PandoraPartyProject

シナリオ詳細

強襲のシャリテ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●慈愛の名を騙る者
 高い塀の内側に存在するスラム街を目にして。果たしてそこが『聖域』だと呼ばれているなどと、一体誰が想像できるだろう。
 何処かの地区からやって来た子供達やその管理者たる大人――ファザーと呼ばれる神父たち、彼等は一様に都市の正門に吊るされた『異端の騎士』に対し手に手に取った礫を投げつけている。
 荒廃、とまでは行かずとも。
 如何に表面上は清掃が行き届いていようと、独立都市アドラステイアの下層域には難民や孤児の存在がある。従順に石礫を投げつけている子供達は理解していないだろう、しかしそこには秩序と混沌が介在していた。

 中層に繋がる扉の傍に集った、数十の鎧騎士の子供達。
 彼等は互いに互いを律するかのように監視し合い、背後に立つ修道女や神父達がその様を見て微笑んでいる。
「先日の騒ぎで怪我人が大勢出たのをご存知ですかな。シスター・ロッソ」
「……あらァ、リンド神父。ごきげんいかがァ?」
 集会の隅。ある一党とその管理者が赤いマフラーを巻いた一団を前に睨みつけていた。
 赤いリップが艶かしく光り、ロッソと呼ばれた修道女に扮した巨漢が白亜の正装に身を包んだ神父に向かって笑みを浮かべている。
 そのとぼけた様子に神父が金髪の下で青筋を見せた。
「いったいあのような夜更けに子供達と何をしていたのですかな――ああ、この際詮索はしないでおきましょう。
 ただお話したいのは、我等の愛する清き子等が憎き仇敵どもの謀略にかかり、あまつさえシスター・ロッソの配置した騎士たちを欺いたという二つの事実……これについて如何するおつもりですかな」
 リンド神父が詰め寄る。その周囲でも彼に従順な聖銃士たちがマフラーを巻いた子供達へと暗い視線を送り、明確な敵意こそ見せずとも不穏な空気が流れるのだった。
 しかし当のロッソは「あら可愛い」と肩を竦めるばかりで、彼の傍にいる子供達もただ虚ろな眼で聖銃士達を見つめるだけだ。
「どうもこうもしないわよォ? あの場で徹底抗戦していればどうなったか分からないし、逃がしてしまったのも相手が一枚上手だっただけでしょう」
「神聖なるファルマコンの名を語る者が、逆賊風情に遅れを取ったと認めるつもりで……?」
 やーだこの人怒ってるゥ。
 と、白けた顔で視線を泳がせるロッソの所へ近付く影がひとつ。
 大人も子供も散り散りに、集会を終えたと思われる中で。小さな集団が一触即発の場へ近寄って来たのだ。
「ごきげんよう、リンド神父。マザー・ロッソ」
「……麗しきミシュリーヌ、何か御用か」
「彼女。ロッソの騎士さん達にキシェフをと思いまして」
 リンド神父が眉根を下げる。
 一方であまり反応を見せずに続きを聞こうと静観している巨漢の修道女に、ミシュリーヌと呼ばれた修道女が白髪を揺らした。
「先日、私が町の様子を彼に見に行かせていた所……例の一党に遭遇しかねない状況に当たったそうなのです。しかし、彼はロッソの騎士達に危機から遠ざけられた事で逸早く異変を報せるに至ったとか」
 ミシュリーヌは色白、というよりも青褪めたようにも見える。不健康そうな白い肌を覗かせたその顔に、柔和な笑みを浮かべた。
「マザー・ロッソ……私の、可愛い可愛い騎士さんたちを救って下さり、神の名の下に深い感謝を。
 嗚呼、リンド神父。なぜそんな怖いお顔を? どうか今は諍いはおやめになって……偉大なるファルマコンの御意思は常に我等が信徒を見守っていて下さいます。そうでありましょう?
 さぁ、さあ。ロッソ? あなたの可愛い騎士さんはどちら? どうかお見せになって……?」

