PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<天之四霊>自凝島

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


「はい、どーぞ」
 錠を下す音がした。
 八名のイレギュラーズの前には淡々と職務に励む『刑吏』畝傍・鮮花が立っている。
 彼女は流刑地への輸送を滞りなく行うと、その途上に早々と牢を出たヴォルペ(p3p007135)は宮内卿とランデブーしており、アルテミア・フィルティス(p3p001981)は巫女姫との『逢瀬』を楽しみ、夢見 ルル家(p3p000016)は天香 遮那の側付きになるべく身柄を天香家に移されたと話した。
 身柄を島へと渡される前に暴れ、逃れようとしたハロルド(p3p004465)はいとも容易く鮮花にノックアウトされた形になる。捕虜となってから満足な治療も何も与えられていなかったのだから仕方がない事だろう。
「『流刑タイムアタックしてる人』には朗報がありますけれど」
 鮮花は友人に語らうかのように牢の前に腰を下ろす。牢の様子を確認し、仲間を逃れさせる方法を思案していたアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は「朗報って?」と警戒する様に鮮花を見遣る。
 黙っていれば普通の少女にしか見えない刑吏の娘は「聞きたい?」と問いかける。
「さっさと話せ」
 冷やかにルクト・ナード(p3p007354)はそう言った。必ずしやその喉元に噛みつかねばならないのだ。このような所で油を売っている暇もない。
「はいはい。シフォリィさん? って方に渡しましたけれどね。
 巫女姫様の可愛い可愛いお姉様から皆さんに脱出のためのヒントだそうです」
「さっきシフォリィさんが言っていた、麒麟……なの?」
 麒麟――と聞けば首の長い動物が浮かんでしまう焔宮 鳴(p3p000246)。件の話題の中心人物たるシフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は「麒麟、と言うと聖獣ですか?」と鮮花に問いかける。
「そうですね」
「……聖獣さんがどうしてヒント、なの?」
 鳴は首を傾ぐ。心の中で渦巻いている不安は母と兄の足取りを心配してだ。共に囚われた兄は京で囚われているか――それぞれの身柄の扱われ方も多岐に渡るのだろう。
「四神って知ってます?」
「青龍、朱雀、白虎、玄武……だろ?」
 指折り数える新道 風牙(p3p005012)。頷いた鮮花は「まあ、巫女姫様に求められてないんで」と軽口叩く様に言う。
「黄泉津には古くからそういう神様が住んでるんです。この自凝島は黄龍様の御力が別たれ、聖獣麒麟が守り神で存在しているのですよ」
 ふふん。鼻鳴らす鮮花。彼女はこの地では刑吏を務めている畝傍家の令嬢だ。
 それ故に詳しいのだろう。その横顔を眺めながらティスル ティル(p3p006151)は続きを促す様に「その守り神がどうしてヒントに?」と静かな声音で問いかけた。
「京に危機が訪れればこの地が避難を行う場所に。そして、この地が危機であれば京へと転移を。
 そうして霊脈で二つの地を結んでいる故に、神の加護強きこの地で罪人は悔い改め、その罪を注ぐと言われているのですよ」
「……ちょっと待ってください。『転移』?」
 気持ちよさそうに語る鮮花を止めたのはユーリエ・シュトラール(p3p001160)であった。ぴた、と動きを止める鮮花は「そうですけど」と首を傾ぐだけだ。
「……うん、素敵な場所なんだね。有難う!」
「まあ、そんな感じですよ。『ヒント活かせると良いですね』」
 そう告げ背を向け去っていく鮮花を見送ってからアレクシアは静かに息を吐く。

 何気なくヒントと告げていた麒麟の話。それによれば、転移陣を利用して京へ戻ることが出来そうなのだ。
 だが――その麒麟がどこにいるかは分からない。そして、『活かせるといいですね』と言われた言葉さえも気がかりだ。
 この地は肉腫や魔種が数多くいる。何気ない顔をしていた鮮花だって『魔種』か『それに類する存在』だろう。
 易々と転移陣へと向かわせないという事だろう。

 ……先ほどから頭が重たい。魔種の呼び声であろうか。ずん、と重く伸し掛かる。
 あまり長居をしていればいつかは狂ってしまう可能性だってある。
 情報は少ないが、此処から抜け出さねばならない。

 牢の鍵を叩き落したのはハロルドであった。武器は奪われていない。
 無理矢理、体を動かして脱獄しなくてはならないだろう。
 肉腫と魔種を退け――そして、麒麟の転移陣へと向けてその脚を進めなくては。

 ……ああ。頭が痛い。

「いこう」
 誰ともなく、そう言った。

GMコメント

●重要な備考
 ・当シナリオは『優先参加者』に該当する『全体シナリオ<傾月の京>にて流刑になったPC』のみが参加可能です。
 ・当シナリオ中は『無数の原罪の呼び声』が響いています。縋るようなその声に耳を傾けない様にお気を付けください……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

●自凝島
 神威神楽による流刑の地。悍ましき呪いの蔓延る罪人の終の地です。
 処刑などを行う刑吏・畝傍家が管理しこびり付いた血の匂いや獣や妖の残骸が至る所に転がっています。
 内部構造については『何の情報もありません』が、『島の地下』より何らかの清浄なる気配を感じさせます。

●麒麟
 四神『黄龍』が別たれた姿。金の獣。自凝島の守り神として存在しましたが穢れの濃さに現在は眠りについています。
 外部より黄龍を通じての『霊脈浄化作戦』(ラリーシナリオ『<天之四霊>央に坐す金色』、クエスト『黄龍ノ試練』)でその眠りは僅かに醒めて清浄なる気配を纏い始めているようです。
 麒麟は『善人』であるかを重要とします。人を殺めたならば罪を認める心があるか、魔種や肉腫といった滅びの存在を拒絶するか、そして何より他者が為にその力を使用できるか――自身が認めた存在にのみ『転移陣』の使用を許可するようです。

