シナリオ詳細
<巫蠱の劫>しのぶれど 色に出でにけり わが恋は
オープニング
●恋狂い
あなたに会えぬ日々が辛かった。
あなたの声を聞きたいと思った。
こんなにも慕う相手ができるだなんて思いもしなくて、同時にこの恋は叶わないと知った。
(お父様も、お母様も反対するわ)
娘の恋した相手がゼノポルタだと知ったら、両親はどのような顔をするだろう。母は卒倒してしまうかもしれない。父は彼を京から追い払ってしまうかも。
「だめよ」
少女の前には捕らえられた何かがもがいていた。決して人でも、動物でもない。人の世界で見慣れないそれは妖と呼ばれ、一般的には人から忌避される存在である。しかし妖に大した力はないのだろう──小さきモノは簡易封印によって力を奪われ、自由を奪われ。まるで籠の鳥のようだ。
少女は感慨もなくそれを見下ろすと、躊躇いなく持っていた刀を振り下ろした。悲痛な叫び。けれどまだ妖は死んでいない。人間の、それも何の力も込められていない武器で一太刀受けた程度でソレは死ななかった。──いや、死ねなかった。
幾度も振り下ろされる鋭利な刃に血は流れ、徐々に命は削れていく。見下ろす少女の目は只々無表情に無感動に、変質していくソレを見下ろしているだけ。
「私、あの人のこと、大好きなの」
──憎らしいわ。大嫌い。
「あの人がゼノポルタでも愛してる」
──その生まれさえなければ思わなかったのに。
「だから」
──あの世で一緒になりましょう?
●カムイグラ
「呪詛、ですって」
苦々しく告げるのは夏祭りよりこちらを訪れていたブラウ(p3n000090)だ。イレギュラーズでない彼は、サポートする意味も込めて暫くこちらへ滞在することにしたらしい。
夏祭りでもひと騒ぎあったカムイグラだが、その後の状況も芳しくない。肉腫(ガイアキャンサー)と呼ばれる新たな敵の存在、そして高天宮で流行している呪詛。本来ならばひっそりとやって然るべき悪事だが、何かに取り憑かれたのか──それともこの雰囲気がおかしくさせるのか。公言して呪詛をかける者もいる始末である。
「僕、そのやり方を知ってしまったんですが……とてもじゃないけど無理です」
うぷ、とブラウが口を押さえる。イレギュラーズの方にも幾らかの情報はもちろん流れてきている。捕らえた妖を夜半に切り刻み、その血肉で呪詛をかけるそうだ。
イレギュラーズに背をさすられたりもしていたブラウはようやく復活したらしい。あまり良くない顔色でイレギュラーズを見渡した。
「なんでも、女性までそれをする始末のようで……今回はそれを知ったご両親から依頼が出ています」
ブラウが差し出した和紙には達筆な字が連ねられている。そこにはとあるゼノポルタへと呪詛をかけ、成功したら娘が自害すると発言していることが書かれていた。
「人を呪えば穴二つ……呪詛、いえ『忌』と呼ばれるそれは、ただ殺すだけだと術者に返ってしまいます。なので非常にやりづらいと思うのですが、皆さんには殺さず倒してほしいんです」
つまるところ、手加減をするということだ。殺さない程度の一撃でトドメを刺すしかない。娘の様子であれば、是が非でも今夜には決行してしまうと思われる。よほどの技量がなければ返り討ちに合うだろうが、イレギュラーズが8人も揃えばきっとやってくれるとブラウは頭を下げた。
- <巫蠱の劫>しのぶれど 色に出でにけり わが恋は完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月04日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●命短し恋せよ乙女
「……とはいうもんだが、こっちは逆に恋してるから命が短くなってるなぁ」
色恋は大変だ、と呟く幻夢桜・獅門(p3p009000)は目薬を差し。種類は違えど似た効果を持つそれを差した『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は先ほどより見やすくなった視界を巡らせる。
「まさかこんなことまでしでかすなんて、恋するオトメは怖いね」
夏祭り以降、呪い、呪詛といった類の話は聞いていた。けれども女子供まで使う──しかも愛しているから殺したいなどという想いが起因するなどなかなかないことだろう。それは流石に同性と言えど同じのようで、『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は静かに目を伏せる。
