PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<FarbeReise>陽光差さぬ地の底で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 石室の中でパライバトルマリンが輝きを放つ。
 僅かに回転を帯びた瞳の大きさと同じ石は設えた台座の上に君臨していた。
 それは、まるで悲しき王様の玉座の様に憂いを帯びる。
 遺跡に宿る精霊は繊細な涙の雫をパライバトルマリンに落とした。

 幾星霜の時間を経て秘宝を守る為の機能は制御を失いつつある。
 魔力を帯びた回路が刻まれた石壁は濃い緑に覆われて動かなくなった。
 元は美しく洗練された魔法陣を描いていたのだろう。光を失った回路は精霊の目に物悲しく写った。
 修復するにも精霊にはその知識が無い。入り口は硬く閉ざされ人の気配すら感じられない。
 この箱庭の様な愛しい楽園の息吹をもう一度取り戻したい。
 何時しか精霊は心に留めるようになった。

「――――」

 精霊は遺跡の中から歌う。
 誰かがこの声を拾ってくれるかもしれない。
 そんな期待を込めて。精霊の歌が燦々と照りつける渇いた空に響いていた。

 ――――
 ――

 ピクリと微かに聞こえた音に『ワシャク』キアン(p3n000148)は顔を上げる。
「なあ、親父何か聞こえないか?」
「……どんな音だ?」
 キアンの声に前を行く『白牛』マグナッド・グローリーが振り向いた。この砂漠では小さな音一つ見逃せばが命取りになる場合もある。ラクダを降りた二人は注意深く音の出所を探った。
「――――」
 何処からともなく聞こえてくるのは美しい旋律。楽器でも無い、人間の声色でも無い。
「精霊が歌っているのか」
 聞こえてくる麗しい旋律とは裏腹にマグナッドは眉を寄せる。
 歌を歌う精霊は稀に居ると聞く。されど、それはハーピィやセイレーンとて同じ。
 美しい音色で人間を拐かし襲って喰らう話は何処にでもあった。
 二人で確かめるには危険かもしれない。慎重になるには越したことは無い。

「なあ、親父この下、何か空洞になってる」
 いつの間にか離れたキアンが朽ちた石碑の地面を叩く。
 砂に埋もれて分からなかったが、もしかすると首都ネフェルストから通達があったFarbeReise(ファルベライズ)の遺跡群の一つを探り当てたのかも知れない。
 この遠征の目的自体もその遺跡群を探しての事だったが、本当に見つかるとは今日は運が良いのだろう。
「扉に魔法とかは掛かってないみたいだから、普通に開きそうだよ。どうする親父?」
 青金の瞳を輝かせたキアンは、中に入ってみたいのだと尻尾を振る。
「そうだな。入り口の確保と中の安全を確認しておくか」
「よっしゃぁ! そうこなくっちゃ!」
 嬉々として地下へと続く階段の扉を開いたキアン。先行しようとするキアンを引き留めて最初にマグナッドが遺跡へと入り込む。
 階段を降りて一歩踏み出した瞬間、マグナッドの足下が崩れ落ちた。
「親父!」
 咄嗟にキアンを階段側へと投げ飛ばしたマグナッドは下層へと落下する。
「……っ、てて。キアン無事か」
 歴戦の傭兵たるマグナッドは器用に受け身を取り、ダメージを最小限に食い止めた。
 されど、落ちてきた穴を上るには些か無理があるらしい。
「親父の方こそ、大丈夫なのか!? 今、ロープを下ろす」
「いや、この高さじゃ無理だ。届かねえよ。それに俺の体重を支えるだけのとっかかりが無い。キアンじゃ力が足りないからな」
 冷静に現状を分析するマグナッドにキアンは焦りを覚えた。
「でも! 親父怪我してるんじゃないのか!?」
「大したことねえよ。それより、お前は助けを呼んできてくれ。早めにな」
 マグナッドはキアンに視線を向けていない。キアンが耳を澄ませばストーンエレメンタル特有の砂を巻き上げる音が聞こえてくる。このままではマグナッドが危ない。
「分かった。ちょっと待っててくれよな! 誰かすぐ呼んでくる!」
 瞬時に切り替え、踵を返したキアンはラクダに跨がり全力で渇いた砂漠を駆けた。


