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シナリオ詳細

餓狼伯の憂鬱

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●辺境の餓狼伯
「来たか、ローレットの。俺は実力ある者には敬意を払いたいと思っている。ゆえに粗茶でもてなすよりは成果報酬を弾むべきであると思う……貴様等もその方が好都合よな?」
(どれだけ経っても変わらないのだな、この人は)
 ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は、やや低めの室温で防寒着を着込み、燻る薪に目もくれずに自分達を見据えてくる壮年の男性――己の父、『金狼』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフの表情を窺う。
 彼は他人に厳しく、身内になお厳しく、己に最も厳しい。そして辺境であるヴィーザルに所領を預かる関係上、無駄というものを好まない。だからこその対応なのだ。あるいは、『依頼を与える客人に辺境の粗茶など出す愚を犯すくらいなら、成果と報酬の相互関係で信頼を築くべし』と考えたのか。
 いずれにせよ、その身から発散される覇気は全盛を過ぎたそれではない。50を重ねてなお全盛、とすら思える。
「貴様等ローレットがヴィーザルで赫赫たる成果をあげていることは聞き及んでいる。大した働きぶりである。……だが俺はその成果を見たわけではない。だから今回、『ノーザンキングス』の討伐依頼でもってその武功を立てよ。さすれば、俺も認めるに吝かではないであろうよ」
 そうすれば認めよう、と一同を見据えたその目は、最後にベルフラウに向けられ、なお鋭くなった。
「で……こちらでも情報は断片的に掴んでいるが、あの話は本当であろうな?」
 ヴォルフの視線に射抜かれた天之空・ミーナ(p3p005003)は珍しく緊張の色を濃くし、しかし手元の資料をめくって彼と仲間達に示す。
「確かとお考え頂いて結構です、その手の情報筋からも報告が上がっていて……ノルダインの一団が、その。……森に生えていた寄生性のきのこを食して、それに洗脳された一団に指揮された連中が暴れまわっていると」
「にわかには信じ難いが、ヴィーザルは通年に於いて食料に窮している。毒を呷って誇りを捨てるほど愚かとは、よもや思わなんだが」
 ヴォルフの驚きも尤もだ。普通に考えれば、誇りと勇猛さを重んじる彼らが一時の困窮でそれらを手放すとは思えない。何か重い事情があったのだろう、と考えるのは致し方なし。
「兎角、ノルダインの者共が無為にヴィーザルを荒らすのは止めたい。早急な鎮圧を求める」

●誇りある狂奔、冷徹に穿つ弾丸
「我らノルダインの繁栄のため、前進あるのみ! そして――彼の低地を制し『彼ら』の繁茂を約束すべし!」
 ノルダインの一党を統べる大剣使いアシム・トライグルの声が部下達の気勢を高める。その頭にはきのこが生えていた。
 隣に控える一党の魔術師には、その延髄当たりに小さく。
 部下たちは半分程度がきのこに寄生され、もう半分は狂奔に従っているだけだ。……だが、高地にあって誇りを重んじる彼らが敢えて低地の抵抗勢力を潰しに行くのは理屈が合わぬ。
 合わぬが……アシムの指揮下で斜面を下り侵攻を始めた一党を放置はできない。
「チッ、ここがガキ共の故郷でさえなきゃほっといてやるんだがな」
 アシム一党が駆ける山の向こう、中腹あたりに控えていたヴァイス・ブランデホトは心から面倒だといわんばかりにスコープを覗き、部下の1人の胸元をポイントした。
 撃つ。爆ぜる。……否、胸元の火薬が破裂し、破片で防いだのか?
「リアクティブアーマーの真似事だと?! ノルダインのクソ野郎がか!」
 さしものヴァイスもこの事態は想定外だ。そして、彼の一射目の数十秒後にイレギュラーズが訪れることも計算に合わない。
 合わないが……この状況は、使うしかない。

