PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ただひたすらに勇を示すべし。さすれば道は開かれん。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 じりじりと陽光が熱砂を焼き、照り返しの熱が身体を蝕む。
 砂漠の中にぽつりと広がる遺跡が、今回の依頼の目的地だ。
 神殿を思わせる巨大建築は、風化が進んで独特の雰囲気を見せる。
 外から見るだけでも規模の大きさはかなりの物だ。
 ぽっかりと開いた穴――入り口らしき場所は2か所あり、そのどちらも奥へと続いているようだった。
 風に晒されて朽ち、崩れつつ像の幾つかは神秘性を感じさせる。
 神殿を守るように存在するそれらは、翼を生やした蛇や首回りが独特に膨らむ狼か何かのようだ。
「さて、ここだな……」
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は敷地内の中心、遺跡の入り口を見上げていた。
「この中に依頼人が言ってた秘宝があるのかね?」
 槍を軽く担ぐようにして持つコラバポス 夏子(p3p000808)も同じように遺跡の入り口を見つめていた。
「ここからは一度、別れてから入った方が良さそうだな」
 そう言ったルカ・ガンビーノ(p3p007268)は周囲を見渡した。
 集ったイレギュラーズは8人――もしものために外に残すメンバーも考えれば、遺跡の内部を探索するのにちょうどいい分け方は、3人ずつといったところか。
「よし、行ってみよう」
 ベネディクトの言葉に頷いて、夏子とルカがまず遺跡の中に入っていく。
 それに続いて他の3人も中へと入っていく。


「外から見ていた時も思ったが、広いな……」
 ベネディクトがぽつりと呟いた。
 足元は石か煉瓦のような材質で出来た様式で、建物の壁面には等間隔で獣の像が置かれている。
「……あれは」
 何の変哲もなく真っすぐに進む建物の奥の方、いわゆる祭壇のようになった場所を夏子は指さした。
 祭壇らしき場所には、石板のようなものが置かれ、その奥の壁にはそれ以外の像とは明らかに違う何かが掘られていた。
「見るからに怪しいな……」
 ルカの言葉に頷きながら、3人は警戒を解くことなく、石板の下へと足を進めた。
「……汝、勇を示すべし」
「汝、その覚悟を示すべし」
「汝、死よりも先にその勇気を示すべし」
 石板に記された言葉を、3人が一行ずつ呟いた――その時だった。
 神殿が、揺れる。
 音を立てながら、動き、土埃が舞い上がり、天井の幾つかが落ちていく。
「地震……じゃなさそうだな」
「拙い! みんなと合流しよう!」
「あぁ、だが……退く前に、勇気とやらを示す必要がありそうだ」
 いち早く振り返ったルカが、黒犬(偽&誤)を構えた。
 神殿の壁、像から濃密な魔力があふれ出し――そこから像に描かれた獣そっくりの魔物らしき存在が姿を見せる。
『――汝ら、最期まで戦い続ける覚悟はあるか、その心に勇気の炎は灯っているか』
 それは背後の頭上――祭壇奥に存在する、その像から聞こえた気がした。

GMコメント

//シナリオ詳細

さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

EXリクエスト採用ありがとうございます。

なお、当シナリオはどちらかというと心情系です。
思いの籠るプレイングであればあるほど攻撃の火力に明確なプラス補正を加えさせていただきます。

逆に『これをこう使います』の羅列だけだと補正が少なくなります。
生き残るのだという全力をお待ちしております。

それでは、さっそく詳細をば。

●オーダー
【1】先行する3人を救出し、遺跡から撤退する
【2】遺跡の試練を達成する。

【1】の達成だけであればNORMAL相当、【2】を目指すのであればHARD相当の難易度になります。
なお、【2】の達成条件は下記の敵をざっと40体討伐+ギルタブルウルの討伐で達成します。

●フィールド
ラサにあるとある遺跡です。
内部は広く、うじゃうじゃと人工の魔物が存在しています。

射程や間合いを取ることは十分に可能です。
ただし、状況的に敵味方の居場所を調節しにくいため、
『範囲攻撃で味方だけを避けるように』という戦法は【識別】以外では不可能です。