「大変なんだ、親父を助けてくれ!」
 首都ネフェルストの酒場に駆け込んだキアンは息も絶え絶えに叫ぶ。
 FarbeReise(ファルベライズ)の遺跡へと調査へ向かった『白牛の雄叫び』傭兵団団長マグナッド・グローリーの救出願いにイレギュラーズは立ち上がった。
 悠長に酒場で話し込んでいる時間は無いのだとキアンの表情を見れば分かる。
「キアン!」
「あ……、ラノール、エーリカ! 親父が大変なんだ」
 立ち上がったイレギュラーズの中に見つけたラノール・メルカノワ(p3p000045)とエーリカ・メルカノワ(p3p000117)の姿。キアンの瞳に涙がにじむ。
「よく、一人で此処まで来たな。もう大丈夫」
「がんばった、ね」
『家族』の言葉にキアンが涙を拭い頷いた。

 キアンが道中に話すのは事の発端。
『願いを叶える宝』が眠るとされる遺跡群FarbeReise(ファルベライズ)の事だった。
 最近になって見つかった『鍵』の存在。誰も足を踏み入れた事の無い遺跡の調査。
 内部に存在する『秘宝』を悪用しないように報奨金が掛けられ、首都ネフェルストで管理されること。
 お互いがお互いを監視する事で牽制しあうラサの内情の外に居るイレギュラーズへと話を持って行く前段階の調査として白牛の雄叫び傭兵団が選ばれたのだ。

「その秘宝っていうのが、何かすごく綺麗で不思議な力があるらしいんだ」
 ラクダで砂漠を駆けながらキアンはイレギュラーズに言葉を放つ。
「不思議な力というのはどういったものなんだ?」
 ラノールが首を傾げるのにエーリカも頷いた。
「詳細は分からないけど、かすり傷を治したりするらしいんだ」
 多く集めれば集めるほど、大きな願いが叶うかもしれない夢の様なお宝。
 正しくダンジョントレジャーハントなのだろう。
 けれど油断してはならない。冒険には危険が付きものなのだから。

 ――――
 ――

 遺跡の中に入り込んだイレギュラーズはマグナッドの痕跡を追って下層へと進んでいく。
「へんな音がする」
 エーリカの声に振り返れば。
 其処には強大な丸い岩が転がってきているのが見える。
「これは、そうだな……」
「おやくそく、かも」
 全速力で駆け抜けるイレギュラーズの表情は、何処か楽しげで。
 きっと、其れこそが精霊の望む箱庭の活気なのだろう。
 パライバトルマリンの煌めき目指して、弾む靴音がダンジョンの中に響き渡った。

GMコメント

 もみじです。お宝探してダンジョン&アクション。

●目的
・ダンジョンの攻略
・秘宝の入手
・マグナッドの救出

●ロケーション
 精霊に見守られたダンジョンです。
 非戦や作戦を駆使して攻略していきましょう!

●ポイント
 このシナリオではダンジョンとトラップが自動的にクリアされます。
 大岩が転がってくる。水や砂がなだれてくる。天井が落ちてくる。落とし穴があるなど。
 様々なトラップが仕掛けられています。
 プレイングには、その時の反応やセリフを書いてみましょう。
 どのようなトラップがあり、どう面白くクリアするのかを書くのが醍醐味です。
 皆さんのプレイングとGMのアドリブで、トラップを命からがら突破していきます。

 とはいえゲームなので、そうしたトラップをやり過ごしても一定のダメージなどは負います。
 そこで、『トラップをバッチリ予想』して『対策をがっつり書いてみる』ことが重要になってきます。
 予想することによって、華麗に回避することができるのです。
 これは、想像力の勝負です!
 さて、貴方はどんなトラップに引っかかり、どうやって突破したのでしょうか!?

