PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京2010:祓い屋

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夜明けの狭間。世界が一番暗くなる時間――
 陽光はまだ遠く、闇夜に彷徨う迷い子を優しく導く光あり。
 浮かぶ月は暗き海の燈台の如く、往くべき道を指し示すのだ。
 たとえ、その身が群青の夜に縛られようとも。

 バルビゾン・ブルーの夜空に瞬く星は薄く、今にも消えてしまいそうな儚さで灯る。
 地上の星は空を照らし、煌めくスパンコールを覆い隠すのだ。
 そこはまるで――《東京》であった。
 練達(探求都市国家アデプト)の一区画に存在する再現性東京(アデプト・トーキョー)。
 2010街『希望ヶ浜』。そこは嘗て異世界『地球』よりこの世界に召喚され変化を受入れなかった。
 ――受入れられなかった――者達が住まう場所。
 高層ビルとコンクリートに囲まれ、非日常に目を背け耳を塞ぐ人々。
 偽りの安寧に揺蕩い、不変を望む彼等の影に潜むは名も無き悪意か、邪悪の根源か。
 この希望ヶ浜では悪性怪異を夜妖<ヨル>と呼称していた。

「此処は平和だろう?」
 赤い瞳を向けてスーツ姿の男――燈堂暁月は言葉を紡ぐ。
 希望ヶ浜学園祭で見せた教師姿とは違った雰囲気を纏わせ、あなたに視線を送った。
 世界情勢は変化の一途を辿っている。豊穣カムイグラはで呪いが蔓延り、天義の独立都市アドラステイアでは日々魔女裁判が行われ、ラサではFarbeReise(ファルベライズ)遺跡群から色宝が出土しているという。
 そんな中、比較的平穏を保っている希望ヶ浜の夜の公園で、暁月は自嘲気味に笑う。
 傍らには燈堂廻の姿もあった。

「先日、北の『澄原病院』で起った夜妖憑き『天使』の序章(はばたき)を聴いた者も居るだろう」
 天使症候群。己を天使と称する夜妖が齎す命の奇跡。
「されど、奇跡を起こすには、それ相応の代償が必要だ」
 夜妖という存在は邪悪で歪なのだ。己が欲望の為に他害を厭わない。
 だから滅されるべき魔という認識を違える事はあってはならないのだと暁月は告げる。
「所謂、善良なる夜妖も居るだろう。けれど、油断を怠っては行けない。彼等は人間とは異なる認識でこの世に存在している。何時牙を剥いても不思議では無いのだよ」

 特に、夜妖憑き――

 悪性怪異が人間や物に憑依した状態のことを『夜妖憑き』と言う。
 夜妖憑きは満月の夜に暴れ回る人狼(ワーウルフ)や、妖刀に取り付かれた人間など分かりやすいものばかりではない。
「普段は人間社会に上手く溶け込んで成りを潜め機会を伺い、嗜虐に走る者だっている」
 そういった見つけにくい夜妖憑きを調査し夜妖のみを討伐する。

 それが、南の『祓い屋』燈堂一門の生業だった――

 希望ヶ浜南部に居を構える燈堂家は夜妖憑き専門の祓い屋だ。
 本来なら交わる事の無かった夜妖と人間の結びを断ち切り、元の道へ還す。
「夜道を迷わぬよう、燈籠の灯りで導いていくのが燈堂の教え」
 そして、何代にも渡って夜妖に傷つけられた者を受入れ、送り出して来た受け皿でもあった。
 適正のある者は『祓い屋』として門下生に加わり、下宿し教導を受けることが出来た。
 また、祓った後の後始末を担う『掃除屋』の適正が高い者も副次的に受入れているのだ。

「燈堂一門は外からの子も広く受入れている。だから、これは入門試練と思ってくれて良いよ。
 希望ヶ浜学園では、祓い屋の見習い活動も実習の一つだからね」
 教師の顔をした暁月の向こう側、月光に照らされた『人間』があなたを見つめている。
「戦闘の後片付けは心配しなくていい。廻が居るからね」
 夜色のマントを被った廻がこくりと頷いた。

