PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京Latest:NO BODY

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●マスコットの王
 ――レクス=フォン=ガリアン4世。
 それが実名であるか定かではないが、そのハムスターの獣人はラサの獣人傭兵部隊『ハウリングクラスター』の支配者であった。
 ラサの傭兵というのは、お国柄のせいもあって練度が高い事が多い。彼の部隊も例に漏れず、精鋭の集まりである。
 人質を取って立て籠もる犯人も討ち取った覚えのあるスナイパー、拳銃を花束に仕込んで各国家から情報を集め続ける情報屋……そんな者達の支配者である彼自身も、とある仕事の為に『再現性東京』へ潜入を行っていた。
 とある仕事というのは……。

「やぁ、皆の衆。我こそはこの園の王であるぞ」
「きゃー! はむすたー!」
「うむ、くるしゅうない。我より小さき子よ。食事を食べて我より大きくなるのだぞ」
 ……全天候型テーマパーク『クリトル・リトル・プラネット』でマスコット業に勤しんでいた。別に、部隊の為に偵察の任を請け負ってだとか、金欠にあえぐ部下の為にバイトをしているとかではない。彼個人の趣味である。
 レクス=フォン=ガリアン4世は、その特異な人柄から部隊内外問わず『マスコット』と扱われる事が多かった。
 とはいえ、本人もそれを嫌がっているわけではない。むしろ好ましいとさえ思っている。わざわざ練達の再現性東京に忍び込んで“テーマパークの責任者に無断で混ざる”くらいには楽しんでいる。

 ガリアン4世はマスコット業務という妙な趣味を持っているが、同時に人格者であった。
「小さき子らが危ない目に遭わぬように、ゴミを拾っておこう。足を取られて転んでしまっては大変だ」
 何処に居ても大体そんな感じで『よき支配者』として振る舞おうとする。おかげで自分が支配する部隊からの評価は疎まれるお飾りにあらず、部隊の象徴(マスコット)として傭兵達からその信頼を得ていた。
 下を向いて入場者が捨てていった空き缶やら何やらを拾い歩いていくガリアン4世。ヒトケのない通路にまでくまなく拾い集めていると、テーマパークの正規マスコットである着ぐるみとぶつかった。
「おや、失敬。怪我は大丈夫かね?」
 正規マスコットの頭部が外れ、ごろんごろんと転がっていく。
 これが入園者の前で起きていた事なら、泣き声があがっていただろう。なにせ着ぐるみの中に人がいると知らぬ幼子達は――

 うじゅ、うじゅ。
 ガリアン4世の視界に、そんな光景が広がる。
 なんだ、中身は亜人の類か?
 それがなんであるか理解するにおよそ一秒弱。
 まずは、それは人の形にあらず。何かの集合体が首の断面の中でうねっていた。
 見た目は豚と牛の挽き肉のようである。肉質な繊維が、一つ一つイトミミズのようにうねって、それらが意思を持って着ぐるみを内部から動かしている。
「あぁ、ごめんね。首が取れちゃったみたいで――」
 肉の一部が声帯のように穴をぱくぱくとさせて。マスコット調の声を立てる。うぞうぞと微かな音を立てながら、ミミズの集合体じみた肉塊は着ぐるみの外に這い出た。
 ――夜妖。
 ガリアン4世の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。間髪入れずに、その肉の塊は目の前の100センチハムスターを取り込もうと遅い掛かるのであった……。


