PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ミッション:グスタヴ・ホール

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――クソが。またアイツが出てきやがったぞ」
 深緑にある迷宮森林は深い木々によって構成された地帯の事である。
 大樹ファルカウを包み込む様に存在するかの森林には植物は元より、多くの動物や虫達も住まう自然にとっての理想郷ともいえる場所だ――が、しかし。その恵まれた環境は、狂暴なりし魔物もまた、時折引き寄せる事があった。
 迷宮森林を守る深緑のレンジャー部隊が目撃したのは、森林の中を突き進んでいるワニの様な外見を持つ魔物である。しかし随分とデカい個体だ。ワニと聞いて想像しうる姿から五倍、六倍……いやもっとあるだろうか。邪魔な木々があらば突進して倒している。
 ――だがソレだけならば眉を顰める程ではない。
 そういう魔物が至る事も時にはあるだろう。自然を害すならばレンジャー部隊が排除するのみ……なのだが。
「先輩。やはり前の個体と同様です。あいつは――毒を撒き散らしてますよ」
 偵察を済ませたレンジャー部隊の一人が報告にと駆けよって来た。
 そう、毒。強力な『毒』を奴を内包しているのである。
 あれは先月の事だったろうか。視界に捉えているワニと同様の魔物が迷宮森林へと侵入を果たしてきた事があったのだ。当然人の住まう地にまで至れば被害が出る故、その前にとレンジャー部隊が撃破を成した。

 しかし撃破すると同時に、奴は内包していた毒を一気に放出したのである。

 まるで死間際の断末魔の様に。
 その結果で発生したのが広範囲に及ぶ自然汚染であった。木々を腐らせ、大地に沁み込む。取り除くには大層な苦労が掛かり、その果てに至っても失われた木々が戻る事はない。
 ――まるで自然を殺す為に生まれたかのような奴だ。放置していれば木々をなぎ倒し少量の毒を吐いて。倒せば大量の毒を撒き散らして周囲一帯を暫く死の大地と化させる。正直深緑にとっては二度と会いたくない類の魔物なのだが。
「だがこちとら対応策を練ってなかった訳じゃねぇんだよ……!」
 それでも起こった出来事から目を背ける事などはしない。飛ばす声を部下に向けて。
「おい。『穴』の準備はどれだけ進んでる――?」
「もう少し掛かります! 急ピッチで進めてはいるのですが……!!」
「とにかく急がせろ! あの化物の好きになんざさせるなよぉ!!」
 我らに秘策ありとばかりに慌ただしく皆が動くのだ。
 深緑は自然に囲まれた国家だ。其処に住まう者達はまた同様に、自然を愛している。
 だから。
「――深緑舐めんなよクソ化物」
 あんな生物の存在は許しがたいと、強烈な戦意を向けていた――


 迷宮森林を進むワニ型の魔物の名前は『グスタヴ』と命名された。
 グスタヴは体の内側に毒を持つ魔物であり、ただ倒すだけでは後々自然に悪影響を与える個体である……と簡易ではあるが敵の説明をイレギュラーズ達は受けていて。
「だから倒し方には些か特殊な方法を取る必要があります。その為に考案されたのが――『穴』です。皆さんには今回、この『穴』にグスタヴを引きよせて欲しいのです」
「穴って……落とし穴って事か?」
「端的に申し上げるとそうなります。ただし、毒を浄化する術式を仕込んだ『穴』です」
 別名グスタヴ・ホール。
 やっている事は先述した様に、穴に落として動きを封じるという事。同時にその穴の中に毒の浄化の魔法陣を仕込んでおき――死の間際に撒き散らす毒を同時に無力化もするというものだ。
 普通なサイズの魔物であれば毒を散布されるにしても、もっと簡易な方法もあるのだが……グスタヴは巨大なサイズである故に、事前にそれなりの規模を整えておく必要があるというのがレンジャー部隊からの説明である。
「現在、迷宮森林に出現したグスタヴに対して『穴』を用意しています。もう少しで完成するのですが、それまではグスタヴをなんとか抑える必要があるのです……放置しておいて人の住まう所へと万が一にでも至れば」
「惨事間違いなし、か」
「ええ。勿論、引き付けの為の作戦も決行されているのですが」
 中々に苦戦気味である故にイレギュラーズにも協力の打診が来た訳だ。
 それもやむを得なき事だろう。穴に落とすまでグスタヴを『倒してはいけない』のだ。うっかり倒してしまえば毒の散布が始まってしまい――穴の計画の全てが無駄となる。
 では引き付けが簡単かとなるとまた話は別。
 巨大なサイズである奴を押し止める事は非常に困難であり、またそのサイズと膂力から繰り出される一撃は重かろう。そうでなくとも近くに至るだけで『毒』の影響を少なからず受けるという話も聞いている。
 序盤はとにかく耐える必要がある訳だ。
 攻勢に至るのは奴が穴に落ちてから――これを間違えてはならない。
「やれやれ、骨が折れそうだな……」
 吐息一つ。それだけで気持ちを切り替えて、依頼に挑むイレギュラーズは地図を見据える。
 グスタヴが暴れている場所。穴を用意している場所。
 さてさてどのように戦いを進めるものかと、思案しながら。

