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シナリオ詳細

天秤は公平たれ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●そして平等たれ
「皆に集まってもらったのは他でもない。模擬戦に付き合って欲しいんだ」
 天義のとあるカフェに集められたイレギュラーズ達に、リゲル=アークライト(p3p000442)は開口一番そう切り出した。どこか苦い顔をしているのを見るに、仲間同士のそれとは違うらしい。
「そんなことをかしこまって話すなんてリゲルらしくないな。相手は誰なんだ?」
「そうねぇ、騎士団との手合わせなら手加減も要るかもしれないけどぉ、レオパル様までは行かなくても実力者かどうなのかぐらいは知りたいわねぇ」
 ウィリアム・M・アステリズム (p3p001243)とアーリア・スピリッツ (p3p004400)の2人はリゲルをよく知ったればこそ、彼が情報を伏せるという事態に疑問を抱いた。多分、それなりの理由があってのことだろうが――と。
 なお、訳知り顔のポテト=アークライト (p3p000294)は何故か目をそらしている。
「ボクでよければ……ウィリアムさんもいいらしいので、お手伝い出来ればいいんですが、いったい」
「リゲル=アークライト! 僕をこんな所に呼びだしてなんの用だ!」
 アイラ・ディアグレイス (p3p006523)がおずおずと「誰なんでしょうか」と続けようとしたとき、カフェの扉が乱暴に開かれ、当事者が姿を現した。
 仕立てのよい服に装飾の多い槍、金髪のあいだから覗く瞳は挑戦的で自信に満ちている。
 エトワール・ド・ヴィルパン。天義騎士ヴィルパン卿の息子にして、自称・リゲルのライバルである。リゲルからすれば弟分なのだが、そう公言しないあたりが優しさだろうか。
「エトワール、ここは公共の場だよ。もう少し静かにした方がいい」
「……っ、そうだな、それは……すまない」
 リゲルの指摘に素直に頭を下げた彼の姿に、ポテト、ウィリアム、アーリアあたりは首を傾げたかも知れない。以前彼を救出した際、そしてリゲルが語った彼の性格からすれば、減らず口の一つ、返ってくると思っていたからだ。
「貴方がリゲルさんのご友人ですね? 私はノースポール、ポーと呼んでください。……リゲルさん、訓練相手は彼ですか?」
 ノースポール (p3p004381)が立ち上がってエトワールと握手を交わすと、リゲルに問い掛ける。彼は大仰に頷いた。
「以前よりは筋がよくなったと思うけど、まだまだ経験不足だからね。一対一での模擬戦で戦い方のコツを掴みたいらしい」
 だから是非、遠慮無くボコボコに……完膚なきまでに……否、しっかりと訓練をさせたいのだとリゲルは語った。
 もう一声、イレギュラーズの手助けが欲しいところだが……果たして、エトワールは心折れずに訓練を終えられるのだろうか?

GMコメント

 部分リクエスト有り難うございます。
 そんなわけで密度高めの模擬戦……になるといいなあ……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●達成条件
 エトワール・ド・ヴィルパンの訓練に協力し成功させる

●『深碧の天秤』エトワール・ド・ヴィルパン
 リゲルさんを一方的にライバル視している、騎士見習いの青年。父親はそれなりに地位のある騎士である。
 槍を得意とし、(勝手に飛び込んで窮地に陥るという意味で)死地をそれなり経験しているため思い切りと度胸はそれなりにある。
 謙虚さも多少は学び、かつてよりは実力もある。……のだが、まだまだイレギュラーズと一対一で十分戦えるとは言い難い。
 それでも油断しているとかなりえげつない戦い方をするので注意が必要。ルールが遭遇戦だったらもう少し厄介だった。
 至近~中距離あたりを攻撃範囲とし、そこそこの反応速度で戦闘を行う。模擬戦なので刃を潰した槍を用いる。
 ルールとしては彼のHPが1割以下になった時点で終了(1回あたり)。
 治療は多分ポテトさんあたりがするはず。そうでなければヴィルパン卿の方から小間使いの治癒術士が出張ってくる。小間使い治癒術士とかどういうことだよ。
 なお、戦闘において学びが必要なので超機動による引き撃ちとか大人げないにも程がある戦術はNG。訓練相手が明らかな格下であることに重々留意のこと。
 力押しで勝つだけよりは相手の戦い方に合わせて~とかの方が絶対描写いいと思います。