「……しかし、王(キング)たる我は夜妖如きに屈したりはせぬ。予めマントに仕込んでおいた暗器をいくつか撃ち放ち、その窮地を脱する事に成功したのだ」
 このハムスター、取り込まれてなかった。「じゃあ、なんで此処に来た」と言いたげに『狗刃』エディ・ワイルダー(p3n000008) が目を向ける。
「我が頼みたいのはそこよ。我はその肉塊を処理した後に他のマスコットを、着ぐるみを、閉園時間までずっと窺った。……脱いだその中身は肉塊。夜妖は一体にあらず。他の着ぐるみの中にも紛れておったのだ。全部で何体いるのか見当もつかぬ」
 ガリアン4世は語る。クリトル・リトル・プラネットには少し前から怪談話があった。「マスコットが雇用した人数以上に増えている時がある」というものが。
「おそらくは、前々から夜妖が着ぐるみの中に潜んで、客やスタッフが一人になったところを狙って襲おうと画策していたのであろう。ゆえにこのような怪談話が……ん、どうしたドーベルマンの傭兵よ。そのように頭を抱えて」
 鶏のミンチが先か巨大ハムスターが先かなんて話はこの際置いておこう。エディはそう思い立ち、大きく頷く。
「貴方の言いたい事は分かった。それらを退治すればいいのだな?」
「話が早いな。ローレットの。しかし、今から最速で踏み込んだとしても開演時間の直後。無理にやって騒ぎを起こせば、夜妖が一般人を巻き込んだ大虐殺に出るだろう」
「では閉園時間まで待つと?」
「却下する。閉園まで待っていれば一般人の被害が出ないとも限らん」
 ……言っている事はもっともである。相手がヒトに紛れ込む怪異である以上、そういうビジョンは想像するに容易い。実際、ガリアン4世という襲われた生き証人もいるのだから。
 しかし、ローレット側から「怪物が着ぐるみの中にいる。スタッフ・一般客共々避難させて下さい」とテーマパーク側に通報しても、おそらく打開策にならないだろう。彼ら自身は夜妖を認めたがらない。責任者に鼻で笑われて通話を切られるか、話が通じても一般人が大パニックの避難劇を引き起こして何人も夜妖の犠牲になるか……そのどちらかだ。
「夜妖は名前もない怪物――否、便宜上『NO BODY』とでも名付けておこう。君達に任ずるは『多くの犠牲者を出さず、着ぐるみに潜んだそれら全てを始末する事』だ。混沌で名を馳せた傭兵ギルドであるならば、これくらいは軽いものであろう?」
 ガリアン4世はわざとらしく尊大に振る舞った後、「小さき民を救え。ローレットの」とその場に集まった者達に命じた。

GMコメント

●情報精度
A
 ガリアン4世のオープニングで言っていた事や、事前情報として持って来てくれた事柄は正確です。

●成功条件
・一般人の犠牲者を必要以上に出さない事
 一人でも死亡者が出ればその日の閉園まで隠すのが難しくなり、クリア出来てもかなり後味の悪い事になるのは確実です。
 複数人も死亡者が出れば確実に大パニックになり、収拾が付かない事態になるでしょう。
 そうなると依頼は失敗と判断されます。
 出来る限り、一人も犠牲者を出さない事を心がけた方がよいでしょう。
 大騒ぎになっていない事から、とりあえずまだ犠牲者は出ていないようですが……。

・エネミー『NO BODY』を全て排除する事
 一体でも討ち漏らして帰った場合、その日の夜にスタッフの誰かが犠牲になって大騒ぎになっているでしょう。

●環境情報
 場所は再現性東京Latestにある全天候型(屋内施設)テーマパーク『クリトル・リトル・プラネット』。開演時間はお昼頃から日没辺りまで。
 それなりに人気で、施設内にはチラホラと親子連れやカップル、学友同士などの一般客を見かける。
 再現性東京において「最先端の技術を知ってもらう・触れてもらう」という目的で電子的な技術コンテンツが集積された場所。
 立体映像が見える大型眼鏡、その映像と連動して動く全方向ランニングマシーン。中空に映像が投影され、それに触れる事でコンピューターゲームが操作できる機械、壁一面に立体映像を映すエレベーターで、映像に映る世界を冒険した気分になるアトラクション……などなどエトセトラエトセトラ。
 一部コンテンツは「保護者や同行者と離れて説明役のマスコット(スタッフ)と一緒に入る」など、マスコットと二人っきりになる状況が多い為、夜妖はこの状況を狙って襲うと思われる。閉園時間直前はスタッフ用通路など、スタッフが襲われる可能性が高い事も留意の事。

