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シナリオ詳細

<マナガルム戦記>Benedictio dies

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想東部、ファーレル邸は今宵眩いばかりの様子を見せていた。
 それはパーティが開かれるからである――貴族社会である幻想であれば特段珍しいという訳では無い、が。今日この日に開かれるパーティはいつもとは些か異なる趣があったと言えよう。
 なぜならばこれは『婚約披露』を祝うために開かれたモノ。

 ――ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)。
 ――リースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)。

 イレギュラーズとしても名高い両名を主役として開かれた催しである――元々の始まりは領主が危篤に陥ったドゥネーヴ領を――領主本人の希望もあってベネディクトになんとか継がせられないか、という話が出た事だ。
 しかし血縁も無き相手にそう容易く幻想自領地を与えるなど簡単な事ではない。名声高きイレギュラーズ各位に領地を進呈しようという動きはサミットで行われた事もあったが……事の始まりがその前であった事と、今いる領主の地をそのまま移譲するのは話が別で。
 ともあれ結論だけ述べれば――紆余曲折の果てに此処ファーレル家の当主。
 リシャール・エウリオン・ファーレルが後見人という『後ろ盾』になる事によってドゥネーヴ領の問題を解決に導こうとしていた。しかしこれまたリシャールもベネディクトと血縁の関係がある訳でなく……故に己が娘、リースリットとの婚約をもって後見人という立場に正当性を持たせた。
 建前、理由、立場、血縁、伝統。
 様々な事情が必要なのだ、貴族と言う社会には。
 そして遂に対外的に婚約を正式なモノとして発表する為に開かれた披露の場――そこにはファーレル家やドゥネーヴ領に関わりある貴族が多く訪れていた。この場を開いた主催であるリシャールの下にも次々と挨拶が訪れていて――

「いやはやおめでとう――と言うべきなのかな。ファーレル卿」

 その時。リシャールへと掛けられた声は老人のモノ。
「……これはロスフェルド殿。かのロスフェルド財閥当主にお越しいただけるとは」
「フッ。もはや私も貴族とは言い難い身だ――感謝するのはむしろこちらの方だろう。門前払いされるかもしれんと思っていたからな」
 御冗談を、とリシャールが紡ぐ相手の名はロスフェルド。
 ジョン・ウォーレン・ロスフェルド――混沌各地に根を張るロスフェルド財閥の現当主だ。貿易業や投資を中心に財閥の勢力拡大に勤しむ人物であり、元々は幻想貴族の次男坊であったという経歴を持つ。尤も、その地位はロスフェルド家の婿養子に入った折に放棄したとも同然であるが。
 しかし彼という個人が完全に消え失せた訳では無い。幻想貴族へのコネクションは今なお有しているし――特に婿養子に入る以前に属していたフィッツバルディ派には色々と顔が利く。むしろ視方によっては貴族時代よりも強まったとも言えるか。
 財閥の投資は芸術や教育分野にも幅広く行われており篤志家として彼の名は広まっているからだ。今や一部の貴族に至ってはむしろ彼に接触しようと思う者すらいるぐらいである。

 リシャールはしかし――そんなジョンに対して些かの警戒をしていた。

 言葉の上ではおくびにも出さないが。ジョンは先述の通り篤志家としても名を馳せる一方で……
 『この世に訪れたウォーカー達は、混沌の統治に関わるべきではない』
 ――かような思想を掲げる『反ウォーカー派』の一人だからだ。そのような人物がなぜこのような場に来る?
 件の主役であるベネディクトこそが正にそのウォーカーであるというのに。
「気になるのか?」
「何を?」
「――フフフッ。安心したまえ。私個人の考えはともかく――今宵はファーレル家の更なる繁栄を心より祝いに来た次第だよ。それ以外の、あぁ他意などありはしない。誓うとも」
 紡がれる言葉に信憑性などどれほどある事か。
 握手をしながらもう片方の手に刃を握っているのが貴族社会の常である……社会的立場もあるジョンならば、内に宿っている思考はともあれ――彼自体がこのパーティをどうこうすることはないだろうとは思う。
 が。
「……当主様。申し訳ありません、お耳を少し……」
「――急用が出来ましたのでこれで失礼。パーティをどうぞ、存分に」
「ああ存分に楽しませてもらうとも。主役にも、後で挨拶に行かせてもらう」
 彼『以外』が動かないとは――限らない。
 ……元々不穏な情報を入手していたのだ。今宵の婚約パーティに対して、ウォーカーを狙うテロ組織『レアンカルナシオン』が――妨害を狙っている、と。
 ウォーカーの領主代行などいう存在の誕生を許せなかったのか? いずれにせよ狙いはベネディクトとリースリットだろう。ウォーカーなのはベネディクトの方だけだが、婚約するリースリットも凶刃に倒れればウォーカー領主など誕生しなくなる。どちらが狙われるのも『ある』話だ。
 ファーレル家の騎士に耳打ちされたリシャールがどこぞへと消えていく――のと交代するかのように、ジョンの下へと至る一人の男の影があった。彼はジョンの耳元で囁くように何かを告げれば。
「そうか――さて、お手並み拝見と行こうか」
 口元に薄く笑みの色を見せて。パーティ会場全域を――眺めていた。


