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シナリオ詳細

比売ノ山のヒメノカミ様

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●昔々のそのまた昔
 今は昔。
 比売ノ山(ヒメノヤマ)には、それはそれは尊い女神様がいらっしゃったという。
 周りの村々が飢饉で飢えたときも、水の神、豊穣の女神であるヒメノカミ様の治められる場所においては田の水が絶えることはなし。
 村人たちは飢えずに冬を越すことができた。
 人々は絶えず感謝を忘れず、四季折々にふれ、供え物とともにヒメノカミ様への感謝を添えたという。
 それは、ほんとうに、昔、昔のこと。

●集会所
「どうしたものかねぇ」
 村の人々は集会所に集まり、顔を突き合わせてああでもない、こうでもないと頭をひねっている。
「今年はあんましとれんかったな」
「やっぱり田を増やすしかねぇんじゃねぇか?」
「いくら米がとれんようになったってもなあ、飢えて死ぬほどじゃねぇ。今までのたくわえがある。
焦って畑を増やしても、管理できねえで結局だめにしちまうってよ」
「山に入って冬の蓄えをとろうにも、山には鬼が棲みついちまってよお……。そうだ。悪鬼だよ。今はいいだろうけど、冬になったらきっと村まで下りてくる。そんときにみんなを守れんのかね?」
「……やっぱまた討伐隊を組むか?」
「与作がケガしてよお、鉄砲も鍬もとられたでねぇの」
「おらじっとしてはいられねぇよ。この村が好きだものさ」
 その言葉に一同はしんとなった。
 好きなのだ、この土地が。
「そもそもどうして米がこんなにとれねぇんだ。昔はお上に納めてもありあまるくらいの米がとれたってじっちゃんはいうでねぇか」
「昔は山に、そりゃあどえれえきれえな女神さんがいたんじゃよ」
「まーたそれか。あーあ。今はその山も悪鬼のもんよ……」
 はあ、とため息をつくのであった。
「女神様もふがいなく思って、おらたちのもとを去ってしまったのかもしれんなあ……」

●ヒメノカミ
『……じゃ』
 ヒメノカミは、祠からその成り行きを眺めている。
『……なぜじゃ……どうして妾の声が届かんのじゃ……!』
 聞こえている、助けを求める村の嘆きが。
 だが、村人たちの誰一人として、ヒメノカミの言葉が通じるものはいない。
 痛感する。
 信仰を失ったヒメノカミの力は、今はかなり弱くなっている。
 あろうことか、祠に悪鬼がはびこるとは……。
 自分のふがいなさでケガをした村人たちを見るに忍びない。
 なんとかしなければ。なんとか……。
『誰でもいい! 妾の声を聞き届けてくれるものたちはおらんのか……! 誰か……』

 つまり。
 かの声を聞いたのは偶然にもやってきた神使たちであった。

●ヒメノカミからのお願い
「それで……声が聞こえたのは俺たちだったというわけか」
『うむ、そのようなのじゃ』
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)はヒメノカミとやらを見下げる格好になる。なまじ身長が高いだけに、ヒメノカミと並ぶとずいぶんと対比的だ。
『? お主、覚えがあるか?』
「いえ……よく似た場所を知っていたものですから」
 水瀬 冬佳 (p3p006383)はこの空気を知っている。荘厳で清涼な、よく似た風景を。
 声が聞こえたのは導きだろうか。
『滅多にないこと故、光栄に思うがよいぞ!』
「どうしよっかな~……うーん……」
 バスティス・ナイア (p3p008666)が首を傾げる。近くにいた猫がまじまじとバスティスを見ている。
(はっ、こやつ、同業者ではないか!? いや、そんなはずは……)
「協力するのはやぶさかではありませんが……」
 彼岸会 無量 (p3p007169)はちらりと威張ったヒメノカミを見た。
『な、なんじゃ!? 妾の、妾の態度か……!? わ、わかった。改める。このとおりじゃ。なんとか! お願いいたします!』
「まあ女の子の頼みですし、どうしてもって言うなら」
 ウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)がからかうような笑みを見せる。
『ど、どうしても……っ!』
「ま、……おなかすくのって嫌だし、ねぇ」
 コラバポス 夏子 (p3p000808)は平和が一番だ。山登りのついでに散策とでも思えばいいか。
「わかりました」
 雪村 沙月 (p3p007273)の声が凜と響いた。
『……っ! 断られるかと思っておったぞ!?』
「よく表情が変わらないと言われますが、地ですので……。お役に立てるのであれば、お力をお貸しいたします」
「埋もれた信仰ですか。探せば興味深い文献がありそうですね」
 リンディス=クァドラータ (p3p007979)はきらりと目を光らせるのだった。

