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シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>崩れるシロからもぎ取るドントフォーゲットミー

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その個体のアップデートで深刻なエラーが発生した。
 修繕自体に問題はなかったが、アルベドのポテンシャルと情報提供体のポテンシャルが符合せず、能力を取り込んだ結果、アルベドのパワーバランスは極めてピーキーとなった。頻出するフリーズ、フラッシュバック。
「再起動シークエンス完了。フェアリーシードの出力安定しません。キトリニタスへの移行シークエンスに移行しますか? ――移行を却下。アルベドとしての運用ルーティンを理解し支持します。フェアリーシードの活動限界に伴う該当個体の溶解予測時間まで、あと――」
 創造主は、はあ。と、食べ飽きたアイスクリームをほおり出す子供の顔で言う。
「つまり、このタイプの限界点が見えたわけだ。よし。この製造ラインはすべて廃棄しよう。落ち込んでばかりもいられない。データを取ろうじゃないか、次なるキトリニタスのために精々暴れてもらおう」
 大量の培養層の中で、同じ顔のフェアリーシードの移植待ちだった素体が次々溺れ死んでいく。温度調整されていない培養液は冬の冷気で少しづつ凍結していく。

 ねえ。私の元になったあなた。
 私、もうすぐとろけて死ぬの。


「妖精郷には、遠い昔から『冬の王』と呼ばれる強大な邪妖精が眠っていた。
 冬の王を封印したのは、勇者アイオンと仲間達、そして妖精の英雄ロスローリエンとエレインであった」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、おとぎ話の本を持ってきて、読み聞かせを始めた。
 混沌では定番なれど、ウォーカーはそうではない。
 勇者王の足跡を大分かいつまんでのダイジェスト版、一巻の終わり。
「――という訳で、その『冬の王を封印していた力』と『冬の王の力』を持ち逃げされちゃったのよ」
 困ったね。では済まない。『冬の王』は何処かにされども、固定されていたパワーバランスが崩れて、妖精郷は、未曾有の災厄に見舞われている。
 木々や花は凍り付き、時折猛吹雪が襲ってくる有り様だ。
「常冬の国出身者にはそれが何か? だろうけど、ノウハウない年中お花畑では、いきなりナイトメアモードだからね? 手をこまねいてるわけじゃあない。今回は深緑の迷宮森林警備隊も、妖精郷に来て力を貸してくれるそうだ。つうか、明日は我が身だからね。ぼへっとしてられないよね」
 妖精城アヴァル=ケインに進撃し、魔種共をアルヴィオンから駆逐し、冬の力打ち払わなければならない。
 為損じることは許されない。そうなれば妖精郷は冬に飲まれて滅亡するだろうから……。

「で。みんなには、妖精城アヴァル=ケインに行ってもらいます。人間サイズで構築された壮麗なお城、今や魔種に占拠されたダンジョン。全部凍ってる」
 だよね。
「――その中でも地下の急造研究所エリアでドンガラガッシャンしてもらう」
 はい?
「このエリアの最奥に『冬の王』が封印されてたんだ。こう、あれだ。色々今更掘り返されたらめんどくさい超技術的アイテムとかがいっぱいあるんだよ。そういう場所がちょっと潜れば行けちゃうレベルにあると困るの。発掘コストがバカらしくなるくらいひでえ有様になってもらう。今まで実際封印されてたから手を付けられなかったけど、もうこの際いいんじゃね? って話だよ」
 暴走する錬金術の目は念入りに摘んでおかなくてはならない。
「特に、みんなの担当エリアはアルベドの培養エリアと重なってるから、こっちも使用不可能にしてくれると俺が喜びます。まあ、普通に壊させてはもらえないから覚悟しててね」
 後詰がいるのはほぼ間違いない。
「なんで呼ばれたかはわかるでしょ。フェアリーシードにされた妖精を特定することに成功しました。勿忘草の妖精。えーと。知り合いの妖精――ネームプレートの身内で――」
 ひょこんと妖精が顔を出した。
 身長30センチ。白からピンクに変わる髪とそれに合わせた装束。男の子の妖精だ。
「ネームプレートはとても忘れんぼですけど、ドントフォーゲットミーのことは覚えているのですよ? ネームプレートがドントフォーゲットミーを探すのを忘れていたので助けるのが遅くなってしまいました」
 できれば、回収してやりたい。と、情報屋が言った。
「フェアリーシードの稼働時間から考えてこれが最後のチャンスだ。君が、君たちが先の戦いで得た経験が身になることを期待する」
 妖精は、ぱちぱちと瞬きをした。
「ネームプレートは忘れんぼうですけれど、ドントフォーゲットミーがいないととても悲しくなります。なんで悲しいのか忘れてもきっとずっと悲しいです。お願いしたいです」
 無茶を言っている自覚はあるようだ。
「ドントフォーゲットミーはネームプレートのことを忘れません。きっと、どんな姿になっていても覚えていてくれています。ネームプレートが待ってると伝えてください――ネームプレートは忘れん坊ですけど、ドントフォーゲットミーがネームプレートのことを忘れないのは覚えているんですよ」