 その施設とローレットの連絡・連携は取れていない。取れたとしても夜妖がそちらに潜んでいると伝える事は無謀だろう。
 イレギュラーズが何か思いついて口の上手さに自信があるなら偽りの名目で連絡を取って協力を求めてもいいし、隠密諜報に自信があるなら必要な情報や物資を抜き取ってもいい。
 ガリアン4世曰く「目的の為なら彼らを騙したり盗んだりする事を躊躇う事はないぞ。人命が最優先だろう?」

 確認されたマスコットの着ぐるみはガリアン4世が始末した者を抜いて『20体』。夜妖が何体潜んでいるかは不明。何かしらの手段で全部を夜妖であるかスタッフであるか調べるか、正規に雇用された着ぐるみスタッフの人数を割り出して討伐した数を照らし合わせる必要性がある。

●エネミー情報
着ぐるみ(スタッフ):
 一般人の着ぐるみ役スタッフ。正確にはエネミーではないが、間違えて攻撃でもすると【不殺】の攻撃でない限り大体死ぬ。夜妖に襲われても死ぬ。
 何人いるか現在不明。
 着ぐるみの傾向はどうやら定まっていないので、イレギュラーズもカオスシードやハーモニア以外の獣種、飛行種、海洋種、といった亜人に近い形態のものなら「出来のいい着ぐるみ、あるいはコスプレをしたスタッフ」として違和感なく紛れ込めるかもしれない。それ以上にスタッフとして振る舞い続けるなら要話術。
「てけり。クリトル・リトル・プラネットへようこそ!」

着ぐるみ【NO BODY】
 一般人の着ぐるみスタッフに紛れている。【NO BODY】同士以外で誰かと二人っきりになると正体を現し、襲う傾向にある。
 明るく答える声は人間そのもので、容易に判断が付かない。他者に「完全にバレた」と察知するまで、襲う時以外はスタッフとして振る舞おうとする。
 着ぐるみの上から何かしらの技術で見抜くか、あるいは戦いに自信のある者がわざと囮になって討ち取る必要がある。ガリアン4世曰く『腕に覚えがあるならサシでも1回2回の連戦は何とかなるだろう』程度の強さ。
 ……最大の驚異は『何体いるか不明』という事。
「てけり。クリトル・リトル・プラネットへようこそ!」

●NPC情報
レクス=フォン=ガリアン4世:
 天狼 カナタ(p3p007224)の関係者。
 獣人部隊『ハウリングクラスター』の支配者(マスコット)。
 キングと呼ぶと喜ぶ。くるしゅうないぞ。
 非人道的な作戦でないなら彼はイレギュラーズの作戦に従うでしょう。

*ギフト『永遠の金冠』
 何処にいてもマスコットとして違和感なく溶け込む能力。我は王様であるぞ!
(マスコットとして振る舞っている限り、周囲の一般人には「スタッフではない」とバレないでしょう)

エディ・ワイルダー:
 不殺持ちの戦闘よりで平均的なステータスの人。
 イレギュラーズの作戦にほぼ全面的に従ってくれます。なお話術関連のスキルなし。

  • 再現性東京Latest:NO BODY完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月25日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
酒匂 迅子(p3p008888)
ゴーストオブお正月島

リプレイ

●入場
「こんな素敵なテーマパーク、一体何人のマスコットで切り盛りしてるんですか! 会長とっても気になります!」
 『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)。目的地に到着した彼女は早々に着ぐるみをまとっていない入場券売り場のスタッフにそのような事を尋ねていた。
「そうねぇ、中の人などいない言うけれど……」
 スタッフは冗談交じりに受け答えしようとした。
「おや、お客様と雑談もいいですが。後ろのお客様もお待ちしておりますよ」
 売り場のスタッフは後ろの男性から注意された。どうやらこの園の責任者らしい。
「あぁ、ごめんなさい! お仕事中でしたね! でも――」
 茄子子はあれやこれやその場しのぎの説明をする。男性はそれらを聞いて、短く会話を交わした。
「えぇ、着ぐるみのスタッフが十四人ほど」
 茄子子の言動などの振る舞いに特別怪しいところは感じなかったのだろう。そのように打ち明けてくれた。彼らの素振りから全く話が通じない相手というわけでもなさそうだ。
「着ぐるみ役のスタッフが十四人以上に増えてるって噂がスタッフ間で流行ってますよー」
「お客様の前で変な話するんじゃない」
 まぁ彼らの事情は大体それで察しがついた。

