シナリオ詳細
豪華客船極上宝石強奪ツアー
オープニング
●空宝石の鑑定書
正式名称:スカイダイヤライト
略式名称:空宝石
4C評価基準(希少性と美しさ)
Carat(重量):5.0ct=11.0mm(極希少)
Cut(輝き):3EX H&C(極上)
Color(色):D Colorless Sky Blue(蒼空の透明色)
Clarity(透明度):FL(内外部無欠点)
●空宝石の逸話
もし、あの澄み渡る蒼空をもう一度だけでも飛べたのならば……。
飛行種のピジョンは自宅の床に臥しながら窓の外の大空を眺めていた。
不治の病に冒された彼女は既に翼がもげていて羽ばたく事が叶わないのである。
「また空の景色を見ていたのかい? 実はね、今日は君にプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるかな?」
ピジョンの夫であるトビィは宝石箱を懐から取り出すと蓋を丁寧に開放した。
箱から登場した贈呈品は空宝石(スカイダイヤライト)のペンダントだ。
「あら? 貴方、本当にこんな素晴らしい物をくれるの?」
「勿論さ。このペンダントの空宝石は蒼空への飛翔を象徴している。今の君に対して何が出来るか考えた所、このペンダントを創作したんだ。まあ、僕は宝石職人だから、これぐらいの些細な事しか出来ないのだけれど……」
顔を緩めて嬉々とする妻の首元には早速ペンダントが装飾された。
この蒼空色のペンダントがあれば、きっと、彼女は心だけでも大空を飛べるはず。
「貴方、ありがとう。本当に気に入ったわ。これ、一生、大事にするわ。もしかしたら、このお守りのご加護で病気が良くなるかもしれないわね」
「そうだな。空宝石のお守りが必ずや僕達を救ってくれる事だろう」
時に運命の神様は残酷でもある。
ペンダントを贈呈したわずか数日後に最愛の妻は亡くなってしまう。
悲愴な結末に心を打ち砕かれたトビィは宝石職人を辞めてしまった。
そして酒に溺れて明け暮れる日々が続いたある日の事……。
「おい? 動くな! 手を挙げろ! 空宝石のペンダントを出せ!」
「は? なんだ、君達は!? 渡す訳がないだろう!」
野盗の類が空宝石のペンダントの噂を聞きつけて強盗に来たのだ。
妻の形見を奪われまいと必死に抵抗したトビィは銃殺の最期を迎えた。
「やったね、兄貴? この空宝石のペンダントを店に売れば大金持ちだ!」
「いいや、闇オークションに流すんだ。足が付かないように!」
やがて時は流れて、空宝石のペンダントも闇から闇へと流れて行った。
現在では『幻想』貴族のナル男爵の所有物となっているそうだ。
「ナル男爵様、ご覧下さいませ。これが噂の空宝石のペンダントです。ついに先日の闇オークションで入手しました。男爵様もお気に召して頂ける事でしょう」
「おお、執事よ! これは何たる眩い蒼空のような極上宝石だろうか? ……ふむ、良い事を考えたぞ。この宝石で豪華客船ツアーをやろう! 貴族仲間を集めて船内で宝石の展示ショーをやるのだ! ふはは、今こそ儂の威光をひけらかす時よ!」
●空宝石の強奪依頼
「今回、皆さんにお願いしたい事は、空宝石のペンダントの強奪です。実は、近日中にナル男爵という人物が主催する豪華客船ツアーが『幻想』沖で開催されます。その際に件の宝石のペンダントが展示されるそうですので、奪って来て貰いたいのです」
『鉄騎学者』ロゼッタ・ライヘンバッハ(p3n000165)があなた方に依頼を相談する。
まずもって、ロゼッタは空宝石のペンダントの経緯の解説から始めた。
「……、という逸話もありました。つまり、今回、奪って頂きたい空宝石のペンダントという逸品は、由緒正しい宝石職人の巨匠が創作した真作となります。現在ではとても信じられない程の値段が付けられています。例えば、無人島でも戦艦でもある程度の巨額の物がお釣り込みで購入出来てしまう程とお考え頂ければ良いでしょうね」
依頼内容から推察する所、今回の問題となる宝石は正に極上品であるだろう。
しかし、なぜ、呪われた逸話を持つ危ない匂いの宝石強奪が依頼されるのか?