GMコメント

 田奈です。
 供給されたデータが強すぎたんだ。
 ハードですので、状況は困難です。持てる手段を駆使し尽くしてください。
 
 成功条件
 フェアリーシードを奪取してください。
 現時点でかなりの出力低下が想定されています。
 アルベドの崩壊は決定事項ですが、崩壊はフェアリーシードの死を意味します。
 早急な回収が望まれます。妖精の関心をつなぎとめ、アルベドの素体と一線画して自我を保てるように、工夫してください。


アルベド(素体・アルテミア。フェアリーシードの妖精・詳細不明)
*錬金術で作られていて、プロトタイプ的立ち位置にある存在のようです。アップデートの結果、攻撃力が上がり、耐久力が落ちています。
*外見は真っ白いアルテミアです。装備品は身体能力を効率的に運用できるように最適化されています。すなわち双剣使いです。
 アルベドの中身もアルテミアなのかはわかりません。言語エンジンはアルテミアのものを主に使っているようです。
*アルベドはシードになっている妖精の要素も発現します。
*シードを傷つけずうまいこと取り出せば救出可能ですが、このアルベドのシードは喉元に露出しております。命中判定がFBすると当たります。強度が落ちています。

ニグレド×大量
 アルベドの前段階です。シードは持ちませんので、崩壊しません。耐久力だけはあります。黒いどろどろのヒト型です。フロアのあちこちから奇襲を仕掛けてきます。張り付かれたら動きはとりにくくなるでしょう。

場所・妖精城アヴァル=ケイン地下エリア・廃棄された研究所区画
石造りの簡素な部屋に、ずらりと並んだシリンダー型培養槽十基。
 天井は3メートル。部屋自体は15メートル四方。
*凍っています。足元は非常に滑りやすく、ものがたくさん転がっています。
*非常に壊れやすいものが多いです。見通しも悪いです。遠距離攻撃は予期せぬ結果を生む可能性があります。

*妖精「ネームプレート」
*拙作「お花摘みましょ、妖精さん。」が初出。
 身長30センチ。白からピンクに変わる髪とそれに合わせた装束。
 男の子だ。
 首から名札を下げているが、字が擦り切れていて読めないし、本人も覚えていない。だから「ネームプレート」
 丁寧にしゃべり、はきはきしているが、3秒後にさっきまで話していた内容を忘れる。
 幸い根気よく話し続ければ、しばらくは覚えているし思い出せる。
 多動気味。目を離すとどこかに行く。束縛されるのが嫌い。
 覚えてないので反省できない。
 OPで面識が出来ました。面識がトリガーになっているギフトは使用可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <夏の夢の終わりに>崩れるシロからもぎ取るドントフォーゲットミーLv:15以上完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年08月30日 23時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
黒裂き
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
巫女姫を辿る者
サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
翼片の残滓
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
森の善き友
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
魔風の主
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
恐怖とは?
鬼龍院・氷菓(p3p008840)
寒獄龍図

リプレイ


「――何をするのでしたっけ。ああ、ドントフォーゲットミーのお話をするんでした。ネームプレートがドントフォーゲットミーの話をしないと皆さんたちに伝わらないことを忘れていましたよ」
 ドントフォーゲットミーのことを考えていたら、ずいぶん時間がたっていたという。妖精の時間感覚。一緒に遊んでいると何百年もたっていたなんて話はどこの次元でもよく聞く話だ。
「ドントフォーゲットミーはネームプレートのようにはしゃべらないのですよ。ゆっくりしっかり肝心なことだけ言うのですよ。どしんとした声をしているのですよ。固いカスタードプティングみたいな声です。甘くて苦くて濃ゆい声です。ネームプレートはドントフォーゲットミーのお声が好きなのですよ」
 ネームプレートは、何をするかをよく忘れるが、ドントフォーゲットミーの話を始めると途切れることなくずっと話していた。
 黙るということを忘れるほど、ドントフォーゲットミーの話をした。夜が明けるかと思った。

