PandoraPartyProject

シナリオ詳細

千の果実

完了

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 昔々、とある高僧がいた。
 東に怪我した人あらば、駆けつけて其の傷を手当てし。西に悩める人あらば、駆けつけて悩みを聞き、助言を与えた。
 人のために悩み、人のために生きた人だった。

 そんなある時、高僧は森の中で道に迷ってしまった。これも天の導きと、立ち止まることを最も恐れた高僧は森の中を歩き続けた。するとあるときから、まるで導くかのように木々がざわざわと茂り鳴り、背の高い草が道を開け始めた。
 ああ、やはり天の導きであったのか。高僧が歩いていると、芳醇な果物の香りがする。
 果たして、たどり着いたのは果実の楽園であった。大きな林檎や梨が重たげに枝をしならせている。一つ頂こうと僧が梨を一つ取ると、梨は“貴方の食べやすい大きさに”と、ひとりでにぱかりと割れた。

 高僧は梨を食し、やがて泉のほとりに辿り着いた。
 ああ、水があるとは有り難い。天は私を見捨てていなかったのだ。高僧は祈りを捧げ、水を飲もうと泉の傍に膝をつく。
 すると紅葉が一枚、はらりと落ちてきた。――風流なるかな。高僧はふと思いつき、紅葉の指を重ねて丸め、椀のようにして水を汲んだ。こくりと一口飲む。
 するとどうだろう。桃の酒のような味が口いっぱいに甘く広がったではないか。僧は驚いた。よもや酒の泉ではあるまいか。この高僧は大層な酒好きで、どんなに修業を積んでも酒への執念だけは振り切れなかった人である。
 もう一口。僧はもみじの椀を使い、酒を啜る。今度は柘榴の酸い味がした。爽やかな風情が口の中に広がる。よもや魔の誘惑ではあるまいか、と、三杯目を掬いながら高僧は己を保つように努めた。
 そうして、三杯目の味は――



「という話が、海洋にはある」
 グレモリー・グレモリー(p3n000074)は簡易な紙芝居をめくりおえると、ぱたり、と紙束を寝かせた。
「そして今回、其の伝承にあるらしき場所を発見したんだよね。果物がいっぱい成ってて、中央に泉がある。伝承には三口目がどんな味だったのか、高僧さんがどうなったのかは書かれていないけれど、もし悪魔の誘惑だとしても君たちなら大丈夫だと思う」
 淡々と告げるグレモリー。
「泉の水は葉っぱの成分のせいかも、という調査結果も出ているんだ。とはいっても、葉っぱをむしゃむしゃ食べるのはよくないのでお勧めしない。…最近は海の向こうがにぎわっているけど、息抜きにどうだろう」
 グレモリーはそう言って、小首を傾げた。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 カムイグラでは大変なことが起こっているようですが、たまには休息はいかがでしょう。

●目的
 「千果の泉」でくつろぐ

●立地
 海洋の片隅、塩水の届かない地域です。
 周囲には旬の果物(梨、柿、林檎など)がたわわに実る樹が生い茂っています。
 その中でも目を引くのは、鮮やかに赤い紅葉の木でしょう。
 不思議な伝承が残る湖があります。紅葉でお椀を作って水を飲んでみると…

●出来ること
1.果物を摘んで一休み
 果物は不思議な事に、摘んだ瞬間分けようと思った分だけに切り開かれます。
 どんな小食さんも、ナイフを忘れたうっかりさんも、これで安心です。
 いろんな果物をパンにはさんで、サンドイッチ風にしてもいいかも知れません。

2.「千果の泉」の水を飲む
 高僧が一休みしたところ、様々な味で彼をもてなした――という伝承の残る湖です。
 彼は酒の味を感じたようですが、未成年の方は問答無用でノンアルコールジュースです。
 一口目は桃、二口目は柘榴。さて、三口目は貴方はどんな味を感じるでしょうか。
(この場合の「未成年」は、年齢が20歳以下の方を指します。また、三口目の味は好きにご指定下さい)

●NPC
 グレモリーが周囲をスケッチして回っています。
 果物のお誘いには乗りますが、お酒にはあまり強くないため、泉の水は飲みません。

●注意事項
 迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
 また、やりたいことは一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。


 イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
 皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守って楽しみましょう。
 では、いってらっしゃい。

  • 千の果実完了
  • GM名奇古譚
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年11月21日 22時20分
  • 参加人数22/100人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(22人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ノーラ(p3p002582)
方向音痴
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
伊佐波 コウ(p3p007521)
不完不死
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
アルゲオ・ニクス・コロナ(p3p007977)
夜告魚
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
アイシャ(p3p008698)
スノウ・ホワイト
鈴鳴 詩音(p3p008729)
白鬼村の娘
綾志 以蔵(p3p008975)
煙草のくゆるは
アシェ ファラン(p3p008985)

サポートNPC一覧(1人)

グレモリー・グレモリー(p3n000074)

リプレイ

●fruits
「……ふむ」
 黒子は知った顔に手を振りながら、泉の周囲をぐるり巡る。持ってきたパンに果物を挟んで昼食とし、更に散策をする。
 考えるのは己の領土の事。水田と水道施設では、上水や食料生産には限界がある。己も果樹を植えてみようか。
 領主の悩みは尽きない。黒子は紅葉の木を見上げ、思案に耽るのだった。

 詩音は林檎を摘みに来ていた。
 だってあの赤色、とっても綺麗じゃありませんか? 甘い香りと酸っぱさもとっても美味しい。紅い色は、私の瞳や角の色ととても似ている!
 たわわに実った林檎たち。さあ私をどうぞ、と詩音に訴えかけるよう。詩音はどれにしようか迷って、最も赤い林檎を選んだ。
 あ、でも割れないでくださいね。丸かじりがしたいんです。
 もしわれてしまったら――木を切り倒してしまいますからね!

 エイヴァンは林檎を一つもぎ取った。其れは割れる事なく、しゃくり、と丸かじりされる。
「酒の味ってのも、惹かれると言えば惹かれるんだがな……」
 果物と酒。彼にとってはどちらも捨てがたかったという事だろう。
 自前で持ってきたパンがある。フルーツをあらかた取ったら、切り分けてサンドイッチにしてみたい。多すぎたらそこらへんにいる奴に分けてやればいいし、少なくても……まあ、何とかなるだろう。
「ああ、あれが噂の紅葉か」
 真っ赤に燃える紅葉を湛えた樹が、泉に葉と影を落としている。見事なもんだ、秋だねェ。
 周りには紅葉の器で泉の水を飲んでいる人々の姿。
「ま、俺は花より団子ってな」
 なので適当に落ち葉をだな……え? 紅葉狩りはそういうものじゃない? 知ってるぞ。


 秋は風景画の季節。画家ならきっと、皆そう思う。ベルナルドは一人、紅葉と果物の樹が一緒に入るアングルを見つけて座り込んだ。持ってきたパンに果物を挟んだ簡易なフルーツサンドも、材料が良いからいつもより美味しく……うーん。何の果物を入れたか忘れた。味音痴なので良く判らない。
 とりあえず、スケッチを始める事とする。友もどうやら同じことを考えていたようで、視界の隅で無心に描いているのが見える。
 今日のスキットルの中身は紅茶。間違っても酒ではない。フルーツサンドに合う味だ。今日はこれで正解だったな、と思いながら、ベルナルドは筆を執る。


 ノーラは今日は、大好きなリゲルパパとお出掛けです。パパが美味しそうな果物の香りを追って、ノーラは其れについていきます。あれだよ、とパパが指さした果実は、高いところにありました。でもノーラにとっては高いところのものを取るなんてちょちょいのちょい。どこぞのイソップな狐とは訳が違うのです。
 ある程度集め終わったら、サンドイッチを作ります。パパが丁寧に切り分けてくれた果物を、ノーラは一生懸命クリームと一緒に挟んで……あらら、はみ出しちゃった。ちょっとしょんぼりしたノーラの頭を、パパは優しく撫でてくれます。其れだけでノーラは、さっきの失敗なんて忘れたみたいに笑顔になります。
 一番美味しそうなサンドイッチは、パパにあげる! 愛情いっぱいの、ノーラのフルーツサンド! パパは嬉しそうに受け取ってくれました。
「グレモリーさんに挨拶に行こうか」
 グレモリーおじさん。この泉の事を教えてくれた人です。ノーラはそう記憶しています。うん、と頷いて二人で探せば、すぐに見つかりました。林檎の木の下で何やらお絵かきしています。
 パパが声をかけて、ノーラが作ったフルーツサンドを差し入れしています。おじさ……お兄さんは無表情ながら、ありがとうと受け取りました。
 ノーラはお兄さんのスケッチブックをのぞき込んでびっくり。林檎だ! まるい! つややか!
 君もする? というお兄さんの提案に、一も二もなく頷いたノーラ。じゃあ僕も、と嬉しそうにパパがいいます。三人でのスケッチは、さて、誰が一番うまく書けるかな?


