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シナリオ詳細

<巫蠱の劫>罪過満る堕落

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 男が一人、座していた。
 広さは大きく見積もって五畳といったところだろうか。
 かすかな光をもたらす窓も遥かな天井にたった一つ。
 その上、人間が通り抜けるなんてことが到底できなさそうな小さなものだ。
 人気はまるでない。喧騒が聞こえないだとか、さびれているだとかではない。
 ここは、一人ひとりへ割り当てられた部屋――独房なのだ。
 男はそんなことをまるで気にせぬとでも言わんばかりに、静かに座っている。
 あまりにも動かぬその姿は死んでいるのではと錯覚するほどだが――微かな呼吸で胸が上下していることが生きている証左である。
 不意に、音が響き渡る。
 足音だ。一人ではなさそうだ。
 足音は徐々に近づき、男の独房の前で止まる。
「おい、生きているな?」
 尊大な声と共に、光が外から漏れてきた。
 声をかけた男が持つろうそくの明かりだ。
「おかげさまでな」
 男はその声を聞いて初めて目を開いた。
 爛々と輝く狂気に満ちた瞳が、声をかけた人物を射抜いた。
「手をこちらに出せ。後ろ手にな」
「おや、私もいよいよ雑居行か? ここでの暮らしにも慣れてきたところだが」
「そんなわけがなかろう、たわけが。お前をこれより護送する!」
「護送? ……ははぁ、なるほど。ようやっと私の流刑先が決まったか。待ちわびたぞ」
 そういうや、男は立ち上がり、入り口の方へと歩み出る。
 黒鉄を思わせる漆黒の肌は筋肉質で、身体には文様が浮かび――額には一本角。
 誰の目にも明らかな鬼人種の男は、素直に手を伸ばして手を行使に押し付け、手錠が変えられた。
「壁に張り付いて動きを止めろ」
「はいはい、分かっている。すぐになるさ」
 素直にぺたりと壁に胸の方を押し付けた男の下へ、格子を開いて鬼人種達が入ってくる。
 両脇を抑えつけるように、過剰とも思える鬼人種に囲われ独房の外へと連れ出されていった。


「ほほう。これはこれは、名立たる悪人どもがよくもまあ揃ったモノだ」
 男は喉の奥でくっくっ、と声を出して笑う。
「あぁ!? てめぇは、お役人さんじゃねえか」
「ははっ、それは元よ。今は貴様らと同じ罪人よ。
 少々の間、仲よくしようではないか。なぁ?」
 見るからに堅気じゃない男の鬼人種に詰められ、男は笑い飛ばす。
「しかし、我らを纏めて送り込むとは……一体どこの流刑地なのやら」
 つい先ほど啖呵を切ってきた鬼人種の隣に悠然と腰を掛ければ、不思議そうにそう言った。。
「アンタと別のところで頼むぜ。聞いたぞ、アンタ、捕まる前に同胞を二桁ほど屠ったんだってなぁ?」
「何、愚か者をほんの十ほど斬り伏せただけに過ぎぬわ」
「へっ、そうかい」
 続々と連れ込まれる鬼人種達が10人ほどになったところで、馬車が動き出す。
 高天の京を抜け、やがてガタガタと舗装の行き届かぬ畦道となってもまだを突き進むその馬車の行く手に、数人の影が見えてきた。


「皆様に、罪人の護送のお手伝いをお願いしたいと思います。
 1人でも多くの罪人を無事に流刑地となる孤島行きの船に乗せてください」
 イレギュラーズを集めたアナイス(p3n000154)は、メンバーを見渡して、そう言った。
 流刑――カムイグラにおいて極悪人を京より離し、離島へと文字通り『流す』刑罰の手法だ。
 畝傍家が中心的な刑吏として取り扱っているという。
「今回運ばれる罪人たちは全員が全員、鬼人種のようですね」
「鬼ならいっそその場で打ち首にするべきでは?? 寧ろ我、そっちの方がいいぞ」
 集められた一人、『虚刃流開祖』源 頼々 (p3p008328)はいつものように鬼への殺意に溢れている。
「恐らくなのですが、このまま彼らを行かせれば、彼らは全員、複製肉腫と化すでしょう」
「なに?」
「今回、源様をお呼びしたのはそれが理由です。
 流刑地へとつながる最後の集落にて、彼女が――紫さんの姿が確認されました。
 かなり特徴的なお姿なので、彼女であることはほぼ確実でしょう」
 そう言い切ったアナイスの言葉に空気が張り付いた。
 夏祭りの際に姿を見せた彼女は、その手に妖刀を握っていた。
 斬り伏せた者を鬼に似た化け物へと変えてしまう妖刀を。
「あれを使って奴がその罪人どもを少しでも斬れば……」
「情報を聞くに、あの妖刀で斬り伏せた妖怪は直ぐに怪物になったとか。
 であれば、恐らくはかすり傷でも負わせればその時点で罪人たちは複製肉腫に、怪物に落ちるでしょう。
 そうなれば、ただの罪人などより遥かに厄介な敵が増えることになります」
 何をする気なのかは分からない。
 けれど――このままにすれば、十中八九、彼女の手元にある戦力が増える。
 それを座して待つわけにはいかなかった。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。