GMコメント

■依頼達成条件
 グスタヴを『穴』に落とした後に撃破する事。
 『穴』に落とす前に撃破した場合、失敗となります。

 また戦場から極端に離れても失敗となりますのでご注意ください。

■フィールド
 深緑の迷宮森林の一地帯です。時刻は昼。
 後述のグスタヴは森林の中で暴れながら進んでいます。このまま自由にさせておくと人が住んでいる地帯へと突入する可能性が無い訳ではありません。なんとか奴の気を引きつつ『穴』の完成後は『穴』へと導いてください。
 穴の位置と現在の位置は事前の打ち合わせにより分かっているものとします。

■敵戦力『グスタヴ』
 非常に巨大なサイズを持つワニ型の魔物です。
 全身が禍々しい色をしており、何かしら刺激物を体内に蓄えていそうな気配全開です。自身のR2以内に存在する対象に【毒・猛毒・致死毒】のいずれか、もしくは複数を『ターン開始時』毎に付与する事があります。
 それとは別に『グスタヴの行動ターン開始』時、グスタヴのR4内に存在する対象のHPに対し『対象の最大HPの3%』分のダメージを与える事があります。ただしこれには判定があり、反応と回避の値が高いほどこの判定は回避出来ます。
 いずれの能力も毒を撒き散らす事によるものです。
 グスタヴはHPが0になった際に非常に強烈な毒を周囲一帯に撒き散らします。ただしこれらの毒の効果に関しては後述のグスタヴ・ホール内であれば無効化されます。

 先述した様に非常に巨大であるので【ブロックが出来ません】
 その代わり非常にデカイ図体から攻撃を当てる事は容易でしょう。また『怒り』のBSに掛かりやすい特性を持っている様です。ただし図体のデカさからか、マトモに相手をしようとすると相当な耐久力が必要とされるでしょう。

■味方戦力
・深緑レンジャー部隊員×複数
 グスタヴを現段階で抑えているメンバー、穴を掘っているメンバー様々います。
 皆さんの合流後、グスタヴを抑えているメンバーは穴を掘る方に助力しに行く予定です。が、何かそれ以外でしてほしい事があればお願いしてみると、余程妙な事ではない限りは協力してくれるでしょう。戦闘の手伝いも可能です。

■グスタヴ・ホール
 グスタヴの毒を無力化するために考案された落とし穴+毒無効の術式です。
 この穴が完成し、落とした場合10ターンの間グスタヴは移動が出来なくなり、毒を撒き散らす事が出来なくなります。(正確には毒を撒き散らしても即座に無効化しています)
 ただしシナリオ開始時点ではまだ完成していません。
 完成すると音だけの花火が打ち上げられる予定になっています。
 なんとかそれまでグスタヴが戦場から離れすぎないように時間を稼いでください。

  • ミッション:グスタヴ・ホール完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月30日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)
ローゼニアの騎士
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