「当人にしかわからない物語なのでしょうけれど、それでも……これは……」
「……馬鹿な娘よのう」
小さなため息ひとつ。あとで娘にはお灸を据えねばと考えつつ、『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)は懐からマタタビを出す。娘の元には猫又が捕らえられており、是が非でも手元から話さなかったと書面では残されていた。その妖が呪詛の生贄と見て良いだろう。人ならざる存在とはいえ猫。呪詛と言えど猫、である。
んなぁ。
にゃーん。
その匂いを察してか、野良猫が数匹……いや、嗅ぎつけてもっと出てくる。一斉に走ってくる姿はなかなかの圧を持ち、暗闇でも護符でよく見える瑞鬼の瞳には幾多もの眼が映っていた。
「こ、これは……」
群がる猫、猫、猫。猫まみれという予想外の事態であるが、ひとまず探索どころでないことは理解した。他3名も迂闊に手出しできない状態で、瑞鬼はとっさにマタタビを遠くへ放り投げる。もしマタタビでかの呪詛が引き寄せらるかもしれなくとも、あの中で戦い始めるのは無謀にもほどがあった。
そちらへ方向転換し飛びかかる猫たち。その背後で捜索のため駆け出していく4人を、ファミリアーが静かに見下ろしていた。
彼らからほど近い、ファミリアーとの連携が取れるほどの場所に残る4人はいた。同様にこちらには獅門のファミリアーが付いている。
「あちらは……大変そうだな」
状況の見える『Black wolf = Acting Baron』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が仲間へ共有すると、『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は思わず苦笑い。
「まあ、気分は迷い猫を探して居るそれであろう」
手元にあるランタンは道の暗がりを照らすけれども光に驚いたナニカが一目散に闇の中へ逃げていくのみ。猫かもしれないし、違うものかもしれない。妖と呼ばれるモノかもしれないが、強大な力などは特に感じられなかった。
「それにしたって……呪いに至る程の感情、凄まじいモノだよね」
アシストバッグから取り出した懐中電灯をベルトで固定しつつ、『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は呟く。それだけの好意、愛をぶつけられる者は恐らく果報者だろう──このような形にさえならなければ。
感情自体には好意的なカインだが、百合子はそうでもない。『美少女』からすれば生死を握るもの──ご法度であるが故に。
「悪いのは人じゃないんだけど。……こんな、悲しいことってないよね」
『陸の人魚』シグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)は先に続く暗闇をぼんやりと見つめる。その先にはまだ何も、件の呪詛さえも現れないけれど。ソレはいつしか、術者の愛した人を引き裂かんとするのだろう。
「悲しいことにはさせない。そうだろう」
ファミリアーによる空からの情報を受け取りながらベネディクトが告げる。シグルーンはその目を瞬かせ、そうだねと首肯した。
(せめて、……せめて、もう、こんなことがないように)
悲劇を続けさせないように、悲劇が起こらないように、イレギュラーズは夜の闇へと飛び出すのだ。
高所へ視線を巡らせ、薄闇に目を凝らし。モンスターへの知識に頭を捻らせ、人や動物の動きから予想する。
動物は本能に忠実であり、脅威のいる場所から安全な場所へと移っていく。呪詛を見たとあれば人も逃げ惑うだろう。イグナートの推測とともに足を進めていた一同は、獅門の声に一瞬足を止めた。
「……いた!」
ファミリアーの視界に映った薄白い巨体。思っていたよりも大きい。四つ足で京を駆けるそれの足元からは人々の小さな悲鳴が聞こえた気がした。
獅門のファミリアーが見ている方向は、奇しくも彼らのいる方向。接敵はもう一方のグループよりこちらの方が早そうだ。しかし獅門のファミリアーに見えているということは──さほど遠く離れていないので──ベネディクト側もまた見えているということ。合流もすぐのはずだ。
「あとどれくらい?」
「もう間も無くだ、正面から来るぞ」
イグナートにそう返す獅門。瑞鬼はその言葉に示されるがまま、京のまっすぐな道を見る。術者の娘は気に入らないが、まずは呪詛をねじ伏せなければ一言申すこともできやしない。
──グルァァアアア!!
