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シナリオ詳細

<神逐>想いは藤色

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●苦悶、妄執、そして虚無
 七扇直轄部隊『冥』。
 その神秘性と異常性は、彼らの正体が明らかではないがゆえのものだ。
 ……畢竟、『敗北した冥』などという存在からは神秘性が剥げ落ちる。上を見れば自分より才覚と実力が伴う者は少なくなく、周囲を見てもより上に見初められたものが実力を得る世界だ。
 ままならぬのだ、貴族社会は。それに傅くということは。
「忽那沙峨か。……いつぞやに消した神人の脇にいたあの男だったか」
 隊長格であった彼はその男を追って同胞に迎え入れようとし、神人と彼とに拒まれた。
 そしてその昔、あれは天香長胤が態度を硬化させるに前後し、獄人が高天京で暴挙に出た時のことか。
 すでに刑部に属していた沙峨が『同族討ち』という不名誉を被る寸前、その状況に割って入った――命知らずで世間知らずな――その娘ごと、拮抗した状況に埒を開けるべく踏み込んだ『冥』が反抗勢力を一挙に制圧したのだったか。あれは奴の為でもあったというのに、倒れ伏した娘への二太刀目を頭部で受け、激高した獄人の手で口元に大きな傷を負いつつも彼らに手をかけず、しかし『冥』に食って掛かったあの男。
「馬鹿な男だ」
 今となっては、否、今この状況にあってまだ、刑部卿が長胤を信じ背を押す状況でなおも希望を捨てぬ。
 馬鹿な男だと、つくづく思う。
 そして、彼が歩む先で呪具を握ってぐずぐずの肉塊となった「出来損ない」も愚か極まりない。彼はそのゴミを蹴り飛ばすと、握られていた呪具を奪って己に押し当てる。
「貴様は愚かだ。だからこそ悔やまれる。あの日殺してやれたなら、きっと貴様は苦しまなかったろうになあ」

●想い捨てて大義に走らむ
「……以上が俺と『藤色の髪の女』の顛末だ。俺は天香の家を許す気はないが、獄人が獄人を、神人を手にかけんとした狂気もまた尋常なものでなかったと考える」
 忽那沙峨は、今にも高天御苑に乗り込まんとするイレギュラーズ、ことアーリア・スピリッツ(p3p004400)に対し経緯を語って聞かせた。
 ……その女は、今も生きてはいる。ただ、ほぼ廃人同然となり、郊外の人の手のつかぬ奥地の小屋に匿っている程度となってはいるのだが。
「『冥』の連中の顔など知らんのでな。俺にとって奴らが『どう』であるかはどうでもいい。ただ、今はこの状況の打開に手を貸す」
 四神の加護を得たイレギュラーズが『黄泉津瑞神』を鎮め、この国を背後から蝕む魔を討つ。それに際し、周囲に現れた多数の肉腫、けがれ、あやかしを討ち、以て道を為す必要があった。
 そこで障壁となるのが七扇直轄部隊『冥』、そのなかで以前沙峨らが取り逃がした頭目である。彼は、イレギュラーズはその人物が因縁深き者だとは知らない。
「高天御所に向かう経路のひとつに、『棚花ノ園』というところがある。そこに群がる連中を蹴散らし道を作れば、一気に経路が簡略化できよう。だが、守りは硬い筈だ。
 俺が出張るとあれば『冥』も動く、はずだ。戦力の増強は必至とみられる。努々、油断せずついてきてもらいたい」

GMコメント

●達成条件
・複製肉腫『藤枯し』の撃破
・複製肉腫『枯渇の子ら』の撃破or救出

●複製肉腫『藤枯し』
 拙作「<傾月の京>刑冥ノ戯」で『冥』の頭目として現れた男です。
 純粋に天香への忠誠心で動いており、過去に沙峨の語る「神人の女」を再起不能にし、その角が折れる一因を作った男です。
 ただ、その事実については本人も「多数ある路傍の石」程度にしか思って居らず、指摘されれば思い出す程度には印象が薄い様子。
 全快の敗北後、呪具を取り込んで複製ながらもより強力になっています。
・神攻・HP・反応高め。怒り無効。攻撃優先度は「沙峨>アーリア>その他PC」。
・円環呪:神中範・識別、変幻(中)、HA吸収(中)、猛毒
・呪突:神至単・喪失、Mアタック(大)、連、銃殺
・幻の影(神超単・万能、スプラッシュ3、虚無2、魅了、苦鳴)、
 その他、BS回復等をこなします。
 連鎖行動持ち。