GMコメント

布川です!
のじゃろりでよろしかったでしょうか(GMの趣味では?)。

●目標
・祠周辺に住み着いた悪鬼の討伐
悪鬼の討伐によりヒメノカミの祠がお参りしづらくなっています。

●ヒメノカミ
神使のたちの前に現れた女神。
神威が薄れたせいで5歳くらいの女児に見える。
ので、戦ったりはできない。
姿を現しお願いするのみである。

尊大な口調とは裏腹に誰よりも村を守りたいと思っている優しい神。
供え物はおにぎりを希望(具は任意)。

もともとは山のご神木であったが、長生きするにつれて神となるとは本人談。
太古の昔より御山の地域の者より豊穣、水の神と信仰されてきた。
が、此処数百年信仰が薄れ神威が薄れてしまっている。
『そこ行く者たちよ。お主らは選ばれた。光栄に思うがよい』
『あっちょっと……お願いを……お願いを聞いてほしいのじゃ……! このままでは村があぶないのじゃ!』

ふもとの村にも信仰は「ああ、そういえば」程度で残るのみ。
わずかに残る熱心な人間も鬼のせいでお参りができなくなっていてさらに声は届きづらくなっている。

●ふもとの村
おおらかでのんびりとした、働き者の村人たち。
名産はその豊かな土地からとれる米である。
ヒメノカミを本気で信仰しているのはかなり高齢の者に限られているが、小さい子でも「そういえばそんな話聞いたなあ」くらいの認識はある。

信仰を忘れていてもどこかにその風習が残っているのか、おなかが減っている人を放っておけず、「よかったら……」と、やたらと握り飯をくれる村でもある。

最近は米の収穫量が下がってきているようだ。
これは、信仰が薄れた事によるものなのだが、「田畑を拡大したい若者」vs「今の土地で十分だから、丹精込めて耕す」派がある。

さいきんは山に住み着いた悪鬼に困らされており、男連中で討伐隊を組むが上手くはいかず、ケガをして逃げ帰るに至った。
悪鬼を退治しに行くと言うと心配そうにしながらも喜んでくれるだろう。

●悪鬼×8匹
「オタカラ、オタカラ」
祠の周辺に住み着いてしまった背の低い小鬼たち。たどたどしい人語を発するが説得などは無理そうだ。
一匹は2mを超す一つ目の鬼で、これがリーダー格なのだろう。
火を囲んで踊ったり、気ままに狩りなどをして過ごしている。
どちらかといえば「棲みついてしまった」に近いが、放置していたらいずれ村まで降りてきそうだ。

見張りが2体。片方は弓、片方は鉄砲を持っている。
知能はそう高くない。
村人たちから盗んだ武器を持っている。

●場所
山の中の小さな社。自然豊かな場所。中腹くらいに祀られています。
軽く山登りとなるでしょう。小さな道しるべが立っているので迷うことはなさそうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 比売ノ山のヒメノカミ様完了
  • GM名布川
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
彼岸会 空観(p3p007169)
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ

リプレイ

●愛しい子ら
「子は何れ親元を離れるものですが……其れでも矢張り、親にとっては何時までも子なのですね」
『うむ。もちろんじゃ、妾を忘れるとは、まったくもって仕方のない!』
 まずは心配が来るのだ。
(神であろうとも信仰無きは寄る辺無き陽炎の様な物。遠く昔より営みを見守って来た其れにとって人は己が民であり、子でもある。だからこそ人が信仰を失えど神は人を忘れず……)
『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)は、小さく頷いた。
「なればその願い、聞かぬ訳にはいかないでしょう。鬼の私が神の頼みを聞く、と言うのも何だか面白いですからね」
『鬼人種も精霊種も、ここにいるからには妾の子らに違いない。とはいえ京では鬼は苦労するようじゃのう。妾の活躍が広まった暁には、鬼の活躍も広く知らせるとしよう』
 果たして、それはいつになることやら?