「当依頼は『幻想』治外法権の『監獄島』を支配するローザミスティカという謎の女性からです。詳しい事情は教えて頂けませんでしたが、ともかく、空宝石のペンダントが必要なので強奪してでも調達して欲しいとの事です」
さて、一体なぜ、『監獄島』は空宝石のペンダントを欲しているのか。
軍資金の為であろうか、希少品の蒐集の為だろうか、まさか正義の為か……。
「では、豪華客船ツアー詳細の書類をお渡ししますね。ただし、私達も努力はしましたが、情報が出揃っていません。その上、皆さんは船内へ侵入する所から開始して頂く必要があります。大変かつ危険な依頼になるかとは思いますので、どうぞよろしくお願いします」
豪華客船ツアーの厳しい包囲網を突破してぜひとも極上宝石を確保して頂きたい。
故宝石職人の想いに報いる事はもう出来ないが、ローザミスティカに恩を売る事はこれから出来るかもしれないから。
- 豪華客船極上宝石強奪ツアー完了
- GM名ヤガ・ガラス
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年10月02日 22時35分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●侵入
本日、豪華客船にて空宝石展示ツアーがナル男爵により開催される。
『幻想』沖への出港に向けて男爵の警備隊が港で隊列を組み集合していた。
(さて、面白い作戦の時間が始まります。無事成功できる様、尽力しますねぇ)
警備隊に紛れ込んだ『夜に這う』バルガル・ミフィスト(p3p007978)が内心で思う。
彼は審査を受けた上で完璧に警備員に成りすましている。
「本日の豪華客船ツアーでは空宝石を狙う賊共も出没する事だろう。怪しい人や物を発見したら必ず報告連絡相談は行うように!」
「はい!」
警備隊長から指令を受けてバルガル含む警備隊員らは威勢の良い発声で返した。
船が出航して低速度で沖へ向かう。
(えひひひ、盗みと言えば――泥棒の出番ですよねぇ? 私に声をかけて良かったと思わせて見せましょう)
貴族令嬢が内心で妖しく笑うが、その正体は『こそどろ』エマ(p3p000257)である。
綺麗なドレスに美麗な化粧と経歴捏造で変装するが今の所船内の誰もが彼女を疑わない。
(では、ナル男爵を探しましょうか。それと彼の付近にいるボディガード、あとは同業者にも注意ですかね)
午後一時には空宝石強奪作戦が本格的に決行される。
船内のデッキでは貴族令嬢達が談話をしていた。
「はい、私も空宝石を観るのが楽しみでの参加です」
盛り上がる宝石の話題に頷くのは『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)である。
彼女も偽名を拵えて貴族令嬢に扮して参加しているのだ。
(身を飾る石などいくつもお持ちでしょうに、悲劇のついたアクセサリがお好みなのでしょうか。依頼主の美的感覚は素晴らしいと思いますが、趣味については合いませんね)
と、内心ではツアー参加等は勿論楽しみではなく熱心に仕事をしている。
彼女は時々、談笑しつつも不審な行動を取る人物を警戒していた。
船上では身形の良い老貴族男性が胸ポケットから招待状を覗かせて散歩していた。
「輝煌枝」特有のパライバ・トルマリンの立派な角は大きな帽子で隠している。
その正体は『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)である。
(僕は宝石をこういう見世物にするのは好きじゃないんだよね。僕らの角を殺してまで取った奴は大体そういう事に使うからとっても腹立たしい。だから今回は奪い取ってやるよ)
彼は内心燻る動機もある為に今回の強奪作戦に参加している所もあるだろう。
その昔、孫のヤロスラーフが密猟者に狩られた痛烈な思い出もあるからだ。
船上デッキの見晴らしの良い所に貴族令嬢が独りで立つ。
その正体は貴族の名を騙り潜入した『Enigma』ウィートラント・エマ(p3p005065)だ。
彼女は誰と会話する事もなく、皆の配置を俯瞰しながらも内心で物騒な事を思う。
(宝石にまつわる悲劇の連鎖、でごぜーますか。のちの時代には呪われた宝石として語り継がれていそうでありんすね? くふふ、この宝石にどんな逸話があろうとわっちらには関係なき事。わっちらも強奪する事に変わりはないんでありんすから)