●秘宝
 ダンジョンのトラップを掻い潜り、到達した最奥にパライバトルマリンの秘宝は眠っています。
 マグナッドも其処にたどり着いたようです。

●ストーンエレメンタル
 時々見かける石の精霊。
 人間を見つけると襲って来ます。
 そこまで強くありませんので、かっこよく倒してしまいましょう。

●『守護精霊』マリン
 この遺跡を守る精霊です。
 皆さんが楽しくダンジョンを攻略するのを見守っています。
 秘宝を遺跡の外へ持ち出すと、その役目を終えて自然に還ります。

●NPC
○『白牛』マグナッド・グローリー
 傭兵団『白牛の雄叫び』の団長。
 巨大なハンマーを軽々と振り回し戦場を駆けます。
 今回はダンジョンの奥に居ます。怪我をしているようです。

○『ワシャク』キアン
 12歳になったブルーブラッドの少年。
 妹を失ったその日から、瞳により強い炎を宿した。
『生き抜く』。たったひとつの願いを胸に。
 俊敏でそこそこ強いです。耳が良いです。

  • <FarbeReise>陽光差さぬ地の底で完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月11日 22時22分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
ラピス・ディアグレイス(p3p007373)
瑠璃の光
アンジェリカ(p3p009116)
緋い月の

リプレイ


 パライバトルマリンの光輝を内包する遺跡の中を精霊の歌声が流れていく。
 旋律は岩の合間を縫って魔光石に明かりを灯した。
 砂漠の乾いた日差しが光影を明確に隔て、遺跡の入り口に陰を落とす。

「ふーむ、ファルベライズか」
 辺りを警戒しながらラクダから降りた『夜のとなり』ラノール・メルカノワ(p3p000045)は一緒に乗っていた『夜のいろ』エーリカ・メルカノワ(p3p000117)を抱え上げ砂の地面へと下ろした。
 自分の育ての親『白牛』マグナッド・グローリーに任された大役に腕を組むラノール。
 マグナッド率いる『白牛の雄叫び』はラサでは名の知れた傭兵団だ。
「まぁ、そこそこ信用と実績があって『必ず生きて情報を持ち帰ってくる』となれば確かに適任か」
 ラノールの言葉に『ワシャク』キアンは青金の視線を落とした。
「俺のせいで……」
「なに、そう心配するなキアン。私達の父はそうやわじゃない。いくつもの窮地を乗り越えてきた人だ。
 焦らず落ち着き、しかし迅速に助けに行こう」
 キアンの頭を撫でたラノールと同じようにエーリカも『弟』の肩に手を置く。
「こわかったね、キアン。……まかせて! わたし、おねえさんだもの」
 滑り止めのついた靴とロープに楔、小型ハンマーと。足場の助けになる道具を揃えここまでやってきた。

 入り口の扉を開けて中に忍び込む。
 しんと静まりかえった真っ暗な階段にエーリカの掲げたともしびの花が浮かんだ。
 エーリカの周りを風の精霊が飛んでいく。毒の霧が充満していても風の精霊がいれば吹き飛ばしてくれるだろうとエーリカは頷いた。
「嘗て夢見た冒険が目の前に、ですか」
 小さく言葉を紡いだ『緋い月の』アンジェリカ(p3p009116)は高鳴る胸の内を感じる。
 見た目は愛らしい少女なれど、心の奥は男児たる本能が眠っているということなのだろう。
 僅かに口の端を上げたアンジェリカは仲間へ言葉を紡いだ。
「気を付けていきましょう、皆さん」
 背負ったカバンには小道具を詰め込んで、肩にはお供の小鳥を乗せ階段を降りていく。
「ええ、秘宝を手に入れる事も必要だけど」
 アンジェリカの声に頷くのは『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)だ。
 内心恐れながら歩を進めていく。
「……何はともあれ救助なのだわ! ここは一歩一歩慎重に……なのだわよ」
 華蓮の後ろには頬を染める『あなたの虜』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)が、傍らの『あなたの虜』ラピス・ディアグレイス(p3p007373)へと視線を向けた。
「ダンジョンなんてはじめて。なんだかわくわくしちゃう」
「僕もダンジョン探索は初めて」
 辺りを見回したラピスは古代文字が書かれた遺跡の入り口を指でなぞる。
「キアンくんも、はじめまして。どうぞ宜しくおねがいしますね」
「ああ、ありがとう。アイラ。頼りにしてるぜ」
 マグナッドの為に此処まで来てくれたアイラ達にキアンは深々と礼をした。
「どんな冒険になるか楽しみだね、ラピス」
「緊張する……のかな。なんだか、ワクワクしてるよ」
 アイラの言葉にラピスは微笑み、彼女の指先に触れる。
「怪我しないように、気を付けて進もうね、アイラ」
「ええ、マグナッドさんのところまで安全に進めるように」
 道を拓くとアイラはラピスの手を優しく握った。