その咆哮はもはや猫のそれではなく。真正面から突っ込んできた猫又をイレギュラーズはいなし、或いは躱していく。瑞鬼は身の内にある鬼の力、その技を解放する。直後駆け出した獅門は大太刀を構え、峰打ちという『慈悲』を込めた──されど強力な──一撃を放った。
(斬り殺せないのは残念だと思ったが)
その感触に獅門は目を細める。微かな手ごたえ。全く実体がないというわけでもないらしい。それでも手ごたえとして薄く感じることに変わりはないのだが。
「恋する乙女の呪い、か。どのくらい強いのか楽しみだ」
「まあ、どれだけ強くても止めさせていただきますけれどね」
リンディスは魔導書を開き、勇者の物語の節を開く。その加護を身に受けて、次に開くは鏡の章。イグナートはようやくお出ましの猫又に思い切り拳を握る。
「さあ、ショウブだ!」
強烈な拳が猫又へめり込む。敵とてそう鈍足なわけでもないのだが、鋭い攻撃と巨体では中々相性が悪いようだ。
だがしかし、猫又自身の攻撃も十分な脅威。広くはなくとも狭くもない京の道で、人の子ひとりのみこめてしまいそうな化け物が放つのである。瑞鬼とイグナートが交互に引き付けるも、完全に巻き込まないと言うのは難しい話で。
けれどそれも援軍が到着するまでのこと。
「──ほお、実体があれば毛並みを楽しめたであろうに」
その呟きが聞こえた刹那、気づけば猫又は地面へとめり込んでいた。はっとイレギュラーズが後方を振り返れば、楚々と歩いてくるのはもう一方のグループだった百合子だ。その少し後ろからはややぐったりしたカインが追いかけてくる。彼も全速力で向かおうとしたのだが、それより早くかつ速く百合子に捕まれ連れて行かれたことは同じグループだったシグルーン、ベネディクトしか知らない事だ。
「これで皆さん揃いましたね。終わらせに行きましょう!」
リンディスの言葉に仲間たちの意識が猫又へ向く。既に顔を上げていた猫又は、小さき邪魔者が増えたことに不機嫌そうな様子だ。しかし同時にその瞳は新たな玩具でも見つけたかのように輝いて見える。
「ダメ。君の相手は私だよ」
そこへ立ちはだかったのはシグルーン。自身の力を飛躍的に高め、猫又の攻撃を軽やかに避けた。
「君の攻撃は当たらな──」
言いかけたシグルーンの頭上に影が落ちる。巨大な、巨大な、猫の手が。複数人を巻き込んで、それは地面へと勢いよくめり込む。
「……ッ」
パンドラの軌跡が尾を引いて。シグルーンは軽やかに跳躍すると、猫又の前へ降り立った。ダイクロックアイの瞳が静かに猫又を見据える。
(最近……ここ3年くらい、かな)
恋心を拗らせ悪意へ染まる事案が増えている気がする。気のせいなら良いのだが──何か、裏で動いてでもいるのだろうか。
「これ以上、夜の京で暴れさせる訳にはいかん……!」
ベネディクトの一撃が黒の大顎を形作り、猫又を喰らいつくさんと噛みつく。そんな中でカインは猫又の攻撃に被らないよう立ちまわりながらも聖なる光を瞬かせた。眩みそうになる光を放ちながら、カインは仲間たちへ敵の体力の警告を上げる。
(慢心はできない、けれど……殺してしまったら、娘さんも死んでしまう)
本当ならば自分の出した感情の後始末は自分だけでやってほしいところだが、ここまで害として形を成してしまえばそうもいかないだろう。それに、その後始末こそ今回のオーダーだ。
カインの言葉に皆が攻撃へ手加減を入れ始める。威力は引くけれどごり押しすれば関係ないと百合子は息つく暇ない威嚇術で相手を翻弄し、ベネディクトは武器を収め強烈な蹴りを放った。
──!!