「賊が侵入した、と?」
 パーティ会場から少し離れた部屋に集められたのはイレギュラーズ達だ。
 リースリット達の婚約パーティの友人として、そして万一の際の警護として。
 ファーレル家の騎士が厳重な警護を敷いているので出番はないだろうと思っていた……のだがそうはいかなかったようだと口を開いたのは新田 寛治 (p3p005073)である。リシャールの瞳は冗談を告げている様子には一切見えず。
「間違いない。非常に遺憾な事ではあるがな……」
「……なぜです? 警備に隙がある様には見えませんでしたが」
「そうよぉ。とても鼠一匹猫一匹入る隙間すらなさそうだったわぁ?」
 リシャールは賊の侵入は誤報ではないというが――クラリーチェ・カヴァッツァ (p3p000236)とアーリア・スピリッツ (p3p004400)には正直、疑問符しか浮かばない。
 レアンカルナシオンというテロ組織が襲撃してくるかもしれないという話は聞いていた。
 しかし会場に訪れてみれば万全と言っていいほどに警備が固められていた。もしも奴らが攻め込んできたとしても、外で跳ね返せるに間違いないと思えるほどに。内部にしろ、招待客に扮していないかチェックされていたし、当の貴族達はともあれボディーガード達はボディチェックも受けていた。
 入れる筈がない。もし何か予想外の侵入ルートがあったとしても――
「武器はないのですよね? それならまだ……」
「――いや、ある」
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)の言を遮る様にリシャールは述べた。
「実は先程、邸宅内で魔術を行使された反応を発見した。
 配下の者が急行した所――魔術で何か物を『転移』させてきたようだ」
「転移……? 引っ張ってきたという事ですの?」
「ああ。空間転移の術の様だ。かの行為に造詣のある術師が敵にいるのかもしれん……そういう術が行使できぬ様に守護の結界を張っている筈なのだが、突き抜けさせる事が出来るレベルの、な」
「成程……だが、武器を魔術で持ち込んだからバレたのか。間抜けな連中だな」
 フローリカ (p3p007962)は言う。隠せていたのに存在をわざわざバラすなど、と。
 まぁ素手で暗殺の類をしようとすれば相当な技量が必要になる。恐らくはこの警備を突破するために隠密の方に優れた者を送り込んできたが故の事態か? いずれにせよ『いる』と分かったのならばやりようはあり。
「素手で掛かってきたのであれば酔っ払いが出たと強引に処理もできるのだがな――
 しかし万一刃物の類を出されればそうはいかん」
「その前に秘密裏に止める必要があると仰るのですね」
「然り。幸いと言うべきか、奴らも短慮ではないのだろう。
 即座に行動は起こさず――主役たちを至近で狙える瞬間を狙っているのか騒ぎはない」
 リュティス・ベルンシュタイン (p3p007926)もリシャールと同じことを感じていた。会場内には、今の所一切の変化がない。賊が侵入したなどと誰が思っていようか。
 ――この雰囲気は維持されなければならない。
 テロリストなどに台無しにされる訳にはいかないのだ。今日は『何もなかった』
 ただ『何事もない披露パーティがあっただけ』の日に――する必要がある。
「感知した転移の術は大規模なモノではなかった。恐らく荷物を一つか、二つ……邸宅内に送り込んだだけだろう。敵もそれに準じた数だと思われる」
「ちなみに『人』が送り込まれたって可能性は?」
「それはない。万一あったとしても招待客の顔は全てチェックさせている」
 だから問題ない、とフローリカにリシャールは告げる。
 もし入り口を通っていない――不正に侵入した輩が混ざっているのならばすぐに分かる。外の警備にはとにかく人手を割いたが、内部の警備にはリシャールの信もある精鋭を集めているが故に……不審者が混ざっている場合には即座に捕まえる事が出来るから。

