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シナリオ詳細

<傾月の京>屍山血河

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●???

 ――生まれたその瞬間から周りのモノ全てが疎ましかった。

 美しき木々が。立ち並んだ建物が。人の営みが。
 豁然とした正義が。自らを満たす為の欲望が。人の悪徳が。
 不快不快不快不快不快。何もかも何もかも何もかも何もかも何もかも。
 だから私は理解した。私がどういう存在なのかを。
 私は。

 私はこの世界を■■■為に生まれたのだ、と。

●カラカサ
 林の中が静かであった。
 此岸ノ辺は周囲を自然に囲まれた風光明媚なる地である――悪く言えば僻地とも言えるだけの場所なのだが、ともあれ。だからこそ周囲には大いに木々と、そこに住まう動物達で溢れている。
 筈だが、今宵はいない。
 眠っている? 否。気配を感じぬ。
 偶々いない? 否。複数無数の動物達が偶々一匹もいないなどあろう事か。
 ――彼らは何かを恐れたのだ。
 此処に至ろうとしている何かを本能的に察知し、離れた。
 眠っている個体すら生存本能を掻き立てられて。
 此処から離れよと生命が騒ぎ立てる。
「ンッふっふ。実に静かですな~まぁ夜の林と言うのは『こう』でなくては」
 その道を進むは大きな傘を被ったような男――カラカサと名乗る人物である。
 彼は闊歩する。誰も邪魔せぬ道を悠々と。
 その後ろに幾何かの『闇』を引き連れている。それは『冥』とも呼ばれるカムイグラの暗部達――ナナオウギの中でも一部しか存在を知らぬ、この国の闇にして、天香家……或いはそれらに味方する者達の手足となって動く影人。
 それらを伴い真っすぐ真っすぐ。
 目指すは此岸ノ辺の社へと。
 真っすぐ真っすぐ進んでいた――

「待って」

 しかし、その前に立ち塞がる影がある。
 それは動物に非ず。本能ではなく理性と勇気を持ち敵の前に立つ、意思の勇者。
 ――それは人間。
 内の一人はかつて出会った事のあるアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)であった。
「ん、お、おぉ~? これはこれはアレクシア殿ではありませんか。いつぞやはお世話になり申した次第! いやぁこんな所で奇遇ですな――どうですお茶でも。よい甘味場を知っているのですが」
「――どこへ行くつもりなの? この先は此岸ノ辺の中心部だけれど」
「あいやいや野暮用にてこの先に。ンッふっふ。いやしかしまっこと偶然とは恐ろしい限り」
 戯けた様子でカラカサはアレクシアへと言葉を投げかける――が。当然、偶々ではない。
 以前カラカサから投げられた依頼よりアレクシアは奴と会った事がある。その折から感じていた違和感……いや『気になる』気配を拭えなかった彼女はカラカサの事をあれから独自に調べていたのだ。
 放置しておくにはあまりにも嫌な気配であった。心がざわめき、焦燥を駆り立て。
 だからこそ奴の動きを察知できた。此岸ノ辺へと向かう――奴の動きを。
「街の人とかに色々聞いてみたんだよ――カラカサさんの事を。随分とあちこちに歩いてるみたいだね。それこそ豊穣の隅から隅まで……色んな人から目撃している話を聞けたんだ」
 耳に入った話はそれこそ『色々』であった。
 親切にしてもらえた――子供と遊んでもらえた――社の結界を強化してもらった――
 時折怪しげな様子を見た――外から訪れた神人様だと聞いてる――
 彼が訪れた後妙な妖怪が発生した――時々嫌な視線を感じた――
「随分と昔から、いるみたいだね」
「はぁ~……いやはやそう私を追って私を視ないでいただきたい。
 そんなに可愛らしい事をされると、つい『うっかり』しそうなのですから」
 瞬間。粘りつく様な、気持ちの悪い何かを感じる。
 それは――殺意? 悪意? 説明しがたい『何か』としか言えない感覚。
 以前出会った時よりも明確に。
 向けてくるこの感情は一体――?
「カラカサさんは」
 それでも、彼女は声を出す。
 逃げず退かず面と向かって。
「巫女姫の、味方をするの? 神人だと前は言ってたよね――」
「……ンッふっふ」
 ――風が吹いた。
 木々の葉を揺らし鳴らす秋の風だ。
 夜である故か酷く涼しい。それが首筋を撫で、耳を撫で、その鼓膜に奴の笑みを届かせる。
 顎をさするカラカサの――笑みを。
 神人。黄泉津言葉で、つまり『旅人』の事を指す言葉だ、が。
「いけませんな。やはりどうしても私の魂が蠢いてしまう。
 貴方達になど構わないで私はこの先にさっさと進むべきなのですが……」
 やはり戯言。そんな存在では決して無さそうだ。
 ――背後の『冥』の一人が鯉口を切った。
 殺意の波が溢れ始める。敵の数は多い――だがここで退く訳にはいかないのだ。
 この先には此岸ノ辺の社がある。つづり達がいる、中心部だ。
 奴らをそこへ到達させる訳にはいかない。奴らは確実にこの先で何かをするつもりだ――良くはない、何かを。巫女姫が行おうとしている『大呪』に呼応した動きである事は確かなのだろう。
 敵の数は多く、カラカサは未知数。
 しかし勝機が無い訳でもない。ローレットには援軍を既に要請していて、もう間もなく転送機能を用いて大陸側から此処へとやってくる筈なのだ。彼らと合流すれば今度はこちら側が逆転できる。それまではなんとしてもここで踏み耐える必要がある訳だが――

