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シナリオ詳細

<巫蠱の劫>遠吠えは森の闇に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●呪
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 小刀が、ぼくの前足を斬り落とすのを感じる。ぼくのしっぽを斬り落とすのを感じる。ぼくを切り刻むのを感じる。
 悲鳴を上げて立ち上がろうとすると、顔を殴られた。ぼくは痛みに悲鳴を上げながら、無様に土をかむ。
「やめて! やめて! たろをいじめないで!」
 かなちゃんが、ぼくを斬りつけた男にすがり着くのが見えた。
 ああ、だめだよ、かなちゃん。逃げて。お願い。
「うるせえ」
 と――。
 男は面倒くさそうに、かなちゃんを殴りつけた。悲鳴を上げて転がるかなちゃんを、そのまま二度、三度、何度も、何度も蹴りつける。
 ああ。
 あああああ。
 やめて。
 やめてよ。
 かなちゃんが死んじゃうよぉ。
「獄人の餓鬼が、邪魔すんじゃねぇよ、殺すぞ」
 殺される。殺される。
 ぼくが殺される。かなちゃんが殺される。
 ああ、憎い。憎い。こいつらが憎い。こいつらが、こいつらめ。
「いや、そんだけやったらもう死にかけだろ。それよりみろよ、呪いの神様のお出ましだぜ」
 半死半生のぼくの横に、ぼくのような姿の――犬のような妖が現れた。それは半透明で、ぼくより巨大で、ぼくより怖そうで、でも確かに、それはぼくの姿だった。
 ああ。ああ。
 きみはぼくなんだろう。
 だったら。だったら力を貸せよぅ。
 きみのその怖い力で。
 目の前のそいつらを食い殺してくれよぅ。
 ぐるる、とそれは唸った。口の端からよだれを流しながら、目の前の男たち睨みつける。
「おい、待て……様子が変だぞ!?」
「なんだ、こいつ……オレたちを狙って……!?」
 それは一声吠えると、目の前にいた男の一人の喉笛に食らいついた。そのままばぢん、と口を閉じると、空洞になったのどからひゅうひゅうと風の音が聞こえる。ひ、と残る男は悲鳴を上げた。そのまま逃げ去ろうとして――背中から、それの前足で殴りつけられた。
 無様に転倒する。はいつくばって、なおも逃げようとする男の頭を、それは踏み抜いた。
 ぐちゃり、と頭が爆ぜて、男は動かなくなる。
 ああ。
 ありがとう。ありがとう。
 ぼくは死にかけの身体を引きずった。
 かなちゃん。かなちゃんを助けなきゃ。かなちゃんを守らなきゃ。
 ずるり、ずるりとぼくは身体を引きずる。そんな僕の前にたって、それはぼくを見下ろした。
 怖い顔だった。血にまみれていて、真っ赤な顔だった。
 それが、おおお、と遠吠えをあげた。
 とたん、灼熱のような熱さが、ぼくの中に流れ込んでくる。それの中で産まれた呪詛が、ぼくの中に流れ込んでいるのだ。呪詛はバラバラにされた僕の身体を無理矢理につなぎとめて、さらに熱さを送り込んだ。体の内から何かが膨らむような感覚がして、気づいた時には、ぼくは目の前のそれと同じような姿になっていた。
 巨大な、一匹の、猟犬のような姿だ。
 おおお、とぼくは遠吠えをした。それもまた、応じるようにおおお、遠吠えをする。
 ああ、そうか。
 お前はぼくなんだよね。
 だったら思う所は同じなんだ。
 いっしょにかなちゃんを守ろう。