●複製肉腫『枯渇の子ら』×10
 『冥』のメンバーが相次いで呪具で複製肉腫にされた者達です。
 相対的に能力は上がっておりますが、反面、動きが単調になりがちの様子。
 命中が高めで、通常攻撃に『必殺』『呪い』が付随します。

●忽那・ 沙峨(くつな・さが)
 アーリア・スピリッツ(p3p004400)さんの関係者。友軍。
 OPの経緯があって、アーリアさんに非常に複雑な心境を抱いていました(無論、アーリアさん本人とは無縁の他人です)。
 戦闘においては神秘状態異常特化型で能力値減少系BSを多用します。

●戦場
 高天御苑・棚花ノ園。藤棚(今は咲いていません)など、季節の草花を愛でることができる風情のある場所です。
 比較的広いです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <神逐>想いは藤色完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月18日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
寄り添う星
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
黒影 鬼灯(p3p007949)
頼れる守護忍
ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)
星飾り
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

リプレイ

●棚花ノ園、血に染めてなお
「あれはアザミ、あれは竜胆。そして大きな藤棚……。こんな時じゃなかったらきっと穏やかな場所なんだと思う……」
「あの神人はここを気に入っていた。俺もそうだ」
 『恋の炎に身を焦がし』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)の言葉に、沙峨は静かに首肯する。穏やかな場所で、忘れがたい場所。ここに足を踏み入れること自体、二度とあるやなしやと思っていた程度には。
 フラーゴラから手渡された香水瓶を見たその表情(主に目許)に、往時の某かが去来したことを彼女は見て取れただろうか?
「……そういうことだったのねぇ」
「そう、そんな事が……その方のこと、とても大事に想っていますのね」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)と『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は沙峨の身の上を聞き、納得したように目を伏せた。その話がどれほどの重みを持つかは語るまでもない。匿っている神人の状況を思えば、口外することそれ自体の危険性もまた然り。
「なあ。沙峨は、その人に治って欲しいか? 生きていて欲しいと、思っているか?」
「……愚問だ。この国の歪みに巻き込んだ女が、悪しきに堕ちた国の姿を嘆いたまま命を落とすなど俺は耐えられない」
 『神威の星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)の問い掛けに応じた沙峨の声は、確固とした己を持つ者の言葉だった。生きてこの国が変わる姿を見届けさせたい、そう思う気持ちは偽りではない。たとえそれが、自分の命を賭けた末の話であろうとも。
「貴殿が沙峨殿か。良い目をした青年だな、これまでの経歴や能力を聴くと優秀の様だし是非我らが『暦』に……」
「んもう! 鬼灯君、スカウトは後にするのだわ!」
 己の命を捨てる覚悟であった沙峨は、『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)とその『嫁』である章姫のやり取りに目を瞬かせた。捨てることも辞さぬ命を、戯れの言葉とはいえ拾おうとする者がいる。その事実が意味する所を知らぬ彼ではない。翻って、自分が死ぬことは神人の娘が死ぬことと同義であることに、沙峨は遅まきながら気付く。
「――鬼灯とやら。神威神楽には暦は12しか無いが、承知の上か?」
 沙峨の思わぬ軽口に、鬼灯は僅かに目を見開く。よもやそのような返しができるとは思っていなかった。……そして、『暦』が既に12人、揃っている事実を見透かされるとも。
「花房の紫に若芽の緑。アーリアちゃんも綺麗だね。……でも暗い顔ばかりでは不細工でな。日が当たらない藤の花が早々腐っていくように暗鬱は似合いません。暗い顔した沙峨君の陰気が藤に移ったのでは?」
 だが、俄に和んだ空気を『星飾り』ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)の言葉が――どう取り繕っても甘く見積もっても――ぶち壊しにする。
 一同の空気が明らかに凍り付くのを気にせず、「顔面暗黒大魔王沙峨君は放置して仕事を始めましょうか」等と言い出す神経の太さは少なくともこの場に居るイレギュラーズは誰一人持ち合わせないものだ。
「俺が陰気、か。口に戸を立てぬ女というのは、思いの外目端の利くものなのだな」
「事実を示されて不愉快か、忽那の。貴様に何の縁があるかは知らぬが、下らぬ情に絆されて正気を失うのが目に見えて居るぞ」
 凍り付いた空気を割ったのは沙峨であり、現れた藤枯しと枯渇の子らである。見る間に膨れ上がる殺気は隠す気が無く、油断があれば命を獲りに来る者のそれだ。
 鏃の如き陣形を取った彼等は一様に得物を構え、一人として通さぬという覚悟が見える。
「沙峨さん、共闘感謝致します。共に目的を成し、帰還致しましょう!」
「この豊穣の地は独自の文化が根付いてて、音楽も演芸も独自のものがあるんだよ! そこを壊すつもりなら、私は徹底的に抗ってやるからね!」
「その文化は、我等八百万が培ったものだ。獄人が己可愛さに身勝手振る舞う結果として廃れるものがあるならば、笑い話にもならんだろう。……壊そうとして、現にこの国を乱したのは貴様等ではないのか?」
 沙峨にエールを送る『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)に合わせ、カムイグラのあるべき姿を求める『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)の意気込みが響く。
 だが、その言葉に藤枯らしは冷ややかな反応を示した。……それは『八百万(われら)』の文化だ、と。
「狂い果てた藤の花。名前通り枯らしてやろう。さぁ、舞台の幕を上げようか」
「戦いましょう。全てを取り戻す事はできなくとも、同じ悲しみを味わう人達が出ないようにする事はできるのですから」
 身勝手な主張に真っ先に応じたのは鬼灯とヴァレーリヤだった。どことなく敵意の度合いが増したのを見るに、仲間の決意を蔑ろにした相手への純然たる怒りが見え隠れする。
 そこに沙峨は介在しない。だからこそ『より純粋に』この相手が憎らしい。
「リゲルくん、沙峨くんをよろしくねぇ。……私、ちょおっと今日は大人げない女なのよぉ」
「頼もしいです、お任せ下さいアーリアさん!」
 アーリアが黒手袋に添えた手、そこに嵌められた気まぐれな贈り物が光を帯びる。
 リゲルの抜いた銀の剣はそのギフトを伴って輝きを増す。昏い殺意と未来への光明が、藤棚を背景にぶつかり合う。