「何のために戦うのですかな?」

 と、ふと。
「首を突っ込まねばあと少しばかりでも生きられましょうに。
 好奇心は猫を殺しますが――逆に言えば好奇心を抱かねば生き永らえるは容易なのですよ」
「……何が言いたいの?」
「知らぬ事による幸福、手を伸ばさぬ事による利福を甘受出来ない輩は愚かと言う事です」
 嘲り笑う様にカラカサは紡ぐ。
 人を、他者を、誰かを救わんとするその姿勢を。面白がるように。
「天香・遮那の戯言も。巫女姫の秘めた執着も。巫女の片割れの想いも何もかも。
 知らねば欲さねば斯様な結果は生まなかった。
 誰ぞに突け入れられる隙は無く、穏やかに過ごせた筈だったのに」
 そうはならなかったのはお前達自身の『内』にある罪だ。
 せねばならぬという想いが自らを破滅へと追い込んだ。
 ――そして此処に至った『貴方達』も。
「要らぬ使命を抱いて、要らぬ破滅を背負い込んだ」
 この世の神に選ばれたこの世で最も愚かな生物よ。
 イレギュラーズよ。
「私の敵よ」
 その魂を――必ず折って差し上げよう。

●其が名は■■■■■(9/18日情報追記!!)
「ンッふふふ、ンッふふふふふふ」
 ――視た。
 カラカサは視た。敵を。敵の姿を。怨敵を。
 自らの魂が叫ぶ『者』達を。
 それはこの世界に住まう長命の者達。短命に在らぬ美しき種族。

 幻想種。

 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
 リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
 アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)

 あぁあぁいけませんねこれは。何故このような! この、この様な!
「今宵は魔種たる巫女姫の願いを叶えるべく馳せ参じた次第だというのに!!」
 もはや我慢など効かないではないか――!!
「カラカサ殿何を――む、ぐ、ぉ!?」
 瞬間。流石に不信を抱いた『冥』の者がカラカサに言葉を告げ。
 同時。その身が膨れ上がった。
 直後。起こるは皆々に。『冥』の者全てが苦悶し悲鳴と共に『変質』せんとしていて。
「何をッ――!?」
 誰かの叫び。しかしそれは『冥』の者の絶叫に掻き消され。
 ――誕生せしは幾つもの肉の塊達。最早人の身である事が辛うじて確認出来るにすぎぬ化物共。
 あれは、肉腫だ。
 僅かな隙間で戻れぬ領域へと『誰か』が彼らを変質させた。耐えきれずに死している者すらいて。
「ンッふふふふふふふふふふふンッふふふ」
 その、中で。
 一切の変わらぬ様子であるのはカラカサ一人。
 そうだ奴は変わってなどいない。ただ『抑えていた』だけで、徹頭徹尾『こう』なのだ。
 近くの樹に手を載せれば、そこから侵食する肉腫の力――まさか。今ここで新たな肉腫を創り出すとでも――
 そして。蠢く感情を隠そうともせず向けてくる視線は。
「私はずっと待っていた」
 イレギュラーズ達を捉えていて。
「私はずっと待っていた。私はずっと待っていた。
 私は貴様ら幻想種の怖れ。恐れ。畏れ。人間共の俗欲より生まれ落ちしこの世の病。
 私はお前達を滅ぼす為に生まれた存在――あぁあ天よ!」
 張り裂ける様に叫ぶ様は正に狂気の極致。
 滅べ滅べ何もかも。私はその為に生まれたのだ。私はそれを成す為に生まれたのだ。
 ――生まれたその瞬間から周りのモノ全てが疎ましかった。
「私の名は」
 知れ。清浄なる正しき塵屑共よ。
 私の名は――ザントマン。

 ガイアキャンサー・セバストス・ザントマン。

 お前達を地獄に送って差し上げる。

GMコメント

■勝利条件
 1:敵勢力の撃退。
 2:援軍到着(シナリオ開始後20~30ターン)までカラカサを突破させない事。

 どちらかを達成してください。

■戦場
 此岸ノ辺。その一角です。
 此岸ノ辺は巫女であるつづりが管理する地であり、現在はイレギュラーズ達のカムイグラへの転送拠点としても活用されています。また、神秘的な加護のある地とも……そんな場所が破壊されればどんな悪影響が発生するか分かりません。

 此岸ノ辺の社へと続く道の一つで戦闘と成ります。
 道が作られている所から少し外れると林地帯に入ります。時刻は夜。満月が出ているので木々の深い場所に入らない限りは視界に問題は無いでしょう。

 周囲にはなぜか動物の類が一切いません。
 彼らは何をどうして恐れたのでしょうか――?

■カラカサ(9/18日情報更新!!)
 自らの事を『神人』であると言っていましたが、今回明確な悪意と共に此岸ノ辺に侵攻してきました。

 その正体は【ガイアキャンサー・ザントマン】

 かつて砂の都で幻想種を奴隷として売りさばいていた【本人】です。
 元々ザントマンとは『幻想種を攫う商人達の総称』であり特定の一個人の事ではなかったのですが、幻想種達の恐れが募った結果『ザントマン』という存在しない一個人の御伽噺が創り出され概念となりました。その概念から誕生したのがガイアキャンサー・ザントマンです。
 御伽噺の経緯から幻想種への異常な執着が魂の根底に存在しています。

 純正の更に一つ上である【膠窈(セバストス)】の階級を持ちます。(詳細は後述)
 能力は未だ不明な点が多いながら、神秘系の中~後衛タイプかと思われます!

■『冥』×15→【12に変更!】(9/18日情報更新!!)
 七扇の一部のみが知る暗部の部隊です。
 天香家の――特に権力者たる長胤に忠誠を誓っている者達で、彼に協力する者達の手足ともなっています。現在はカラカサに従っている模様。
 基本的に刀を用いますが、クナイ等による中距離戦も可能な様です。

 カラカサ(ザントマン)の影響によりその全てが重度の複製肉腫へと変質しました! 一部が耐えきれずに死亡し、生き残った者は攻撃性能・耐久性能が強化され、防御性能・連携面が低下している様です!