「ネームプレートは物理的にも地に足ついてないし、言動もふわふわしてる子だけど……だから」
『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は、淡く笑った。
「一生懸命になってしてくる「お願い」には、できるだけ全力で応えてあげたい」
 ネームプレートのお願いを聞くのは三度目。
「ネームプレートは森に行くだけで、たくさんのヒトにお願いしなくてはならないのですよ。ネームプレートは、忘れんぼうですけど大変だったのはわかるのですよ」
 だから、戦場には行けない。託して待つしかない。
 ネームプレートは出立のゲートの前にちょこんと座って手を振ってくれた。
「いつかの森についてきてくれて、ネームプレートはとても嬉しかったのですよ? 待っていたいので、待っててね。と、ここに書いてくれますか?」
 ネームプレートは備忘録代わりの名札の裏側をローレット・イレギュラーズに差し出した。


「まさか、核にされていたのがネームプレートさんの身内だったとはね……」
『翼片の残滓』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は、律儀にネームプレートの話を聞いていた。
 寝不足で突っ込むことにならなくてよかった。情報屋が睡眠導入剤を持っていてよかった。ベストコンディションで戦に臨める。
「稼働限界の事もある、必ずここで決着を付けるわよ!」
この手が届く距離の命を守り、救う為に!

 廃棄された生産ラインは、氷結にあらがう術を持っていなかった。
 現場に近かったことも影響しているのであろう。素手で割るのは難儀な厚さの氷が壁と言わず床と言わずべっとりと覆いつくしている。林立する培養層の中で白濁した氷塊は培養を途中で放棄されたアルベドだろう。所々長い繊維のようなものが残っているのは形成されて解けきれなかった髪の毛のようだ。
 ここを完膚なきまで破壊しつくせと言うのが、ローレット・イレギュラーズの任務だ。この先、何年か何十年か、はたまた何百年か、この技術が再び悪用されることがないように断固として破壊する。
「私のゆりかごを壊しに来たの? ここは私のお墓になるのに。ひどいのね」
 アルテミアの間合いはアルベドの間合い。ローレット・イレギュラーズを分断するようにニグレドが氷と機械の隙間からしみだしてくる。
 生きているのに生きていない。生をあきらめ間近に迫る死に至る過程の匂い。断頭台に向けて歩を進める死刑囚の境遇。崖に向けて更新する自殺鼠の乱舞。
 こんな悲しいモノをもう生み出したりできないように。
 錬金術モンスター・アルベド。黒い粘体ニグレドの進化形にしてキトリニタスの前段階。
 能力の飛躍的向上が認められたが、内臓のフェアリーシードの寿命が付き次第、崩壊するだろう。おそらく、明日の朝日を浴びることはない。
 真っ白いアルベドは笑う。
「ねえねえ。あなたなんでそうなっちゃったの? あなたがそんな風に成長するから私は次の段階に育ててもらえなくなっちゃったのよ?」
 基礎データ採取時のアルテミアと前回の戦闘で採取されたアルテミアの急激な成長曲線に、錬金術の想定成長曲線が付いていけなかっただけのこと。文句は対応パッチを当てきれなかった製作者に言うべきだ。
 だが、その制作者はここにはいない。ここは放棄されている。すでにお払い箱の可哀想な廃棄物。
「ねえ、あなた。化け物もびっくりの化け物に育っていこうとしてるあなた。私、もうすぐとろけて死ぬの」
 真っ白い女は、ひどく軽やかに言った。
「あなたのせいよ」
 とても静かだった。すでに機械は作動しておらず、防音設備が無駄に仕事をしていた。凍り付いた施設はなおさらに音を吸い込み、余計にアルベドの声は響いた。
「あなたのせいよ。忘れないで」
 アルベドの真っ白い瞳孔。アルテミアは細く長く息を吐く。
(動揺はしないわ。前もそうだった。言葉や行動で私の動きに乱れを生じさせようとしてくる事は分かっているもの)
 自分に言い聞かせる。あえて無言。
(ただ落ち着いて、怒りに飲まれないよう、戦うだけよ)
 体に染みつかせた攻撃動作の確かさがアルテミアの心を平常に保つ。
 対峙する二人の切っ先が互いを正眼に据えたままピクリとも動かない。力がギリギリと拮抗していく。端からは悠長に会話しているように見えても、戦闘演算が最適解を現実に引きずり出すべくシークエンスをすっ飛ばして展開中だ。先に演算を終えた方に勝利の女神は微笑むだろう。
(でも、アルベドの雰囲気にどこか違和感が……)
 優先順位が低いファクト。それでも隅に押しやられることはなかった。


