PandoraPartyProject

シナリオ詳細

お団子が怖いのですっ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●茶店
 赤い野点傘が夏の日差しを遮り、細長い座席にはネオフロンティアから持ち込まれた布がかけられている。
 茶と団子を運ぶ店員も洒落ていて、茶屋というものに初めて触れた若き八百万が目をきらきらさせていた。
 しかしすぐに現実に引き戻される。
 移動中に護衛や子守で頑張ったとはいえ、財布の中身に余裕はない。
 雨森・鈴音は甘味と華やかさの誘惑を振り切り、今日の宿を探すため店に背を向けた。
「ようこそおいで下さいましたっ」
 いきなりの大声に鈴音がびっくりする。
「ささ、こちらへ。おおい、神使様が来られたぞー!」
 厳つい顔の店主が笑顔で鈴音を誘導する。
 客あしらいに長けた店主にあらゆる面で経験が浅い鈴音が対抗出来る訳もなく、いつの間にか縁台に座らされていた。
「あの、私イレギュラーズじゃ」
 店主は聞いていない。
 素直で、可愛らしく、そして華もある鈴音は客寄せに適している。
 身のこなしを見れば戦えるのが一目瞭然なので、間違っていても構わないと思っているのかもしれない。
「冷えたお茶もありますよ。あたしの奢りですんでどうぞどうぞ」
 おいしそう、と思ってしまった時点で負けだった。
 涼しげな柄の茶器を受け取ってしまい、誘惑に負けて一口飲んでしまう。
 とても、美味しかった。
「実はですね」
 店主の語り口は軽快だが目は真剣だ。
「最近食べ物を玩具にした野郎がいましてね。誰が言い出したかは知りやせんが、饅頭怖いって話がありまして」
 人の良い鈴音は、報酬も危険度も聞かずに協力するつもりで聞き入っている。
「元の話は滑稽話でさぁ。あたしも何度も笑わせて貰ったんですが」
 店員が次々に鈴音を構って、試食用の皿をいくつも並べていく。
 艶やかな白団子に砂糖醤油餡をかけたお菓子も、微かに酒の香りが漂う蒸し饅頭も、どれもとても魅力的だ。
「馬鹿な翻案の芝居をして、食い物をゴミに変えちまったんですよ」
 大量にね、と笑い皺が刻まれた顔に一瞬嫌悪が浮かんだ。
「んで、出たんです」
 鈴音がこくりと唾を飲み込む。
 可愛らしい八百万目当てで集まって来た客は、鈴音を肴に茶を飲んでいる。
「団子と饅頭がね、こう、幽霊みたいにふわーっと」
 鈴音が涙目になる。
 一般客は、店主が子供を虐めていると通報するかどうか迷っている。
「今のところ害はないんですが、このまま無事で済むかどうかは分かりやせん」
 だからローレットに依頼した。
 戦って勝つだけでは不十分。
 客にも店にも被害を出さずに解決して欲しいのだ。
 鈴音はイレギュラーズでないことを伝えてから協力を申し出ようとして、小さな……鋭敏な鈴音の感覚でも勘違いと思いかけた小さすぎる変化に気づく。
「お団子?」
 新鮮ではあっても生き物ではないはずの新作団子が、誰も触れていないのにかたかたと揺れた。
 むふう、と酒蒸し饅頭から熱い息が吐き出される。
 無碍に扱われた饅頭達の恨みと、人に危害を加えることが出来るならなんだって構わない悪意がこの店のお菓子に集まり、巨大化させる。
 宙に浮かぶ団子と饅頭が、明確な悪意を周囲に撒き散らした。
「みなさん、ゆっくり、離れてれて下さいっ」
 鈴音は落ち着きを装う。
 今彼女が怯えれば、客がパニックに陥り化け物襲われる前に大怪我をするかもしれない。
「ここは私が防ぎますっ」
 だから恐怖を押し殺し団子と饅頭に立ち塞がる。
 団子から突き出した槍じみた串も、饅頭の腹に開いた不気味な口も、泣きたくなるほど怖かった。