●希望を枯らす敵意
「アナタが速いなら、ワタシはもっと速く立ち回ってみせる……!」
「速いばかりで軽い刃など、打ち落とすに他愛無――っ」
 フラーゴラの払暁が認識速度を超えて鞘走り、藤枯らしの視界を遮ろうとする。脇腹を目掛けて一閃された斬撃は間違いなくそこを抉り、その動きを多少なり鈍らせた。
 が、敵も然る者。強力なイレギュラーズにかかずらう位なら、沙峨を優先して潰すことに心血を注ぐ。そして、それを邪魔するであろう者達は同期した動きを為す配下で押し止める。接近戦で一対一となって配下に勝つ見通しは薄いが、覚悟の足りぬ者、守りに心得なき者の持久力を削ぎ、以て総戦力を削ることさえ出来れば決して愚策たり得ない。
「その狙いは、見切っているッ!」
「……ほう」
 愚策ではないが、見透かされるということか。リゲルの白銀の剣が藤枯しの突きを受け止め、発生した次元震がそれ以上の前進を許さない。2対1に持ち込まれた格好だが、まず相手の一手を潰すことに成功はした。
「沙峨君とアーリアちゃんから離れれば安泰だと思ったのに、話が違いません?」
「散開したのを逆手に取られるなんて、本当に面倒な相手ですわね! でもそう長く足止めができると思わないことですわー!」
 この状況に一番泡を食ったのはラグラなのは言うに及ばず、藤枯しの能力を警戒して散開陣形を強いた面々にも同程度には面倒な状況だった。
 ヴァレーリヤはその火力の高さからそうそう後れは取るまいが、防戦を強いられればじり貧なのはラグラとそう変わらない。
「仲間を分断するのは良策だが、同時に愚策でもある。俺に2人も割いたのは同族嫌悪か?」
「鬼灯くん、そう煽らないの!」
 藤棚の柱を背に2体の枯渇の子らを相手取る鬼灯は、次々と放たれる攻撃を首を捻るだけで避け、黒衣の籠手の掌上に黒の月を映し出す。章姫がぷりぷりと怒りつつ釘を刺すが、それすらも彼にとっては福音でしかないだろう。章殿は可愛いなあ、などと心中ほくそ笑みながら2人の運を反転させるその様はいっそ清々しささえある。
「リゲル、大丈夫か?」
「俺はなんともないさ! 他の仲間を先に頼む!」
 ウィリアムの声に応じたリゲルの声は溌剌としたもので、少しの不利も見受けられない。が、数度の刺突を捌いた彼の切っ先にほんの僅か、長く苦楽を共にしたウィリアムですら見落としかねない挙動の後れが見えたのは事実だ。それに気付きながらも、治療を優先すべき相手がいる歯痒さは如何ともしがたい。
「大丈夫、リゲルさんは――藤枯しは、私に任せて」
 枯渇の子らの一撃を軽やかに躱しながら、アリアはウィリアムに微笑みかけた。彼女は明るい性格だが言葉が軽かった試しは無い。必然として、放たれた魔光閃熱波はリゲルに注力していた藤枯しの肩口から左手首までを灼き、思いがけぬ隙を作り出す。
(さて、細工は流々……)
 そして、アリアにとってはこの行動こそが準備段階。連携と実力の見せ所は、まだこれから。
「沙峨くん、お姉さんと一曲合わせて貰えないかしらぁ?」
「お前はこの状況でも変わらんのだな。……仕方ない、羽虫を落すぞ」
 アーリアは自身へ向けられた枯渇の子ら、そして狙える距離にある個体を視認すると琥珀色の雷撃を放ち、その意識に鋭く滑り込む。沙峨の目は鋭いまま、然しほんの僅かに目尻を下げ、両手で印を切った。
 アーリアを狙った個体を起点にした広域術式、されど彼女を狙わぬ繊細さを伴ったそれは何人かの敵の足元から影の手を伸ばし足を掴み取った。
「長くは保たんぞ」
「十分よぉ」
 それなりの呪力を消費したのだろう、沙峨の肩が忙しなく揺れる。だがまだだ。彼の目には明確な決意の光がある。リゲルの堅守にて、その身は未だ疵一つ無し。
「まだまだ演目は始まっても居ないのよぉ、独りぼっちにはしないでしょう?」
「忽那の。貴様という男は、一度ならず二度までも『そんなもの』に惹かれるのだな。また俺に刈り取られるのを承知の上で」
 アーリアの目が怪しく光る。その目、その髪色を凝視した藤枯しは、静かに瞑目してからゆらりと身を傾ぎ、アーリアへと狙いを定めた。