「――さあ、迷える魂を祓い、導こうじゃないか」


 見果てぬ夢を見た。
 誰もが自分を祝福し賞賛し崇め奉る。
 満ち足りた高揚感。自分は愛されて然るべき存在だと肯定されていた。
 どろりと落ちる赤い柘榴の実。滴る果汁は赤く赤く。
 それを貪った。食べて。頬張り。喰らって。
 満腹になるまで極上の味を楽しんだ。本当に美味しかったんだ。

「……次のニュースです。希望ヶ浜北地区の路上で何者かに刃物のような物で切りつけられた遺体が発見されました」
 鋭利な刃物で傷つけられた遺体は、野犬に食い荒らされていたとテレビのニュースキャスターが告げる。
 寝ぼけ眼でリビングに入って来た少年。宍戸慶二は朝食の用意されたテーブルに着いた。
「あらやだ、怖いわ」
 犯人の見つかっていない事件に慶二の母親は眉を寄せる。
 母親が入れてくれた牛乳を受け取って、慶二は一気に飲み干した。
 途端に口の中に広がる腐敗臭。慶二は思わずその場に牛乳を吐き出す。
 その拍子に転がり、床に落ちるコップ。
「うえ……! なにこれ!? 母さん、この牛乳腐ってるよ!」
「ええ!? 昨日買ってきたばかりなのよ。それよりも怪我は無い?」
 慌てて布巾で零れた牛乳を拭いていく母親。コップの破片を拾い集めるのを手伝いながら慶二は申し訳ない事をしたと後悔していた。
 自分が目を覚まし匂いを嗅いでいれば、すぐに分かったもの。
 こうして、母親に零れた牛乳と散らばった破片を片付けて貰うのは忍びなかった。

「痛っ……」

 母親が声を上げる。
 コップの破片で傷ついた指先に赤い血がぷくりと浮かび上がった。
 そして、其処から芳しい香りが漂っている事に慶二は気付く。
 ごくりと喉が鳴った。

 ――――
 ――

「何でぇ? 皆さんお揃いで」
 ニヤニヤと下品な笑いを浮かべる夜妖の声。
 夜の公園で月光に照らされた『人間』とその隣に浮かぶ怪異がイレギュラーズの前に現れる。
 傍らの少年は朦朧とした意識の中で涙を浮かべていた。
 自分の犯した罪を慶二は即座に理解したのだろう。
 ニュースに流れて来た野犬に食い荒らされた他殺体と自分の夢。
 母親の血の匂いを美味しそうだと感じた、感覚の変容。
「もう、こいつったら、美味しそうに食っちまってよお! お陰で俺も腹一杯って訳さ」
「ぅ、う……!」
 罪の意識に苛まれ涙を流し絶望している。弱った心というものは付け入りやすい。
「なあ、もうちょっとなんだよ。あと少し突けばこいつは壊れちまう。そしたら、俺がこいつの身体を完全に乗っ取って使ってやるからさ。お前らも協力してくんねえ?」
 夜妖がイレギュラーズを指させば、慶二の手が持ち上がる。
 既に身体の殆どを乗っ取られているのだろう。
 僅かに残った意識も壊れかけの玩具のように軋んでいた。
「何人で来ても一緒だ! 早くお前達の肉を食わせろ!」
 宵闇の公園に、夜妖の声が響き渡った――

GMコメント

 もみじです。『祓い屋』燈堂一門の序章となります。

●目的
 夜妖憑き『黒柘榴』を祓う

●ロケーション
 希望ヶ浜の公園。月が出ている夜です。
 人気はありません。灯り、足場に問題はありません。

●敵
○『夜妖憑き』黒柘榴
 宍戸慶二に黒柘榴が取り付いた状態。
 身体を殆ど夜妖に乗っ取られています。慶二は僅かに感情を動かすのみ。
 戦闘中は問題ありませんが、慶二の精神状態に猶予は残されていないでしょう。
 ナイフでの至近攻撃に加え、黒柘榴の顎は強力です。
 どうやら神秘遠距離攻撃も持っている様子。
 黒柘榴の顎(A):物近単、出血、防無