●海外からの依頼
「カムイグラからの依頼なのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、依頼書に同封されていたチラシを横目で眺めている。
 写実的に描かれた茶店は上品で、団子や饅頭を初めとする甘味は美しく、茶を入れる器も色とりどりだ。
「多分、可食モンスターが相手なのです」
 美味しく食べれば成仏というアレだ。
 何故モンスターになったのか、どうしてその場所を狙うかは詳しく調査しないと分からない。
 だが、的武力で打ち倒すか、ゴミでもモンスターでもなくお菓子として食せばおさまることだけは分かっている。
「とりついたスイーツは有名店のものらしいのです」
 だから食べても大丈夫。
 美味しく食べてしまうことが店の宣伝にもなるので、店側としてもどんどん食べて欲しいらしい。
「勝つだけなら難しくないかもですが、美味しく食べるのがほとんど必須なので難易度上がってるです」
 真面目な顔で説明するユリーカだが、視線は頻繁にチラシへ向いている。
「仕事の後は知り合いとお団子食べたりお茶を飲むのもいいかもです。……油断は、しないでくださいね?」
 かなり、美味しい仕事かもしれなかった。

GMコメント

 アフターアクションをありがとうございます。
 食べ物依頼です。
 浴衣や着物を着て向かうのも良いかもしれません。


●目標
 お茶菓子モンスターの討伐。


●ロケーション
 高天京にある茶屋が舞台です。
 通りから離れた閑静な場所にあり、若い男女のデートスポットとしても有名なお洒落な店です。
 店は広く、少し離れれば広い平地もあります。


●エネミー
『フライングみたらし団子』×4
 白い団子は艶やかで、ほんのりした甘さとぷるんとした食感が特徴です。
 甘辛いタレと一緒に食べると味わいが変化し、美味しく楽しめるでしょう。
 3つの団子が刺さった串が4つ、ふわふわ浮かんで獲物を探しています。
 タレとつるつるで回避が高めです。
 ・串で刺す  :【物至単】【出血】
 ・口に飛び込む:【神至単】【窒息】【必殺】【ブレイク】


『大口酒饅頭』×2
 良質な小麦粉を使った厚めの皮で、しっとりとした餡を包んだ酒饅頭です。
 こしあんと粒あんがそれぞれ1つあります。
 現時点ではかなり大きめですので、木製ナイフなどで切り分けると食べ易いかもしれません。
 力の割に大きく、機動力と回避が低いです。
 ・噛みつく:【物近単】【無】
 ・甘い息 :【神中範】【無】【怒り】

『お茶スライム』×1
 爽やかな香りの緑茶です。
 苦みは抑えめで、お子様にも飲みやすくなっております。
 本体から切り離した部位は、ゼリー状から美味しいお茶に変わります。
 HPが異様に高く、特殊抵抗が少し高く、他の能力は非常に低いです。
 ・ぷるぷるする:【物至単】【無】
 ・立ち塞がる :『マーク』または『ブロック』

 上記のモンスター達は、倒さない限り不思議な力で守られていて、衛生面は全く問題ありません。



●他
『茶屋の店員達』
 イレギュラーズの指示には素直に従います。

『茶屋の客達』
 戦闘の邪魔はしませんが危機感が薄いです。

『雨森・鈴音』
 『フライングみたらし団子』2つに追い詰められています。
 発展途上です。


●戦闘について
 プレイングによっては、物理的な戦闘は1行で済んで後は飲食またはデート描写になる方もいると思います。
 参加者同士で楽しんでもOK。関係者を呼んで楽しんでもOKです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はなく不明点はありますが、イレギュラーズの不利にはなりません。

  • お団子が怖いのですっ完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月09日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸の魔術師
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
メイメイ・ルー(p3p004460)
ちいさな決意
彼岸会 空観(p3p007169)
回言 世界(p3p007315)
陰性
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護