●呪詛の妖
「すねこすり、って知ってます? 犬みたいな猫みたいな妖怪で、夜にひとのすね辺りをくすぐる様に走り回って、歩きづらくする――ってだけの、実に無害なタイプの妖なんですが」
 豊穣、カムイグラにあるとある村の食堂。イレギュラーズ達を集めた『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は、甘酒などを呑みつつ、告げる。
「それがまぁ……呪詛の材料になりまして」
 呪詛――それは昨今のカムイグラを悩ませる、流行の儀式である。
 夜半に妖の身体を切り刻み、その怨念を以って呪いとする。
 その生贄ともいえる、呪詛の材料に、とあるすねこすりがなったのだという。
「呪詛を行おうとした奴はまぁ、中々クソみたいな悪党でしてね。逆恨みから相手を呪い殺そうとしたらしいですが……此処で誤算が」
 生み出された呪詛――その化身たる『忌』と呼ばれるものは、その呪詛の担い手に襲い掛かったのである。
 その理由は――状況証拠であるが、単純な話である。その場に、担い手よりも強い呪詛の念を抱く者が――生贄とされたすねこすりがいたからで、『忌』はそれに反応し、呪いを叶えた、わけである。
「それで『忌』が消えてくれればまぁ、それでよかったのですが……少々問題が発生しまして。すねこすりの呪念とでもいうべき願いは、どうも無差別な人間への呪詛であったらしくてですね。残ってしまったんです。『忌』が」
 ファーリナは、外へと視線を向けた。その視線の先には黒々とした森が広がっていて、そこが呪詛の儀式の現場となった場所であり、現在『忌』が存在する場所である。
 さらに問題はある。この儀式において、生贄とされた妖は、呪詛による浸食を受ける。その結果どうなるかと言えば、『呪獣』と呼ばれる恐るべき怪物となり果てるのだ。つまり、元すねこすりである『呪獣』もまた、森に居ついてしまったようなのである。
「結果、森に誰も近づけなくなってしまいまして……と言う所で、皆さんの出番なわけです!」
 ぺし、と甘酒の入っていた茶碗をテーブルに置いて、ファーリナは言った。
「皆さんには、この森に侵入し、すねこすりの『呪獣』と『忌』を討伐してきてもらいたいわけです」
 それから、とファーリナは言うと、続ける。
「ああ、これは余談なんですが、この村の女の子が、『呪獣』と『忌』が発生したあたりから行方が知れなくなっているそうで……もしかしたら、森で迷っているのかもしれません。ついでと言っては何ですが、痕跡があったらご報告願えますか?」
 ファーリナはそう言うと、イレギュラーズ達を送り出したのである。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 すねこすりの『呪獣』と『忌』を討伐してください。

●成功条件
 すねこすり:呪獣 と すねこすり:忌 の撃退

●サブクエスト
 『かな』を救出する。
 『すねこすり』を救う。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 カムイグラを蝕む、流行の呪詛儀式。
 その材料となってしまったすねこすりは『呪獣』と『忌』と化し、森の奥に潜んでいるようです。
 皆さんはこの二体を見つけ出して討伐し、周囲の安全を確保してください。
 作戦決行時刻は昼。周囲は明るいですが、少し足元が荒れている所があります。

●プレイヤー情報
 皆さんは森に侵入し、その奥ですねこすりの『呪獣』と『忌』、そして倒れている『かな』と遭遇します。
 すねこすりたちは、かなを守る様に、此方に襲い掛かって来るでしょう。
 状況としては、呪詛の材料に使われそうになったすねこすりを救おうとしたかなは、下手人に襲われ重傷を負い、意識不明の状態となっています。すねこすり達は凶暴化し、人間を呪いながらも、かなを守るためにこの地にとどまっているという状態です。
 皆さんは、一目見れば、『かなは3分以内に戦闘を終わらせ、応急手当をすれば助かる』事が分かります。回復術や医術に詳しいものがいれば、さらに時間的な余裕はプラスされるでしょう。
 また、『呪獣』と『忌』、『両方を不殺攻撃で倒せば、すねこすりを元の姿に戻すことができます』。しかし、不殺攻撃で戦う場合、戦闘時間が長くかかってしまうかもしれません。
 なお、シナリオの成功条件は『呪獣』と『忌』の撃退であるため、かな、すねこすり、両名の生存は成功判定には影響しません。

