PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<神逐>禍二つ

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●禍二つ
 豊穣郷、神威神楽――
 かつての『絶望の青』、今の悠久の海に隔たれた異国の地は、新天地を求めた海洋王国にとっても、大冒険の末に此方に辿り着いたイレギュラーズにとっても。どうしようもない程に特別な因縁とドラマを否めない場所となっていた。
 イレギュラーズの到着を待つ事は無く、先んじて現れた『巫女姫エルメリア』の力によって魔種蔓延る地となっていた神威神楽は実に多くの動乱の種を孕んでいた。
 まず挙げられるのは、かのエルメリアがアルテミア・フィルティス(p3p001981)の実の妹であった事だろう。それを除いたとしても、神威神楽の特別な政治事情、豊穣の実力者である天香兄弟の、そして多くの人々の思惑。更にはそこに纏わるイレギュラーズ自身の感情……
 豊穣の地は、恐らく――ほぼ最初から否が応無く『イレギュラーズを望んでいた』。
 それが正しいものであるかは関係なく。それが希望を帯びているかどうかも関係なく。何もかもを全て問わない形で――きっと彼等の訪れを望んでいたのだ。
「――また邪険な顔をするものじゃなあ?」
 そんな神威神楽に大呪の結末が落ちようとする夜に。
 高天御所を仰ぐ城下町を急ぐイレギュラーズの一団が出会ったのは、親しげに、何処か愉快そうに彼等に告げた和装の男と、傍らの着物の女の二人組だった。
「理由が思い当たらないものかね?」
「今宵はまだ暴れずに待ってやっていたと云うのに、それで不満か」
「今回は随分としつこいんだな」
「『外野』故な。物事を愉しむならば無責任に勝るものはないと相場が決まっておる」
 白々しい男――死牡丹梅泉というローレット因縁の辻斬りである――に肩を竦めたイレギュラーズは取り合わない。肌をひりつかせる程の魔性に満ちた夜は、魔人にとっては余程居心地が良いらしく、梅泉は実に上機嫌に口の端を歪めていた。
「黄泉津瑞神じゃったか? 件の大呪とやらの禍で随分と荒れておるようじゃ。
 元はアレとて護国の神の類じゃろうに。汚れればかくも変わるというものか。
 わしにとっては好都合じゃ。主等の後の――そういう楽しみもあろうというもの故な」
 今すぐ傍にまで迫った『大惨事』にされ彼はまるで頓着しないのだろう。エルメリア等一党の魔手により狂った黄泉津瑞神さえ狩りと遊びの対象のように云う。実際の所、さしもの梅泉とて神なる怪物を相手取り『どうにか』出来るかどうかは知れないが、その辺りのやり取りが意味を成すとは思えなかった。