猫又の不明瞭な呻きが上がり、身の内から黒いものが広がる。察知したイグナートはすぐさまリーガルブレイドでそれを打ち消していく。
「そんなもの効かないよ!」
「効いても私が治しますよ。なんとしても止めなければなりませんから」
仲間たちの不調を軍略の記録により打ち消したリンディスは真っ向から猫又を見据える。相手の体力の底はもうすぐだ。しかしここで油断してこちらが倒れる訳にはいかない。
(呪いの物語は──例え結ばれても、悲しいものにしかなりません)
ただの悲恋であればどんなによかっただろう。幸せな結末ではなくとも、美しく読者を満たすものであったかもしれない。けれど、呪いが関わればどんなものも為り得ないのだ。
2段重ねで瑞鬼が猫又を後方へと吹き飛ばし、追いついた獅門が組技でその体力を削ぐ。それでももがいた猫又は、しかし百合子による怒涛の術により地へ伏したのだった。
●静謐に黙祷捧ぐ
倒れた直後、ふわりと掻き消えてしまった猫又に獅門はおやと片眉を上げる。倒したら捕まえておけば良いのかと思っていたのだが、どうやらその存在ごと消滅してしまったらしい。ベネディクトはつい先ほどまで猫又のいた場所へ黙祷を捧げる。
(歪められた命を憐れむ事くらいは許されよう)
例え人へ害なすため生まれた存在だとしても、生贄にされた命に罪はない。
「しかしながら……件のゼノポルタ何某は受難の気配であるなぁ」
百合子はやれやれと肩を竦める。その心中にあるのは『やはり人は恋をすべきではないのでは』という疑問だ。
相手と依頼人の娘は秘められた恋をしていたのだろう。暴かれ、しかし生きている今面倒ごとに巻き込まれる可能性は少なくない。
(まぁ、ローレットが儲かるのであれば構わぬか)
依頼人の事情に踏み込む必要はない。あくまで今回のオーダーは呪詛返しさせずに猫又を倒すことだったのだ。この先は当人たちの問題だろう。
最も、必要がないだけでその事情に踏み込むことへ感じられているわけでもない。
「サスガに人間関係はカイゼンできるように助けておきたいなぁ」
そう呟いたのはイグナート。カインも首肯する。きちんと話の場が設けられ、関与せずとも解決するのなら良い。けれどもこの国のヤオヨロズとゼノポルタの関係を見ていると、それも叶うか怪しいところだ。
「彼らの元へ行くのなら、これを渡してくれ」
ベネディクトは懐から手紙を取り出すとイグナートへ差し出す。受け取った彼はそれを見下ろし、次いでベネディクトを見て頷いた。
「ワカッタ、会った時に渡すよ」
「ああ、助かる」
ベネディクトは小さく笑みを浮かべる。彼らが未来への道を見つけられるのなら無用の長物かもしれないが、保険というやつだ。
「わしは呪詛を施した娘と話すとしようかの」
瑞鬼も言いたいことがあるのだと目を細める。そこにあるのは──怒り、だろうか。
(惚れた相手を殺そうなどと……しかも妖を巻き込もうとは、馬鹿娘が)
殺して自身も死んだとて、良い事など何もない。そこに幸せを感じるというのならば瑞鬼と感覚が違うとしか言いようがないのだが、そもそも心中したとて一緒になれる保証もないのだ。それならば駆け落ちのひとつでもした方が大分マシである。
だがしかし、と瑞鬼は小さく眉を潜める。恋が成就しないからと心中を考えるまではわかってやらなくもない。その手段として『呪詛』などというものをやんごとなき家の娘が思いつくか、という点が問題だ。
(やはり誰か広めておるものがおるようじゃな……)
姿は見えないが、確かに存在している。悪意を持ち、広める誰かが。
夜も更け、道は薄暗い。この時刻に家を訪ねるのは失礼だろうとイレギュラーズは日を改める。この後、瑞鬼の一喝とイグナートたちの設けた話し合いの場で自体は丸く収まることとなった。
その結果が記された手紙はローレットへ届き、イレギュラーズの目に晒されることとなる。ベネディクトは最後に書かれた一文に小さく笑い、踵を返した。
『──あの手紙は、もしもの『いつか』が来る日まで眠らせておきます』
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
今度こそ幸せになることを祈りましょう。
それではまたのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
呪詛を不殺で倒す
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●エネミー
・猫又
尻尾が分かれた巨大猫……の姿をしている忌(呪詛)です。実体がなく半透明ではありますが、攻撃は通ります。【不殺】スキル以外で倒すと呪詛返しが起こります。
非常に俊敏で夜目が利きます。またその体格に見合った体力を持っています。回避は低そうです。
通常攻撃に【範】【万能】を持ちます。動きだけを見れば化け猫らしい戦い方をするようですが、身の内にどのような呪いを含んでいるか定かではありません。
●フィールド
夜の京。暗いです。ステータスにマイナス補正がかかる可能性があります。
足元に障害はありません。いつどこで接敵するかわからないため、場合によっては一般人に被害が出る可能性もあるでしょう。
●ご挨拶
愁です。
忌を上手く倒さねば娘が死に、止められなければゼノポルタが死ぬでしょう。全力で手加減してください。
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
Tweet