 遺跡の中に入り込んだイレギュラーズはマグナッドの痕跡を追って下層へと進んでいく。
「へんな音がする」
 エーリカの声に振り返れば。
 其処には強大な丸い岩が転がってきているのが見える。
「これは、そうだな……」
「おやくそく、かも」
 動揺して動けなくなったエーリカを軽々と抱えてラノールは走り出した。
「キャーッ、どこから転がってきたのよあの岩ーッ!?」
 遺跡の中に響き渡る『ヘリオトロープの黄昏』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)の声。
「――何て、行った傍から定番の罠ですか!?」
 アンジェリカの叫びも重なり。皆思い思いの方向へ走り出す。
 ジルーシャは壁に凹みを見つけ咄嗟に隠れた。その直ぐ傍を轟音と共に通り過ぎていく大岩。
「はぁ、はぁ……、ちょっとぉ……! お、思いっきり走ったから息が……はぁ、はぁ、自慢じゃないけど、アタシ体力ないのよ……!」
 汗だくになった額をハンカチで拭きながら、ジルーシャは眉を寄せた。
 その真上にはアンジェリカが杖に跨がって飛んでいる。
「お約束なら更に二段構えの罠が待っているのでしょうが……だ、大丈夫ですかね?」
「アンタもう、そんな怖いこと言わないでよっ!」
 アンジェリカの疑問にジルーシャが首を振りながら後ずされば、地面に配置された凹みを踏み込んだ。
 カチリとスイッチが押される感触にジルーシャの喉がひっと鳴る。
 何処かで壁が出現する音がした。

「トレジャーハンターセララ参上! このダンジョンを探索してお宝ゲットしちゃうのだ!」
 赤いリボンとスカーフが風に靡く。足下の地面をブーツで踏みしめた『魔法騎士』セララ(p3p000273)が迫り来る大岩に真正面から立ち向かう。
 何故か突如として出現した壁に行く手を阻まれたのだ。
「こうなったら覚悟を決めるしか無い! 全力全壊――ギガセララブレェェェーイクッ!!!!」
 説明しよう。全力全壊ギガセララブレイクとはセララの手にした二つの剣から放たれる渾身の一撃である。 雷のカードをインストールした刀身は天雷を纏い光り輝く。
 そして、巨大な岩をも破戒する斬撃となるのだ。

 ――爆砕。

 響き渡る轟音に仲間のイレギュラーズは振り返る。
「やった! セララちゃんすごい!」
「流石セララちゃん」
 集まってきた仲間にもみくちゃにされるセララは満足げな笑顔でVの字を作った。


 ダンジョンの中を靴音が響く。
「何かしら罠があっても、僕が盾になるから。大丈夫、僕はこれでも丈夫だからね
 ラノールさん、男同士、頑張りましょう」
「そうだな。私達に任せろ」
 ラノールとラピスが先行し、その後を仲間がついていく。
 華蓮とジルーシャの耳に聞こえてくるのは精霊の歌声だった。
「このダンジョンには精霊さんが多いのだわね。皆の精霊さんを出来るだけ傷つけないようにする方針、とってもとっても嬉しくて素敵って思うのだわ!」
「ええ、出来るだけ傷つけないようにしなくちゃ。それにしても綺麗な歌声ね、まるでアタシたちを呼んでいるみたい」
 耳を擽る美しい音色にジルーシャは耳を傾ける。
「この歌を歌っている子は、こんなに大きな遺跡のどこかで、ひとりぼっちでいるのかしら」
「ひとりぼっちはさみしいのだわね。秘宝にマグナッド……それにこの歌声の子のことも、ちゃんと見つけてあげないとだわね」
 ジルーシャの言葉に華蓮が頷いた。ジルーシャは精霊の竪琴を取り出して爪弾く。
 辺りの精霊達に呼びかけるように。聞こえてくる歌声に応えるように。
「皆で思いっ切り楽しんじゃいましょ!」
「おー!」
 華蓮は拳を突き出して微笑んだ。