敵を増やさぬために罪人を守りましょう。

それでは早速詳細をば。

●オーダー
1人でも多くの罪人を島行きの船に乗せる。

●戦場
離島へと出る船が停泊している港です。遮蔽物などは一切ありません。
リプレイの開始時、罪人と皆さん、護衛役の畝傍家の役人達が船着き場に馬車を引いて到着します。
その場に紫さんが現れ、馬車の車輪が破壊され、馬が殺されます。
状況としては特殊なディフェンス戦闘になるでしょう。


●ユニットデータ
【紫】
『虚刃流開祖』源 頼々 (p3p008328)さんの関係者です。
魔種に匹敵する高いスペックを有した旅人です。
何をどうしてどうやったのかここを突き止め先回りしてました。
尋常じゃない再生能力を有しており、生半可な火力では直ぐに復活してしまいます。
今回は積極的に皆さんと戦わず、あくまで『複製肉腫』を増やすことを優先します。

戦闘では扇状ならびに自分を中心とする吹き飛ばし攻撃、レンジの長い単体を拘束する攻撃などを用います。
恐らくは他にも技はあるでしょうが、今のところ不明です。

【妖鬼】×4
便宜上名付けられた紫が<妖刀・鬼喰>で斬り伏せた存在が変化した物。
戦闘開始と同時に近くにいた畝傍家の役人を斬り伏せて作り出します。

【畝傍 道玄】
黒鉄を思わせる肌をした鬼人種の男。
かつては畝傍家の刑吏として働いていましたが、
ある時、突如として乱心し周囲の同僚を10人ほど斬り伏せて捕らえられました。
刑部省勤めの腕利きな鬼人種を10人屠る程度には強いです。

彼が妖鬼と化した場合の実力は計り知れません。
幸い、流刑地へと行くことに抵抗感は無さそうです。
素直に行ってくれるでしょう。

【犬原 勝蔵】
元はヤクザ的な立場だった男の鬼人種です。
なお、かつて道玄が捕らえた人物で、実力は伯仲しておりました。
戦いが始まれば隙を見て逃げ出そうとするでしょう。ご注意ください。

【罪人】×8
各々が殺人罪に問われ、流刑に処されるはずの極悪人どもです。
道玄や勝蔵には遥かに劣りますが、一般人よりは強いです。

【畝傍家の役人】(開始時に妖鬼化する者を除き)8人
刑吏を務める畝傍家の役人達です。
恐慌状態に陥る者、無謀にも戦いを挑もうとする者がいます。
なお、何故か受け入れる者もいるようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 積極的に紫を討伐することを狙う場合、当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <巫蠱の劫>罪過満る堕落Lv:20以上完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年09月15日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
彼岸会 空観(p3p007169)
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反

