シナリオ詳細
<子竜伝>神は何処や。救いは何処へ
オープニング
●
「はぁ、はぁ――!!」
森の中。駆け抜ける影は複数にして――小さい。
それは子供だ。見た限り十代前半……少なくとも二十に成っている者はいないであろう、と判断できる程度の者達ばかり。それらが群を成して駆けていた。夜の道を、月明かりだけを頼りに前へ前へ。
焦りながら。何度となく後ろを振り向きながら。
「急げ……急ぐんだ! 追手が追いつく前に早く……!」
その中でも恐らく一番の年長者であろう少年が大きく手振りしながら皆を先導する。
遅れている者はいないか――後ろから『奴ら』は迫ってきていないか――と。
彼らは天義の国に住まう子供達だ。
そして向かっている先は森の果て――幻想王国の方面である。
端的に言えば彼らは今や『亡命』の真っ最中と言う訳だ。
彼らが今まで住んでいたのはアドラステイアという地。
最近天義の東部の方で活性化している『子供』達が中心となって独立都市を謳っている場所の事だ――そこでは天義本国とは異なる神を信仰し、独自の魔女裁判も横行しているとか――
彼らはそんな地から脱出を敢行した者達である。
都市に渦巻く危険な空気を察知して……しかし独立都市に一時的にでも身を置いた彼らは、それ自体を『不正義』と断じられるのではないかと恐れた。故に天義に戻る訳でもなく他国に……幻想の方面へと脱出しようと決意した訳である。
そうしてどうにか各地の人の目を避けてついに幻想の付近まで辿り着いた――
だが。
「く、くそう。あともう少しだって言うのに……!!」
リーダー格と成っている年長者の少年が気付いた。
後ろの方から嫌な空気が迫ってきている。きっと、追手だ。
『聖なる獣』が脱出した彼らを罰しに来たのだ。奴らはアドラステイアを警護する動物達……いや、魔物である。臭いを辿って来たか、使役せしアドラステイアの騎士達の指揮によって追ってきたか……それは定かではないが。
確実にいる。この森の中のどこかに、そう遠くはない――所に。
急いで進みたい所だが、この先には天義の街もある。見つからない様に迂回せず直進してしまうと、今度は天義騎士団の者が気付いて子供達を拘束するかもしれない。
何日も森の中を駆け抜けた所為か身なりは汚れている……
明らかに怪しい様子が見て取れてしまう集団だ。
「どうする……どうする……!?」
考えなしに進めば天義の騎士団が。
時間をかけて進めば追手が。
どちらの勢力にも抗える力は無い。戦える力はないからの亡命だ。
歯がみするほどに悩む状況――年長者と言うだけで、まだ年若い少年の思考は纏まらず。ああ、ただただ思うものだ。
どうか神よ。
僕らに救いの手を――くださいと。
●
「さて。今宵はよくぞお越しくださいましたイレギュラーズ殿」
幻想国内東部。ローニャック家直轄領アルバトラス地区。
その邸宅に居るは領主――エミリジット・ローニャックだ。机の上、暖かい紅茶を口に運び。一息と共に視線を巡らせた先にいるのはローレットのイレギュラーズ達。
依頼である。天義の国境にも近いこの地域の領主から一体何の用かと思えば。
「アドラステイアからの亡命者が間もなく私の領地へと至る事になっています。
――が。恐らく上手くはいかないでしょう。なので、貴方達に支援をして頂きたい」
亡命の手助け。
亡命と言うこと自体は――まぁ頻繁にある訳では無いがかと言って全くない話でもない。天義から幻想へ、或いは幻想から天義へ。貴族の腐敗や生活の苦、或いは信仰の失望やらなにやらの理由でそういう事も時折あるものだ。
しかし、解せない。
わざわざ亡命の手助けとは。国境を跨ぐ干渉を行えば万が一事が露見した際に国際問題になる可能性もある。そのリスクを押してまで、余程の重要人物が亡命を希望でもしているのだろうか――?