 茄子子は、その情報を周囲の仲間達へ伝達する。
「二人きりになったとき、異形の者に襲われる……そんな恐怖、無辜の方々に味わわせるわけにはいかないわ」
 それを聞き、不安そうに声を紡ぐ『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)。
「だからこそ無辜の民らの為に、我らが夜妖をはらうのだ」
「そうとも、ローレットもその為に――尻尾を引っ張らないでくれ」
 ガリアン、エディ、獣人である彼らは入場直後の子供達やカップルにたかられてた。思いっきり園のマスコットだと誤解されてる。
「てけり。やぁ、キミ達。クリトル・リトル・プラネットに来てくれてありがとう。英知の旅へご案内しよう」
 マスコット然に振る舞う『夜砂の彼方に』天狼 カナタ(p3p007224)。一般客の群れを人払いし、作戦を伝える為にエディとガリアンを一旦連れ戻した。
「私達は二人一組で行動します。エディさん、キングさんは日中は念の為にスタッフ以外立ち入り禁止の場所に潜入してもらいたいのですが……」
「やってはみるが、スタッフに疑われたら取り繕う自信はないぞ」
「むしろ着ぐるみをまとった不審者扱いも有り得るな」
 エディの人柄からして演技や詐術が得意な人物ではない。だが「頑張ってみる」とその提案に添う旨を示した。ガリアンも同じく提案を了承する。
「なに、腕に覚えがあるなら単身でも返り討ちに出来よう」
 ガリアンはカナタの手前な事もあって、自信ありげにそう振る舞う。
 ……それでも不安そうな表情が取れないエディであった。

●銃殺
「着ぐるみに紛れ込むなんて悪趣味な」
 無事に入場後、独り愚痴をこぼす『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)。一般人を騙し討ちする化け物というのは胸糞が悪い。
「今回も全面的に頼りながら会長は後ろで見てるよ!ㅤがんばれ!」
「てめぇも頑張るんだよ」
 冗談か本気か分からない茄子子に、アランは片手で顔を覆い大きな溜め息をついた。
 とはいえ、二人は仕事で組むのはこれが二回目。言葉を交わさずとも、相手の実力や特技はある程度は把握している。
「大丈夫、会長失敗しないので! 腐ったみかんの選定はアランくんに任せるよ!」
「全く、そういうのは柄じゃねェが子供たちの夢を守るためだ。……素早く、手早く、クリーンに決めようぜ」