リプレイ


 馬の嘶きと、蹄、車輪の音が静かに響いていた。
 呼吸をすれば、磯の香りが胸に染みわたるようで。
 見上げる空、晴れ渡る陽の光は未だその勢いを失っていない。
「昨今の呪詛の中心地……どうにも畝傍家と言う名を良く聞きますね」
 停止する馬車を横目に『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)はつぶやいた。
(それにしても怪物になる妖刀……
 元々怪物である者を斬らばどうなるのでしょうね)
 畝傍家の事もだが、その一方で、無量は情報屋から聞いた妖刀の事にも疑問を浮かべた。
 人を経て、鬼となって人に戻った無量は静かに思いを馳せた。
(道玄様の処断は……いえ、今はそういう事を考えている場合では有りませんね)
 罪人の一人、畝傍 道玄の経歴を思い起こす『黒鉄波濤』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は改めて思いなおす。
(各所で事件を起こしている首魁がひとりが彼らを狙っているというのであれば、それを守るのがボクの役目です)
 思い直したヴィクトールは顔を上げ、馬車の先頭の方へ顔を向けた。
 役人たちが誰かに話しかけたような――その時だった。
 一瞬にして、馬車を引いていた馬の首が地面に落ちた。
 続く金属がへしゃげる耳障りな音。
 パキンと音が鳴り、馬車を支えていた車輪が砕け――荷台が地面へ叩きつけられる。
「なんだなんだ?」
 荷台の中から聞こえる声、眼前で突如として姿を現わす――否、姿を変質させたナニカ。
 それに対する役人達の様子は様々だった。
 随分と若そうな者は突如の様子に驚き、怯えて腰を抜かし或いは逃亡を図り。
 そこそこの経験を持ってそうな者達は『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)が事前に呼びかけていた言葉を受けて、落ち着いた対応をする。
 そして――もっとも古参のように見える者達は妖鬼たちの様子を驚きつつも受け入れていた。
「刑部卿のご下命を忘れてはいないであろうな」
 刑部卿の名を出した女が、妖刀を掲げる。
 それを受けて、古参層が膝を屈して目を閉じる。
「さぁ、行け。罪人どもを捕らえよ」
 姿を変質させ出現した4体の怪物が、苦悶に雄叫びを上げる。
 大地を震撼させる遠吠えに、数人のイレギュラーズが状況を即座に理解した。
 馬車の先頭から姿を現した額に歪な形をした一本角を持つ女――紫。
「おや、紫様、今度は仲間作りで御座いますか。相も変わらず一人では何もできないのですね。
 その妖刀がないと何もできないのではないですか? 情けないことで御座いますね」
 紫を挑発するように、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は言い放つ。
「妖鬼が邪魔で貴方を殺せません。邪魔なものは全て排除させて頂きましょうか」
 イレギュラーズの方を向いて動き出した4体の鬼のような怪物――妖鬼の方へとステッキを振るう。
 晴天を断ち割り描かれるのは星降る夜。
 視線を誘導された妖鬼たちが幻の方へと動き出す。
 妖鬼たちの動くその向こう側に立っていた紫が、徐々に荷台の方へと動き出した。
 それに反応して割り込むように動き、自らの居場所を晒したのは――『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)だ。
「どうしたんです? そんなつれない態度で……確か絶対に殺す、なんて言っていませんでした?
 それとも、なに? 歳を取るとそんなに頭が弱くなるの?」
 まるで全く見えていないかのように遥かの後方を見据える紫へと、ハンスはまっすぐにギフトを起こす。
 美しき青い翼より齎されるは幸福感であり安心感である。
 掻き立てた感情に、紫の深いそうな視線がハンスへと向いた。
(そう、その目だ。この女は気付いているのかな。
 自分から恐らく初めて――何にも依らない、純な感情(殺意)を引き出したのが他でもない僕であるという事に)
 その反応を確かめる共に、ハンスは一気に後ろに向かって跳んだ。
「アンタ、中々魅力的だが男の気を引きたいならもう少しやり方ってもんがあんじゃねぇの?
 だからお目当てを他にかすめとられんだよ! 残念美人!」
 代わって紫の前に立ちふさがるのは『朱の願い』晋 飛(p3p008588)だ。
 呼び出したAGで一気に疾走し、男の挑発を無視しながら、紫の視線が真っすぐに晋 飛を――その後方へと下がったハンスを見据える。
 ヴィクトールの横で、馬車の中から罪人たちが次々と抜け出してくる。
「おうおうおう、ありゃあなんだぁ?」
 声を発したのは、犬原 勝蔵だとかいうらしい男だ。
「何をしている、ぼうっとするな。さっさと船へのりこめ。
 あれらの相手は、我らイレギュラーズの仕事だ!」
「はぁ? なんでだよ」
 罪人たちを守るように縫止の外套を広げたヴィクトールの言葉に反応するように声を上げる。
「船であれば、我々が守る。だから早く安全なところまで行け!
 船に乗り込んだならば――絶対に守る。私を信じろ、わかったなら、走れ!」
「そもそも、なんで俺達が流刑地にはいそうですか、なんて行かなきゃなんねえんだ」
 そう言うのは勝蔵であり、それ以外の8人の罪人たちだ。
「逃げるようならやめておいたほうがいいですよ。あの刀で斬られると化物になります。
 死にたいのなら止めはしません。ですが、生きたいと願い、船の中でおとなしくするならわたし達が護ります」
「あぁ、そうかい! つまりはあの刀に斬られなきゃいいんだな!
 じゃあ、あの刀に当たらないように逃げりゃいいんだな? お前ら! 行こうぜ!」
 罪人を制したのは『静謐の勇医』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)である。
 そんなココロに対しても、罪人たちの反応は芳しくはない。
 なにせ彼らはもとより流刑人であり、罪人である。
 そもそも匿われた保護される所が流刑地行きの船なのに促された程度で「はいそうですか」などと従うはずがないのだ。
 とはいえ、ココロもさほどの彼らに思い入れはない。
「そうですか。わたしが助けられるのは生きたいと願う人だけですから、ご自由に」
「――おい」
 文句を言う罪人たちの前へと姿を晒したのは『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)だ。
 自身のギフトをフルに起こした頼々は、意図的に嫌悪感を呼び起こしていた。
「貴様が我を疎んじるように、我も貴様らを守ることなどまっぴらごめんである。
 ――が、にも関わらず我がこうして護送していることの意味を考えろ。
 逃げたところで同じようにいつか察知して妖紛いにされるだけである」
「あぁ――ん? ……へっ、そうかよ……まぁ、そうなのかもなぁ」
「くっくっ。まぁ、流刑地へ行くぐらいなら死ぬかもしれんが逃げるというのもわからなくはないな。
 だが、一縷でも安全に命の保証がされるならそっちの方がいいのではないか?」
 それは、未だに荷台の中にいた男――畝傍 道玄だった。
「そうだ! 生き残る気があんなら今は俺らについてこい!
 処刑する事が目的じゃねぇ! この場をお前らが生きて切り抜ける事だ!」
 前方、紫を抑え込む晋 飛が自らのカリスマ性を利用してそう堂々と告げた。
(今回は腑抜けていてはいられなさそうです。
 少しばかり、活を入れましょう。人を率いるのもいささか懐かしいですが……)
 イレギュラーズと連携を取ることを選んだ2人の役人と一緒に、ヴィクトールは徐々に後退する。
 勝蔵を中心とした罪人たちも、状況に渋々と従っている。
 道玄の方は平然と従ってくれていた。
 無量は第三眼を開くと、その瞳で幻の奇術の範囲外にいた1体の妖鬼を真っすぐに見抜いた。
「例え罪人であろうと人は人。其れを分からぬ者には渡しませんね」
 それこそは第三眼。額に宿るその瞳は、まるで全てを見通すかのように、妖鬼を見定める。
 それを受けた1体が、雄叫びを上げた。
(何だか囮にしているみたいで、ちょっと気が引けますわねー)
 罪人とはいえ、分かっているのに結果的にそうせざるを得ないことに些かながら思いつつ、氷水晶の戦旗を掲げた『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は、祝歌を紡ぐ。
 戦旗を高々と掲げれる。潮風を受けてハタハタと揺らす戦旗に描かれた紋章が魔術じみた加護を仲間達へと注いでいく。
「あの人に近づいたらダメッス! はやくこっちへ!」
 腰を抜かしていた役人たちに声をかける『黒犬短刃』鹿ノ子(p3p007279)は、自らの統率力も駆使して彼らを奮い立たせると、船の方へ移動していく。
 マリアは自らの代名詞ともいえる紅雷を限界を超えて放電させる。
 迸る膨大な疑似電気による質量を利用し、爆ぜるように突撃する。
 自らを砲弾としたその一撃は蒼き雷光となって妖鬼の一匹へと射出された。