 ――戯け。神仏であろうともわしに斬れぬものがあるものかよ――

 ……出来る出来ないではなく彼はやると言う。つまり問答は全て無駄になろう。
「主等の後の――な」
 梅泉から零れた言葉から一語を切り取り、イレギュラーズは苦笑した。
 先の大呪阻止の折にも『ただ面白いから』と立ち塞がった梅泉である。こんな夜に彼に出会えば目的等は知れている。
「……旦那はん、あんまそっちばかりで盛り上がられても困ります」
 ある意味で互いに気心の知れたやり取りに愛らしく頬を膨らめたのは傍らの女だった。
 艶やかな着物姿の楚々とした美人である。長い黒髪は鴉の濡れ羽のようであり、少し垂れた切れ長の目は彼女の持つ危うい魅力を十分に伝えていた。
「そちらが旦那はんのお気に入り――特異運命座標の方々やろ。
 ええと、遅ればせながら。うち、紫乃宮たては、と申します。
 何者かって言えば、そやね。旦那はんの婚約者――でええやろか」
 鈴が転がるような声で笑うたてはにイレギュラーズはぎょっとした顔をした。梅泉とたてはを見比べるが、笑顔のたてはに対して渋面の梅泉は「元じゃ」と鼻を鳴らした。
「旦那はん、素直やないさかい。
 ……ま、そんなトコもいっとう可愛いのやけど。
 それはそれとして――うち等の目的はきっと特異運命座標はんの思う通りやねぇ。
 邪魔をする心算はないんけど――きっと邪魔になってしまうのやろから、難儀やね」
 たてはの言葉にイレギュラーズはやはり深く苦笑した。
 何も彼等とて、この恐ろしく目立つ女を無視したくてしていた訳ではないのだ。問えばほぼ確実に確定してしまう『更なる面倒事』を厭う気持ちがなかったとは言い切れない。
 つまる所、紫乃宮たてはと名乗る美しい女が――梅泉と大して遜色の無い邪気を放つ魔人である事を見破れない程、彼等の眼力は甘くはなかったからであった。
「後で相手をしてやる、と言ったら」
「否じゃな」
「うん。あかんねぇ。巷にも『地獄の沙汰程面白い』言いますやろ」
「何時かも言った記憶があるがな――
 主等は『誰が為に戦う程に必死になる』故な。
 なまくらに幾ばくかでもマシな切れ味を望むなら、『これ』は実に意味深かろうよ?」
 くつくつと笑う梅泉とたてはは同意見であるようだった。
『禍二つはこの神威神楽を人質に取る事を少しも厭うてはいない。己が為だけに世界を侵す事さえ厭わぬ二人にとってみれば、イレギュラーズの真価を引き出す為ならば、如何な犠牲も微風のようなものなのだろう』。
「とはいえ、じゃ。いざ出会った主等、質は十分じゃが数が幾らか足りぬと見える。
 わしとたてはで死合うては、流石に妙味も失せようというものじゃ。
 故に、此度は主等が選ぶが良い。わしか、たてはか」
「――――」
「主等が見合う戦いをしたならば、此度はそれまでとしてやらぬでもない。
 否、主等を味おうたなら――無論、次はあの黄泉津瑞神じゃ。
 喜べ。たとえ主等の首が落ちようと、先に繋がらぬでもないぞ。破格の条件と言えようが?」
「違うなよ。だが、一つだけ訂正しとくぜ」
「うん?」
 気に入る戦いをしたなら、次は黄泉津瑞神を狩りに行く――
「無事に済ませると思うなよ、梅泉。それからそっちの美人さんもな」
 ――それ自体は好都合だが、元より一分とて負ける事等想定していない傲慢な言葉にイレギュラーズの血が燃えた。
「……ああ、ほんま。これは旦那はんが喜ぶ訳やわ」
「囀りよった!」と呵々大笑する梅泉にたてはは「妬いてまうわ」と唇を尖らせる。
「――と、あらあら!」
 場違いにのんびりとした声色。不意に目を見開いた彼女が『見えない何か』を一閃したのは次の瞬間だった。
 どさりと夜の闇より影が転げ落ちたのは、けがれに蝕まれた四つ足の獣は黄泉津瑞神の眷属か。
「……あんま落ち着いて話せる場所やないみたいやし。
 じゃあ、そうゆう事で――ちょっといらちやけど、もう始めるとしましょか」
 ――嗚呼、神威神楽に禍二つ。地獄の釜の蓋が開く――

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 変則タイミングでどうぞ。
 以下詳細。

●依頼達成条件
・死牡丹梅泉か紫乃宮たてはを撃退する事

●城下町
 高天御所を仰ぐ城下町。
 天下の往来か何かとして戦うに不便はないロケーションです。
 急行中に捕まったんだ。きっと……LV35以上の集団だったから!

●選択制
 PCは『死牡丹梅泉』を相手にするか『紫乃宮たては』を相手にするかを選び、プレイングで分かるように記載して下さい。人数が意思不統一によりばらけている(=必然的にプレイングの意思や連携がメチャクチャになります)場合、大変危険な事になりますので話し合って確実に統一するようにして下さい!
 意図的に『三人ずつに分けて両方』としても良いですが、その場合のシナリオ難易度はNightmare相当に上昇します。

●死牡丹梅泉
 サリューの客将。イレギュラーズと因縁浅からぬご存知人斬り。
『左手に刀を構えています』。
 全ての能力が極めて高いです。
 殺傷力の塊で時間が経つ程、追い込まれる程、切れ味が増していきます。
 強いて言うなら弱点はたまにファンブルすること。
 麻痺系、精神系のBSは無効化されます。

●紫乃宮たては
 自称梅泉の婚約者。着物姿の和風美人。
 背中に業物をさしていますが、OP中で獣を見えない斬撃で斬り捨てた事から、プレイヤーは彼女が凶悪な居合抜きの使い手である事を理解していてOKです。
 全ての能力がやたらに高いです。
 棘持ちで全ての攻撃に少なくとも1以上の溜めがついていますが溜め短縮1を有します。また特殊な能力として『至近距離』に対して常時カウンターです。(発動は一ターンに一回ですが、至近距離で彼女に対して先制する事は不可能です)
 強いて言うなら弱点はたまにファンブルすること
 麻痺系、毒系のBSは無効化されます。