船上では様々な貴族婦人や貴族令嬢が行き交う。
とある貴族令嬢は女性達の脚の動作や足元を熱心に観察していた。
美脚を、いいや、不審者か否かを観察して判断する偽令嬢は『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)である。
(人の脚を頂くのは得意ですが、宝石となると初めての経験でごぜーますねー。そんな経験もいつか役にたつかもしれねーので真面目にやりますー)
隙あれば殺人して脚を持ち帰りたいそうだが、本日は残念ながら強奪作戦の日である。
名門貴族のバルドー家が船上を優雅に通行する。
一門の最後尾には『海洋』出身の獣種メイドである「ピオッジャ」が続く。
(ローザミスティカさんは個人的に嫌いでないので協力するのですが。……しかし、どういうつもりで純然たる強盗を依頼してきたのやら)
メイドの仕事を遂行しつつも監獄島の依頼に思いを巡らす彼女の正体は『生まれたてのマヴ=マギア』クーア・ミューゼル(p3p003529)である。
「警備員さん? あそこにコソコソしている賊らしき者達がいるかもなのですが?」
クーアはメイドに成りすましつつ本日の敵かもしれない賊の観察にも力を入れていた。
案の定、クーアが警備員に告げ口した賊らは早期発見で逮捕された。
船上後方のデッキは人が少なく上空から潜入するには最適だろう。
『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)がひらひらと大空から舞い降りて来た。
「しにゃも宝石欲しいなー……。まぁ今回はローレットに納品しちゃうんですけど!」
以後、彼女は作戦決行の午後一時までは船内で潜伏待機である。
●窃盗
午後一時、船上前方のデッキで豪華な立食パーティが定刻通りの開催となる。
エマは貴族令嬢の名を騙りナル男爵と懇意にさせて頂きたいと挨拶へ伺う。
「流石はナル男爵様です。ぜひ私もかの有名な空宝石のペンダントを拝見したいです」
「わはは、今日はぜひ儂の宝をとくと観覧しなされ……」
煽て上手なエマはナル男爵を持ち上げた上に空宝石をべた褒めしつつ機会を待つ。
やがて昼食会では群衆で混雑する程に船内人口がここに集中するが……。
「おっと……失礼しましたー」
「あらら!」
美脚の貴族令嬢、いや、その正体ピリムがエマと肩から衝突してしまう。
船内人口の密度が高い故の「過誤」を装ってピリムがそそくさと退場する。
「男爵様、大丈夫ですか?」
「うむ。儂は大丈夫。君も怪我はないか?」
衝突されたエマを心配するナル男爵だが真に心配されるべき人物は彼の方である。
ピリムと突然の衝突のどさくさに紛れてエマがナル男爵の胸元から金庫の鍵束を盗んだ。
エマは「お花を摘みに行く」という話を出すと男爵へ詫びを入れた後に立ち去った。
船上デッキの通行路でエマはムスティスラーフと偶然を装って擦れ違う。
擦れ違い様にエマがひっそりと手元を動かして鍵束をムスティスラーフの手元に渡す。
刹那の出来事だが譲渡行為が終わると二人は何もなかった様にその場を去る。
「すみません? 身体検査をしても良いですか?」
エマがナル男爵のボディガードである女性に手元を掴まれて呼び止められた。
もしかすると鍵束を盗む瞬間を目撃されたのだろうか、ガードの女性はエマを睨む。
しかし、個室で身体検査をしても何も出て来ないのでエマは謝罪されて釈放された。
「おい、そこの男? 身体検査をさせろ?」
ナル男爵の別のボディガードである男性がムスティスラーフを掴まえて質問する。
どうやらエマからムスティスラーフに鍵束を渡す偶然を装う瞬間を目撃されたらしい。
だが、個室で身体検査をされても何もなく無罪放免で解放された。
一方のムスティスラーフは鋭いガードを騙し切れてほっと胸を撫で下ろす。
(トリックの正体はギフト(我が見えざる手)だよ。不自然さがない様に鍵束を袖の中でないないしていたよ)
エマとムスティスラーフがそれぞれ別々に個室へ連行される姿をしにゃこが目撃した。
あの熟練の二人であればガードぐらい騙し通せるだろうが保険も掛けておきたい。
しにゃこは人混みが少ないデッキ後方へ駆けながら大声で叫ぶ。