「今日のパーティは、成功させなければならない」

 故にリシャールは言う。
 感情をその顔に出さず、冷静に――そして。
「だが内部の人員をこれ以上増やして招待客に不審を悟られる訳にもいかない――
 諸君らの力を、貸してほしい」
 言うのだ。
 どうかこの一夜に平穏を、と。
 どうかこの舞台に――祝福だけを、と。

GMコメント

■依頼達成条件
 婚約パーティを『何事もなく』成功させる事。

■フィールド
 リシャール・エウリオン・ファーレル所有の邸宅。
 外側は厳重に警護されており、更なる増援が訪れる事はないでしょう。
 大広間でパーティが開かれています。それなり以上の人数が会場にいて、一目で全員眺めるのは至難です。
 大広間から離れると人は少なくなってきます。

■レアンカルナシオン×3
 パーティ会場のどこかに潜入しているテロ組織『レアンカルナシオン』の人員です。
 彼らはローレット――と言うよりも『ウォーカー』を敵視しており、命を厭わない様な行動すらとります。
 変装によって会場内に侵入している様です。外を厳重に固められている為か、ごく少数しか潜入できなかったのでしょう。暗殺・隠密タイプ、一撃必殺を狙ってくるようです。

 これはPL情報ですが、彼らは会場入りしている『クェーバー男爵』のボディーガードに扮して潜入しています。クェーバー男爵という一個人は実際に存在している人物で、彼自体はレアンカルナシオンと関係はありません。
 ボディーガード達はボディチェックを受けているのですが、その後特殊な手段を用いたようで武器を持っています。と言っても大型の武器を持てばバレるので服の内に隠せる程度のサイズの武器でしょう。
 ただしクェーバー男爵関連の情報は皆さん(PC)は知りません。
 なんらかの調査によって彼らであるとアタリを付けてください。

 なお、パーティを滅茶苦茶にする(事実上この依頼の失敗条件)だけだったら、今すぐ暴れ出せば成せるのですが――その行動をした場合、目標であるベネディクトさん達に刃は届かないのは分かり切っていますので、彼らも軽率な行動はすぐにはとらないでしょう。

■ジョン・ウォーレン・ロスフェルド
 『ロスフェルド財閥』――混沌各地に根を張る財閥の現当主。
 本来は招待客ではなかったのですが、前日に彼の方から打診して会場入りを正式に果たしている人物です。彼はウォーカーが混沌の統治に関わる事に反感の思想を抱いている人物なのですが……?

 なお。あくまでも彼がウォーカーを敵視するのは『混沌の統治』に関する事のみであり、それから外れているのであれば強く敵視する訳ではないようです。むしろ十分な能力と資質があるのであればビジネスの取引先として普通に接する程に……

 彼とレアンカルシオンに繋がりがあるかは不明です。
 少なくとも、表面上は。

 彼はボディーガード? らしき男性を一人伴ってこの会場に入ってきています。ジョンやジョンのボディーガードが何か暴力的行いをしてくる事はないと思います、が。念の為注意だけはしておいた方でしょう。

■リシャール・エウリオン・ファーレル
 ファーレル家現当主。今回の婚約パーティを開いた人物でもあります。
 彼の配下の騎士は外でも内でも警戒しており目を光らせています。
 何かしてほしい事があれば積極的に協力してくれるでしょう。

■備考
 婚約パーティの主催であるベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)さんとリースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)さんは立場上、パーティ会場から長時間離れる事は出来ません。
 出席者に『何かあったのだろうか?』と思われると失敗になる恐れがありますので、ご注意ください。
 ただし逆を言うと短い時間なら離れる事は可能です。

