PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<天之四霊>焔王朱雀

完了

参加者 : 10 人

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オープニング


 紅葉の色彩に染まり往く山々の尾根が視界に広がる。
 吹く風は何処か涼しい温度で着物の隙間から入り込んで肌を冷やしていった。

「もう、秋かのう」
 朱き衣を纏った童子が寝台の上で仰向けに寝転がっている。
 ゆるりと起き上がった童子は寝台から抜け出し、裸足で床の上を歩いた。
 足下を過ぎて行く風は冷たさを帯びて季節は秋へと変わって居たのだと気付かされる。

「帝のやつ……まだ寝ておるのか? んぃー。いや、ようやく目を覚ましよったか」
 窓を開けて温かな陽光を部屋の中へ招き入れた。
 掌に感じる太陽。眠たげな表情で童子は窓から外を眺めている。
 温かな陽気。心地よい風。童子は放心状態でふわふわと浮き始めた。
 半分夢見心地のまま、背中に朱い羽根を広げてゆっくりと窓の外へ飛んでいく。
「あ! ちょっと、朱雀様! また寝ぼけてる!」
「んぁ!?」
 突然聞こえてきた叱咤の声に『朱雀』と呼ばれた童子は目を覚まし、生け垣に墜落した。
 茂みの中で藻掻く足を引っ張りあげて従者星宿は朱雀の埃を払う。
「寝ぼけながら飛ぶのはお止め下さい。この前だって寝ながら街道の方へ飛んで行ったせいで炎車が発生したんですよ」
「いや、あれは……我のせい、なのか?」
 星宿に抱きかかえられ部屋の中へ戻される朱雀。
「焔王たる朱雀様が無闇に動けば、星の均衡が崩れ歪みが生じます。青龍様にも叱られましたでしょう」
「青龍……奴は昔から怒りんぼじゃ」
 ぷくりと頬を膨らませた朱雀は星宿に髪を梳かされるままにしている。

「……今日は誰か来るのか?」
「ええ、白虎様の所の西海和尚から近々、神使が訪ねてくると伝令がきています。その者達からの書簡も来ておりましたので、朱雀様が寝ている間に返しておきました」
 神を梳かされながら朱雀は『神使』と口唇を紡いだ。
「ふむ、良うできた従者じゃ。して、その神使たちはこの地に何をしに来るのじゃ?」
 朱雀の座する高天都が南方の地。山には紅葉が咲き、田には黄金の稲穂が揺れている。
 方南紅蘭院は古くから瑞鳥たる朱雀を奉っている由緒正しき寺院である。
 その方南紅蘭院に滅海竜を鎮めこの地へ到った神使――この国ではイレギュラーズをこう呼ぶ――達が何の用で来るというのか。
 朱雀とて彼等がこの国『神威神楽』に慣れるため、実績を積み上げるため傭兵稼業に勤しんで居る事は知っている。国の権力者達七扇と中務省は、少なくとも表向きは神使達を歓迎したことも。
 しかし、この国には大きな問題があった。
 最高統治者である霞帝が、こんこんと眠り続けているのである。
「帝め。起きるのが遅いのじゃ。貴様が早く起きんから神使らが我の所に来る羽目になったのだ」
 朱雀はぶつぶつとこの場には居ない帝に悪態をついたのに星宿が頷いた。
「京の中枢には魔種が巣くっているのでしょう」
 魔を打倒すべき使命を背負う神使にとっても、また彼等の身元引受人となっている中務卿建葉晴明にとっても、それは看過しがたい事実だっただろう。
 さりとて魔が殿上を支配している以上、この地で活動するに面従腹背は必至であった。
 なんといっても魔の中心は天下人たる巫女姫と、大政大臣である天香長胤その人なのである。
 中務省と、それを率いる晴明が八扇を離脱した(故に七扇となっている)理由は、斯様な事情も含まれるという訳だ。

「それで、帝の代理として機能していた巫女姫と天香長胤が、国を闇に堕とす大呪を策謀したということじゃろう?」
「はい。此岸ノ辺の巫女がその巨大な呪いを感知し、神使が動いたのです。もちろん、天香側との上辺だけの友好関係が決裂したのは言うまでもありません」
 戦いはお互いがお互いの本拠地に攻め入り防御し合う二正面状態となった。
「ははっ、それは痛み分けというヤツじゃのう」
 されどその戦いの結末に、朱雀が関わってくる事になったのは『帝の目覚め』があったからだ。
「まあ、あやつが目覚めたのであれば、我を求めたのも道理か」
「はい。数名の神使が囚われ流刑の憂き目に遭っているそうです」
 流刑程度であれば四神の一柱でも在れば十分なのだろう。
 されど、全ての守護神の力を請うとなれば帝にはその先の大局が見えているということ。
「くくっ、面白くなって来たではないか。よい、よい。我は久々に求められて気分が良い。その神使たちに力を貸してやろうではないか……」
 上機嫌な朱雀に星宿はその濡れ羽色の髪を結い上げていく。
「のう、星宿。人というものの性善を望むか? それとも性悪たれと願うか?」
「私には分かりません」
「そうじゃのう。何年たっても、我にも分からぬ……だが、あやつだけは信じてもいいと思ったのだ」
 何時も眠たげな朱雀の瞳に僅かな憐憫が浮かぶ。
「今度の神使たちはどちらじゃろうな?」
 星宿には朱雀の悲しみは計り知れぬど、その小さな身体を抱きしめる事は出来るのだ。