「ああ、いえいえ。そういう訳ではありませんよ。どちらかと言えば些細……そう。
只の子供達です。特別な家の者と言う訳でもなんでもありません――が」
さればエミリジットはゆっくりと。カップを皿の上にゆっくりと置け、ば。
「アドラステイアは天義の失態の象徴。
そこにいた子供達が幻想の貴族に保護を求めるなど――あぁなんと痛快な事でしょうね」
笑みを見せる。
エミリジット・ローニャックは天義嫌いだ。
彼らが正義を声高に謳う事が。それらを心の底から誇らしく叫ぶことが。
故に――天義の者達へ『ざまあみろ』と言える様なモノがあれば手を伸ばす訳だ。
何が天義。何が正義の国。何が何が神かと。
神に選ばれた代理人は此方の国であり私であり、貴様らではないのだと――
「ですが、えぇ。流石に国家間の軋轢を生じるような事態は避けねばなりません」
とはいえエミリジットも理解はしている。天義に直接手を出せばどうなるかを。
故にイレギュラーズだ。エミリジットの配下の兵でなければ万が一亡命が失敗になる事態が発生したとしても、幾らでも言い訳が聞く。幻想の兵が国境を跨ぐのは問題だが、どこにでも行けるイレギュラーズが国境を跨いでなんの問題があろうか。
「こちらで入手している周辺の地図はお渡ししましょう。恐らくこの辺りにいるであろうと推測される亡命者たちの情報も――それらを用いて、亡命を追う者がいれば撃退してください。ああそれと、それが『人』であるならば殺害は極力避けてくださいませ」
先程も言った通り軋轢は困るのだ。少なくとも表立つ程の対立は。
大量の人死にが出たとすれば後々に何があったのかという本格的な調査が入らないとも限らない。国境付近でのもめ事を避けたいのは向こうも同じであろうが――限度と言うものは何にでも存在するのだ。
「わたくし、野蛮は好みませんの。スマートな解決をお願い致しますわ」
もう一度エミリジットは紅茶を口に運ぶ。念を押す様な言葉を紡ぎながら。
亡命の手助けを行い――邪魔者は排除する――
なるべく騒ぎにならぬよう静かに、だ。
今宵は何もなかったのだと、思われる程に……
- <子竜伝>神は何処や。救いは何処へ完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年09月30日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
アドラステイア。昨今、天義を騒がせている独立都市。
そこからの亡命者と言う話だが――
「……かの地は東部に位置していると聞き及んでいます。
子供の足でよくぞ無事で、と思いますが……」
「それだけ想いが強かった、と言う事なのですかね。逃げる側にせよ追う側にせよ」
実に遠い距離であると『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は思い。だからこその想いの強さを『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は感じる。
昨今問題なっているアドラステイアからの亡命者となれば中々にキナ臭い依頼ではあるのだが。
「まぁ何事も穏便に済ませたいものですね……ええ何事も」
依頼であるのならばこなすのみである。
――とかく問題になるのは近くに天義の騎士もいるという情報だ。彼らが亡命者に万が一にも遭遇してしまえば『穏便』にとは行かなくなってしまうだろう。だからこそイレギュラーズ達は二つの班に分かれた。
一つは天義騎士に接触し、時間を稼ぐ班。
一つは亡命者たちに接触し、追手を排除する班。
リースリット達は前者の天義騎士に接触する側で。
「……幻想に亡命、か。悲しくもあるけど、あの冠位魔種の事件を契機に天義の行いを鑑みると仕方がない選択でもあるのかな……」
「思う所はあるだろうが、今は依頼をこなすとしよう……この場を上手く切り抜けなければな」
そうだね、と。顔を伏せていた『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)に返答を。
天義出身者でもあるスティアにとってみれば、やはり祖国を捨てて他国に亡命するという場への直面は些か思う所がある様だ。しかし今は依頼を受けた者として、そして子供達の安全を考えれば――依頼の遂行に他意はない。
彼らを救おう。意志を持って進んでいる、子供達を……
「ねぇ。この近くで騎士の人を見たかな?」
そして、周囲は幸いにして自然が溢れている。だからこそスティアは周囲の木々に、自然と会話する術を用いて巡回しているであろう騎士の情報を得んとするのだ。あくまでも進む速度の方を優先とし、情報の収集は程々にしているが。