●戦場
 騎士訓練場。特に地形に異常もなく広々としており動きやすい。

●注意事項
 エトワールとの模擬戦で彼のサポートに回ったりエトワール側2:1のような形式は可としますが、あくまで「エトワールと希望者のタイマンが終わってから』とします。
 なので描写控え目になるのでそういう「例外をメインにしたプレイング」はかなりマスタリングがきつくなるのでご留意ください。

  • 天秤は公平たれ完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
※参加確定済み※
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
※参加確定済み※
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
※参加確定済み※
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
※参加確定済み※
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
※参加確定済み※
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
※参加確定済み※
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼

リプレイ

●成長の片鱗
「皆、エトワールの為に有難う」
 『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の謝辞を受け、一同は気にすることではないと応じた。理由は様々なれど、大前提として彼の人徳がなければ人も集まらなかっただろう。
「……宜しく頼む。あなた方の実力のほどは承知しているつもりだ」
「あらまぁエトワールくんってば、相変わらず……いえ、さっきの感じからしたら少しずつ変わったのかしらね?」
「随分丸くなったな……いや、揶揄うつもりじゃないんだ」
 エトワールは静かに頭をさげ、一同に教えを請う。誠実な姿勢を崩さない。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)と『神威の星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は以前、彼を救出するに際しその性格を存分に味わっているが故に、驚きを覚えていた。
 以前会った際は、そして噂に聞くぶんにはリゲルへ対抗心を燃やし、家柄もあってか尊大な態度を当然のように見せてくるタイプであったはずだ。
「友人のリゲルさんの頼みとあらば、喜んで協力しましょう! よろしく、エトワールさん!」
「こんにちは、エトワールくん」
 『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)と『あなたの虜』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)の2人は、仲間の頼みあっての協力で、彼と面識が薄い。挨拶一つとっても、彼が身を固くするのは無理からぬことである。
「……貴殿と僕は初対面だ。礼節を保って貰おう」
「あはは、身分のある方にはさん付けをしろと?」
 少々ぶっきらぼうに応じたエトワールに、アイラは笑いながら軽く手を仰いで他意はないことを暗に示した。双方、誰かから教えを請う身だ。親近感も湧くのだろう。
(エトはちょっと緊張してるっぽいけど、みんなは楽しそうだな)
 『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)はリゲルを通してエトワールをよく知っているが、いつになく固くなっているその姿に懸念を覚えもした。気持ちが凝り固まっていると体にも影響し、硬い動きは怪我を誘発する。少し肩の力を抜いてほしいものだが、とポテトが考えている間に、エトワールとアイラの間で激しいやり取りが交わされる。言う程怒っているようには見えないので、放っておいても問題あるまい。
「今回は騎士見習いの子ってことだし、少し前のサクラちゃんを思い出しちゃうね」
「棒きれ振って体に動きを馴染ませるのも大事な事なんだろうけど、やっぱり相手がいた方が勉強になるぜ。騎士さんにも丁度いい練習相手だろうし」
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はかつての親友の姿を青年に重ね、『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)は自らを未熟と思うがゆえに、エトワールの特訓で得られるものがあると考えた。とはいえ、獅門とて相応の修羅場を潜った身であるのだから謙遜がすぎるのだが。
「危なくなる前に止めるし、しっかり回復するけど、中々一筋縄ではいないメンバーだから……頑張れ」
「心配は不要だ、アークライト夫人。僕は以前とは違う」
 ポテトは、思いがけずエトワールから返ってきた「夫人」の響きに少しだけ身を固くした。彼が気遣いが利く程度には成長したのを喜ぶべきか、対外的にはたしかに『そう』なのかと、ときめくべきなのか。
 ともあれ、なるほど。この青年……少年といっていい年齢の彼は確かに成長しているのだ。