  • <マナガルム戦記>Benedictio dies完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月31日 22時12分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
フローリカ(p3p007962)
砕月の傭兵
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 パーティは続く、まるで何事も無いかの様に。
 中央には場の主役たる『ドゥネーブ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)と『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)がいるものだ。新たな領主にと挨拶に来る者がちらほらいて――
「ふー……流石お貴族様のパーティでは良いお酒が出ますわね……!」
 一方そこから少し離れた所で二人に危害を加える者がいないか見据えているのは『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)である。その片手には恐らくシャンパンだろうか、のグラスが一つ、二つ……
「ちょっとぉヴァレーリヤちゃん……飲むのは程々にねぇ? 一仕事したら飲み直しよぉ!」
「ええ勿論分かっておりますわよ! ふふん、こう見えて司祭ですもの! 私が場を弁えなかったことが一度でもありまして? あ、でもこのお酒美味しい……折角なのでもう一杯、ああぁ」
 と今夜のヴァレーリヤ係である『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)に引きずられていく。さて、今の所敵に目立った動きは無いように見えるが……しかし、どこかにはいる筈だ。
 既に武器を携帯している者が。
「レアンカルナシオン……以前ギルオスさんを狙った一団の名前でしたか。
 まさかこんなパーティ会場にも現れるとは思ってもいませんでしたが」
「……以前にも相対したが、本当に見境のない連中だな。旅人であれば全て敵、か?」
 そして『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)と『砕月の傭兵』フローリカ(p3p007962)はアーリア達の様に二人で組と成りて別方向を探索中だ。
 レアンカルナシオン――以前にも二人は奴らと会ったことがある。
 何が目的なのだろうか。フローリカの言う様に見境がないだけか、それとも。
「……こういう対立から大きな戦争にまで発展したのは見てきたが……或いは、それが目的なのか? 情勢の不安定さをアピールし、火種とすれば……」
 後は勝手に燃え上がる、と。
 確証はないが経験からフローリカは推察する――しかし真実がどうであれ、好きにさせるつもりはない。
 まずは聞き込みによって奴らを特定していくことにしよう。『転移』のあった部屋に近付いた者がいるか、いないか。もしも目撃した者がいればそこを起点として特定の一歩にもなる筈だ。

(……しかし『転移』ですか)

 周囲で皆が動く中――ベネディクトの傍に沿うように立つリースリットは心の中で思考する。
 物質の転移。例えばイレギュラーズは空中神殿を経由したりなどで経験する事があるが――しかしアレの原理はそう簡単なモノではない筈だ。今回運ばれてきたのは人ではなく物質であり、可能な魔術であるのかもしれないとは思うが。
 そういうモノを得手とするのは、海洋の魔術師の名で聞いた事はあったが……
(いずれにしても相当な実力の魔術師が関わっているという事ですか)
 実行犯とは別の、引き手役が。
 どこに――誰でしょうか――?
 会場を眺め、資質を見極めんとする術で彼女は怪しき者を探っていく。
「……全く。領主というのは、まぁこういう事があるのだろうがな」
 同時。その隣にいるベネディクトは誰にも聞こえぬ様に小さく呟いた。
 立場在る者は常に何かしら危険な立場にも晒されるものである――だが『そんな事』は承知の上で領主と言う立場を引き受けたのだ。
 ――易々とやられてやる心算などない。
「これはこれは……西のテラトー卿ですね。お名前はファーレル卿から聞き及んでおります、ドゥネーブの土地を領主代行として引き受ける事になったベネディクトと。此度はこの場に足を運んで下さった事に感謝します」
 招待された客に挨拶をしながら決して思考は止めない。
 暗殺者など――別に歓迎はしないが来るなら来いというものだ。
 仲間達も近くにいるのだから。
「ふむ、テロ組織ですか……ご主人様に楯突くとはいい度胸です。
 ましてやこのような祝いの席の日を狙うとは……」
 いつか殲滅しなければなりませんねと『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は主人たるベネディクトから預けられたリスのファミリアーを袖口に隠し『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)と行動を共にする。
 これにて簡易だが連絡は取り合う事が出来る――後はどう下手人を見つけるか。
 故に寛治が見据えるのは招待客を饗しながら、彼らの内に正体を隠している者が無いか観察していくこと。変装をしているならば余程上手くしていない限り不審な点が見えてくるものだ。それで一人でも看破出来れば儲けもの……と、思考したその時。
「おっと……撒き餌に食いついた、と言った所ですかね?」
「――どうされました?」
「いえ、少し挨拶すべき相手がいたものでして」
 寛治が視線を巡らせた先に居たのは一人の男。
 旧知の間柄――と言うよりも商売上の関係者、と言った方が正確か?
 ジョン・ウォーレン・ロスフェルド。レアンカルナシオンと同様にウォーカー嫌いの御仁……
「さて2つの点が繋がる線、見えてくるでしょうか」
 眼鏡の位置を調整し、寛治は歩みを進める。
 全てはこのパーティを『何事もなく』終わらせる為に。