 ――――
 ――

 視界は朱く燃えている。
 轟々と行く手を阻むように焔は迸った。
 その中で、イレギュラーズの耳に幼児の泣き声が届く。
 必死に生きようと、助けて欲しいと藻掻く幼子の叫びだ。

 不測の事態だった。
 朱雀に謁見を求める書簡には『応』と書かれていたはずなのだ。
 其れなのに、行く手を阻む焔柱の数々に皮膚に熱が籠もっていく。
 成程とイレギュラーズは頷いた。
 この行く手を阻む焔は――『朱雀の試練』なのだろう。
 業火の中でも聞こえてくる不思議な幼子の泣き声も。炎の影に感じる気配も。
 イレギュラーズのために用意された試練。
 ならばとイレギュラーズは瞳を上げる。
 立ち向かうしか道は無い。知らしめるしか無いのだ。
 自分達の背に託された想いは朱雀の試練などでは屈しないのだから――

GMコメント

 もみじです。
 朱雀の眷属と戦います。

●目的
 朱雀に礼と力を知らしめる。

 朱雀は『戦い』と、イレギュラーズ達の『礼』を望んでいます。
 戦いの中で、言葉や想いを感じ取ろうとしているのです。

●ロケーション
 炎が戦場を覆っています。毎ターン火炎のバッドステータスが入ります。
 日中です。足場に問題はありません。

●敵
 朱雀の眷属です。とても強いです。朱雀の炎は彼等を傷つけません。
『焔四天』鬼宿
 体術をメインに攻撃を仕掛けてきます。

『焔四天』井宿
 呪術をメインに攻撃を仕掛けてきます。

『焔四天』柳宿
 回復をメインにしています。タフです。

『焔四天』星宿
 司令塔です。体術、呪術、回復を使えるオールレンジファイター。剣を持っています。

●朱雀
 炎の中で子供のような泣き声でイレギュラーズを待っています。
 イレギュラーズがどういう戦いをし、どう自分を助けるかを見ています。

 朱雀自身は、自然や現象(あるいは大精霊)のようなものです。
 人の世の盛衰にも(もっと言えばこの世界の存亡にも)興味はありません。
 単に世の理として、そこに存在しています。
 しかし人格――と述べて良いものかは疑問ですが――としては、神使に純粋な好意を持っています。

 能力は一切不明です。

●四神とは?
 青龍・朱雀・白虎・玄武と麒麟(黄龍)と呼ばれる黄泉津に古くから住まう大精霊たち。その力は強くこの地では神と称される事もあります。
 彼らは自身が認めた相手に加護と、自身の力の欠片である『宝珠』を与えると言い伝えられています。
 彼ら全てに愛された霞帝は例外ですが、彼らに認められるには様々な試練が必要と言われています

●重要な備考
<天之四霊>の冠題の付く『EXシナリオ』には同時参加は出来ません。
(ラリーシナリオ『<天之四霊>央に坐す金色』には参加可能です)

  • <天之四霊>焔王朱雀完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月27日 23時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
コラバポス 夏子(p3p000808)
イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
シラス(p3p004421)
竜剣
Melting・Emma・Love(p3p006309)
溶融する普遍的な愛
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀

リプレイ


 朱き焔が燃ゆる揺り籠。鼓動は太鼓の如く胸で爆ぜる。
 小さく吐息を吐けば、新たな炎柱が蘇芳の粉を撒きながら迸った。
 朱雀の座する方南紅蘭院に足を踏み入れし神使に試練を与えるは使命。
 されど、朱雀は四神の誰よりも『臆病』であった。
 焔の中に小さく啜り泣く声が聞こえる――

 目の前を覆い尽くす赤々とした焔に『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は眉を寄せた。
「これが朱雀の試練なのか」
 揺らめく炎は何処か拒絶するようにレイチェルの指先を焼く。
 されど、燃え盛る炎はレイチェルが身に宿した憤怒の焔を凌駕しない。
 レイチェルの耳に幼子の泣き声が聞こえてきた。
「もしこんな場に出会したら……何としても助け出す。それをいつも通りやるだけだ」
 声のする方へ金蒼の視線を上げる。幾重にも重なる火柱の向こう、星の名を冠する人影が浮かんだ。