逆に突出せず陣形を組めば基本的に敵だけぶち抜けるでしょう。
陣形が緩ければあっという間に孤立する危険性もあります。ご注意を。

●エネミーデータ
・量産型バシュゥム×10※再ポップあり
翼を生やした蛇の魔物です。常に低空飛行していますが、地上戦も可能です。
反応、回避が高い物攻型のテクニカルアタッカーです。HPは若干低め。

<スキル>
毒牙(A):物中単 威力中 【猛毒】【致死毒】
封呪(A);物超単 威力中 【万能】【封印】【呪い】

・量産型ウリディウム×10※再ポップあり
燃え盛る鬣に獅子の身体、狼か犬のような顔をした魔物です。
命中とEXA、神攻型パワーアタッカーです。

<スキル>
焔咆(A):神遠扇 威力中 【万能】【炎獄】【停滞】
狂焔顎(A):神至単 威力中 【炎獄】【狂気】【呪い】

・シムーンの霊×6
熱砂の竜巻です。実体がなくパッシヴで【物理無効】を有しています。
スキルもなく、移動をし続け、下記の技を常に振りまいています。
神秘攻撃をぶつければ一撃で消滅します。再ポップしません。

シムーン:神自域 威力無 【致死毒】【業炎】【懊悩】【停滞】【体勢不利】【識別】

・『守護魔人』人造ギルタブルウル
【2】の条件を達成したい場合、絶対に勝たなければならない個体です。
これ以外を合計30体討伐後、遺跡の最奥に出現します。
サソリの尻尾と鳥の翼を持つ顎鬚を生やした壮年の男性の姿をした怪物です。
ずば抜けた物攻、神攻、命中、EXA、反応を有し、それ以外のステータスは並みです。
攻撃を受けない限りは登場後も攻撃してきませんが、一度でも攻撃を受ければ積極的に攻めてきます。

<スキル>
毒尾円舞(A):物自域 威力中 【猛毒】【苦鳴】【麻痺】
毒尾連撃(A):物至単 威力大 【スプラッシュ3】【猛毒】
翼焔弾(A):神遠範 威力中 【業炎】【泥沼】
翼呪石光(A):神至列 威力中 【石化】【呪殺】【呪い】

●特殊ルール(再ポップ)
『※再ポップあり』表記のあるエネミーに関しては討伐後に討伐された数だけ出現します。
(例:あるターンにバシュゥム1、ウリディウム1を倒す→次のターン開始時にそれぞれ1体ずつ未行動で出現)

●開始時味方状況
ベネディクトさん、ルカさん、夏子さんの3人は上記エネミーに当初から多重に包囲を受けています。
それぞれが少しだけ離れている場所にいるもよし、3人で一応は固まっているもよし。
そこはお任せいたしますが、プレイングで統一されていない場合は連携不足判定になり、
かなり拙い状況でのスタートになります。ご注意ください。

固まっていればお三方の連携は可能ですが、敵の戦力も固まっています。
救出には多少の時間がかかるでしょう。

逆に、固まっていなければ敵の包囲網は多少薄まり、救出は比較的容易です。
その代わりに各々の救出タイミングによって受ける傷は相応になります。
お三方の連携も難しいでしょう。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ただひたすらに勇を示すべし。さすれば道は開かれん。完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月06日 22時12分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
※参加確定済み※
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
※参加確定済み※
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
※参加確定済み※
蛇蛇 双弥(p3p008441)
医神の双蛇