GMコメント

●達成条件
・『山絶ち』アシム・トライグル、『雪庇遣い』ヘルメイアの戦闘不能
・ノルダイン一党の9割以上の撃破ないし戦闘不能
・(オプション)アシム又はヘルメイアを不殺で仕留めキノコを排除する
・(オプション2)寄生キノコの全排除(寄生先の生死不問)

●『山絶ち』アシム・トライグル
 キノコに寄生されたノルダインその1。本来は(今も)勇猛かつ優秀な戦士である。
 近接戦闘に優れHP・抵抗・物攻が高い。
・大断(物至単・防無、停滞)
・旋風(物近扇・混乱、ショック)
EX 『山絶ち』(物中ラ)

●『雪庇遣い』ヘルメイア
 その2。それなり優秀な魔術師であるが、色々ネジが外れている。元々。精神・怒り無効。神攻と回避、命中高め。
・雪崩(神遠範・氷結、ブレイク)
・吹雪(神超域・痺れ、窒息)
・氷弾(神超単・不運)

●ノルダイン兵士×10
 全体的にそこそこ高水準にまとまっている兵士たち。
 物理通常攻撃・「必殺」つきで襲いかかる。

●『白兎』ヴァイス・ブランデホト
 シルヴァンスの部隊『白兎』のリーダー。今回は(一応)友軍。積極的な戦闘参加はしない。
 基本的に数ターンに1回、超長距離からの狙撃を行う(特別製の狙撃銃だが距離減衰で低精度)。乱戦状態だとノルダイン狙いの一発がイレギュラーズに当たる可能性もある。
 戦闘終了を契機に撤退する。通常手段での接近や観測、接触は難しいだろう。

●戦場・雪山斜面
 足場的に安定しづらく、激戦になると雪崩の危険性も上がる。
 ノルダイン達は足場の不利を被らない。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 餓狼伯の憂鬱完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月30日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威