リプレイ


「まったく、どういう生物なんだ。環境に強く害する猛毒をばら撒く敵なんて……これを放置したら深緑に遊びに来た妖精達にも害があるかもしれない。必ず倒してやるぞ……」
 呆れるような生態だと『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は言葉を紡ぐ。環境を保護しなければ深緑にダメージがあるのは元より、妖精郷から至る妖精達にも被害が及ぶかもしれないと。
 だが慎重に戦うとしよう。最終的には落とし穴に誘導するだけで良いが……
「その前に倒しちゃったらダメなんだよネェ――全く、困ったモンスタがーいるもんだヨ」
「ただ倒すだけでは駄目だ、というのは視てよく分かります。とにかく今は足止めに専念し、後程レンジャー部隊の張る術式に来たいさせていただくとしましょう。」
 『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)や『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)の言う通り、手順が必要な相手だからだ。
 毒性を溜めこんだ巨体。例えばラサ……砂漠の様な不毛の大地が広がる場所で出たのであればまだ対処もしやすかったのだろうが、ここは深緑。自然の国家。
 ジュルナットにとっては故郷でもある。放ってはおけぬと戦場を駆けるのだ――

 まずはグスタヴを暫く引き付けねばならない。

 一番良いのは物理的に足を止める事が出来れば良いのだが、あの巨体ではそう簡単にはいかぬ。故に少しでもその足を『緩く』させるか、怒りを誘ってこちらだと手を叩く様な事の方が重要だろうか――
 ジュルナットの弓が引かれれば円弧の形を描いてグスタヴに着弾。
 泥沼の足にしてやろうと引き続け、一方のアリシアは魔術を紡ぐ。
「――万が一にも倒す訳にはいきませんが、そう簡単に果てる肉体でもありませんね」
 それは第八の秘蹟にして堕天使の力を行使する『黒の聖典』の一つ。魔を超えた領域にして、概念を行使する天の領域――即ち天使の刃。穿ち、至りてその身を削り。

『――■■■!!』

 瞬間。グスタヴが天に向かって吠えたのは――痛みが故か?
 大気を震わせ毒を撒き散らす。防衛本能も混ざっているのか……己に近付くな、と。
「参ったな。嘆きは分かるが、移動も雑過ぎるし、共に生きるには迷惑過ぎる。
 痛みを与えて悪いけど……これ以上森を傷つけさせるわけにはいかない」
「毒を作る生き物は外敵から身を守る為、とは言うが――奴の在り方はすべてを汚す為にも見える。この国にとっては受け入れがたい生命だろう……好き勝手を許す訳にはいかないな」
 吐息一つ。『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は眼前のグスタヴの存在に困ったようにはにかんで。『止まってはいられない』クロバ・フユツキ(p3p000145)もまた――奴の存在は許容出来ないと決意を固める。
 グスタヴの侵攻ルート上に位置し、待ち構える様に。ウィリアムが紡ぐのは、雷撃だ。
「さて。その巨体だ、幾分以上に効果があるとありがたいのだけどね」
 地を這う蛇の様に。雷が付き走り、グスタヴの身を焼いて焦がす。
 鰐と蛇の応酬。さればクロバが紡ぐ一閃は、また違う瞬きだ。
 左目が蠢く。左目が世界を見据え、力を与えるのだ――精神に干渉し、魔眼へと至る刹那の旅路。肉ではなく心を斬る鬼気を雷と成して、ウィリアムの放った雷撃に沿う様に――グスタヴの身を穿った。
 血が零れる。木々に落ちれば腐る様に。草花に至れば溶ける様に。
「毒と薬は表裏一体。自然の毒物を何倍にも希釈して薬として使うことも、その逆もあるそうです……が、この個体は毒としての面を表にして周囲に被害を与えている……なるほど。興味深い個体ですね」
 一体どんな経緯を辿れば『こう』なったのだろうかと『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は空から舞ってくる毒を躱しながら、冷静に分析す。
 此れだけ強力な毒を持つ、グスタヴと呼称される魔物。
 その身体の毒を後で解析すれば有用なものも見つかるかもしれない――人は、危険の中に足を踏み入れて、新たな領域の技術を開拓してきたのだ。が、今はとにかく大人しくさせて動きを止めなければならない。
「皆さんの援護を致します。ですがあまり無理をし過ぎないでくださいね」
「ええ――無論です。しかし、場合によって無茶はするかもしれませんが」
 クラリーチェは神秘への親和性を高め、己の強化を無し。『その色の矛先は』グリーフ・ロス(p3p008615)達に降りかかった――毒の解毒の為が治癒を周囲に振り下ろした。
 しかしグリーフは思うものだ。折角に妖精郷の事件が解決し、冬が乗り越えられたばかりだというのに……ここで森が汚されてしまってはまた更に暮らしや生態に影響が出てしまう、と。
「――近くにはアルベド達が眠る地もあるのです」
 この地の平穏を見守りたいのだ。だから、汚す様な行いをする者を許す訳にはいかないと。
 グリーフはクロバと連携しグスタヴの引き付けを行う。
 片方だけが担当すれば常なる負担を強いられることになるが……二人で交互の形を取れば少しでも軽くすることが出来る。幸いにしてグスタヴの巨体であれば攻撃を当てるのは易し。作戦自体を成すのはそう難しい事ではなかった。
「あなたは私の故郷を襲った様な人じゃないけど。
 人里を脅かして、森を荒らすヤツは……私、嫌い」
 そして『ローゼニアの騎士』イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)はグスタヴを見据える。
 彼女はかつて住んでいた場所を焼かれた。それは混沌の話ではなく『かつての世界』での話だ――森に現れた不法者共に、一夜にして全てが一変して。
 分かっている。グスタヴは『奴ら』ではない。それでも、森を荒し何もかもを壊さんとするその姿が妙にダブるのだ。
 だから、往く。決意をもって。グスタヴの側面に回り己が武具に魔力を纏わせ。
「恨みもなにもないけれど――倒すよ、必ず」
 全力全開の一撃を叩き込んでやった。


