シナリオ詳細
万世は忌み子を喰らいて
オープニング
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豊穣の地には、八百万の神が住まうとされ、実際、ヤオヨロズと呼ばれる精霊種達がその任を担うことも多い。
彼らはその地域の土着の神となり、稲作、畑作、工業、漁業など主に第一次産業を担う鬼人種達に崇められる存在であることも珍しくない。
だが、土着の宗教が地元民にとって必ずしもいい存在とは限らない。
例えば、とある地方においては、生まれたばかりの子供を忌み子として強引に保護と称し、連れ去る者達がいる。
万世教と称する教団は、元は長らく世に留まるべく神に祈りを捧げようという集団であった。その教祖、柳・黒成は偶像として神を据えて万物崇拝を行っていたとされる。
ところが、柳はいつしか邪なる考えに捉われるようになり、『幼子を神に捧げることで永久の命が得られる』と教団員を集めるようになっていく。
教団員は近場の集落で子供が生まれたと聞けば、様々な理由をつけて忌み子と断定し、強制的に親から引き離して保護してしまう。
そんな状況が続いたこともあり、集落の人々から依頼を受けた黒影 鬼灯(p3p007949)他、鬼灯の率いる忍集団『暦』所属の双子、葉月、文月兄弟が教団の調査を行っていた。
彼らがそっと教団本部のある寺の社を覗くと……。
「こ、これは……」
鬼灯が内部の状況に思わず声を漏らす。その内装はとても寺とは思えないものだったのだ。
異形の姿をした彫像が奥に鎮座しており、内装はおどろおどろしく飾り付けられており、まるで邪神を崇拝するような薄暗さを感じさせる。
「神よ、我等が崇拝する万世の神よ……」
そこでは、10人ほどの幼子を神に捧げた教団員達が儀式の真っ最中だった。
「アアアアァァァ!!」
「オギャアッ、オギャアアアアッ!!」
「供物となりし忌み子を受け取りたまえ……」
儀式を進めていたのは、ヤオヨロズである翁。鬼灯の調べによれば、万世教の教祖、柳・黒成で間違いない。
周囲には巨躯の男性が3人。さらに社内の壁には教団員と思われる者達が儀式を見守っている。
だが、それらは皆、お腹を空かせて涎を垂らしている。まるで、儀式になど興味がないと言わんばかりに下卑た笑みを浮かべていて。
「……さて、建前の儀式など、これくらいでいいでしょう」
まるで、その儀式が上辺だけのものと言わんばかりに柳はその儀式を止めてしまって。
その姿が見る見るうちに異形のモノへと変わり始める。
目は赤く光り、口は避け、肌は鱗を伴う緑色のモノへと変貌していく。
柳の姿はまるで、河童を思わせる姿へと変わってしまった。
教団員達もまた銘々に変貌し、巨躯の男達は魚頭の魚人に、教団員達はカエルや蛇の頭をした獣人の如き姿をとっていく。
「ヒヒヒ、美味そうなガキだああ」
「教祖様、もう食っていいスか? アッシはお腹ペコペコで……」
そんな教団員達の姿に、柳は乾いた笑いを浮かべて。
「そうがっつくんじゃありませんよ。どうせなら、より美味しく味付けしてからいただきたいじゃありませんか……」
そんな異形の者達に囲まれ、子供達は耳をつんざくような叫び声を上げて泣き叫ぶ。
「「アアアアアアアアアアアァァァァ!!」」
恐怖を感じたのは間違いない。だが、教団の連中はそれこそが最大のスパイスと言わんばかりに、じっと赤子を見つめている。
そんな内部の状況に、葉月、文月兄弟は我慢がならなかったようで。
「頭領ー! あいつら酷い! 殴ろ!」
「殴るってお前……でも、ほっとけないのは事実です。頭領、俺達も行きます」
「本当、ひどいのだわ、鬼灯くん!」
抱えていた人形『章姫』もそう主張するのだが、さすがに多勢も無勢。鬼灯もこれ以上は赤子の命が危ういと感じていたのだが……。
そこに駆けつけてくれたのは、ローレットの頼もしき仲間達。
これで、なんとか内部へと突入できそうだと、鬼灯は駆けつけてくれたイレギュラーズ達へと簡単に事情を説明して。
「ともあれ、忌み子とされた幼子達を救出せねばな」
幼子は皆、難癖つけて教団員から忌み子とされた子供達ばかり。