「とにかく付近を巡回しているという天義の騎士だな。早くに会いたい所だが……んっ」
と、ベネディクトが紡いだ先。彼の優れた五感の一つ、聴覚に反応があった。
この先に誰かがいる――人の気配であり、アドラステイアの者ではなさそうだ。ヘイゼルの耳にも同様の音が聞き取れており……であればと夜道を歩く用のランタンを目立たせて。
「こんばんは――夜分に失礼。少し、お時間宜しいでしょうか?」
「むっ……? これはこれは……貴方達は?」
さすれば、いた。天義の騎士達だ。
リースリットがなるべく穏やかに声を掛ける。敵意は無いと伝わる様に。
「私達はローレットの者です。実はこの付近に魔物が確認されていまして……それの撃破を依頼されています。民間の方からの依頼なので聞き及んでいないとは思うのですが……」
「ただ、ちょっと色々あって人数が少ないんだよね――私達だけだと少し心許ないから手伝って貰えないかな? 倒せるとは思うけど逃げられて民間人が傷つく事態になるのは避けたいから……」
そしてそのままスティアの言も重なるものだ。
天義においてスティアの名声は非常に高いものであり――彼女の顔はこの辺りの騎士も存じている程であった。そんな彼女の言が紡がれれば信用もされるものであり。
「この辺り――国境付近の魔物の討伐任務を受けたのですが、現場で痕跡を見る限りですと前情報よりだいぶ多く2桁に届きそうなのです。各個で当たるよりも市民の危険排除のため力を合わせませんか?」
「ふぅむ……なるほど。しかし我らも警邏の途中で、万全の重武装とは言い難い。
それ程の数でしたらまずは応援を呼ぶ事にいたしますが」
「成程、尤もな意見かと……ではお願いしても?」
ヘイゼルの協力要請もあれば『正義』たる天義の騎士としても魔物の排除は断るべくの所ではない――応援を呼ばれれば森に入られる人数は増えるが、一時的に彼らの姿は無くなる訳だ。その隙に全ての事を成せば、問題は無くなる。
「……よし。こちらの方は順調だ――後で合流するから、暫くは頼むぞ」
故にその様を見届けて、ベネディクトは『合図』を出す。
それはもう一つの班に対する合図だ。別れる前にファミリアーの鼠を、向こう側に渡していたが故に行える合図。簡易なメッセージではあるが――此方は順調だと、向こうに伝える信号を出した。
●
マルク・シリング(p3p001309)は手元に伝わって来た合図を感知した。
どうやら向こうは上手くいっているようだ……ならばこちらも役目を果たさねばなるまい。
「政治的な思惑は兎も角として……亡命者達は、何としてでも助けなきゃね。子供の足で地図も無いなら、走りやすそうなルートに自然と流れると思うんだ。幸か不幸か……だから、彼らが辿るルートの予測も立てられる」
サイバーゴーグルを身に着ける彼には光が無くとも闇を見通す。
ベネディクト達は天義の騎士を見つける為あえてランタンという光を灯したが、一方でマルクたちの方はそうはいかない。光で目立つなどはご法度であり、だからこその闇の目だ。
目立たず動く。決して誰にも悟らせぬ様に、紛れるのだ。
「独立都市アドラステイア……彼の都市の状況に然程詳しい訳ではないですが……去る者を許さないのですね。そんな風潮があるからこそ『去る』事を選んだ人達がいたのかもしれませんが……」
「確かに一度アドラステイアに与すると天義に戻るのは不安でしょうねえ。天義に不満があったからこその独立都市ですから……そういった方々が天義に安心して戻れるようになれば良いのですが、すぐには難しいですか」
故に『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)や『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)も同様に、誰かの目に付くような灯りは最初から捨てている。
暗視に、それから優れた五感の証であるハイセンスを利用して進むのだ。
特に聖獣は魔物であるという……特徴的な動物の臭いがすればほぼソレだと思ってもいいだろう。それに音であっても問題ない。森の中で人間大の生き物が音を出さずに進むのは難しいし――幾ら指揮されていてもそこまで精密に使役は出来ない筈だ。
ドラマも暗色のローブを身に纏い、音を出す様な貴金属の類も全て外してこの依頼に挑んでいる。闇を見通す目薬を付け、闇夜を見据えるのだ――
尤も、優先して探しているのは亡命者たちの方である。
まずは彼らを見つけて合流せねばならない。
進む。音をなるべく出さぬ様に。気配を悟れぬ様に。
幸い依頼人のローニャック卿から大まかな位置情報は貰っているのだ。だから。