●備考
 このシナリオでの戦い次第によって死牡丹梅泉及び紫乃宮たてはが『<神逐>黄泉津瑞神』に出現し、影響を及ぼす可能性があります。どう動くかは状況次第です。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 以上、宜しければ御参加下さいませませ。

  • <神逐>禍二つLv:35以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別EX
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2020年11月19日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談5日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
彼岸会 空観(p3p007169)

リプレイ

●やきもちI
「何時ぞやの説教を覚えているか?」
 吹き付けた風が遠く黒い木立を揺らしていた。
「何、御主の事だ。覚えておらずとも構わぬ――唯、今夜はその『礼』をさせて貰えるという事なのだろうな」
『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は奇妙な程に静かなにその切れ長の目を細めていた。
 此方には仲間達。彼方には死牡丹梅泉と紫乃宮たては。魔人が二人。
 風雲急を告げるは神威神楽――
 二つの禍の降り立つ夜に出くわした――否、『出会えてしまった』。
 汰磨羈を含む僅か六名のイレギュラーズには意外な程に悲壮感は無かった。
「梅泉さん、前にローレットのランチ奢る約束したのに何で来なかったの>」
 それはこんな場に不似合いな調子でそんな風に言う『魔法騎士』セララ(p3p000273)の言葉が示す通り――
「一緒にご飯食べてお話して、ちゃんと『お友達』になりたかったのに!」
 畏れなく言い切った彼女の外連味の無さが示す通りにだ。
 霜月の冷たい夜風さえ跳ね除けるかのような。まんじりともせず、刹那毎に叩きつけられる猛烈な殺気を、剣気を浴びてむしろ愉しんでいるかのような。
 何れにせよ、六人はこの時を唯の決定と受け止めていたに違いない。『救わねばならぬ何かを救う為にも、まずは一旦この場を静めねばならぬことを厭う者が居なかったのは確かだった』。
 先刻承知で『待っていた』らしい梅泉とたてはは先程特異運命座標に問うたのだ。

 ――とはいえ、じゃ。いざ出会った主等、質は十分じゃが数が幾らか足りぬと見える。
   わしとたてはで死合うては、流石に妙味も失せようというものじゃ。
   故に、此度は主等が選ぶが良い。わしか、たてはか――