●因縁再燃
「どっせぇーーーーーーい!!!!」
「……あ゛ー、もう、有難うねヴァレふんふちゃん」
「ヴァレーリヤですわ! 何ですのその略し方は!?」
 ラグラは運命の助けを借りて辛うじて立っている状態にまで追い込まれていた。ヴァレーリヤが枯渇の子らを倒すのにあと少し手間取っていれば、その身が戦場で立っている保証はなかっただろう。無論、ヴァレーリヤとて無傷ではないのだが。
「動きは単調ですけれど一撃に賭ける殺意が凄まじいですわよ、彼等」
「じゃあ藤枯し君を先に倒せば更に大ぶりになって楽に躱せる?」
 じゃあ回復に専念するね、とヴァレーリヤを癒やすラグラの姿を遠巻きに見て、ウィリアムは然し、と眉根を寄せた。
(藤枯しが例の神人を再起不能にしたのだとすれば、沙峨が冷静さを失う可能性が――いや、それ以上に今のアーリアさんが危ない)
 彼の懸念は的確だった。自身の有り様、かつて『藤色の髪の女』を死に至らしめようとした事実を思い出した藤枯しは、アーリアへ向けて幻の影を――その神人の面影をした呪いを撃ち込んだのだ。
 己と見まごう影、されど突出した穏やかさと慎ましい身代をしたその姿にアーリアが目を奪われなかったといえば嘘になる。だが、魔女の精神を侵すにはその波長は余りに単調に過ぎた。あの海に揺蕩う歌声に比べれば。
「アーリアさんに汚らしい術を使うな……!」
「汚らしいとは異な事を。貴様等が知りたがっていた女の身代であろうよ?」
 リゲルは、狙いが沙峨からアーリアに変わったことを幸いと白銀の剣を攻めに転じ、絶対零度の一閃を浴びせにかかる。状況はリゲルに有利。だが、その所業を許せるワケでは決してない。
 そして同時に、アーリアがそんな術に後れを取るとも、彼は思っていない。何故なら、戦場に響いたアリアの歌声がそれを許す道理が無いからだ。
「呪い、恨み、嘆きの歌唱セットのお味はどうかな?」
「……小癪な真似を」
 脳内に響く狂気、指先を這う呪縛、かの娘を倒せと叱咤するあらぬ声。悪神の名を冠するに相応しい邪道の術は、藤枯しの動きに明確な楔を打ち込んだ。
「ゴメンね……ワタシにはアナタ達を助けてあげられない」
 フラーゴラは枯渇の子らを蹴散らすと、一直線に藤枯しに肉薄する。その覇気は、救えぬと割り切ったがゆえの殺意に似る。
「鬼灯くん、助けてあげられないの?」
「残念だが余裕はないな。沙峨殿とアーリア殿で俺の両手は塞がっている」
「私の手を広げても?」
「……素晴らしい提案だが、彼には届かぬ声だろうよ」
 鉄球を振り回し、鬼灯は次々と枯渇の子らの命を刈り取っていく。章姫の懇願はしかし、この状況に於いては難しいものなのは確かだ。割り切ることでしか助けられぬ者も、時にはある。
「アリアちゃんに沙峨くん、そして私。……少し術が得意だからって甘く見過ぎよぉ?」
「戯けが! 国に従いて国の有り様を裡から崩すような忽那の蛮行が、夢しか見ぬ娘の戯言が、現実に足元を掬われた長胤殿の御手を煩わせることの愚を理解できぬなど――」
「でも、その夢にアナタは負ける」
 己の不調と傷を癒やし、しかしアーリアの挑発に激昂した藤枯しは迫るフラーゴラへの反応が一瞬遅れた。
 青い流星は二度閃く。頭部、そして心臓を打った痛打はその意識を一瞬だけ刈り取り、次に続く一撃への『完全なる無防備』を提供する。
「あの女を襲ったのが悲劇だというなら、お前が俺を二度も仕留め損なったのは喜劇なのだろうな。精々、彼岸で石を積め」
 沙峨の呪符によって生み出された鴉は、藤枯しの目を貫いて後頭部から抜けていく。その呪われた命と共に。