●転移陣
 麒麟の許に存在する黄龍(霞帝及びラリーシナリオ『<天之四霊>央に坐す金色』の地)へと転移するための陣。
 霊脈を通りその肉体と魂をそれぞれ運ぶそうです。
 転移陣の使用を拒否することも可能です。その場合は脱出は不可能となります。ご自身での選択としてください。

●四神とは?
 青龍・朱雀・白虎・玄武と麒麟(黄龍)と呼ばれる黄泉津に古くから住まう大精霊たち。その力は強くこの地では神と称される事もあります。
 彼らは自身が認めた相手に加護と、自身の力の欠片である『宝珠』を与えると言い伝えられています。
 彼ら全てに愛された霞帝は例外ですが、彼らに認められるには様々な試練が必要と言われています。

●刑吏『畝傍・鮮花』
 まともに戦う相手ではありません。膠窈肉腫(セバストス)の少女。複製肉腫から巫女姫の呼び声で【反転】しました。
 様々な純正肉腫とも『仲良く』しています。勿論、島内にもたくさんの肉種が居ます。
 巫女姫に忠誠を誓いながらも、面白いことが好きです。この島では流刑者との鬼ごっこの気持ちのようです。

●純正肉腫 *5人
 魔種相応の力を持つ純正肉種達。様々なところに居ます。其れ等は全てけがれより生み出され、非常に凶悪な存在と化しています。『黄龍支援』の影響を受け動きが阻害されます。

●複製肉腫 *???人
 畝傍家の刑吏であった者、普通の刑吏であった者、罪人、冤罪で逮捕された者etc……
 無数に存在する複製肉腫たちはイレギュラーズを逃がす事はありません。

●魔種 *??人
 ――いるはずです。何処に居るのかは分かりません……。

●補足:膠窈肉腫(セバストス)
 膠窈種は純正肉腫に原罪の呼び声がへばり付く、もしくは複製肉腫が【反転】した際に誕生する事がある特殊種族です。純正よりも強力な感染力を持ち更に【純正肉腫(オリジン)の誕生を誘発させる】能力を持ちます。
 反転を伴う経緯であるので肉腫の特性に加え呼び声の性質も持ちますが、あくまでも肉腫の異常進化形態であり、純粋な魔種と同一という訳ではありません。呼び声の伝染力に関しては魔種の方が圧倒的に上です。

 純正がこの段階に至るのは非常に稀であり、ほぼありません。複製から発生する確率の方が高いです。ちなみに複製でこの段階に至った者がいた場合、もう助かりません。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

それでは、ご武運を。

  • <天之四霊>自凝島完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年10月27日 23時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
焔宮 鳴(p3p000246)
壊世の焔
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ティスル ティル(p3p006151)
幻耀双撃
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空

リプレイ


 ――燻っていた。

 火の粉を払い、傷を庇い、赤に照らされた影。

 心は、風前の灯の如く揺らぐ。
 ……でも。それでも――それでも、わたしは。


 悍ましい風が吹いている。
 そう感じたのは気のせいではないのだろう――自凝島。黄泉津の涯て。
 灯された焔が揺らぎ、今にも消え失せてしまいそうな感覚がイレギュラーズを襲った。満足な治療を施されないまま流刑となった八人は此の儘、この島に取り残されていては『狂気』に飲まれる事は間違いが無い。
「……いつもなら確実に脱走出来る機会を伺い無駄に暴れたりしないが、どうやら頭に血が昇っていたらしい」
 身を起こした『聖断刃』ハロルド(p3p004465)は先程の出来事を思い出す。『無抵抗にやられた』様子を見せた彼を見た畝傍・鮮花はイレギュラーズを更に害することも無く牢に投げ込むだけで留めた。それはある意味で功績である。不要な戦闘を一つ逃れることが出来たが事態はまだ、混迷を極める。此れより『彼女の語った御伽噺』の通り自凝島の内部を探索し、麒麟の元へと向かい脱出を行わなくてならない。しかし、情報が無い。自身らの能力だけを活かして脱出劇を行わねばならぬのだ。
「それでも、此れは好機です。私達が『さしたる存在ではない』と思ってああして話してくれたのならば……!
 例えどんな絶望的な状況でも、どんな闇の中でも。明けない朝はないのですから」
 その眸は桜を助けたときと同じだった。『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は牢の中でもにんまりと微笑み立ち上がる。思わず気分も滅入るような血のにおいを鼻先に感じながら、小さく呻いたのは『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)。
「酷い匂いだ……」
「ああ。血の匂いがこびり付いている。この島は高天京の表面的平和の影だ」
『あの時』のことを思い出し、『蒼い空へ』ルクト・ナード(p3p007354)は唇を噛みしめる。
 届かなかった。けれど、まだ出来ることがあるのだ。これはチャンスだ――もう一度、『届ける』為に乗り越えるべき試練の壁。
「今度こそ、いや…今回も出来る事を全力でやろう。まずはこの島を脱出し、必ず奴らにもう一度立ち向かおう。全員で、な」
「ええ……皆のため――それから、親友(アルテミア)の為に……」
『巫女姫を辿る者』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は拳に力を込めた。
 取る手は自分で選ぶ。選択肢は無数にあった、それでも結局は彼女の手を掴むことになるのか。
「でも貴女が救ってくれた命を、捨てるわけにはいかない……私、やるから!」
 抱き締める『友人』の腕の中で、『親友』はきっと抗っている。その、心を救いたい――救う為に、皆が戦っている。
 決意と共に顔を上げるシフォリィと、そして俯く一人の少女。
「……大丈夫ですか」と静かな声音で問い掛けたシフォリィに傍らで呆然と虚空を眺めて居た『救世の炎』焔宮 鳴(p3p000246)は小さく首を振る。
「大丈夫……です。今は……考えてる暇等ありません。
 当主として、私として……こんな所で、斃れる訳にはいかない」
 それは焔宮の強きであると言う強き意志だった。その表情から相当の無理をしていることを感じハロルドは「気張りすぎるな」と背を向けて彼女へと告げる。
「鳴さん……」
「大丈夫。諦めるつもり等、毛頭ない! 麒麟の元へ参りましょう……全員で皆の元へ、帰るのです……!」
 シフォリィは鳴の言葉に大きく頷いた。彼女の眸に宿された炎が揺らいでいる。まるで、外の――この牢獄を照らした炎のように。ゆらゆら、揺らぎ、今にも消えてしまいそうな決意と言う名の光が。
「敵の少ないルートで出来る限り麒麟様の元へ向かおう。それで、此処から脱出できるのならば」
『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)は決意するように頷いた。紫苑の髪を揺らした海洋の旅芸人は迷いを捨てるように強く、その意志を固めた。
 ルクトも、そして、ティスルも。後悔は山の様に募っていた。力の無い誰かを護る。誰かの為に敵を倒す。為すべきを為す。だが、その為にはこの悪趣味な空間から抜け出さねばならないのだ。
「皆。私は絶対に諦めるつもりはないからね」
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はそう言った。
「ああ。オレだって諦めるつもりはない。だって、この国が危ないんだ。
 巫女姫たちのことだけじゃない。この島を見たら分かる。この国が長年溜め込んだ『けがれ』がその国を軋ませてる。
 何とかしたい。この国を助けたい――あの子達を、笑顔にしたい」
 そそぎ、と手を伸ばした風牙はそう呟いた。決意は固い。牢の外は『何もかもが未知』だらけだ。
 ハロルドは「行ってこい」と静かな声音で小さな蝙蝠を使役し、偵察へと向かわせる。牢の扉をゆっくり開いた彼はその鼻先を擽る酷い香りを厭うように首を振る。
「最短ルートで行くぞ」
「ええ。周辺の確認は皆さんにお任せします……皆さんを頼りにさせてください」
 シフォリィにハロルドは大きく頷く。この牢の中から、この八人の力を――そして、外で『黄龍の試練』を受けるイレギュラーズの力を合わせれば、屹度抜け出せるはずである。
「まだまだ掴みたい夢も、守りたいものも、会いたい人もあるんだから! 必ず帰り着いてみせる!」
 アレクシアはそう決意し微笑んだ。耳にこびり付いた『寓話の笑い声』を祓うように、昏く穢れたその地を踏み締めて。