「わー! 見つかっては仕方ない! 逃げろー!!」
何が「見つかった」かを宣言せずに「見つかった」事を強調して逃走する。
しにゃこが仕掛けた陽動に釣られて警備隊やボディガードが追走した。
しにゃこが陽動している最中に瑠璃が周囲を観察していた。
空宝石強奪の前段階としてナル男爵から金庫の鍵束を狙う敵共を警戒して。
どうやら鍵束を持って金庫へ向かうムスティスラーフを追う不審者が数名いた。
「おっと、ごめんなさい?」
地下へ向かう途中の彼らを瑠璃が背後から奇襲して閃光の不殺技で卒倒させた。
ウィートラントは透視能力で警備や他勢力の動向を監視していた。
時には金庫のある地下室の上層から、また別の時には壁や柱を見透かして。
ウィートラントは自らの立ち位置に気を配りつつも周辺の味方へテレパスを送る。
『警備の人数と配置は……でありんす。また、他勢力がそちらへ接近していて……』
最終的には、男爵付近に残るエマ、陽動のしにゃこ、警備現場にいるバルガル以外の全員を金庫室へ誘導した。
地下の金庫室に一番乗りで到達したのは機動力と反応速度に長けるクーアだった。
エマが成功したのを見届けた後、ウィートラントの誘導で金庫室へ急行した。
「とうっ、そこで寝るのです」
クーアは金庫室前の警備隊を閃光の一撃で奇襲して卒倒させた。
金庫室前でのクーアの襲撃に続いて特異運命座標の仲間達が続々と集う。
その一方で警備員も仕事が増える為、当然にバルガルも「警備員」としての仕事がある。
「大変です、あちらでも賊の襲撃があります! 皆さん、至急応援に向かって下さい!」
バルガルが鬼気迫る形相で警備仲間に応援の要請を伝えて目的地へ誘導する。
偽の目的地への誘導は陽動であり、彼の真の目的は金庫室から警備員を減らす事である。
●戦闘
船上デッキ後方で多数の警備員と手練れのボディガードにしにゃこが追い込まれた。
彼女の一歩後ろは、もはや蒼々とした海面でいよいよ後がない。
「しにゃ、いっきまーす!」
しにゃこが可愛いらしい傘の形状をした殺人ライフルを乱射する。
鋼の驟雨がデッキ船上に嵐の如く降り注ぎ警備隊を蜂の巣へと変える。
一方、手練れの黒服は銃撃で倒れずにしにゃこの付近まで回り込んだ。
熟練の格闘技術を持つ黒服と至近戦になったしにゃこは運命の欠片を奪われた。
「や、やられたぁー!」
そのまま彼女は海面へ突き落されて落下と同時に盛大な水飛沫を上げる。
仕留めたと確信した黒服は以後、彼女を追わず男爵の元へ急いだ。
「ふぅ……。危なかったぁー!」
実際にしにゃこは海の藻屑として消えた訳ではなく船の外周にぶら下がっている。
水飛沫を上げて敵を錯覚させた後は飛行して外周付近へ避難していたのだ。
ウィートラントは仲間の誘導に尽力していたがその一方で彼女自身もマークされた。
彼女が船上の渡り廊下まで移動すると前後から警備隊の挟み撃ちに遭う。
「囲まれた場合はやむなしでありんす。戦うでごぜーますか……」
幸いにも彼女を包囲した警備隊の中に手練れはいなかった。
衝撃術で吹き飛ばして、聖光を投擲して、警備員の数を減らしていく……。
適当な所まで戦った後にウィートラントは逃走して行方を眩ませた。
「賊のボスが見つかったと?」
「はい、隊長。賊が隊長を呼び出していますので急ぎましょう」
警備隊長と会話をしている部下はバルガル扮する警備員である。
隊長室まで現れたバルガルは賊の件で重要な話があると持ち掛けていた。
緊急時で隊長自らも出陣するが、彼が扉を開ける瞬間に背後から必殺槍が突出する。
「ぐはっ……。な、なんだ、これは……?」
「ごめんなさい隊長。自分も仕事でしてね」
バルガルが隊長の隙を突いて背後から刺殺で出血死させたのである。
入隊面接時の隊長の温かな対応が鮮明に記憶に残るが今は感傷に浸る場合ではない。
「た、隊長!? お、お前、何を?」
数人の同僚達が何かの事情で隊長室へ現れて犯行現場を目撃してしまった。
バルガルはやむを得ず暗殺格闘を華麗に舞って元同僚を次々と殺害する。
「『ヘヴン・セブンスレイ』で葬られた君らは、たぶん、天国行きでしょうねぇ」
金庫室前でムスティスラーフは青ざめて焦燥していた。
「え、嘘……。鍵束がないよね?」
「鍵束がどうしました? 金庫室ですが扉を開けておきましたよ?」