○『地縛霊』×15
 公園に潜む怪異です。
 NPCを含む戦場の全てのものを攻撃します。
 至近~中距離の神秘攻撃を持っています。

●NPC
○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
 裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
 戦闘には参加せず見守っています。

○『祓い屋』燈堂暁月(とうどうあかつき)
 希望ヶ浜学園の教師。裏の顔は『祓い屋』燈堂一門の当主。
 記憶喪失になった廻や身寄りの無い者を引き取り、門下生として指導している。
 戦闘には参加せず見守っていますが、手助けが欲しい場合は参戦します。
 腰に吊した日本刀で敵を斬ります。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目は自由です。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないもの。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●夜妖憑き
 怪異(夜妖)に取り憑かれた人や物の総称です。
 希望ヶ浜内で夜妖憑き問題が起きた際は、専門家として『祓い屋』が対応しています。
 希望ヶ浜学園では祓い屋の見習い活動も実習の一つとしており、ローレットはこの形で依頼を受けることがあります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性東京2010:祓い屋完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ゼファー(p3p007625)
魔女
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒き葬牙
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
朔・ニーティア(p3p008867)
言の葉に乗せて

リプレイ


 蘇芳に染まる月影は夜の狭間から忍び寄る。
 歪な形をした夜妖の姿が瞳に映り込んだ。絶望の色は忌避したくなる程に見る者の胸を苛む。
 薄布で目を覆い隠した『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は涙を流す少年を見遣った。
「宍戸慶二……恐らく貴様は、後悔に苛まれているであろう。
 己の意志ではないとはいえ、人を喰らったのだ。だが、それを考えるのは後だ!」
 何時になく声を張り上げるリュグナーの真意。
 今、少年が考えるべきは、夜妖に囚われ人を喰らい続ける存在で居たいかどうか。
「また人を食べたくないと言うのなら抗え! 抵抗せよ! ――そして、後は我々に任せよ!」
 リュグナーの想いが公園に木霊する。
 同時にリュグナーは相手の思考を読み取らんと注視した。
 ――何か夜妖を剥がすヒントを得られれば程度のものだが。
 心が壊れれば完全に支配されてしまう。ならば、宍戸慶二に強い意思が戻ればあるいは。
 試してみる価値はあると思考を読み取るリュグナー。
 感じられるのは慶二の後悔と黒柘榴のどす黒い強欲。侵食されそうな程、毒を孕んだ意志。

『薄桃花の想い』節樹 トウカ(p3p008730)の黄金の瞳は夜妖憑きとなった少年に向けられた。
 ――過去になった記憶は変えられない。犯した罪に心は決して癒えることは無い。
 それは生きる事を放棄してしまえる程、残酷に少年の心を蝕むだろう。
 けれどとトウカは僅かに金の視線に意志を乗せた。
「でも生きるのを止めた時、悲しむ人が必ずいるんだ!」
 眉を寄せ紡ぐ言葉は真に迫るもの。同じような想いを感じたことがあるからこそ出てくる言葉だ。
「皆足元に見たくないものを隠し、それを見ないようにして歩いてる」
 トウカの背後から歩を進める『糾き声がきこえる』朔・ニーティア(p3p008867)は僅かにシシリアン・アンバーの瞳を伏せる。
「いつまでも夢なんて見てられない――なんてのも知らないのかもしれないね」
 其れが幸せなのか不幸なのか朔には預かり知れぬ所なのだが。
『誰も見ていない世界』が夢見心地の煌めく世界や憧れとして映ってしまったからなのだろうと朔は考えを巡らせる。