リプレイ

●あるって言ったらあるんだよォ!
「キノコに寄生されて狂奔……いやはや、何でもアリだなこの世界は」
「……いや、本当、あのさぁ。マジであるとか思わんじゃん、こんなキノコ」
 『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)のどこか達観したような言葉に、『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)は心からの呆れと理解を投げ出した声音でそう返す。とはいえ彼女もひとかどのイレギュラーズだ。口を動かしつつも、全員の靴にスパイクを備えることで雪山への対処を進めている。
「高地に住んで誇りを重んじるなんざ、ハイエスタみたいなノルダインだねえ」
「本当、ノルダインの割に随分と雪の中を身軽に歩けますのね」
 『C級アニマル』リズリー・クレイグ(p3p008130)と『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、高山での雪中行軍というおよそノルダインらしからぬ行為に驚きとわずかな疑念を覚えていた。キノコを採って食べる殊勝さはハイエスタ的ではあるのだが、キノコに中って洗脳されている点、そして村々を侵略すべく動く点などはどうにも素を隠せていないとリズリーは感じた。
「ヴァリューシャ、足元に気を付けてね!」
「心配してくれてありがとう、マリィも気を付けてね」
 『白虎護』マリア・レイシス(p3p006685)の気遣いに、ヴァレーリヤは軽く笑みを返す。マリアにはそれで十分だったようで、気合を入れ直すと迫りくる敵集団を睨みつけた。
「ミーナの発見によって少しでも被害が減らせそう。ありがとうな」
「レイリーや皆が集まったからだろ。それに、元々はローゼンイスタフ卿が疑わずに対応してくれたからだぜ?」
 『ヴァイスドラッヘ』レイリ―=シュタイン(p3p007270)がミーナに礼を告げると、彼女は肩を竦めて謙遜の言葉を返した。そして瞑目する『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)へとちらりと視線を向ける。ベルフラウの父、ヴォルフがミーナの提言に耳を貸し、依頼を託してくれたからこそ対処できるのだ。
(久方振りに父上を目にしたが、変わりないようで安心したと言うべきか、何と言うべきか……)
 ベルフラウにとっては複雑な心境である。父との再開は望むところだが、あの厳しい表情を見るに自身の現状の実力や、娘として信頼に値するかを見極めんとしているのは明らかだ。期待とすら呼べぬそれに如何に応えるか。
「私が雪崩が起きないように対策するけど、絶対はないから気を付けてね! あと、例の合図は虎!」
「了解した。……奴らが狂った過程は何でもいい、結果として連中は自らの為に他者を害せんとしている であるならば、連中は俺にしてみれば“破滅”だ。滅ぼさねばなるまい」
 マリアは自らの周囲に保護結界を展開し、不慮の雪崩を防ぎにかかる。R.R.は彼女の言葉に応じつつ鎮魂礼装を構え、前方から猛然と迫りくる一党を見据えた。ミーナの発現させた幻を見るや得物を構えて猛進する姿は、ノルダインとしての勇猛さと、狂奔に巻き込まれた者の無思慮の特攻めいたものを思わせた。
「幻に惑わされた連中なんて大したことないね! アタシが一番槍、貰ったよ!」
「リズリー、雪崩を起こさぬように戦場だけは注意してもらう。出来るだろう?」
 幻影に武器を空振った前衛を確認するより早く、リズリーは暴君暴風を振り回しそれらを蹴散らすべく立ち回る。ベルフラウの忠告が聞こえているのかいないのか、彼女は結界内を出ぬギリギリで戦端を拓いた。指輪の加護を受けて2度吹き荒れた暴風は、しかし雑兵達の鎧で爆ぜた火花でリズリー自身をも傷つける。
 手斧、槍、そして剣。どれもが肉厚な刃を持ち高い殺傷力を感じさせる。後方から迫りくる術士、ヘルメイアの杖は緩やかに湾曲した霊木によるものと思われ、それだけで高い魔力を感じさせた。
 ……そして最後尾で大斧を振り上げたアシムの目は、ぎらぎらと殺意を滾らせたそれだ。
「私の後ろに卿らを通すつもりはない! ノルダインの誇りあらば、正々堂々私達を打倒していくがいい!」
「私の名はヴァイスドラッヘ!! さぁ、村もお前達も救いに来た」
 ベルフラウとレイリーが高らかに誇りと勝利への決意を口にし、リズリーに群がった雑兵達を引き剥がしにかかる。
 浅からぬ打撃を受けたリズリーは、2人に誘い出された雑兵を追うように斜面を駆け下り、特に傷の深い者達へとヴァレーリヤ、マリア、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)らが向かう。
 ここが村落防衛の最前線、そしてヴォルフの期待を負う分水嶺。
 否応無しに膨れ上がった緊張と戦意を撃ち落とすようにエッダ目掛けて放たれた氷弾はしかし、ベルフラウの旗が絡め取って払い飛ばした。
「傷が深そうだな、戦えるか?」
「当然!」
 ミーナは前衛より僅かに後ろに回り、リズリーの傷の深さに眉をひそめた。堅固な守りと潤沢な体力があるから大事に至っていないが、あの小爆発は厄介だ。さりとて、手を止めるわけにはいかない。……消耗戦は、想像以上に早い決着を齎すであろうことは明らかだった。

●暴風と狂気のあわい
 見知った顔が幾らか覗くイレギュラーズの一党と、アシムらノルダインの面々が接敵した状況に、ヴァイスは舌打ち混じりに狙撃銃を構える。『リアクティブアーマー』の思わぬ反撃に少なからず被害を受けているようだが、手数で上回る彼等がそれだけで戦闘不能には陥るまい。問題があるとすれば、乱戦の中狙撃するリスク。
 たっぷり数十秒呼吸を繰り返した後、雪原に消音ノズル越しの射撃音と排莢の乾いた音が響いた。