怪盗紳士はご丁寧にも開錠してくれた上にムスティスラーフに鍵束を返してくれた。
妖しい燕尾服の男の登場に対して悪の道に精通するムスティスラーフは直感した。
「……義賊のボスだね?」
「ご名答です名探偵。そして空宝石は我々が頂きます!」
流石に金庫室前は各勢力の激戦区となり乱闘が始まる。
ムスティスラーフは一方で警備隊を緑の閃光で蹴散らして、他方で賊を雷撃で怯ませた。
厳しい混戦となるが怪盗紳士だけは未だに倒れずに奇抜な奇術で反撃して来る。
俊敏な怪盗の動きで至近距離まで回り込まれてムスティスラーフは蒼の剣を抜刀した。
「勝負だ、怪盗。例えこの身が砕かれようともこの心までは砕けないよ」
「望む所です、おじいちゃん!」
誇り高きタンザナイトの剣と怪盗の怪奇二刀流が剣戟を交わして火花を散らす。
視認不能の斬撃嵐を受けてムスティスラーフから運命の欠片が飛翔する。
「くっ、負けないよ。僕らも空宝石は譲れないからね……」
ムスティスラーフが手練れの怪盗と対決したお陰で仲間達の被害は最小限に抑えられた。
ムスティスラーフが激闘する中、瑠璃は周辺の警備員と目撃者を片っ端から排除する。
狐面で顔を隠して仕事をする瑠璃だが、とある人物に攻撃を回避された。
勿論、瑠璃が手を抜いた訳でもミスした訳でもなく、相手が手練れだったのだ。
「ふむ、賊か? 我が名はギル子爵、拳闘の使い手である。いざ、相手を致そう」
子爵は拳を構えると猛速度で連続打撃を瑠璃に放ち圧倒する。
一方の瑠璃も鋭利な魔眼と鋭敏な神秘撃の捌きで反撃するが埒が明かない。
(打撃は重いけれど単調ですね? もしかして……)
瑠璃が暗黒の痛覚を凝縮した神秘魔術で子爵を捕らえると彼は見事に苦悶した。
「やはり状態異常に弱い方ですね? では、さようなら、子爵さん」
瑠璃は真剣に相手をしてはいけない人物だと判断して戦場から離脱した。
金庫室の奥へクーアとピリムが苦難の果てに辿り着く。
最奥ではクーア達、金庫番のロボ、飛行種義賊のボスの三すくみとなった。
初手でクーアの神聖なる閃光の一撃と飛行種ボスの渾身の爆撃を受けてロボが沈んだ。
金庫番が破壊されて金庫が開くと蒼空の様に澄んだ眩い光を放つ空宝石作品が現れた。
「すまぬが手を引いてくれまいか? 俺はあの空宝石作品の亡き匠の旧い友人でね」
飛行種ボスが小型炸薬で牽制するがクーア達にしても強奪作戦をしくじれない。
「鳥さん、無理なのです。それとピリムさん、私が戦うので宝石の方をお願いするのです」
火炎遣いと爆薬遣いが激突を開始して烈火の如く鎬を削る。
「ふん、落ちろ猫!」
熾烈な小型爆撃の数十回連鎖攻撃を受けてクーアから運命の欠片が燃え尽きる。
「はぁはぁ、危なかったのです。ですが……」
一方のクーアが霊薬を撒き散らして炎と雷の奔流を巻き起こした。
幻燈術奥義―酔生夢死―が飛行種ボスを夢幻の彼方へ呑み込んだ。
火力対決の激闘の最中、ピリムは飛び火に気を配りながらも空宝石を確保する。
素晴らしい価値を背負い呪われた輝きを放つ空宝石のペンダントを手に入れたが……。
「宝石なんかにさらさら興味はねーですが、仕事ですので頂きますー」
物を魔法箱に仕舞うとピリムは箱を抱えて火炎地獄の渦中から逃走する。
道中、警備やら賊やらの雑魚共を相手にする事になるが脚殺や瞬殺で応対した。
「邪魔になるので始末されてくださいましー」
逃げ足の速さが一流のピリムは多数の敵勢を巻きながら約束の場所へ急いだ。
「ふむ? 船内が騒がしいな?」
「そうでしょうか男爵様? それよりも私、武勇伝の続きが聞きたいですねぇ」
疎いナル男爵も流石に強奪作戦の騒動を認識して大慌てになる。
エマも男爵をこれ以上抑え込む事が出来ないと判断すると会釈して別れを告げた。
(さて、そろそろ脱出の頃合いですね。私も急ぎましょうか……)
●脱出
ムスティスラーフはピリムが空宝石を箱で抱えて逃走する様を一瞥すると微笑した。
対戦して引き分けた怪盗に礼と別れを告げると大急ぎで約束したデッキへ向かう。
「皆、急いで? 脱出するよ」
ムスティスラーフがボトルを開封すると中の模型が原寸大の船として登場した。
この船で共に逃走する仲間達が無事に集合すると彼が船長となって出航する。
ボトルシップには船長他、逃げ切ったピリム、いつも以上に黒焦げなクーア、スーツ姿で警備を巻いたバルガルが乗船している。