「初めまして、祓い屋殿。妾はアカツキ・アマギ。此度はよろしくお願いします、なのじゃ。
 掃除屋殿……廻殿と呼んでも? つい先日ぶりかのう、元気そうで何よりじゃよ」
 月明かりに焔の瞳が燃ゆる。
『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)は『祓い屋』燈堂暁月の隣で笑いかけた。
「ふふ、君が『アカツキ』君か。夏のプールでは廻が世話になったね」
 暁月の背後に隠れるように『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)が会釈をする。
「お久しぶりです。アカツキさん。名前は、好きなように呼んでいただいて構いません」
 夏のプールで会った時とは打って変わって、フードを被った廻は近寄りがたい雰囲気がある。まるで、手負いの獣を相手取る時の緊張感だ。
 アカツキの隣には『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)が腕組みをしていた。
「『祓い屋』の入門試験、ね。入門とかには興味ないけど、祓い屋そのものには興味が沸くなぁ。
 オレ(の師匠)の、元の世界での仕事と似た感じみたいだし」
 同業者として恥ずかしい所は見せられないと思った風牙は立ち返り頭を振る。
「……っと、ダメだダメだ、こんな考え方。恰好つけるとか、認めてもらうとか、そういうのじゃない。
 そう、やるべきことはひとつ。『人の世に仇為す【魔】を討ち、人々の平穏を護る』!」
 今、助けるからなと風牙は烙地彗天を構えた。槍の刃先に月光に照らされた夜妖憑きが映り込む。

「これが『入門試練』だと言うのなら、必ず乗り越えて慶二君を助けてみせる」
『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)は希望ヶ浜教師としてではなく、祓い屋燈堂一門の当主としてこの場に立つ暁月に視線を向けた。
「……けれど。あの子を助けたいのは、試練だからじゃないからねぇ。
 これは先生(おとな)の役目で……何より、わたし自身の意思だ!」
「ふふ、シルキィ先生は模範的だね。とても素晴らしい。まあ、入門試練とは言ったけれど、流石にアレを用意したわけじゃ無いからね。勝負は君たち次第。頑張りたまえ」
 自然に発生した夜妖でなくとも不測の事態は起こりうるのだ。
 その為に暁月は備えているとシルキィに頷いた。
「祓い屋か、再現性東京ではこの様な形で動くのだな……」
 蒼銀月とグロリアスペインの双槍を携え『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はムーンシャイン・ブルーの瞳上げる。
「俺達の立場は理解した、ならばその役割を果たすべくこの槍を振るおう
 今もなお、苦しんでいる者が居るというのならば、助けたい」
「良い心がけだ。話が早くて助かるよ」
 暁月は赤い瞳を細めた。
「戦いに入る前に確認したい。宍戸慶二を助け出すのに、不殺は必要であるかどうかだ」
「まあ、殺さないように気を付ければ大丈夫。注意深く観察して戦っていれば、この一太刀が致命傷になるかは分かるだろう? 不殺で極限まで減らす事が出来れば祓いやすい。勿論、普通に痛いけどね」
 幼い子供や老人より宍戸慶二は多少耐久性があるだろう。夜妖憑きになり能力だって上がっている。
「ただ、全ての夜妖憑きがそうであるとは限らない。状況によって祓えない場合もある」
 完全に融合を果たしてしまえば、それは既に夜妖憑きではなく、夜妖そのもの。

「……嗚呼、嗚呼。気の毒なボーヤ。もう、自分のことまで忘れかけているのね?」
 アルカーディアの蒼風纏い。『never miss you』ゼファー(p3p007625)は靴底で地を踏んだ。
 視線の先の夜妖憑きは絶望を浮かべゼファーを見て居る。
 ゼファーは自身の槍に手を這わせた。
 刃先に触れた指先は一筋の赤を生み出す。
「う……うう」
 抗い難い血の匂いを滴らせ、ゼファーは夜妖憑きへと視線を向けた。
 地面を蹴って月を背負った槍が、敵の視界を奪う――


 先陣を切るは風牙の槍。
「先手必勝――!」
 風牙を取り巻く翡翠の風が迅雷となりて敵を喰らう。
「喰らえっ、『奪塞・其先』!」
 爆発的な気の流れは敵の体を駆け抜け恍惚の最中に誘うのだ。
 翡翠の瞳を上げ、風牙は口唇に笑みを浮かべる。
 この技は次手への布石。本命は風牙のすぐ後ろから現れるベネディクトの双槍だ。
「べっさん!」
「ああ!」
 先達の風牙を巻き込まぬよう放たれるは銀の刺突。
 降り注ぐ鋭利な槍先に地縛霊が為す術もなく穿たれた。
 鮮烈なる先陣。統率の取れたベネディクトの采配は敵を圧倒する。
「まずは、地縛霊の数を減らし、その後に黒柘榴を討つ」
 ベネディクトの声に風牙は頷く。