 周辺偵察を行うハロルドはその情報を活かし続ける。偵察へ向かうファミリアー、そして眼を、耳を、鼻を生かす。周辺に存在する人々の恐れや声を探すユーリエの傍らで、鳴は重苦しい空気を感じると小さく息を吐いた。
 先ずは麒麟が存在するで在ろう場所を探すことが第一目標だ。牢の脱出を行う上で、周辺の偵察を行い、八名が全員身を隠せる場所を、と風牙は逸る心を抑えて全員の情報を集め続ける。
 ルクトの戦略眼を活かし、そしてシフォリィが統率する――最短ルートを目指し、出来る限りの戦闘を避ける。
「この島の全景はどうなっているんだろう……」
「うーん……火山のような山が一つ。空洞が空いている……といった感じなのかな?」
 ハロルドのファミリアー、そしてアレクシアのファミリアーを牢から放った所感である。
 自凝島は小高い山を一つのみ有する島である。山の内部を刳りぬき無数の牢が存在しているが、イレギュラーズ達が捕えられたのは丁度中腹に当たるらしい。つまり、上に行こうが下に行こうが敵が存在している『捕えるならば最も適した場所』だという事だ。
「一先ずは麒麟についての確認だ。祀られてると言うなら社やそれに類するものがあるだろう」
「土地の守護神と言うことならば、天よりも地に存在する可能性がありますね。上層部に行くか、下層に行くか……」
 呟くシフォリィにユーリエは「上は助けを呼ぶ声がします」と何処か悩ましげに呟いた。心優しき彼女は助けを呼ぶ全てを救いたいと願う――だが、それも自身らの状況を思えば叶わない。
「……下か」
 呟くルクトは「下に向かおう」と仲間達へと向き直る。麒麟の社――ソレを見つけるために偵察を続けていたハロルドは「行こう」と静かにそう言った。
 気配を隠し、出来うる限りの索敵を行う中で、ティスルは周囲をきょろりと見回した。下層へ向かうに連れて牢の数が減る一方、何処か『悍ましい気配』が減っていくような感覚がしてきたのだ。
「敵が少ないルートを選んできているから、って訳ではなさそうだよね。
 ……もしかして、『外』から何か……? 凄く澄んだ空気が流れてる気がする……」
「……浄き神気、です」
 鳴は冷静にそう呟いた。焔宮の娘は背中に重くのし掛る有象無象の声を振り払うように仲間達を鼓舞し続ける。