泣き叫ぶ幼子を保護しつつ、妖と成り果てた教団員を討伐し、自分達の腹を満たす為だけにしか機能しなくなったこの教団を壊滅してしまいたい。
「では、参ろうぞ!」
鬼灯は駆けつけた仲間達や葉月、文月兄弟と共に、社内へと突入していくのである。
- 万世は忌み子を喰らいて完了
- GM名なちゅい
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月15日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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豊穣の小規模集団、万世教。
元は万物崇拝を行っていた団体はいつしか歪み、異形と成り果てた教団員は、忌み子として人々から預かった赤子らを……。
「頭からバリバリとかこわっ!?」
とある忍び集団の『逃げ出しチワワ』虚気 影踏(p3p008838)は人食い集団と聞いて残像が見える程震えていた。
「成る程。文字通り子供を食い物にしていた、と……」
「悍しい化物もいたものですね。しかも、宗教などと謀るなどと」
黒い目隠しを着用する『黒き断頭台』流星(p3p008041)の言葉に、蝶の翅を背に持つ『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は端正な眉を僅かに顰める。
「信心とは衆生が最後にすがるべきであり、日々の拠り所となる者だ」
自称旅人、『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)は、『信じる者は足元を掬われる』という揶揄もあるが、『人の思いを食むならば最後まで』と、持論を語る。
「それを利用するのは、嫌いでね」
普段思慮深い行人だが、語気に怒りもにじませていた。
「……いつもは感じない、もやもやした……気持ち」
柔らかな真白の翼を背に生やす『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)はその気持ちの正体が万世教の嘘だと気づく。
欲を、腹を満たし、悦に入る為の行い、言葉。
「――なんて、厭わしい」
「嘘は……嫌い。とても」
「自分の欲を満たす為、弾く必要すらないものを、言を弄して拐かすのは違うと思う」
重ねて、チックもたどたどしい口調で、ほとんど表情を変えない『蛇霊暴乱』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はそっけない言葉できっぱりと、自らの考えを告げる。
「神に縋るのは自由だが、忌み子だなどと騙り散らして堕ちた姿がそれとは、まさに救えないな」
流星もまた、その在り方に嫌悪感を露わにして。
「地獄の鬼の方が余程良い面をしているだろうよ」
「……そうだな、そういうのを始末するのが俺の役割だ、ここでも」
アーマデルが示す交戦の意思に皆が同意する中で、影踏に視線が集まる。
「いや逃げたいよ? 逃げたいけども!」
ブルブルと体を震わせる彼だが、さすがに赤子を食べる為に強制連行するような危ない宗教と知れば、無視できるはずもなく。
「だからまぁ、助けますよ!」
状況的に、自分でも役立てそうだと影踏は考えており、何より上司が頑張って自分がやらないというスタンスは普通に無いと考えていた。
「幼子を喰らう化け物か。ああ反吐が出る。どうしてこうも人の良くとはあさましく愚かなのか」
「絶対に助けるのだわ、忌子だなんて嘘までついて!」
その上司である忍集団の頭領、『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)は腕に抱く自我を持つ人形の章姫とこの事件について語り合っていた。
「ああ、子と無理やり引き裂かれた親の想い。必ずや取り戻して見せよう」
「子供達……助ける、お手伝い。頑張って……いこう」
強く意気込む鬼灯に、チックも彼なりに助力をと自らに言い聞かせる。
「仕事だ、やろう」
行人が仲間達へと促してから、鬼灯の方を見て。