 アイラはエーリカと視線を交す。
 二人で決めたきまりごと。それは『見つけたボタンはとりあえず押す』こと。
「ね!」
「えへへ、うん。スイッチは押してみなくちゃわからないもの」
 くすくすと笑い合う二人をセララはじっと見つめる。
 壁に付いている如何にもな怪しいボタンを躊躇無くアイラが押すのをセララは見逃さなかった。
「……ふふ。きっとだいじょうぶ。そんなにすぐに作動するはずg」
「――あっ!」
「ちょっと、アイラ!?」
 アイラが落ちて行くのを咄嗟に庇おうとしたアンジェリカとラピスが奈落へと消えて行く。
「あれ、アイラ? ……アイラ! たいへん、アンジェリカ、アイラがおちちゃった!」
「ええー!? おーい! 大丈夫かぁ!?」
 ラノールが穴の底に落ちた三人へと声を掛ければ、「大丈夫」と返事が返ってきた。

 アンジェリカの箒に乗せられてアイラが引き上げられる。
 続いて、一緒に飛び込んだラピスも戻って来た。
「まったく、あんまりあれこれ押しちゃダメだよ? 心配しちゃうから」
「うっ、うっ。負けませんから!」
 ラピスの小言に歯を食いしばるアイラ。負けない宣言はボタンを押すという強い意思なのだろうか。
 気を取り直して、一行は奥へと進んでいく。

 ――――
 ――

 アンジェリカのファミリアーが先行して羽ばたいた。
 炭鉱のカナリアのように罠を見つけては知らせてくれる小鳥にアンジェリカはおやつをあげる。
 それでも、突発的な罠は発生するもので。
「一部だけ埃が積もってなかったりすり減っていたり、変色していたらそれはトラップが動作した証拠なんだよ!」
 セララが用心深く観察するが。アイラがとエーリカが容赦無くボタンを押すのだ。
「わぁ!」
 エーリカの身体が宙に浮くのをラノールが飛び込んで捕まえる。

 横穴から槍が飛んでくるのをラピスはその身体で受け止めた。
「っ!」
「ラピス!」
「多少の傷は再生ですぐに治っちゃうから。今の僕は永劫の輝石。この輝きは決して曇る事は無いんだ……なんて、ちょっと格好付け過ぎたかな? とにかく、心配は要らないよ。大丈夫。無理はしないから」
 心配そうに見つめるアイラの頭を撫でてラピスは微笑んだ。

 ザラザラと砂の流れる気配に華蓮とセララが顔を上げる。
「気を付けてなのだわ」
「何か来るよ!」
 天井から現れたストーンエレメンタルがイレギュラーズの行く手を阻んだ。
「おどろかせてごめんね。あなたたちを傷つけに来たんじゃ、ないの。ただ……悲しい声でうたう、あの子に会いたくて。……はなしを、きいてくれる?」
 エーリカが前に出て声を張り上げる。
「戦いたいわけじゃない。傷付けたいわけでもない。ただ、助けたいヒトが奥にいるだけなんです。
 ねえ。だから、おねがい! そこをどいて!」
 エーリカとアイラの切なる言葉。純粋なる心にストーンエレメンタルの動きが止まる。
 清らかな心というものは自然そのものにさえ届くのかもしれない。
「いまのうちよ!」
 ジルーシャの言葉と共にイレギュラーズはストーンエレメンタルの前を通り過ぎていく。


 ダンジョンの最奥、色宝が眠る部屋の扉が開かれる。
 其処にはパライバトルマリンの光を放つ宝石が浮かび、その台座から流れる水が張り巡らされていた。
「父さん! やっと見つけた。キアンのおかげで命拾いしたね」
「おとうさん。もう、だいじょうぶ。キアンも、みんなもいっしょです」
 部屋の片隅に座っていたマグナッドに駆け寄るラノールとエーリカ。
「おお、お前達来てくれたのか」
 ラノールとエーリカを抱きしめてその背を優しくポンポンと叩くマグナッドは後ろで佇むキアンに手招きをした。
「キアンもありがとうな。助けを呼んできてくれて」
「親父に死なれちゃ困るからな」
 目に涙を溜めながら怒ったような表情を見せるキアンをエーリカとラノールは引き寄せる。
「わっ、ちょっと。俺はいいよ」
 大人びているとはいえ、キアンはまだまだ12歳の子供である。奴隷の如く扱いを受けて育ってきたキアンにとって温かい『家族』は未だに慣れないところがあるのだろう。
 それを分かっているラノールとエーリカは昔の自分を見ているようなむず痒さを覚えながら、キアンをマグナッドの胸に投げる。
「ははは! 素直になれない年頃ってヤツだな。もう、大丈夫だ。俺は死なねぇよ」
 分厚い胸板と腕に抱き込まれて観念したように、キアンは大人しく再会の抱擁を交した。
「よくやったな」
 ラノールとエーリカは照れくさそうなキアンの頭を撫でる。