●drink
「紅葉で椀を作って……ねぇ」
 以蔵はやや訝しげに、しかし半分は面白そうに呟いた。こういう話は嫌いじゃない。調べて主人に報告……もあるが、単純に飲んでみたいというのもあった。
 まずは紅葉の椀で、泉の水を汲んでみる。……ん、桃。美味いねぇ。
 次に、持ってきたただの水を紅葉の椀に汲んでみる。――水だ。何の変哲もない水。
 更に、普通に手で泉の水を掬って飲んでみる。……これもまた、水。
 成程? と首を傾げながら柘榴の酒を飲み――そして三口目、以蔵の口に広がったのは、林檎の甘酸っぱい風味であった。

 ――懐かしい。
 縁は紅葉で器を作りながら、幼い頃を思い返す。何度も寝物語に聞かされて、三番目は何だったの? と聞いていた気がする。
 人のために生きる者は、巡り巡って其れが自分に返ってくる。そういう含蓄の昔話。
「……まさかこの歳になって、其の“夢みたい”な場所に来ることになるとはなぁ」
 幻想ってのは広いもんだ。泉に紅葉の器を浸し、まずは一口。桃の甘みが心地よく、程よく酒の苦みが混じる。
 よくよく堪能したあと、二口目を飲んだ。今度は甘酸っぱい。桃の甘ったるさを洗い流すような、柘榴の風味。
 さあ、三口目はどんなお味? 縁は手を伸ばして……泉に器をぽい、と放った。あれ? やめちゃうの?
「いやなに。知るのがもったいねぇと思っちまったのさ」


 紅葉に負けぬ、カイトの赤い翼があった。
 カイトは20になったばかり。酒をくれと大人びてみたこともあったが、貰ったのはいつも“もどき”ばかりだった。
 紅葉の指を丁寧に重ね、船の様な器を作る。泉の水を掬い、一口。桃の甘みの中に混ざる苦さに、これが酒精かと瞳を輝かせる。
 二口。今度は甘酸っぱい柘榴の味に、緋色の羽毛がますます朱に染まり、そよぐ。
 三口。さて、それは蜜柑の味。南国の酸っぱさに、思わず海の味を想う。
 こうなっては海の男も夢心地。いつもは引き締めている顔も、緩んで優し気な下がり眉。さて、さて、さて。四口目はどんな味? 高僧は何口呑んだだろう?
 そんな事を想いながら――若き海の鷹は、すやすやぴいと眠りに就いていた。


 クーアは未成年ではないので飲みます。がぶっと。
 基本的にアルコールと呼称されるなら、味は問わないのです。アルコールというのは度数が高くなればなるほど、アルコールの味しかしませんからね。アルコールの良い所は美味しい所です。あと燃えやすい事。燃やせるものが増える事……おっと。これは秘密。
 お弁当をいつもいる旅亭から持ってきました。具沢山です。おつまみがいっぱいです。お酒の器が葉っぱという小さいものなのが僅かに不満ですが、しかたない。普通にコップで飲んでお水だったりしたら嫌ですからね。
 クーアは酔うことを知りませんが、この風景が美しい事は判ります。紅葉燃ゆ。……良い響きですねえ。ふっふっふ。