 優しい声音。
 温かな言葉の紡ぎ。
 見開かれた赤い瞳は涙をとめどなく流しながら、リンド神父とマザー・ロッソを交互に見つめていた。
「んまァ! 素敵ね、ええ素敵! そういうことだからリンド神父ゥ? またあとで……ね」
「……宜しい。勤勉なる我が子等に祝福と称賛を、キシェフの贈与は然るべき働きと献身の下に」
 気色悪い投げキスに神父は目を閉じ、聖銃士達と共にその場を離れて行く。
 その姿を見遣りながら、ミシュリーヌなる女性は傍らに寄り添っていた赤い軽鎧の青年に視線を向けた。
「ごきげんようマザー・ロッソ。先日は『骨喰』のディミトリに救われました」
「あら、あァら……! 素敵。あなた聖銃士に成れたのねェ! んふふ、よく似合っているわよ。ディミトリ達の班なら今は私の地区で後始末を……」
「ごめんなさいロッソ。本当は、貴女にお願いがあって来たの」
 額に一対の飾り角を生やした兜を被った青年にロッソが迫ると、冷たい声がその手を制止させた。
 巨漢の修道女は表情を消して。マスカラの大きな目を細めた。
「――なァに?」


 血の臭いがする。
「……こちらの被害状況は?」
 は、と報告を促された神父服の男は頭から滴り落ちる血液を拭うことなく応えた。
 つい先日から散発的に謎の魔獣が襲撃をかけていたが、負傷者数名のうちに撃退に成功していた。
 しかし昨夜から新たに『アドラステイアの騎士』を名乗る一団が襲撃と撤退を繰り返すようになり、現在は死者8名にも上る被害を受けている。
 聖教国ネメシス北東に位置する山村。
 『アンダービレッジ』は現在、この地と街道を繋ぐトンネルを意図的な崩落によって塞がれ、海岸へと続く森を敵勢力に押さえられたことで完全に孤立していた。
 敵方からの要求は一切無し。強いて言えば……戦える者を抹殺すべく殺意を露わにしている節が見られる、という点が相手の企みに繋がっているのだろうが。
「やられたな、向こうは我々の正体を看破した上で襲撃をかけているらしい」
「聖都へ向かわせた伝令は山を越えられたでしょうか」
「今朝、シトレイア殿の首が吊るされていた……彼女が護衛していた伝令役のバラモンも、恐らくは」
「孤軍奮闘。援軍は見込めず、村人の脱出も叶わないか」

 そこは、アンダービレッジという村の中心に建てられた教会の一室だった。
 長テーブルを囲む男女はいずれも牧師服や修道服、神父服に身を包んでいる――が。どこを見渡しても、誰を見てもその体には疲弊の跡や生々しい傷痕が包帯や顔色に表れていた。
「まさか聖都を離れ慰安に努めよと命を下された先で『新世界』の手先どもに出くわすとはな。運が良いのか」
「いいえ。神の思し召しです……彼の反逆の民をこの地で滅せよ、と」
「神託なら我輩にも下りましたなぁ」
「おや奇遇な、私も神託がありました」
「ふふ……では共に言ってみましょうか?」
 戦い慣れたその身を起こし、彼等は互いに目配せして言った。
 『ここを聖戦として、村人諸共玉砕せよ』……と。静かに重なった声が部屋に重く響いた。
 素晴らしい、と。神父服を纏った騎士が一人叫んだ。
「彼奴等の目論見はとんと分かりませぬが、所詮は逆賊。偽りの神を繕いあまつさえその偽りの信仰を真実として天義に仇成そうとは、今宵この身を刃として奴等の心臓に突き立てようではありませんか!」
「ああ、嗚呼! やはり真実の神は我等を見守って下さっている! お導きに従うのです、ジャンメール卿!」
「すぐにこの村で育成されていた使徒を動員しましょう。首魁の魔女を討つべく、ネメシスに忠誠と神への不動の信仰を捧げし敬虔なる信徒を敵の使い魔にぶつけるのです!」
「それでは足りぬ! 戦えぬ子供達の安全を確保する方が先だ! まずは乳飲み子を神の火に捧げ、それから過去に罪を犯した者を火種に、さらなる加護を賜るのだ!」

