた。
「嬢ちゃんも中々素早いもんだ。なぁ、っ!?」
 褒め言葉のつもりだろうか――そんな彼へ殴打と交互に放っていた粘膜弾がようやく命中する。酸性のそれが防具を溶かして侵食する様にコラットは思いきり顔を顰めた。
「おいおい……防具だってただじゃねぇんだぞ」
 突如、愛無の周囲の風が唸る。はっと周囲を見た愛無は自らが風の渦に巻き込まれたことに気付いた。かまいたちが愛無の肌を無数に傷つけていく。
(だが、惑わされはしない)
 渦から脱出した愛無は擬態解除した腕でコラットを殴りつける。双剣で受け止めたコラットと愛無は束の間拮抗した。
「最終目的は国盗りか」
「さてね。全てはコルボ……お頭の心のままに、さ」
 少なくとも彼の口から話すつもりはないらしい。幹部で長い付き合いともなればそのお頭の心中を知っていてもおかしくはないだろうが。しかし知っていようと知っていまいと関係なく、コルボの元には少しずつ盗賊たちが集まっていると言う。群れ集ったならばそれは愛無の推測通り国盗りへ発展してもおかしくないだろう。
「カイロ君!」
 アレクシアの声が響き、次いで色とりどりの花弁がカイロを包み込む。奇跡を纏うたカイロもまた、グリードリターナーで自身の戦線維持を図るが目の前の男は強大な壁のように見えた。
「ふん。この程度か?」
「そういう貴方も、傷を負っているように見受けられますが?」
 カイロは指一本出していない。ひたすらに傷つく自らの身体を回復し、強化し続けていただけ。それなのに――と指摘をすればコルボは眉間に皺を寄せた。
「ハッ……気に入らねェ」
「私は個人的に、貴方の事が嫌いではありませんよ。そうそう、大鴉の名には由来でも?」
 カイロはなるべく戦いを長引かせるべく語り掛ける。別に嘘は言っていない。カイロからしてみれば恐ろしく強く、そして欲深そうな彼のことは嫌いではない――好ましいとさえ感じるかもしれない。
 最初と変わらずへらりと笑みを見せるカイロにコルボは畳みかけんと肉薄する。鋭い蹴りを杖で受け止めたカイロは「それで?」と先ほどの問いを繰り返した。
「大鴉の由来だったかァ? そんなもン聞いて何になる」
「ただの興味本位ですよ」
 カイロへ与えられた痛みの一部がコルボへと跳ね返る。それをものともせず――されどほんの少し、眉間に皺を寄せた――コルボは距離を取った。
「鴉ってのはなァ、光物が大好きなんだよ」
「光物……宝、ですか」
 そういうこった、と告げるコルボは勢いよく接近し。次の瞬間、横合いからグドルフのタックルを受けて吹き飛んだ。
「オウ。次はおれさまが相手してやるよ」
「あ? てめェ、横から入ってくんじゃねェ」
 カイロの前に立ったグドルフは好戦的に笑みを見せる。それがコルボの癪に障ったか、彼は真っすぐにグドルフへ向かって突っ込んできた。その攻撃を受け止め、入れ替わり黒顎魔王を放つグドルフ。その後方から銃を構えるラダが音響弾で仲間の引きつけから外れかけた賊を仲間の方へと押し戻す。
(気力が尽きるのが、先か。それとも)
 エクスマリアは力の残量を考えながら賊たちを一掃していく。少しずつ回復していることは感じるが、戦闘が長引いていけばそれも間に合わなくなる。そうなれば敵は物資を奪い去っていくことだろう。
(頭領まで出て来るって事は、盗賊たちも意外と切羽詰まってるのかな……?)
 アレクシアはこれ以上の犠牲を出させまいと仲間たちの回復と戦線維持に努める。賊の部下たちは大分片付いてきたが、やはりコラットとコルボを相手する者たちの負担が大きい。こうした重要人物が出て来る時は余程重要な事があるのか、それとも出てこざるを得ない状況であるか、だ。
 しかし、制止の声は空から降ってきた。
「お頭ぁ! 日が沈むぜ!」
 愛無に追い掛け回されていたコラットの声に、グドルフと激しくぶつかったコルボは大きく跳躍して後退した。その目が――笑ったように――細まる。

「てめェら!! 撤退だ!!!」

 コルボの命令が発されてからの動きは早かった。
 ある者は物資の包まれた布袋を抱え上げ、ある者は戦闘不能者を抱え上げ、颯爽と広げられた翼が空へ舞う。コルボもコラットの手を借りて空へと上がった。運搬能力が高いのか、それぞれの抱えた重量をものともせずあっという間に黒い点となる。
「待て! お主等は何故色宝を――」
 咲耶が声を張るも、それで止まる理由はなく。リーディングもその距離故か酷く掠れてノイズ交じりに終わってしまう。
「追うのは」
「無理だろうね」
 花丸は仰向けに転がったままそれらが雲に紛れる様を眺めた。遠くへ行けぬファミリアーを自分が追いかける間に逃げ切られるだろう。そもそも追いかける余力すらない。
「……今はこれで良い。皆、疲労困憊でござるからな」
 首を振った咲耶は盗賊団が紛れていった雲を睨みつける。そう、今は得策でない。ここで深追いすれば返り討ちに遭う可能性が高い――いや、そうなるだろうから。
(しかし次こそ。その首、必ず貰い受ける)
 態勢が十分であり、何人たりとも人質のような状態になっていなければやりあえるだろう。イレギュラーズの中にはそれだけの力を持つ猛者がいるのだから。禄でもない願いなど叶えさせるわけにはいかない。
「怪我人の、手当てを、しよう」
「うん! まだ生きてる人がいるなら助けなきゃ」
 エクスマリアの言葉にアレクシアが頷き、崩壊したキャラバンへ向かう。辺りに転がる傭兵たちは既に物言わぬ骸だ。ラダはその傍らに跪き、空を見上げる空虚な瞳をそっと閉じてやる。
「こちらもダメだな」
 愛無も別の傭兵の目を閉じてやり、首を巡らせた。護衛が少なかったわけではない。誰1人として頭領が出て来ることは想定外だった――そういうことなのだろう。
 日はいよいよ傾き、冷たい夜が近づいてくる。遺体の腐敗は防げるが、生きる者にとっては辛い時間だ。カイロは野営の準備をと皆を促し、辛うじて生きていた商人たちとともに夜を明かした。

 そうして次の朝、首都ネフェルストまで商人と物資を送り届けたイレギュラーズたちに『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)が駆け寄ってくる。その表情はすこぶる悪く――。

「友人を……レーヴェンを、見ていないっすか」

 ――ファルベライズの情報を齎したパサジール・ルメスの民、レーヴェン・ルメスの行方が知れなくなったと教えてくれた。

成否

成功

MVP

カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇

状態異常

グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
カイロ・コールド(p3p008306)[重傷]
闇と土蛇
笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華

あとがき

 盗賊団は撤退となりましたが――さてはて。

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