「俺が言うのも何だが……先走るなよ、鬼灯」
「……さぁ、舞台の幕を上げようか」
その鬼灯は小さく頷き、現場へと向かうのである。
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万世教の拠点、万世寺までやってきたイレギュラーズ達。
「手分けして首領と手下、同時に叩いた方が良さそうかな」
もし、教団員を逃がせば、また何処かで同じ事をやるのは間違いないとアーマデルは疑わない。
「自分なんかで肉盾になれるなら喜んでやらせて貰うよ」
影踏は皆が手分けして討伐に当たる間、壁になると宣言する。
ただ、教団員の討伐以上に、優先度が高いのは赤子達の救出。
そちらに当たるメンバー達が後方で準備を進める傍で、気配を消した鬼灯がじっと突入のタイミングを計っていた。
その頃、堂内では。
「「アアア、アアアアァァァ!!」」
不気味な内装の御堂内部へと運び込まれた赤子達は激しく泣き叫ぶ。
「いやはや、今回の忌み子は生きが良いですねえ……」
にやにや笑う教祖、柳・黒成は河童を思わせる姿へと変貌し、儀式と称する何かを進める。
「「「アアアアアアアアアアァァァ!!」」」
裂けた口でにたりと笑う柳が凝視し、人外と成り果てた教団員達が涎を垂らして見つめれば、子供達は一層大声で泣き叫ぶ。
その時、御堂の入り口を破壊して内部へと駆けこんできたのは、幻の操る馬車だ。
「なに……っ!?」
その内部の状況を見つつ、幻は思う。
(忌み子とはそんなに罪な存在なのでしょうか)
子供達がどういう形で連れてこられたか分からない。強引に連れてこられた子供もいるだろうが、少なからず子供達を差し出した親もいるだろうと幻は考える。
(例え、災厄をばら撒こうとも人と人が愛し合って生まれた愛しい子でありましょうに。そのような大切な我が子を捨てても、災厄に合うのが嫌なのでしょうか)
――その災厄に打ち勝とうとは思わないのだろうか。
自分なら、例え忌み子だろうと我が子が世界を破滅させる存在であろうと愛し抜き、災厄に抗おうと考える。
(豊穣の方は災厄の恐ろしさのあまりに本当に大切なことをお忘れなのではないでしょうか)
考え悩む幻の馬車に追随する形で、他のメンバー達も突入する。
「何の御用ですかな?」
(優先して抑えるのは柳、だなあ。俺が適任だろうからね)
唯一、動揺を見せず問いかけてきた柳に、行人が名乗りを上げてこの場の教団員の引き付けに当たる。
「忌み子と言われた親達の頼みで、神使共がやってきた。君たちを殺しにな」
ずかずかと奥まで踏み込み、行人は子供達の近くにまで進む。
忌み子とされて連れてきた子供達を見下ろす流星の脳裏に、かつて瞳の色から生家で忌み子と呼ばれ、親に売り払われた過去を去来させ、嫌悪感を滲ませてしまうが……。
(これは暦の部下、水無月班の流星としての仕事)
流星は自らに言い聞かせ、冷静に努める。
さて、教祖柳は手前に教団員を出してきて。
「忌むべき存在を神に捧げる為の儀式、邪魔はさせませんよ」
「忌むべき存在はどっちの方なのさ。もはや建前すらも砂上の楼閣だ」
仲間の壁となるべく、ピンクの髪で片目を隠した『森の善き友』錫蘭 ルフナ(p3p004350)が教団員の前に出つつ、呼びかける。
「御託はいいから、悔い改めて来世でミジンコかネズミにでもなってしまえばいいよ」
「減……やっておしまいなさい」
柳の合図を受け、教団員達は一斉にイレギュラーズ達へと飛び掛かってきたのだった。
●
万世寺の御堂内の奥で、行人は向かい来る万世教の教団員と対するべく、さらに名乗りを上げる。
「遠慮はしない。存分に相手になろう」
「「ヒヒャアアッ!!」」
腹をすかせた教団員はなりふり構わず飛び掛かってくる。
行人はなるべく多くの相手を巻き込めるよう、敵の抑えに当たる。
「させない……よ」
それらの教団員へ、チックも手前の敵から子守歌を紡ぎ、足止めをはかる。
また、ルフナも合わせて仲間の壁になろうとしていたが、この場は子供達の保護が最優先。
彼は精霊の力を借り、他にも奪われてきた子供が堂内にいないか感覚過敏な聴覚や嗅覚を元に探知を行う。