 風牙とベネディクトが先陣を切る間を一気に駆け抜けたのはゼファーだ。
 折角のダンスのお相手に気休めにもならないかもしれないけれど、とゼファーは言葉を紡いだ。
「どうせ食うなら美味しいほうが良いでしょう?」
 視線を風牙へと向けていた黒柘榴に向けて、ゼファーは指先を這わせる。
「余所見なんて失礼しちゃうわねぇ? こんなに魅力的な獲物ですのに」
 頬を滑り落ちていくゼファーの血に慶二が歯を食いしばった。
「未だ自分を保っているのなら、ちょっとは可愛らしい反応して頂戴な?」
 ゼファーは慶二の視線、息づかいを注意深く見遣る。
 血を欲しているが、まだ、理性が働いているのだろう。この戦闘中であればまだ持つか。
 では攻撃を仕掛けた場合はどうなるか。
 槍を振り上げ吹き抜ける風を持って、敵を穿つ一閃を放つ。
「く、はは! 何だぁ、こいつを助けてぇの? お前ら」
「話しかけてるのはあんたじゃないわよ」
 ヒトを弄んで愉悦に浸っているようなナンセンスな野郎は大嫌いだと吐き捨てる。
 黒柘榴はゼファーの髪を切り裂くように顎を向けた。
 されど、地を蹴り上げ舞い上がるゼファーの動きに、虚空を噛みちぎる。

「へえ。すごいじゃないか」
 イレギュラーズは余程戦い慣れていると暁月は感心した。
 近づいて来る地縛霊に視線を合わせる暁月。
「君たちの相手は向こうだよ」
 動じた様子も無く唇に笑みを讃え、暁月はその場を動こうともしない。
 その背には廻が隠れて居た。
「どこを見ている……『こっち』だ」
 離れていた地縛霊をリュグナーの声が呼ぶ。
 地獄の大総裁オセの狂気はリュグナーの瞳を通して地縛霊に叩き込まれるのだ。
 暁月が手を下す前にリュグナーは敵を自分へと引き寄せる。

「先に雑魚を片付ける。……ほら、雑魚ども、恨めしいのだろう? 俺達は生きているぞ!」
 夜の戦場にトウカの声が響き渡った。
 亡者にとって生きている者は其れだけで妬ましいものだ。
 名乗りを上げ敵を引きつけるトウカ。則ちそれは四方を敵に囲まれ身動きが出来ない状態でもある。
 蘇芳の血が地面に滴り、トウカの肉を削いでいく。
 其れでもトウカは伝えたい言葉があった。
 薄桃色の花弁が戦場に舞う。其れはトウカの想いのカタチ。
『君にもいるはずだ。君が死んだら泣く人が。俺達は君を乗っ取っているソレを倒せるけど
 君の大切な人の涙を止められるのは君だけなんだ! だから絶望するな!』
 トウカの想いは黒柘榴に染みこみ、慶二の心を震わせる。
『生きるのを止めるな!』
 薄桃色の花弁がトウカの血で赤く染まった。
 この戦場には回復する者は居ない。だから、仲間が取った戦略は短期決戦。
 トウカは此処で倒れる訳にはいかなかった。
 生きるのを止めるなと言う己がどうして倒れていられようか。
 血反吐を吐いて可能性を掴み命を燃やすトウカ。
『犯した罪が辛いなら俺みたいにこれから善行や人助けでマイナスを打ち消せばいい!
 俺達が君を助ける為に! 君の家族を泣かせない為に! 俺達と一緒に生きてくれ!』
 戦場にトウカの花吹雪が吹き荒れる。
 強烈な想いが戦場の全てのものを包み込んだ。