 しかしそれはそれとして――であるがこの場はパーティである。
 ならば普段依頼で活動する際の服装であると逆に目立つものだ、故に。
「…………なぁ、ところでドレスなど本当に必要なのか? 動きづらいんだが……」
「まぁ、その。場の服装と言うのはありますので……ただ身分の高い方は、常時このような格好をしているのでしょうか。確かに動きづらくないですか?」
 イレギュラーズ達はパーティの場に相応しきドレスを身に着けているものである――尤も、普段着とあまりに異なるモノであればフローリカやクラリーチェ達はなんとなく落ち着かない旨の言葉が絶えないものだが。
 コルセットで締め上げられた腰が悲鳴をあげそうだ――
 素材良き彼女らのドレス衣装など実に新鮮であり知る者が知れば眼福と思うかのような光景だが……元々傭兵稼業の長いフローリカなどは割と心底のドレスという衣装の存在に懐疑的であった。
「ドレスはパーティなどでは日常物ですが、誰もが着慣れている訳ではありませんからね……しかし皆様素敵なお姿になられているようで、何よりです」
 その着付けを手伝ったのはリュティスであった。彼女自体はベネディクトの従者としていつも通りの格好だが、アーリアも含み他の面々はそれぞれドレスやスーツなどを着込んでいる。普段の業務からすればお手の物と言う訳だ。
 煌びやかなる衣装を着こなす面々を見据えれば、なんとも仕事が上手くいっていると再認識するものである……と、しかしこの場における最も重要な仕事も忘れてはいない。
 フローリカは聞き込みを続け、同時にクラリーチェは優れた聴覚で周りの会話の声を拾う。ほんの微かでも『違和感』のある様子や、声を察知出来れば幸いと。
(流石にあからさまな会話をするようなことはないでしょうが……しかし私を含め、連中と一度交戦した仲間が何人かこの会場にいます。もしも彼らがその事に気付いたならば)
 反応があるかもしれない。少なくとも無警戒、とはいかない筈だとクラリーチェは思考する。慌てたり警戒の意図が見えれば芋づる式だ。
 そして――調査は決して物理的な『耳』だけではない。
 誰かがアイコンタクトを取っていないか、或いはテレパスの様な思念で交信していないか――?
「そういえば聞きまして? 邸宅内の書斎の方で不審な人影を見たっていう噂」
「あらそんな事があったの……? やぁねぇ美男美女のお祝い事の日なのに不吉だわぁ」
 傍受するハッキングの術でヴァレーリヤは彼らを探し。アーリアもまたそう言った技術がどこかで使われていないか――レーダーの魔術を用いて常に探知をし続けるものだ。
 リュティスと共にレーダーの範囲を広げていればこの場を全て対象にする事も可能である。レーダーでは『どこ』で使われているかまでは分からないが、範囲内で仲間内以外の反応がある事さえ分かれば大きな手掛かり。
 通信として一番あり得るのがテレパス故に、だ。
 ヴァレーリヤがその通信内容を傍受する事が出来れば――かなり近い範囲に奴らがいる事を絞り込むことも出来て。『不審な人影』の会話情報をそれとなく流しながら、周囲の者達の反応を見る。
「これはこれはロスフェルドさん。まさかここでお会いできるとは、ご縁があるのです」
「――ほう。これは寛治ではないか」
 そして寛治は――ジョン・ウォーレン・ロスフェルドへと接触を。
「ご無沙汰しております。絶望の……今は静寂の青の向こう、豊穣の話でも手土産に、お伺いしたいと思っておりました」
「ふむ。近頃話題の海向こうの話かね。それは些か興味をそそる所だが……」
 イレギュラーズである君は、仕事中ではないのかね?
 探りを入れてくるかのような視線――老練なるこの人物、やはりいつ会ってもこちらを覗いて来るかのような事をしてくる。まぁビジネスにおいて自身の内を探らせないなど初歩の初歩であれば平静を貫いて。
「ははは、なにマナガルム卿とは懇意にしておりましてね。
 その縁があって来ているだけの話ですよ」
「フッ、そうかね」
「ええ。そうそう海向こうの豊穣と言えば、かつてかの地を目指し転移魔術を研究していた一門がいたとか。彼らの研究成果――少し興味がありますね」
 転移。そういえばここに使われたのもそう言う系統の技術だった。
 誰かが魔術を行使したのは間違いないが――それは一体誰だろうかと、護衛の方にも視線を巡らせて――

 ……んっ?