リプレイ

●愛と憎しみは表裏一体
 艶めく白も、豊かな甘味も、全ては人を楽しませるためにあった。
 その全てに泥を塗られた。
 茶屋の中に浮かぶ茶菓子達は、もはや甘味ではなく殺意そのものだ。
「やはりモンスターか」
 垂直に突き刺す角度で眼球を狙ってきた竹串を、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は凄まじい反射速度で回避する。
 しかし敵は単独ではない。
 最初のフライングみたらし団子(串)の陰に隠れていた2本目が、世界が飛び退く動作を終えるに届いた。
「あの、あのな……俺は確かに甘味が大好きだ。一日三食甘味で済ませるなんてザラだし、将来間違いなく糖尿病になるし、何なら今も飴を舐めている。だが」
 焦りではなく感情が高ぶっているが故の早口だ。
「モンスターを食うのはちょっと……遠慮したいかなぁ」
 頬に浅い傷が刻まれはしたが、回避、防御、抵抗の能力が揃った世界にとってはかすり傷だ。
 出血を狙い失敗した団子が、戸惑うように世界の周囲をぐるりと飛んだ。
「みたらし団子、お茶に……酒饅頭か? ここには恐ろしいものしかないな」
 高速で走る『双色クリムゾン』赤羽・大地(p3p004151)の足音は、囁くような声でかき消されている。
 大地の手から湧き出す魔力が身の丈ほどもあるハサミの形をとって、まだまだ強い日差しをぎらりと跳ね返す。
「とりあえずハ……いただきまス、って言っとくのが正しいカ?」
 最高速を維持して足を止めない。
 色鮮やかな布がかけられた座席に触れもせず、柔らかな白い肌を深くまで切り裂いた。
「JKを戦場に呼ぶなよみっひー」
 古馴染みの大地に呼ばれた羽切 響が、清潔な皿で団子の断片を受け止める。
 接触の瞬間に皿を引いて衝撃を抑えるという一事だけで、ただの女子高生でないことが分かる。
「助かっている」
「この戦いでは必要なのサ」
 2つの人格がそれぞれに応える。
 大地が鋭角的に方向転換すると、首から下の鮮血色の髪が鮮やかに揺れる。
「鎮魂とかそーゆーのか? JKには分からねぇ……おいなんだその目は」
 セーラー服が似合う響が、一般的な女子高生は絶対に出来ない目付きで大地を睨んだ。
「た、食べ物を粗末にする、のは…いけません、よね」
 ふわもこ羊獣種が精一杯気合いを入れる。
 殺意がある分評価を下げても、空飛ぶ断固と饅頭はとても美味しそうだ。
「無念を抱いたお菓子たち、を、美味しく、食べて差し上げなくて、は……」
 フライング豊穣スイーツはそんな『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)に心を開いていない。
 メイメイから感じ取れる思いを隙と断じ、2本の団子を目立つ進路で飛ばしてほんのり酒の香りがする饅頭から濃厚な甘味を発した。
「っ」
 思考が歪む。
 饅頭を駆け寄って叩くか、近づいて食いつくことしか考えられなくなる。
 無防備なメイメイの背中に、勢いをつけた団子串が2本突き刺さった。
「落ち着け。気持ちは分かるが……すごく分かるがっ、治療はするから口に飛び込むのだけは防げっ」
 世界が強力な癒やしの術を行使する。
 団子が抜けるタイミングで奥の傷から表面の傷まで綺麗に治り、しかし痛みは少し残っている。
 1つ1つは小さな威力でも、2つ揃えば無視出来ないほど大きな被害になる。
 大地が攻撃から治癒に行動を切り替え、甘い香りに縛られていたメイメイの精神を回復させた。
「ありがとうございます」
 膝から適度に力を抜いて斜め前へ加速する。
 小さな口の奥に飛び込むつもりだった団子がメイメイの頬に当たって砂糖醤油餡が少しつく。
 メイメイの狙い通り、術に適した距離をとることに成功した。
「お菓子はお菓子に戻って貰います」
 食べ物を粗末にしたという罪は憎むがフライング茶菓子は憎まない。
 華やかな茶店にも負けぬ、凝った形状と色合いの飾り付け状の疑似生命を創鍛する。
「元気よく動く姿、とても、美味しそう……」
 命を危険に晒しても真っ直ぐに向き合うメイメイに、頑なだった憎悪の象徴達が微かに戸惑う。
「あなた達の相手は、私達ですっ」
 飾り付けは刹那で消えた。
 モンスター達は、傷をつけられたのに怒りも憎しみも見せない。。
 くぅ、と。
 メイメイ自身に気付けぬ小さな音が腹から聞こえる。
 ほんの少しだけ、茶菓子達の憎悪が緩んでいた。