 ――行かないで。

 後ろ髪を引くようなその声をユーリエは振り払った.何処からか、誰とも分からぬ声がする。風に混じり怨嗟の声が脚へと腕へと絡みつく。
「……この地で死した者達の怨念、徒至れた方が納得できるな」
 ルクトは小さくそう呟いた。肩を竦めたシフォリィは「一体この国は何処まで『裏の顔』を持っているのでしょうね」と呟く。
「巫女姫――いえ、エルメリアは些細な切っ掛けに過ぎなかったのかも知れない。
 彼女が何処かの誰かから力を借りて、霞帝を眠らせたのは確かなのでしょう。けれど、ソレよりもずっと先、霞帝がこの国へと訪れる前から、この国にはけがれが存在していた……」
「そうだね。このけがれは少しのことで出来る者じゃない。それに、八百万の皆も『鬼人種の逮捕』に対しては何ら疑問を抱かない……だから、この場所で『些細な罪』で死んだ人達は今も悲しんでいる」
 そうして、体へと重くのし掛る。清廉なる気を追いかけながらアレクシアは唇を噛んだ。
 悔しい。
 誰もが平和に過ごせる未来へ。
 ユーリエも、アレクシアも、ソレを目指した。けれど『それで生まれた不幸』は多数に存在することを知っていた。この国は無数の不幸が積み重なって、今が転機なのだろう。神々が目を覚まし、力を貸そうと手を伸ばす――『外のイレギュラーズ』達が自身の心を伝えるように。自身達が『神気』を追いかけるように。
「……大丈夫だ、進むぞ」
 ハロルドに鳴は頷いた。どこか、心の迷いが何かを引き摺る感覚がする。そっと、ユーリエが振り向いて「大丈夫ですか?」と問い掛けたその言葉に「大丈夫」と微笑んだ。
 民を護らなくてはならない。責務を胸に、進む。
「……麒麟の社?」
 そう呟いたのは風牙だった。随分と下ってきたが、これから先は一本道になっている。途中、見回りの複製肉腫達を退けては来たが、随分と戦闘は避けることが出来た筈だ。念には念を入れて、逐一の偵察を行ってきた事が功をなしたか。
「この先に麒麟の社があるそうだ。それも、納得できる」
 随分と体が軽くなったとそう告げたルクトは「だが」と言葉を濁した。
「ここから先は一本道だ。そして、『必ず誰かが待っている』」
「……そうですね。此れが正解のルートなら畝傍・鮮花はこの場所に嫌がらせのように見張りを設置しているでしょう」
 シフォリィは行きましょうと仲間達を振り返る。ざく、ざくと地を踏み締めて八人は進んだ。


 いらっしゃいませ、と両手を広げた魔種は首をごてりと奇妙な方向に傾いだ。頭に持った角に第三眼。それが鬼人種で有ることは分かるが奇っ怪な方向に曲がった首がそれを通常の人間で無いことを嫌という程に主張する。
「此処で待ってろって言われて暇してたんだぁ」
 にこりと笑った魔種が地を蹴った。名乗ることはしない。名など、その魔種はもう忘れてしまったからだ。囚人ナンバーで呼ばれ続けて幾年、突然牢の鍵を開けられたと思えば『鬼ごっこ』と『かくれんぼ』に駆り出された。久方ぶりの自由である。
「さ、殺し合おうか!」
 腕が、飛び込んでくる。咄嗟に受け止めたシフォリィ脳でにびりびりと衝撃が走った。
「―――ッ」
 地を蹴って、身を反転させる。刃が受け止められる。だが、その受け止めた腕毎、体へと叩き付けた確かな感覚がした。
「痛い」
「でしょうね」
 さらりと返したシフォリィの背後から揺らぐ炎が見える。鳴の傍らでは臨戦態勢となったアレクシアとユーリエが仲間達へと加護と、そして護りを与えていた。
「この先に麒麟の社があるのに……!」
 悔しげに呟くティスルは剣と腕輪、異なる姿を持つ液体金属の魔剣に『可能性』を帯びさせた。雷と炎を纏う刃は鋭くも多重に残像を生じさせる。
 眼前に存在した魔種はものは試しと言わんばかりに剣を構えてティスルへ向けて剣を振り上げる。だが、動いたのはティスルだけではない。同時に地を蹴った風牙は魔種の眼を欺くように背後より高めた気を爆散させる。
「なッ――」
「こんな所で待ち伏せなんて趣味が悪いぜ」
 身体の反応速度を上昇させる印が書き込まれた布帯をその身に纏い、風牙は疾風の如く襲いかかる。魔種に負けては居られないこの状況、眼前に存在する『麒麟』へ辿り着くためにはこの先に向かわなくてはならない。
「何か来ます!」
 ユーリエのその言葉に頷いたルクトはサイドアーム――お手製の義手を向け、後方へと振り返る。放たれる魔弾が壁へとめり込むように貫かれていく。凍て付くかの如く足下を掬う。
 がしゃん、と音を立てた射撃機構。幾重も重ねられる乱撃の中で、アレクシアはクロランサスに魔力を灯す。仲間を失わせないという想いと共に、自然彩る色彩を宿し、張り巡らせるは桜の障壁。
「……複製肉腫……!」
 アレクシアは小さく呻いた。魔種が自身の軍勢として引き連れてきたか。数は見た限りで10。焦るほどの数ではないがそちらの生存に対して構っていられないのも本音だ。