●「ボクがキミとの手合わせに勝ったら、ボクはキミをエトワールくんと呼びます。それから、ボクのことはアイラさまと呼んで貰います!」
「なッ……そんなことが出来る訳が」
「出来ないんですか? でしたら模擬戦はちょっと。リゲルさんにご迷惑をおかけするのは偲びないですねえ?」
 アイラの唐突な申し出を受け、エトワールは咄嗟に拒否の言葉を紡ごうとした。が、続く彼女の言葉に身を固くする。僅かの間、リゲルとアイラの間を往復した視線は、後者を見据えた。
「……『さま』付けは今日の間だけだ。それ以上はヴィルパン家を背負うものとして譲れない」
 エトワールは槍を構え、低く身を沈めて突撃の姿勢を取る。
 アイラは対して、緩く宝石剣を握って優雅に構えた。
 一瞬の間を置いて距離を詰めたエトワールの槍がアイラの足を払いにかかり、振り抜いた姿勢から逆手に持ち変える。石突を顎元へと突き上げたその動きに伴う眼光は確信の色が濃い。彼なりに研究した一手ということか。
 顎を撃ち抜かれ仰け反ったアイラはしかし、突き出した手の先に生じた炎の蝶を羽撃かせ、エトワールの鼻先へ猛毒の鱗粉を運ぶ。
「「…………っ!!」」
 どちらともなく響いた苦鳴は痛みによるものとは限らない。火力面では明らかにアイラに分があれど、意表と手数ではエトワールが一歩長じた。
「ふふ、すこしはどきっとさせてくれるじゃないですか、王子様!」
「僕は騎士だ、持て囃される王子様など似合うわけがない!」
 雪銀の剣を生み出し追撃にかかるアイラに、再び突きの姿勢に入り吼えるエトワール。全身を覆う虚脱感と痛覚は数十秒で尽きる勝機を予感させるが、それを押してなお彼は一歩踏み出す根性がある。
 両者の得物が交差し、打ち合い、当たり、外れ、傷を生む。
「そこまでだ2人とも。エトはもう限界だな」
「……情けない」
 ポテトの合図に応じるが早いか、大きく後ろへと倒れ込むエトワール。まだ戦える、と無理を通さないだけマシだろう。
「そうだなあ。火力型は火力に寄せすぎていて、防御や回避、それから命中が半端な傾向にあります。そこを把握して、当たらないようにしてみるのがいいかもしれません」
「そう……か……、参考……に、する。アイラ……さま」
 治癒術を駆使して互いを癒やすアイラは、律儀な青年の言葉に思わず笑みを零した。

「エトとの久々の模擬戦で俺も嬉しいよ。成長したようだしね」
「真剣勝負で勝てるとは言いませんが、以前と同じと思っては困りますよ」
 リゲルの言葉に嘘偽りという概念はない。そして、エトワールはリゲルの実力を見誤らない。4、5年の人生経験、それを遥かに超える死線を跨いだ差は2人を隔てている。
 が――。
「シッ!」
 愚直、そう表現するしかない直突き。静から動への切り替えは目を瞠るものがあるが、それだけの突き。白銀の剣でいなしたリゲルは、突きの勢いを突如として横薙ぎに切り替えた動きに笑みを零す。
「良い太刀筋だね、頼もしいよ」
「子供扱いですか、あなたは本当に……」
 したたかに打ち付けたのは自分だ。だが、傷の度合い、相対的な深さは打ち据えた己が上。納得いかないという面差しのエトワールは、怯むことなく次々と槍術を駆使して打ち掛かる。対して、リゲルは守りを固め反撃を行わない……まさに「肩を貸している」状況が動いたのはその直後。
 死が降ってくる。直感的に大きく飛び退いたエトワールの元いた足元目掛け、リゲルの渾身の一撃が叩き込まれる。訓練場の地面は抉れ、土煙がにわかに上がる。
「怖いかい? それは生存本能として正しい。だが慌てたり、委縮しては命を狩られてしまう。生き残る為に冷静を務め、戦局を見極めるんだ」
 目を見開いた彼に、リゲルは冷静に言葉を紡ぐ。ややあって目の色が変わったエトワールが、震える足でなお前に出た。
「全力で防御しろ!」
「…………!!」
 リゲルは「あえて槍目掛け」己が必殺剣を叩き込む。力量差を思えば吹き飛ばされても仕方ないが、エトワールは驚くべきことに、耐えた。リゲルがそうしたのだろうが、外から見れば凄まじきことだ。
「リゲル=アークライト……あなたという人はッ!」
「その意気だ、来い、エト!」
 槍と剣が打ち合う火花は勢いを増し、然し互いの表情には明白な差が生まれ始める。……明々白々な2人の実力は、それでも学ばせるものがあるのだ。
「……痛めつけて蘇生させるのは最大の拷問とも言えるかもしれない。だがこれも訓練だ仕方ない、強くなるんだぞ、エト!」
「いつからアークライト家は拷問官の血筋になったのですかッ!」