●お茶と恋心
「ああも無惨に扱われてこの程度で済んでいるとは」
 『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)の額の瞳がわずかに細められる。
「辛かったでしょう。後はお任せ下さい」
 透き通り過ぎて背後が見える大型スライムが、緑の体をぷるりと震わせた。
 無量は大業物を両手で構え、音速を突破しないぎりぎりの速度でスライムを三度斬る。
 霊すら斬り捨てる三連撃でも、巨体に溜め込まれた膨大な恨みは消しきれない。
 が、斬撃を防ごうとする動きが防御の乱れに繋がる。
「……ち、またあの小娘か」
 響きだけで心を奪うほどの美声が、滴るような嫉妬を伴いスライムに届く。
「退きなさいそこのスライム」
 青黒く輝く光の剣が、前後左右とついでに上から突き刺さる。
 これで滅べないことに気付き、怯える新茶スライムが体を激しく震わせる。茶の色の巨体から守りが完全に消えた。
 無量の構えが変わる。
 殺意が数え切れない回数スライムを撫でて通り過ぎ、その度に己が斬られる様を幻視させられる。
「貴方の事も無駄に致しませんよ。一滴たりとも」
 3連撃。
 だが先程とは根本的に違う。
 最大の威力を発揮する軌道を異なる条件で3回選び出し、3回とも正確になぞって半透明スライムに打ち込む。
 守りもなく剥き出しにされたスライムに耐えきることは不可能だ。
 ぐずりと崩れ、スライムという形を失う。
 無量は止めの代わりに大きな桶を持ってくる。スライムは自ら桶の中に入り、澄んだ色のお茶に戻るのだった。
「ふわっ!?」
 団子1つに追い詰められていた雨森・鈴音が、団子とは全く関係無い感情を向けられ動揺した。
「鈴音ちゃん! 大丈夫かい?」
 『Dáinsleif』ライセル(p3p002845)の動きはただ走るだけでも優雅で、しかもその優雅さは苛酷な実戦で戦い抜いた末に得たものだ。
 顔も体も中身も高水準のライセルからの優しい言葉には、八百万として目覚めてからあまり時間が経っていない鈴音はあまり心動かされない。
「怖かったかい? もう大丈夫だよ。今回も一人で良く頑張ったね」
 髪飾りに似合うよう、八百万として己を確立する前から一生懸命考えた着物を守ってくれる。
 それがとても嬉しく、自然と顔がほころぶ。
「コスモスはね乙女の真心とか調和って花言葉なんだ。鈴音ちゃんにぴったりだね」
 鈴音の本質である鈴の髪飾りを映える花を髪に挿すのも好印象だ。
 器物の八百万としての心以外ものが芽生えかけ、しかし直前の敵意を思い出して表情を引き締める。
「いいえ? なんでもないのです」
 『冷たい薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)の微笑みは名工の手による石像のように美しく、その上しっかりとした生気と存在感があるので非常に眼福だ。
 鈴音は敵意を感じたのは間違いだったと思い直し、イレギュラーズの邪魔をしないよう、ライセルから援護を受けつつ茶菓子モンスターから距離をとった。