 その時、寛治の看破しようとする目が捉えた違和感は何だったか。
 この護衛――もしや――?
 と、その時。
「おっと――失礼、我が婚約者は気疲れをしてしまった様です。
 少しばかり、外の空気を吸って来ても?」
「おおそれはいけませんな。なんの、我らに構わずごゆるりと」
「申し訳ありません……すぐに、戻って参りますので」
 ベネディクトとリースリットが『連絡』を受けて行動を開始する――挨拶を引き続き行っていた最中だが、気分が優れぬようだと足を外の方へと運んで。

 ……動いた様だ、これが好機だな。
 ……ああ。行動を開始するぞ。

 同時――レアンカルナシオンの暗殺者たちは顔を見合わせ、テレパスを用いて交信。
 主役二人の歩みを追う。バレぬ様にとタイミングをずらし、ルートも変えて同じく外の方へと。
 『誰か』にその会話の内容を聞かれていると――想像もせずに。


 リースリットは招待客と会話を続けながら一人一人の能力を探知していた。
 この術を防ぐ手段はある、が。そんな手段を持つ者がいる時点でそれは只人ではない。
 そして――彼女の目は怪しき一団を捉えていたのであった。
(あれは――)
 クェーバー卿とその護衛……確かお父様とも懇意にしている貴族だったか。
 その護衛が怪しい。只の護衛とは思えぬ様な資質を宿している。
 無論護衛と成ればある程度の能力は備えているものである、が。万一にとベネディクトの服の肘辺りをこっそりと引いて、合図。
(ああ……分かった)
 さすればベネディクトがリュティスに渡していたファミリアー越しに連絡を取るものだ。
 ――右の壁側、怪しい者あり。
 動物越しとなれば細かな所までは伝えられないが、大まかで構わない。位置を絞り込めれば後は皆がじっくりと観察する事が出来るのだから――
 そして目星を付ければ、動きがあった。
 ベネディクト達が別室に向かおうとするソレに応じて動かんとするのだ。
 一見しただけでは分からない。距離はあるし、彼らの視線はベネディクト達を追っている様なには見えないからだ。まるで飲み物を取りに行くかのような動作で――しかし違う。
 一歩、二歩、ほんの少しずつ距離を詰め。
 そして――

 ――今よッ!

 声なくイレギュラーズ達の脳裏に『合図』が突き走った――
 アーリアのハイテレパスによるものである。彼女のこの能力が、別々に行動していたイレギュラーズ達に素早く連絡を取る手段でもあったのだ。パーティ会場は広く、しかし壁の様な障害物はないために視線の確保は容易で。
 人気が少なくなった所で暗殺者達を逆に襲撃してやる。無音のままに、即座に。
「ぬぉ――ぐぁ!?」
「全く――やはりドレスというのは動きにくくて悪いな。やはり戦場の服ではない」
 声を出させる暇も与えんとフローリカは跳躍、一閃。
 いつもの斧……と、動きづらいのでドレスのスカート部分を破り一人に一点集中する。用意してくれた者には悪いとは思うが、パーティの成功の為にも代えられないのだ。
「折角の晴れ舞台。無粋な邪魔をするなど、神がお許しになりません事よ……!」
「ええ。邪魔する者は馬に蹴られて――あら、ちょっと違うかしらねぇ? まぁいいわ!」
 更にヴァレーリヤとアーリアも包囲する様に各所から。
 メイス一閃、或いは酔い痴れそうな魔力をぶつけて。
 暗殺者達も服の内に隠しておいた武器を取り出す、が遅い。暗殺する気はあったが、まさかこんな形で逆に襲撃されるなどとは思っても居なかったが故か油断していたのだろう。
「この状況、聡い方なら理解できるでしょう? 摘んでいる、と。
 大人しく投降しませんか?」
「黙れ、穢れた魂の持ち主に従う背徳者共め……!」
 直後に襲うのはクラリーチェだ。未だ抵抗の意志を見せる彼らに、四方より迫る土壁を顕現。強制的に『土葬』するかの如き術にてその動きを奪えば――
「――聞き捨てなりませんね。ご主人様が、穢れていると?」
 静かなる怒りを身に宿し、リュティスが往く。
「よい御覚悟です。無事に帰れるなどとは思いませんように」
「スマートに行きましょう。ええ、今日は『何もなかった』のですから」
 一撃。死の円舞曲とも言うべき舞踏は、美しく――しかし死の蝶を伴って。
 主に仇名す侵入者を決して許しはしないのだ。
 同時。駄目押す様な形で寛治が投擲するは、スタングレネード。
 彼らの至近で閃光が瞬き――その目を潰して――
「早く戻らなければならないんだ。お前達に……構っている暇はない」
「ええ――後の事は、お父様にお任せしましょう」
 最後はベネディクトとリースリット。二人の撃で仕舞いとするのだ。
 込める力は狼の雄叫びが如く。猛るは光り輝く剣の如く。
 ――二閃。
 それで十分とばかりに刃を収めれば――直後に不届き者達の意識が彼方へと飛ばされた。