 真っ先に動きがあったのは、『ゴーストオブお正月島』酒匂 迅子(p3p008888)とラブのペアだ。
 迅子は千鳥足で何処かへ向かい始めた。ラヴは心配そうにそれを追いかける。
 酒を呑みながらふらふらと出歩くサマは、傍目からは酔っ払いだ。
「めでたくねぇなぁ。遊園地に異物なんてのはめでたくないよ、ほんと。まるでおせちに小石が混じっているみたいでさあ。めでたくないねぇ」
 仕事を忘れるほど酩酊をキメ込んでるでもない。着ぐるみを視界に入れる度に眉が一瞬険しくなって、その度に酒を呷ってその表情を和らげていた。そのまま迅子はバックヤードに入り込もうとする。
「てけり!? あぁ、ダメ。こっちはダメだよ!」
 近くに居た着ぐるみのスタッフすぐそれに気付いて、迅子を制止した。
 迅子としては更衣室などで着ぐるみの数を調べたかったのだが、隠密の心得やスタッフのフリを出来る術が無いと難しい。無理矢理にでも踏み入れば作戦に支障が出る騒ぎになるだろう。
 ラブは「キングさんに頼んでおけばよかった」と思いつつ、その場を収めようとした。しかし、迅子の表情がイヤに険しい。砂利を噛み潰したような顔だ。
 ラヴは二体の着ぐるみを片方ずつ注視する。そしてその一体に少しドキりとした。彼女は、相手の強さをおおまかに見定める能力がある。混沌世界において一般人とて強い者がいるのも特別不思議な事ではない。しかし、これは……。
「……。ごめんなさい、この人が休める場所あるかしら……?」
 ラヴからそういわれて、着ぐるみ二体はお互いの顔を見合わせる。そうして片方が「ボクに任せてけり!」と自分の胸部を叩いた。
 その着ぐるみに案内されたのは簡易布団が敷かれた休憩室だ。
「てけり。ここで休ませるといいてけり」
「……ありがとうございます。自動販売機の場所も教えて下さいませんか?」
 ラヴは迅子に買い与える飲み物が欲しいといって、そのように頼み込む。着ぐるみは、迷惑そうな素振り一つせず、ラヴを自動販売機の方へ案内した。
 案内されたのは園内でトイレの場所や自動販売機、ゴミ捨て場といったものが集積された通路である。客が長く留まっている理由もないので、今はちょうどひとけがない。
 ラヴは自販機で飲み物を買おうとした。その後ろでは着ぐるみが無言で立っている。
 静止した状態で、誰も触れていないはずなのに、着ぐるみの頭部がポトリと落ちた。中身からは肉塊――夜妖。それは静かにうごめきながら、ラヴの細首をひねり潰そうと肉を伸ばす。
「酔生夢死とはいえど、酒代を稼ぐ為には眠ってばかりとはいられないものでねぇ」
 首を絞めようとした夜妖へ追跡していた迅子が勢い良く飛びかかり、柄だけの武器にオーラをまとわせて夜妖を斬り払う。
 夜妖はその衝撃で着ぐるみから弾き飛ばされ、全身が壁に激突する。熟したトマトを壁にぶつけた様相を呈しながら、「てけり・り! てけり・り!」と取り繕うようにマスコットの語尾をひたすら繰り返す。
 夜妖はその状態でまだ動ける部位を振り回しながら、イレギュラーズに打撃を加える。いくらかお互いの攻防を展開したのち、好機を見出したラヴが拳銃を素早く引き抜く。
「……夢はもう、お終い。まして悪夢なんて……人に見せるものではないわ」
 夜妖の中心、心臓のような脈打つ部位にその弾丸は放たれた。