●着火
「有名店のスイーツ食べ放題と聞いて、アカツキ・アマギ参上したのじゃ!」
 空気を読んだ上で己の思うがままに塗りつぶす。
 エンジョイ&エキサイティングに生きる『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)は今日も元気だ。
「お菓子の幽霊退治か、なるほどのう」
 豊穣に渡ってから誂えた着物を着こなし、歳を経た狐の魔性じみた笑みを浮かべる。
 内心ちょっと怯えて懐に大量に入れた除霊グッズを意識しているが、全身にまとう膨大な魔力と両手の炎があるので茶菓子達からの警戒心はMAXだ。
 ふわりと複雑な甘さが漂う。
 丁寧につくられた練り餡と酒と生地の香りがアカツキの心を夢幻へ誘う。
 だが足りない。
 炎に魅入られし炎の魔女を自称し実際高位の使い手であるアカツキにとって、この程度の状態異常ブレスはそよ風のようなものだ。
「くっくっく、その巨体を炙ってから丁寧に切り分けてやるのじゃ」
 最初の標的は酒蒸し饅頭だ。
 あえて手加減なしの炎を、容赦なく饅頭の中心に当てる。
 皮が焼ける。
 命中箇所が一瞬で炭と化す。炭は崩れ落ちて炭の臭いは残らなかったが、菓子として死なねかった己の一部を観た饅頭が恐怖する。
「ふふふ」
 熱せられた饅頭の香りが良くてめっちゃお腹減るのじゃ、と考えていることは菓子には伝わらない。
 大口の形に歪んだ饅頭にちょっとどころでなく怯えていることにも、菓子モンスター達は気付けなかった。
「待たせたなぁ!!」
 厨房である。
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が持ち込んだ調理用具を中心に、菓子職人達の手も借り本格的なキッチンが組み上げられた。
 食と調理に真摯なオークが、清潔な白い歯を剥き出しニィッと笑み浮かべる。
「オメェさんらの魅力を十二分に引き出してほしいなら、ちょいと俺に手ぇ貸しな!」
 そのとき茶菓子達が抱いた感情が憎悪だったか喜びだったか、モンスターと化した茶菓子達自身にも分からない。
 ただ1つ確かなのは、菓子として食べられたいという思いも抱いてゴリョウに向かったことだ。
「ハッ、活きがいいねぇ!」
 ゴリョウは強い。
 だが戦う意思があるものを戦いながら満足する調理が出来るほどの力はない。
 だから己の体で食い止め、食材として傷つけない攻撃に限定して団子を取り外し饅頭を切り分けるのだ。
「ゴリョウく~ん。そろそろ近付いて良いかな?」
 慇懃無礼さを隠そうともしない声が届く。
 ヤマダと名乗っている旅人は控えめに表現しても胡散臭く、そして戦闘以外の面で有能だ。
「少し待て、よし。おおい運んでくれ!」
 加工したばかりの肉が運び込まれる。
 ゴリョウが注文した食材やあったらいいなと思った設備を調達したのはこのヤマダだ。
 粗末にされた食べ物の恨みに注目している者は多く、ヤマダの調査能力と口車によって多くの支援がこの場に集まっている。
 ゴリョウが捌いた団子やこれまでの戦闘で集められた団子が火を通されてチーズ焼きや肉巻き団子に変わる。
 豚の脂と上質の小麦と砂糖の組合せは暴力的なほど魅力的で、常に平然としているヤマダですら唾を飲み込むほどだ。
「勇気ある行動へのプレゼントって奴だ。受け取りな」
 厚めの皿に載せて鈴音へ渡す。
 ゴリョウに頷かれ、席にちょこんと座って切り分け口に運ぶと、疲れた体に染みる脂と砂糖醤油の香りが口の中一杯に広がった。
「そして寄ってらっしゃい見てらっしゃい! こいつが今回の目玉!特製・『おーくぱふぇ』だ!」
 底に熱々の酒饅頭。
 次の層は互いの熱を遮断するため団子。
 その上に幻想から持ち込んだバニラアイス。
 天辺に冷えたカキ氷を盛り付けてもまだ終わらない。
 緩めに溶いたわらび餅を掛け砂糖黄粉を塗して始めて完成だ。
 なお、透明な器を使っているので横から見ると特に大迫力だ。
「どうだい?」
 発案者である無量に見せると、3つの目に同時に感嘆の色が浮かぶのが見えた。
「五感で一度に理解出来るとは。実に素晴らしい」
 菓子は食べる物。遊んで捨てるなんてあり得ないと、『おーくぱふぇ』は強烈な存在感で主張していた。
「悪霊退散! ついでに美味しく頂くのでしっかり成仏して欲しいのじゃ!」
 バニラアイス投入前の器の中を炎で少し炙り香ばしくする。
 そこにゴリョウがバニラアイスを美しく盛り付ける。
「なむなむ……あっ、これめっちゃ美味い……!」
 アカツキの瞳の中には宇宙と星が広がり、白い肌が桜色に上気していた。