 ――――
 ――

 トウカが倒れるのが先か。地縛霊の殲滅が先か。
 アカツキは最悪の事態を想定してぐっと唇を噛みしめる。
「連なれ、雷神の閃光――」
 迸る迅雷はアカツキの両手の魔術刻印から放たれた。
 赤き炎と青き炎の刻印は戦場に爆音を轟かせる。
 アカツキの対角線にはシルキィが駆け抜けた。
 汗が頬を伝い、流れていく。
 自分達の手にはトウカの命と宍戸慶二の命二つが掛かっているのだ。
「でも、負けないよ。絶対に負けられないんだから」
 大人である自分達が諦めるなんて事出来るはずも無い。
 できる限り多くの地縛霊を巻き込むように位置取りをしながら熱砂の嵐を巻き上げる。
「キミは悪くなんてない。悪いのは、キミに取り憑いた化け物。必ず助けて見せるから……だから、今はキミも負けないで!」
 シルキィは声を張り上げる。

「慶二くん、君は退屈な日常が大好きなんだろう?」
 朔の声が遠くから聞こえる。
「今自分が『許せない』なんて、罪の意識に溺れてるのも君が日常を愛してる証拠だ」
 素早い動きで戦場を駆け巡る朔は決して捉える事の出来ない幻影のようだ。
「だからさ。 助けてほしい、って。言ってほしいなぁ。そしたら全力で助けてあげるから」
 鬼封じの陣を手に亡者を駆逐する朔の攻撃は、舞を踊るように優雅であった。
「たすけ……て。助け」
「ああ、分かった。分かったよ。君の意志を確かに受け取った」
 絶望の淵から助かりたいと願うのならば、其れを救い上げるのが自分達の使命。

「――行くぞ!」
 ベネディクトの合図に一斉攻撃が叩き込まれる。


 リュグナーの影から鎖が飛び出し、黒柘榴へと絡みついた。
 影を踏み縛り付ける呪縛の楔。自由を許さぬ尊厳の滑落。
 包帯の隙間から見える灰金の瞳は妖しく光る。
 顎による攻撃は慶二の精神が壊れる切欠となってしまうかもしれないとリュグナーは思案した。
 縛り付ける手を緩めず言葉を届ける。抗え、戦え、その心は人のままであることを示せと。
「貴様は誰だ! 貴様は何者だ!! 答えてみよ!!!」
「あ、僕……は、宍戸慶二」
「そうだ。貴様は夜妖憑きの黒柘榴ではない。宍戸慶二だ! それを忘れるな!」
 リュグナーの自信に満ちあふれた言葉は慶二の心に布石を打つ。

「死にたくないのなら、気合入れて声を張って見せなさいな。
 君を不幸にした化物に、いつまでも好きにはやらせたくないでしょう?」
 白き百合の花が咲く。ゼファーの声は甘美に耳朶を這った。
「宍戸慶二! あんま自分を責めんな!
 悪いのは、お前に憑りついてるバケモノだ。それがお前をおかしくして、悪事を働かせた!」
 風牙は戦場に響き渡る声で慶二へと語りかける。
「今からそいつをぶっとばす! だから、お前も手伝え!」
 穿つ槍に風牙はありったけの想いを込めた。
「お前と、お前の周りの人たちを傷つけた奴を、一緒に倒すんだ!
 バケモノに、お前の体を好きにさせるな!」
 イレギュラーズだけの力では、いくら頑張っても意味が無かった。
 慶二自身が生きたいと願わなければ黒柘榴は離れないのだと風牙は叫ぶ。
 風牙の槍は不殺ではない。だから、この先は仲間へと託すのだ。
「べっさん! あとは頼んだ!」
 翡翠の瞳でベネディクトを見遣る風牙。其れに応えるようにベネディクトは頷く。

「宍戸、絶望に屈するな! 自分のした事を悔やんでも、悔やみきれないのは解る──それだけの事をしてしまったと思う心は間違っては居ない」
 悔やむ心が無ければ人は進んで行く事が出来ない。他人に優しくなれない。
 そんな慶二だからこそベネディクトは救いたいと思うのだ。
 夜に迷う者が居るのならば、自分達がそれを助ける篝火となろう。
「君の母さんに謝りに行こう、これからどうすれば良いか解らないなら、俺達も一緒に考える。
 崩れてしまった日常が元通りになる事は無いかも知れない。
 それでも──君には、生きる権利がまだある筈だ……!」
 双槍を捨て去り、慶二へと手を伸ばすベネディクト。
 黒柘榴の束縛を振り切り、慶二はベネディクトの手を取った。