 ……それは六対二では勝負にならぬという圧倒的な傲慢である。
 ひとかどに武を鍛え上げ、研鑽の道を歩む戦士にとっては一種の侮辱にも感じられよう。
 しかし、両者はそんな『体面』を気にする間柄ではない。もし気に食わぬならば――その腕をもって黙らせればよい、そんな話は互いの中でとっくに話のついた信頼事項に他なるまい。
「しかし――主等はさぞやわし等が邪魔であろうなぁ」
 汰磨羈やセララの問いかけに直接的に応える事は無く、しかし含み笑った梅泉は何時かのやり取りを覚えていたのやも知れなかった。何時抜いてもおかしくはない完全なる『殺し合い』の場にありながら、むしろ最上の親しみを込めるかのように言葉を投げる彼は今宵も見事な上機嫌のままだった。
「為さねばならぬ道があろう。それは我道にして我道に非ず。
 求道にして求道にも非ず。気苦労の多い事じゃ――その背負いたがりには感心もするがな」
 死地においてこそ饒舌を極める梅泉は訳知り顔でそう云った。
 成る程、特異運命座標には為さねばならぬ事がある。今やこの国――神威神楽を滅ぼさんばかりに強大化した情念(のろい)は大呪の型をもって黄泉津瑞神なる守護者に致命的な悪影響を及ぼしている。渦中の中心にある仲間(アルテミア)や、その妹――巫女姫エルメリアを取り巻く事情はローレットにとっても捨て置けるものではなく、この季節は確かに決戦を望んでいた。
「邪魔なんて」
 されど、そんな『当たり前』の話に『名残の花』白薊 小夜(p3p006668)は小さく頭を振った。
「『この私が生きるこの季節に貴方以上に優先するべきものが一体幾つあるのかしら』」
 可憐に毒を帯びる小さな夜はまるで白く綻ぶ蕾のようだ。小夜の透明な美貌が淡い笑みの形を作っていた。彼女を良く知る者でなくてもそう分かる位に言葉には確かに熱が篭っていた。
「先の問いに答えましょうか。
 どちらか選べ、なんてそんなの決まっているわ。
 たてはさんの居合もとても素敵だったけれど――ごめんなさいね、『そういう話』ではないの。
 私は梅泉がいいわ」
 小夜の早々とした答えにたてはの口元が少し歪んだ。
 剣客として対戦相手に選ばれなかったが故なのか、それ以外の理由かは分からない。
「では、私も。今宵の相手は梅泉さんとさせて頂きましょう。
 少し、腹立たしい事も御座いました故に」
 慇懃と静かに続けた『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)の言葉に梅泉の片眉が動いた。
「はて? 癇に障る事でも言ったかな?」
「……はい、まぁ。そういうのは今はいいでしょう。きちんとその身に教えて差し上げますから」
『怒っている』とは聞くが、無量の大人びた美貌は拗ねているようにも見えた。
「……………」
 押し黙ったままのたてはは、尚更退屈そうに小夜から無量へとその視線を移している。
「――たてはさんにも興味はあるんだけどね」
 苦笑いさえ交えたのは『恋桜』サクラ(p3p005004)だった。
「我ながらどうかしてるけど」と自嘲気味に呟いた彼女は続ける。
「たてはさんは、私よりもずっと強くて、居合もずっと上手で……
 きっと梅泉を満足させられる女なんだ。そんなの妬ましくない訳がないから」
 でも。
「そんなの、全部忘れさせてくれるんだ。目の前にセンセーがいる。
 もっと強いこの人と戦えるんだって思うと。
 もっと上が見たい! もっと上を出させて見せる――そう思うと。
 こんな事を考えるのはいけない事かも知れないけど――今夜の私は幸運だ」
「こりゃあ――俺がどうこう言ってどうにかなる話じゃなさそうだな」
 今にも熱を噴き出しそうな何人かの『女怪』共を眺めれば、太陽の勇者も匙を投げよう。
「俺はアンタみたいな美人を相手取るのも吝かじゃないんだが――悪いな。
 うちの女衆はどうやらそっちにメロメロみたいなもんで、次回ぶちのめしてやるって話にしよう。
 で、だ。それはそうと、梅泉センセーよ。
 デート中に他の女に目移りするなんて良くねェと思うんだがな。
 ましてや剣を抜くなんて、アプローチに熱意籠りすぎだろ……」
『命繋ぐ陽光』アラン・アークライト(p3p000365)の軽妙な言葉が話の決まりだった。
 腐れ縁と言おうか何と言おうか――死牡丹梅泉に執着する者は多い。
 取り分け、刀を握り刀に生きる一部の女子達と来ればご覧の有様である。瘧のような熱病の正体は実は恐らく『それぞれ』に違うのだが――そんな事は些事であった。
 死牡丹梅泉がそこにいるならば、彼女等は――彼等はその道を阻むのだから。
「……だ、そうじゃ。ふられたな、たては?」
 イレギュラーズの選択はそれでも満更でもなかったらしく、梅泉は傍らのたてはをからかうように言った。
「うちが袖にされるのは構いませんけど」
 そのたてははと言えば出会った当初よりも何倍も煮詰めた殺気をその全身から迸らせている。
「ええ。こんな『お遊戯会』、どうでも構いはしませんけど。
 ……旦那はん、あんまり『女の子』に変な期待させるのは罪(いけず)ですえ?
『遊び』なら大目に見るのも妻(うち)の余裕やろけども――」
 ……先程は『理由は分からない』と書いたが、この期に及べば簡単であった。
 やや昏い目で梅泉と対面するイレギュラーズを見回すたてはは分かり易く不満気である。
 そんな彼女を「まぁ、約定じゃ」と制した梅泉に対して色めき立ったのは言わずと知れたイレギュラーズであった。
「『お遊戯会』ですか」
 柳眉をまたぞろ顰めたのは無量である。
「そんな事言ってられない位、頑張っちゃうからねー!」
 屈託なくその気合を弾けさせるのはセララである。
「……そうよな。それでこそ『返礼』に相応しきものなれば。
 最早、一手等と言わぬ。我が全てを以て、釜の底まで貪り尽くそう!」
 戦いがその一歩を教えられたならば、成長の姿を見せたいのは汰磨羈だった。
「精々、愉しませよ」
 梅泉はせせら笑って妖刀を抜く。
 ぬらりと月光を跳ね返した『血蛭真打』その銘は彼の左手に握られていた。