「わあ、みて! 綺麗なパライバトルマリン……」
 アイラの声にラピスも目を輝かせた。
「これが色宝……なんて、なんて美しい宝石なんだろう」
「さ、さわったら怒られちゃいそうなくらい、とっても綺麗。精霊たちは、この子を護っていたのかなあ」
 アイラの瞳にパライバトルマリンの色が反射する。
 思わず手が伸びそうになるラピスを制するように『守護精霊』マリンが現れた。

『――だめ』

 小さく拒絶の意を示すマリン。ラピスの好奇心という欲求に反応したのだろう。
「ううん、判ってるよ、これはきちんと保管しなきゃいけないんだよね。
 悪意によって、使われぬように」
 ラピスの真意を確かめる様に頭を撫でていくマリン。悪意は無いと示すようにラピスは目を瞑った。

「もしもし精霊さん、お家にお邪魔しちゃってごめんなさい……少しだけお話良いかしら?」
 手を上げてマリンに向き合う華蓮。
「ダンジョン、とても楽しかったのだわ。あなたもそうでしょう? きっと、このダンジョンはもうすぐ朽ち果てる。だから、あなたは私たちを此処に呼んだのでしょう?」
 華蓮の問いかけにマリンがこくりと頷いた。
『もうすぐ、壊れる。だから、預けたいの。でも、悪い事には使って欲しくない』
「ええ、そのパライバトルマリンの色宝は私たちがしっかりと管理するのだわ。悪い事には絶対に使わないとやくそくするわ。だって、私たちもうお友達でしょう?」
 話が通じるのなら平和的に解決することが出来る。
『友達……』
 華蓮の友達という言葉を胸に響かせるマリン。
「ずっと、わたしたちを見守ってくれた、あなた。……聞かせて、あなたのこえ。あなたの、うたを」
 エーリカはマリンに手を差し伸べる。
 パライバトルマリンの宝石はマリンの手によって台座から外された。
『友達だから。渡すね』
 エーリカが触れた輝石の眩しさ。何にも代えがたい宝物。
 この宝石を守る為にマリンは此処に置かれたのだろう。
 パライバトルマリンを受け取るということは守護精霊の契約が終わる事を意味していた。

「心躍る良き冒険が出来ました。貴方のお陰で私の夢が一つ、確かに叶ったのです」
 アンジェリカはマリンの手を取り微笑む。
 仲間との冒険を楽しむ事が出来た。思い出を残すことが出来た。
 それは今日までこの遺跡を守ってくれていたマリンが居たからなのだ。
「――だから精霊よ、貴方に感謝を」
 アンジェリカの手の上にジルーシャの掌も重なる。
「アタシたちを呼んでくれてありがとう。次に生まれ変わったら……そうね、今度はアンタも一緒に冒険しましょ、約束よ♪」
 そっと小指を差し出したジルーシャに目を瞠るマリン。
 消えてしまう自分が約束なんてしても良いのだろうかと戸惑う様子にジルーシャは強引に手を取った。
「大丈夫。この約束があれば、あなたは必ずアタシたちの元へ還ってこれる。
 ……アンタにとってこれは柵になるのかもしれないわ。けれどね、こんな所で閉じこもってばかりじゃ楽しくないでしょう?」
 ――だから、次は太陽の下で冒険をしよう。
「アタシたちが分かるように、アンタは太陽の下で歌っててちょうだい。そしたらすぐ分かるわ」
 眩しいばかりのサン・イエローとアジュール・ブルーを夢見て。
 マリンは一筋の涙を流し、光の中へと旅立った。

「――おしまい」
 セララはペンを置いてパタリと本を閉じる。
 その本に描かれるはパライバトルマリンに彩られた冒険譚だった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 遅くなってすみませんでした。
 ご参加ありがとうございました。

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