■純正肉腫×1(9/18日情報追加!!)
 近場に在った大樹を変質させて創り出しているオリジン・ガストラフェテス(弓兵)
 シナリオ開始後7ターン開始時点から参戦してきます。これまでの間にダメージを入れる事も可能です。機動力は非常に低いですが、恐ろしい攻撃連射性能(EXA)を持ちます。
 生えている枝を矢の様に無数に飛ばしてくるようです。
 この矢は【出血、流血、失血、足止、泥沼、呪い】の内いずれか、もしくは複数の属性をランダムに持ち、射出されます。

■膠窈肉腫(セバストス)
 膠窈種は純正肉腫に原罪の呼び声がへばり付く、もしくは複製肉腫が【反転】した際に誕生する事がある特殊種族です。純正よりも強力な感染力を持ち更に【純正肉腫(オリジン)の誕生を誘発させる】能力を持ちます。
 反転を伴う経緯であるので肉腫の特性に加え呼び声の性質も持ちますが、あくまでも肉腫の異常進化形態であり、純粋な魔種と同一という訳ではありません。呼び声の伝染力に関しては魔種の方が圧倒的に上です。

 純正がこの段階に至るのは非常に稀であり、ほぼありません。複製から発生する確率の方が高いです。ちなみに複製でこの段階に至った者がいた場合、もう助かりません。

●情報精度(9/18日情報更新!!)
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

●備考(9/18日情報更新!!)
・当シナリオでは依頼の成否、もしくは此岸ノ辺へのダメージによって、此岸ノ辺に様々な影響が出る場合があります。

・当シナリオでは、ある『特定の種族』の参加者が『三名』を超えていた場合OPと情報に追加が発生する可能性があります。追加がある場合18日一杯までに発生します。
 →確定しました! これ以上の追加情報はありません!!

・当シナリオの捕虜判定は幻想種のみに出る訳ではありません。

  • <傾月の京>屍山血河Lv:20以上完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年10月06日 22時25分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ

リプレイ


 どうか皆さん苦しんで死んでください。
 お願いします。私の願いはたったそれだけ。
 ――慎ましい願いでしょう?


「いやぁ、見た目からして絶対味方ではないと思ってましたけど!
 ――いきなりそんなハッスルしなくてもいいんじゃないですかねぇ!!」
 地獄。あの世に最も近き『辺』にいきなり顕現せしソレに『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は叫ぶものである――
 カラカサ。元よりその怪しげな姿からなんとも訝しんでいたが。
 まさか幻想種をかつて苦しめていた存在とは。
 月明かりの下に蠢く影は妖と化す。『冥』たる一員共にもはや人の意思はなく。
 ただただ殺意をもってイレギュラーズ達を見据える黄泉路の使者。
「ンッふっふっふっふ。なにやらそちらは私をご存知の様子。
 あいやいや光栄な事でありますな――実に丁寧にすり潰して差し上げたい」
「うっげーきもきもきもきも! 海を渡ってたなんてねー話には聞いてたけど相変わらずキモ粘着だなぁ」
「来るぞ――此処で押し止めるッ!」
 これより先は此岸ノ辺の中心部。行かせれば如何な事を成すか分からぬ。
 飛び出してくる『冥』であった者達を前に『鬨の声』コラバポス 夏子(p3p000808)と『神威の星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は迎撃の態勢を整える――敵の数は多く、しかし敵の狙いは――少なくとも今に限ればイレギュラーズ達そのものに向いている。
 単純に突破だけを前提にされた場合押し止めるのは数の関係上難しい、が。
「……対象視認。ハンター、作戦行動に入る」
 そうではない今この時にこそ勝機があるのだと『TACネーム:「ハンター」』ルクト・ナード(p3p007354)は行動を開始する。敵の数は少なくなく、脅威度も高い……それでも全滅させることが主たる目的でなければやりようもある。
 ――空を舞う。
 さすれば多くの敵をその目に捉える事が出来るのだ。地上であれば味方に、或いは敵によって区切られる射線もあろうが少し浮くだけでも世界が開ける。無論孤立すれば狙い撃ちにされるが故に、天高くは飛び立たず、ほんの少しばかり浮く程度の心算であるが。
 それで十分であれば――激突。
 複製、ベインへと至った敵は大きく攻勢に出得る力量持ちへと変貌しているが、代わりにそれぞれに在った筈の自我……というべきか連携の心と言うべきか、が欠けている。突出している様に見える個体を中心に各個撃破の構えをとるとしよう。
 ルクトの射撃が紡がれて、前面は夏子が一閃と共に敵を抑える。
 足に力を地で踏み耐えて。押し留まらせることが出来ればそこへ――ウィリアムの星の輝きが天より至る。
「ンッふっふ。さぁ行きなさい子らよ。人を憎み食し穢して差し上げなさい」
 それでもザントマンの号令が掛かれば魔術の波にすら臆さぬ死兵が暴風となる。
 身を侵食している肉腫が細胞の一滴より叫ぶのだ。

 ――死ね。人よ死ね。正しき者よ死ね。死ね、死ねッ!