 レンジャー部隊は全力を持って『穴』の作成に取り掛かっている。
 完成まであと少し――だが。グスタヴはそんな事など知らぬとばかりに突き進む。
 特に、己が目の前をちょろちょろと動くクロバとグリーフを薙ぎ払わんと。
「クロバ・フユツキ、深緑の息吹を守る為いざ、参る!」
 巨体。重量があるというのはソレだけで脅威だ。
 人が蟻を踏みつぶすのは簡単であるが、サイズが逆であったのならば今度は蟻が人を潰すのが簡単であるように。グスタヴは少し動き、掠らせるだけでもクロバ達を吹き飛ばすに容易な重さを持っていた。
 だが、そんな事は分かり切っている事。
 動き続ける。只管に時間稼ぎに徹する為、回復の事は考えない。
 攻撃には当たらずこちらの斬撃は当て続け、ただただ目の前の刹那にだけ集中するのだ――撒き散らされる毒があっても、クロバには無効化しうる術がある。ただ膂力にだけ気を付けていれば深手を負う事は無い。
 そしてそれは彼だけでなく、共に抑えに回っているグリーフ。それからイルリカやウィリアム、アリシスにサイズもそうであった。毒を撒き散らすと分かっていれば対策も取るもので。
「グスタヴの毒性はある程度対応出来るようですね……尤も、時折強力な毒も混じっている様ですが」
 しかし全てではない。体力を割合で直接削って来る毒――恐らくグスタヴの毒性を集約したソレだけは防げなかった。技能の由来であればクラリーチェの言う通り、治癒も出来たのだが……
「しかしやりようもあります。治癒の手だけは止めませんよ」
 されど通常の毒であればクラリーチェで治癒できるし、出来ない分に関しても体力を癒す祝福を齎せば支援となり。
「早い所『穴』が出来上がって欲しい所だけどネェ――
 ま、もうちょっと頑張りますよ、おじいちゃんもネ!」
 次いでジュルナットの一撃が彼方より放たれる。
 それは奈落の呼び声、彼にとって強力な一打となる弓の一鳴り――攻撃の中に時折混ぜてグスタヴを穿つのだ。時々『穴』を作っている方に視線をやるが、今の所合図は無い。まだもう少し掛かるか。
「――まぁ巨体だから攻撃は楽。油断は出来ないけれど」
「しかしどれ程効いているのかいないのか。いえ、効きすぎても困りますが」
 イルリカが抱くは火焔の大扇。災厄の炎で毒を浄化するが如く焼き払い。
 ウィリアムは引き続き雷撃を放ち続ける。流石に当てやすいが故か、負の要素も付与しやすい。が、中々止まるというか、緩やかな動きになる気配は見えないものだ……巨体であるが為に痛みに鈍いのか、それとも隔絶した体力でも持っているのか。
「だが注意しろ……さっきから段々動きが大きく――ッ!?」
 直後。低空飛行しながら魔砲を紡いでいたサイズの目に映ったのは、グスタヴが大きく体を揺らす様。まるで見苦しく暴れるような――
 否、違う。グスタヴの身体から大量の『毒』が漏れ出てきている。
 これは――周辺に散布する気か!