「フフ、どこを狙ってるんだろうねえ? その銃の照準は凍りついてしまっ――!!」
「そのイカれた口を閉じ、呼吸を止めろ」
 鼻先を掠めた銃弾に狂笑を浮かべたヘルメイアはしかし、次の瞬間に気道を貫くように打ち込まれたR.R.の弾丸に呼吸を詰まらせた。当たるまいと高を括った銃弾とは別に襲い来た本命は、彼女に僅かな混乱を及ぼす。
「よそ見だなんて余裕だね! 魔術師は落ち着きがないのかな?」
 その隙を見透かしたように飛来するのは、マリアの放った落雷だ。連続する雷鳴は3度、ヘルメイアとアシム、そして出遅れた雑兵を巻き込んだそれは覿面に効果を及ぼしたのか、その動きを鈍らせる。
「その調子ですわマリア! こっちの弱ったのは私が仕留めますわどっせえーーい!!!」
「そこのアンタは死にそうだね、大人しく眠ってな!」
 ヴァレーリヤはマリアの手際に賛辞を送ると、いきおいメイスによる大振りの一撃で槍持ちを弾き飛ばす。鎧の火花は当然その身を叩いたが知るものか。リズリーはメイスの一撃で身を折った部下を慈悲の一撃で弾くと、斜面の脇へと投げ飛ばす。
「ミーナ、皆の治療は任せてもいいのよね?」
「話を持ち込んだのは私だからな。それくらいは任せてくれよ」
 レイリーはベルフラウと共に向かってくる雑兵を抑えつつ、時折襲いかかるヘルメイアの魔術を凌ぎ戦列の維持に尽力する。ミーナは膨大な魔力を惜しまず壁役2人を始めとした仲間達に治療を施し、戦局を冷静に観察する。
 数に頼った雑兵は腐ってもノルダインの名に恥じぬ実力を持ち、苛烈な攻勢でイレギュラーズに襲いかかる。突出したことで庇われていなかったリズリー、反撃態勢に入りつつ苦戦を強いられるエッダの2人はヘルメイアの魔術や雑兵の包囲に明確に不利を被っていた。
 ……或いはそれが覚悟の名のもとに行使された自由であらば、彼女達の立ち回りも握手ではないだろう。
「あの魔術師が何しろ厄介ですわね……」
 ヴァレーリヤはヘルメイアの狂笑を背景に振るわれる魔術に苛立ちを隠さない。R.R.の銃弾とマリアの雷撃でじわじわと魔力を削られてはいるが、魔力量が余程潤沢と見える。範囲攻撃の効率が悪いと見るや、壁役2人に氷弾を集中させて消費を抑える手際は洗脳済みとは思えぬほどだ。
 何より、アシムが狂おしい殺気を放ちながらも未だ攻撃を始めていない。時折飛来する弾丸は狙いが甘いのか余程距離が空いているのか誰ともなく当たり、そして宙を掠めて去っていく。
「ベルフラウ殿、大事ないか?」
「卿は大事ないようだな。……油断は出来ないが」
 レイリーとベルフラウは互いに声を掛け合い、負傷の程度を確かめ合う。彼女ら2人の堅牢極まりない守りを破られることがあるとすれば、それは相当な危機であろう。その危機が手ぐすね引いて待っているこの状況が齎す精神的負担は、敵の攻勢を受け止めるより尚大きい。
「あの魔術師、かなり打ち込んでいるのにまだ倒れないのか……どうなってる?」
「でもそろそろ魔術を放つのは辛そうだね! 降参するなら今のうちだよ!」
 R.R.は何度か間を置きつつ打ち込んだ銃弾の威力をものともしないヘルメイアにうんざりしたようにぼやく。空いた手で雑兵を大分足止めできたが、喉を抑えながらも魔力を練る魔術師の姿は不気味だ。
 同時に雷撃で魔力を削り、動きを鈍らせてきたマリアは、彼女への雷撃、その一部が魔力から肉体へとフィードバックし、より深いキズを付けつつあることを認識する。膨大な魔力を食った攻勢だったが、それだけの成果はあったということか。
「頃合いだね……虎!」
 マリアのダメ押しの雷撃とともに鳴り響いた轟音とともに、戦場より僅か上から滑り降りるように雪崩が発生する。ヘルメイアの魔術ではない。自然現象としての無機質の殺意をありありと顕したそれは、ヘルメイアのみならず雑兵達の足を一瞬、止める。
 それが全て、それで十分。
 僅かな隙を生んだマリアの幻影に割り込むように動いた一同の攻勢はノルダインの一党をさらなる窮地に追い込み、ヘルメイアの体力を一気に削ぎ落とす。
「……小癪なことを! だがまだまだ、こんなものじゃ済まないさ……こっちはまだ本気じゃ」
「下がれヘルメイア、お前達では役者不足だ」
 本気じゃないと気を張り、杖に魔力を籠めて戦おうとしたヘルメイアはしかし、大斧の持ち手に殴りつけられる形でアシムに動きを止められ、膝から崩れ落ちた。死んではいないらしい。が、放置していれば戦闘の余波で命は危うかろう。
「ノルダインの栄光に、『我々』の栄華に命を捧げる覚悟はあるか!」
 アシムは吼え、未だ残る雑兵達は応と声を張り上げる。言葉の端々から感じ取れる「本人とは異なる意志」は、自分達の危地にありて未だ活力とともに屹立するキノコのそれであろう。
 ……ミーナは徐々に目減りする魔力に辟易しつつ、終わりに近づく戦局にこころなしか安堵の息を吐いていた。激戦にはなろう。だが、未だ――イレギュラーズに策はあり。