 一声上がる度に、血走った眼と怒声が続く。
 数日にわたる散発的強襲、夜襲、奇襲の数々に聖教国ネメシスが誇る騎士達はいずれも精神的な限界が来ていたのだ。
 ……体力は既に限界を越えている。元より、この村には『大いなる災い』の際に負った傷を癒すために来ていたのだから。
 ならば、彼等に残されたのは魔種との戦いにすら耐えた不滅の信仰心だけ。
 一同の様子を観察する初老の男。聖騎士、エドワール・ジャンメールは低い声で一喝する。
「――神の敵を討つ前に信徒の血を流すつもりか、貴様ら」
「…………」
 片目に包帯を巻いた男の底知れぬ殺意を浴びた騎士達は、一様に椅子へ深々と座り込んだ。
 ジャンメールは同胞達を見回して続ける。
「村人達は我が国、神聖にして白亜の信仰を貫き我等に尽くしてくれた領民に他ならない。報いるべきである。
 敵はたかが十数人の聖銃士を名乗る忌まわしき逆賊……だが、その真贋に関わらずその信仰は本物だ。嘗めれば、死という形を以て我等に祝歌を送る事だろうよ。
 ……ゆえに、戦える者を募れ。その信仰を説き、愛と正義の為に剣を取れと伝えよ」
「し、しかしそれでも敵は……」
「私が山を越え、聖都へ往く。そして一日でも早く貴殿等を救いに援軍を引き連れて参上して見せる」
 馬鹿な、と誰かが言った。
 現状の騎士団では遥か遠方の山村へ行軍後すぐに戦闘が行えるなど、聖騎士の中でも相当の実力と体力。そして相応の手続きを踏まねば許されないだろう。
 仮にそれが叶っても、この村は全滅している。
 騎士達は血祭りに上げられ、逆賊の下に首を晒されるのだ。
「そうはさせぬ……そして貴殿等に私を止める事など、できまい」
 生きて。神への信仰を武器に戦い続けろ。
 そう言い終えたジャンメールは、席を立ち――血の滲んだ腹部の包帯を押さえたまま部屋を出て行ったのだった。

GMコメント

 " どうか、彼等を窮地から救い出してやって欲しい。 "
   彼等は……今も戦っている筈だ……

●依頼成功条件
 聖都でギルド・ローレットを召喚した騎士の遺志を継ぎ、
 『マザー・ミシュリーヌ』並びに『聖銃士』たちを撃破or撤退させて下さい
 その他の子供達はどちらでも構いません

●【danger!】エネミー
 ■『マザー・ミシュリーヌ』
 独立都市アドラステイアから天義の騎士達を抹殺すべく現れた集団の"マザー"を名乗る、白髪赤瞳の修道女。
 彼女は彼女が最も気に入っていると見られる聖銃士と共に、後衛から子供達に補助魔術を掛けている。
 恐らく彼女を撃破すれば聖銃士たちは撤退すると見られている。

能力)『神への祈り』(神中単:HP回復大・【治癒】)
   『祈りの涙』(神遠範:HP回復中・【治癒】)
   『歓喜の涙』(神・レンジ2以内の味方を中確率でBS回復・【治癒】)

 ■『(聖銃士)【慈愛】』
 称号らしきコードネーム【慈愛】と呼ばれている、赤い軽鎧に兜を被った青年。
 子供達の中では年長者にも見えるがしきりにマザーや味方の名を出していたり、補助魔術ばかり掛けている所から戦闘に関する経験は浅い模様。

判明済能力)『疾走し、撃滅せよ』(神近単:命中・回避上昇【瞬付】)
      『頑張ってね』(神中単:物攻上昇大・反動小【瞬付】)

 ■『(聖銃士)【骨喰】のディミトリ』
 称号【骨喰】の赤いマフラーを巻いた聖銃士。四足移動による高速・高機動戦闘から繰り出す、特殊な兜を用いた咬みつきは骨をも噛み砕くほどに鋭く、重い。

判明済能力)『骨砕き』(物近単:【移動】【防無】

 ■『(聖銃士)【婀娜】のエンリカ』
 称号【婀娜】の赤いマフラーを巻いた聖銃士。重鎧を纏い、ハルバードを振り回す前衛。
 後衛の補助魔術を受ける為に下がる傾向がある。

判明済能力)『大切断』(物至単:【防無】【連】)
      『刺突・大切断』(物近単:【必殺】【防無】)