「……本当は、こっちのゴタゴタに首を突っ込む気はなかったんだがねぇ」
 手で髪を掻き上げながら『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は溜息を吐く。
 其れが海を渡って、朱雀の前にまで来たかというと『借りっぱなしの恩』を返しに来たという塩梅だ。
 海洋での戦いで沢山の人に助けて貰ったという思いが十夜の中にはある。
 酒場で聞いた噂話。巫女姫や大呪蔓延るこのカムイグラの地で特異運命座標が島流しにあった。
「流刑された奴らの中に少しばかり借りがあるやつらの名前があったんでな」
 神威神楽の未来や世界の為だとか、壮大な物を救う気力は十夜には無かったけれど。
 手を伸ばせる範囲に、恩を貰った者達の助けを呼ぶ声があるのならば。
「そいつらのためくらいになら……偶には本気を出してやるさね」
 十夜の斜め後ろに佇む『鬨の声』コラバポス 夏子(p3p000808)が槍を手に僅かに腰を落とした。
 新天地として遥々海を渡った我々を合同祭りで歓迎してくれたり、美味い飯を振る舞ってくれたり。
 この豊穣郷の人々は、思ったよりも暖かく、平和の為に力を貸せれば良いと思っていたのだ。
 されど。
「現実は逆。テメーは依頼で失敗し。女性を攫われたド間抜けだ」
 目の前で連れ去られる仲間の顔が夏子の頭から離れない。悔しさで胸が掻きむしられるようだ。
「恥ずかしくも幸いな事にまだちゃんと生きてる。この不手際を濯ぐ為にも俺はココに来た」
 槍の刃先に蘇芳の炎が揺らめいて散る。
 ピンク色の肌を朱雀の炎がジリジリと焼いていった。熱を代謝するように『溶融する普遍的な愛』Melting・Emma・Love(p3p006309)の表面がトロリと蠢く。
「試練があるのは厄介なの。それでも、流罪された人達を助けるには力が必要なの」
 自分が力になることが出来るならとラブはこの場に集った。
「お願い、流罪された人がどうか無事でいられる様に力を貸して欲しいの」
 ラブの声に呼応するように幼子の泣き声が大きくなる。
「泣いてる子が居るなら助けたいの。ぎゅっと抱きしめて安心させたいの」
 温かな愛で包み込んで優しく声をかけてあげたいとラブは目を細めた。
「その前にやることがあるなら。戦う必要があるのなら、Loveは全力で頑張るの」
 拳をぎゅっと握りしめラブは赤色の瞳を前に向ける。

「人間という複雑怪奇な生物を『善』と『悪』で考えようとするから答えが出なくなる」
 ネプチューンパープルの瞳で『赤と黒の狭間で』恋屍・愛無(p3p007296)は肩を竦めた。
「善も悪もコインの表と裏のようなモノだ。わけて考えるなどナンセンスだろう」
 時として容易にその表裏を覆してしまうのだと愛無は視線を逸らす。
「両表のコインなんて、そんな物は贋金だろうさ」
 有りもしない絵空事。一か零で話が片づくなら人の心は無味乾燥だろう。
 捕食者たる愛無自身とて人の心の中に揺れるぬくもりに手を伸ばしたいと思ったばかりだ。
 其れが生身の人なのであれば、複雑怪奇に違いない。
「手っ取り早く、勤勉たれだ。さぁ、仕事といこう」
 愛無の言葉にくつくつと口の端を上げる『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)は指先を顎に這わせる。
「礼と力を見せる試練……。なるほどのう……ま、わしはいつも通りやるだけじゃ」
 からからと普段通りに笑って見せる瑞鬼は隣の『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)の背をバシバシと叩いた。
「人や魔物とは全く異なる圧。成程、これが四神朱雀……」
 背中を瑞鬼に叩かれながらルーキスは泣き声のする方向へターコイズ・ブルーの瞳を上げる。
「泣き声のする方へ駆け寄りたくもありますが」
「そうじゃのう。まあ、まずは彼奴らからじゃろうな」
 瑞鬼とルーキスが焔の中から姿を現した四宿に居住まいを正した。
「まずは目の前の眷属を退ける事に集中します。朱雀と会う前に倒れては元も子もありませんから」
 双剣を鞘から抜き放ち、ルーキスはジリリと靴を鳴らす。

「お初にお目にかかる、妾はアカツキ・アマギ。焔王朱雀殿のお力添えを願いに来た者じゃ」
 炎を宿した黄金の瞳で『焔染の月』アカツキ・アマギ(p3p008034)は真っ直ぐに最奥の炎柱を見据える。
「イレギュラーズの一員として……いや、炎の魔女として試練があるというのなら受けさせて頂くのじゃ
 此処は戦場、力を示せというのであれば不躾ながら全力で参る所存」
 深く礼をしたアカツキは朱の刻印に魔力を込めた。
 赤と青の輝きが織りなす炎の起動術式が戦場に迸れば、僅かに朱雀の炎が大きくなる。
 同じ炎に呼応したのか、或いは警戒をしているのか。
 現段階では判断は付かないが、やるしか無いのだと小さく息を吸い込んだ。
「行くのじゃ!」
 アカツキの声にイレギュラーズは走り出す。