●エネミーデータ
 すねこすり:呪獣 ×1
 呪詛のエネルギーを注ぎ込まれ、狂暴化したすねこすりです。外見は、もふもふながらも凶暴な2mほどの犬と言った様子です。
 反応値とEXAに優れています。半面攻撃能力は忌に比べて劣ります。
 主な攻撃は、スピードを生かした近接物理攻撃。稀に『必殺』属性の攻撃も行います。

 すねこすり:忌 ×1
 生み出された呪詛。今はすねこすりを主として、彼の願いをかなえるべく、呪獣と行動を共にしています。
 外見は呪獣と同様ですが、此方は身体が半透明で透けています。ただし、攻撃は普通に通ります。
 HPと攻撃力に秀でており、繰り出す近接物理攻撃には『出血』系統のBSが付与されています。

●NPCデータ
 かな
 すねこすりの友達。彼を救おうとして、呪いの下手人に襲われ、重傷を負ったまま昏倒しています。
 いまはすねこすり達がエネルギーを分け与えているためかろうじて生きていますが、おそらく限界は近いでしょう。速やかに応急手当などが必要です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <巫蠱の劫>遠吠えは森の闇に完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月22日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
すずな(p3p005307)
信ず刄
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
柊 沙夜(p3p009052)
特異運命座標