『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は、太陽に向かってぐんと背伸びをする。指の隙間から漏れる日光を、金色の目が追いかける。
「そうだよね、自分の声を届けることが出来なくなると寂しいよね」
 今日のバスティスの気まぐれは、こちらを向いているらしい。
「同業の誼、助けてあげますか」
『ありがたい!』
「まず祠を根城にしてる悪鬼退治だね。任せてよ」
「ええ、最大限のお手伝いを致しましょう」
『未来綴りの編纂者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)の過去巡りの書巻は、はらりと新しい1ページを開く。
――この地を守ってきたもの。伝承を繋ぐ大切な方。
 この村と、神様の幸せな未来を綴る為に。
「ヒメノカミ……御身の願い、聞き届けましょう」
『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は、はっきりと告げた。

「女神か……先日、この豊穣の地にて似た様な存在と出会った事がある。やはりこの土地はそういった物との関りがとても深いのだな」
『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は懐かしそうな表情を浮かべる。ライバルの登場かと、ヒメノカミは慌てた様子を見せたが、それよりも心配なのは村人である。
 マナガルムの表情は、村人を思って真剣みを帯びる。
「既に怪我人も出ている様子だし、捨て置ける状況ではあるまい。今後の事は兎も角──その悪鬼とやらの討伐、確かに引き受けよう」
「急なことじゃ。武器は」
「いいえ、ご心配なく」
『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)はゆるやかに首を横に振る。芯の通ったような、しなやかな所作であった。
「ええ、全て排除して差し上げましょう」

「はてさてコレも運命ってヤツなのかな?」
『鬨の声』コラバポス 夏子(p3p000808)は、へらりと笑う。そして、ふと、思い出したように、
「いや運命ってヤツは行動した末の結果だそうな」
 と続けた。
 かくして、ヒメノカミへと届いた声は、奇跡か必然か。
 この村には、ヒメノカミを知るものはもう少ない。
「信仰の維持というのは難しいものですね。それ故に組織化されたりもするのですが……」
 冬佳は少々考え込む様子を見せる。
「神性に相当する存在が実際に存在していながら、縁遠くなるだけでこうも簡単に薄まってしまうのなら、やはり死活問題と言えるでしょう。
信仰の窓口……伝道者……こういう事例を見ると、なるほど必要故の存在なのだとも実感します」
 冬佳は、どこかで遠い故郷を思い描いていたかもしれない。

●ヒメノカミおはすお山のふもと
「しかし、さらっと受け入れちゃいましたけど、ヒメノカミさん……ヒメノカミ様って何者なんですかね。ウォーカー? まさか本物の神様……?」
『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は首をかしげるが、考えながらもとりあえずさくさくと足を進める。
「まあ、可愛かったので助けちゃいますけど!」
「ヒメノカミちゃんの訴えが、我々を呼び止めたのが運命なら、ソレに答えにゃ神使じゃない……ってね!」
「おや、登山か? 今は危ないぞ、旅のお方。なんたって……」
「鬼が出るのですね?」
 村人が何か言う前に、冬佳がすかさず口を挟む。村人は驚いた様子を見せた。
「どうして? ――そうですね、「導き」でしょうか」
 リンディスが静かに告げると、村人は息を飲んだ。
「ええ、悪鬼が住み着いていると伺いまして、討伐に来ました」
 無量を眺め、徳の高い者と判断したのだろう。村人は、拝むように頭を下げた。
「私達は都より来た神使です。山に住む水神ヒメノカミの願いで鬼を退治しに参ります」
「ひめの、かみ?」
「力が弱った今も尚、村の事を心配していらっしゃいます」
「詳しくは、後程お話いたしましょう」
 今は物語を続けよう。
「まあ、解決の道筋は明快ですね」
 とにかく、まずは倒すことだ。

 村人たちは、一行を拝んでいる。
(ソレが欲しいのは、ヒメノカミちゃんなんだけどねぇ)
 まあ、帰ってきたときにでも言えばいい。
 声をかけてくる村人は、この村を頼むだとか、こちらを心配するようでもあった。あげく、おにぎりを持たされている。
 なんか複雑そうだけど簡単な話だと、夏子は理解する。
「神様が居て土地の人が居て皆ソコが大好きだと。想いが一緒なら後はキッカケ……なんスかねぇ」
「いたな」
 マナガルムは、社のずいぶん前で足を止めた。鋭い知覚がその気配を捕らえていた。
 悪鬼らだ。