 ひゅっと小さく息を飲んだのは朱雀だ。
 炎の中からイレギュラーズの行動を観察している。
 その瞳には涙を浮かべ、鼻水を啜っていた。
「うぅ……、星宿のやつめ」
 星宿は朱雀の性格をよく熟知している。
 イレギュラーズが来る直前、駄々を捏ねて眠ろうとした朱雀を戦場に立たせたのは星宿なのだ。
 普通に迎え入れイレギュラーズの力量を測る手筈が、癇癪を起こした朱雀が炎柱を作り上げ炎の揺り籠の中に閉じこもった。
「我は神使になど会いたく無いのじゃ……。何故、お主が会いにこんのじゃ賀澄」
 帝という立場で容易に動き回れないのは理解している。出なければ、神使がこの地まで来るはずもない。
「会いたいんじゃ! 会いたい! 賀澄の大馬鹿者!」
 炎の揺り籠の中で地団駄を踏む朱雀。ぽろりと涙が零れ落ちる。
 本来であれば、帝が眠りに落ちた時点で助けに行きたかった。
 されど、『南方に座する朱雀』が動けば均衡が崩れるのは道理。
 大精霊である朱雀から見れば、この小さな方南紅蘭院に留まり続けているのも帝が此処に居て欲しいと宣ったからこそなれど、心細さというものは炎の身さえ焦がす。
 地の守護、不動の玄武は苦にも思わないかもしれない。
 されど、翼を持った朱雀に楔を穿つということは、鳥籠の鉄と同義である。
 人の身で大半を眠っているのは、その現実に向き合いたくないから。
 帝との約束を守っているから。
「はぁ……、はやく終わらんかのう」
 膝を抱えて袴に顔を押しつける『臆病』な朱雀は小さな声でしくしくと泣いていた。


「熱っ――」
 巻き上がる炎にシラス(p3p004421)が手を引く。
 指の先がジンジンと痛んだ。
 されど、シラスは歩みを止めたりはしない。
「炎がなんだってんだ。自凝島には大切な人がいる。その為なら何だってやってみせるぜ」
 シラスは子供の声がする方に進んでいく。
 突然の炎に泣き声。本物だとは考え難いだろう。
 されど、僅かでも嘘では無い証明が出来ない限り、幼い命の救出を第一に考えるのだ。
「アレクシアならきっとそうする」
 皮膚が炎に焼かれてもシラスは進んでいく。

「ようこそ神使たち」
「そこをどいて欲しいんだけど。子供の泣き声が聞こえるだろ」
 シラス達の前に立ちはだかる四人の宿は頷く。
「そうですね。しかし、私達に与えられた使命は貴方がたのお相手ですので――参ります」
 これは試練である。朱雀の力を得る為にイレギュラーズに与えられた試練。
 その方法は『礼』と『力』を示すこと。
 炎が一段と勢いを増し、イレギュラーズの行く手を阻む。

 先陣を切るは『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の黎明の指。
 研鑽を積み上げ膨大な知識の海から構築する術式がゼフィラの頭上に展開した。
 魔銃から放たれる嫉妬の翼は空を羽ばたく。
 ブラックフラグメントの暴風は炎を掻き消すように戦場を吹き荒れた。
 その最中をゼフィラは泣き声の方向へ進んでいく。
 行く手を遮るように鬼宿がゼフィラの前に拳を突き出した。
 避けきれない痛打がゼフィラの腹を抉る。内蔵が悲鳴を上げ口の中に血が滲んだ。
「痛……! ははっ、……残念。引っ掛かったね」
 されど、ゼフィラの目的は攻撃を防ぐ事では無い。
 四宿の誰か一人でも良い。自分に注意を引きつけるのが狙いだった。
「救出は任せた! こちらは私たちが引き受けよう!」
「分かった!」
 ゼフィラの声にシラスは駆け抜ける。
 彼の前に立ちはだかるは井宿だ。呪力の籠もった錫杖を沙羅と鳴らし、シラスへと振り下ろす。
 炎を反射する錫杖はシラスを一閃した。
 しかし、錫杖の軌道を手で逸らしたシラスは、井宿の重心が傾いた一瞬を狙い掌を叩き込む。
「っ、おお!」
 吹き飛ばされた井宿はくるりと翻り感嘆の声を上げた。
「素晴らしいじゃないか! 戦い慣れてるねぇ!」
 錫杖をカツリと地面に突いて満足そうに微笑む井宿。
「行け、頼んだぜ!」
 シラスは先行する瑞鬼へと叫んだ。
 頷いた瑞鬼は炎の道を進んでいく。