 幻は自分を追ってきた2体の妖鬼と共に仲間達から離れると、ステッキをくるりと回す。
 そのままシルクハットを取って礼をすると、シルクハットをトントンとステッキを叩く。
 妖鬼の1体に向けて再び放つ星の夜。より強く叩きつけられた印象的な夜に、妖鬼が雄叫びを上げる。

「っらァ!!!!」
 晋 飛は装着される武装を外し、踏み込みと共に紫へと拳を叩き込む。
 拳を撃ち込んだ部分の傷が、瞬く間に再生されていく。
 紫の前に立ちふさがる晋 飛を目障りそうに紫が見据える。
 紫が掌を晋 飛に向ける。痛撃が放たれ、AGの内側にまで衝撃が伝わるような強烈な一撃が撃ち込まれる。
 尋常じゃない圧迫感に落ちそうになる足を自力で踏ん張り、晋 飛はまっすぐに前を向く。
(彼と共に戦う度に「振り落とされない様に」と声を掛けちゃうのは、
 この身に感じる重さが余りに頼りなくて驚くからだ)
 ほんのわずかに後ろを見る。
 そこに立つ頼々はどこまでも華奢で、折れそうなほどに頼りなく見えてしまう。
 深呼吸。ハンスはまっすぐにこちらを向く女と目が合った。
「ほら、おばさん、文句があるなら僕を殺してみなよ」
 笑って見せた。この女の注意を、限界までこちらに留めおく。
 それがハンスの役割だ。殺意の込められた瞳がハンスを射抜き、手を掲げた。
 ズン、と、重りでも持ったかのように身体が落ちる。押し付けられる重さに、足が揺れる。
 その重さが、不意に消えた。
「任せろつった以上できねぇとだせぇだろ?
 格好つけらんねぇなら死んだ方がマシだ!」
 挑発するように言った晋 飛は、自らの身体を紫に叩きつけた。
 そのままもう一度とばかりに拳を紫へ叩きこむ。
「目障りな男め……そこまで言うのなら死ぬがいい――」
 直後、晋 飛の身体に大きな斬痕と鮮血が走る。
 頼々は意識を集中させた。それは紫のもう一本の角、そして虚刃流にとっては鞘たる『紫染』より彼女の力の一部を引きずり出すため。
 空想の刃として放たれたそれは、彼女の妖刀を――鬼喰の力を反転させたもの。
 あり方を反転させて撃ち込まれた呪詛が、紫の腕へまとわりついた。