●血風陣
「この夜はそう手加減を期待するなよ――?」
「元より望む所です。なまくら呼ばわりは構いません。
 窮地程相手取るに面白い……多いに結構。けれど、それをして笑う事は許さない」
 邪気と共にせせら笑う梅泉を無量の言葉がぴしゃりと迎撃した。
「待ち望んだ貴方との逢瀬、要らぬ感情を抱かせないで頂ければ。
 ……せめても、その余裕(ひとみ)。開かせる事で思い知らせてくれましょう!」
 かくて六名のイレギュラーズと梅泉の戦いは始まった。
(酷く不満気ではあったが、『旦那はん』と呼ぶ梅泉の勘気を嫌ってか)元の約束通り、たてははまずこの戦いの傍観者の立ち位置。戦いは六対一の形を望む。
 敵を知り、己を知れば百戦危うからずとは良く言ったものである。
 少なくともイレギュラーズは敵(ばいせん)がどういう存在なのだかをその身を以って知っている。
 理不尽なる暴力が服を着て、刀を持って歩いているような人間だ。
 一か所に固まる事が瞬時の絶望をもたらす事を知っているから――パーティの配置は文字通り彼を囲うような形で始まっていた。無論、その戦いは一剣客とすれば忸怩たる想いを抱かずにいられぬものやも知れぬ。さりとて、彼とのやり取りは常に抜身の刃のようであった。人事全てを尽くして一筋の光に賭ける戦いこそ、彼我双方が望む『最適解』以外の何物でもないのだから!
「ふん。流石に戦い慣れておるな!」
 無量にとっては些か腹立たしい事に未だ片目を閉じたままの梅泉はまずは正面に立ったサクラを相手取る事を決めたようだった。
「お褒め頂いてどうも!」
『場違い極まりなく恋する乙女のような顔をした』サクラは最初に自分に梅泉の注意が向いたのを心底喜んでいるように見える。地面を焦げる程に蹴り上げた梅泉の姿が瞬時にブレれば、息を呑むサクラの胸は否が応無く早鐘を打つ――
「はッ――!」
 ――鋭く呼気を吐き出して桜花流を以って聖刀が鞘を滑った。
 斬劇は恐らくたてはを除く人間には『正確に見えていなかった』が、甲高く泣き叫んだ禍斬の華――白々とした刀身が邪剣の太刀筋を知る意味を告げている。
 金色に夜叉を帯びる閃きは一撃で止まらず。同時に五閃をも描き、容赦なく少女の肌を切り裂いた。
 されど、血濡れて尚、ぞくぞくする程の喜びは『梅泉がかつてよりずっと鋭い事』に起因する。
 明らかに遊ばれていた以前より『加減』の量がが減っている。サクラにとってそれは喜び以外の何物でもない!
「――サクラ、推して参る!」
 やられているばかりでは届かない。
『彼女の恋は、彼を斬らねば届かない』。
 故にサクラは初手合わせでボロボロになりながらも、その一歩を踏み込むのだ。
 風雅抜剣は兄譲りの魔技である。その真髄は刀技ではなく歩法にあり、動いたとも見えずに一刀一足の間境を越え、幻惑の如き太刀筋は敵を翻弄せんと牙を剥く。
「小癪な手品を――」
「――長くはもたないから、攻めて!」
 舌を打つ梅泉に構わない。サクラの言葉に最も早く呼応したのは、
「おお。早速の見せ場という訳か」
 正面に回ったサクラに対して背面を取る形で死角に回っていた汰磨羈であった。
 梅泉に対してパーティが明確に優位を取れるのは手数と目の数である。魔人がどれ程の絶対性を秘めていようとも、歴戦のイレギュラーズ全てを相手取るのは決して容易い話ではない。
(どれ、小手調べ――否。最初から『本気』じゃな!)
 持ち前の余裕と飄々とした性質で唇をぺろりと舐めた汰磨羈は猫のようにしなやかに。雲耀の速さ、その薙ぎを繰り出した。
「――チッ!」
 頭を下げ、身を低く背面からの斬をかわした梅泉の視線が汰磨羈に流れ。
 剣劇の交錯する刹那に彼我の視線が絡み合う。長い髪を動きに揺らした梅泉の直感のみの回避も、彼に睥睨までをさせた汰磨羈の技量のどちらもが素晴らしい。
「もう一手! おかわりじゃな!」
 梅泉の長い黒髪が一房間合いに斬り散らされた。
 左右の構えの変化が揺らぎ、言葉通りにもう一撃を繰り出せば梅泉のバランスが少し崩れている。
 パーティの強みは手数と書いたが、そういう意味で今夜の面子は恐ろしい程に長けていた。
 たかが六人、梅泉を相手取るには心もとない数である。
 されど六人。唯のパーティを比べて彼等の繰り出す手数は倍近くにも及ぼうというものだ。
(噂に聞く剣客、剣鬼、斬人斬魔。
 死牡丹梅――成る程、こりゃあ恐らく今まで戦っていたどの相手よりも強ぇんだろうな。
 はは、だからなのか――『だからなんだろう』な!)
 イレギュラーズと梅泉双方が紡ぎだす見事な殺陣にアランもまた歓喜をもってその一歩を踏み出した。『あてられた』と言ってしまえばそれまでだが、
「やたらと武者震いが止まらねぇ……実際、滾るぜ」
 皮肉めいて口元を歪め、気付けば熱情の中に在る。
『勇者』は敵が強い程燃え上がるもので――焼き尽くす太陽のような男ならば尚更だった。
(ここで全力を出さなかったら男じゃねぇ!
 ぶちかますぞ。限界を超えるぞ。アラン・アークライトッ!)
 古き月輪に導かれ、裂帛の気合いと共に二刀を以って叩きつけられるのはクリムゾン・ヘイトレッド――決して勇者らしからぬ復讐者の苛烈、破滅を孕む紅い憎悪の軌跡である。
 周りの空気さえ撓ませる程の強烈な一撃を鈍く鋭く妖刀が受け止めた。
「化け物が……ッ! 見た事無いぜ……!」
「小童なりに中々やりおる!」
 アランの言葉は悪態であり、賞賛だった。
 彼の強烈極まる斬撃を片手で止めた梅泉の額に血管が浮いている。見開かれた片目は血走っており、少なからず彼から減じた余裕を垣間見るに十分であった。
 それでも膂力差でアランを跳ね返し、跳ね飛ばした梅泉は更に襲い来る『次』を迎撃する。
 草履が擦れた音を立て、焦げた臭いが極僅かに鼻を突く。
 戦いの呼吸はその速さを増すばかりで――何処にも止まる余地はない。
「――『お揃い』みたいで悪い気はしないのよ」
 右手より猛襲するは小夜である。
「その『枷』ね。外して相手をしてくれるなら、それもきっと嬉しい告白なのだけど」
 目しいた小夜の口にしたのは梅泉に明確な死角を形作る『片目』の事を指している。
 六対一にハンデまで用意されては元より名も腕もプライドも廃るというものだ。
「そうですね。貴方からすれば、私達は巣を飛び立ったばかりの若鳥の様なものでしょう。
 けれど若鳥にも空を駆ける為の翼は在る。『確かに空を飛べるのです』。
 我々は貴方に追いつかんと羽ばたいている――そうして驕って高ぶりながら……
 何時までも自分の方が高い所を飛んで居られると思いまするな!」
 ほぼ同時に仕掛けたのは無量も同じだった。彼女の聴覚はまさに今、敵の味方の息遣いや足運びの時の音等、その動きの特徴を捉えんと研ぎ澄まされている。
 差しあたって今夜の『抗議(やつあたり)』は彼の目を開かせる事と定めた無量は、瞬天三段――見せかけならぬ質実剛健とした突きを繰り出し梅泉の影を深く鋭く縫い付ける。
「……ほら、当たったではありませんか」
 艶然と、そして凄然と笑む無量に言葉には先の言葉とは裏腹に強い信頼が滲んでいる。