「朱雀! これが試練ならば俺たちを何処かで見ているんだろう? いいぜ、認めさせてやるよ」
 これは試練だ。互いに害意がない、殺し合いではないのだ。
 シラスは張っていた肩の力を抜く。
 闘争というより試合に近い。無意識にラド・バウを思い出すシラス。
 相手を見つめて小さく頷いた。それはシラスが対戦前に行う気持ちの切り替え。
 レイチェルはその身を金銀妖瞳を持つ銀狼に変え、地に足を張った。
 腹に蓄えた魔力を口の中に集中させる。
 一瞬頭を垂れた狼の顎が開かれ、月を背負いし咆哮が戦場に響き渡った。
 魔の咆哮は衝撃はと成り、鬼宿の身体を穿つ。
「ぐ……!」
 頭を抑えた鬼宿は口から血を吐いた。直ぐさま柳宿の回復が飛ぶが、鬼宿の傷は塞がらなかった。
「あらあら、やるわねぇ!」
 レイチェルの咆哮は鬼宿の身体を蝕み、癒やしを拒絶する。
 例え、癒やし手がいようとも、回復を受付けないほどの侵食与えれればいいのだ。
「戦術的にも申し分無いわねぇ」
 柳宿の賛辞がレイチェルへと向けられる。
「そっちは託したぜ。全力で道は作る」
 レイチェルは進んでいく瑞鬼に言葉を紡いだ。

「やれやれ、文字通り“熱烈な”お出迎えってやつかい。こいつがなけりゃ焼き魚にされちまう所だった」
 十夜は腕に着けた永久氷樹の腕輪を軽く振ってみる。
 どうやらこの場を覆う朱雀の炎にも効果は有るようだ。
「じゃあ、まあ。短期決戦と行かせて貰うかね」
 致命が入った鬼宿に翠玉の瞳を向ける十夜。
「精霊の眷属でも状態異常にはなるもんだねぇ」
 十夜の言葉に鬼宿が口の端を上げる。
「まぁ、俺達も万能では無いって事だ。何も利かない攻撃も受付けないじゃあ、面白くないだろ?」
「言えてるな。俺としちゃ、そっちのが有り難い。手加減されてるのは癪に障るが簡単な方が楽だからな」
「まさか。手加減なんてしてないぜ。全力じゃないと誇りに傷が付く」
 爛々と輝く炎の瞳に十夜は「そうかい」と手を振った。
「んじゃ、此れをやるぜ」
 十夜は手を頭上に掲げ雷雲を呼び寄せる。
「へえ、朱雀の座に龍を下ろすか。面白え!」
 青い雷を帯びた十夜の拳と鬼宿の拳が交差した――

「普段なら一も二もなく救助優先……なんだけど」
 夏子は炎渦巻く戦場を見渡す。行く手を阻む焔と啜り泣く声。
「解んないな。何を推し量ろうってんだ……?」
 首を傾げた夏子は炎の間を縫って迫り来る剣を騎士盾で弾いた。
「解んなくてもヤる事ぁ変わらんか……っと、あぶねえ!」
 盾から伝わる太刀筋の重さに苦笑いを浮かべる夏子。
「試練といえど、本気で来ないと大怪我をしますよ」
 炎の中から現れた星宿に夏子は槍を構え直す。
 正しく、立ちはだかる障害。
 夏子は星宿の注意を逸らすためグロリアスを振り上げた。
 大きな動作から繰り出される横薙ぎと、破砕音に星宿は一瞬だけ隙を見せる。
「守る救う助ける! 出来る事ぁ何でもヤる! ――行けぇ!」
 夏子の大声と共に、星宿の横を瑞鬼が駆け抜けていった。

「善悪を語った所で結局一文にもならん。そして性善説も性悪説も言葉でしかない」
 愛無は仲間との距離を保ち戦場を走り抜ける。
「敵の詳細が不明ではあるゆえに」
 可能な限りの対策と、匂いで全体の大まかな位置を把握していく。
 仲間とは直線上に並ばないように愛無は注意を払う。
 場数を踏んだ冒険者が取る定石だろう。
 紫の瞳は戦場を見据え、情報を拾っていった。攻撃が重なっているのは鬼宿の方だろう。
「四宿が朱雀に攻撃をする事も無いかと思うが……試練であるならば、何が起きるか解らん」
 もし、彼等が最奥に座する朱雀を巻き込んでしまうのならば引きつける手札はある。
 ドロリと解けた黒い触手は地を這い、鬼宿をギリギリと縛り上げた。
 傷口から侵入した微量の粘膜は鬼宿の命を削っていく。