 巨大な泡を想起させる防御術式――それを縫い留めた黒き外套に魔力を流す。
 励起された術式が輝きを放ち、その身を包み込んでいく。
 後光と共にまるで黄金の翼が生えたかのような錯覚させるそれは、侵されざるべき聖なるナニカ。
 それだけにはとどまらず、ヴィクトールは更に魔力を起こしていく。
 それこそは自身という名の聖域。
 ヴィクトールは、役人と罪人たちを護送するように船の方へと移動していた。
「どうせ離島に行けば死ぬ命、無理なき程度にで構わない。無理をしないようにな。
 しかし……刑部卿はあの刀の問題を解決されたか」
 ぽつりと呟かれたのは、畝傍 道玄の言葉だ。
「どういうことです?」
「私は同胞殺し。離島に行けば裏切者として元同僚に報復を受けるであろう。今さらそんなこと気にしない。
 だから、あの怪物にならない程度になら傷ついても君達に不利益はないということだ」
 何となく、彼も自分達の任務の内容を理解しているのだろう。
 ひょうひょうと告げられた。
 その視線を道玄から前へ戻した視線の先で、紫の近くにいた役人達が斬り下ろされた――
 ココロはその光景を見た瞬間、魔導書を媒介に魔力を整え、詠唱する。
 変じていく。変じていく。人だった物が。
 斬り伏せられた人の姿が溶けだし、よりごつく、より凶悪に、より脅威的に。
 ココロの織りなす術式の光は神聖なる聖罰の輝き。
 紫を中心として降り注いだ輝きは激しく瞬き、妖鬼へと変じた元役人達を焼き付けた。
 苛烈な正義を用いて糺す峻烈の輝きに焼き付かれた怪物が、天に向かって吠えた。
 メリルナートは自らの血を媒介として氷の槍を精製すると、戦旗を振るう。
 まるで踊るように振るわれた旗を合図に、鋒が真っすぐに風を切って飛翔する。
 幻影のごとき鮮やかなる氷の輝きを引きながら、氷槍が駆け抜ける。
 陽光に照らされたそれは華のような煌き、涼し気な氷の輝きが艶やかなる流麗さを見せつける。
 防御態勢を整えさせる隙を与えぬ美しき軌跡を以って妖鬼を貫いた。
 悲鳴のようなものを上げた妖鬼が、動きにくそうに隙を見せた。
「私は自らの業にて鬼へと堕ちましたが、貴方達の中には本意ではない者も居りましょう」
 自分に近づいてくる2体の妖鬼を相手に、無量は静かに告げた。
 静かに構え、三眼を開く。真っすぐに閃かせるは変幻の剣。
 美しき一太刀は美しさからは想像もできない複雑な動きで妖鬼の首目掛けて伸びていく。
 メリルナートの氷槍を浴びて隙をみせた妖鬼へ、太刀を振るう。
 鋭い太刀筋は一度では終わらない。
 より深く刻まれた隙へと、縫い付けるようにもう一度、静かな変幻の刃を撃ち込んでいく。
 誘導の最中、鹿ノ子は新たに生み出された1体の妖鬼に道をふさがれていた。
 真っすぐに、敵を見据える。一つ一つの身体の動き、そこから生みだされる死角を見出すように。
 一歩、前に出た。黒蝶構えて跳ねるように太刀を閃かせた。
 それは降り注ぐ流星の如く。衝撃的な連打となって幾重にも妖鬼に叩き込まれていく。
 一つ一つは決して強力とは言い難い。
 しかし確実に、幾度にも渡り叩き込まれる連撃は避け難く、そして連撃のたびに生じる隙は次の一撃に重く響く。
 連撃がひと先ずの収束へと導かれた頃、マリアが爆ぜるように走った。
 蒼雷の槍、あるいは弾丸のようになったマリアの一撃が強烈な連撃となって軌跡を描く。
 美しき紅蓮の髪、真紅を散りばめた衣装を蒼く彩る閃光の槍は、流麗に苛烈に。
 その雷霆は獣が吠えるが如く鳴り響き、華のように咲き誇る。
 迸る雷撃の軌道はさながら蒼き花吹雪の如く。留まることなく連撃を叩き続けた。
 打ち据えたのち、振り下ろされた拳に対して、マリアは紅雷を纏い、奇跡のような動きで躱しきる。