(刑吏まで、こんな姿に……! 本当にこの島は肉腫達に乗っ取られているんだ……!)
 アレクシアへ向けて歩み寄ってくる複製肉腫、その男の衣服には見覚えのある家紋が描かれている。それは畝傍・鮮花――畝傍家のものである。狂気に飲まれた男に対して「ごめんね」と呟いて吹き荒れる熱砂。
「こんな所で、負けては居られないんです……!」
 小さく呟いたシフォリィが構えるサーブル・ドゥ・プレーヌリュヌ。透き通る白銀が軌跡を残し、儚く命を散らし続ける。自身のアドレナリンを爆発させる。戦いに元も適したコンディションを整えて、徐々に、徐々に、戦うほどに強くなれと自分自身を掻立てる。
(アルテミア……! どうか、無事で居て……!)
 自身とは別の場所に囚われた親友を思う。放つ聖剣銘の剣技。至高を目指す、至剣騎士は押し通るべくその剣を振り下ろす。
「……我々の邪魔をさせません。其処を退きなさい……!」
 それは焔宮の当主としての言葉であった。揺らめく気配を宿し、冥焔ノ姫君はその体に焔火を纏う。刀を触媒として膨大な魔力を練り上げ続ける。それは赫々たる焔の如く、鳴の体を包み込んだ。
 焔のもう一振り――その二刀が魔種のその胸元へと叩き込まれる。焔刃流は研ぎ澄まされ、狂うことはない。
「こんな所で希望の芽を摘ませたりなどさせません……!」
「そうだ――私達の希望はこんな所で霞んだりしません!」
 甘い甘い気配を纏う。ユーリエが放ったイリュージョン・ファイア・ガーンデーヴァ。仲間達への加護を齎しながら、そして魔力の疑似弓矢が眼前の魔種を貫いた。美しい幻影の矢が飛び込んでゆく。
「――死ね!」
 はっきりと。ハロルドはそう言った。連打し続けるのは聖罰の剣。
 武器を掲げる。雷がその切っ先へと帯電した。そして、放つは纏雷。
 纏う雷と共に神速の突きを放つ閃雷。そして――今、剣を振り下ろすと共に雷を一気に解放する雷鎚。
 聖剣はその光を帯びる。リーゼロットの加護が、青年へと近寄る悪しきを拒む。ハロルドにとって許されざる魔。平和を乱す者を許しはしない。赤き血潮がハロルドの体へとぴしゃりと掛った。
「自凝島へと流された罪人の癖に」
 男が笑う。盾とされた複製肉腫の体がごろりと地に転がった。
「自凝島へまで流されて、希望だ何だと口にするのか。罪人の癖に」
 男の笑い声が響く。ハロルドは苛立ったように、剣を振り下ろす。
 罪人のくせに――とその言葉にユーリエは唇を噛んだ。風牙は酷く憤慨した。
 この島に、そして、この国に溢れるけがれが何かを知っているのだろうか。彼は。いや、屹度知るよしはない。この国に旧くから存在した風習――八百万と呼ばれた精霊種達は『自然より生まれ落ちた神々の子』であると神話で語られた。そして、其れ等の世話をする地より生み出された岩の角の獄人達。その神話の中から存在した迫害が現在に至るまで地へとこびり付くけがれと化したこと。
「お前みたいな奴がいるから、つづりが――そそぎが――泣くんだ」
 唇を噛んだ。地を蹴った風牙に合わせ、ハロルドは剣を振り下ろした。魔種に慈悲など存在したい。彼等は其の体に血液を巡らし、心臓を突き動かして、息をすることでこの世界を破滅へと導く生き物なのだから。
 倒れ伏した男の手がぱたり、と地に落ちる。
 その指先が触れたのは地面へと描かれた奇妙な陣であった。
「……これは……?」
 シフォリィがゆっくりと陣の上へと昇れば自身の身につけるアクセサリーが熱を帯びる。それは、ユーリエや鳴も同じだった。
「……呼んでる……?」
 ユーリエは小さく、小さく呟く。自身の愛しい人が、その名を呼んで願い祈りを捧げている。それが陣の上に乗っただけで伝わってくる。
「これが麒麟の陣……? 転移が出来るって言う……?」
 まじまじと見遣ったティスルにルクトは「前を」と小さく囁いた。朽ちた社の中に淡い光が見える。
「何だ……!?」
「敵愾心は感じません! けれど、こんなに眩い……」
 剣を構えたハロルドの傍らで、ユーリエが呟いた。ぽたり、と雫が落ちる。どうしてだろうか、暖かい。そんな気配がする。
「……暖かい」
 小さく呟くアレクシアにシフォリィも頷いた。
「誰かの、沢山の人の気持ちが流れ込んでくるような……貴方が――この霊脈(ルート)の主、麒麟……そうですね?」
 淡い光が形を作る。
「貴方が、麒麟ですか?」
『如何にも』
 地より響く声を聞いた瞬間にシフォリィは身を包み込んでいた気配が薄れた気がした。肩の荷が下りた、と言う表現が正しいのかも知れない。ふう、と小さく息を吐く。この場であれば、今、一度のみは警戒を解いて麒麟に向き合うことが出来る。
 崩れかけた祭壇より淡く金の光が確認できる――そこから、『何かが見ている』事にハロルドは気付いていた。