『グ、ルォ■■ガ、ァ――■■■ッ!!』

 再度大声。周辺全てを震わせ――イレギュラーズ達の身体すら硬直させる衝撃波。
「くっ、これは……! まずい! 毒が――来ますッ!」
 見たアリシス。グスタヴの身からまるで銃弾の様に幾つか発射される『毒の弾』があった。
 樹に直撃すれば『溶かして』いる。あれはただ毒を内包していだけのモノではない――強力な強酸の性質を携えているものだ。当たれば毒の無効化はともあれ、被害も大きいだろう。
「……やはり生態系に悪影響を齎すに間違いがない生物の様ですね。
 ますます打倒しなければいけないと、強く思います……!」
 幾つもの自然と幾人かのイレギュラーズに直撃する毒弾――グリーフは視線を逸らさず、それでも尚に前に進む。
 全周囲攻撃だ。体内から毒物を大量に出しているが故に、反動も大きかろう。
 ならば臆して下がるのではなくより前へ。より引き付ける為に――一撃を繋ぐ!
『ガ――■■!!』
「煩い声だなオイ……! いい加減これ以上自然に被害を出してるんじゃ――ねぇよ!」
 クロバもまた共に前へと。踏み込む足に力あり、これ以上好きにはさせぬと敵を穿つ。
 さればグスタヴも踏みつける――体を捩じる――尻尾を振り回す――
 様々に重量を活かして潰さんとする。衝撃が彼らを襲い、だが、決して倒れる事は無く――

「――来た」

 その時だ。彼らの治癒の術を施すウィリアムは、確かに聞いた。
 大きな花火が鳴った音を。
 『穴』が完成したという、合図の音を。


 足止めは終わりだ。これよりは『誘導』のタイミングになる――
「さぁこっちだぞ化物! どうした、あんなに威勢が良かったのは最初だけか!」
 往くはサイズだ。自らの氷の守護結界を張り、防御を万全にして。名乗りを挙げる様にグスタヴの目の前を飛び回る。
 煩わしさを感じろ――お前の奈落に案内してやる――
「私達も移動しましょう。穴に落ちた後は、這いずり出られる前に始末しなければなりません」
「ああ分かったヨ。全力を出すのは、ちょっとしてからだネ」
 故に引き付ける者以外……アリシスやジュルナットは顔を見合わせ移動の方を優先する。これ以降は最早奴の足を留める必要はない。むしろ誘導が遅くなれば周りに危険が伴うばかりだ。
 アリシスの立て直す号令が皆に活力を齎し――そして進む。

 グスタヴの墓場へ。グスタヴ・ホールへ!

 木々の間をすり抜け、直後に木々はなぎ倒されて。
 それでも痛みやら挑発の雨あられにより怒りに燃えるグスタヴは――目の前が見えていない。
「もう少しです。この先に、目的があります――ッ!」
 その間にもグスタヴによる毒物の攻撃は続くが。
 グリーフは移動しながら己が身を回復させる。体力を常に削って来る毒が齎されても……それだけならば不滅の如く自身の傷を癒し続ける力で、十分に対応が出来るものである。あまり連発は出来ないが、それでも。