「……ガイアキャンサー、肉腫とはこのようにして生まれるものなのですね。
 そして自然発生するのは貴方の様に」
 もはや熊の爪を思わせる一撃を『冥』が放てば――『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はその一閃を、焔の剣を用いて受け止める。
 重い。侵食が強まる度に人の領域は脱ぎ捨てられ、あぁこのようにして肉腫とは生まれるのか。
 悪意の象徴。そしてそれを成したは――伝承として伝わる本物の『ザントマン』
「お尋ねしたい事があります。かつてラサに存在したという砂の都で、グリムルートを用いて幻想種を奴隷にしていたというのは――貴方ですか?」
 ならばこそ問わねばならぬことがあった。
 かつて深緑とラサで起こった人身売買事件。そしてそれの元々の原因、伝承ともなっていた砂の都で暗躍していた存在……ザントマン。
 カノン・フル・フォーレという一人の少女を地獄に叩き落としたその元凶は。
「ん? んんん~懐かしい。懐かしい響きですな~たしかそういえばそうそうそんな都市もありましたか。ああ、思い出して来ましたよ。人の欲に渦巻き、利用し、そして繁栄を極めていた! ――あそこはどうなりました? 今もさぞや堕落の極みにあるとか?」
「……滅びましたよ。一人の少女の絶望と嘆きによって」
 知らぬという事はカノンが滅ぼす前に出奔していたのか、バグ召喚に巻き込まれていたのか――いや、或いは。
 興味が、ないのか?
「ザントマン……幻想種の敵と言っても良い人。
 貴方のせいで苦しんだ人や悲しんだ人がいっぱいいた。それなのに――覚えていないの?」
「いや別に幻想種はそれこそ大量に叩き売りましたが末路には特に興味がないので」
 思わず零す様に呟いた『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の一声。されどザントマンはまるでおどける様に言葉を返してみせる。
「泣いてくれればそれでよいのです。家族の名を叫んでくれればそれでいいのです。
 恋人の事を想いながら魂が汚れてくれればそれでよいのです。
 そしてそのまま骸になってくれれば至上!
 誰でも良い、私はただ幻想種達に――あぁ心の底から嘆いて死んで頂きたかった!」
 ンッふっふっふっふ! 下劣邪悪たる笑みが戦場に満ち渡るように。
 ――今まで多くの者をスティアは見てきた。
 魔種へと堕ちた者を見た事もある。父や母が敵として至った事もあった。
 しかし多くの者には堕ちた理由があった。敵として目の前に現れた理由があった。

 ――ザントマンにそのような『理由』はない。

 これはただただ生まれた時から邪悪なのだ。
 人の死が心地よく、その骸の上に胡坐を掻く存在。
 亡者の嘆きをオーケストラが如くに楽しむ――下劣畜生。
「させない。これ以上、貴方の好きにさせるわけにはいかないよ、ザントマンッ!」
 必ず止めて見せるとスティアは瞳に意思を灯して。
 前往くルル家に祝福を授ける――水鏡の様に対象を映して二重と成す、それは戦闘を適する戦武の加護。討ち破られる訳にはいかない闘争の意思。
「ザントマン、混沌に息づいた悪意ある伝承。御伽噺の悪。
 だからこそ幻想種と言う存在に――存在の根底になった者達に執着があるんだね」
 同時。『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)はスティアのやや後方側に位置しながら、ザントマンの受け答えを聞いてある種の納得もするものであった。
 御伽噺より生まれたものは御伽噺として生きる。
 神として生まれた者は神として生きるしかないように――初めから『そう』であるのだ。
 理由など無い。ヒトがヒトであるように、血肉と魂をもって生まれる様に。
 ――だがだからこそその執着が戦いの鍵ともなろう。
 先述した様に突破だけを狙われたならそもそも難しい所の状況ですらないのだ。そうでないのはザントマンに明らかに隙となる執着があるから――当然、簡単に済むとは思っていないが。
「まあ、何時までも物語に引っ張られるのは、まだ若くて可愛らしい所あると思うよ」
 御伽噺から生まれた程度の存在。不朽の女神たるバスティスからすれば喚く子に等しく。
 紡ぐ治癒術が味方を癒す。ベイン共の突撃によって負傷した肉の傷を元通りにするが如く。
「……そんな気はしてたけど、やっぱりそうだったんだね。
 私も――あなたを放っておくわけにはいかない! ここで終わらせるよ!」
 そして『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の戦闘指揮が仲間らの動きを機敏となす。ほんの微かに動作の始まりが早まるだけでも戦場を一変させる事があるのだ。
 同時に紡ぐは『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)へと。彼女の周囲に展開する魔法障壁がまるで幾重もの花弁の様に。守護の力を宿すその輝きには、あらゆる害悪から身を護る術が宿っていて。
「ザントマン――まさか実在はともかく現存してるとは思いたくなかったんだけど……
 そうも言ってられないか。目の前に確かに存在しているのなら、ね」
 受け取るイリスは己が防の力を高めつつ、決死の盾にならんが為に前へと跳躍。
 距離があっても感じるザントマンの力と異質さ。見る限り能力は本物、状況は最悪三歩手前。
 ――それでもまだ最悪には到達していないのだ。
 希望は必ずある。相手が誰であろうとどれだけ巨大であろうと成すべき事は変わらないのだ。
「なんとまぁ可愛らしい白き花弁で御座いましょうか! ンン~須らく摘み取りたいですなぁ」
 しかし抵抗されればザントマンとしても魂が猛る。
 初めから折れている者達などなんの面白味もないのだ。ただ作業の様に殺して終わり。
 そうではなかった事に、清き者らの抵抗に嫌悪さと面倒さと高揚を抱いて、己もまた――

「――ソウハ、サセナイ!!」

 少しばかり参戦しようかと思った、その時。
 戦場に瞬く雷光が如く。声を響き渡らせたのは――『ボクのお顔をお食べ☆プリン』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)であった。
 プリンは考える。何やらこの戦場はザントマンというらしい強敵がいる、と。
 プリンは考える。倒せば己の強さを証明する一端になるだろう。
 プリンは結論する。プリンたる己の強さを証明できるという事は――相手もプリンであると。
「ウッホォオオオオオ! プゥウリィイン!! ザントプリン!! 死ネ――ッ!!」
「――なんですかなアレは。珍獣ですかな?」
 光り輝くマッチョ ☆ プリン。その身に宿りし力と共に目を文字通り輝かせ。
 吶喊する――狙うはザントプリンが更なるプリンへ変貌させようとしているプリンの樹。
 ガストラプリンスの、懐へと。