「お互い良い学びとなるよう、どうぞよろしくな!」
「あなたも良き生き方をしてきたようだ。……本当に、これだからイレギュラーズという方々は」
 苦い顔で差し出された相手の手を、獅門は笑顔で握り返す。気持ちのいい男の外面からは理解できない熱量が渦巻く姿は、嵐のようでもあり。先の2人と同様、些かも気が抜けぬ相手だと思わせた。
「オラアッ!」
「!!!」
 開始位置から始まるや否や、純然たる突進からねじ伏せんとする一撃がエトワールを襲う。槍でいなす? 弾く? 無理だ。啾鬼四郎片喰の圧力はそのすべてを否定する。答えは……。
「づ……ッ!」
「ハハッ、やるな!」
 身を低くして、更に間合いを詰め、短く握った槍による、『ランス・スタッキング』。当然ながら後ろに長く残した槍の身を打たれれば大きな隙を生む。だがエトワールはそれを最適解と解釈した。
 みぞおちに一撃打ち込むと同時に、肩への衝撃。槍を取り落しそうになるが、残した。
「その調子だ、もっと学ばせてくれ!」
「あなたの勢い、覚えていますよ……忌々しい相手と、被る!」
 猪武者と自身を定義する獅門の姿に、嘗て自らをねじ伏せたアークモンスターの姿が被る。正面切っての打ち合いは魅力だが、それで負けたのは事実。
 ならば『楽しい』戦いはこれまでだ。槍を通常の持ち方に直したエトワールは、獅門の打ち下ろしを避けるように見をひねりながら、すれ違いざまに横薙ぎに槍を払う。
「そこです、エトワールさん! 獅門さんもいい感じですよ!」
 単純だから避けやすい? 冗談じゃない。確実に敵を叩き潰す圧力は、相対して楽なものではない。
 傍らから響くノースポールの声援も、遠いものに感じるほどに。
 ……当然のようにエトワールが敗北するに至るが、真っ向勝負をしかけた獅門も浅くない傷を負う結果となった。

「あれから俺も変わった――魔術師の戦い方を見せてやる」
「ご教授願いましょう。アイラ……さま、の、師匠なのでしょう?」
 ウィリアムは彼の返しに思わず笑う。生意気だが律儀なのは変わらないのだ、と。
 そして――ウィリアムは開始直後に蒼の剣を射出し、距離をとって戦い出す。
 一撃一撃は死に届きはしない。が、受け続けるには重い。ジグザグに駆けつつ、エトワールは相手との距離を詰めんとする。牽制。避ける。更に牽制、受け止めて前進。
「まあ魔術師ってのは基本後衛だから、これは仕方ないんだ」
「言ってくれる……!」
 付き合いが多いわけではないが、その言葉をブラフと理解したエトワールは踏み込み、突き、薙ぎ払う。
 ウィリアムは軽々とそれをかわし、いなし、傷が増えれば治療に回る。攻めで己を忘れれば、近接距離から一撃を見舞おうと考えたウィリアムであったが、短時間ながらエトワールも学んでいる。攻勢の時ほどしっぺ返しが怖いのだ、と。だから攻めに全てを捧げない。神経を尖らせる。
「少しは気を抜いてくれよ、こっちだって走り続けるのは大変なんだぜ?」
「気を抜いたらこの距離でも撃ってくるんでしょう、あなたたちはみんなそうだ!」
 だから手を抜かない。ゆえにこれは根比べ……地力の劣る者が敗北する戦いだ。であるなら、決着は必然、エトワールの敗北だ。それでも、保った方であろうが。
「……俺も実際、1対1の戦いって余りしないから参考になったよ。強くなったな」
「勝った……方が……言わない……で、くださいよ……!」
 本心からの感想なのだけれどなあ、と。ウィリアムは肩をすくめた。

「おねーさんの胸を色んな意味で貸してあげるから、存分に飛び込んでいらっしゃい?」
「……お願いします」
 アーリアの魅力は、確かにエトワールにとってはいささか毒気が強いのかもしれない。身を固くして応じた彼に、アーリアは「あらあら」と笑った。手を抜く気はないが。
 初撃、槍の穂先が頬を掠めるのとエトワールの身が前に向かって傾ぐのとは同時だった。すれ違うより早くに仕掛けられた罠は青年を蝕んでいく。
「目――見られただけで、受ける毒……?!」
「気を抜いちゃだめよぉ、離れたらもっときつくなるわよぉ?」
 ギリギリと歯軋りする音すらも心地よい。悔しさこそが原動力なれば、彼は今まさに凄まじい速度で成長しているといえる。だから油断なく、間合いから離れより深い毒を送り込む。
「酩酊の感覚は初めて?」
「残念ながら、まだお酒は嗜むことができませんので……! ですが、そうですか。これが、酔い……」
 ふらりと身を捻ったエトワールは、深呼吸ひとつして地面を踏みしめる。背筋を襲う寒気を打ち払い、アイラ戦で見せた刈払いからの逆突きにて襲いかかる。顔は青いが、些かほどにも敵意は削がれていない。
「正解! 少し動けないくらい気にしないでいらっしゃい!」
 ふふ、と笑うアーリアの動きは掴みどころがない。足は重く、追いつけるかも定かではない。だが、それでも食らいつくエトワールの動きは、彼女を満足させるには十分であった。