「失礼――戻りました」
 やがて再びパーティの場へと姿を現したベネディクトとリースリット。
 その背後にはリュティスも控えており――であればとジョンは事の成り行きを察する。
「……あちら貴族でないような方がいらっしゃいますね」
「そうねぇ……でも、さっきの人達を排除した以上もう不穏な事はないでしょう。
 さてヴァレーリヤちゃん飲み直しよぉー! お仕事をした後の一杯は美味しいわねぇー!」
「ええそうですわね、至福ですわー!」
 そんなジョンを眺めるヴァレーリヤとアーリアだったが――彼から殺意の類は一切感じない。ならば心配なしと向かうはお酒コーナー。ファーレル家秘蔵のお酒を飲みつくしてやるのですわー!
「奴らは失敗したらすぐ死のうとするが、今回は対策した上で引き渡した。後で情報を得たい所だ……奴らのやり口は分かっているんでね」
「ええ――いつまでも謎の組織にしておくつもりもありません」
 色々と聞きたい事が多いですしね、とクラリーチェはフローリカと会話を。
 自殺防止の猿轡などをした上でファーレル家の私兵に渡した。
 パーティが終われば――『色々』と聞くとしよう。

「この度ははるばる御足労頂き感謝申し上げます。ドゥネーブの地を頂いた信をもって――」

 始まるはベネディクトの、出席者に対する礼の言葉だ……パーティも佳境、か。
「ロスフェルド殿」
 その時、ジョンへと声が掛かったのは寛治――
 いや違うリースリットだ。
「お父様や寛治さんよりお話は伺っております。遠方よりお越し頂けたとか……」
「――なんの。祝いとなれば当然でしょう」
 その隣には寛治もいる。紹介、という事か。
「新たな領主誕生を心よりお祝い申し上げますよ。ええ――心より、ね。
 領主殿にお伝えください。『商売』の事があれば是非ロスフェルド財閥に、と」
「私からも伝えておきましょう。もうお帰りで?」
 踵を返すジョン。その背に寛治が言葉を投げれば。
「ではまたどこかでお会いしましょう――そちらの『レディ』も、またいつか」
 男――に何故か扮していたと『看破』した護衛の方にも仮初の挨拶を。
「行くぞエドガーバッハ。パーティが終わった以上、もうここに用はない」
「――あいよクソジジィ」
 されば去り際。
 護衛の人物は薄く舌を出して、さよならの挨拶代わりと。
 ――あれはきっとこの場に暗殺道具を『転移』させてきた術者だったのかもしれない。恐らく内部に入り込んで術を描く必要があったのだろう……尤も、証拠も何もない話であるが。
 しかしパーティは無事に終わった。多くの拍手と暖かな笑顔の中で。

 何事もなくここに――婚約の祝いの場は成立したのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。

 今日は不審な事は何もなかったのです――少なくとも多くの招待客にとっては。
 ただ非常におめでたい祝いの場であっただけの日。

 ありがとうございました!

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