 プリンは激情と共に突撃する。それはまるで砲弾の様に。
 ガストラフェテス――ザントマンの影響により今正に変質している最中のその存在は、ベインではなくオリジンへと至ろうとしていた。本来であれば肉腫は既存物質が影響を受けた形であればベインになるのが普通である。
 が、オリジンを創り出す事の出来る『セバストス』であるザントマンは概念や炎、水、樹など様々なモノをオリジンとして生まれさせる事が出来るのだ。オリジンは強い……凶悪な力を携えて生まれるこの世の悪意だ。
 だからこそプリンは今の内にと引き剥がしを試みた。
 大樹であるという巨体であればこそ、そう容易く吹き飛ばす事叶わぬが――まだ至っていない今の内にこそ成さねば、後では非常に厄介だから。
「ま急がずに 付き合いなよ。そっちだって俺らを殺したいんだろ――?」
 そう簡単にはいかないけどねと紡ぐのは夏子だ。
 近付いてくる輩共を丁寧に薙いでやる。グロリアスの軽槍を縦横無尽に振るって、直撃すれば――巨大な発砲音と強い光が発せられるのだ。幾人襲い掛かってこようと吹き飛ばし、吃驚させてやろう。
「放っとくとウチの可愛子ちゃん達が無茶しちゃうん。そうはさせたくないよねぇ」
「皆、なるべく離れないようにね……敵の力は未知数な所が多いから!」
 次いで夏子が視線を巡らせた先に居たのはアレクシアだ。
 敵――特にザントマンがどのような力を宿しているかは全くの未知。
 その上、依然として数の上で不利な事に変わりはないのだ。不意な攻撃を受け、一人でも落ちれば一気に瓦解する恐れもあるとなれば、如何な状況にでも対応出来るように徹底しておかねばならぬ。
 自らの統率する声を絶やさずに。彼女は万全の警戒を施しながら繋ぐ力を施していく。
 自身を中心とした浄化の魔力である。身の異常を振り払うと共に、気力を満たす力――
「誰も渡さないし、通させないよ……あなたの思い通りになんてさせない……!」
 行き渡らせれば次ぐのは魔法陣だ。
 着弾させるは束縛の意思。敵を惑わせその脳髄を狂わせる毒花――
「おぉなんと酷い! つい先ほどまで只の人間だった言うのに斯様に残酷な撃を成すとは……!」
「御託ほざきはやめろ。なんとも思っていないだろうに」
 おやバレました? とザントマンの紡ぎに魔術で帰したのはウィリアムだ。
 イリスにより守られている彼はその力を全力で攻撃に傾倒させていた――冥の者を中心に放つ星の輝きは天の裁きが如く。魔を灼き悪を挫く。華の如く咲き誇り、閃光が煌めく度に敵を薙ぐのだ。
「ザントマン。奴隷商人。幻想種の敵……幾年経とうと変わっていない魂の臭いがするな」
 悪臭とも言うべき濁りだ。感じる執着。ドス黒い欲望――
「……反吐が出る」
 眉を顰めて嫌悪を露骨に。其れでも油断はしない――
 幻想種の抱く畏れそのものの概念。恐怖、絶望、そのもの。
 理を越えた力を持ってても不思議じゃない。例えば幻想種に対する何らかの特攻があっても、だ。今の所積極的に攻勢に出てくる様子は無いが……恐らくガストラフェテスも作られれば完全に手が空く。そこからが奴にとっての本番だろう、と。
「冥達が減れば突破口が見えるわ。数の上で互角か、それ以上になれば」
「ええ――だから攻め手を衰えさせる訳にはいきません。
 狂わされし哀れなる命共『もっと狂え』!」
 だからイリスは踏み止まる。攻撃に全てを注ぐウィリアムとルル家を守護し続けるのだ。二人は庇われる立場である以上、離れるレベルで自由には動けないが――しかし。遠方への攻撃手段や向かってくる冥を迎撃する形なだけであればさほどの影響はない。
 だからルル家は見据えるのだ。失った右目、その奥にある魂の第三眼。
 呪われし神秘を宿すあり得べからざる瞳で――敵を穿つ。
「狂え狂え――幻想種フェチ如きに、拙者の友人を渡す事なんて出来ません!!」
 ここで負けたら幻想種……特に目を付けられていたアレクシアが危ないだろう、と。
 ルル家の胸中にあるのは焦りだ。いや動きに影響している訳では無いが、知人の身が攫われるなど考えたくもない事である。ましてや今宵の相手はあのザントマン――幻想種を弄んだ悪魔であれば。
「――拙者はどうなってもいい。でも! 絶対に友人は護ってみせます!!」
 必ず成すのだと、自らの身を蝕む痛みを無視し――奮い立つ。
 清められた水を口に含めば力が隆起するものだ。
 天を味方にしたが如くの一撃は冥共の身を深く深く抉り、その身を打ち滅ぼす――

 だがやはり全てを簡単にとはいかない。冥の者達は正気を失っており、ただ我武者羅に突っ込んでくる分攻撃は当てやすいが――はたして効いているのかいないのか。先のルル家の一撃に関しては間違いなくその心の臓に到達する程ではあった、が。

 怖れを抱かぬ悪魔は血を吹き出させても尚止まらぬ。
 薙ぐ爪の一撃は肉を抉り、多き数はやがて押し包む様に半包囲出来るのだ。プリンが大樹を、ルクトが空を飛んでいればブロック出来る人員にも限りがあり妨げるに難しく――
「ヌォォオォォ! プリンダ! プリンガ育ッタゾ――!!」
 そしてついにガストラフェテスが誕生する。
 弓兵の異名を授けられるソレは枝葉を飛ばしてくるのだ。鋭き杭が如きの一閃、二閃――いや十を超える掃射は彼方より飛来し数多を繰り抜く。プリンの一声により防御の態勢は間に合うが――さて。それこそ『冥』の者達を気にせぬ程に。
 全ての命を吸い取らんと暴虐を振るいて。
「プリンダ! プリンヲ糧二育ツノダ、プリン☆ツリー! フォォォオ――!!」
 同時。これ以上はさせぬと振るうは黄金のバット。ちがうプリンのバット。
 膂力をもって振るい、大樹を更に奥へと押しやらんとする。非常に重いがその分機動力は低い筈だ――一度距離を取らせて足止めしてやればガストラフェテスの脅威は減る。

 ――あの木、何やら怪しげな姿へ変容した。
 ――注がれたものに応じた姿へ進化したのだ。
 ――と言う事は、あの木にプリンを注げばプリンの木が出来上がるのではないか?

