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シナリオ詳細

チョコレイト・アンダーグラウンド

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●チョコレイトサークルと『万物の恋人(ラバーズワン)』
 宝石箱をひっくりかえしたような部屋だ。
 パティシエが生涯をかけたケーキや、門外不出のジャムや、金貨と等価なクッキーに囲まれて、薄いドレスの美女がソファに寝そべっていた。
「チョコレイト・ジュエルを収集してきた、あのギルド……なんていったかしら?」
 美女は仰向けに転がって手近なボール状チョコレートドロップをつまみ上げた。
 部屋の片隅に立つ執事らしき男が、目だけを動かす。
「ローレットにございます」
「また使えないかしら。あの味、忘れられないのよ」
 チョコレートを、口づけするように頬張る。
 なまめかしく上唇を舐めた舌は、とろりとチョコレートの色をしていた。
「忘れられない味があったなら、どうすべき?」
「……」
 問いかけられていながら、執事は黙った。
 応答を求めてはいないと知っているからだ。
「より強い刺激で上書きをするしか、ないわよね」

●スイーツバイキングショップ『ファン・リブラン』にて
 甘い甘い砂糖の香り。
 ホワイトとピンクで彩られたストライプの壁ぞいに、色鮮やかなケーキがずらりと並んでいた。
 中央では小さな噴水のようにチョコレートソースが流れている。
 ここは王都のスイーツバイキングショップだ。
「お店に来るのは初めてかしら? それとも二度目かしらね。好きなようにして頂戴。依頼の話は、食べながらでいいわ」
 組んだ手に顎を乗せて、『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は微笑んだ。
「依頼内容はダンジョン探索。目的はとあるドロップアイテムの獲得。アイテムの名前は――」
 チョコレートソースのかかったマシュマロにフォークを刺して、プルーは顔の高さまで上げた。
「『チョコレイト・サークル』」
 プルーの歯が、マシュマロを噛み千切っていく。

 さて。
 お菓子の迷宮こと『チョコレイト・ダンジョン』という名前を知っているだろうか?
 フシギな魔法で作られたお菓子たちのお菓子たちによるお菓子たちのためのダンジョン。
 いかなる魔術か、塔の階層は無限に思えるほど存在し、チョコレート色のスライムやクッキースケルトン、チョコレイト・ジュエルの鱗に覆われたドラゴンなどが生息し、独自の生態系を築いているダンジョンだ。
「以前、ローレットにチョコレイト・ジュエルの収集を依頼した貴族がいたけれど、その貴族から再び依頼が入ったのよ。
 同じ依頼じゃあ、ないわ。
 今度はもっと難しい……本来なら解放されない、アンダーグラウンド(地下階層)へ挑戦してもらうわ」

●チョコレイト・アンダーグラウンド
 地下階層。
 それは可愛らしく華やかな塔とは異なる、不気味で不思議な階層だ。
「おおきく『浅層』と『深層』に別れていて、目的のドロップアイテムは深層で手に入るわ。
 モンスターの名前は『万物の恋人(ラバーズワン)』」
 プルーがテーブルに出したのは一枚のスケッチだ。
 ウェディングケーキのようなドレスを纏った女性が描かれている。
 だがその実は、全てお菓子でできたモンスターだ。頭頂部に頂くサークルは『チョコレイト・サークル』と呼ばれ、とても貴重な品であるという。
「要するに、このチョコレイト・サークルを獲得してもらいたいというのが依頼内容よ。
 浅層を踏破して、ラバーズワンへ挑み、倒す。言葉の上では単純だけれど、少し頭や手先を使う要素もあるわ。
 個人ごとの技術や特徴をみながら、作戦をたてて」
 プルーはそこまで言うと、胸元からコインを出してテーブルへ置いた。
「私から出せる情報はここまでよ。あとは、お願いね」