 麒麟と、そう呼ばれる獣を作り出した淡い光はきらりきらりと輝き暖かな気配を感じさせる。今まで感じていた疲労さえ消え失せる気がしてふ、と息を吐いたアレクシアは「この陣の上にお邪魔してもいいですか」と静かに問うた。
『許す』
「有難うございます。それで――」
 そう、と口を開こうとした風牙に『分かって居る』と麒麟は深く頷いた。
『黄龍より力は届いてる。だが、お前達をこの地より救い出すためには我らの神力が失われることをゆめゆめ忘れるな』
「それは……その力を消費してまでも俺達を救い出すべきかを見極めたいという事だろう」
 ハロルドの言葉に『如何にも』と静かな声音が届く。麒麟が重んじるのは『善人』であるかであるか、だそうだ。そう思えば自身が善人であるかと問われたときにハロルドは自身はそうではないと心の何処かで認識していたのだろう。
「麒麟、お前が『何を重んじるか』は何となく知っているつもりだ。だからこそ、敢て言う。
 俺は自らを正義だと思ったことはない。俺は己の信念に従うのみ。
 俺は平和の中では生きられず、殺す事しか出来ない男だが……この聖剣は平和を願い、俺の無事を祈った少女によって生まれしものだ」
 手にした聖剣リーゼロット。浄き力を発するそれは決して自分の権能によるものではない。特異運命座標、なによりも『旅人』としてこの世界に訪れた彼は自身の信念の上ならば人殺しも厭わぬのだと真っ直ぐに麒麟を見た。
「なにより、彼女が愛したあの世界を救う為に。俺は生きる。
 生きて魔種どもを皆殺しにし、この世界に平和を齎す。その後は他の異世界に行く方法でも探すさ。平和な世界に俺は不要だ。この身 朽ちるまで戦い続け、平和を齎し続けるのみ」
『確かに、お前は善人ではないのだろう。だが、その少女に感謝を為よ。
 彼女はお前という男の傍で浄く輝いている。その光は紛れもなく、お前を導いているだろう』
 ――彼女のために、生きている。ならば、聖女が為という『信』が麒麟にとっては酷く好ましいものであった。
「……聞いて、頂けますか? 私は全ての人々を笑顔にし、笑顔に溢れる世界にしたいのです。
 それは今、豊穣で虐げられている鬼人種の皆さんも含みます。
 その為ならば、自分を犠牲にしても笑顔にさせてみせます。これまでも、これからもそれは変わりません」
『お前はこの地の者ではないだろう?』
 麒麟の言葉にユーリエは小さく笑った。この地の人間で無ければ、救うことは間違っているのかと不思議そうに、揶揄うように。そっと、アレクシアが盾となるように、三角形の魔方陣を展開する。少女の周囲に散った梅の花びらは守護を宿し、背後から聞こえた『足音』から護るように――仲間と麒麟の対話を支えるように、盾となる。
「……貴方の力を求めている者がここに集っています。
 全ての人々の希望の為に、貴方がその力を行使する為に私の力が必要なら出来る限りの力を全て託します。
 だから、どうか――明日を照らすための光を」
 照らす光。その言葉を唇に載せてからアレクシアは『アキリエ・ミレフォリウム』を展開する。強化魔術を駆使し、困難に折れること無き不屈の紅花をその体へと纏った。
「私はみんなの笑顔を守りたいと、みんなが仲良く暮らせる世界にしたいと思ってる。
 世界が滅ばず判り合えるなら、魔種とも共にありたいと願ってる――そのためなら、何だってするよ!」
 アレクシアが「待ってて」とゆっくりと一歩歩み出した.迫りくる脅威を足止めするために。
 対話の時間はこうも短いかと風牙は唇を噛んだ。アレクシア一人に任せていられる時間を考える。皆が無事で居て欲しい。それは、この場の仲間だけでは無く――黄龍と共に霊脈(ルート)を浄化した仲間と、そして『けがれの巫女』達もだ。
 一歩、歩み出た。アレクシアに任せ、麒麟の前で風牙は恭しくも一礼する。
「オレも、この国を救いたい。魔種のことだけじゃない。この国を歪ませているものと戦うと決めた。
 あの双子たちが、笑顔で生きていける国にすると、決めたんだ。……そのための一歩を、僅かな一歩でも踏み出せるように。どうか、頼む」
 風牙はそう告げてから地を蹴った。天を走る彗星の如く、地を焼き溶かす火の如く槍より放つ高めた『気』――一気に飛び散った気がアレクシアに迫る肉腫へと広がっていく。
「加勢するぜ!」
「……ありがとう!」
 対話を続ける仲間を護る為に。無言の儘、『魔』を断じる刃を振り下ろしたハロルドが地を強かに蹴った。
 サイドアームを向けたままルクトは唇を噛む。援護射撃を行いながら、麒麟に問われし『信』を静かに口にする。
「私はまだ、彼等に比べて経験も足りない、しがない傭兵の一人に過ぎない。……私は悔しかった。
 ザントマンとの戦いでも、私は何もできなかった。もし何か違えば、私はあの時に死んでいたかもしれない」
『恐れるか』
「いいや、……傭兵である以上、誰かを殺す。誰かを殺す以上、いつか殺されもするだろう。
 ……でも、まだだ。まだ私は、奪った命を背負って戦う――この仲間達と共に」
 人を殺したことが悪でないと言うならば。ルクトはそれさえ全て背負って向き合い続ける。
「……奪った命以上に、大切な仲間を守る為。その為に、私は強くなると決めたんだ」
 強くならねばならない。強くならねば、奪った命を背負っていけない。大切な仲間を護っていけない。
 それは決意だった。自身が善人であるかよりも、誰かを救うために麒麟の力添えを欲するという、強き決意。
「麒麟様、本当は……鳴は、心に余裕なんてない
 。葵さんは……もしかしたら、鳴の兄上なのではって、何処かでそうじゃないかって思ってた。あの人も『母上』と呼んだ事が今も頭に残ってる」
 母上、と。焔宮の人間である事を聞いていた、しかし、『過去を知らない彼女』は『ローレットの焔宮 鳴』でしかなかった。それ故に『名すら知らぬ自分の過去』に恐れるように身を震わせた。
 でも、それでも、母と兄、そして姉――自身の一族のことばかりでは進めない。足が竦んで堪らない。
 それだけではないでしょう? 自分の心が叫んでいる。
「……動揺も、混乱も本物なの。あの人達の事を考えるばかりになっているのも事実。
 それでも……鳴は、焔宮鳴。世界に仇なす魔種から、民を守る者! そう在る為に生きる者! 其を成すまで、鳴は死ねないの!」
 叫ぶ。堂々とその思いを告げた鳴は背後から何か昏き気配を感じ息を飲んだ。
『――……』
 麒麟は見守っている。何も言葉にすることなく、ただ、イレギュラーズの言葉を待つように。
「……今までずっと迷ってた。けど、今なら言える。
 私は、特に罪も無い人達の日常を守りたくて剣を取っているんだって。故郷とか海洋とか……国なんて関係ない。私が剣を取って守れる命があるなら、私は止まりたくないの」
 ティスルはそっと後ろを振り返る。アレクシア、そしてその向こうに畝傍・鮮花が立っている。