「いた」
周囲の感情を探知していたシラス(p3p004421)は短い言葉を吐き出した。
探知したのは『不安』……追手が迫っており子供達だらけの一団となればその感情が抑えられぬ筈だと踏んでいたが――正に予測は当たっていた。
草を掻き分け深い場所へ。さすれば。
「そこにいるかい? 安心して、幻想の使いだ――国境の向こうへ案内しよう」
まだ見えぬが『そこ』にいるだろうと声を掛ける。
向こうが幻想からの救援を理解しているかは分からない。下手をすれば俺達も不審者だ。
――それでも彼らには手段なく、降りてきた蜘蛛の糸に縋るしかない。
「幻想……? ま、まさか。あっちの方から迎えに来てくれたと……?」
「ええ。拙者達はイレギュラーズですよ。さ、エスコートしますね」
「怪我をしている子はいないかな? 皆、大丈夫かな?」
緊張している様子が見て取れるが――ルル家の差し出した手を恐る恐るながらも握り締めた。少なくとも彼らの様子から追手ではないと判断が付いたのだろう。マルクが周囲を眺めるが、負傷しているようなものはいない――走るに問題はなさそうだと。
「然るお方からご依頼を受け、貴方達のお手伝いに参りました」
ドラマは誰、とは口に出さず。
恐らく一番の年長者であろうリーダーの子を――緩く、抱きしめて。
「――ここまで良く、頑張りました」
ねぎらいの言葉をかけてやる。
されば力が抜けた様子が腕の中に伝わって来るものだ。緊張の糸が少しはほぐれたか……
「……森の中、か」
静かだ。シラスが思い浮かべるのは、かつてこのような森の中で行った依頼。
あれは二年ぐらい前だったろうか――あの時は違った。逃亡者を救うのではなく、逃亡者を追い詰める為の依頼。いつかの雨の日は、救いの声を潰してやった。
だというのに。
そんな自分が今は子供達の手を取って導いている。あの日と完全に逆な立場で……
「ははっ」
苦笑を禁じ得ない。一体どちらが己だというのか。
意図せず零れた笑い声に、子供が不審がる――が。
「……さて。どうやら無粋な連中がやって来たようですね」
今度はルル家が気付いた。こちらに『敵意』を向けてきている者がいると。
それは天義の騎士ではない。彼らは森で起こっている事を知らないから、訝しんでもいきなり敵意を向けてくる事はない。だから、これは――
「アドラステイアの――聖獣!」
マルクが右を振り向けば、闇の中に光る双眸があった。
跳び出して来るは敵意と殺意。まるでライオンの姿をしている――怪物であった。
●
遠吠えが発せられる。それは追手が集う目印――いや声印か。
ドラマ達の目の前に現れたのは三体。まだ集ってはいない、一組だけか。
「なら――どうとでもなる、なッ!」
真っ先に動いたのはシラスだ。向かってくる聖獣に対し紡ぐのは『在り得る筈だった』もう一人の自分の可能性――かつての雨の日と、今日ここにいる自分の想起が昇華され、どちらも己であるのだという認識が力を発揮する。
飛び込んでくる敵。その一撃を躱す様に跳躍し、指鳴らし。
甲高い音が一つ鳴れば空間が『捩じれ』炸裂する。衝撃波が彼らを襲い、潰す様に。
「争いなどなければ一番ですが、邪魔をするならば……仕方がありませんね」
「倒すよりも撃退を優先しましょう! アドラステイアの騎士の姿も見えないようですし……それに、幻想国境を超えさえすれば向こうも引くはずです!」
子供達を誘導するルル家。追い縋らんとする聖獣が出て来れば、ドラマと共に迎撃の形を。
放つ雷撃が蛇の様に地を這って、見えた聖獣を纏めて薙ぐ。そんなドラマの魔術が振るわれれば――ルル家も見据えるものだ。『敵』を。
それは虚ろなる第三の瞳。失った目の奥に『在る』あり得ざる第三眼。
肉体と言う枷から解き放たれた――彼女の天眼である。
聖獣を蝕み、その動きを鈍らせる。激痛を生じさせ……そして己もまた目の奥がまた少し『どろり』と溶けるかのような錯覚を脳髄に受けて。
それでも痛みを顔には出さない。子供達を不安にさせる訳にはいかないから。
「ここは僕とシラス君で時間を稼ぎます。どうぞ先へ!」
そんな彼女達を援護する様にマルクもまた聖獣へと立ち塞がる。
邪悪を裁く光を持って迎撃し、シラスの身に傷が付けば彼の治癒を最優先とする――まだ敵の数は多くない。二人が残っても、まだ十分に対応出来るから。
「グル、ルルルッ……!」
しかしハイセンスな五感を持つルル家やドラマの耳には更なる聖獣が追ってきている事を探知していた。子供達を連れたっての行軍では恐らく逃げきれまい。
その時は己らも時間稼ぎをすべきか、それとも共に往くべきか。
国境までそう遠くはない。天義の騎士達に遭う事さえなければ、あとはなんとか――ッ!
「――待たせたな。少し、遅れてしまったか?」
その時だ。今正に跳び出さんとしていた聖獣を、横から叩き潰した影が一つ。
「この付近は幻想にとっても天義にとってもデリケートな場所。
騒ぎが起こるだけでも迷惑なのだ。早々に排除させて貰うぞ――!」
ベネディクトだ。初めに別れていた班のメンバーがついに合流を果たせたのか。
これ以上は近寄らせないとばかりに、相手の身体に槍を突き立てる。
捩じり込ませるように。簡単には抜け出せぬ様に。
――絶叫。聖獣と言えど、やはり痛みは感じるのか。だが容赦をする気はなく。
「執念深いと言えばそれまでなのかもしれませんが――こんな国境付近にまで追いかけてくるとは、有り体に言って正気の沙汰とは思えませんね」
続いたのはリースリットだ。焔の魔法剣を顕現させ、聖獣へと一閃。
アドラステイアは今天義にマークされている場所だ。諸々の事情から積極的に介入はされていないが……亡命者は元より追手にも少なくない危険があった筈。それを押してこんな所にまで来るとは――狂っていると思うしかない程で。
「それとも正気ではないからこそアドラステイアに属しているのでしょうか?」
「どこぞに隠れているであろう騎士殿にお目にかかってみたいものでありますね。
ええ、まぁそんな事はないのでしょうが」
直後。リースリットは剣を抜き去りそこへヘイゼルの一撃が叩き込まれる。
「さぁなるべく早くお帰り頂きたいものです。国境も近いのですから」
目立つように布陣し、声を聖獣たちへと。敵を惹きつけ時間を稼ごう。
――優れた聴力で周辺を探るが、なんともアドラステイアの騎士の位置は掴めない。遠くにいるのか。それとも動いていないのか……聖獣さえ退ければ無茶はしてこないだろう故に、放っておいても構わないが。
「無為な騒乱は起こしてほしくないものだよね。天義は――今よりもっと良くなるために。
明日に向かう一歩を、ずっとずっと踏み出してるんだよ。あの日から」
そしてスティアもまた合流する――アドラステイアという存在自体に思う事はあるが、どうかと願うのは天義の平穏の為だ。
かつての天義には狭苦しい雰囲気があったかもしれない。正義の為と我慢してきた層がアストリア枢機卿の一件で失望したが故にアドラステイアは誕生したのかもしれない。
でも。
「こんな魔物を操って。子供達を殺そうとするなんて」
そんな事は許さない。
過去に何があったからと、今を汚していい理由なんてどこにもないんだ。
だからスティアは立ち塞がる――アドラステイアを許容できないから。
聖獣達のルートを遮って、周囲の不浄なる気を浄化し仲間に活力を。特に前衛を張るヘイゼルは常にその範囲に入れる事が出来るように気遣って。
戦う。
何も全てを倒す必要はないのだ。時間を稼げれば、それでいい。シラスとベネディクトが敵を弾いて、ヘイゼルが引き付け。リースリットが己が身を削りながらも焔の剣にて敵を裁く。
マルクとスティアが味方を治癒し、ドラマとルル家は子供達を誘導し――
そして。
「――――」
突如。聖獣たちがいきなり後方へと飛び退いた。
そのまま威嚇する様に低く唸っていたが……やがてそのまま森の奥へと消えんとする。
「退いた……騎士が撤退命令を出したのかな?」
「恐らくは、そうかと。油断はしかねますが……それなりに数は削りました。
迂回して追撃をするような余裕はないかと思いますね」
マルクが周囲を観察し、リースリットが状況を分析する。
聖獣たちは半分程度は恐らく倒した、だろうか? もしかすれば今頃森の中に出てきている天義の騎士達とカチ合って交戦する可能性が無い訳では無いが……おっと。そうだ、天義の騎士達が追いつかれる前に急がねばならない――アドラステイアを退けても、彼らに出会ってしまえば元の木阿弥だ。
「……探知には引っかからなかったな。どうやって聖獣を操ってるんだか」
「特殊な方法でもあるのかもしれませんね。或いは親玉でいるのか」
シラスはもしかすればと非戦の作動を探知するレーダーを常に動かしていたが……特に反応は無かった。聖獣を操っている絡繰りははたしていったい何なのか。ヘイゼルの言う様に、魔物を操れる存在が貸し出しているという可能性も無い訳では無いが……
「――とにかく移動しよう。大丈夫だとは思うが、亡命側が心配だ」
ともあれベネディクトの言う通り森を抜け国境方面へと歩を進める。
逃げきれたはずだが、どうだろうか。天義の騎士には――見つからなかったか。
「――この先はフィッツバルディ派の領土です。
天義に簡単には戻れませんが、良いですね?」
子供達を連れていたドラマ。国境を超える前に一応と意志を確かめる。
何度も何度も場所を離れる事など出来ない。国内ならともかく、他国に亡命などと言う事を選ぶのならば――覚悟はしておいたほうが良い。
もしかすればもう二度と天義の土は踏めないが。
「大丈夫です。ありがとう――僕達は、ここで生きていきます」
強い意志を持つなら大丈夫かと。
ルル家はせめてその旅路を祈ってやる。安全な場所にまで至れば。
「そうですか……東の方から、よく頑張りましたね」
頭に手を、乗せてやって。
「もう大丈夫ですよ」
優しく、撫でてやる。
……彼らにこれから幸せが訪れるかは分からない。幻想が天義より良い場所かなどとは知らぬ。
それでも今この時は祝福してあげよう。
彼らの歩んだ道のりが――きっと良い方向へ繋がっていると信じて。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
アドラステイア。かの地では如何なる事が行われているのでしょうか……
今回はあくまでも幻想の依頼でした。フィッツバルディ派からの依頼……!
ローニャック卿からまた何か依頼が出る事もあるかもしれませんね。
それではありがとうございました!!
GMコメント
■依頼達成条件
・天義からの亡命者を幻想国境内へと誘導する事。
・『人』死にを極力避ける事。(絶対にゼロである必要はない)
両方の達成。
■フィールド
幻想~天義の間の国境近くの森の中です。
時刻は夜。月明かりがありますので、木々が深くなければ視界に問題はありません。
エミリジットからの情報により、大まかですが周辺の地理の情報を得ています。『恐らく』現在この辺りにいるであろうと思われる亡命者の位置情報もあります。合流し、彼らを幻想国境内にまで誘導してください。
■敵戦力A:アドラステイア勢力
・聖獣×12
聖なる獣とも称される――ですが正直な所ただの魔物です。
ライオンに翼が生えているかのような姿をしており、簡易な飛行能力も併せ持ちます。鋭い牙や優れた嗅覚を持っており、亡命者たちへと徐々に迫っている様です。
全部で12体います。が、シナリオ開始当初は4組に別れて子供達を捜索している様で、同じ場所に全てが固まっている訳ではありません。子供達が発見されたり不測の事態が生じると、遠吠えで位置を知らせる為集まってきます。
・アドラステイアの騎士×1
アドラステイアの騎士で『聖銃士』とも呼ばれる者です。
ここまで天義の騎士などに見つからない様、聖獣の指揮を執りながら進んできていたようです。戦場のどこかにいますが、位置は不明です。騎士を倒すと聖獣は一気に統制を失います。また戦況が劣勢であったりその他不足の事態が生じれば撤退もするかもしれません。
■敵戦力B:天義騎士団
・天義騎士×不明
国境付近を警邏している者達です。近くには街があり、そこを拠点としています。
彼らは現段階において周辺に亡命者やイレギュラーズ、聖獣などがいる事を想像もしていません。この戦場付近には3名が1組となって時折巡回が行われている様です。近くで戦闘が行われればその気配には気付くでしょうが、距離があればその限りではありません。
こちらの方は上手くすれば回避出来ますし、もしかしたら利用できるかもしれません。
■護衛対象
・亡命者×6
アドラステイアから逃亡してきた子供達6名です。
一名年長者がいる様で、彼をリーダーに何とかここまで来ましたが進退窮まりました。戦闘能力はないので聖獣に追いつかれれば成す術はありません。その前に彼らと合流し、保護してください。
■エミリジット・ローニャック
依頼人です。
幻想の中では天義に近い位置に領地を持つ貴族にしてフィッツバルディ派。
今回諸々の事情により亡命の手助けを行う事を決意。かといって万が一の表立った対立を避ける為にイレギュラーズを介しての依頼という形を取りました。なるべくことが荒立たない事を望んでいます。
Tweet