リプレイ

●すねこすりの森へ
「……? 変ね。怒り、怨み……は、わかるんですけど。助けを求める感覚もある……?」
 森に入ってしばし進み。感情と、助けを呼ぶ声を探していた『揺蕩』タイム(p3p007854)は、ふと声をあげた。
 日の光がようやく届く薄暗い森は、道行くイレギュラーズ達に、どこか拒絶感を覚えさせた。それは、呪いの獣と化したすねこすりの感情だろうか。なるほど、怒りや恨みは、すねこすりの呪詛の感情であろう。だが、助けを求める感情とは。
「もしかしたら、かなと言う少女が助けを求めているのかもしれない」
 『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が言う。情報屋(ファーリナ)の話によれば、村に住む『かな』という少女が先日から行方不明となっており、最後に目撃されたのがこの森の付近であるという。
「ならば……危険だ。タイムの感情と助けを呼ぶ声の探知能力は、その探知距離が一緒のはずだ。ならば、呪獣とかなは、近い所にいる可能性がある」
「――! 呪獣が、かなを襲うかもしれない……ううん、むしろ遭遇している可能性も」
 タイムがはっとした表情で声をあげる。マナガルムは静かに頷いた。
「急ごう。タイム、怒りの感情の方へ誘導してくれ……」
「ここまできたら、それも必要ないんよ」
 『特異運命座標』柊 沙夜(p3p009052)は穏やかに――しかし確信を込めてそう言った。
「怒り、怨み……強い感情から逃げようと、動物たちが逃げ出してる。その方へと行けば、強い感情の源泉へとたどり着けるんよ」
 はたして、沙夜の指示した先と、タイムの指示した先は、一致した。その方へとイレギュラーズ達が走れば、少し開けた広場のような景色が現れる。その奥、大きな木の根元に、一人の少女が倒れているのが見えた。
「あれは……かな、か!?」
 『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)が声をあげる。事前に提供されていた情報、着物の柄や髪形などから察するに、あのこがかなで間違いないだろう。しかしかなは、ピクリとも動かず、あおむけで倒れていた。
「まさか――ッ!」
 悔し気にうめく風牙が、たまらず駆け寄ろうとする――そこへ、鋭い風圧が風牙を襲った。いや、それはただの風ではない。何か巨大なものが動いたが故に生じた風圧であり、風牙の前に、その二体は立ちはだかったのである。
『おおおおおっ!』
 二体は同時に吠えた。どこか可愛らしさを感じさせる声色ではあったが、しかしそれにのせられた敵意は本物である。それは呪獣と、忌と呼ばれる呪いの化身に間違いない!
「すねこすり……か!」
 風牙は後方へ跳躍し、警戒する――そこへ、仲間達が駆け寄った。
「にんげん! かなにちかよるな!」
 ワァウ! と呪獣――すねこすりが吠えた。ちぃ、と風牙が舌打ちする。
「聞いてくれ! オレたちは、アンタ達を助けに来たんだ! 敵意はない!」
「うそだ! うそだ! にんげんたちは、ぼくたちをきずつける!」
「かなは、ぼくをまもろうとした! それをきずつけたのは、おまえたちだ!」
「――まってください。かなさんを傷つけたのは……人間、なのですか?」
 『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)が、思わず驚いた様子を見せた。状況的に、呪獣と忌であるすねこすりが、暴走の果てに傷つけた……と、この状況で考えるのが妥当であろう。だが、すねこすりの反応を見る限り、そうではないようだ。
「……どうやら、すねこすりのいう事は間違っていませんよ」
 『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)が、思わず顔をしかめた。
「ここから見た限りですが……あのアザや傷跡……人間、しかも大の大人が殴りつけたのは間違いないです。服の端から見えるのですが、身体の方まで傷が……もしかしたら、内臓までダメージが行っているかもしれません!」
 ルル家の言葉に、フェリシアは絶句した。大人が? あんな小さな子供を? 死にかけるまで痛めつけたのか?
「そんな……!」
 ぐ、と息を飲み込んだ。恐らくは、食い殺されたという呪いの実行者。それからすねこすりを守ろうとしたかなは、呪いの実行者たちに暴力を加えられたのだろう。なんという、許せない所業か。
「奴のいう事は本当だぜ。確かに奴の目には、怒りや憎しみなんかが燃えてるが――その奥に、何かを守ろうとする決意が見える。俺にはわかるぜ!」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が、呪獣たちと目を合わせながら、そう言った。
「それより、マズいです。早く医者に……最悪応急手当を行わなければ、もって数分……かな殿の命が危ないのです!」
 ルル家の言葉に、仲間達の間に緊張が走った。
「聞こえていたでしょう!? かなさんをこちらに! 今すぐ助けなければ、命が危ないんです!」
 ぶわり、とシッポをたてながら、『血雨斬り』すずな(p3p005307)が叫ぶ。だが、すねこすりは拒絶の意を示した。
「うそだ! おまえたちなんか、しんようできるか!」
 くっ、とすずなは呻いた。すねこすりからは、此方への敵意しか感じられない。これ以上、どれだけ言葉を尽くしても、信じてはもらえないだろう。
 もとより、呪いの影響下で狂気に陥っているのである。話し合いに持っていくには、まずはその呪いを鎮めなければならぬことは、イレギュラーズ達にも理解できた。
「やはり……たたかいは、避けられないのですね……!」
 すずながすらり、と刃を抜き放つ。合わせて、仲間達もまた、武器を構えた。
「『受け持つ』! 後は任せたッ!」
 ゴリョウは叫んだ。その言葉には、仲間達が今この時、想いを、目標を、目的を同じくするという事への信頼があった。すなわち、「すねこすりを助け、かなも助ける」と言う事である。
 風牙は頷いた。
「ああ、オレたちは欲張りだからな……全部この手で救ってみせるんだ!」
「必要な時は俺が指示を出そう。それまでは各々、全力で!」
 マナガルムの言葉を合図に、仲間達は一気に走り出したのである。