 幻はシルクハットを空に向けて払うように振るうと、青い蝶が戦場に姿を現した。
 出現した蝶は、妖鬼の1体へと近づいていくと、それの周囲をまとわりつくようにはたはたと跳びまわった。
 それに意識を持っていかれたようにぐるぐるとその場で回転した妖鬼がやがて立ち止まる。
 それは一炊の夢。彼にいたのかもわからぬ、思い人の夢。
 くらくらとしたそいつは、ばたりとその場で倒れ、その衝撃を受けてハッと起き上がろうとして――思わず自分を殴っていた。
 我に返った妖鬼へ、もう一匹蝶がまとわりつき、再び夢の中へいざなっていく。

 紫の攻撃は激烈だった。
 紫からハンスを守るように立つ晋 飛ごと巻き込むように放たれた不可視の何かが幾度かハンスの身体に傷を負わせていた。
「余計なことはさせないよ」
 集中していく。
 正直なところ。紫の考えも、頼々と紫の関係も、紫が自分に抱いた感情も。
 全部、全部どうでもいい。
「けど。僕は、相棒を、友達を、守って見せると、そう誓った」
 余計なお世話だってことは分かっている。けれど、それでも。
 はじき出されるように、ハンスは走る。
 確かな足取りで、空を踏み――速度をはねる。
 時間を超えて、光を超えて、ただ真っすぐに。
 槍となって放つそれこそが、自分なりの到達点なのだ。
 虚光の輝きが、真っすぐに紫を撃ち抜いた。
「くっ――ふ」
 笑みが残る。
 それは、鬼の笑み――自らの、この女の最大の利点を自覚して笑う。
 不可視――けれど、来ることの分かっている一撃。
 それがハンスへと打ち出される――その寸前に、ハンスと紫を割って入るような影が走った。
「くっ――」
 鮮血が地面へと零れ落ちる。
「……悪いが、こいつの時計の針はやっと動き出したところなのだ。
 万が一つなど、師である我が認めん」
 血を拭って払った頼々に、紫が驚愕の声を上げたのが分かる。
 ――とはいえ、頼々だって無策で身を晒したわけではない。
「いいのか、貴様が欲しいものすべて失うであろうよ」
 挑発しつつも、紫から視線を外さない。
 頼々は自分が殺されることはないと分かっていた。
「頼々クンなんで……でも大丈夫だよね……ふふふ! 早く退いてよ。死んじゃうよ?」
 いつかは今ではあるまい。
 きっと、紫にとっては今回の介入は偶然だ。
 頼々は頼守より空想の刃を引いた。
 真っすぐに、最速を持って撃ち抜く絶技が至近距離の紫の腕をねじり取る。
「退いてくれないんだね――じゃあ、ちょっとだけお仕置きしなきゃ!」
 爛々と輝く瞳。
 それに抗うように走る影があった。
 晋 飛は横殴りにするように紫へと体当たりをかますと同時、ショットガンをゼロ距離から叩き込んだ。
 捩じり飛んだ腕の傷口が、更に傷を受けていく。
 猛烈な連撃を受けた紫が、後退していく。
 勢いにやられた女はそのままきつく晋 飛を見据えてくる。
 その傷口が、徐々に癒えていく。