「ふむ、なるほど。様々な味のする酒があると聞いてやってきたのだが……」
 コウは泉に落ちていた紅葉の葉を拾い、座り込む。泉のほとりには――なんとはなし、男女二人が仲睦まじくはなしている様子が多い気がする。
 まあいいだろう。葉で器を作り、一口――……!
「う、美味い! これは桃か!?」
 思わずもう片手で水を掬い、飲んでみる。……水である。なるほど、葉で掬わねばただの水、という事か。
「今度は何の味がするのだろう。ずっと桃なのか?」
 ぐいぐい。ぐびぐび。まるでうわばみのように泉の水を飲み続けるコウなのだった。


「伝承にあった場所が本当にあった、というのは浪漫があるね」
 傍目に見るとただの泉だけど……其の伝承がこの景色に深みを足してくれてる気がするなあ。ドゥーは舞い落ちる紅葉を一枚とって、器を作る。
 彼は未成年なので酒ではないけれど、酒と同じ味がするのだろうか?
「……ん」
 器で掬って一口。桃の風味が口の中いっぱいに広がる。話に聞いてはいたがびっくりして、ごくんとすぐに飲み込んでしまった。――ああ! 勿体ない。
 では次は? これは柘榴の味なのかな……? 柘榴って余り食べないから判らないけど、美味しい。
 そして、三口目。爽やかに口内に香る味は、
「……林檎?」
 なじみ深い味に、心が落ち着く。四口目を掬おうとした手を止めて、ふと高僧に思いを馳せた。彼は何を感じ、何処へ行ったのか。
 ――紅葉が舞っている。


 クレマァダは酒の味を知らない。
 しかし、海洋の神秘となればコン=モスカの血を引くものとして調査せぬ訳にはいかない。
 クレマァダは考えた。酒が飲めて、飲んでも理性的で、あまり暴走しなさそうな者。
「……なるほど、其れでボクにお呼びがかかったという訳ですね」
「うむ。出来るだけ味を仔細に頼む」
 そんなに弱い訳ではないが、強い自信もない。大丈夫かな、とフェルディンは苦笑しながら葉の器に水を入れる。こくり、と一口。
「……ほう」
「どうだ? どうだ?」
 吐息するフェルディンに、興味津々、という様子でクレマァダが見ている。
「これは美味しい……桃の味がします。飲みやすいですね。という事は……ああ、そうだ。確かに二口目は柘榴の味で」
 そうして三口目を飲んで、これは、とフェルディンがクレマァダを見た瞬間、ふらり、と彼の足元が揺れた。
「む。意外と早く酔ったのうお主」
「め、面目ない。余り酒に強くはなかったようで……」
「よい。少し休め。この膝くらいなら貸してやるから」
 半ば無理やりクレマァダの膝に乗り、くじらのこもりうたを優しく聞きながら、フェルディンは思い返す。
 ああ、そうだ。三口目の味は、……あの時、……一緒に頂いた、お茶の――


「いろんな味が、楽しめる……これは、チャンスですの!」
 ノリアとアルゲオは二人、湖畔に座って紅葉の器を見ていた。
 最初は桃と聞く。次は柘榴だと。では三番目はなんだろう? 首を傾げても、アルゲオにも、彼女が師匠と呼ぶノリアにも判らない。
「……アルちゃんさん」
「ん~~……ん? 何でしょう師匠」
「良かったらでいいのですが、はんぶん、さしあげますので……3番目のお味を、教えてください、ですの!」
 なんだ、そんな事か、とアルゲオは快諾した。そうして二人、泉の水を掬って飲む。一口目、ふんわり桃の甘い風味が広がって。二口目、少し酸っぱい風味が口内に満ちる。そして三度目、歯を水に浸して掬い、お互いに半分だけ口に含み……
「あ! これ、葡萄です! 師匠、葡萄の味がしますよ!」
「ブドウ、ですか? じゃあ、わたしも、そうなるように……」
 念じて念じて、えいっ! ノリアが掬って飲んだその味は、
「……? 味がしない……はっ。これはまさか、ブドウはブドウでも、海ブドウ……!?」
「海ブドウ!? の、飲んでみたいです! 交換! 交換!」