 ――膠窈肉腫(セバストス)。『ザントマンと同じ』階級まで至った彼女。

 加勢しなくてはならないとリキッドサージで作り上げた大型の武具。なけなしの衣を身に纏い、ティスルは地を蹴った。ボロボロでも、諦めない。まだ立てる。まだ、その脚に力が込められる。
「だから麒麟様。貴方から見て相応しいのなら……私達をここから送ってください。
 そして叶うなら……貴方の力をお貸しください。シフォリィさんはきっと大呪を止める鍵になる。彼女への手助けを、お願いします!」
『大呪――それが瑞を、我らが友人を害している。それをお前達が止められると?』
「止められるかどうか、ではないのです。止めて、見せます」
 はっきりと、ティスルはそう言った。名を呼ばれたシフォリィは剣を手に、麒麟の淡い光の前へと跪く。
「認める前に聞いて下さい麒麟。カムイグラを混乱に閉じたのは、私の友達なんです。
 私は彼女を止めたかった。でも結局力及ばず親友も奪われて。
 私は自分が憎い。親友を助けたいのに、友達を解放したいのに!
 私は力が欲しい! ここに来たのはきっと運命だから! 麒麟、貴方に願う! 貴方の力を貸して下さい!」
『お前は、友を殺すのか』
 その言葉にシフォリィは重苦しく、頷いた。彼女はこの世界に仇為す存在と化した。
 姉に妹を殺させるわけには行かない――ならば、その苦しみは親友である自分が肩代わりしてやろう。そう、誓っていた。
「……友人を殺す決意をして、この場にやってきた。
 屹度……屹度、私は貴方の力を得るのに相応しくない。……親友の力になると誓ったのに、彼女に助けられて。
 彼女だけじゃない、皆のお陰でここに来れて、今私が生きているのは、クロバさんが救ってくれたから!」
『恋心(いのち)』を霊脈(ルート)に乗せた一人の死神。その心を麒麟は知っていた。

 ――俺は、ここにいるぞシフォリィ!!!!

 知っていますよ、とシフォリィは笑うだろう。彼は、何時だって真っ直ぐだ。だから、『こんな私』にだって手を伸ばしてくれる、愛おしい人。
「……私は無力です。それでも! 友達との約束、親友からの信頼、愛する人との誓い。……私を助けた人が繋いだ想いを絶やしたくない!」
 真っ直ぐに、麒麟に向き合った。温かな光がシフォリィのその身を包む。それは、周囲の仲間達も同じだったのだろう。
『認めよう』
 麒麟のその言葉と共にイレギュラーズの足下の陣は光を帯びた。――だが、ただ一人だけ、その光を帯びない者が立っていた。


「鳴、は……わたし、は……なんで」
 からん、と。その掌から零れ落ちた。
 伽藍、と。想いが重力を持ったようにその膝を落とす。
 光に包まれていない只の一人、鳴。
「……鳴さん?」
 シフォリィが振り返る。警戒したように周囲を見ますシフォリィに続きアレクシアが「どうしたの?」と気遣うように背を撫でる。だが、鳴は反応を示さない。

 ――鳴。

 ――嗚呼、嗚呼、可愛い子。

「聞こえる……」
「何が、ですか……? 何が聞こえているんですか?」
 ユーリエには何も聞こえない。そうと覗き込んだ鳴の眸は見開かれ穏やかな焔は深紅に染まり、美しき金色が抜け落ちていく。

「母、上――」

 呟かれたと同時に、背後から夥しい焔が、そして無数の腕が伸びてくる。
「ああ……ずっと、燻っていた……理不尽に、名を奪われて……『鳴』にさせられて。
 民を、護る……いみが……もう、わからない」
 駄目、とアレクシアは叫んだ。ユーリエが驚き後退し戦闘態勢を整えると同時、シフォリィが剣を構える。
 立ち止まった鳴より感じた強烈なる焔――憤怒が色を帯びて行く。
「ッ――!」
 ルクトは奇跡を乞う。喉の奥から声を絞り出す。悔しい。悔しい、悔しい。
 ザントマンとの戦いでも何も出来なかった。何かが違えば自分は、アレクシアは死んでいたかも知れない。『仲間を二度とは失わない』。そう決意し、アレクシアの腕を掴んだルクトはその身柄をハロルドへと投げる。
「待っ、」
 受け止めたハロルドが顔を上げ、「おい!」と叫んだ。奇跡とは、起らないから奇跡だ。子供欺しに縋っていても良かった。ルクト・ナードは仲間達と共にこの場所を抜け出したかった。
「ッ、これ以上はいけない!」
 叫んだティスルがルクトの手を握りしめる。死すら超越する奇跡に縋るのは誰もが同じだった。
 ルクトも、ティスルも――ハロルドも。
「莫迦野郎が……」
 男はそっと剣を手に叫んだ。歯を食いしばる。脚に力を込めて憤怒の焔を祓うように飛び込んだ。
「俺は誰か命を救う奇跡なんて信じられんが、戦う為の力ならば願える――『俺に戦わせろ!』」
 鳴の背後から顔を出した鮮花が巫山戯た笑みを浮かべている。黄金の気配がハロルドを、イレギュラーズを包む。
「ッ――耳を貸すな!」
 鳴だけを包まぬ麒麟の加護。
「あにうえの……あのえがおを、しらなければ……たえられた。ひとりぼっちなら……もう……たたかえ、ない」
 一人ではない、とユーリエは言いたかった。だと、言うのに彼女に最早声は届かない。
「光り輝く明日のため。そして人々の笑顔のため。ここまで私たちを繋いでくれた全ての人たちのために――私は絶対に諦めはしない!」
 決意し、そして血液の如き赤き光が広まっていく。困難で劣勢な状況下でも、道を切り開く力を通気を胸に振り仰ぐ。
「麒麟!」
 ユーリエが呼ぶ。黄龍の分身、『仲間達』の力を合わせて切り拓いた浄き道。その名を。
「鳴さんも! ……ッ、鳴さん! 帰りを願って待つ人々を絶望に変えてはいけませんから! だから、だから、一緒に帰りましょう――!?」
 淡い光に包まれながら迫る肉腫を退ける。シフォリィは「麒麟、聞いて下さい」と声を震わせた。命だってかなぐり捨ててでも良い。この場に立った時点で、シフォリィ・シリア・アルテロンドは決めていた。
 麒麟は此方を認めてくれた――けれど、『その中にその性質が反転する鳴は含まれていない』
 鮮花と交えた剣に、疲労を感じる腕が痺れる。それでも、ハロルドは戦う力を幾度も幾度も乞い続けた。こんな場所で挫ける訳がない。信念は研ぎ澄まされて鮮花の腕をその一撃で叩き切らんと肉を断つ。
「こんにゃろー」
「巫山戯るな!」
 食い込んだ刃をそのままに、鮮花の腕がハロルドの腹を裂く。
 呻く。奇跡とは起らないから奇跡だと、そんな事位知っている。万能なる全てを願うわけではない。この場で『全員』が生還する道が欲しかった。倒れない。まだ、策はある筈だ。
 癒し、そして、支えるアレクシアが「絶対に誰も傷つけさせやしない!」と叫んだ。
「みんな遂げたい想いや、果たしたい誓いがあるはずなんだ! それを私は守ってみせる! 何があっても!」
 神様は――