『――グ、ル、ァアア■■■!?』

 穴に落とすまでの数拍までは――保つものだ!
 まるで足を踏み外すかのように体勢が転げて。グスタヴが掘られた穴へと落ちていく。
 直後に発生する結界――毒を無効化する術が働けば。
 見える。グスタヴから漏れている毒の液が、只の水に代わっているその様子が。
「今だ――!! 撃て撃て、始末しろ――!!」
「さぁ。ここからは加減無しだ……速やかに片付けてしまおうか!」
 であればと準備を行っていたレンジャー部隊の長が合図を行い、弓矢が一気にグスタヴへと降り注がれる。ウィリアムも同様に己が全力を奴へ。
 それは神威の太刀。空間を捻じ曲げ、思いもよらぬ角度と方向から強襲する必殺の斬撃であり――彼にとって最大の威力で放てる至高の一閃である。最早これより先に余力を失くしておく意味なし。
「総攻撃だネ! ああ、深緑の自然を散々に荒らした報いを受けてもらうヨ!」
「うん――このまま一気に倒そう。グスタヴが動けない内に」
 ジュルナットが距離を詰める。弓手たる彼が行うゼロレンジの曲芸魔射。
 接射の一撃がグスタヴの、比較的柔らかい腹の肉を抉るものだ――イルリカもまた接近し、焔の一閃を奴へ。味方の射線を逸らさないようにだけ気を付けながら、全力だ。
 猛撃、猛攻。
 グスタヴは暴れるものの――移動が出来ない。毒を撒き散らしても即座に浄化され意味はなく。出来る事はただただ狭い穴の中でなんとか暴れる程度のみ。接近したジュルナット達に被害がある程度は行くが――然し動きづらいからか致命には届かず。
「レンジャー部隊の皆さんは、自らの安全第一に。
 ですが、余力があればそのまま攻撃の手伝いをお願いします。ここで必ず撃破しましょう」
「万が一にも出て来ればもはや被害を止める事叶いません。一斉攻勢を!」
 癒し手として布陣していたクラリーチェもまた、この機を逃すまいと攻撃に馳せ参じ。アリシスもまた――天使の刃を幾度と紡ぐ。レンジャー部隊と連携し、総力をもって奴を削る。
 削る削る削り続ける。奴の命が尽きるまで。動けぬ今の、この瞬間の内に!
「グスタヴの毒を全て抜くぞ……! 俺の全力を、注いでやる!」
 サイズの魔砲が放たれ、グリーフの一撃もまたグスタヴの腹に。さすれば。
『ガガガ、ゴ、ガ――ッ!!』
 断末魔だろうか。非常に大きな声で吠えている――
 それでも容赦はすまい。ここでこいつをのさばらせておくわけには行かないのだ。
 お前はただ、生きているだけなのかもしれない。だが。
「逝くなら1人で逝け!!」
 周りを巻き込むことは許さないとクロバはグスタヴの声を掻き消す程に咆哮す。
 その毒と命ごと燃やし刻んでやろう。足を狙い、尾を狙い。
 牙を削いで全てを刈り取る。お前と言う存在の、全てを!

「悪いな――これまでもこれからも散々迷惑かけるんだ。
 だけどなぁ、いや、だからこそなぁ!! せめて少しでも深緑を守るんだよ、俺は!!」

 この地は絶対に汚させない。
 鬼気を解放し黒き業火をその身に纏いて。太刀を握るは意思と共に。
 ――割断する。
 命、喰いて。命、奪う。
 如何なる冬をも尽きさせる――春を、平穏を呼ぶ剣の、一撃によって。



 ……グスタヴは倒された。あれだけ狂暴に暴れてみせた奴も、今は微かにも動かず。
 流れ出る血は即座に浄化される――後はレンジャー部隊が片付ける事だろう。
 血を、毒を完全に浄化した上で死体も始末を。
「毒を持っている。それだけなら罪ではないけれど、木々を壊すならそうはいかない」
「ええ、本当に。失われた木々は戻らず……せめて、これ以上被害が出なければ良いのですが」
 ウィリアムとアリシスは背後を見る――それはグスタヴが通って来た道だ。
 結界周辺はともかく、酷い有様である。毒で溶け、木々はなぎ倒され。
 土に沁み込んだ分はまた別途片付ける必要があるのだろうか。未来の自然に影響がない事を――ただただ祈るだけであり。
「ま、それでも倒せてよかったよネェ……次が出てこないと一番いいんだけれド」
 弓を仕舞うジュルナットが切り株に座りながら静かに呟いた。
 ああ全く、準備が整うまで倒してはいけないなどと面倒な手合いであった。

 それでも。なんとか事態が片付いた故に――良かったとしようか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 世の中色んな魔物が発生するものです……木々を殺す為に生まれたかのようなグスタヴ……深緑に侵入してきたウイルスの様な存在だったのかもしれませんね……

 ともあれありがとうございました!

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