●救うための戦い
「うおおおおおっ!」
 ゴリョウが雄たけびを上げて突撃する――その過程で、その身を包む漆黒の鎧。それがガシャリと音を当てて装着されるや、それに警戒したすねこすり達が、ゴリョウへと一気に襲い掛かる!
「かなにちかづくな!」
 呪獣がその速度を生かして、ゴリョウへ突撃――鋭い爪が、ゴリョウへと振り下ろされるが、ゴリョウはそれを、腕で受け止めて見せた。がきん、と言う金属と爪が衝突する音が、辺りに響く。
 呪獣と、ゴリョウ、その視線が交差する。ゴリョウが見たものは、呪獣の黒い眼、その奥に燃え滾る黒い怨念。
「……すまねぇな。オメェさん、ほんとはそんな目ぇ、するもんじゃねぇのにな。そうさせちまったのは、人間(俺)達なんだ……!」
 まるで、その怒り全てを代りに受け止めてやる、とばかりに、ゴリョウは呪獣の攻撃を受け止める。
 一方、さらに飛び出したのは、フェリシアだ。
「おねがい、かなさん……とどいて、もう少しだけ、耐えて……!」
 歌い上げるは、英雄をたたえる歌。そして、天使の福音を告げる救いの音色――歌い上げられた魔力が光となって、かなの身体を包み込む――その頬に、僅かながら赤みがさすのを、ルル家は見逃していない。少し猶予ができた、とルル家は確信した。
 だが、かなに触れるフェリシアの行いは、呪獣、そして忌の警戒と怒りを買うモノだった。
「かなになにをした!」
 吠える忌の爪が、フェリシアの身体を切り裂いた。青いドレスを切り裂いて、その柔肌に赤い線を作る――とっさに飛び出した風牙が、『烙地彗天』の槍をふりまわし、忌をフェリシアから引きはがす。
「大丈夫か!?」
「ええ……すねこすりさんも、かなさんも……もっと痛くて、辛かったはずだから……これくらい、耐えて見せます……!」
 痛みに顔をしかめながらも、しかしフェリシアは微笑んで見せた。
「いったん下がって、傷を癒してくれ! すずな、まずは呪獣からだ! タイム、足止め頼む!」
「了解、ですっ!」
 タイムが、手にした指揮棒を振るった。その先端から放たれた稲光が、呪獣、忌、二体を足を狙い、地を奔る。ばぢばぢ、と音を立てて、雷は二体の身体を地に縫い付けた。
「今だよ、皆!」
 タイムが叫び、
「合わせますよ、お先にどうぞ!」
 すずな。その声に、風牙が跳ぶ。
「ごめんな……けどっ!」
 すねこすりを救うにしても。どうしても傷つける必要はある。そのことに対する謝罪の言葉を口にしながら、風牙は呪獣に槍を打ち付ける。横なぎに叩きつけられた槍が、呪獣の身体を揺らせた。
「――しっ」
 裂帛の呼気を吐きつつ、すずなの刃が続く。一閃の刃がすねこすりの右足を切り裂き、黒い血を出血させた。
「ああ! ああ! おまえたちは、またぼくをきりきざむのか!」
「ごめんなぁ……でも、本当に、うちらは危害を加えに来たわけやないよ」
 式符より生み出した黒鴉をその手に止まらせ、沙夜は静かに言う。
「後ろの女の子が大事なんやろ。どうか、うちらに治させてくれん?」
「うそだ! うそだ! にんげんは、しんじられない!」
 悲し気に、一瞬、目を伏せた。きっと、今は、言葉は届かないだろう。でも、かけ続けることが重要なんだと、沙夜は思っていた。少しでも……わずかでも、心に届いてくれるなら。それは決して、無駄な事ではないと、そう考える。
「なんどでも、伝えるよ。うちらの思い……それが、傷つけてしまった人間(うちら)のやるべきことやからね」
「あああっ!」
 イレギュラーズ達の連続攻撃に、その力を消耗させた呪獣が吠える。
「我が槍よ、我前に立ち塞がりし万難を排し、希望を掴む為の力を俺に──!」
 その両の手に、『蒼銀月』、そして『グロリアスペイン』。二つの槍を携えたマナガルムが、その両の槍を激しく突き出す。突き出された槍は漆黒の顎となり、呪獣の身体へと激しく食らいついた。鎧のように固く鋭い体毛が舞い散って、肉を激しく削り取る。
「皆、分かるな? 呪獣はそろそろ限界だ」
「了解! では、加減してまいりましょう!」
 ルル家が叫び、その服のすそから弾ける様に飛び出した触手が、呪獣を激しく締め上げた。
「はなせ……! この、このぉ……!」
 身をよじらせる呪獣――その苦痛に歪んだ顔に、一瞬、自身もまた胸の痛みに表情を歪ませながら、しかしルル家は叫んだ。
「大丈夫です! 拙者達はかな殿と貴方を助けに来たのです! 敵ではありません! お鎮まり下さい!」
 ぐるる、と唸り声をあげる呪獣だったが、しかしやがて、その抵抗の力も徐々に弱まってきた。ルル家が触手による拘束を解き放つと、呪獣はずしん、と地に倒れ伏す。とたん、その身体が徐々に縮んで行って、瞬く間に小さな子犬のような姿となった。ルル家が、慌てて駆け寄る。その身体に、躊躇なく耳を当てる――。
「大丈夫、生きてます! でも……!」
 未だ、忌は生き残り、戦いを続けている。エネルギーをそちらに割かれている以上、忌も無力化し、そのエネルギーを回収しなければ、すねこすりの命も危ないだろう。
「――大丈夫。必ず助け出します。あなたたちのような、善なる者が健やかに生を送れるよう……拙者は宇宙警察忍者になったのですから。少しだけ、お待ちください」
 ルル家は、優しく、すねこすりを地に横たえると、さらなる戦いへと身を投じるのであった。