 つまり。
「ヤハリプリン!! コレハプリンノ樹!! プリン大樹ダ!! オオオオオ――!!」
 超加速するプリンの思考。肉々しく変質した大樹に何かプリン的に思う事があったのか。
 肥大する士気と闘志は宇宙に届く程に。
 あぁプリンよ栄光あれ。世のプリンを守る為、今こそプリンの大樹を滅ぼし示さん――!
「ンッふっふ――非常に面白い珍獣でありますが、流石に困りますなぁ~」
 だが、その時。プリンを掴んだのは――ザントマンである。
 バットを振るわんとするプリンに対して、その頭を握りつぶさんとする様に圧を込めながら。
「ご退場頂きましょうか。生憎、甘味を食している暇はないもので」
 文字通り『投げ飛ばし』た。
 天へとだ。プリンは巨体であり、相応の重量がある様に見えるが――ものともせず。
 プリンはガストラフェテス対応の為に前に出ていた。故、そこを狙われたか。位置的に視方からの支援を受けるにも難しい場所で、ならばこそザントマンが狙わぬ理由はなく。
「……チィ――そうはさせない」
 瞬間。そのプリンへと放つはザントマンの暴威。
 手中に蓄えた神秘の塊――暗黒の結晶物。直撃すれば如何な傷を齎そうか――
 気付いたのは空に浮かんでいたルクトだ。だからこそそうはさせぬ様に妨害の射撃を奴へと紡ぐ……止めれぬまでもその狙いを少しでも逸らせるように、だ。
 直後、放たれる球体。プリンの腹部近くで短く幾度も鳴動、し。

 周囲一帯を消し飛ばさんとするかの如きブラック・ホールが炸裂した。

 超速度の再生能力を持つプリンの防御性能を穿っている。徹底した守護の構えと元来の肉体強度がなんとか踏み止まるが、被害は甚大。これはいかんと一端仲間の陣地側へと後退して。
「ん~今のは凄いね。あれが御伽噺の力、か」
 即座にバスティスが治癒の力を施す。大きな傷を負った者を優先に、戦線の維持に努めて。
 見た先には異質なる気迫を携えているザントマン。
 周囲に浮かんでいる目はなんだ? 幾つも浮かんで、こちらを視ており。
「――幻想種の、目だ」
 それになんとなく勘付いたのはスティアである。バスティスと同じく治癒の力を、優しき光を周囲に与えながら――さて、気付いた理由は同じ種族であるからだろうか。
 きっとアレはそうなのだと。怪しき影の中で瞬く眼球の集合は、あれは。
「ああ――これはこれはそうですよ。ご存知ないかな?
 砂の都で行われていたのは。かつての世で行われていたのは人身そのものだけではない」
 貴女達は知らないかもしれませんが。
「幻想種の身体の『部位』そのものを――欲しがる奇特な愚か者達もいたのですよ」
 永遠・長寿の身体を装飾品に。
 特に美しき色を灯した『眼球』は実に高値で取引される事もあったのだ。
 抉りだす際の絶叫。深緑の外にある我欲への恐怖。
 身体を寸断しその肉の一片すら求める悪徳こそがザントマンを成している……
「そのような――」
 リースリットだ。
 彼女の口から零れるのは恐怖ではない。推察しており、理解至ったからこそ抱いた――
 決意。
「そのような成り立ちであるのであれば、ならばこそ……幻想種の手でこそザントマンを討ち。その概念を塗り替えなければならないのでしょうね」
 当時の、多くの幻想種が抱いた恐怖の結晶。
 それが身を成しているのであれば、幻想種の手でこそ打ち払わねば――永遠に囚われる。
 幻想種の怖れとは即ちそれ、人の俗欲もまた即ちそれ。
 故の御伽噺なのでしょう。
 ――終わらせなければならない。
「太古より続きし御伽噺は。必ず」
「勇ましいですな――貴方の様な幻想種を捕まえた事もありますよ。
 最初は皆、威勢が良いが……やがて泣いて許しを請うた」
 戯言はもう結構とばかりに、リースリットは再び焔の術式を己に纏わせる。
 それは剣ではなく眼に。魔眼の力を攻撃に転用し、空間を焼き尽くす――呪いの炎。
 狂いし者達よ、狂うがいい。猛る炎に焼かれて全てを灰にせよ。