リプレイ


 熱砂が吹き付ける。どこからともなく吹き始めたそれが、3人の身を焼き、毒性と呼吸困難を齎し、体勢を崩させる。
 そのほとんどは、各々の耐性もあって、今のところ意味はない。
 それでも、体勢を持たない幾つかはその身を刻んでいる。
「こりゃあ大ピンチってやつだな?」
 火傷を負いつつも、己が覇道の精神を以て立つ『アートルムバリスタ』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)の眼に、怯懦などあるものか。
 ざっとざっと数えて20体ほどの魔獣ども。たしかに、大ピンチには違いない。
 けれど――
「でもお前らと一緒なら全然負ける気がしねえ。
 夏子、ここを切り抜けたら俺の店で綺麗どころつけてやるからよ。
 しっかり頼むぜ!」
 空を舞って食らいついてきたバシュゥムの攻撃を受けながら、手に握る黒犬(偽&誤)を振り抜いた。
 血しぶきの代わりに上がるは砂――数匹のバシュゥムの肉体を抉りながら、黒き魔剣が踊り狂う。
「ピンチか……ああ、確かにそうなのかも知れんな」
 そう言う『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は両手の愛槍を深めに握りしめた。
 紅き稲妻が爆ぜ、周囲を囲うウリディウムの身体がバチリと帯電し、強烈な刺突がその砂の身体を焼き貫く。
(――こんな時代こんな時に産まれ育って世に出た以上、死ぬ時きゃ死ぬ……って生きてる。
 絶対に生き残るとか、死ぬ心算は無いだとか、命を賭して事を成すとか。当たり前の事を良く問われる)
「――結局、覚悟ってのは都度するモンじゃなく、ずっと心にキメてるモンだと思う。
 でも、――後悔だけはしたくない。
 そいじゃ何時も通り、一丁頼むぜ皆様方!」
 夏子は思いっきり槍で大地を叩いた。
 同時に放たれた強烈な光と炸裂音が、魔獣達の注意を引き、反響する。
 音は遺跡を超え、外まで響き渡った。


 炸裂音が、遺跡の入り口を響き渡る。
 その音は外にいた5人のイレギュラーズの耳に確かに伝わった。
 聞き慣れた――というのも変な話だが、よく知るその音は、夏子の物。
「今の音! 何かあったのかも!」
「絶対に死なせるかよ!
 待ってろよ、生きてろよ! 絶対そこに辿り着く!」
 そういうや、飛ぶようにして身を翻してMariaに跨った『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は砂地の悪路を物ともせずに遺跡の中へと走り抜ける。
 そんな後ろに乗っかる『緑の治癒士』フラン・ヴィラネル(p3p006816)も、千尋のバイク捌きになれたものだ。
(ベネディクトさん。ルカさん。夏子さん。……大丈夫、三人なら絶対に耐えきれる。
 私たちに出来ることは信じて、素早く、しかして焦らず合流すること)
 続くように走り出した『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)、それに。
「ご主人様、貴方を死なせる訳にはいきません。
 このリュティスの命にかえても!」
 黒狼の従者たらんと『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)も走り出す。
「俺の仲間を探せ、信じてるぜェ、ヒヒ……」
 ギフトと蛇神の権能を用いた『蛇に睨まれた男』蛇蛇 双弥(p3p008441)は蛇を遺跡の中へと先行させる。


 数匹のバシュゥムとウリディウムがその身を砂へと還しては再び姿を現す。
 その視線は必ずしも夏子に向かない。
 個体が違うのか、一度砂に還った魔物の代わりに姿を現した個体からは苛立ちの感情は感じ取れない。
「僕が凌いで、ルカルカ大砲撃って、ベネベネが〆る。何時も通りさ」
 夏子は大きく槍を振りまわした後、身体をねじりながら思いっきり薙いだ。
 炸裂した破裂音と衝撃的な輝きに、もろに受けた魔獣が後ろへ飛び跳ねて後退する。
「ベネディクト、あん時に比べりゃこの程度の数どうってことねぇよなぁ!」
 ルカがその目に強い意志をたぎらせながら、剣を振るう。
「無論、あの時の包囲に比べればこの程度──切り抜けて見せよう」
 合わせるように、マナガルムも槍を薙いだ。
 黒き乱撃が群がる魔獣を押し込めるように吹き荒れ、合わせるように紅の軌跡が振るわれる。
 それはまるで、絵画のような美しささえ持っていた。
 すっ飛んでいった2匹ほどが砂へと返っていく。
 これほどの数の敵、その上、判別する方法が傷を与え、身体を崩したかどうか程度しか存在しない相手。
 どれにダメージを与えたかなど、考える意味もないが――群がってくれる以上、撃ち抜くのに困らない。
 その時だ。
 遺跡のどこからか聞こえてきたのは、特徴的な種類の音。
 この時、この瞬間、その音を立てるのはたった一人。
 数匹の魔獣などは、そのけたたましい音に意識を向けたようにも思える。
「はっ! こんなゴキゲンな音は間違えようもねぇよなぁ!」
 ルカは剣を握りなおして、空いた手に闘気を込めていく。
「最期まで戦い続ける覚悟はある。
 そして、俺の心に宿る炎は俺自身が為すべき事をやり遂げるまで消える事は決してない!」
 握りしめなおした槍を手に、マナガルムも再び魔力を込め。
「露払いが僕の仕事だ」
 いつになく、夏子が手に握る槍は強く見えた。