GMコメント

【オーダー】
 成功条件:チョコレイト・サークルを持ち帰り、依頼主へ引き渡すこと。

 大まかな流れとしては以下の通り。
・浅層を踏破する
・休憩を挟む
・『万物の恋人(ラバーズワン)』へ挑む
 段階ごとに解説します。

【浅層を踏破する】
 チョコレイト・アンダーグラウンド浅層部を踏破します。
 フィールドは広い部屋がいくつも連結している形になっています。
 噴水のある公園。机が等間隔に沢山並んだ部屋。長い通路。……といったものが全てお菓子で形成されています。ただし全てに毒があり、食べた者は発狂すると言われています。
 これらのエリアにはモンスターが現われ、ある程度の連携をとって攻撃を仕掛けてきます。
 数や種類はランダムで、戦闘が何回も継続すると考えておいてください。
 つまりAP配分やどこからどう攻められても大丈夫な陣形構築が重要になります。

●浅層に現われるモンスター
・チョコスライムUD
 毒をもつスライム。両手で持てるくらいのサイズ。『やつあたり(物近単)』で攻撃。

・クッキースケルトンUD
 毒々しい焼き菓子でできた人型ホネホネモンスター。
 お菓子の剣と盾を装備していて妙に攻防のバランスがいい。
 『嫉みの剣(物近列【毒】)』『自己保身の盾(回避・防御アップ【副】)』

・チョコレイトゴーレム
 有毒チョコでできたゴーレム。人型、身長3メートル、首無し。
 『大暴れ(物自範)』『憎しみの波動(神遠範【泥沼】)』で攻撃。

【休憩を挟む】
 浅層と深層の間には一時間ほど休憩可能なエリアが存在します。そのうちモンスターがかぎつけるので使えるのは一度きりです。
 深層での戦いに備えてHP・APの回復をはかりましょう。
 普通に休憩するだけならそれぞれ30%まで回復します(戦闘不能は回復しません)。
 ご飯を食べたり手当をしたりと工夫ができた場合回復量が増し、全員で一定以上の工夫があった場合は深層での戦闘でダイス目にボーナスがかかります。

【『万物の恋人(ラバーズワン)』へ挑む】
 チョコレイト・アンダーグラウンドの深層にいるモンスター『万物の恋人(ラバーズワン)』と戦闘をします。
 全員で力を合わせて戦う必要がある強敵です。
 捜索や探索の判定はカットしますので、戦闘にプレイングを集中させてください。

●万物の恋人(ラバーズワン)
 正体不明のモンスター。
 ウェディングケーキのようなドレスをきた美女、のようなシルエットをしている。見た目はとても美味しそうだが、食べると死ぬより恐ろしいめにあうとされている。
 戦闘力は非常に高く、味方の損耗や戦闘不能者の発生が予想される。
 巨大であるためマーク・ブロックには3人必要とします。

・能力特徴
 総合戦闘力:激高。参加メンバー全員ガチで挑もう。
 長所:EXA、攻撃力、HP、AP
 パッシブ:【反】、命中+50、マーク・ブロックに3人必要

・使用スキル
 独りじめ(神至単【魅了】):単体をお菓子で包み込み、食い尽くそうとします
 抜けがけ(物自範【恍惚】):お菓子の触手を振り回します
 ××××(神遠範【怒り】):甘い雨を降らせます

【『万物の恋人(ラバーズワン)』に勝利したら】
 勝利できたならそのまま撤退します。
 浅層の突破は『撤退パート』として一括判定されます。
 モンスターによる襲撃が予想されます。戦闘不能者を担ぎ安全な撤退を目指してください。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • チョコレイト・アンダーグラウンド完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月13日 21時25分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)
ノベルギャザラー
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ルクス=サンクトゥス(p3p004783)
瑠璃蝶草の花冠

リプレイ

●チョコレイト・アンダーグラウンド
「今度は甘ったるいダンジョンか。だがまぁ、前のヤツよかマシだな」
 『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365)は高い塔の前で立ち止まった。
 帽子のつばごしに見上げる。やや傾いたチョコレートケーキのような塔だ。
 充分に高い塔だが、中の階層は無限に続いているという噂だ。だが今回用があるのは、秘密の地下層である。
 呪文に応じて開いた階段前にタイヤを止める『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)。
「多くの敵と遭遇する浅層を突破して、深層で強敵とぶつかる。ペース配分が難しいですね」
「ファンシーな響きと敵情報ですが油断できませんね!」
 『驟猫』ヨハン=レーム(p3p001117)は指先を立てて、ぱちぱちと電気を放った。