●刺殺
「なんかパーンって音しなかった?」
「んー、アトラクションの音だろ」
 銃声で「仲間が一体倒した」と察知する『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)と『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)のペア。二人は暢気な様子の住民達に一抹の不安を感じた。
「楽しいテーマパークにそんな奴が混ざってるなんて、ふつー思わないよね……」
「人の中に潜む夜妖と、夜妖を信じようとしない再現性東京の住人達――この組み合わせは、実に厄介だな……」
 妖は人が見ようとしない闇の中に潜む事を好むものだ。何か転機が訪れなければ、こういった事件は今後も増え続けるだろう。
 そう考えながらも、ひとまず目先の妖を排除する為に自分達も着ぐるみに対して判別を試みた。
 汰磨羈の判別方法は温度視覚である。物体の放射熱を視覚化する。しかし、難点があった。夜妖なら形状が違うから人間とは違う温度分布になるだろうと踏んでいたが、全身を覆う着ぐるみに放射熱が遮られて判別が困難だ。
 汰磨羈は「当てが外れたか」と思い、相方のチャロロに判別方法を改めて問い尋ねた。
「オイラは、特定した感情を探知したり出来るよ。あと、スリーサイズ見分たり。あのマスコットの中、女の人だ。胸おっきい……って、違う!!」
 後者の能力は、何故かお互い気まずい感じがするが……感情探知と聞いて汰磨羈はピンと閃いた。
 放射熱が制限される着ぐるみは、空調の効いているテーマパーク内でさえ異様に暑くなる。先の温度視覚の具合からしても、並の人間なら普通はそう思うだろう。
 汰磨羈は彼と組めた事を僥倖と感じ、確信を持って『暑い』と思っている人を探知する事を勧めた。
「うん、わかった!」
 二人が出くわした着ぐるみはほぼ全員が暑いという感情を抱いていた。一般客がそのような感情を抱いている事もほとんど無いという事もあって、数をこなす事はスムーズだ。
「てけり。次の方どうぞー!」
 そして順番整理をしている着ぐるみと対面した。彼は微塵も『暑い』といった感情を抱いていない。
「ねぇねぇ、しょごちゃんも一緒に入ろうよ!」
 チャロロは子供っぽく振る舞い、目の前のマスコットにそうせがむ。着ぐるみは少し困った素振りをしたが、「少しだけりよー」と愛想良く了承してくれた。
「あぁ、いってこい。他のお客さんがやってきたら声かけるから、そうしたらしょごちゃんをすぐ解放してやるんだぞ」
「てけり! お母さんも気を遣ってくれてありがとう!」
 着ぐるみにそう呼ばれ、汰磨羈の作り笑いがヒクついた。
 それはともかく、チャロロは小型ドームの中へ踏み入った。直後、チャロロはいたずらっ子のように、マスコットの頭部を取り払う。
 うじゅ、うじゅ。そんな光景がチャロロの目の前に広がった。眼前の着ぐるみの正体は夜妖。頭部を外した瞬間、着ぐるみから異様な速さで飛び出て、チャロロの顔面を覆った。
 反応が遅れたチャロロは口や鼻を塞がれて、窒息でもがき苦しむ。その状態から十数秒の取っ組み合いで、お互い相手の肉を力一杯抉った。
 その場面だけならチャロロの方が不利だったであろう。突如夜妖の肉がびくりと跳ねた。何かが夜妖を切り裂いたからだ。
「どこが核か分からぬが。それなら、刻むまでだ!」
 チャロロの危機を察知した汰磨羈が戦闘に介入していた。夜妖は対応する事が出来ず、撫で切りで叩き落とされ、そのまま複数の刺突を見舞われ息絶えた。
「……ぶはぁっ、たすかったぁ!!」
 ようやく窒息状態から解放され、ぜぇぜぇと呼吸を繰り返すチャロロ。今の戦闘で顔面がいくらか傷ついたようで、幼い顔が血塗れだ。
 腕に覚えがあるなら何とかなるとは聞いていたが、やはりダメージは負わせられる可能性もある。
 チャロロ達はそれを仲間に伝える事も含めて、夜妖を仕留めた事をaPhoneで仲間達に伝達しようとした。

 aPhoneを難しい顔で見つめているカナタ。
 彼と組んだのは『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)。
「てけり。こちらのご婦人が目を休めつつ涼める場所をご所望でして」
「お願いして良いですか? ……できれば、二人きりになれる所がいいです。少し、休憩したくて……」
 そういったやり取りが着ぐるみと行われる。親切心か、下心か、着ぐるみは快くそれを受けてくれた。
「ねぇ、ワタクシの目をみてくださる……?」
 魅力的な彼女に甘い声で囁かれれば、断れる者はそう多くない。目と目が合うその一瞬で、彼女はスタッフに対して催眠の魔術を掛けられる。
 魅了したスタッフはどうするかについてだが、まず中身が人間かどうか確かめた。
 結果として、シロだった。人間だ。少し時間は掛かるが、安全かつ着実にシロの数を増やせる。
「着ぐるみを奪っておこう」
 カナタはそう言い出した。ヴァイオレットをスタッフに紛れさせる魂胆だ。しかし、彼女はは首を振った。そちらの想定は「分かりやすいように着ぐるみに印を付けて解放する」という感じのようだ。
 閉園までは数時間の猶予。その間にスタッフの催眠が解ければ面倒な事になるだろう。収奪は控えるかとカナタは一旦考え直す。
「それでは、仲間にaPhoneでお伝え……」
「いや、その事だがな」
 カナタは難しい顔をしながら、自身のaPhoneをヴァイオレットに見せる。
 彼女もそれを見て、同じような顔付きになった。