「ちいっ!」
 ゴリョウが呻く。振るわれた忌の一撃が、ゴリョウの鎧に激しい傷を残した。
 呪獣に比べて速度で劣る忌であったが、その分力はあるようで、一撃一撃のダメージが大きい。イレギュラーズ達も、その一撃に少しずつ傷ついていたが、しかしその士気が衰えることは一切なかった。
「ベネディクトさん、敵の様子はどうです!?」
 すずなの刃を、忌がその爪で受け止めた。ぎりぎりとつばぜり合いを繰り広げ、すずなが刃を振るい、忌の爪を振り払う。
「まだまだ……だな。攻撃の手を緩めるなよ!」
 マナガルムの指示の下、仲間達の一斉攻撃が行われる。
「多重銀河分身っ!」
 刹那の間に分身したルル家から、暗器の類が一斉に放たれる。小型のナイフなどが次々と飛び出し、忌の半透明の身体に次々と突き刺さった。半透明の身体に傷は残らず、血なども噴出さないが、しかし着実にその体力は削られている。
「みなさん、回復を……!」
 傷の痛みに表情を歪めながら、しかしフェリシアは仲間達の傷を癒していく。
「オメェさんの傷も深いだろ! 無茶すんなよ?」
 ゴリョウの言葉に、フェリシアは頭を振った。
「いいえ、今は、わたしよりも……すねこすりさんと、かなさんのことです……!」
 タクトを振るい、その先端から輝く癒しの魔力を奏で、仲間達へと送り届けるフェリシア。その表情は、決意に満ちていて、その決意は、仲間達も同じくするところであった。
「これが『忌』という呪詛……。どうして呪いの儀式なんてものに利用されて、こんな風にならないといけないの……?」
 同様にタクトを振るい、雷を撃ち放つタイム。忌と相対し、その身にまとうまがまがしい雰囲気に圧倒されつつも、しかし今は攻撃の手を緩めない。
「酷い……こんなことをする人も、この呪詛を広めた人も……許せない……!」
 怒りに顔を歪めつつ、タイムが雷を撃ち放つ。放たれた雷が忌の身体を激しく打ち据え、その身体を明滅させた。
「もう、休んで……皆で一緒に、かえろ?」
 聖なる術式による光の槍を撃ち放ち、沙夜が声をあげる。神聖なるその一撃が、忌の身体を貫き、
「るおおおお!」
 その痛みに、忌が吠えた。
「よし……あと一息だ、みんな!」
 マナガルムの目が光る。その眼が捕らえたのは、弱りつつある忌の姿――。
「よし、必ず救ってみせる……うおおっ!」
 風牙が叫び、跳躍。その拳を、強かに忌へと打ち付ける――ぐらり、と忌の身体が揺れ、
「あとの事は私達が何とか致します故、今はどうか、お眠り下さい……!」
 すずなの峰撃が、忌へと叩きつけられる――それが限界だった。忌は小さく鳴き声を上げると、その身体をエネルギーの靄へと四散させる。
 それはすぅ、と地に倒れたすねこすりの身体へと戻っていく。忌へと割かれていたエネルギーが、本体へと戻っていくのだ。それがすっかりとすねこすりの身体に戻っていき――戦いは、ここに終結した。