 ■『アドラステイアの子供達』×12
 戦闘力は低いものの、距離を取ってはボウガンによる横槍やマザーに近付く者へ特攻をしかけて聖銃士が駆け付けるまでブロックして来る傾向にある。
 彼等の半分は赤いマフラーを巻いている。

●ロケーション
 山を越えた現地到着後からリプレイ開始。
 状況としては村の中央にある教会に籠城している村人や天義の騎士達を救う為、村でそのままアドラステイア側と戦闘となります。
 村は家屋がそのままになっており、いずれも木造。フィールドは半径400mあるものの、即座に戦闘とすれば見晴らしのいい中央部での集団戦闘となるので作戦や対策をしっかり合わせた方がいいでしょう。
 マザーを撃破するか、敵勢力を撤退させるに足る損害を与えれば成功となります。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●天義の騎士たち
 いずれも重傷。戦闘に参加は不可能です。

●天義の子供達
 希望すれば教会側から戦闘に参加します。(NPC四名)
 彼等は心を持たないように訓練されていますが、戦力としては未熟です。簡単な戦闘中の指示に従います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●最後に
 はじめましてイチゴストリームです。
 今回は純戦闘ながら、アドラステイアの聖銃士とも戦うので気を引き締めて下さい!
 ご参加お待ちしております!

  • 強襲のシャリテ完了
  • GM名いちごストリーム
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月04日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨

リプレイ

●絶望からの一転
 劣勢も劣勢。
 十数人いた騎士たちは、今やその数を八人にまで減らされている。元より慰安の為に首都を離れていたほどの傷を負っていた彼等は、度重なる襲撃の中に耐えられなかったのだ。
 それでも籠城の心得がある者が生き残ったのは運が良かったからではなく、今日に至るまでに犠牲となった騎士がすこしでも長く、ジャンメール卿が援軍を連れて来る事に期待して『生存』を目標としていたからだった。
 それでも限界はある。今日、いまこの時がそうだった。
「……結界はどうなっている」
「もう消えてる。連中が雪崩れ込んで来たらお終いだ、警戒心の強い若造のおかげだろう」
「ジャンメール卿……聖都から援軍はまだか」
 女騎士は血の滲んだ包帯で目元を覆いながら天井を仰ぐ。
「……ふ。不思議だな、神の声でも聴こえて来やしないかと思えば……馬の蹄の音が聴こえて来た」
「蹄?」
 瀕死の最中に聴いた幻聴か。そう思い耳を窓辺に傾けた騎士が、慌てたように立ち上がった。
「違う。俺にも聴こえるぞ……援軍だ!」
「……そんな、まさか。見ろ! 見ろお前達! あれはローレットの紋章だ、そして彼等……彼は!」
 村人も重傷の騎士たちも窓やバリケードの隙間に殺到して、外の様子を見ようと集う。
 希望に縋るように湧いた歓声は、白銀の鎧を目にした瞬間に更に大きなものへと変わった。