●教訓
 青々とした空いくつかの雲が現れ、明るいままにしとしとと雨が降り出す。
 熱せられた地面で雨が蒸発して気温が下がり、野点傘の下の人々が涼を楽しんだ。
「手塩に掛け作られたお団子さん、お饅頭さん。彼らは誰かに美味しく食べて貰う為に生まれて来た。けれど彼らは……」
 無量が厳かに紙芝居を抜く。
 茶菓子を題材にしたそれは、今回の騒動の大本である劇団に急遽仕上げさせたものだ。
 菓子を目当てに集まった子供達は、真剣な表情で見入っている。
 茶屋への被害は皆無でも戦いの痕跡が生々しく、臨場感はこれ以上ないほどだ。
「人々はお菓子達を怒らせた事を反省し、食べ物を口にする時は手を合わせ。命と、大地の恵みに感謝し祈る様になりました」
 小さな手が慌て掌をくっつける。
「そして祈るだけでなく、それらに気持ちを伝える為に『いただきます』と。そう言う様になり、その後お菓子達はお化けになる事はありませんでしたとさ」
 最後の1枚を抜くと、材料費を出した店舗名前と所在地がずらりと並んでいる。
 雨が弱くなる。
 糸のような雨の中に花嫁衣裳装の『なにか』が見えて、そっと菓子を指さした。
「あのっ」
 霊的な素質のある子供が、畏怖の表情を浮かべて菓子を手渡す。
 それは柔らかに微笑み、雨が止むと同時に最初からいなかったかのように消えた。
「さて」
 無量は、皆と手分けして子供達に菓子を分け与えた。
「いただきます」
「いただきまーすっ!」
 庶民の子も、富裕層の子も、どこからどう見てもお忍びのお子様も笑顔で食らう。
「取り合えず一口」
 その熱気に気圧されるものを感じながら、世界は敢えてゴリョウの新作ではなくこの店の菓子を手に取った。
 目で観賞して、香りから材料と味を推測し、口に運んで歯触りと舌触りを楽しむ。
 口内に広がる味に目を細め、ゆっくりと飲み込んでからほうとため息をついた。
「このみたらし団子、まるで出来立ての様に暖かく着きたての餅のように柔らかい。それでいて弾力もしっかりしているまさに理想のみたらし団子だ!」
 徐々に熱く早口になっていく。
「しかもこのタレ……何か隠し味を入れてるな? いや、まあ味の専門家じゃないから何となくフィールで言ってるだけだが」
 専門家が万の言を積み上げるより、世界の熱さの方が説得力がある。
「そして次にこの大口酒饅頭!」
 囓りついても饅頭は崩れず、しかし口の中で程よく解れて豊かな味わいが下から脳へ直撃する。
 美味いという言葉がなくても世界の態度が雄弁に語っている。
「餡が滅茶苦茶美味いし厚めの皮にもほんのりとした甘みがあり超美味い! こしあんと粒あんの2種類を用意してあるのもgoodだ! 二つの感触を味わえる! 美味い!!」
 子供を連れて来た親達や単なる見物人が、たまらなくなって大量に注文をし始めた。
「すげぇな。混沌に来る前に食レポしてたのか? まいうーとか言わないのかな」
 響は武装JKの見た目からは想像出来ないほど上品に饅頭を食している。
「死語を使うと歳がばれるぞ」
 思わず本音をもらした大地の脇に、子供達に見えない角度から響の肘がめり込んだ。
「騒ぐな。ここは味を楽しむ場だぞ」
 大地は武力を使わず言葉で攻撃し、響がぐぬぬと怒りを堪える。
「みたらし団子の醤油の香りと、甘じょっぱさ……そしてもちっと感」
 世界ほど派手ではないが演技を感じさせない。
「饅頭のあんこが詰まった重みと、薄くても確かにふんわりしている皮」
 上品に一口。しっかり噛んで嚥下してから再度口を開く。
「そして、がぶりとかぶりついた瞬間口の中を埋め尽くす、あんこの誘惑。それから、茶で口を潤したあとの清涼感の、なんて甘美なことか……」
「どうした大地、いつもとキャラが違うゾ」
「そうだぞみっひー。ってなんだよその目ーっ」
 この味が分からないとは、という目で見られた響がぷんすこしていた。