(べーやんは召喚されたての時、こんな俺を信じてくれた。
 石油王にはメシ奢ってもらった恩がある)
 アクセルを吹かせてエキゾーストノート響かせ走破する千尋は奥で戦っている3人の事に思いを馳せていた。
(バポセンは……ええと……個性的な名前ですね!)
 なんか一人だけちょっと違うが、まぁ、それはそれとして。
 土煙をあげて跳んだ。
 殆ど飛翔するように姿を見せた千尋とフランは取り囲まれ――というより、群がられる仲間を視認した。
「包囲してるつもりだろうが、こっちは挟み撃ちって奴だオラァ!」
 乗り入れるように突っ込んでいく。
 魔獣の身体にぶつかり、徐々に速度を落としながら切り込んだ。
「こういうキツイ時にお前さんがいてくれるとマジで助かるぜフラン!」
「どうやら、あの竜巻には物理は効かないらしい、頼む!」
 ルカとマナガルムの言葉に、フランは自分から一番近い場所に移動しつつあるの方を見る。
「あれだね! 分かった!」
 意思など感じ取れはしない。あれは文字通りの自然現象だ。
(おかーさんの教え、女は度胸!)
 枷を外して集中し放った神聖なる光が竜巻に触れれば、その瞬間、一気に落ち着いて消えていく。
「私たちに出来ることは信じて、素早く、しかして焦らず合流すること。
 誰一人、もう未来を途絶えさせたりはしません。
 試練は、乗り越えられる者にしか与えられないものです――!!」
 リンディスは到着するや、魔術書を開いた。
 魔力がフランを映し、その身を映す鏡のように姿を取る。
 リュティスは到着と同時、フランが撃ち抜いたものとは別の竜巻目掛けて弓を引いた。
 漆黒の矢が飛翔し、黒き光となって降り注ぐ。
 竜巻の暴風に拡散されるようにして輝きを増した光の後、その場にあった竜巻は消えていた。
「先輩方なら死にゃしねェだろォ?! 信頼してるぜ、ヒヒ……!」
 双弥は魔術書を紐解き、前方目掛けて無数の魔力弾をぶちまける。
 届く距離間にシムーンはないが、数匹の魔獣を巻き込んだ。


『挑みし者よ、蛮勇を披露せし者よ。
 その勇気を讃えよう。
 我が主の導きのままに、その勇気に応えよう』
 それはどこからともなく聞こえてきた声。
 独特な響きはまるで魔力が喋っているかのよう。
 その直後、最奥の祭壇がまばゆい輝きを放ち――その光が粒子となって収束していく。
『我に汝らの勇を示さん。
 ただひたすらに武を以て我を討つ者にのみ、我らが秘宝は応えるだろう』
 姿を現したサソリの尻尾と鳥の翼を持つ顎鬚を生やした壮年の男――らしき何かは、その場で動かない。
 ルカの闘気が炸裂して斬り開かれた道を、夏子がさらに押し広げ8人は合流に成功している。
 とはいえ、3人の傷は浅くはない。
「ご主人様、大丈夫でしょうか?」
「問題無い、道を拓く。力を貸してくれるか」
 リュティスの言葉に、槍を握りなおしたマナガルムに、リュティスもこくりと頷いて。
「承りました。貴方の刃となりて、敵を撃ち倒しましょう」
 つい先ほど、味方の攻撃で消滅した個体が再び姿を見せたのを確認した。
 最奥のアレを潰さぬ限り、この雑兵共は無限に出てくるのだろう。
「長々と戦っても良い相手ではないだろう、ならば──行くぞ、皆!」
 体を起こしながら、マナガルムは槍を空に掲げ――応じるようにイレギュラーズは動き出す。
 最速で動いたルカが、再び闘気で周囲を吹き飛ばし、奥へと走る。
「あんま好きじゃねーんだ、値踏みされんのは!
 それに――当面は兎に角! ルカニキ店の祝宴が! チャンネー達のサービスが!
 この場の女性達に良いトコを! 気分も隆盛増し増してんだよぉ!」
 続けるように、夏子は叫ぶ。
「だ か ら! 邪魔するんじゃあねぇ~ッ!」
 叩きつけた槍が、強烈な戦功と炸裂音を奏で――魔人達の群れに更なる風穴を開けた。
「……いっけー!」
 中央に陣取るフランは手負いの3人を中心に激励と祝福を齎している。
 手負いという事もあって、無傷に戻せるわけではないが、その祝福は確かに仲間の活力になっている。
「まだです、まだ未来は続いています――しっかりと見定めて、今を切り開いて!」
 ペン先が潰れかねないほどに高速で物語を励起させるリンディスの物語が深い傷を治療していく。
 マナガルムは双槍を振るう。
 その技量を以てすれば、周囲の仲間を巻き込むことなく、敵だけを狙い澄まして打ち据えることなど容易い。
 血の代わりに吹き荒れる砂が塵となって戦場に舞い踊る。
 ネックレスのルビーが消費する魔力に比例するように輝きを放つ。
 リュティスは漆黒の弓を引き放った。
 卓越した技量で放たれた矢は、尾を引きながら一匹のバシュゥムを確かに捉え。
 崩れた姿に合わせるように二弾目が放たれる。
 押し開いた道、それでもなお存在する邪魔な壁めがけて、千尋は拳を放つ。
 己が傷など一切顧みず、叩きつけられる衝撃的な天運を乗せた連打がウリディウムの身体を削り落とす。
「俺の前で蛇が羽根生やしてんのは我慢ならねェ、引きずり下ろしてやらァ!」
 見下ろすようなバシュゥムめがけ、双弥は魔力弾を叩きつけた。
 翼を抉り取り、大地へと叩き落とす弾丸は、蛇神の系譜として見過ごせぬゆえに。