●絶望を払う者
 遠巻きに教会を警戒しながら包囲していたアドラステイアの子供達は、突然の援軍の登場に困惑している。
 手に手にボウガンなどの武器を構えた少年少女を見た『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が戦旗を振りかざし、それと同時に『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が白き光を纏う剣を振り上げて一喝する。
 奔る戦意。覇気に気圧された子供達が距離を保ったまま陣形を変え始める。
 村の奥、海岸を背にした森から姿を見せるはアドラステイアの騎士を名乗る子供達だ。
 リゲルの視線が真っ直ぐにそちらを牽制するように向かい、再び彼の声が木霊する。
「我らはローレット! ジャンメール卿の命により馳せ参じた戦士なり!
 不正義なる悪魔の使徒はここに討伐し、貴方達をお守り致します! 今暫くこの場を凌ぎ、持ちこたえて下さい!」
 湧き上がる声援。
 しかし対するアドラステイア側は憎悪を膨らませている。
「アドラステイアから攻撃に出てもいるのですね……ジャンメール卿、どうか安らかに。聖騎士の名に恥じぬ意志、その覚悟に応えましょう」
 恐れず殺意を膨らませている敵を前に『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は教会を背にして決意を新たにする。
「私達が来たからには大丈夫だよ。この場所は守ってみせるから……!」
 展開される限定術式。天使の羽舞う聖域を作り出しながら『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が教会の方へ、村人達に向かい力強く笑みを見せる。
 そこへ教会の鐘塔から舞い降りた数人の、修道服を纏った少年少女がイレギュラーズと対面する。
「援軍に感謝します。状況の説明は必要ですか?」
「不要よ。敵の首魁一味の位置も"知ってる"からね」
 イーリンに駆け寄った黒髪の少女が目を見開く。
 どこか迷うように思考するその姿に、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がそっとまだ幼い肩に手を乗せた。
「『彼等』を中に案内して貰える? 有事の際はあの鐘を鳴らすように周知して欲しいの」
「君達はこの村を守る防衛の要、異変があればすぐ教えてね」
「あ……は、はい!」
 アーリアから二羽の鳥を手渡された少女が力強く頷き、イーリンの出した式神たちと共に教会へ戻って行く。
 再度沸く歓声の最中、少女の仲間らしき少年が扉を締める前に振り向き。幾つかの視線と目が合う。
「行きなさい――今からあなた達の戦場は、そこよ」
「見ててね。これがわたし達の戦い……信仰を武器にしなくたって戦い続けられるんだってこと、見せてあげる!」
 イーリンに次いで『静謐の勇医』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が自ら己の覚悟、強い『芯』を見せつける。
 鼓舞された少年はそれらに再度頷くと足早に教会の鐘塔へ飛び上がって行った。
「無垢な子供を、信仰心で洗脳して際限のない争いに巻き込むやり口、やっぱり気に入らないわね」
「……耳が痛いな」
 一方、教会の窓越しに重傷を負っていた騎士達に応急処置を施していた『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)が目を細めていた。
 少年達の姿は一様に交戦の痕があった。
 アドラステイアの子供達のような環境ではないにせよ、あの歳でこの環境を戦い抜く術を身に着けていたことは目に着いた。出血が止まり顔色がマシになった騎士の男は自嘲するように苦笑した。
「大丈夫。わかってるつもりよ。あの子たちはまだ感情が残ってる」
 戦闘の気配が近付き、ルチアが窓辺から離れて言った。
 アドラステイアの子供達は人として大事な感情を失くしつつある。だが天義が育んだ未来の……騎士、あるいは粛清者となるであろう子供達は各個たる信念の下で信仰とは別の意志を研ぎ澄ませているのだ。
 同じ「これは自分の意思である」と言い張るには、雲泥の差があった。
「……私は一度はこの国を捨て、神への信仰なんてろくにないけれど――それでも、この国に生きる人を守りたいと思うの。
 そして、アドラステイアって都市を止めたい――そう思うわ」
「あの子達が棺に入るにはまだ早い……共に尽力しよう」
 『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)のマフラーがたなびいた次の瞬間。彼の下へ飛来したボウガンの矢が空中で爆ぜる。
 アドラステイアの子供達が放った一矢を、アーリアが弾いた。
 それが戦いの合図となった。