「戦いを通じて想いを感じ取るというのなら、この二刀に全霊を持って籠めよう」
 幾度かの剣檄の後、ルーキスは一歩前に踏み出した。
 青色のバンダナの下に鋭い視線が浮かぶ。
「己の信念と、神威神楽への想いを!」
 鬼宿の間合いへと深く踏み込んだルーキスは二つの剣を叩き込んだ。
 蘇芳の血が視界に散り、返す拳を胴に受けるルーキス。
「ルーキス!」
 身体の中に嫌な音が響く。痛みは全身を駆け巡り息をすることさえ億劫だ。
 仲間が必死に自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「まだだ!!!!」
 ルーキスはそれでも剣を支えに立ち上がった。青き可能性の炎がルーキスを覆う。
 ラブは倒れそうになるルーキスを支え、追撃をその身に受けた。
「大丈夫。Loveが守るよ」
 彼女は実験によって生まれたスライムだ。
 喋ることも出来ず只其処にあった怪物に、言葉を教えてくれたのはこの混沌という世界の人々。
 筆談では得る事の出来ない情緒や伝える楽しさをラブは噛みしめていた。
 けれど、『愛』を与えられるだけではきっとダメなのだ。
 ラブ自身が返して行かなければならない『愛』の形があると気付いたから。
「だからね、Loveはここに居るんだよ。守る為、誰かの役にたつために」
 自分が相手の攻撃に晒されようとも構わない。
 それで、誰かを守る事が出来るのならば。ラブは強い意思でルーキスを庇っていた。

 朱雀はラブの行動を炎の中から見つめていた。
 その身を挺して仲間を庇うその行動を目で追う。
 朱雀は神使に興味はあれど、臆病な性格が災いして炎の中に閉じこもって居た。
 それが、ラブの優しい行動によって、ようやくイレギュラーズに目を向けたのだ。
「神使はどういう者達なのじゃろうな」
 焔の揺り籠の中、朱雀は泣き腫らした目を擦る。

 ――――
 ――

 アカツキは頬を流れていく雫を拭った。
 朱雀の炎はアカツキの身体を焼きはしない。されど、自身が動く事によって生み出された熱は汗となって落ちて行くばかり。
 黄金の瞳は戦場を的確に捉える。
 鬼宿の体力は既に限界を超えているだろう。あと、数度太刀を受ければ陥落するに違いない。
 柳宿に回復を行わせないという作戦は功を奏したといえるだろう。
 事は順調に進んでいるとアカツキは推察した。
「だが、油断してはならんぞ」
 慢心は愚策。仲間が積み重ねた道筋を壊すものだ。
 アカツキは大きく深呼吸をする。
「右の赤。左の青。交差する炎の印に命を灯し――」
 揺らめくファイヤレッドと燃ゆるシャイニーブルー。アカツキの前に現れる魔法陣は光を帯びる。
 炎に魅入られし魔女が放つは悪夢の業火。
「妾の炎は果たして通じるのかどうか……やってやるのじゃ!!」
 左右に別たれた魔法陣から吹き上がる灼熱。

「放て――爆炎。双途の螺旋に燃え上がれ――!!!!」

 アカツキが解き放った炎は鬼宿の身体を二度包み込んだ。
「……ぐ、ぅあ!」
 息も絶え絶えに鬼宿はその場に倒れ込む。
「これは、これはあの鬼宿が膝を着くなんて。神使はやはり強い」
 井宿が素直にイレギュラーズへ賞賛を送った。
「まだまだ余裕がありそうで嫌になるね」
「こっちも大事なもんが掛かってるんでね。朱雀とやらが認めてくれるまで粘ってやるとしようかね」
 井宿の言葉に十夜が構えを正す。
 水の流れの如く緩やかに。されど苛烈なる激動を秘めて。
 十夜は井宿の胴を捉える。穿たれるは龍の慟哭。
「いやぁ、本当。南方朱雀の座に龍を連れて来ちゃ、場の流れが乱れるって」
「まだまだ骨が折れそうだ」
 錫杖を避雷針代わりに雷を流した井宿に十夜は苦い顔を見せる。
「おお、怖い怖い」

 実を言えば、泣き声も含めてこれが試練なのだろうとは予想がついているとゼフィラは視線を上げた。
 体を張って仲間を先に救助に行かせるのも、そういった姿を朱雀殿に見せた方が試練にプラスだろうと言う打算込みなのだとゼフィラは自嘲する。
 されど、逆説的に。目的の為ならば自ら身体を張って捨て石に成ることも厭わない。
『礼』とは何か。『仁』を持って『礼』を尽くす。つまり、愛情や優しさを持って、言葉や行動で示す。
 ただ其れだけのことなのだ。そして、簡単な事こそ難しいのだとゼフィラは知っている。
 心で思っていたとしても、行動に移さなければ意味が無い。
 伝わらなければ思っていないのと一緒なのだ。
 この神威神楽はゼフィラにとって、絶望の青を越える冒険の報酬。
 新たな未知(ぼうけん)の為の新天地だった。
 しかし、豊穣郷で過ごしたこの数ヶ月。この地に住まう人々から色々な事を学んだ。
 文化、歴史、そしてこの国で生きる人々の姿そのもの。
 冒険の報酬なんていう好奇ではない。
 既に愛着を持ってゼフィラはこの場に立っている。
「それを救うためだ。私も持てる全てを賭けて試練に臨もう!」
 この試練が何を見定めるのか理解したわけでは無い。
 しかし、全てを出し切り死力を尽くすのがゼフィラの礼儀。
「想う事は大切だが、行動を起こすことこそ、優しさなのだから!」