 ――月下の戦いは、ついに佳境を迎えようとしていた――


 天に聳える咆哮は幾つも重なっていた。
 冥の者達は我が身顧みぬ猛追により血反吐を吐き散らしている。
 受け止めるはイリスにプリンが中心だ。両名の防であるならば容易くは抜けぬ――
「女性の皆さ~ん! 僕頑張るからねぇ! 応援しておいて、っとぉッ!!」
 であればと夏子も踏ん張るものだ。引き続き奴らを丁寧に薙いで、弱りし者がいれば。
「あーんなきもい奴に弄ばれて同情するねぇ。だが、こいつで終わりだ!」
 一気に攻めて敵を強かに叩きつける。
 彼もまた優れた防の術を持っており、簡単に崩れる様な者ではない。気を伺い、防を転じて攻と成せば狂った冥の頭を粉砕して。
「ン~素晴らしいですなぁ。しかしその気概、一体どこまで持つ事やら?」
 直後。イレギュラーズ達の陣形の中心に放たれる神秘の一撃――
 ザントマンだ。先の、溜め込んだブラック・ホール程の威力ではないが、魔の結晶が着弾して一気に花開く。
 身を蝕むかのような痛みが周囲の者に突き走って――
「気を付けて! ――遠くからガストラフェテスも来るよ! 躱して――ッ!」
 同時に響いたのはアレクシアの声である。
 空を見れば半円の形を描いて雨の様な矢が到来する。
 細い。巨大。鋭利。幾つに枝分かれした凶器の様な。
 一発一発の形が違う。歪なのは魂が狂気に染まっているからか?
 ――当たる訳にはいかない。アレは幾つもの負を宿しており、当たれば流血免れまい。
「しかし――冥も減ってきました! ザントマンが来る前に、殲滅します!」
「ここは……絶対に通しませんよ!!」
 それでもイレギュラーズ達は退かない。臆さない。怯えない。
 極限の集中をもって致命たる一撃を受けぬ様に常に足を動かすのだ――リースリットの焔が残存の冥達を包みこんで、畳みかける様にルル家の第三眼が敵を撃つ。
 弱りを見れば宇宙の力を此処に。
 身を絞り上げ限界を超える力を此処に。
 ――多重に別れる未来を一重とし。別たれる身は只一つの敵を圧殺せん。
 瓦解しそうだこの身この魂が。
 それでも疲弊、疲労上等である。尚にここは通さない。
「私をガン無視する辺り、完全に生態が違う奴よね。幻想種に御執心とは、ね」
 その中でもイリスはまだ体力的には些かの余裕があった。プリンと異なりザントマンの直撃を受けた訳では無いからだ……プリンはガストラフェテス対応の為前に出たのもあるが、イリスは陣形の内側にいる上で――なおかつ幻想種ではない事も関係していたかもしれない。
「――ともあれまだまだ耐えてみせるわよ」
 ならばと彼女は踏み耐える。此岸ノ辺にも、仲間にも手を出させない。
 目前の冥の一体へ、光宿す右腕で一打。攻を成しながら自らに宿った負を祓い。
「ザントマン……私は貴様の目論見に興味はない。ただ、作戦を完遂する為にここに居る。
 ……イレギュラーズの一人として、貴様を止めて見せる」
「ンッふっふ。決意一つで私を倒せるとでも?」
「……いいや。だが、だからこそ、私はできる事を全力で行うだけだ」
 言うはルクトだ。空中を舞う彼女はガストラフェテスの射撃に身を捩って全速力で回避の行動をとる。その渦中においても――決して『敵』から目を逸らす事はない。
 繰り返す射撃は全力全開。防御よりも多くの敵を撃ち抜いて、滅ぼす事を優先とする。
 足を枝が抉る――だがそれがどうした。
 腹に直撃する――だがそれがどうした。
 作戦の完遂こそが最優先である。奴を決して通さない事。
 ……だがもしも。
 もしもダメな時、いざと言う時は――
「バスティスさん、危ない!」
 瞬間。苛烈なる弾幕からバスティスの身を挺して庇ったのはスティアである。
 スティアは治癒の術だけでなく、その身に至る守護の輝きは決して夏子達に劣る物ではない程の力量を宿している。で、あればと。共に治癒に専念するバスティスの庇いも時として行うのだ。
「ッ――スティアちゃん!」
「私は大丈夫! もうすぐ援軍も来れるタイミングの筈……がんばろう!」
 二人は怒涛に攻め上がって来るザントマン達を凌ぐ生命線でもあった。
 ある程度予測していた事ではあるが特にザントマンの魔術の桁が違う。奴の放つ魔の圧は人域を凌駕していると言っても過言でなく――治癒の力なくして凌ぐは非常に厳しいモノと言えるだろう。だからこそ二人は力を途絶えさせない。
 活力を満たす力を。肉体の損傷を癒す光を。
「幻想種に執着する程度の都市伝説が……調子に乗らないで欲しいね!」
 ――常に振るうのだ。
 バスティスが見るのはザントマン。距離はあるが、それはやはり奴が近接を主体とする訳では無いからか? どの道油断は出来ないが、奴がどう動いても大丈夫なように常に意識は向けておけねばと。
 想うのはリースリットも同様である。
 あぁ度々だ。度々こちらに視線を向けてくると気付いている。存在として幻想種に執着していると分かってはいるが――『こう』もとは。
「……嫌な視線を感じますね。見ていない時でも、常にこちらに意識を向けられているような……」
 挙動を注視し、誰かを攫おうというなら妨害せねばならぬと。
 ザントマンと言えば『眠り砂』の事が気になっている。ラサでの事件でも多用された、あの砂……
 今の所振るってくる様子は無いが――もしあの力をまだ宿しているなら――