●かつての社
 さあ、勇者の物語を。
 リンディスは過去巡りの書巻と、未来綴りの羽筆を手に取った。
 鏡に映したように、幾多ものページが映りこみ、物語を紡ぎ出す。
――それは、いつか刻まれた物語。

 マナガルムが社に足を踏み入れると、一瞬だけ空気が晴れる。主が帰ってきたのだと。
「俺が相手になろう」
 槍を構えて告げれば、悪鬼らが一斉にこちらを向いた。
 ひらりと舞う花弁のように、沙月が戦場に足を踏み入れる。
「グガ?」
 3体を次々と襲う衝撃は、遅れてやってくる。流れ出た鮮血は花のように舞った。
「一人にしないぜもちろんさ」
 夏子が、マナガルムに背中を預け、堂々と名乗りを上げる。
「ここビシィっと決めればヒメノカミちゃんに ぽよ して貰えると思うんよ」
 不法占拠は相手の方。
 であるからして、昼間から堂々とすればよい。
「さあ、Step on it!! 一気に叩きますよ!」
 正面突破で鬼退治。
 ウィズィはくるくるとハーロヴィットを回し、構えた。突きつける先は、迷いなく大鬼である。
 Brave hour。踏み切る足は鋭く、弾けるように飛んでいく。強く願い、ハーロヴィットの柄を握る。
「どんなに頑丈でも! 私の通常攻撃には関係無い!」
 きらきらと輝く銀のナイフに溶かされるように、小鬼の皮膚は、あまりにもさっくりと切れた。
「グゴオオオ!」
 悪鬼の攻撃に目を覆いかけるヒメノカミだが、なるほど無傷である。
 無量の保護結界であった。
『いや。妾は、う、うむ、信じておったぞ!』
 虚勢を張るヒメノカミであった。
 無量が相手どるは、首領ではない。マナガルムと夏子の包囲を逃れた一匹である。
「お相手をさせていただきましょう」
 前髪が風で揺れ、そこにあったものが見える。
 眼だ。
 第三の眼が開き、鬼を捕らえた。鬼はまたたくまに理性を失い、急き立てられ、駆け寄る。
「お見事です」
 寄ってきた一体を、冬佳の氷蓮華が追う。峻厳にして清冽なる氷の刃。
 それを掲げれば、宛ら舞散る白鷺の羽根の如し、荘厳な場が形成される。
 白鷺結界であった。
「……!? お主、何者じゃ……? いや、今は……っ! 僅かばかりではあるが!」
 ヒメノカミは目を見開き、そしてやはり自分が見込んだ者たちはタダ者ではなかったことを思い知る。
 水。
 清涼な水の音がする。透き通った結界が、すべてを狂わせる。
 小鬼が撃ち抜いたのは、氷鏡に映った同胞であった。
「こんなところで倒れてもいられないよね?」
「あんがとさん」
 バスティスのミリアドハーモニクスが、夏子の傷を癒していった。

●神使たらん
 今だ。
 ウィズィは確信し、目をこらす。
 周りの動きが一瞬、ゆっくりになるかと思えるほどの静寂。
 この戦闘の、隙間。
 ハーロヴィットの軌道は、一瞬だけゆっくりと減速する。
 そして。
 戦場の傍ら。視線はこちらになく。しかし、こちらを見ているはずのない、無量が確かに頷いたような気がした。
(無量さんと剣を交えて編み出した、私の必殺技!)
 これまで紡いできた縁が、灯火となり、進むべき道を……そして、放つべき最善の一刀を指し示す!
「見ていてよ、無量さん──!」
 一瞬のもの。
 鬼は最後の言葉を告げることもないくらいに、かき消えた。
「ええ、見ましたよ。確かに、受け取りました」
 無量は気配で今の一撃を視ていた。無量からの返歌は、変幻自在の邪剣である。魔性の切っ先で対象を惑わし、一撃。
 その首を落されたとあっては、いかに生命力の強い鬼とはいえどもただ地面に横たわるしかない。
 技の名を、落首山茶花という。
「おおっと、待った」
 沙月への攻撃を、夏子が庇う。
 パアンと、銃声……ではない。
 夏子の闇を劈く爆裂音【炸】がほとばしる。それに驚いた小鬼は思わず「キ!」と言って狙いをつけることはできなかった。
「共存できりゃあ歓迎だけど 違うならヤルしかないワケ」
「お心遣い、痛み入ります」
 沙月は得た隙で、地面を蹴ってひらりと舞った。瞬天三段の構えをするが、夏子の攻撃によって、鬼が間合いに入った
 沙月は器用にも空中で姿勢を変え、構え直す。花霞が舞った。
 夏子が賞賛の口笛を吹いた。
「はあっ!」
 マナガルムの一凪ぎが、風圧だけで悪鬼の角をへし折った。全力の、H・ブランディッシュ。
 がきん、と金属の音がして、そして相手の武器がへし折れる。
「この土地に住まう神、そして民達の為に──悪鬼共よ、討ち果たさせて貰うぞ!」
「もしかしたら住み着く先が違えば問題がなかったのかもしれませんが、今回は―ごめんなさい
その祠が、村人たちの「お宝」なのです」
 リンディスは、油断なく頁を手繰り寄せる。
 それは、世界に名を遺した癒し手達の記録。追憶がマナガルムを包みこんだ。
「どんな相手でも、油断しちゃだめだよね」
 バスティスのコーラスが響き渡り、辺り一帯に響き渡った。
「先に住まう者が居たこの山を選んだことが、誤りでしたね」
 冬佳のフォースオブウィルが、一体の悪鬼を撃ち抜いた。
『良い、良いぞ! 押しておる!』