「なんだ、ここ……」
 『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)はやや険しい表情で階段を下りていく。
 かつてチョコレイト・ダンジョンと呼ばれる先程の塔に挑んだことのある彼だが、地下層の雰囲気はまるで別次元であった。
 どろどろに溶解したチョコレートの壁。あちこちに突き出る銀紙のようなトゲ。綺麗な色のマカロンが大岩のように転がっているが、表面からは魚が腐敗したような臭いがした。
 見せかけだけの『お菓子の迷宮』である。
「このお菓子は食えないのか。そうか……」
 甘い物好きらしい『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はとても残念そうにしていた。
 いや、彼女に限らず、『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)たちも意見は同じだ。
「もったいねぇなーこのお菓子ぜーんぶ毒入りかよー。ああもう畜生! このダンジョン作ったヤツ! ぜってー性格悪ィだろー!」
「そうよ、匂いで腹が空くけど食べられないダンジョンなんて酷いわ! 何のいやがらせかしら!」
 『聖なるトリ』トリーネ=セイントバード(p3p000957)もこけこけと腕をふってご立腹だ。
(おかしくなるとわかっているのに焦がれて仕方がないなんて、どれほどおいしいのかな。……たべないけれど、ちょっぴり気になる)
 『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)も周囲を観察しながら、そんな風に思っていた。
「しかしこれだけ壮観でも、全てが毒入りとなると気が滅入るのぅ」
 ため息をつく『瑠璃蝶草の花冠』ルクス=サンクトゥス(p3p004783)。
 つばの広い帽子の端を持ち上げ、近づくなにかの気配に目を細めた。
「さて、どうやら敵が近づいているようじゃ」
「早速かー」
 腰の後ろから剣を抜くジョゼ。
 仲間たちもそれぞれ武器を握り、構えた。
 背負えていたマスケット銃をとり、セーフティを解除する『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)。
「甘ぁい彼女は毒入りなんだ。つまみ食いは厳禁。さあ、王冠を奪いに行こうか」