(今、生きているのはこの場の子達だけだけれど)
ルフナが注目するのは、子供達の遺物。状況的にすぐ探し出すのは難しいが、あればそれらも保護したいと彼は考えていたようだ。
「こっちだよ!」
子供達までの道筋は影踏が行う。
聞き耳、忍び足、気配遮断といったスキルを駆使した彼はハイスピードで移動し、やや迂回する形で仲間達を誘導する。
子供達の救出を主導する幻が強引に馬車を動かし、影踏の後を追う。
そして、幻が馬車へと鳴く子供達を馬車内、連なる10の籠に変化させた白昼夢へと自らの素早さを活かして赤ん坊を次々に入れていく。
その幻の連鎖行動を受け、救出班は素早く子供達を馬車内の加護へと移す。
アーマデルなどはマントを使ってスリング……抱っこ紐のようなものを用意し、3人を一気に運ぶ。
流星も1人を抱きかかえていたが、同時にファミリアーとギフトを使って高所に待機させていた相棒の鷹、玄と五感を共有していて。
「こちらに寄ってくる……」
ぶっきらぼうに流星が告げれば、すぐさま馬車の近場に潜んでいた鬼灯が姿を現して。
「数だけは立派だな。数だけは」
「みんなお仕置きなのだわ!」
鬼灯は敵に近づきすぎぬように、且つ遠すぎぬように位置取る。
自らに施す紋章の力で破壊力を増した鬼灯は、馬車に近づく敵のみ闇の月で照らし出していき、不運や災厄へと見舞う。
「……良い夢に、溺れるのは。もう十分の、筈」
さらに、近づく教団員をオーラの縄で縛り付けていくチックは背後の子供達を振り返って。
「家族の所……届ける為に、しっかり守る。するから……ね」
「後は任せる」
子供達を仲間に託す行人は目で、武器で、身体の動きで敵を牽制し、自分から注意をそらさせない。
その間に10人の赤子達を馬車へと運び終えた救出班は、御堂の外に向かって移動を始める。
ここでも影踏が馬車の先導へと当たり、交戦する敵味方を避けるように堂内を迂回して外を目指す。
「逃すかああっ!!」
それでも追いすがってこようとする教団員達目がけ、影踏が炎を放って牽制し、双子の文月、葉月も両手の刃で牽制の斬撃を仕掛けていく。
「呪縛が上手く働いてくれれば……」
アーマデルは刃が軋り歌うような怨嗟の音を敵陣へと浴びせかけ、思惑通りに敵をその場に縛り付けていた。
そこへ鬼灯がさらに闇の月で強く照らし出すと、教団員1人がついに地面へと倒れる。
続く追手には、チックが対して。
「……近寄らない、で。この子達、帰る場所……ちゃんとある。
忌むべき……気配、感じない。絶対に、駄目」
チックは追いすがってくる豊穣で妖と成り果てた存在に豊穣の沖、絶望の海を歌い聞かせる。
穏やかに、酷く、冷たく。彼らにとって身を蝕む旋律。
チックが歌い終えたその時、2体が苦痛に顔を歪めて地を這っていた。
もう1人追ってきてはいたが、そちらは普段から躾を行っている愛馬、勝に乗って並走していた流星が対処に当たる。
「この子らを無事に帰るべきところへ……幻殿、頼んだ! 玄も行ってくれ」
ファミリアーの玄を幻に預けた流星は、執拗に追いすがる蛇の獣人の姿をした教団員へと凶の爪で連続攻撃を浴びせかけていく。
相手も長い体躯で絡みついてくるが、流星は素早く喉をかき切って倒してしまった。
その甲斐もあり、幻は教団員の手が及ばぬところまで馬車を移動させ、木々の間へと押し込み、葉や枝で馬車を隠していく。
「こんな赤子にまで手を出すとは……必ずや守り抜いてみせる」
しばしの我慢と流星が言い聞かせると、心なしか赤子達が笑って答えてくれたようにみえた。
追手がいないことも十分に確認し、避難班は御堂で戦う仲間の元へと戻っていくのである。
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万世寺の御堂の中では、教団員が自らの腹を満たそうとイレギュラーズへと食らいつこうとしていて。
「折角食えると思ったのに……、代わりに貴様らを骨まで食らわせろ!!」
もはや、人としての尊厳すら残っているか疑わしき連中。半魚人と化した男どもは特に妖としての力を存分に発揮し、巧みに銛を操る強敵だ。
「これならどうです?」