 ルーキスは井宿からの痛打をその身に浴びる。
 意識が霞み遠くで啜り泣く声が聞こえた。
 炎の中で助けを求め無いている子供。
 揺らめく炎の中に見えるのは、幼少時代の自分だ。
 ルーキス・ファウンはカムイグラに生まれ落ちた人間種だ。
 同種も殆ど居ない豊穣郷の地で『異物』として扱われてきた過去。孤独な日々を思い出す。
 刀術を訓練したのも、強くなれば周りに存在を認めて貰えると思ったから。
 只、生きる為に必死だったのだ。
 蔑まれ不当な扱いを受けた事は一度や二度では無い。
 されど、ルーキスは自分が生まれ落ちたこの国が好きだった。
「だから、救いたい! 神使である前に、いち神威神楽の民として……」
 自分の故郷を守るのに難しい理由など必要無い。
 ルーキスを形作る全てのものはこの神威神楽にあるのだから。
「そして願わくば、あの御方の……霞帝の力になりたいと思うのです。
 その為に「礼」……覚悟を示せと言うのならば、この身ごと喜んで業火へと差し出しましょう」

 ゼフィラとルーキスの言葉は朱雀の耳にもとどいた。
 どんな『もの』かも分からない朱雀に精一杯声を掛けてくれる彼等の声にまた涙が流れていく。
 大精霊とは人間にとって怖い存在であるだろう。人間は得体の知れないものを怖がるのだ。
 けれど、神使たちは違う。
 臆すること無く、言葉を投げかけてくれるのだ。
「優しいのじゃのう」
 朱雀の口から小さく零れた言葉。


「僕は人でなしの化物だ。善だの悪だの、そもそもない。狩りたいモノを狩る。守りたいモノを守る。この国にも『それ』がある。だから戦う。だから進む。それだけだ」
 単純明快に愛無は口にする。そして、行動さえ起こしてみせるのだろう。
 そうして、今まで生きてきたから、今更変えられるはずもないのだ。
 されど、行動を起こすということは簡単でいて難しい。
 愛無が持っている強さは、一つ一つ研鑽を重ねた結果勝ち得たものなのだろう。
 夏子は井宿に対峙する。
 呪術が主立った能力なのは確かなのだろう。しかし、呪術を錫杖に纏わせ前衛として動く井宿は、夏子の胴に石突きを穿つ。
「朱雀が何を望むかなんざ……知らねぇや!」
「ははっ! 言ったねぇ!」
 井宿は夏子の雄叫びにカラカラと笑う。
「でも、昨日の今日で失敗しました。じゃ済まないワケ」
 救いたい仲間が居る。その為に夏子達はこの場に居るのだ。
「この国を救う……なんて大言壮語! 最早俺の頭に無い!」
 目の前の戦いに勝たねば望む途とて閉ざされてしまう。
 ただ、手の届く範囲に助けるべき相手が居るのならば。伸ばさぬ手は無いのだと叫ぶ。
「恥は承知だ……朱雀! 仲間の為! 仲間と共にこの国の人達に報いる為! その助力を乞う!」
 最奥で燃え盛る炎へ向けて、夏子は願った。

「俺は臆さねぇ、この身が焼き尽くされようが前に進む!」
 レイチェルはアガットの欠片を握りしめ吠える。
「不幸の連鎖を見過ごせねぇし、肉腫による犠牲も見たくねぇ……!
 腐っても医者だ。医者がこの地を侵す病に屈する訳にはいかねぇンだよ……!」
 救えなかった命の重さをレイチェルは知っている。あと一歩早ければ救えたかも知れない命があった。
 己が全力を尽くさなかったばかりに、消えてしまう命があるなんて許せない。
 そんな後悔なんてしたくないのだ。
 だから。届け。思いは言葉に乗せたから。

「もう泣くでない。助けに来たぞ」
 焔の揺り籠を割って、光の中に現れた瑞鬼に朱雀は目を丸くした。
「獄人? 神使ではないのか?」
「なあに、わしは獄人であり神使じゃよ。……よいせっと」
 赤い髪をした幼子を抱きかかえ、焔の揺り籠から出てくる瑞鬼。
 この不自然な状況。この子供も試練の一環なのだろう。
 しかし、瑞鬼には助けないという選択肢は無いのだ。
「子供の泣き声は嫌いじゃからな。いつだって、どんな時だってわしはわしのしたいようにするだけぞ」
「熱くないのか?」
 普通の人間は朱雀の揺り籠に近づくだけで消し炭になってしまう。
 瑞鬼の肩に燻る炎を指さして首を傾げる朱雀。
「わしは炎で怪我をしたりせんよ。……心配してくれておるのか?」
「……人間はすぐ死ぬから」
 朱雀の声に悲しみの色が混ざる。
「大丈夫じゃよ。わしらは早々死なんよ」