 こちらを静かに見下ろしながら、それは腕を組んで立っている。
「今だ! 突っ込めぇ!!」
 壁の向こう側、そいつが見えた瞬間、ルカは叫ぶ。
 鬨の声。味方を鼓舞するそれが、仲間たちを更に押す。
 踏み込みと同時、ルカは黒犬を振り抜いた。
 上段から叩きつけるような一撃が闘気により膨張した黒き大顎ごと粉砕するように打ち据える。
 大きくギルタブルウルの身体を引き裂く魔剣の一太刀に、敵も反応を示す。
『挑戦者よ、たしかにその力を示せ』
 続くように動くのは、マナガルムだ。
 確かな絆と共に紡がれた連携は最速。
 強かな踏み込みと同時、銀槍を叩きつける。
 僅かに紅さえ帯びんとした雷撃の刺突が、敵の胸元を削り――黒き蝶が舞う。
 リュティスの矢が変じた黒き蝶は、魔人の周囲に纏わりつき、炸裂。
 漆黒を輝かせて主の攻撃で開いた胸の傷を大きく押し広げた。
(私に出来ることは支えることだけ。
 だからこそ此処にいる。もう、目の前で手が届かないなんて思いはしたくない。
 癒して援けて守り抜く、それが私の矜持、編纂者の意地――!!)
 リンディスは物語を紡ぎ続ける。痛みなど気にしない。
 書き記した物語を仲間達へと叩きつけるように紡いでいく。
 死の物語など加えてたまるかと。魔力を込めた物語が、戦場を彩り。
 夏子の握りしめた槍。力強く握りしめられたその穂先が、強固な意志に呼応するように魔力を帯び、輝きと共に魔人の腕を痛打する。
 卓越した連携、流れるような連続攻撃。
 だが――ほんの一瞬の動きのズレが生じたその間。
 敵が動いた。
『勇者たちよ――その豪勇に敬意を』
 敵の尾が動く。すさまじい速度で撃ち抜かれた毒の尾が、魔人を中心に円を描き、舞い踊る。
 その痛撃のまま流れるように尾が動きを変え、目にも止まらぬ速さで3度の刺突を打ち据える。
 試練というだけあり容易く倒れてくれるほど柔ではないということか。
(最初は3人共ちょっと怖いお兄さんなのかなって思ったけど、
 ベネディクトさんはかっこいいし、ルカさんは優しいし、夏子先輩は楽しいし、
 みんなあたしの大事な友達! だから助ける!)
 フランは静かに魔力を込め上げる。
 ふわり、ふわりとどこからともなく姿を見せた鮮やかな緑の葉が、深手を負った仲間へとその癒しを齎していく。
 決意を、覚悟を込めた祝福は、その思いに応えるように本来のそれを超えて、輝きを放つ。
 双弥は右手を向け、静かに左手で支えながら、静かに敵を見据える。
 狙うは唯一つ――頭。
 腕を銃身代わりに精神力を変質させた弾丸を撃ち込んだ。
 弾丸は双弥の精神を反映するかのように蛇の形を取り、魔人の頭部――その半分を削り取る。
 生物ならば致命傷――下手すれば死んでいるであろう一撃。
 しかし――それでも死んでいない。
 魔人というだけあり、削り落とすにはまだ少し足らない。
 だが――
「一発くれてやったんだ、後はぶち抜いてくれんだろォ、ヒヒ……!!」
 双弥の笑みは深い。
「っしゃぁ! 行けべーやん! 石油王! パボ……バポセン!
 俺達の”絆”って奴を見せてやりなァ!!」
 双弥によって生み出された大きな隙――それを受け取るように、千尋は踏み込む。
 この一手のために残しておいたとっておき。
 敵の動きの隙、癖のような場所に、千尋の拳は導かれるように撃ち込まれる。
 一度でも撃ち込まれたら最後、動きは止まらない。幾度にも及び撃ち込まれた衝撃が、魔人の身体を削り続ける。
「こいつで……終わりだぁ!」
 再度振り抜かれた魔剣は、覚悟を反映させるかのように、深く深く突き立ち――魔人の腕を落とした。
「どれだけ厳しくとも、その道を選んで進む事でしか手に入れられない物があるなら──俺は、いや、俺達は……歩み続ける!」
 マナガルムの握りしめた槍が、その覚悟に歓喜するように鮮やかに輝き、想像を絶する一撃となって、先に抜いた部分を貫通させた。
「揺り籠から墓場まで! 僕は俺の当たり前を貫く!」
 踏み込みは深く。押し込む槍に迷いはなく――真っすぐに。
 人であれば心臓のあるであろう辺りを、夏子の意志が貫通させる。
 フランとリンディスが支え切り、リュティスと双弥の遠距離からの一撃が見舞った頃――そこに魔人の姿はなかった。
『――見事なり、烈士よ。
 汝らの雄姿、確かに見届けたり。
 願わくば長らくの平穏へ導き給え』
 どこからともなく聞こえてきた声は、先程までの魔人のソレ。
 その背後――何かが地面へぶちかけられるような音。
 振り返りみれば、先程までいた魔獣たちの姿はなく、大量の砂が残されていた。
 もう一度最奥に視線を戻した頃――祭壇には小さな書物が一冊。