「神がそれを望まれる」
 刹那、愛馬に跨りし戦乙女――イーリンの魔眼が閃く。
 虚空を駆け抜けた紫苑。泡沫の囁きは村の海岸側に位置する一党の中心に炸裂した。
 しかし鳴り響く硝子の割れたような破砕音。
「ぉおおおおおおおおッ!!」
 アドラステイアの子供達が一斉に矢を放つ最中を疾走する、四足の獣が雄叫びを上げて跳んだ。
 イレギュラーズが、リゲルが地を蹴り砕いて水平に跳躍した。イーリンやアーリアが矢を弾き、ルチアの支援魔術が仲間に降り注いだ。
 直後、鎧と兜が一体化して顎門となった凶牙を剥いた聖銃士とリゲルが衝突し、その余波で突風が吹き荒れる。
 銀の剣が一閃を描いた所へ猫背の深い少年が獣さながらに刃に喰らいつき。火花を散らして踏み込んで押し込んで行く。
「【骨喰】を名乗るならば、俺を仕留めてみせろ! それともその姿は見掛け倒しかい?」
 呼ばれた【骨喰】の聖銃士。ディミトリが歯を食い縛る。
 打ち合う前から、リゲルは視線で誘っていたのだ。そして、ディミトリは乗せられていた。
 剣を噛み締めたまま少年が身を翻して蹴り足を放つ。衝撃波がリゲルの胸元を打つが、それを半ば受け流して刃を滑らせ切り上げた。
 火花と血潮が飛び散り、彼等の後方から同色の回復魔法が飛んで来る。
「天にまします我らの父よ、どうかこの戦いご照覧あれ」
「私は力無き人達や傷ついた人達を守るために来たの! アドラステイアからの侵略者に負ける訳にはいかない、絶対に守り通りしてみせるんだ!」
 それが私の使命だと。降り注ぐ強矢を弾き、その身に受けながらルチアとスティアがそれぞれ支援する。
 対峙する地平の向こうから駆け上がって来るもう一騎の聖銃士。【婀娜】のエンリカがハルバードを奮った。
「怨敵、ローレット! 既に討たれた信徒と同胞の嘆きを乗せた信念の一撃! 受けて見なさい!!」
 肉薄したエンリカと戦旗を打ち合わせたイーリンが一蹴する。
「随分と軽い信念ね?」
「……!」
 馬上のイーリンからすればやりづらい距離の筈。にも関わらず互いの実力に差を感じたエンリカが顔を怒りに歪ませた。
 そして突如、胸元から素早く取り出した笛を甲高く鳴らした。
 何らかの合図。
 そして状況。戦況を見たリゲルが、イーリンと一瞬の目配せの後に一時前線に到達した後衛に手を上げてこちらも合図を示した。
 イレギュラーズ側とアドラステイア側から魔術などの発動光が瞬き、交差して、爆発と雷撃が奔った一方でエンリカがその身を膨張させて激しい攻撃を浴びせる。
 エンリカは気付かない。
 たったいま、彼女に支援を送った者がどうなっていたかなど気にも留めずに、憎悪に満ちた必殺を繰り出していた。イーリンは愛馬から飛び降りて打ち合い、打ち払った。
 命の削り合い。その中に在っても彼女は、イーリンは目の前の少女など眼中になかった。
 そして一瞬の隙を衝いて突破した戦乙女は再び、自らの魔眼を解いた。
「さあ! 正義も知らぬ愚者の群れ! 汝らの信はどこにありや!」

●苦鳴
 赤い軽鎧の青年は次に飛来した魔眼を今度こそ、細身の体躯で受け止めてみせた。
 最初こそ彼を庇っていたミシュリーヌを庇うように前に出た青年は抗い難い挑発に数度は抗ったものの。ついにアリシスが放った断罪の『ラクリモーサ』によって屈したように見えた。
「ああぁっ!? そんな……!!」
「も、申し訳ありません……マザ、ぁ……」
 射線を遮ろうと中衛の子供達が集まって来るも、その肉壁の意味はもう薄い。
 直後に飛んで来たアーリアの琥珀色の雷撃。精神汚染を受けた青年の聖銃士は今度はその子供達ごと焼かれ、その身に受けた集中砲火に耐え切れず遂に倒れ伏せたのだった。
 ぴくりとも動かない聖銃士の姿に、ミシュリーヌを始めとするアドラステイア側に動揺が生まれる。
「ゆ……ゆるさん……ゆるさなぁ――――い!!!!!」
 激昂する修道女が張り裂けんばかりに絶叫して近くにいた子供の首を掴み上げる。
 ミシュリーヌは負傷に顔を歪ませながらも、エンリカとディミトリに高速で回復支援を行い。自らも前線に加わろうと子供を盾にしながら歩み出していた。