 ココロはブルーゾイサイトが散りばめられた魔導書を開いて、詠唱する。
 冷たい海の中で揺蕩う子守唄のような優しい調子の声で歌う。
 その瞬間。ヴィクトールの周囲が温かい光に輝き、どこからともなく響く音色。
 まるで、港町の潮風と、波打ち際の穏やかな波の打ち据える音のような、静かで穏やかな情景が心に思い浮かぶ。
 祝福を与え、団結を促す美しき音色に導かれて、妖鬼に殴られた傷が癒されていく。
 それでも、ヴィクトールの傷は深い。
 急襲的に出現した妖鬼は罪人たちを狙ってヴィクトールの方へ攻撃を繰り返している。
 タフネスさと防御技術を駆使して耐え抜いているが、それでも傷を負う量は増えつつある。
「ふむ、大丈夫かね?」
 二人を庇うことで、負担は二人分。
 彼ら二人をなんとしてでも手に入れんと言わんばかりに殴りつけてくる。
 そんなヴィクトールの視線の先で、1体の妖鬼が動きを変えた。
 そいつはイレギュラーズを無視すると走り抜け、船と陸地を繋ぐ部分へと突き進んでいく。
 そのまま、一番近くにいた役人を思いっきり殴りつける。
 二度に渡って殴りつけられた役人がよろめいた。
『ガァァアア!!!!』
 妖鬼が叫ぶ。それを耳にしながら、無量はそっと目を閉じて思考する。
(……自らの目的の為に他人を犠牲にする。
 ほんの少し前の私と紫さんで、何が違うのか)
 本来の二つの目を閉じたまま、構えを取り、第三の眼を妖鬼に向ける。
 手に握る大業物に、微かな力が入る。
(――何も違わない。
 違わないからこそ、認める訳には参りません)
 静かに、目を開いた。直後、無量は跳ぶように走る。
「故に、彼らをこれ以上苦しませない様此処で引導を渡します」
 反応するように伸びてきた妖鬼の腕。
 撃ち抜かれた剛腕の振り抜きを躱し、一気に前へ。弾丸のように撃ち抜くは瞬点三段。
 たたらを踏んだ妖鬼を三眼で見据え――真っすぐに狙うは敵の首。
 メリルナートは戦旗をそっと横たえるように――槍のように構えた。
 そのまま、物語を謳う。まるでそれを詠唱とするかのように、穂先の氷水晶より浮かぶは二振りの氷剣。
 メリルナートはそれを無量の猛攻を受けた妖鬼目掛けて叩き込んだ。
 真っすぐに飛翔した氷の剣は、綺麗な軌跡を描き、よろめく妖鬼に突き刺さる。
 真っすぐに突き立った2本の氷の剣は慈愛の籠った一撃。
 決して死ぬことなく、されど死の錯覚を齎す剣である。
 鹿ノ子とマリアはほとんど同時に駆けだした。
 紅雷を纏うマリアは電磁加速に徐々に速度を上げ、赤い流星の如く一筋の輝きとなり駆け抜ける。
 強烈な踏み込みと同時に跳び上がり、妖鬼の膝関節目掛けて叩き込む紅の雷球。
 そのまま勢いに任せるように身を躍らせて次の雷を叩きつけ、留まることなく更なる紅雷で妖鬼を貫いた。
 そしてマリアが止まる頃、妖鬼の脚が地面に落ちた。
 繋がるように動いた鹿ノ子は黒蝶をしっかりと構え、最後の一歩と共に振り抜いた。
 艶やかに舞い上がり、花のような美しさを帯び、蜂のように鋭く、胡蝶を描く。
 そのまま、止まることなく叩きつける一撃は嵐のように。
 恐ろしいほどの連撃を浴びた妖鬼が、膝を屈して倒れこんだ。

 混迷ここに極めりといった戦いは、徐々に収束へと近づいていた。
 紫の身動きを止めることができているというのが一番大きい。
 一人一人の余力は確実に削られているが、それでももっと危険な存在を孤立させることができるというのは良い手だった。
 ヴィクトールは最後の罪人を船の上にあげてから、一つ呼吸した。
 その身は傷が深く、受けてない場所などないほどだ。
 ヴィクトールは後ろ髪をひかれながらも船から降りて仲間たちの方へと走り出した。
 残る妖鬼は――2体。
 真っすぐに走り抜けたヴィクトールは、そのまま紫の前へ身を躍らせる。
「どうした? 目当ての者は船に乗ってしまったようだぞ」
 頼々は紫に事実を突きつけるように言葉を発した。
「そうみたいだね……ふふふ!」
 笑う紫が刀を天へ掲げた。
 不意に妖鬼が動きを変えた。
 突如として体を起こし、その視線をあらぬ方――紫の方へ向ける。
「ごめんね、頼々クン。これ以上減らす気はないんだ」
 どことなく申し訳なさそうな声でそう言った紫の背後に、妖鬼たちが下がっていく。
「せっかく頼々クンのために増やすのに、もったいないよね!」
 にこにこと笑いながら、紫がそう言って笑っていた。
「それ程の力を持ちながら、なぜ無関係な人を殺め手勢を増やす!?
 本当にそれは君の意思なのか? 誰かに命令されてやっているんじゃないかい?
 私達と殺し合った方が、君にとって余程楽しいと思うけどね!!」
 最後の蒼雷を纏い、マリアは爆ぜるように飛び、紫へと跳び蹴りを叩き込んだ。
「――どうでもいい奴がどうなろうと私が気に留める必要はなかろう」
 問い詰めるような言葉に反撃するようにそう言って、悠然と立ちふさがっていた。
 メリルナートは仲間たちの背後に立つと、戦旗を翻した。
 振り絞る気力の限りを以って歌い、放つ号令が仲間たちに集中力を齎していく。
「お前ら! 俺ごとぶちかませ!」
 そんな紫めがけて晋 飛は最後の力を籠めて突貫すると、強く抑え込むようにして取り付いた。
「――おのれ、鬱陶しい邪魔立てを……!」
 ココロは詩を紡ぎ始めた。魔導書を媒介にして、魔力を乗せて奏でる歌が、晋 飛の方へ届いていく。
 穏やかでゆったりとした調子の中でどことなく聞きほれるようなその美しき声。
 それは潮風に乗って流れ晋 飛に蓄積する疲労感を僅かながらも取り除く。
 救える命がそこにある。だから手を伸ばすのだ。
「何も聞く気のない者に忠告するだけ僕は親切だと思うのですが、何度来ても同じです。
 貴方が源様にも僕達にも勝つ事はない」
 そんな言葉と共に姿を現した幻の後ろを追従するように存在していた無数の青い蝶が紫へと羽ばたいていく。
 蝶らが紫へまとわりつき、まるで蜜を吸うかのようにその精神性を吸い取っていく。
「そんじゃ、いくッスよ!」
 鹿ノ子もそれに続くように走った。
 もはや一撃を撃ち込む気力はこれまで。けれど、この一発があれば、きっと続く仲間達の一撃が入るはず。
 黒蝶を撃ち込み、流星の如き剣舞を舞いあげる。
 一撃一撃は大したことはない。それでも深く精神性を抉る乱舞は着実に傷を刻んでいく。
 多段的に撃ち込まれていく仲間たちの連撃。
 続くように無量が、ハンスが、最後の大技を叩き込んだ。
 頼々は最後の渾身を込めて、刃無き鞘を振りぬいた。
 最速で打ち込まれる絶技が、再び紫の腕を吹き飛ばす――よりも前に、紫が身を翻して打ちどころを変えた。
「あはは、ごめんね頼々クン。今日はもう帰らせてね!
 また会おうね! ふふふ、その時はちゃんと遊ぼうね!」
 そういや、紫の全身から不可視の壁が放たれ、晋 飛を除く全員を至近距離から吹き飛ばした。
 妖鬼を連れて紫が姿を消したのを確認して、イレギュラーズは船の方へと向かっていった。