●残ったもの
「かな殿!」
 ルル家が叫び、駆けだす。懐から取り出した救急バッグを片手に、かなの下へと跪いた。
「酷い……でも、フェリシア殿が隙をついて回復の術式を飛ばしてくれたことが功を奏しておりますね! これなら大丈夫……必ず助けます! 勇者と姫の物語に、バッドエンドは似つかわしくありませんからね!」
「よかった……」
 フェリシアが呟き、ふらり、と脱力した。
「おおっと!」
 ゴリョウがそれを抱きとめる。
「大丈夫か。すまねぇな、俺が完璧に守ってやれればよかったんだが……」
 如何に盾役と言え、すべての攻撃を、すべて完全に受け切る事は難しい。分かってはいるが、こうして仲間が傷ついてしまう事に、ゴリョウはつらい思いを抱いてしまう。
「いいえ……この結果をもたらすことができた。わたしは、それで……満足ですよ」
 フェリシアが、ゴリョウの腕の中で穏やかに笑った。
「ルルイエちゃん、この羽織り、かなちゃんに着せてあげて」
 沙夜がそう言って、羽織を脱ぎ、ルル家へと手渡す。羽織は汚れてしまうだろう。だが、だからと言ってなんだというのだ。少女の命を助けること以上の役目などあるまい。
「間に合ったか……すねこすりも問題は無いか?」
 マナガルムが、すねこすりへと視線を移しながら、そう言う。
「こっちは大丈夫……今、治療術式で簡単なケガは治してる所です」
 タイムが微笑む。その温かな手が撫でるのは、小さな子犬のような妖……すねこすりだ。
「ごめんなさい……ぼく……」
 ぱくぱくと、口を開き、謝罪の言葉をあげるすねこすり。
「だめ。あなたもまだ、消耗してるんだから」
 タイムの言葉に、でも、とこたえるすねこすり。その頭を、マナガルムは優しく撫でた。
「彼女が助かったのは、お前が頑張ったからだ……よくやったな」
 その言葉に、すねこすりは瞳を潤ませる。うう、うう、と、言葉にならない声を、泣きそうになりながらあげていた。
「なぁ、すねこすり。多分、今お前は……自分が怖いと思う。あんな風に暴れてしまった、自分自身が」
 風牙の言葉に、すねこすりは、しゅんとした様子で頷いた。初めて感じた怒りと呪詛。理由があったとはいえ、人を手にかけてしまった感覚――それは恐れとなって消えることは無い。
「でも、誰かを憎む思いは……誰でも持ってるものなんだ。今回は、それを大きく利用されちまっただけ……だから、自分を怖がらないでくれ。お前は決して、化け物なんかじゃない。そして、これからも、かなが望む限り、かなのそばにいてやってほしい」
 くうん、とすねこすりは泣いた。
 許された思いだった。
「さぁ、帰りましょう、みなさん。応急手当は済みましたが、かなさんを医者に見せないといけません」
 すずなの言葉に、皆は頷いた。
 闇差す森の中は、今は木陰から差し込む陽光に照らされて、暖かく輝いていた。

成否

成功

MVP

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍により、二人は救われました。
 かなは、この後医者に連れられ、すぐに良くなったとの事です。
 きっと今日も、かなとすねこすりは、仲良く遊んでいることでしょう。

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