 ――この男はこの程度で届く相手ではないのだという絶対の信頼が。
   そしてそれは同時に、彼女の心を湧き立てる最高事実に違いない――

(ああ、負けてられないわ――)
 諦念という暗闇の中に生きてきた小夜にとって梅泉は得難い光だった。
 彼の顔が分からない。彼の剣を見る事ばかりは叶わない。それでもその声が、動きが、気配が、刃の帯びるその風が――一度逢ったその時から彼女を捉えて離さなかった。
「何時か、踊ったというじゃないの」
「――――」
「そういうのを、女は『ずるい』というのよ。
 ああ、それから。そう言う事が女の方の『ずるさ』なのよね」
 無量の連打に乱れた梅泉の間合いに小柄な小夜が潜り込んだ。
 梅泉と彼女の体格差、そして得物の長さ。仲間達の積み重ねた猛烈な連続攻撃が、刹那だけ彼の対応を遅くした。一息の間に崩し、誘い、繰り出される殺し技を交えた斬風は、吹雪く桜の如き剣光であり、剣士を誘う妖しくも危険な魅惑であった。
 梅泉の呼吸が乱れた。
 小夜を辛うじて振り切り、その視線は迷い無く飛び込んでくる最大の危険――気配を捉えていた。
「言っておくけど、ボクってば実は負けず嫌いなの。
 これは前回負けて悔しかったリベンジで――それに今回は神威神楽の未来がかかってるからね!」
 どちらかと言えば湿っぽく粘ついた――女怪共の剣の痕に比べれば何と晴れやかで真っ直ぐであるものか。
「ボクは正義の魔法騎士。黄泉津瑞神に挑む戦友の皆のために!
 神威神楽を守るため、未来のため、そして戦友の皆のために! 梅泉さん、キミを倒す!」
 流石に捌き疲れた梅泉目掛けセララの聖剣ラグナロクが閃いた。
 彼女の小さな身体が乾坤一擲、繰り出さんとするのは――ギガセララストラッシュ。雷光を纏った斬撃は間合いを走り、その正義の雷は真正面から梅泉を直撃した。
「……ボク達が勝ったら。
 勝ったら、梅泉さんにはイレギュラーズの味方として黄泉津瑞神に挑んで貰うからね!」
 鮮烈な光が退けた後、猛撃に微動だにせぬ梅泉が立っていた。
「……か」
 微かに空気を震わせるその言葉が、彼の纏う鬼気が誰の肝胆をも寒からしめた。
「『勝てる心算か?』」