●悪感情のお菓子たち
 アクセル。唸るエンジンが大気を溶かし、ガソリン燃料の爆発が高速回転を生む。
 マフラーの排気が甘い空気を吹き飛ばし、アルプスローダーのボディが解けたチョコレートの泥道を駆け抜ける。
 クッキースケルトンが盾を構えるはるか前に車体ごと激突し、フロントカバーにそって相手の身体を跳ね上げていく。
 宙を泳ぐ相手に、トリーネが高らかに鳴いた。
 天を突くかのような声は星形のゲートを生み、星に乗ったひよこが現われた。
 回避を試みるクッキースケルトン。剣を振り回すもジグザグに間を縫ったひよこは相手の胸へと激突。聖なる星形の爆発を起こし、クッキースケルトンは粉々に散った。
 ターンし、別の敵へさらなる突撃をしかけるアルプスローダー。しかしチョコレイトゴーレムがその巨体で受け止め、後輪が激しく泥をはねる。
 影が二つ跳躍する。
 白い影は汰磨羈。
 黒い影はアランだ。
 はたと肩を上げるチョコレイトゴーレム。判断ミスに気づいたがもう遅い。
「――破禳・鴻翼楔」
 汰磨羈は脚からのエネルギー噴射で高速縦回転し、ゴーレムの頭頂部へと踵を叩き込んだ。インパクトの瞬間に結界が展開され、激しい爆発を起こす。
 そうして体勢が崩れた所へ、アランは聖剣の強烈な斬撃を叩き込んだ。
 崩壊を始めた頭頂部に切り込み、胸を切り裂いてチョコレイトゴーレムを左右二分割すると、そのまま地面へ剣をめり込ませる。
 帽子が勢いで飛ばぬように押さえた彼を、複数のチョコスライムが補足。なめくじのような這いずりから勢いをつけて飛びかかってくる。
 無数の粘液が張り付きアランの呼吸を奪う――かに思われたが、張り付いたのは銀の壁。もとい盾であった。
 盾ごしに剣を抜くヨハン。青白く光る剣がチョコスライムを切り裂き、破裂させていく。
 反撃のためヨハンを取り囲もうとするチョコスライムたち。
 一方でルクスが呪文詠唱を終え、樫の杖を地面に突き立てた。
「離れておれ」
 カッと紫の宝玉が発光。素早くその場から飛び退いたヨハンとアランのギリギリを縫うように、無数の種子弾が発射された。
 マシンガン掃射のごとく地面や柱や壁ごと削っていく弾幕に、チョコスライムたちが残らずはじけ飛んでいく。
 弾幕を正面から突破しようとショルダータックルをしかけてくるチョコレイトゴーレム。
 タックルを正面から受け止めるヨハン。
 あまりの衝撃に押し込まれそうになるが、後ろでライトヒールを詠唱したエーリカによって身体の痛みが抜けていく。
 クロスボウを構えつつ、遠術を打ち込み始めるエーリカ。
 一方でジョゼは走りながらヨハンにライトヒールを唱え、短剣を抜いて跳躍。
 振り回すチョコレイトゴーレムの腕を回避すると、腕に飛び乗って肩を駆け上がっていった。
 首の無いシルエットとはいえ腕の付け根は酷使されている。
 肩へ組み付いて、ジョゼは剣を突き立てた。
 ぐらりと体勢を崩すチョコレイトゴーレム。
 一方で後方の溶けた壁からクッキースケルトンが飛び出してきた。剣を抜き、突撃の構えだ。
 割り込むようにしたサンディとルチアーノ。
 ルチアーノの銃撃がクッキースケルトンの盾をはね、サンディの投げナイフがはねる。
 それでも強引に距離を詰めてきたクッキースケルトンの斬撃をナイフで受け止めると、サンディは至近距離で魔法花火を炸裂させた。
 顔面にくらったクッキースケルトンがよろめく。
 開いた顎に銃口を突っ込むルチアーノ。ぱちんとウィンクしたと同時に爆発。激しい炎がスケルトンの目や口から吹き出た。
 倒れたモンスターたちはどろどろと崩れ、赤黒い粘液のようなものへと変わっていく。
 それらが放つ過剰なほど甘い臭いに、サンディは顔をしかめた。

●休息
 浅層を進んでいくと不思議な場所を発見した。
「お菓子の家……か」
 なにか思うところのあるらしいサンディ。
 ドアを開いてみると、ごく普通の間取りの家になっていた。お菓子でできている所以外は。
「休憩しとこう。この先は深層だ」
 サンディは持ち込んだ救急箱と水筒を取り出すと、ビスケットのテーブルへ置いた。

 カンテラスタンドと化したトリーネを中心に、皆思い思いの休息をとっている。エーリカは自身のAPを充填しながら、仲間の傷を手当てしていた。
「おやつに干した果物をもってきたの。口に合えばいいのだけれど」
「腹が減っては、ってか。そういや弁当持ってきたんだっけな」
 アランが自分の鞄から弁当や干し肉を取り出して、食べ始める。
 過剰なほど甘い臭いに慣れてきたのか、意外と食欲はあったようだ。
「チョコレートまみれになっているなら……」
 と言って後部のボックスから石けんと水を取り出すアルプスローダー。
「気持ちだけ貰っとくよ。シャワールームもないしな」
 ジョゼはだちこーに作って貰ったらしいお弁当を開いて食べ始める。
 食べ物はそれぞれ持ち込んでいるようで、ルチアーノもバスケットに入れたサンドイッチを広げ始める。
「皆の分もあるよ。卵にハムにカツサンド。好きなの選んでね!」
「では、我からはコーヒーだ。これだけ甘ったるい空間だと、苦い物が恋しくなるのでのぅ」
 お返しにというわけではないがコーヒーを注いでやるルクス。
「甘いな。完全な休息を取りたければ、眠れ」
 そう言って汰磨羈がお布団をひき始めた。羽毛布団と枕のセットである。
 えー、という顔をするアランたち。
「やけに荷物が大きいと思ったら」
「自慢のふかふか布団だ。気持ちいぞ?」
「まあまあ、横になってくださいよ」
「目覚めもばっちりよ。コケッてしてあげる」
 色々せかされてうつ伏せに寝転んでみるアラン……が、ハッとして顔を上げた。
「しまった!」
 馬乗りになるヨハン。
「電流マッサージのサービスです。肩こりがほぐれますよ」
「させるか!」
 しっぽのコンセントをぱちぱちさせるヨハンを振り払い、アランはダッシュで逃げた。