 バックヤードから追い出されたエディは、仕方なくひとけがない場所を見張っていた。
 それは他の組と比べて効率的でなく、成果は上げられなかった。エディは自罰的に指を噛みながら、現在の全体状況について考えを馳せる。
 彼の不安には理由があった。面子から『時間切れ』の心配は無い。だが数や実力で圧倒しない限り戦闘は油断出来ない。連絡手段さえ円滑なら対処も容易かろうが――。
「……連絡不能なんて事態になってなければいいが」

●惨殺
「……こんなものか」
 ガリアンはバックヤードに単身乗り込み、着ぐるみと遭遇して戦闘状態に陥った。そして先手を取られて、いくらか傷を負っている。
 回復が出来る茄子子と合流するべく、ガリアンは夜妖の死体をゴミ箱に押し込もうとする。
 その最中、入り口の方から悲鳴があがった。そちらを見れば複数体の着ぐるみ。現場を見て誤解した者は「殺人だ!」と逃げ出し、その内の一体がへたりこんだまま叫んでいた。
 まずいな、大騒ぎになる。そう思い、ガリアンは目の前の者を落ち着かせるべく歩み寄った。

「一緒にしょごちゃん達と写真を撮りたいんですけど……」
 アランはマスコット達にそのような相談をしていた。二体の着ぐるみは「てけり。他のお客さんの事もあるしー」と、消極的な対応だ。
 そのアトラクションの性質上、複数人の客を一人の着ぐるみが案内し、もう一体が入場整理している。それなりに客が並んでいる以上、時間の融通は難しい。
「私達恋人だから、彼との大事な記念にショゴちゃん達と一緒に写真撮りたいの!」
「は?」
 茄子子が唐突に言い出す。アランは呆気に取られ否定しかけたが、単なる建前だとすぐ気付いて冷静になる。
 周囲の客は彼女の言動に物の見事言いくるめられており、囃し立てるような態度で着ぐるみ達に了承を勧めていた。
 こうなると着ぐるみ側は致し方なし。誘われるまま、ひとけのない場所まで連れ込まれた。
「しょうがないてけりにゃあ」
「すいません。どうしてもここで写真を撮りたくて! ……お前の死体のな」
 周囲に誰も居ない事を確認したアランは、大剣を抜き去り片方の着ぐるみを叩き潰すように振り下ろした。
 ごちゃり、と肉が破砕されるようなイヤな音が響く。着ぐるみは頭部から胸元目掛けて歪にへこみ、着ぐるみはそのまま倒れ伏した。
「……ひ、ひとごろ――」
 もう一体の着ぐるみは大声で叫ぼうとした。しかしアランは続けてその着ぐるみも叩き潰す動作に入る。
 透視能力。アランは着ぐるみの中身に詰まった肉塊がありありと見えた。それがなければ、二体一組で動いているこの夜妖を割り出すのは手間取っただろう。
 戦闘態勢に入るのが遅れた夜妖に対して、アランは躊躇いなく攻撃を繰り出す。
「悪いが子供たちの安全と未来んためだ、ぶっ潰れやがれクソがァ!」
 アランの実力も併せて、相手が何か行動を起こす前に倒せたのは最良の結果だ。着ぐるみを二体とも歪な肉塊へと成り果てさせた。
 念のため中身を見てみる茄子子。彼女は力強く頷いてから「じゃあ記念写真を撮っちゃいましょう!」と言って、アランにまた溜め息をつかせた。