今度は海上で賊の追手や海獣の類とも激闘する事になるが……。
ムスティスラーフが巧みな船操作で舵を切り、ピリムが宝石箱を決死で抱え、クーアとバルガルが火炎攻撃で応戦した。
海上の経路でも色々と苦戦したが、この班は最後まで無事に逃げ切る事が出来た。
戦線を早々に離脱した瑠璃の仕事は各地に散らばる仲間の回収である。
通路でエマと合流して、外周にいたしにゃことも合流した。
船内のボート船着き場では先行していたウィートラントが瑠璃の船を見張っていた。
稀に警備や賊からも船が狙われたが彼女が撃退してくれたのである。
「皆さん、乗りましたね? さあ、私達も逃げましょう」
瑠璃が号令を掛けると組立式小型船を操縦して脱出する。
後発隊の彼女らも海上で最後の激闘をするが船長以外の三人が応戦して逃走した。
この班も苦戦の末に最後まで無事に逃げ切ると先発隊の船と港で合流を果たせた。
特異運命座標が空宝石のペンダント強奪作戦に見事勝利した。
監獄島側の真意は未だに不明だが今回の貢献は多大なアピールとなる事だろう。
了
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
シナリオ参加ありがとうございました。
皆さん、それぞれ鮮やかな怪盗ぶりでした。
GMコメント
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
なお『監獄島』からの危険な依頼ですので成功すると追加報酬(gold)が出ます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
●目標
空宝石(スカイダイヤライト)のペンダントの確保。
●ロケーション
『幻想』沖で開催される豪華客船ツアーの巨大な船内が今回の物語の舞台です。
ナル男爵主催の空宝石を観覧するツアーには多数の著名人が参加しています。
皆さんは、参加者になりすますか、他の船から仕掛けるかして船に侵入します。
●スケジュール
空宝石を巡るツアーのスケジュールをお知らせします。
以下、いずれかの時間帯の隙を突いて空宝石を強奪しましょう。
正午過ぎ:船が『幻想』沖へ出港します。
群衆が多い上に警備が厳重過ぎて空宝石に近づけません。
午後一時:立食の豪華昼食会が船上デッキで開催されます。
空宝石は地下の金庫内です。金庫周辺には警備隊がいます。
ちなみに金庫の鍵はナル男爵が手放さずに所持しています。
午後三時:空宝石が船内の広場で豪華な箱に入って登場します。
空宝石が展示されながらナル男爵の自慢の解説が入ります。
空宝石のガードが軽くはなりますが群衆や警備隊等の目前です。
午後五時:船がツアー終了に向けて『幻想』陸地へ帰港します。
空宝石が再び地下の金庫内へ送られます。
金庫の状況は午後一時と同じかと思われます。
ただし、そろそろ皆の疲れが出る頃でしょう。
なお、船が完全に帰港したら強奪の機会がない為に「失敗」となります。
空宝石の強奪に「成功」したら最後はローレットへ渡しましょう。
●敵
今回、情報精度の悪さから具体的に「誰が」船にいるか詳しくわかりません。
まず確実にわかっているのはナル男爵です。
男爵は船成金の『幻想』貴族の人間種であり戦闘力は低いです。
彼の周囲には常にボディガードか警備隊がいます。
噂では最近、手練れのボディガードも雇ったそうです。
そして船内の金庫、船上デッキ、船内広場等に警備隊がいます。
警備隊は至近から中距離の通常攻撃程度のみで強くはありません。
ですが、数はいます。
また厄介な事に空宝石を狙っている別の勢力も紛れています。
何かしらの理由で空宝石を欲しがる貴族や義賊等もいる事でしょう。
なお海上にはツアーと関係がない魔物が多数います。
船へ接近するか船から離脱する場合は未知なる海獣との戦闘もあり得ます。
●GMより
かなり久しぶりに悪属性依頼に復帰したGMのヤガ・ガラスです。
「怪盗参上!」みたいなのを無性にやりたくなる時ってありませんか?
当依頼は、そんな皆さんの怪盗願望をストレートに叶えるお話です。
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