 こうしてひとときの休息をとった一行は、いよいよダンジョン最深部へと突入したのだった。
 ゆっくりと開く扉。
 異様にきらびやかな空間が広がり、まぶしさに目を細める。
 巨大な幕が左右と上へ開いていく。
 幕の無効には舞台があった。
 ウェディングケーキのようなドレスを纏った美女がひとり。
 両手を翳し、ハイソプラノで歌い始める。
 心を直接えぐるような歌声を振り払うべく、彼らは走り出した。

●万物の恋人(ラバーズワン)
 速攻をかけたのはアルプスローダーだ。エンジンを唸らせてまっすぐ突撃。ラバーズワンが眼前に手のひらを翳すと真っ黒なチョコレイトゴーレムが生まれアルプスローダーを押さえ込んだ。
「奴を押さえ込む」
「任せとけ!」
 脚部装備からエネルギー噴射を起こして走り出す汰磨羈。
 トスしたコインをキャッチして、ジョゼもまた走り出す。
 彼らは壁を回り込むように三方向からタックルをしかけた。
 振り返り、薙ぐように手を翳すラバーズワン。地面から無数のクッキー人形が現われて組み付いていく。
「面倒な敵は、迅速に粉砕するに限る!」
 クッキー人形を振り払い、汰磨羈の蹴りがラバーズワンの頭部へと迫った。
 それを素早く回避するラバーズワン。地面から飛び出したクッキーの剣を掴むと汰磨羈へと振り込んだ。エネルギー噴射で咄嗟に軌道をかえて剣を迎撃する汰磨羈。
 目を見開いたラバーズワンが汰磨羈の足を掴んで振り回し、ジョゼやアルプスローダーを薙ぎ払っていく。
「うおっ、なんだこれ!」
 倒れた地面からチョコスライムがあふれだし、ジョゼたちにしがみついていく。ジョゼは急いでライトヒールを唱え、アルプスローダーは身体を起こした。
「次が来ます」
 地面を踏みつけるラバーズワン。途端に飛び出した無数の触手が暴れ回り、アルプスローダーやジョゼたちを掴み上げ、放り投げた。
 飴細工の柱を何本も破壊して転がる車体。
「すぐにスライムを振り払うのよ! こけー!!」
 トリーネが高らかに鳴き、ジョゼたちに張り付いたチョコスライムを追い払わせた。
「これでも完全じゃないわ! 作戦通りに立て直してあげて!」
「分かってる」
 銃の狙いをつけるルチアーノ頭をぴったりと狙い、トリガーを引いた。
 空を穿ち絶妙なタイミングで飛んだ弾はまっすぐにラバーズワンの頭部へ吸い込まれ――るかと思いきや、ラバーズワンは強引に弾を手でキャッチした。
 トサカをびりりと立てるトリーネ。
「浅いわ――!」
「分かってる」
 もう一度同じことを言って、ルチアーノはリロード。
「10秒ちょうだい。次は必ず当てる」
「信じたからな!」
 懐から回復ポーションを引っ張り出して投げ始めるサンディ。
 回転して飛んでくる瓶をキャッチする汰磨羈。
 同じくキャッチするアルプス。
 アルプスは瓶に入ったハイオクガソリンをタンクに突っ込むと、再びバイクに跨がってアクセルを全開にした。
 その横を駆け抜けていくアラン。剣を太陽のように激しく発光させると、地面をえぐるほどのパワーで斬りかかる。
「そこを動くなよ!」
 首を狙った斬撃――が素手で止められる。
 アランは剣を握ったまま相手を引っ張り込み、光る拳で顔面を殴りつけた。
 吹き飛ばされるラバーズワン。
 空中でくるんと回転すると、大量に編み上げた触手の束をアランめがけて叩き付けた。
 素早く滑り込むヨハンが触手の束に盾を翳す。
 直撃――ではない。無理矢理ダメージを半減させ、斜めに受け流した。