教祖の柳もどこからか現した水を弾丸のように撃ち出し、水流を放出するなど強力な攻撃を仕掛ける。
行人も全力でそいつらに対するが、防戦一方となっていて。
「俺が勝つ必要は無いからね……。仲間が全力を発揮出来ればそれでいい」
彼は避難班が戻ってくることを信じ、なおも相手を煽る。
子供を外まで運ぶ仲間に託したメンバーも数人残っており、異形化した教団員の対処に当たる。
ルフナは抑えに当たる行人らの体力が大きく減っていることを確認し、すぐさま澱の森の霊力で癒しをもたらす。
アーマデルは仲間を巻き込まぬよう十分注意しつつ、果樹酒の香と未練の結晶が奏でる音色で敵を苛む。
人外の技で攻め来る教団員どもだが、体力が減ってよろける敵を見ればアーマデルも見逃さず、蛇腹の剣を手にダンスを舞い、教団員1人を確実に仕留めていく。
「これは全力でやらねばなりませんね……!」
部下が数人倒された状況に大きく目を見開く教祖の柳。神使の襲来、そしてその力は想定外だったらしい。
部下と共に、逃した赤子の代わりにイレギュラーズを食料にしようと涎を垂らしながら飛び掛かろうとする。
そこで、戻ってきた避難班が堂内へと散らばる中、幻はじっと敵を注視して。
「一度捕まれば危険です。皆様、お気を付けください」
その幻は敵の動きを見て、さらに敵の少ない場所へと移動しつつ、奇術を見せつけた教団員1人を倒してしまう。
ここまで露払いを行っていた影踏も怖がりながら交戦する。
実力が伴わないと自覚する彼ではあったが、火花を散らし、蹴戦で戦うなど、思い切った攻めも見せた。
(尊敬してる人達の役に立てなかったり、幻滅されたりするのが1番怖いんだよな)
とはいえ、上司である鬼灯や仲間の流星などと肩を並べての戦いに戦々恐々としていたようだ。
文月と葉月の双子はというと、鮮やかな連携を見せ、集中的に相手をしていた半魚の敵へと斬りかかり、鬼灯の指示通りにそいつを見事に三枚におろしてみせた。
「心卑しき者共は一歩たりとも進ません!」
仲間に負けじと流星も複数の敵を纏めて相手にし、全身全霊の掛け声で教団員達を壁まで吹き飛ばしてしまう。
それでも向かい来る半魚を倒すべく、攻撃を集中させて。
「此処が貴様らの終着点だ!」
敵の動きを把握した流星は凶の爪を薙ぎ払い、さらに突き出して敵を追い詰め、その腹を思いっきり突き刺して仕留めてみせた。
その後もイレギュラーズ達の攻勢は止まることは無く、チックが契約した妖精の牙で悪夢をもたらす教団員1人を地へと沈め、アーマデルもまた敵の死角から攻撃を仕掛け、ステップを踏みながら蛇腹剣で切り裂いてその命までも断ち切ってしまう。
さらに、幻が最後の教団員へと奇術を見せつけて。
「おお、美味そうだあ……」
もはや食欲に全てを支配されていると思しきその男へと、幻は永遠に夢を見続けられるよう眠りへとつかせる。
瞬く間に、残るは教祖柳唯一人に。
「こ、こんなはずは……」
永遠の命に惹かれ、道を外した彼に情けをかける者はこの場にいない。
「まあ、攻撃手の皆も、少しはやるようだね」
自身が神秘的な攻撃に特化したこともあり、仲間達に頼る形となっていたルフナは素直ではないが、その力を認めていたようだ。
そんなルフナは回復役と盾役として全力を尽くし、故郷の森の力を借りながらもここまで誰も倒れさせずに戦いを進めていた。
強敵を抑え続けていた行人もその1人。
「どうやら、これで手いっぱいのようだね」
「神使……せめて、その肉を食らえば……!」
大きく口を開いてかぶりつこうとしてくるこの教祖は河童の姿通り、水の力を使えるはずだが、行人はしっかりと相手を押さえつけて自由にさせない。思い通りにいかず、柳も自棄になりかけていたようだ。
そんな相手の隙を鬼灯は見逃さず。
「ああ、悍ましい化け物となり果てても、その欲求は留まることを知らぬのか。いっそ哀れだな」
「もうおしまいにするのだわ!」
一気に距離を詰めた彼は、章姫の言葉と同時に黒衣の篭手から魔力を引き出し、柳を深い闇へと落とす。
「これは……、ぐ、ぐあああああっ!!」
この世に居続けたいと願った男は今後、永遠に闇の中で生き続けることになるのだろう。