●鬼退治
 リンディスの書が、一つの戦場を参照する。悪しき鬼を退治する、英雄たち。
「加減は、いりませんね?」
 無量の白蓮華が咲いた。
 曇りなき刃。迷いはない。今こうして刃を握っていることにも。
「流れ着いただけとは言え此処は神聖な神の社。神以外がおわしてはならないのです」
 マナガルムは振りかぶり、グロリアスペインを振りかぶった。
 巨大な一つ目に、短槍が突き立つ。
「ギアアア!」
 それにためらいはない。
 マナガルムは槍を再度振りかぶった。
 逃がしはしない、逃がすことはできない。
 今後の憂いを断つために。
「終わった、か」
 ヒメノカミが小さくしゃがんで、土にかえる鬼に祈りの言葉を唱えた。
『これは必要なことじゃったが、次はもっと悪さをしないものに生まれると良い。……水のように巡り巡って、妾のもとに来たらば、歓迎しよう』

●おかえりなさい
 山から下りてくる一行を、村人たちは今か今かと待っていたようだ。
「無事だ、無事だぞ!」
「今回の討伐は、村を憂うヒメノカミ様から直々にお願いを頂いたのです。我々がその名を知っているのが何よりの証拠。我々に感謝するならばどうか、ヒメノカミ様へご挨拶を!」
 ウィズィの隣で、ヒメノカミはうんうんと頷いている。
「私達の言葉を信じられぬのも道理。けれど私達はヒメノカミ様にお聞きした願いを確かに叶えたのです」
「そのう、その神様は、お、怒っていらっしゃるのでは……?」
『怒っておるぞ! たまには顔を見せんか!』
 子を捨てる親がいるだろうか。ウィズィは苦笑して、告げる。
「会いたがっているようですよ」
「一度祠に来てもらいましょう。そこならば……きっと」
 くるりと沙月は踵を返す。
「取り敢えず我々の依頼主のトコ 行きましょか」

「案内板が倒れてます! もー! これじゃあいけませんよね」
 ウィズィは朽ちた案内板を立て直す。
「これでよし。きっとたくさんの人が来てくれますよ!」
「これからは、道に不慣れな人でも安心して通えるようにしなくてはなりませんからね」
 これからは……。
 むずがゆそうなヒメノカミである。
(皆色々気がつくなぁ。神様と村人を繋げる案……)
 夏子は嬉しそうなヒメノカミを見た。
「ここ数年、作物の実りがいまいちだったり、山に住む鳥獣の数が減ったように感じることは無いかな?」
 さあ、とバスティスの頬を風が撫でた。
「やはりお怒り、なのですか?」
「ううん、それはヒメノカミ様への信仰の力が少なくなってしまって、神としての力が弱くなってしまったんだ」
 バスティスの声は不思議なもので、つい、聞き入ってしまうのであった。あるいはそのあたりの獣すらも、かもしれない。
「ヒメノカミ様は豊穣と水の神。力を取り戻せればかのような悪鬼如きに好きにはさせなかったって言っていたよ」
 バスティスが振り返る先にはヒメノカミがいて。
「そう、言っていたし、そこに居るよ」
 ヒメノカミの姿は見えないけれども、村人がこちらを見るのはずいぶん久しぶりだった。
 誰かが手を合わせる。
「声が届かないのは力を失っているからでしょう。故に、再び信仰を得て力を取り戻せれば、村に直接恩恵を与える事もできるようになるでしょうね」
『神』は確かに此処に在り――そしてずっと貴方達を見守り続けているのだ、と、冬佳は言う。
 ヒメノカミは涙ぐんだが、威厳を保とうとこらえている。
「君たち人間が信じようが信じまいが神は『そこ』に居るんだ。あとは君達が神と共に在ろうとするかどうか、だね」
『……りがとう』
 ヒメノカミは小さくつぶやいた。
「おっと?」
『お主らの働き、見事なものじゃった。大いに感謝してやっても良い』
「はいはい」