●?
 絹のハンカチ越しにライセルの指が触れている。
「はい、綺麗になったよ。今日もこの前もよく頑張ったね」
 白い絹に餡の色が目立っているがライセルは気にもしない。
 鈴音は、胸の奥に経験したことのない熱を感じる。
「えへへ」
 無意識に、子供のふりをして自分自身をごまかしていた。
「って言うか何今回も花渡しているんですかあの男は! ナンパ師ですか? チャラ男ですか? なんなんですか??」
 ラクリマのそれはただの嫉妬ではある。
 が、清冽にして苛酷な生き方を貫いてきた美形が嫉妬に身を任せるとどうなるかというと、貞淑なご婦人に邪な感情を引き起こし、男子と混じって遊んでいる女児が女として駆け足で成長してしまう美の暴力なのだ。
「ああん? 両手に花?」
 以前の依頼でライセルに貰った花を押し花にしていることを勘だけで察する。
「知るか! 調子にのるななのです!」
 ラクリマ本人の意識では、物陰から威嚇する子猫の態度。
 客観的には、美し過ぎて性別すら定かでない存在が微笑みながら見つめている訳で、余程の精神力の持ち主で無い限り圧倒されてしまう。
「ん。あれ俺にもついてる?」
 汚れたハンカチがライセルの頬というよりほとんど唇へ向かう。
 神聖とも魔性ともとれる気配が膨れあがり、イレギュラーズがようやく気付ける速度でラクリマがライセルへ近づき頬を指で拭う。
「しっかりして下さい。子供の前ですよ」
 ライセルはこれを仲良しと思う。
 鈴音は絵物語の一場面としか思えない光景に感激し、お二人は仲良しなのですねとニコニコしている。
 なお、勘の良い人間は裏で渦巻く情念に気付いて距離をとっていた。
「ほら、ラクリマこっちのも美味しいよ、あーん」
 ライセルは気付いた上でこれをする。
「あーん」
 あっという間に機嫌を直して直接串から食べるラクリマを見て、多くの者が戦慄し、鈴音はよく分かっていない。
「ごめんやり過ぎたかな? 照れて怒る姿も拗ねてる姿も全部見てみたいんだ」
 魔性とは、ライセルのことかもしれない。
 十数分後。
 マヨネーズが程よく焦げる香りに気付き、新旧菓子の上にマヨを山盛りにしたラクリマがはっとする。
「任せな」
 マヨも食材である。食材である以上料理にも菓子にも使える。
 匂いに引かれて、仕事帰りの人々が集まりつつあった。
「……思った以上に満足できたな。探求心を失わず挑み続ける大切さを学んだ気がしたぜ」
 活劇から始まり恩讐を経て料理で終わろうとする1日を振り返り、世界が深々と頷いた。
「んっ」
 アカツキは程よく冷えた茶を豪快かつ優雅に飲み干した。
「大きいのを頼むのじゃ。うむっ」
 少し早い秋を感じさせる皿に、濃厚なマヨネーズ臭漂う餅たっぷりパンが載っていた。
「口福じゃぁ……」
 炎で膨大なエネルギーを使っているせいか、まだアカツキの腹回りは細いままだった。
 伝統的豊穣茶菓子も、ゴリョウが発展させた料理と豪華パフェも、マヨな新作もするりとメイメイのおなかに入る。
「スイーツとしてだけでなく、お惣菜的な味わいに、と、二度、三度美味しく、いただけるなんて……」
 ほくほく、つやつや、心身が満たされたメイメイが艶のある唇から熱い息を吐く。
「どうか、成仏してください、ね。ごちそうさま、でした」
 天を見上げてフライング茶菓子を思い、静かに祈りを捧げていた。

 その後、この茶屋に茶菓子モンスターが現れることは二度となかった。
 新作も扱うようになった茶店でときどき茶菓子が浮かんで客寄せしているように見えるのは、きっと多分気のせいである。

成否

成功

MVP

メイメイ・ルー(p3p004460)
ちいさな決意

状態異常

ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
黒豚系オーク

あとがき

おなかがすきました。

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