 ――剣鬼の両目は開いていた。

●やきもちII
「まだまだこっからだ、行くぞ!」
 もっと早く、速く、疾く!
「――オ、ラァア!」
 獣のように獰猛に。もっと強く、強烈(つよ)く、ただ強剛(つよ)く!
「っ……! ラァ! こんな、モンかよ――!」
 叩きのめされようとアランの鬼気は青く燃える。
 敵わぬ事が知れた位で萎えるなら、『彼は最初から勇者等では有り得ない』!
「死を賭けた陰の刃。生を懸けた陽の刃。我等が刃を重ね、描くは太極。
 其が生むは万象――即ち、未来を斬り開く可能性の奔流よ。
 獣は生きる為に喰らう。ならば人は何が為にこうも猛る?
 牙はその為に在り、故に死にゆく為の牙など非ず。
 数奇なものじゃな、死牡丹梅泉。
 死中に活があるならば、全てを懸けてその活を喰らわん。
 なれば、生き抜く為に、この爪牙きっと御主を喰らい尽そうぞ!」
 汰磨羈は殆ど見えない勝ち筋を暗中模索してでも探し、足掻き続ける。
(桜の木の下で受けた刃。私はあの味を忘れられまい。
 世を救う、等と大言を宣いながらも鬼として、人斬りとしての欲望を捨て切れない――)
 恋ならぬ恋に狂へば――命短し、彼岸会。
(ならばぶつけて仕舞えばいい。歪んでいるとて構わない!
 私の愛の形が『これ』でしかないのなら――結末は何処までも一でしょうや。
 貴方は、どれだけ殺そうとも殺せぬ本当の『剣鬼』なのだから!)
 繰り返す。それは無量の確かな『信頼』だった。
 どれ程、反発しようとも、歯牙にかけられぬ事に憤ろうとも。
 目の前の男に向ける絶対的な感情は『己が器を受け止め得る唯一つの絶対性』に他ならない。
「貴方にだけはお見せしましょう。肌を晒す事よりも卑しき、我が内の獣を!
 口付けよりも激しく――咽喉元までもを喰い合いましょうや!」
 鋼の音が高く鳴る――
 見るからに分かる深手を負いながらもセララの意気は挫けまい。
「まだ終われない……! ボク達はまだ、諦めてない!」
 強く吐き出された決意の言葉が夜を揺らし、
「あの夜から――見えない自分が悔しくなったのよ。
 貴方の顔はどんなかしら? 貴方の剣はどれほど綺麗なのかしら。
 もっと感じたいと私の心には貴方のことばかりよ!
 だって貴方が初めてなんだもの。
 朽ちそうになるほどに、腐り果てる位の永い闇の中で。
『美しさ』を教えてくれたのは。私を助けてくれたのは――」
 小夜の一念剣(いちねん)が何処までも彼女を奮い立たせていた。
「刹那の夢だと笑って頂戴。でも今だけは私を見て、こんなに、こんなに研ぎ澄ませたから!
 貴方が本気で殺(あい)してくれるように――!」
 凶暴さを微塵も隠さない『愛の告白』は刃の瀑布となって梅泉の次々と切り裂けば。
「これも……ちょっと妬けるなぁ」
 苦笑したサクラが愛刀を支えにするように突いた膝を持ち上げた。
 決着を望み始めたこの場で彼女の視線が不意に梅泉からたてはへと移っていた。
「……たてはさん」
「……何かうちに用ですの?」
「センセーは馬鹿みたいに強い。これを見ただけでもう殆ど反則だよ。
 でも、でも――貴女は梅泉の更に上を知っているの? 本当のセンセーを知ってるの?」
「ああ、そんな事」
『恐らくはそれは鞘当てなのだ』。
 たてはは饒舌でふんわりとした雰囲気を裏切るかのように刺々しくサクラを嘲笑した。
「そりゃあ、旦那はんはこんなもんじゃありませんやろ。
 こんなの最初から言った通り、皆さん向けの『お遊戯会』。
 ……こんなもんで、旦那はんが響く筈ない。こんなもんで……」
 悪し様に言うたてはの言葉は恐らくは半分が本当で半分が嘘だろう。
 嘘というより自分に言い聞かせている風情ですらあった。彼女は――彼女からすれば未練たっぷりの――元許嫁にこんなにも熱心なイレギュラーズを認め難い。認められよう筈も無い。
 蛇のような執念で、一日千秋の想いでここに至ったのは彼女とて同じなのだから。
「それは……凄く気に食わないなぁ!」
 憎々しいたてはの一方でサクラは真っ直ぐにそう言った。
「強請ったらセンセーは見せてくれるのかな?
 ううん。強請るものか! お願いで本気を出して貰うなんて、屈辱以外の何物でもない!」
「やれやれ」といった顔の梅泉は「また面妖な娘が始まったか」という顔。
「梅泉、貴方に勝つ!!」
 宣言と共に飛び込んだ。全力攻撃閃刃の桜花狂咲は彼女が今宵に魅せる最後にして最大の一撃だ。
「――だって私は、貴方の事が好きなんだから!」
「理解は出来ぬがな。『知っておる』」
 苦笑を隠さぬ梅泉は避けず、受けず。その身でサクラの一撃を受け止めた。
 彼女の居合を袈裟に受け、血を迸らせていた。
「――!?」
 当のサクラが目を見開けば、彼の妖刀は正確無比に彼女の首を目掛けて紫色の軌跡を残したたてはの一閃を受け止めていた。