「なんだッ! 何が、起きた!」
 一歩も退けぬ攻防の最中に轟くミシュリーヌの叫びに驚愕しながら、ディミトリがリゲルと組み合う。 
 剣と具足を使い関節技を極めに行くリゲル。その拘束にミシリとイヤな音を聴いて全力で抗う少年が、爪や牙を剥いて暴れ続けている。
 互いに血に濡れているが、その疲労の度合いはディミトリの方が濃い。
 何より。
「……」
 向き合い、視線が異なる両者では。リゲルが目にした光景は、ディミトリが抱いていた憎悪よりも濃密な怒りを湧き立たせていた。
 左右から放たれる矢がリゲルの身を穿つ。が、瞬時に身を反らして躱した彼は聖銃士の背を膝蹴りで打ち上げてから星凍つる剣の舞を繰り出す。
 切り裂かれ、吹き飛ぶディミトリが子供達に突っ込む。
 直後、リゲルの脇を抜けた閃光が爆発して少年たちを一網打尽にする。
「見なさい! 邪悪を裁く光で倒れるあなた達に正義なんて無い!」
 『神気閃光』で倒れた者達を、ディミトリを指差して示すココロの声に反抗するように。エンリカが叫び返した。
「……ふ、ふざけるな! 私達こそが正義なのです!」
 後退しようとしていたエンリカがディミトリの惨状に血走った目を剥いて怒声を上げる。
 そして視界の奥に見えたスティアの姿を捉えた。瞬間、ミシュリーヌに傷を癒されたその足で後衛の彼女目掛け突進して行った。
 エンリカが土壇場で読み取ったのは周囲の流れだ。
 いまこの時、スティアに向いたボウガンの矢の数。アドラステイアの子供達が向けた視線を呼んだ聖銃士は、その線の下を掻い潜り、射線を避けて一挙に距離を詰めに行ったのだ。
 途中、グリムが接近を阻む。だがそれを二度の打ち合いで止めたエンリカは一瞬の硬直を貫いてスティアを狙いに走った。
「私達はこの戦いに勝利する! 使命を果たし、偉大なるファルマコンに献身を認めて貰う為に!!」
 かくしてエンリカの読みは的中した。
 瞬間的に子供達の殺意がその場に収束した後。スティアに無数の矢が飛び込んだのだ、エンリカはその中に自らも躍り込みハルバードを突き出した。
「私は――力無き人達や傷ついた人達を守るために来たの! アドラステイアからの侵略者に負ける訳にはいかない、絶対に守り通りしてみせるんだ!」
 スティアの視界の中で散りばめられた羽の動きが、矢の弾速が、酷く緩慢となり遅くなる。
 振り抜いた御手の導きに従い空間に波動の揺らぎを生んで無数の矢を弾き、軌道を逸らした後に幾重にも張り巡らされた障壁がエンリカのハルバードを受け止めて破砕しながら勢いを殺す。
 空気が渦巻くほどの一槍を防ぎ、いなしたスティアに、【婀娜】の聖銃士が瞼の間から血が噴き出るほどに見開いた。
 それでも負わせた傷。しかし、それは場に溢れ出した少女の歌声に応じて癒され、傷口を塞いだ。
「聖銃士だろうと何だろうと、この場は落とさせないわよ」
 ルチアのはっきりとした声が冷水の如くエンリカの意識に差し込まれる。
 生じた空白は致命的で、次の動作を鈍らせた。
「――  ――」
 戦場の何処かで凛とした声音が弾む。
 エンリカの肩口を逆袈裟に浄罪の剣が切り裂く。『エンシス・フェブルアリウス』を其の身に叩き込まれ、朱色の重鎧が砕け散った少女は自らの血で濡れた赤いマフラーを抱くようにして倒れ伏せる。
 漏れ出た苦鳴の声は……何かを乞うような言葉を紡いだ後に途切れたのだった。