「殺人だ!」

 何処からかそういう声が聞こえた。見られたか? 周囲を確認するも、一般人が居る様子ではない。声はバックヤードからだ。
 スタッフ通路の前にガヤガヤと人だかりが出来て、他のイレギュラーズ達も集まっている。場はハムスターのマスコットがスタッフを殺したと騒ぎが起きていた。
 ガリアンだ。おそらく夜妖を倒した場面を一般人に誤解されたのであろう。
 仲間同士が言葉を交わし、残ったのはあと一体だけだと推測する。パニックが起きる前に最後の一体を人混みから見分けようとするが……いない。
「スタッフの一人がまだ中に取り残されてて……」
 何人かの顔色が一気に青ざめた。
「キング!!」
 カナタは急ぎバックヤードに踏み入る。他のイレギュラーズ達も彼の後に続いた。

●爆殺
 ガリアンは腹部から大量に滴る流血を必死に抑えながら、うずくまっていた。
「キャー、ヒトゴロシー。Hitogoroshhh」
 瀕死の獲物を目の前に、いよいよ正体を隠そうとせず嘲るように言葉を紡ぐ夜妖。その声はまるで音楽的な笛音だ。
 ガリアンも相手が夜妖である可能性は想定はしていた。しかし、攻防を繰り返す内に致命打を喰らってしまうとは。
 ガリアンに対して、トドメを刺そうと夜妖が動いた。ここまでか。ガリアンは目を瞑った。
 しかし、いくら経っても衝撃は来ない。目を開くと、カナタがガリアンを庇っていた。
「っ、こんな場末で観念するとはアンタらしくないな!」
 割って入ったのはカナタだ。相手の攻撃を肩に受けて、脱臼か骨折か肩が不自然に垂れている。
「……我が死んだら獣種部隊の穴埋めをしてくれまいか」
「俺はまだ戻らんぞ。俺はジュウシュじゃない」
 一般人であれ依頼人であれ、誰かが死んだら取り返しは付かない。イレギュラーズはガリアンに回復と護衛を集中させる。
 その最中でも、ガリアンはマントに仕込んでおいた銃器や爆発物を撃ち出そうとした。死に体の状態である彼の行動は攻撃の体をなさない。
 カナタは、マントからこぼれ落ちた銃器を拾い上げて相手に向かって走り出す。
 そのまま撃ち込むかと思いきや、あろうことか彼はルーピホスティアの要領で銃を突き刺すように殴り付けた。
 弾が入ったままの銃はそれで暴発。銃身が爆散してカナタの体に突き刺さるが、相手はそれ以上に爆発をモロに受けて、ガリアンとの交戦のダメージもあってそれで死に絶えた。
 仲間の心配と驚きを余所に、いつもの事だと言わんばかりのガリアンとカナタ。
「……やっぱり俺には銃は不向きだな」

「あれま、随分大怪我を負いましたな」
 イレギュラーズと入れ替わりで、掃除屋と共にパーク内の後処理に潜入する狐の紳士レイモンド。
「相当騒ぎが起きてるが、大丈夫か?」
「大丈夫でしょう。一般人に被害が出ていないなら万々歳というものです」
 負傷者は出たが、依頼としては問題なく成功であろう。とはいえ、とレイモンドは一瞬口籠もる。
「キングは今後このテーマパークに入れる事はないでしょう。彼はこの場において『着ぐるみを着た殺人犯』ですから」
 彼には良い薬になるだろう。そう微笑むレイモンドの表情は、何処か悔しげであった。

成否

成功

MVP

楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾

状態異常

天狼 カナタ(p3p007224)[重傷]
夜砂の彼方に

あとがき

 無事、一般人の被害なく夜妖を打ち倒す事が出来ました。しかし決して、完勝とは言い切れない結末でありました。
 
 予定していた作戦が実行不可能というのは、イレギュラーズが万能の神さまでない以上は当然起こり得る事です。 
 今後もそういった場合では、想定していた作戦が上手くいかなかったりしてシナリオの行く末に影響する事があるかもしれません。

称号付与:
『夜砂の彼方に』天狼 カナタ(p3p007224)⇒『バレルショット』
『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)⇒『口達者な会長』

MVP:
『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)

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