●朴念仁
「今夜の相手はわし一人。故にルール違反じゃ、これはわしの負けで良い」
 梅泉がそう言ったのはその直後の事だった。
 目を見開き、蝶のように紫色のオーラを広げたたてはは苦笑する梅泉以上の殺気を帯びる。
 それで理解出来るのは彼女も彼と同じく、間違いない魔人であるという事実ばかりだ。
「旦那はん。浮気は構いません。でも、本気は違いますやろ」
「今、わしが優先したのはどちらじゃ?」
「……」
「娘の一打等、子猫のようなものじゃ。主は別であろうがよ」
「……………」
「それで納得せい。でなければ、主も今ここで斬るぞ?」
 そこまで言った梅泉より確かな怒気が噴き出した。
 たてはは悪し様に言ったがこの戦いは梅泉にとっても興が乗るものだったのは間違いない。
 故に『辞めたくなった気持ち』が無かったと言えば嘘になる。実を言えばイレギュラーズという極上の馳走を牛飲馬食飲み喰らわず、止めに出来た事に一抹安堵さえ覚えていた。
 だから、『たてはは許された』のだ。
 ここで承服するのなら。
「……今度だけは堪忍してあげます」
「だ、そうじゃ。しかし主等、これが計算尽くなら見事なもの」
 嘆息した梅泉は今夜一番深く苦笑した。
「しかし、どれもこれも。つくづくいちいち業よなぁ」

 ――こんな男の一体何が良いのやら――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
アラン・アークライト(p3p000365)[重傷]
太陽の勇者
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)[重傷]
陰陽式
サクラ(p3p005004)[重傷]
聖奠聖騎士
白薊 小夜(p3p006668)[重傷]
永夜
彼岸会 空観(p3p007169)[重傷]

あとがき

 YAMIDEITEIっす。
 何とまさかの成功……
 この結果により梅泉とたてはは決戦シナリオに援軍で出現します。
 まぁ、素直な援軍ではありませんが。

 普通に戦ってもほぼ無理なので『梅泉ルート』の成功ギミック(一例)は『たてはを煽り倒してルール違反をさせる』だったのですが、結果的にすごく綺麗に実行されました。
 他の手段も存在しており、また『たてはルート』ならまた別だったのですが、兎に角成功したので素晴らしかったです。ギミックに関係なくそもそも戦闘プレイングに最高の情熱がないとあっさりやられる話なので、全員が誇って良いと思います。
 私はVHの場合、十分と思わなければ全て失敗にしますので。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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