 ――――
 ――

 朱雀を抱え戦場に戻ってくる瑞鬼。
「おや、ようやく出てきましたか。良かったですね。神使達、朱雀様が機嫌を直されたみたいです」
「不機嫌だから炎の中に居たのかの?」
 星宿の言葉に怪訝な表情で問いかけるアカツキ。
 焔の炎は晴れ、秋風が十夜の頬を撫でていく。
「朱雀様は人見知りなんです。でも、素直に抱きかかえられているということは、貴方達の言葉や行動が届いたのでしょう」
 手を上げて井宿と柳宿の行動を止めた星宿は、自身の剣を鞘に納める。
 シラスは一歩前に出て真剣な瞳で朱雀を見つめた。
「豊穣を永く曇らせたものを晴らす為に命をかけている仲間がいる。それが窮地に立たされているんだ。
 ……救えるなら俺は何でもする。だからどうか話を聞いてくれないか」
 シラスの声に重なるはアカツキの声。
「朱雀殿、どうか力を貸して欲しいのじゃ。妾は炎に魅入られた人でなしじゃが……この地の人を助けたいと頑張った末、危地にお友達がおる。どうしても助けたいのじゃ!!」
 友人を大切な人を助けたいのだという願いの言葉。
 瑞鬼の腕の中からふわふわと浮かんだ朱雀はシラスとアカツキの前に浮遊し、二人の頭を撫でた。
「二人とも良い子じゃな」
 小さな手が頭の上を行き来する。

「わし個人としては朱雀の考えはよくわかる。人の世に興味はないが神使は面白い」
 朱雀の頭を優しく撫でた瑞鬼。
「のう、朱雀。賭けをせぬか?」
「賭け?」
 こてりと小首を傾げた朱雀に瑞鬼は頷く。
「この試練を超えるだけならば皆の戦いを見せれば十分じゃろう。こやつらには礼も力もある。わしはそう信じておる。だからこれはわしの個人的な賭けじゃ。
 神使が善きモノか、悪しきモノか……それを賭けようぞ。わしは善きモノに賭ける。お主が一瞬でも悪しきモノだと感じればわしの負けでいい。負けた時はそうじゃな……わしの残りの生をお前にやろう」
 どうだと意地悪な笑みで問いを投げる瑞鬼に納得の行かない顔をする朱雀。
「それは、賭けになるのかのう?」
「お互いこれからも長生きするじゃろうからな。かっかっか、仲良く勝負しようではないか」
 ふにふにと朱雀の頬を摘まんだ瑞鬼は高らかに笑った。

 朱雀の前にレイチェルは土下座をしてみせる。
 誠心誠意思いを伝えるためならば、頭を下げる事など造作も無い。
「……俺は『礼』とか分からん。だが、俺らを待ってたお前は泣いてた。悲しそうだった」
「えっ、あの、ちょっと。頭を上げるのじゃ」
 吃驚した朱雀はレイチェルの傍に座り込んで狼狽する。
 顔を上げたレイチェルの手を取り朱雀はじっと見つめた。
「何があったか分からないが、俺は裏切らない。手を貸して貰った恩は必ず返すし。対価で欲しいならこの身も差し出す。……だから、厚かましいと承知の上で。
 俺らを今一度だけ信じて欲しい。皆の為に力を貸してくれ。朱雀」
 握られた小さな手をレイチェルはぎゅうと握り返す。
「ん……大丈夫。神使達の気持ちは十分に伝わったのじゃ。
 ――南方守護焔王朱雀は神使に力を貸し与えようぞ」
 レイチェルと共に立ち上がった朱雀はイレギュラーズに微笑んだ。

 ――『礼』とは何か。
『仁』に含まれるのは想いや意志。其れ持って『礼』を尽くす。
 優しやさ思いやりを持って、言葉や行動に表すこと。
 その礼にイレギュラーズは十分に応え、臆病な朱雀は其れを受入れたのだ。

「いやー、良かったよかった。呑気な浮世のが良いだろ? アンタも!」
 夏子の軽口に「そうじゃのう」と相づちを打つ朱雀。
「力を貸してくれてどうもありがとうなの。Loveに出来る事があるならなんでもするの」
「お主は偉いのう。皆もよく頑張ったのじゃ」
 ラブの頭を撫でながら朱雀は肩を突く指に振り向いた。
「時にカステラ食べるかね? 試練と言えど敵という訳ではない。終われば、ともに歓談もよいだろう」
 愛無が何処からか取り出したカステラに目を輝かせる朱雀。
「そうじゃな。茶でも用意させよう!」
 満面の笑みで走って行く朱雀は見た目通りの幼女に見えた。

 秋の青空に吹く風冷たく。
 されど、陽光はあたたかさを抱き。揺れる焔朱の髪が光に煌めいた。

成否

成功

MVP

瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き

状態異常

Melting・Emma・Love(p3p006309)[重傷]
溶融する普遍的な愛
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
散華閃刀

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 焔王朱雀の笑顔はイレギュラーズが勝ち得たものです。

 ――アカツキ・アマギ(p3p008034)は朱雀の加護を得ました

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