「帰っておいでよ、何ならおねーさんとの一日デート券でもセットにしてあげるし。
 一緒に今度はパンケーキでも食べに行こ。マジ卍祭りでもサービスしちゃうからさ」
 ベネディクトが掴んだ手とは反対側を朔が握る。
「それにさあ……このままいいようにされるのも、ヤじゃない?」
 慶二に視線を合わせ朔は微笑んだ。
「おねーさんたちが、手を貸したげる。大丈夫、君のことを絶対救ったげるから、さ。
 目一杯抵抗してやんなよ、男の子でしょ?」
 握りしめた手に力を込める。朔の声は慶二に届く。
「いま一番確実にそいつをとめられるのは、きみなんだから!」
「……っ!」

 慶二の心が前を向いた。
「僕から、離れろ……! クソ野郎!!!!」
「それぐらい言ってやれるなら上等じゃ! 少し痛いかもしれんが我慢するのじゃ!」
 アカツキの合図で一斉に夜妖を剥がすイレギュラーズ。
 力を失った黒柘榴はゼファーの槍に穿たれ闇夜に沈んだ。

 ――――
 ――

 トウカは自分の傷はそのままに、慶二の応急処置を優先する。
 シルキィは慶二の手を握り、励まし続けた。
「もう一度、断言するよぉ。キミは悪くなんてない」
「……ありがとう」
 けれど、罪の意識が消える訳では無いのだろう。真面目であればあるだけ良心の呵責は重くのし掛かる。
「もし彼が望むなら、祓い屋を手伝って貰うことって出来るのかなぁ?」
 シルキィは暁月に問いかけた。
「心の傷は直ぐには癒えてくれないし、もっと辛い目に会うかもしれない。それでも、誰かを助ける事は、彼にとって一つの救いになるかもしれないと思うんだ」
「そうだね。夜妖と深く関わり、そして君達に助けてもらった慶二君は、次に誰かを助けたいと望むかもしれない。適正があれば其れも視野に入れよう」
 暁月の応えにシルキィは胸を撫で下ろした。

「生前の弟を想う夜妖もいれば、母を想う子の気持ちに付け込もうとする夜妖もいるのじゃな」
 アカツキは暁月と廻に微笑んだ。
「それら色々な手合いを鎮め、祓う。祓い屋とはそういう感じのお仕事かの?
 妾、興味が沸いてきたのじゃ!」
「それは、良かった。君達は戦い慣れている子が多いから、此方としても助かるんだ。
 また、こうやってお願いすることも有ると思うけれど。その時はよろしく頼むよ」
 赤い瞳を細めた暁月は優しげな教師の顔で笑った。

「今から『掃除』をするんかの?」
「ああ、そうだね。今日は私が居るから大丈夫だよ廻」
「はい」
 戦闘で抉れた公園の土や夜妖の残骸。其れ等を元通りにするのが掃除屋の役目。
 黒柘榴に近づいた廻は座り込み、その残骸に触れ祈りを捧げる。

「――思食み」
 おもはみ。と廻が言葉を紡いだ瞬間。
 黒影が公園を包み、一瞬にして消え去った。
 ベネディクトや風牙が刻んだ地面も、ゼファーが放った風で切れたブランコも。
 全て元通りに。何事も無かったかのようにその場で沈黙している。
「これが。掃除屋の能力」
 朔が小さく呟き、リュグナーが興味をそそられると口の端を上げた。
「……ごほっ、ごほ」
「大丈夫?」
 急に咳き込みだした廻にシルキィとアカツキが手を差し伸べる。
「ごめんなさい。今は僕に触れないでほしいです」
 生気の無い顔で、口から血を吐きながら、廻はそう紡いだ――


成否

成功

MVP

シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者

状態異常

節樹 トウカ(p3p008730)[重傷]
散らぬ桃花

あとがき

お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
祓い屋シリーズの序章でした。
MVPは少年に更なる道を示した貴方へ。
ご参加ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM