PandoraPartyProject

シナリオ詳細

アングレカムの子守歌

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ローレット
「──スカイ・グレイ」
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はクロバ・フユツキ(p3p000145)を見てそう呟いた。
「そんな顔をしているわ、貴方」
「……そうか?」
 そんなつもりはないんだが、と肩を竦めるクロバ。プルーは彼の手元にあった1枚の依頼書へ視線を向ける。彼が先ほどユリーカから渡されていたものだった。
「気にいった、というわけでもなさそうだけれど……ああ、」
 近づいて並ぶ文字を見たプルーは納得した。なるほど、かの妖精郷か。あの場所であれば、クロバがそのような顔をするのも無理からぬ話だろう。
「ま、そういうことだ。催し物の提案だと」
 深緑──というよりは妖精たちから。まだまだ以前の姿を取り戻すのに時間は必要だが、それでも力を貸してくれたイレギュラーズへ、そして散った同志たちへの祭りを開きたいということだった。こちらでは慰霊祭や祝勝会と呼ばれるようなものに当たるそれを、一部の妖精は『アングレカムの子守唄』と言う。
「あら。この依頼、貴方にはぴったりなのではなくて?」
 プルーはそのまま依頼書を読み進め、とある文に唇へ弧を浮かべる。祭りで祈りを奉じるためには深く想いあった相手と踊らなければならないらしい。妖精たちはそういった相手を呼びたいようだ。
「まだ人数がいりそうね。それなら──」
「人選は俺に任せて貰えないか」
 プルーの言葉をクロバのそれが遮る。彼女が目を瞬かせると、クロバはハッとして後頭部を掻いた。
「いや……違うんだ。選んでもらうのが嫌なわけじゃない」
 ただ、ケジメをつけたかった。妖精郷があんなことになってしまったのも、全てはクロバ──彼の身内によるものだから。こんなことでどうにかなる程のものではないが、それでも出来ることはしたかった。
 妖精郷を騒がせた魔種、タータリクス。彼が魔種になったきっかけを、クロバと同じ世界から召喚された旅人──そして彼の保護者でもあった──クオン・フユツキが生み出した。あの男が暗躍しなければタータリクスが反転することはなく、ひいては妖精郷があのような目に合わなかったかもしれない。
 クオンの更なる動きによって冬の気配に一時満たされた妖精郷は、美しい景色が幻であったかのように姿を変えていた。今こそ春を取り戻したものの、完全な姿とは言い難い。今も復興が続けられているとイレギュラーズは伝え聞いている。
 プルーはなんとも言えない顔をするクロバを見つめて、それからふっと笑った。
「ええ、それじゃあお願いしましょう。とびきりにパウダー・ピンクでライム・ライトな人選を楽しみにしているわ」
「どんな人選だ、それ」
 プルーの独特な言い回しにクロバは思わず小さな笑みを浮かべ、頷いた。自らの交流関係で良さげな者たちは、さてはて──。


●アルヴィオン
「こっち、こっち!」
「さあさ、アングレカムの子守唄はもうすぐだよ!」
 妖精郷を訪れたイレギュラーズたちに、案内役を任された2人の妖精が大きく手を振る。くるくると周囲を回った彼らは向かうべき方向へと飛び出した。
「アングレカムの子守唄はね、」
「歌って、呑んで、踊るんだ!」
 双子のようにそっくりな彼らはテンポよく言葉をつなぎ合わせる。その話からするとまるで宴会だが、彼ら妖精からしてみればもっとちゃんとした意味を持つらしい。
「慰霊祭とも聞いたが?」
「そうそう!」
「忘れているわけじゃないよ!」
 クロバの言葉に2人は手を取ってくるり。そうして踊ることが慰霊の祈りになるらしい。踊り方も特に決まっていないそうで、ふわふわと掴み所のない手順はなんとも妖精らしいと言うべきか。
「でもでも、隠れたらダメなんだ」
「だってお月様が見ているもの!」
 高く舞い上がり、釣られて視線をあげるイレギュラーズ。満月を背景にした彼らは楽しそうに笑った。

GMコメント

●すること
 満月の下、パートナーと2人で踊る事

●アングレカムの子守歌
 人の言葉で『慰霊祭』『祝勝会』。この妖精郷で散った者へ安らかな眠りを祈るための祭りです。慰霊祭と言いつつも華やかで笑顔が溢れます。特に楽しいことを好む者たちが集まっているようです。皆さんも楽しみ、そして魂の安寧を祈りましょう。

 時刻は夜、真ん丸な満月が浮かんでいます。美しい夜空と幻想的な周囲はまさしく『お伽の世界に紛れ込んだ』ようでしょう。
 他の場所はまだまだ荒れた形跡が目立ちますが、この場所は以前のような状態を取り戻しました。会場とその周辺には花が咲き乱れています。
 大きな切り株のテーブルには、妖精郷で採れる食材を使った料理や美味しいお酒が並び。妖精たちは気ままに歌い楽器を奏で。一緒に楽しみながら、些細な悪戯を仕掛けられるかもしれません。

 皆さんは仲良く食事に舌鼓をうっても、飲兵衛になっても、妖精たちとデュエットしても構いません。ただし『パートナーと踊ること』だけはオーダーです。

●ご挨拶
 リクエストありがとうございます。愁です。
 どうぞ楽しんで、そして祈りを奉じてください。
 プレイングをお待ちしております。

  • アングレカムの子守歌完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月06日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

リプレイ

●つきあかりと花畑
 妖精についていきながら『お花屋さん』アニー・メルヴィル(p3p002602)は零くん、と大好きな人の名前を呼ぶ。
「どう? このドレス、ポテトちゃんから借りたの!」
 ふわりと広がる裾は膝丈で、いつもより少し心許ない気もするけれど。上品さを失わない綺麗なドレスはアニーをすっかり虜にしてしまったのだ。それにきっと──。
「うん、すっごい可愛いし……とても素敵な姿だよ、アニー」
 ──『伝える決意』上谷・零(p3p000277)が喜んでくれると思ったから。
 零は俺のもどうかな? とアニーへ正装を見せる。黒くシックで固められた服はリゲルから借りたものだ。アニーの隣にいても遜色なく、勿論彼女も似合ってると言ってくれる事を期待して。
「うん! とってもよく似合ってるよ零くん!
 すごくドキドキして……どうしよう、ちゃんと踊れるかな?」
 頬に手を当てるアニーは困ったように零を見上げる。零は彼女を安心させるようにその手を握った。
「ふふ、いいわねぇ」
 初々しい2人組に『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がニマニマと笑う。彼らのような子たちもいれば、きっと弔われる妖精たちも同じような顔をしてしまうに違いない。
「ねぇ、ミディーくん。歌って呑んで踊れるなんて──それが魂の安寧を祈る、なんて素敵ねぇ」
「ええ。……いえその、お酒が大好きな妖精さんのおかげでてっきりそっち系かと思ってしまいました」
 優勝なの! とジョッキを抱える何某かの姿が見える気がする、と『キールで乾杯』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)。最も此度は全く関係のない存在である。
「旅立っていった子達も、見送った方も……安らぎが必要ですものねえ」
 気を張ってばかりではいられないだろう。ミディーセラは空に浮かぶ満月を見上げた。あれが地平線へ近づいて夜空が染まるまで、愛しい人と楽しく飲むとしようか。
「妖精郷らしい催しですね、クロバさん!」
 『巫女姫を辿る者』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)に『巫女姫を辿る者』クロバ・フユツキ(p3p000145)はああと頷く。歪な冬は尽きて、春が戻ってきた。そこにまだ爪痕は残れど、彼らも少しずつ前へ進んでいるのだ。
 彼らの背後で、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)と『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)はそっと視線を合わせる。
「……クロバは責任感が強いな」
「クロバのせいではないが……」
 ポテトは言葉を濁して視線をクロバへ向ける。きっと彼は納得しないだろう。そういう男だ。
「だが折角頂戴したこの機会だ。存分に楽しませて頂くとしようか」
「そうだな。アングレカムの子守唄を一緒に盛り上げるほうが有難いことだろう」
 後ろを振り返ることも大事だけれど、今は前を向いているべきだ。振り返る時が来たのならば、その時振り返れば良い。
 妖精の先導に続く一同は皆礼装で、戸惑いを見せているものもいる。けれどそれが落ち着くよりも前に会場は眼前へ現れた。
「わぁ……!」
 アニーが感嘆の声を上げ、ポテトもすごいなと呟く。一面の花畑は月明かりを浴びてキラキラと煌めき、その奥では妖精たちがせっせと料理を運んでいるようだった。
「まずは美味しいものを食べませんか?」
「ああ、そうしようか」
「零くん、私たちも」
 シフォリィの言葉にクロバが頷き、アニーが零を誘う。零は大きく頷いて彼女をエスコートするように腕を差し出した。……勿論、緊張でガチガチだったけれども。
「ミディーくん、お酒飲みましょ!」
 きらりと目を輝かせたアーリアにミディーセラはくすりと笑い、彼女と共にお酒の種類を見に行く。早速楽しげな彼ら彼女らの姿に周囲の妖精もニコニコだ。
(……妖精もアルベドも、あの戦いで犠牲になった者たちが安らかに眠れますように……)
 ポテト目を細めながらそう祈り、そっとリゲルへ視線を向ける。その先ではリゲルもまた、こちらを見つめていた。
 折角だ──一番手といこうか。


●おしどり夫婦
 ポテトはリゲルの見立ててくれた青のドレスをつまみ、彼へ優雅に一礼してみせる。月明かりにキラキラと輝くドレスの裾は、まるで晴れた日の海を思わせるようだとリゲルは目を細め──ポテトは彼の瞳のようだとまた目を細める。
「一曲踊っていただけますか? 私の王子様」
「喜んで、姫君」
 伸ばした手は優しく掬われて、妖精たちの奏でる円舞曲に体は揺れ始める。緩やかな三拍子はリゲルの巧みなリードもあって、ただひたすらに楽しい。
 月も──妖精の霊も、空から見下ろしているのだろうか。
「っ、」
 裾捌きにポテトがバランスを崩しかけるが、リゲルは難なく支えてくれる。ありがとうと告げればリゲルが小さく笑った。
「随分訓練を重ねたな? 見事に踊りを熟しているよ」
 素敵だ、という言葉に合わせて額へ熱が落とされる。かぁ、とポテトの頰が赤くなった。踊れているように見えるのはきっと、リゲルのリードのおかげだけれど──彼からもそう見えているのなら、嬉しい。
 ちょうど音楽が止み、2人は花畑の中心で見つめあった。
「リゲルも……いつも素敵だけど、今日の礼装姿も良く似合ってて惚れ直した」
 ヒールでいつもより高い視線だけど、さらにほんの少し背伸びをして。唇を合わせた夫婦はくすくすと笑う。そんな2人に触発されたか、数人の妖精たちが飛び込んできた。
「わっ……と、お前たちも一緒に踊るのか?」
 そうそう、そうだよと言いたげに妖精たちがくるくる回ったり、2人の周りを飛び回る。2人は再度顔を見合わせて笑った。
 まだ共に来た皆は踊っていないようだけれども、ここからでも初々しい様子や楽しげな雰囲気は伝わってくる。もう少し2人の世界を堪能して、それからあちらへ向かっても良いだろう。
「もう一曲、踊っていただけますか?」
「──はい」
 妖精オーケストラが次の曲を奏で始める。まるでお伽話か、絵本の世界かという空間の中、おしどり夫婦は幸せそうに笑いあった。


●美味しいものとあまいはなし
「ブレンドティーとか作ってみてもいい?」
「私はレシピが知りたいな」
「あ、俺も教えてほしい。代わり……? に、パンとかいる?」
 アニーとポテト、零の言葉に妖精は喜んだ。特にパンは喜ばれた。彼の出すフランスパンは見たことがなかったらしく、とても興味津々だ。
 鼻歌交じり、妖精と共にアニーはブレンドを試す。癖がなくて、何にだって合うようなお茶が良い。妖精の話を聞きながら作ったそれを見て、リゲルが淹れても良いかとアニーに問う。
「リゲルの紅茶は美味しいんだ」
「そうなの? それならお願いしようかな」
 ポテトお墨付きの腕を披露するリゲル。既に並んでいた料理に零のパンや追加の料理も相まってテーブルは所狭しといった状況だ。アニーに『あーん』をされた零は頬を真っ赤にしながら咀嚼する。ニコニコしているアニーがし返されるのはもうすぐといったところか。
 そんな初々しさ全開の彼らを眺めつつ、ミディーセラとアーリアはお酒を酌み交わす。甘い香りは果実酒か。
「ん……甘いです」
「ふふ、そうねぇ」
 そう返す彼女の視線が尻尾へ刺さる。ああ知っているとも、尻尾がぱたぱたしてしまうのだ。だって甘くて美味しいもの。
(ご機嫌なのが伝わると嬉しいのよねぇ、ふふ)
 などと思っていたアーリアは、彼の背後でそわつく妖精に気づく。どうやら尻尾が気になるらしい。微かに頷くと明らかにぱっと目を輝かせて突撃し、ミディーセラの尻尾が大きく跳ねた。
「ふふ、びっくりしたかし──ひゃあっ!?」
 ちょんっ、と脇をつつかれたアーリア。お酒をこぼすところだった、危ない。じゃなくて。
「も、もうっ、脇は弱いのよぉ脇は……」
 口を尖らせる彼女の視線は、今はちゃんと尻尾ではなくミディーセラへ向いていて。彼はふふりと小さく笑った。
(こういうところも、好きなのよねぇ)
 アーリアはちびりとお酒を飲んで──ふと視線を皆へ向ける。
「ねぇ……どこが好きなのかとか、聞いても良いのかしらぁ?」
 きらりと彼女の目が煌めいて、アニーと零は揃って頬を赤らめる。
「え、ええっと、ちょっと恥ずかしいな……」
 他の人の話が聞きたいな、と2人。好きだって、口にするのは恥ずかしい。……が、恥じぬ猛者もいる。
「そうですね、心が綺麗な所でしょうか。さながら騎士を彷彿するような、凛とした魂や志を感じますし、俺に一途でいてくれる」
「リ、リゲル!?」
 誰よりもポテトが顔を赤くして夫を見つめるが、そんな視線なんのその。だって愛しいことに変わりはない。延々と続く惚気は背後に隠れてしまったポテトが「それは秘密!」と声を上げてようやく止まった。
「ダメか?」
「む、無理……!」
 でも大好き、と後ろから抱きしめるポテトへリゲルも答える。彼の惚気に当てられた面々は顔を赤くするやら視線を彷徨わせるやら、パートナーと目が合ってさらに顔が赤くなるやら。
「宜しければ皆の話も伺わせてください!」
 この猛者の次に誰が話すのか──嬉し恥ずかしな惚気話は、皆が踊りに席を立つまで続いた。


●初々しい愛のつぼみ
「あの時は、まともにステップも踏まなかったね」
 アニーはふふ、と思い出し笑いをする。全然上手く踊れなかったけれど、それでも笑えるのは楽しかったから。
「ポテトちゃんたちのダンス、うっとりしちゃった。私たちも、」
「ああ。俺たちも負けてられないよな」
 言葉の続きを察して零は頷く。折角また月の下で踊る機会が貰えたのだ。あの時と今の月は違うかもしれないが、魅せつけてやるくらい思い切り踊ってみせよう!
 妖精たちが彼らの雰囲気に、曲調をより穏やかなものへ変える。それに合わせて踊り始めたなら、そこはもう2人だけの世界だ。
 ほんとうに、恋人同士になったんだよね。
 そんな囁きをアニーは不思議そうな声音で紡ぐ。零だって同じ思いで、互いにそういった縁はないと思っていて──それでも、恋をした。
 いつからという質問をしても答えられはしない。2人ともいつのまにか恋をしていた。
「チトリーノのブレスレットが始まりかも」
「……そうかも。あの日物語が始まったってのは確かだろうね」
 腕に通したお揃いへ視線をくれて、2人は笑い合う。シトリンクォーツにこれを買って、その後も色々な場所へ遊びに行って、思い出を作って。会いたくて側にいたくて、笑った顔が見たくて──もう、あなた無しではいられない。
「これからは2人で幸せを作っていこうね、いっぱい……!」
「あぁ、勿論! めいいっぱい幸せを創っていこう……!」
 曲が終わり、2人は揃って空を見上げる。ぽっかりと浮かんだ月が彼らを見下ろしていた。あそこから、或いは空のどこかから。散っていった妖精たちが見ていてくれますように。
 安らぎを願って、祈って──もう一曲。


●ふわり揺れるいとしさよ
 妖精たちの演奏は楽しげで、お酒を次々飲んでいくアーリアは終始上機嫌。そんな愛する人を眺めながら、ミディーセラはこてんと首を傾げる。
(そろそろ、でしょうか)
 このままでは彼女が酔いつぶれて、ダンスどころではなくなってしまうだろう。その前にお誘いを──。
「……アーリアさん?」
 不意に出された手にミディーセラは目をぱちり。そんな彼にアーリアは目を細めた。ふわふわして、楽しくて。嗚呼、こんな気分の今なら言えるだろう。
「王子様、私と踊ってくれますか?」
 気障な台詞にミディーセラは苦笑して、その手を取る。
(先を越されてしまいましたね)
 自分から誘うつもりだったのに。けれどアーリアが嬉しそうだから『まあいいか』なんて。
「ミディーくん、こっちも」
 出されたもう片方の手も繋いで、ぎゅっとくっついて。アーリアの体温は酒のせいかいつもより高く、ぽかぽかする。ゆらゆらと自分の歩幅に合わせて揺れるアーリアはくすくす笑っていて、とても上機嫌だ。リードされているような心地にもなるけれど、見上げればすぐそこに彼女の笑顔があるのは良い。
「ねぇ、みでぃーくん」
「はい、」
 呼ばれて見上げると、顔に熱が落ちる。チュ、と小さくリップ音。ぽかんとしていると間近にアーリアの笑みがあって。
「だいすきよ」
 そう告げる表情が、全力で幸せを伝えてくれるから。
(ああ、もう)
 ミディーセラは口元を歪ませる。彼女の伝えてくれるそれと、自分が伝えているそれはイコールに感じられているだろうか?
「わたしのアーリアさん。愛おしいひと。わたしだって、貴女のことを──」
 満月と花畑に挟まれて。ミディーセラはその言葉を囁いた。


●こくはくと、共に
 シフォリィはクロバの後をついていく。彼は花畑の中を進みながらも、皆からは離れていくようだった。彼に考えがあるのだろう──黙ってついていくと、まるで『秘密の園』とでも言うような場所に出る。落ちないように柵が用意されているが、どうやらここは会場の敷地内に含まれるらしい。遠くからは妖精たちの演奏が聞こえた。
「いいですね、ここで──」
「──月が綺麗だね」
 踊るんですか? という言葉はクロバに遮られる。きょとんとしたシフォリィに彼は慌てて次の言葉を紡いだ。
「あ、いや、特にこの言葉に意味はないんだ。……君と踊る前にひとつ、ちゃんとしておかないとと思って」
 真剣な声に、自然と2人は向かい合う。クロバはシフォリィの顔からつと視線を下ろした。そこに見えるのは、外した自らの帽子を掴む手だ。
 クロバ=ザ=ホロウメア改め、クロバ・フユツキ。この男は──本当は、とても弱虫だ。元いた世界で、そしてこの世界においてもクオンへ挑み続けたのはそれを否定したかったから。強いと認めて欲しかったから。そのためにもクロバは『弱虫』を切り捨てた。……そのはず、だった。
 結局のところ、クロバ1人きりでは勝ち目のない戦いだった。それほどにクオンは強く、クロバはまだ未熟で。その傍らに立ち続けてくれていた人──彼女がどれだけ救いだったことか。

 共に戦ってほしい。
 けれど失いたくはない。

 そんな思いを抱くほどに、好きになっていた。弱虫で臆病だけれど、だからこそ彼女との関係にしっかり名前をつけたいと、そう思えたのだ。
「”クロバ=ザ=ホロウメア”と違って、クロバ・フユツキという男に君を連れて行けるほどの甲斐性があるとは思えない。それでも、君の……シフォリィ・シリア・アルテロンドの事を想う気持ちは、ずっと本物だ。だから今度は連れて行くんじゃなく──

 ──共に、歩んで欲しい」


 顔を上げれば目を丸くするシフォリィがいて、クロバはぐっと喉を詰まらせる。……が、次の瞬間ふふっと笑い始めた彼女にクロバは目を瞬かせた。
「……シフォリィ?」
「もう、今更じゃないですか」
 ずっと答えは決まっていたのに、今になって言い出すなんてと。そう告げるシフォリィにとって、クロバ=ザ=ホロウメアもクロバ・フユツキも変わらない。
 あの日、無理やり攫う様にシフォリィを連れて行ったあの瞬間。そこから彼女はずっと、自身と変わらない1人の『クロバ』という人間を──弱くて、誰よりも強く在る人を──愛しているのだ。
 おかしくて、けれどどうしてだろう。
「なんで涙が……溢れて。当たり前の事を、今、言われただけなのに」
 ほろほろと頬を伝う涙にシフォリィは苦笑して、まっすぐクロバを見上げた。
 今、2人を見ているのは満月のみ。だから──。
「クロバさん、私の泣き顔を隠してくれませんか? 私の一生分、全部、貴方にあげちゃいますから……夢じゃないって、教えさせて下さい」
「おいおい……軽はずみで言わないでくれ、返すものなんて言ったら俺の一生分でも足りないから」
 参ったというように告げるクロバも、けれどふっと笑ってシフォリィを抱き寄せる。
「それでもいいなら、喜んで」
「いいですよ」
 重なり合う2つの影。それが離れる前に涙を止めて、さあ、踊ろう。
「月に俺たちのこれからを見てもらうんだ!」
「ふふ。クロバさん、無理はしないでくださいね?」
 手を重ねて、くすりと笑ったシフォリィに目を泳がせるクロバ。バレてる? いいや、ちゃんと誤魔化せてるはず。ここは話題を逸らすのが無難か。
 そんな一瞬で全てを見抜かれているだろうことを、クロバはまだ知り得ない。
「と、ところで。いつまで”さん”付けなんだ?」
 シフォリィの呼び方に引っかかったクロバはそう口にするが、彼女は小さく笑って彼の手を引く。彼女のリードから始まったダンスはクロバの足に負担をかけないようステップが踏まれていく。
「……呼び名はまだ、変えませんよ。もっと進んだ時にとっておくんですから」
 もっと進んだ時──その言葉にクロバは動揺する。危うくステップを踏み間違えそうになりながらもどうにか体勢を整え、シフォリィを見下ろした。
「嫌ですか?」
「……いいや」
 もどかしくはあるかもしれない。けれど、楽しみにしていよう。いつか来る『その時』を。

 誰も側に居ない、真に2人だけの空間。静かに満月が彼らを見下ろしていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました、イレギュラーズ。
 カムイグラ全体依頼との温度差で風邪引きそうでした。プレイングで既にお砂糖大量生産。

 それでは、またのご縁がありますように。

PAGETOPPAGEBOTTOM