●力及ばず悲劇に遭い、力ありて悲劇を祓う
「ワタシにもっと……もっと、力があれば……!」
 フラーゴラは、横たわる11の屍を前に歯噛みする。力があれば、殺す前に救う手立てはあったのだろうと。しかしそれは、今の彼等のコンディションと力量では簡単には行かない話だ。結果論はいつも、及ばぬもの。
「……救えなかった。尽力しても、ここまで遠いのか……!」
「助ける手立てはあったかもしれない。だが、沙峨と俺達が先に進むのが最優先だ。殺してやるくらいで丁度、救いになるのだろう」
「ままならないものねぇ」
 リゲルの、心からの悲嘆を思わせる声に同情を寄せこそすれ、鬼灯はそれが過ぎた願いであったことを承知している。激戦が続く戦局にあって敵をも慮ることは難しい。それが沙峨の運命に疵をつけた者相手であれば尚更。章姫も、彼の葛藤と決断を知ったればこそ、その言葉を否定するすべを持たなかった。
「上の者に傅き、呪具に頼る。そう言う人はいつか屈辱に負ける。古今東西、シナリオの顛末は変わらないね」
「沙峨の過去を奪った相手だ。奪われる覚悟がなかったとは言わせない。……倒したからこそ前に進める事もある」
 アリアは悔いるでもなく、目の前の事実という単調なシナリオの顛末を思う。そのシナリオに、少しでも変化があれば彼等は救われる可能性を掴めたのだろうか。
 ウィリアムにしてみれば、沙峨の未来に疵を付けた者達が被害者の顔をしてのうのうと生き残る事も納得は出来ない。そういう意味では、彼は恐らく仲間達以上に相手の死に対してドライだ。それは命の価値観で決意が揺るがないという意味では正しい。
「ね、沙峨くん」
「……なんだ」
 アーリアのどこか悪戯めいた、期待を込めた視線に沙峨は思わず身構える。この女は信用出来る。が、その表情に宿った感情は信用していいのか、はかりかねた。
「事が片付いたら……会いに行ってみましょう、その人に。私もそっくりさんだなんて、会ってみたいもの!」
「私も会ってみたいですわ! ダメで元々、沙峨のお相手を救ってあげられるなら万々歳ですもの!」
 そのときは高いお酒が欲しいですわね、などと茶化しつつも、2人の表情には偽りが無かった。ただ、希望だけがある。
「全部が全部、上手く行ったその暁には……此処で綺麗な藤の花を眺めたり出来たら良いな」
「暁には、など異な事を言う。“もしも”ではなく、“必ず”見に来る機会を設けようではないか」
 その方が、あの女も喜ぶ。
 沙峨の言葉を聞いたイレギュラーズは、彼の顔を覆う布の奥が僅かながら笑みの形を取った、ような気がした。

成否

成功

MVP

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

状態異常

リゲル=アークライト(p3p000442)[重傷]
白獅子剛剣
ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)[重傷]
星飾り

あとがき

 最後の最後まで素直じゃないですね、本当に。

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