『しかしまあ、疲れておるじゃろうに。よく働くものじゃな』
「問題ない」
 マナガルムは、そっと社に横たわった巨大な木を黙々と取り除いていた。いよいよ、村人たちがやってくるだろう。
『……偶然、かと思っておったが、妾は確信した。これは導きである、と』
 天が彼らを遣わせてくれたのだと。まさしく、神使であると。

 村人たちが、社を訪れる。
「神様は信仰心を糧に生活しておられるのです。なので、忘れられてしまうと力も弱くなって何もできなくなります」
 沙月が、静かに語らいかけるのだった。
「今回はそれを気に病んで私達に依頼して下さった形ですね」
「この気持ち、どうしたものか……神は我らに何をお望みですか?」
「おにぎりをお添えして下さい」
「お、おにぎり?」
「曰く、礼は握り飯で良いそうだ……」
 マナガルムはちらりと隣を見る。
「うむ、おにぎりで許す! しゃけで頼む!」
「それと、尊大な態度ではあったがやはり寂しそうではあったな」
『そんなことは、まああるぞ! あるのじゃ。妾は寂しいのじゃ』
「最初から全てを信じろとは申しません。ただ今回私達に救われたと思うのであれば、この社を忘れないで下さい」
 無量は静かに、社の柱に触れる。
「握り飯を供え、村であった出来事を語って下さい。神は確かに此処に居て、貴方達を我が子の様に愛しているのですから」

「ヒメノカミ様の伝承は、やはり残ってはいませんか?」
「多少はある。古いのだが……読めるのかね?」
 リンディスは、分かりづらいほとんど覚書のような資料を苦も無く読み解いていく。
「子らへの教えとして、代々語り継がれてきたものよ」
 子どもたちには、わかりやすい話がいいかもしれない。

(お互いリスペクトがあって。思いやりたい気持ちもあって。でもフワッと忘れてしまったり……)
 それはきっと自然なことで、だからこそ残そうとするのだろう。
「その本はきっと助けになるね」
「かつては、歌や踊りもあったそうです」
 ああそっか、と。答えはシンプルなものに行きつく。
「歌って踊って……食べて祝って感謝して。そだ。お互い感謝の意を込めて定期的に お祭りなんぞしてみては」
 春口の豊作祈願でも 秋先の天候願いでも口実はなんだって良い。欠けているならば新しくつくったっていい。
「ありがとう って気持ちは伝えたいし なんだかんだ言って 確認 って大事だよね」
 もう遠い昔のこと。なるほど、と手を打つ村人と、ヒメノカミが声をあげたのは同時だった。

「新しい章です。貴方たちで新しい未来を紡いでいってくださいね」
 リンディスは新たな書を託す。
 見聞きし、編纂した書物であった。
「もしまた何か困った事があれば俺達を頼ってくれても良い。元気で」
「お主らこそ、困ったら妾を頼るが良いぞ!」
 ヒメノカミは、姿勢を正して改まった。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ背の高い元の姿が見えた。
(あら)
(おっ美人さんだね役得役得)
 なんて、ウィズィと夏子は思ったりして。
「あなたたちのおかげで、本当に助かりました。あなた方の行く先々に、大いなる水の恵みがあらんことを」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

無事に悪鬼は退治され、信仰もまた、少しずつ思い出す人が増え、社はにぎわっているようです。
年に数度のお祭りが行われることでしょう。
社も綺麗にしてもらって、お供え物もきちんともらい、ヒメノカミ様は大変ご満悦です。
神使たちのこれからに幸あらんことを!

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