「挟み撃ちにしますよ」
「乗った!」
 高速で横を突っ切っていくアルプスローダーが壁を走って強引にターン。着地してブレーキをかけるラバーズワンの背後に回り込むと、強引なタックルをしかけた。
 その隙に狙いをつけるエーリカとルクス。
 エーリカは無数の石礫を召喚し、ラバーズワンへと放った。
 それに併せて魔術弾を発射するルクス。
 直撃をうけ、近くの壁へと叩き付けられるラバーズワン。
 エーリカとルクスは同時にアイコンタクトをとった。
「撃て!」
「――」
 頷きもせず、ルチアーノはマスケット銃を発砲した。
 壁にめり込んだラバーズワンが頭を起こしたと同時に、脳天に直撃する弾。
 ラバーズワンは目の色をかえて壁を叩くと、壁ごと崩壊させてルチアーノへと駆けだした。
「止まれ、この!」
 腰めがけてタックルをしかけるジョゼ。足で踏ん張るがあまりのパワーに思い切り押されていく。
 そこへ続けてタックルをしかける汰磨羈。エネルギー噴射でねばるもまだ足りない。
「こうなったら覚悟をきめろ」
「なんの?」
「すぐに分かる」
「歯を食いしばってください」
 そこへ更に、全速力のアルプスローダーが激突した。
 ほぼ人身事故である。
 ジョゼも汰磨羈もラバーズワンもまとめて撥ねとばされ、空中で散る。
 エーリカが魔術を乱射。
 ここまでの累積からか、全弾が直撃していく。
 くるりと杖を回すルクス。くるりとマスケット銃を回すルチアーノ。
 同時に狙いを絞ると、同時に射撃。
 鉛玉と花が空気を螺旋状に穿ちながらラバーズワンへと吸い込まれていく。
「飛ぶのよひよこ! コケー!」
 高く跳躍し、魔法のひとなきを放つトリーネ。
 召喚されたひよこが星にのり、酔っ払ったウナギのような軌道を描いてラバーズワンへと飛んでいく。
 直撃をうけ、なんとか着地するラバーズワン。
 地面に手をつけ、歯をむき出しにして何かを叫んだ。
 大量の触手があちこちから飛び出す。
 それを切り払って、ヨハンが背後から盾突撃をしかけた。
 同時に飛びかかったサンディが魔法花火を爆発させる。
 大きく体勢を崩したラバーズワン――の胸へ、アランの剣が深々と差し込まれた。
 手を伸ばすラバーズワン。彼女の手がアランの頬へ触れるよりも前に、彼女の身体はチョコレートのようにどろんと溶けてしまった。
 音を立てて落ちるチョコレイトサークルを拾い上げるサンディ。
 ふと周りを見ると、柱や天井がどろどろと溶け始めていた。
「おっと、やばいぞ!」
「まあこうなる気はしてた」
「行きましょうか、皆さん」
 もうひと働きですよ、とヨハンたちは剣を構えて走り出す。

 立ち塞がるゴーレムを切り払い、スケルトンを撥ね、壁を爆破し、スライムをかき分け、イレギュラーズたちは走った。
 走って。走って。
 階段を駆け上がり、地上へと飛び出した、その次の瞬間だった。
 ずん、と音を立てて塔が倒壊をはじめた。
 崩れて広がるチョコレートの波から逃れるべく走って走って、気づけばあたりいちめんがチョコレートの池になっていた。
 彼らの手にはチョコレイトサークル。
 お菓子の塔は、もう無い。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

――mission complete!
――congratulation!

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