 他者を庇い、そして部下達を引きつけ、戦局を差配する勇猛な女達の姿というのはなんと美しいことか。だからこそあれは、強靭な肉体は素晴らしき苗床となり『我々』の繁栄の礎となるだろう。
 『彼』の部下達は相応に優秀だった。襲い来た一団の2人を戦闘不能の際に追い込み、くだんの2人の守りが如何に堅牢かを明らかにした。
「なれば私は、『我々』はその強靭さと献身に敬意を評し――その全てを糧としよう」
「――卿に人の心は、ノルダインとしての誇りを全うさせる心遣いはないのか?!」
 魔力による守りを纏ったベルフラウへ、アシムの大斧が振るわれる。それは、彼女が引きつけていた雑兵数名を巻き込む形で、だ。彼等は突如として起きたリーダーの暴威に驚愕の表情を貼り付けたまま薙ぎ払われ、そのまま呼吸を忘れ転がっていく。無惨な死体となった彼等の体表へ、すぐさまカビのような胞子が湧き出す。
 続けざまに振り下ろされた斬撃は尚凶悪。薙ぎ払いを受け止めたその守りをバターのように引き裂き、柔肌へと深い傷を生んだのだから。
「ベルフラウ殿!」
「全員でこの男を仕留めるぞ! 部下連中は戦場の外に捨て置け! 殺させるな!」
 レイリーの鬼気迫る声に、ベルフラウは手で制しつつ声を張る。掲げた旗と構えた短槍は徹底的に相手に抗うという意思表示。負けていられぬという決意そのものだ。
「前に出てきたのでしたら却って好都合ですわ! 叩き潰して差し上げましてよー!」
「ヴァリューシャは前に出すぎないでね? 約束だよ??」
 ヴァレーリヤはここぞとばかりにメイスを固く握りしめ、アシムを打ち倒すべく前進する。庇われてる身で実にアグレッシブなその姿をマリアが心配せぬはずもない。ないが、大斧をメイスで叩き返すその姿を見て、「ヴァリューシャは強可愛いなあ」で全部許してしまう彼女がいた。