「やったーおごり! みんな大好きー!」
 フランはテーブルに並んだ大量の食べ物に喜びを隠さない。
「今回もゴチになりやーーーーす!
 シャッス! アザーーーーッス!!」
 千尋も既に食べる準備は万端だった。
 試練を終えたイレギュラーズは、ルカの店にて打ち上げをしていた。
「まぁ、約束は果たさねぇとな」
 そういうルカは手早く部下に料理を並べるよう指示を出しながら、席に着く。
「蛇じゃねえんだから醤油くれよ醤油」
 生卵に醤油をかける双弥もおごりと言われて食べないわけもない。
「お怪我の調子はどうですか、ご主人様」
「あぁ、別に問題はないさ」
 無傷ではない。とはいえ、重傷というわけでもないと、マナガルム委はリュティスに苦笑する。
「しかし、結局、うち(ローレット)でお宝を預かることになるとは」
「ええ……ですが時期が時期ですから、依頼人のいう事もわかります」
 夏子のつぶやきに、リンディスは頷いた。
 今回の件は、所謂『色宝』騒動とは関係が無い。
 ただ、時期が時期ということもあって、下手な疑いを掛けられたくないと依頼人がローレットへ秘宝を提供したらしい。
 関係ないかどうかなど、第三者からは分からない。
 疑いを避けるなら序に預けてしまう方がいい、その考え方は分からなくもなかった。
 考えつつも、折角の打ち上げにいらないことは考えまいと、その話はきりあげ、8人とも食事を楽しむのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

コラバポス 夏子(p3p000808)[重傷]
八百屋の息子

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
せっかくですので、共通ですが称号をつけました。

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