●慈愛のシャリテ
 聖銃士を失ったアドラステイアの子供達。その戸惑い、士気の減衰はリゲルの突破を一時許してしまう。
「子供を、命を! 弄ぶなッ!」
「私の可愛い騎士さんを傷付けておきながらァ!!」
 飛び交う矢を半ば割り込む様にスティアが受けながら、その脇を這うように駆け抜けた怒気纏う銀閃がミシュリーヌを襲う。
 切り裂かれた修道服の中から大量の黒血が滴り落ちる。だがその傷は、僅かな間に重ね掛けされた回復魔法であっさりと塞がれてしまう。
 ならばと更に踏み込んでリゲルが渾身の一撃を見舞おうとした間際。飛び出して来た赤いマフラーを巻いた少女が庇いに入ってしまう。
 否。ミシュリーヌが咄嗟に掴み上げて盾にしたのだ。
「神に誓います……今なら見逃しましょう。停戦し、ネメシスの騎士を差し出せば退きますが?」
「ネメシスを誹りながら、貴方達は信仰で子供を操り兵とする。その行いに、神以前に己に恥じるものが無いのですね」
 戯けた言葉を並べるミシュリーヌを前に、アリシスがリゲルと並んで冷然と対峙する。
 修道女の整った顔立ちに青筋が浮かび。血の滴る唇の端が歪んだ。
「……ッ」
「ごめんなさいね、貴女にお仕事させるわけにはいかないの」
 走る視線。
 ガクンと揺れるミシュリーヌがそれ以上のアクションを取らなかった事で見目には判り辛いが、彼女はアーリアの注いだ『ミッドナイト・ピロー』による効果をまともに受けていた。
「で、まだやるのかしらぁ?」
 最早、それ以上の言葉は不要だった。
 ミシュリーヌが傷ついた子供をリゲルに投げつけるように棄てて本気で逃走を図る。マザーの退路を確保するべく、アドラステイアの子供達は決死の特攻と共にそれぞれがボウガンの矢を射った。
 ルチアとスティアから癒しの波が奔る中、イーリンがマザーを追走しようとした。
 しかし……突如イーリンの足先が逆を向く。脇目も振らずに駆け出した彼女を見てココロが「お師匠様?」と困惑した声を上げ、彼女は一瞥と共にその理由を語った。
「慈愛が教会にいる!」
 数秒の後。
 ――辺り一帯に鐘の音が響き渡った。

§
 イレギュラーズの奮闘に歓声が尽きぬ中。
 ルチアに僅かながら傷を癒された騎士たちと、唯一の戦闘要員となっている少年少女たちが教会の各所を警戒していた。
「……ふ、頼もしい。ヴァークライト家の御息女にアークライト卿の……まさか彼等が来てくれるとは」
 緊張は解かれ、聖銃士すら撃破した天義の騎士を彼等は誇っていた。
 少年少女たちは傍らの式神と共にそれを眺めている。
 自分達にも、いずれはこんな顔をする相手ができるのだろうか。そう考えて。

 そう考えていたその時、礼拝堂にステンドグラスが割られる音が鳴り響いた。
 臨戦態勢に入った少年少女たちの前に着地した赤い軽鎧の青年が、両腕を丸太のように膨張させて躍る。
 声も出す時が無いほどの圧縮された時間の中で、白亜の光が連続で瞬いて騎士達が応戦する。
 子供を守り、ルチアがくれた僅かな時間を消費して。一撃、二撃、三撃と満身創痍ながら恐ろしい猛攻を見せる聖銃士の攻撃を受けては騎士達が力尽きて行く。
 一切の慈悲も無く詰め寄って行った聖銃士の青年は、間合いの半歩前にして硬直した少年少女達の眼前で停止した。
「ここで命拾いをするあたり、僕の後輩は恵まれているらしい」
「……?」
 直後、教会の扉が弾かれたように開かれてイレギュラーズが駆け付ける。
 琥珀色の雷撃が奔り、それを浴びながら青年が教会奥へと逃げ出す。
 焦げつきながらも変わらぬ機動力で引き離して逃走する【慈愛】の聖銃士。
 その背中には……焼き印で引き裂かれた、天義の紋章が刻まれていた。
§

成否

成功

MVP

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

状態異常

リゲル=アークライト(p3p000442)[重傷]
白獅子剛剣
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)[重傷]
孤独の雨

あとがき

 傷つき、瀕死の重傷を負った騎士達はその場に素早く駆け付けたイレギュラーズの治療を受けて一命を取り留めた。
 九死に一生を得た彼等だったが、代わりに聖銃士とマザー・ミシュリーヌは逃してしまった一因である自らを悔やむ様に謝罪していた。
 彼等を宥めながら、イレギュラーズは追跡を断念してその場に残る。
 犠牲者は還らない。
 しかし、それでも多くが救われた事は間違いなかった。

「……ジャンメールさん、村は守れたわよぉ」

 アーリアの小さな声は。村人達の歓声の中に溶けて消えた。

【MVP:マザーの最悪の悪足掻きを阻止したアーリア様に】

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