 ――神様は、不公平で、理不尽で、何時だって簡単に大切な者を奪っていく。

「届いて!」
 伸ばす手は、触れない。
 光が包む。アレクシアの白い指先を暖かな金色が包み込む。
 震える鳴に近づくことが出来ない。今までどこに居たのだという程の『けがれ』に『肉腫』、そして『自凝島に存在する戦力全て』が追い縋ってくる。
「麒麟! もう一度願います! 私の大事な人、誰かの大事な人、今も何処かにいる私の想いを誰にも壊させないように!」
 シフォリィは――鳴に手を伸ばす。触れられたはず。それでも、宙を指先が掻いた。
「麒麟!」
 もう、触れ合えない。麒麟は鳴を、『魔種』を認めない。
 視線がかち合った。鮮やかな、赤い炎の眸だ。

「いって」
 鳴、と。嘘ばかりの名前が空虚に響く。
 私の本当の名前は――『*』

「……いって、みんな……わたしが、『鳴』で、なくなる……まえに。
 ――もう……『怒り』が、おさえられないの」

 微笑んだ。焔宮 鳴の、『ローレットの焔宮 鳴』としての笑顔を浮かべて。

「――みんな……生きて、欲しいの」

 焔宮 鳴が、生きる理由。世界に仇なす魔種から民を護る『焔宮』としての使命。
 嗚呼、最早ソレさえ曇って見えないから。
 涙が、落ちた。
 憤怒の炎が、全てを焼き尽くさんと広がっていく。鳴の背後に彼女とそっくりな女が立っていた。
 笑っている。笑っている声が響く。
 黄金の光がイレギュラーズを包み、そして、霧が如く全てを消し去った。

 残ったのは、一人の少女。燻る炎は、憤怒を灯して燃え盛る。
 もう、何も分からない。全ては苛立ちと怒りに染まって――

成否

成功

MVP

ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者

状態異常

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)[重傷]
白銀の戦乙女
焔宮 鳴(p3p000246)[反転]
壊世の焔
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)[重傷]
優愛の吸血種
ハロルド(p3p004465)[重傷]
ウィツィロの守護者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
希望の蒼穹
新道 風牙(p3p005012)[重傷]
よをつむぐもの
ティスル ティル(p3p006151)[重傷]
幻耀双撃
ルクト・ナード(p3p007354)[重傷]
蒼空

あとがき

 おかえりなさい。
 MVPは、最も索敵に貢献されていた貴方へ。間違いなくその信念は麒麟に認められた者です。

 それから、鳴さん。いってらっしゃいませ。どうか、その心の怒りが晴れることを。

※当シナリオにおいて原罪の呼び声が『焔宮 芙蓉』より『焔宮 鳴(p3p000246)』へ発生しました。
アンサーは承諾です。

 シナリオ『<天之四霊>自凝島』を経て特殊判定が発生しました。
 お客様のキャラクターは『原罪の呼び声』を受けています。

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 ――聞こえる。

 それが、何処からであるかは分からない。

 けれど、聞こえる――


 嗚呼、嗚呼、可愛い子。理不尽に流されてきた愛しい子。けれど理不尽の言うがままになっては、屈してはいけないわ。
 だって本当はどうしてって、なんでって、思うでしょう?
 焦がされるように苦しいでしょう? 大丈夫、お母さんも一緒よ。間違ってないわ。
 抱え込んで苦しむことはないの。だから──苦しまなくて済むように、お母さんと行きましょう?


 『お兄ちゃんも一緒よ』

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 この呼び声の属性は『憤怒』です。
 原罪の呼び声は魂を揺さぶり、その者の在り方自体を改変する危険な誘惑です。
 お客様はこの声に『応える』か『拒否する』かを任意に選ぶ事が可能です。
 10/23一杯までにこのアドレスに答えをご返信下さい。(一緒に台詞等を書いてくださってもOKです)
 返信がない場合『拒否した』とみなして進行されますのでご注意下さい。
 尚、原罪の呼び声に応えた場合、キャラクターは魔種となりキャラクターの管理
権がお客様から離れます。不明及び死亡判定に準ずる『反転状態』にステータスが変化しますので予めご了承の上、ご返答下さいますようお願いいたします。

※メール自体の他者への公開は構いません。
 また応じた場合、まず間違いなく簡単に戻れるような状態にはなりません。

 以上、宜しくお願いいたします。


 又、反転状態について改めて補足いたします。
 反転状態につきましては以下のような措置が取られます。

・基本的に死亡に準じます。死亡判定に準じる為、経験値の継承対象となります。
・関係するストーリーが早々に、或いは解決への連続性をもって進展するようなことはありません。時期は未定です
・今後、状況に応じて運営側の判断で魔種として登場する場合があります
・そういった場合、何らかの判定が行われる場合があります。またプレイングなどの提出が求められる場合があります
・全く戻れる保証はありません。というより、世界観設定的に『戻れた事例は存在しません』

 反転は死亡判定に準じますので、ほぼ死んだものと考えて適切です。
 従いまして、今後の弊社側対応や状況変化につきましては上記を念頭に置いておくようお願いいたします。

 以上、宜しくお願いいたします。

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