「……命を救われた以上、多少なりとも報酬を出す必要があるか」
 戦いが終わり、傷だらけのイレギュラーズの殆どが道玄を見た。
「主君に不利になる物は流せぬが、そうだな……あの刀のことぐらいであればいいか」
 そういう道玄の視線はいなくなった紫の方を見据えている。
「あなたはあれを知っているのですか?」
 ココロは仲間たちの傷を癒しながら、視線を道玄に向けて問いかければ、道玄がこくりと頷いた。
「うむ、鬼喰――あの刀はずっと昔に『最も多くの鬼を斬り捨てた』鬼討伐の名刀だった。
 それがいつからだろうな。逆転したのだよ。
 即ち、『鬼を斬るのにこの刀を用いた』から『この刀を用いたのだからこれは鬼』にな」
 因果の逆転が、呪いを帯びて成立してしまった妖刀とでもいうべきか。
 それは奇しくも頼々が見出した禁忌の技に等しい性質ではあったが――
「あれで斬られて鬼に変じた者は理性を失いつつも
 あの妖刀の所有者を主と認める部分がある」
 そう言うと、道玄は腕をきつく組んで浅く鋭く呼吸する。
「話は変わるが。実は少し前に刑部省の上層部で実験が計画された。
 より安価に、より多くの動員可能戦力を手に入れるというな」
「なんですか、それは」
 ヴィクトールが胡乱な視線を向ける。
「だが、実験は失敗し10人もの死傷者が出た。上はその時まで知らなかったのだ。
 あの妖刀は普通の人間が手に持てば正気を失うものだとな」
 わかりやすく、淡々と、喋り続ける道玄の言葉は、明瞭だった。
 まるで見てきたかの如く。胡乱さに警戒を見せるイレギュラーズに、道玄が肩を竦める。
「さて、そろそろ話はこれまでにしようか。
 彼女は退いたが、いつまでも出港せねば、それはそれで離島(むこう)で待つ者も危ぶもう」
 そういうや、道玄は船内の奥に消えた。
 警笛の音がする。どうやら出港の合図のようだ。
『より安価に、より多くの動員可能戦力を手に入れる』
 それが――刑部省の長の目的なのだろうか。
 だとしたら――紫はそれに協力しているのだろうか。
「――いやないな。あれが誰かに協力するとは思えん」
 頼々は出た推察を否定する。
「だとしたら……可能性は、利用しあってるとか?」
 ココロはぽつりと呟いた。
 船を降りた面々は、ふと道玄の罪状を思い出した。
 ――10人もの同僚殺し。
 ――驚くほど明瞭に語られた妖刀の過去。
 見てきたかのような――なんてものじゃない。
 恐らくは、実際に見たのであろう。
 だとすれば、彼の罪状は――
 そして、それが意味する本当の意義は――
「蜥蜴の尻尾切り……もっと別の言い方をするなら、上の罪の全てを自分で被った……?」
 ぽつりと誰からともなく発せられた言葉が、港の海風にさらわれて消えていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)[重傷]
懐中時計は動き出す
源 頼々(p3p008328)[重傷]
虚刃流開祖
ハンス・キングスレー(p3p008418)[重傷]
運命射手

あとがき

傷は浅くありませんが、成功です。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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