 アーリアとミディーセラは肩を並べ、泉のほとりへ。
 お酒の泉と聞けば放っておけないこの二人。桃も柘榴もどんとこーい! という訳で紅葉で器を作る。
 お酒を楽しむのに理屈はいらない。何故とかどうしてとか、そんなものは関係ない。
 一口目は桃の味。甘くておいしいわぁ、とアーリアが頬を抑えて嬉しそうな顔。
 二口目は柘榴の味。飲むたびに味が変わるのも面白いですねぇ、とミディーセラが頷く。
「…ねぇみでぃーくん。」
 三口目は、どんな味になるかしら?
 そんな事を言いながら、二人で三度目、器に水を汲む。
 果たして感じた味は、二人とも異なるもので――…貴方の味も知りたいわ、とミディーセラの唇をアーリアがぺろり。
 あらまあ大胆。なんてミディーセラがいうと、確かに大胆だわぁ!?と今更慌てるアーリア。
「……え、えと。 こっちも、味わってみる?」
 ――鬼灯に。桃色溢れる坂道に。年々願いを託してきた私たちだけれど。
 願いは要らないというアーリア。願いが増えてしまったというミディーセラ。
 二人はいつまでもいつまでも、肩を並べて歩いていくのだろう。


 真とバルガルは共に、泉のほとりで葉の器を作っていた。
「俺はねえ、今日をとっても楽しみにしていたんだ。付き合ってくれてありがとうね、バルガルさん!」
「いえいえ。自分もこう言ってはなんですが、子どものようにそわそわして待っていましたよ」
 ははと笑い、葉を器にするとは洒落てるねえ、と、早速一口目を頂く真。バルガルもまた、それに続いて泉の水を汲む。
 一口目は桃。成程、甘い。しかし少しだけ苦いのは、アルコールのせいか。
 二口目。おや、本当に味が変わる! 柘榴だ。酸いも強すぎずよく感じられる味わい。
 そして三口目――口にして一瞬、二人は器を傾ける手を止めた。
 真の記憶によぎるのは、さらり流れて腹で熱を発する日本酒の味だ。ああ、いつぞや飲んだ事のある――ふふふ、名前が思い出せないや。
 バルガルの記憶からそっと掬いだされた其の酒精の味は、強き酒精に葡萄の香り。ああ、なるほど。ブランデー……あの馬鹿共と呑んだ記憶を何故ここで思い出すのでしょうね。
 二人とも味わうように、惜しむようにちびちびと器の中の酒を飲み。
「……辻岡さん。貴方の飲んだ三口目はどのような味でしたかね? 此方は――少々無粋ですが、過去を思い返す懐かしきものでした」
「やあ偶然。バルガルさん、俺もね、とても懐かしいお味に出会った気がするんだよ」

 赤い。
 まるであの日の炎みたいだ。あの日、守れなかった人々の、血のようだ――
 アイシャは泣いていた。紅葉にかつての惨劇を思い出し、さめざめと其の瞳から雫を落とす。
 そこにすい、と差し出された紅葉の器。ぱちくり、と蒼穹の瞳を瞬かせるアイシャに、どうぞ、と声がかかった。
「……あの」
「貴方には、紅葉が別のものに見えるのですね。 私はアシェ。貴方は」
「初め……まして。アイシャと申します……私には、この紅葉が……戦火に見えて」
「戦火、ですか。……命は廻るもの。もしかすれば、紅葉の風景も貴方の見方が真実かもしれません」
 言いながら、泉の水を汲むアシェ。
「しかしてもし紅葉となったなら……私は美しく舞い、見る人に幸せに生きてほしいと願います」
「あ……」
 アイシャは涙をぬぐい、己も紅葉の器を水に浸した。喉に通せば爽やかな桃と柘榴の味がする。けれど、三口目でアイシャは迷った。もし、血の味でもしようものなら。
 一方アシェは、三口目を飲まなかった。ふうと息に交えて霧となし、森への感謝を捧げる。
「…すべてを飲み込む必要もないのです。みんな、みんな数多の縁の中で生きているのです」
 その言葉に勇気づけられたアイシャは、三口目を口につけて、泣いた。
 今は亡き父が取ってきてくれた果物の味が、舌に色濃く残っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!
皆さん色んな楽しみ方をされていたようで、書いているこちらも楽しくなりました!
高僧が何を感じ、何処へ行ったのか。其れは永遠に闇の中。
ご参加ありがとうございました!

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