「健気ですなぁ――しかし私もそろそろ往かねばならぬ頃合い。そろそろ終わらせましょうか」

 思った瞬間、ザントマンが更に一歩前へと進む。
 ――突破する気か。或いはイレギュラーズ達を粉砕するつもりか。
 奴の手中に再び集まりし魔の圧――まずい。先の一撃がまた来るのか!
「ヌゥゥ! ソウハサセナイゾ、ジャマダッ! 共二プリンヲ食ベルト誓ッタ仲間ダッ!
 ヤラセハセンゾ――ッ!!」
「チィ――間に合うか!?」
 プリンが最後の冥をプリンボールで粉砕し、巨大なる声と共に抵抗を見せて。
 同時。ウィリアムは星の魔術を紡ぐと共に――幻影の影を奴の前に現す。奴の視界を塞げないかと。真っ暗な幻影で、あの巨大な眼球を覆い隠す事で狙いを逸らせないかと――しかし。
「ンッふっふ。無為無為かような術で我が身には届かせませぬぞ」
 幻影であると察知出来ればザントマンも恐れず前へ往くのみだ。
 数歩動くだけで幻影の位置から脱せられる。
「まずいな……皆、散会しろ! 固まっていると一気に薙がれるぞ!」
 ならばと飛ばすのは注意の声だ。イレギュラーズ達は不測の事態に対応できるように陣形を整えていたが――ここでそれが不利な方へと働いた。初期の段階であればアレクシアの指揮や、スティア達の治癒術が万全に満ちていた故に優位だったともいえるが。
 ザントマンが広域の殲滅術を用いてきたが故に状況が変わったのだ。
 神秘術に優れていると思われていたザントマンの一撃。
 警戒の声は飛んだが、回避までに間に合うかどうか。
「させっかよぉ! そうそうカノンちゃんだけどさ――覚えてるかい! 紫髪の少女さ!」
 直後。跳び出したのは夏子だ。
 カノンという少女の事――本気で伝えるつもりはないが、注意を逸らせればそれで良し。
 剛力一閃。最悪でも阻害が出来れば良しとした一撃。
 されど止まらぬ。
 人でなき存在を止めるには存在を滅す一撃でなければ――しかしそれは夏子の一撃が浅かった訳では無い。ここで致命たる一撃を叩き込むにはもっともっとそれまでに多くの攻勢を重ねておくという厳しい条件が必要だっただけで。
「そうだよ――絶対。絶対させない! あんな時の様な出来事は、もう絶対!」
 同時。ならばとアレクシアも前へ往く。
 時間はあと少し、あと少しで良いのだ――立ち塞がってでも時間を稼ぐと。
 その身を晒して注意を引く。
 注意していた眠りの砂……その力を放ってくる様子はない。もうないのか使えないのかは分からないが、いずれにせよ奴を自由になんてさせない。
 私がみんなを守る。
 必ず護る。だって、だって――
「カノンさんの様な悲しい想いは――もう誰にもさせたくないんだ!」
 かつての涙は一度だけで良い。
 あんな物語はたった一夜だけで良いのだ。
 二度となんてさせるか――絶対に好きに何てさせるか――ッ!
 硬い決意。振り絞った一歩が、確かにそこに在って。

「それは」

 瞬間。
「それは――ああ実に申し訳ないのですが――」
 ザントマンの瞳が夏子達を向く。
 そして、語る言葉は。

「カノンというのは誰の事ですかな?
 先程も申し上げましたが――売り払った幻想種の名前は、憶えていないものでして」

 ただ一つ。
 不幸を齎した輩の事など覚えていないと。
 紫髪の少女の事を――熱砂の恋心の事など。
 頭の片隅にもないのだと囁いた悪魔の忘却。
 直後。暗黒の球体が全てを呑み込む様に――爆砕した。


 此岸ノ辺はイレギュラーズ達のワープポータルとして機能している。
 元来はそういうものではなかったが……絶望の青を攻略し、外のイレギュラーズがこの地に到達した時に紡がれた縁で、空中神殿とのリンクが発生したのだ。

「つまりですな――この地を破壊すればリンクを完全に断てるつもりだったのですよ」

 言うはザントマンだ。巫女姫の行動に呼応した目的はソレだったのだと。
「これからこの国には厄災が降りかかる。その邪魔を貴様らにしてほしくはなかったのです」
「はッ、ぁ ――っ、ぅ」
「残念ですな――もう少し時間に猶予があれば完全に破壊する事も出来たのですが」
 足元に在るのはアレクシアとルクトだ。
 アレクシアはザントマンの足首を掴みながら決して離さない。
 五指に力を。振り絞り、行かせまいとする意志が残っている――先の炸裂の直撃を受け、もはや意識は朦朧としながらも強い意志が彼女を踏み止まらせているのだ。激しい呼吸と動悸はあるが、命は確かにそこにある。
 そんな彼女を捕えさせまいとルクトは飛翔し、されどルクトが空に浮かべると戦況の初めから視えていたザントマンは撃ち落とす様に魔力を走らせ……

 そして今に至る。

 時間は稼いだ――突破こそ許したものの、甚大な被害をザントマンは与える事が出来なかったのだ。イレギュラーズの援軍が訪れれば流石に面倒で、破壊活動の途中で奴は撤退の選択をした。
 突破はされたがザントマンの狙いも半分は阻止した。これは痛み分け――
「い、か、せない……よ、ぜったい、に……」
「ンッふっふ。いや本当に可愛らしいですな――お友達が必死になるのもよく分かる」
 と言えるかはさて、だ。
 想起せしは先の最後。掴みかかるアレクシアらをそのまま連れながら突破しようとした時。
 襲い掛かってきたのだ――ルル家が。最後の力を振り絞って。

 ――私の友達に……手を出すなぁ!!

「鬼気迫るとはああいう事を言うのでしょうな」
 はたくように地に叩き付け、空いている足で蹴り飛ばしそのまま歩を進めたが。
 ああ――友情とは美しいモノだ。反吐が出る。
 肉腫の性がアレを壊せと囁いて。
「お友達なら『目』を同じようにして差し上げましょうか」
「……ッ! や、やめろ……ッ!」
 瞬間。アレクシアの片方の目へと指を巡らせる。ルクトが思わず叫ぶが、抗う力が残っていないのか手を伸ばせど届かず。
 網膜に食い込むザントマンの指。
 鈍く走る痛みが、眼球に急速に血液を走らせ。
 アレクシアの喉奥から苦悶の囀りを――
「ンッ――ふっふっふっふっふ冗談、冗談ですとも!
 今宵は巫女姫殿の為に来た次第。人質となり得るものを傷つけては――叱られる!」
 ぱっ、と手を離す。
 さぁさ遊びは終わりだ。撤退の為に適当にガストラフェテスに暴れまわらせているが。
 機動力の無いあやつではその内滅ぼされるが関の山。

 その前に帰りましょう。さぁさぁさぁ帰りましょう。

 これからが――楽しい時間なのだからと。

成否

失敗

MVP

イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫

状態異常

夢見 ルル家(p3p000016)[重傷]
夢見大名
コラバポス 夏子(p3p000808)[重傷]
八百屋の息子
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)[重傷]
紅炎の勇者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[不明]
蒼穹の魔女
ルクト・ナード(p3p007354)[不明]
蒼空の眼
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)[重傷]
目的第一

あとがき

 ンッふっふ。
 MVPは戦線をよく支えた貴女へ。

 ありがとうございました――

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