 リズリーは雪原に押し付けられた己の頬の感触で目を覚ました。
 運命は彼女をまだ見捨てておらず、彼女もまだ勝負を捨ててはいなかったのだ。
 守られ、庇われ、無難に勝利へと邁進する作戦もありだろう。相手を自分達の戦いの場に誘い込む戦術は賢く無難であったろう。
 だが、彼女の戦士としての矜持が「それだけ」を拒んだ。それだけでは、ヴィーザルの戦士としての自分の餓えは満たせない。だから、倒れることすら承知の上で、暴君暴風に氷を纏わせアシムへと襲いかかる。
「やっぱりアンタはノルダインだよ! 仲間を切り捨てていい気になってるんじゃあハイエスタな筈が無い!」
「『我々』にその分かち方は無意味だ、ここで生まれどこかで死ぬ、この生命には!」
 受け止め、しかし彼女をものともせず壁役2人を潰すべく猛追を続けるアシムの姿は清々しいほどに自分を見ていなかった。腹立たしいまでに傍若無人、清々しいまでに一直線。ノルダインとしては正しく、しかしそれでも決定的に『ヴィーザルの民』ではないな、という実感があった。
 ――仮にノルダインだとて、死地でもないのに仲間ごと敵を討つまい。
 だからこの男、そしてそれに宿った菌類風情にはなんら情緒が籠もっていないのだと彼女は怒った。
「……な、に?」
 だから、アシムは、否、『それ』は誇りと決意の重みを見誤った。
 振り上げた大斧を振り下ろそうとして、肩に張った氷が一瞬だけその動きを止めたのだ。
「私達の仲間を甘く見たね! それが君の敗因だよ!」
「もう好きにはさせない! その体も、他の者達も!」
 マリアの拳が雷光の速度でアシムの顎を打抜き、レイリーの白き大盾が慈悲ある一撃を彼に見舞う。その意識が途切れるより早く、頭部で繁茂していたキノコは転がり落ち、一瞬にして枯れ落ちた。

「それにしても、雪の上であれだけ動くと疲れましたわねー……」
「色々大変だったね……。ヴァリューシャ、帰ったら鍋でも食べに行くかい?」
「ひゅー、お鍋!酸性でございますわー! 私、ボルシチがいいなあ」
 激戦を終え、疲れ切った様子のヴァレーリヤとマリアは早くも下山後の予定を立てていた。2人は特に攻勢面で労を買って出た手前、疲労もひとしおなのだろう。
「さて、何故こんなことになったんだ?」
「敗軍の将は以て勇を言うべからず、おとなしく付いてきてもらうぞ 」
  ベルフラウを始めとした一同は、兵士達の死体を丁重に葬りつつキノコを取り去り、その全てを袋に詰めて繁茂を防ぐ。菌糸が残っていれば十分ではなかろうが、しかし厳しい冬の中で繁茂できるとは思えない。R.R.共々、アシムを始めとする生存者達に聴き込む必要は十分にあった。
「……あれを食べたまでは覚えている。だがそれ以降は記憶が曖昧で……」
「俺達は止めたんですがね、それから大将が元気になって暴れるぞっていうからいいか、って……」
「私の食糧をあげますわ……二度とあんなものを食べないでくださいまし……」
 あんまりといえばあんまりな告白にヴァレーリヤは小さく頭を振って、食糧とともに彼等を送り出す。
 いつしか、どこからとも知れず飛んできていた弾丸は止んでいた。
「練達あたりに持ち込めばこれがなんなのかわかるのかね……?」
 ミーナは回収したキノコを見て首を傾げた。今後何が起こるかわからないが、使いようによってはろくなことにはなるまい。
 なお、ヴォルフは一同の報告を聞き、表情こそ変えはせず、『評価する』とだけ告げていた。
 ベルフラウには、その言葉こそがなにより重い好意的評価であることは理解できただろう。

成否

成功

MVP

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神

状態異常

エッダ・フロールリジ(p3p006270)[重傷]
フロイライン・ファウスト
リズリー・クレイグ(p3p008130)[重傷]
暴風暴威

あとがき

 EXを使う前に負けました。
 防無積んでなかったらほぼ完封負けすらありえました怖。マジ怖。

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