●
襲ってきた教団員を全て倒したイレギュラーズ。
脇で安堵の域を漏らす影踏を尻目に、メンバー達は念の為に御堂を確認する。
「焼き払えば、大抵のものは片付くとは思うが」
アーマデルは、例えば呪具のようなものが隠されていることを懸念していたのだ。
ただ、それ以外にも大いにあり得るのは……、これまで行った儀式を考えればうすら寒さも覚えるが、案の定、床下には多数の骨に赤子用の衣服などが散らばっていて。
「保護、してあげないとね」
ルフナは精霊の力を借り、丁寧にそれらを拾い集めていく。
ある程度集めたところで、アーマデルが御堂に火を放つ。
燃え上がる御堂に向け、一行は亡くなった子供達の冥福を祈るのだった。
続き、メンバー達は避難させた10人の赤子が無事であることを確認して。
流星はアフターケアをと、愛馬の勝へと乗せるなど、アニマルセラピーを試みていた。
また、チックはいい夢を見られるようにと、優しい子守歌を奏でる。
子供達は皆笑顔を浮かべ、あるいはすやすやと眠っていたようだ。
一行は依頼での要望通り、その子供達を親元へと返すことにしたのだが、ルフナは意を唱える。
「あんなヤツらに良いように扱われて、結局は子供を差し出して泣き寝入りしてた奴らに、親だからと子供たちを返さなきゃいけないの?」
中には大切な子供を泣く泣く手放した親もおり、無力だからと何もしなかった彼らを小賢しいとルフナは切り捨てる。
「いいね、もう二度とその手を離すんじゃないよ」
我が子を抱き、泣き崩れる親達は、背を向けたルフナの言葉に小さく頷くのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは子供達を馬車で避難させたあなたへ。
今回はご依頼、並びにご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
今回はリクエストシナリオのご依頼、並びにご指名ありがとうございます!
●目的
豊穣の宗教施設の破壊
●妖
いずれも元は豊穣に住む住民達でしたが、何らかの形で妖と成り果てた存在です。
〇柳・黒成(やなぎ・くろなり)
人の身では無くなった万世教教祖だった元精霊種。
すでにその身はバケモノと化しており、人の姿を成しておりません。
緑の肌、水に濡れた肌。河童を思わせる姿をしているようにも見えます。能力は不明です。
○人食い半魚人×3体
身長3m程度。人を食うようになり、魚の頭を持つ妖と成り果てた巨躯の鬼人種です。銛を獲物とする他、口から衝撃波を放つ強敵です。
○教団員×10体
元々は万世教の教団員だった鬼人種達です。
表向きは人の姿をしてはいますが、その実、妖と成り果てた哀れな者達です。
本性を現すとカエルや蛇といった両生類や爬虫類のような見た目の頭に変わり、跳躍したり、毒の牙を使ったりとその種族の特徴を生かしながら襲い掛かってきます。
●NPC
いずれも鬼灯さんの部下で忍集団『暦』の所属員です。
双子の兄弟で、息の合ったコンビネーションと星の力を宿した双剣による二人一組での連撃が強力です。
○葉月
灰色の髪。謙虚で恥ずかしがり屋な性格
○文月
金色の髪。無邪気で甘えん坊な性格
○子供達×10人
近隣から強引に忌み子とされて捧げられた鬼人種、0~2歳くらいの幼子達です。
事後は親元に返していただければ幸いです。
●状況
舞台となるのは豊穣某所に存在する万世寺と呼ばれた古い寺です。
そこに柳は近隣の集落から捧げられた忌み子とされた子供達を集め、彼らの言うところの神に捧げて食らおうとしていたようです。
社内もそれなりの広さはありますが、20人もいればかなり窮屈に感じます。
遠距離攻撃も難しい為、社を破壊しつつ境内で交戦することになるかと思います。
相手は全て妖と成り果てた存在の物ばかりですので、子供達を保護した後は思う存分戦っていただければと思います。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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