「私は『回避の高い敵』としてお相手いたしましょう! 真っ向からお相手します!」
 ノースポールは、宣言どおりにまっすぐ地面に立ち、誘うように首を傾ぐ。エトワールは慎重に、しかし深い踏み込みからの一撃を放つ……が、当たらない。
 二撃目。するりと短刀で凌がれた槍は、そのまま突きつけられた銃を隠す死角となる。
 仰け反ったエトワールは、それでも地面目掛け石突きを打ち下ろし、槍を縦に振り下ろした。度重なる負傷と回復で研がれた牙は、慮外の反応を以てノースポールに襲いかかる。
「当たると思いました? 惜しかったですねっ」
 が、ノースポールの動きはそれを上回る。
 奇跡に値する力量を持つイレギュラーズと、持たざる者の差は格段に大きい。付け入る隙があるならば、僅かな動きの淀みくらいか。
 それを突かれ傷を負い、それでも彼女はなお優雅に舞う。刃による一撃一撃は自認するように決して強烈ではないが、蓄積はたしかなもの。
 エトワールは果断に戦ったが、彼女の本気を引き出すにはなお経験不足だ。
「お疲れ様でした! とってもいい勉強になりました。またよかったら、お手合わせ願います!」
「べん……きょう……?」
 ちっとも勉強をさせた気がしない。そんな不満が出かかって、しかしエトワールは喉を潰した。

「私はヒーラーだけど、簡単には倒されないからね!」
「……サメを使わないのでしたら、僕はなんでも……」
「がーん! なんでそこまで浸透してるの!?」
 なんででしょうね。
 ともあれ、両者の動きはゆっくりとしたものだった。エトワールが息切れしているわけではない。先程のノースポールほどではないが躱し、よしんばあたったとて堅牢な護りで受け止めるスティアの肉体は、到底ただのヒーラーではありえない。タンク、とはいうが不沈艦のそれではないか。
「エトワールさんも慣れてきたみたいだね、私も慣れてきた! だからそろそろ反撃するよー!」
 スティアの本、そして周囲に展開された術式が脈動し、氷結の花弁がエトワールの周囲を舞い踊る。避けようとした先に、そして一歩踏み出すその先に、氷結の呪いは襲いかかる。
「アーリアさんとは違う形で厭らしいですね、貴方は。ですが、だからこそ戦いに誠実だ……!」
「褒められてるんだよね? 回復してもズルいとはいわないよね?」
「……前例が多すぎますので!」
 スティアの護りと回避を乗り越え、失敗を期待できず、しかし自らの可能性で掴んだ攻め手の成果は治癒によって無に帰する。あまりに力の差は明白ながら、彼は攻めることをやめなかった。
「これでチェックメイトかな?」
 最後に襲いかかる一撃が、如何に重くても。彼は、槍を支えに倒れることだけは避けた。

「大丈夫か、エト? 合間に食事は摂っているようだが、それでも辛そうだ……だが、最後だから頑張ってくれ」
「全く、夫婦揃って……」
 ポテトは、対戦が一区切りするたびに(密かに)エトワールに食事や水分を提供していた。描写されてないだけで。
 そしてエトワールは、彼女の気遣いがリゲル同様スパルタ的な根幹を持つことを知っていた。
「私は攻撃の術を持たないからな。私からは攻撃しない」
 その代わりに、2分で倒せ。それがポテトの課題だった。
「来い、エトワール!」
「行きますよ――耐えてください!」
 耐えたらだめだろう、とポテトは笑う。が、気は抜かずに護りに徹し、治療を交え身構える。
 エトワールの猛攻は苛烈を極めた。それこそ周囲のイレギュラーズがひやりとするほどに。ポテトの地力を知っていても、そう思うほどの鬼気が迫っていたのだ。
「チェエエエエエエエアアアアッ!!」
 エトワールが、喉の奥から叫ぶ。突き込まれた一撃は、ポテトの正中線目掛け――。

「よく頑張ったね、エト。ヴィルパン卿にも、今日の勇姿をお伝えしておくよ」
「……情けない限りです。胸を貸していただいて、一度も勝てなかった」
 ぺこりと消沈した様子で頭を下げたエトワールの姿は、いかにも打ちひしがれ、疲れ切っているように見えた。
 だが、それを差し引いても彼は、晴れやかであるようにも見えた。
 都合8度の敗北は、彼になにをもたらすのだろうか。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 一戦あたりの密度が想定のX倍なんですけれど……なんで……?

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