 どろどろと這いずる黒が割れたガラスを飲み込んでちゃらちゃらうるさい。
 この場で投棄された命のなりそこないの恨みつらみを一身に背負ったような姿をしている。
 原初の生き汚さ。ニグレドが高潮のようにローレット・イレギュラーズに襲来する。
「貴様ら程度が戦いの邪魔をするんじゃない!」
『筋肉最強説』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が声を荒げる。
「ブレンダ・スカーレット・アレクサンデルの名において、悪いがここから先へ通すわけにはいかないのでな! 私たちを越えて行ってもらおうか!」
「神使の皆様、憚り乍ら御一緒させて戴きます」
『寒獄龍図』鬼龍院・氷菓(p3p008840)の白い顔の黒い瞳にほとんど感情のブレは出ていない。おそらく幼少より厳しくしつけられている。崩れないバベルを通してなお固い口調はかの地の旧家の生まれであることに由縁しているのだろう。
 あまやかな少女のなりをしている氷菓のスンとした様子。その腹の底で燃え盛る憤怒の炎が年の割りに上手に隠されている。
「室内戦闘カ、弓使いのおじいちゃんには大変な戦場だネ……」
 ローレットに混じるようになって日も浅い氷菓をほぐすように、『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)が状況を憂えた。
「でも、救うべき子が居るんだからやってやるともサ!」
 幻想種は妖精の友である。
(――良いところで参上できたみたいだな)
『ただひたすらに前へ』クロバ・フユツキ(p3p000145)から、虚ろな夢と呪いのようなギフトが引きはがされた。
(恩人にして友人。そして、俺の大切な人の親友であるアルテミアのアルベド。そのフェアリーシードの回収ならば、全力で力になるよ)
 前にあるのは家族との決着と復讐。その過程に震える力が仲間のためになるのなら、それに勝るものはない。
「クロバ=ザ=ホロウメア改め、”クロバ・フユツキ”――いざ、参る!!」
 爪先が氷を踏み、床面から30センチほどの高さを滑るように移動する。
アルベドを守るように展開している一角に果敢に突っ込む。
「キトリニタスにならなかったのは忘れていなかったからじゃないのか!? 君の事を待っている、君を忘れなかった忘れんぼの友人がいる事を!!」
 森の中であっちへふらふら、こっちへフラフラ飛んでいく薄ピンクの妖精が、助けてと言っていた。
「君は、アルテミアじゃない!」
 ごしゅごしゅと弾丸が装填されるのを振動で感じながら、クロバは高波のようなニグレドに向き直る。
「目を覚ませ、ドントフォーゲットミー!!」
 ゼロ距離で炸裂。爆炎ごと切り刻まれ、裁断細断最断、いつまで続くかわからない斬撃は、雪崩に飲み込まれて滑落する絶望感にさも似たり。
 逃げ場はない。円舞の足取り。赤い靴を履かされたように終わりがない。
「……この世にあるものは絶えず変化していくものだというけれど」
『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は、アルベドの有り様に激しい怒りを覚えていた。
 友人であるアルテミアへの冒涜と常の穏やかさをかなぐり捨てて戦闘に身を投じた。
 だが、今、彼はその奥を見ようとしている。
「勝手に作って、捨てられて。君達の扱いは酷いものだね」
 被造物を最後まで愛しきる創造主に幸いあれかし。
「友人の姿を取られて腹立たしい気持ちも萎んでしまいそうだ」
 そう言いながら神の威光は形もとれない黒い未練のようなニグレドを薙ぎ払う。
「でも僕達はそこにいるドントフォーゲットミーを救わなくてはならない」
 ウィリアムの視線が、アルテミアと対峙するアルベドの喉元を見つめる。鈍く点滅する辛うじて生きているフェアリーシード。


 クロバの声はアルベドの耳に届いていた。
「――ドントフォーゲットミーっていうの?」
 アルベドは自分の魂の名前も知らなかった。何度も何度も口にしているのに。
 忘れないで。私を忘れないで。
 それがフェアリーシードの中から生を叫ぶ妖精の声なのか、芽生えかけた自我を叫ぶ錬金術モンスターの叫びなのか、ローレット・イレギュラーズにはわからない。
「だから、ここで終わりにしよう。帰りを待つネームプレートの為にも、そのシード頂くよ」
 ウィリアムの声がニグレドを引き裂いて、アルベドの集中を乱す。
「『名札』?」
 アルベドは、鼻の頭にしわを寄せた。
 少なくともこの個体において、アルベドとフェアリーシード間で記憶の共有はされておらず、フェアリーシードの記憶をアルベドが『食った』と言う可能性は低くなった。
「つまり、君が言うとおり、君が死ぬのは変わらないんだ。電池切れか電池をなくすかの違いだけで」
 ウィリアムの神気閃光がアルベドのすぐ近くで炸裂する。その間にジェイクやサイズが間合いを詰める。掃討かつ陽動。
「そうね。でも、どうせ死ぬならこのフェアリーシードは道連れにする。というか、これも私の一部だわ、そうじゃない? 誰にはばかることはないわ。今、私を動かしているのはこのフェアリーシードだもの」
 私が私そのもので死んで何が悪いの。と、錬金術モンスターは笑う。
「そうなったら、絶対忘れないんでしょう? 後悔と悲しみでいっぱいになっ――」
『私を忘れないで』
 アルベドの発声とは違う、甘く低いかすれた声。固いカスタードプディングみたいな声だ。
 ドントフォーゲットミーは生きている。
「何、希望なんか感じてるのかしら、ついでにあなた達も道連れにしてあげるわね。ここにいないあなた達の大事なヒトに、あなたの顔を仇として刻んであげる」
 あら、悪くないわね。と、アルベドはアルテミアのように微笑んだ、


 そうとなれば、『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の動きは早かった。
 脳内回路はギアを組み替え、加速のついた指向に表情筋が追い付かず、いっそ静謐な面持ちになる。
 氷が剥げているわずかスペースを足場にして放たれる斬撃は、原生生物さえ神経信号に誤作動が生じ陶然とするほどの太刀筋だ。
「……アルベドは生命であり、フェアリーシードは魂、前回の戦いで私達は嫌という程思い知らされました。アルベドと核となっている妖精、双方を選ぶことすらできないことも」
 環境そのものが敵という状況。遮蔽物を盾にして消耗を軽減する。
 アルベドが生きているほど妖精は弱り、妖精が死んだらアルベドも死ぬ。両方を生かし続けることはできない。たとえ、フェアリーシードに何らかの形で補給ができるようになったとしても、石の中で沈黙する妖精の生涯と天秤にかけていい訳がない。


 ニグレドを引き付けるのがブレンダの仕事。それを仲間に振り分けるのがキリキリに神経をとがらせたジュルナットの仕事だ。
「おじいちゃん、固定砲台というには火力不足が否めなさすぎるけどネ! 氷菓クン、10時の方向からくるからネ。お願いしていいかナ」
 星狩りの大弓の加護で薄暗い部屋でも視界は良好だ。あふれるように襲い掛かってくるニグレドの攻撃にもその射撃姿勢は崩れはしない。
「承りました」
 重装砲撃魔術師用強襲式魔導甲冑『Ω』から、かすかな駆動音。
 氷菓の動きはニグレドの動機戦闘データ外にあった。群体の隙。無防備なターミナル。そこに軍刀がねじ込まれた。
「拙は余り強く有りませんので――」
 攻撃のために伸ばしきった組織を集めきることができない。広がり切った群体が雁首並べて差し出されているようだ。
 ブレンダの二振りの長剣がその空間を斬り交ぜた。
「伴に攻勢を掛けられればと思っています」
「ああ。とてもやりやすかった。ありがとう」
「恐悦至極に存じます」
「ウィリアム殿の補助に回ってほしい。あの光出は息の手を留めきれない」
「承りました。僭越ながら拙の得手に御座います」
 束の間言葉を交わすと、またそれぞれ黒い波に立ち向かう。
「次から次へと黒子のような奴らだな! 全員まとめてかかってくるがいい!」
 ブレンダは更にニグレドの怒りを買うべく声を張り上げた。
「邪魔はさせない! 派手に行こう。ここを壊すことがそもそもの目標だからな!」


 そもそも、ネームプレートという忘れんぼうの妖精の依頼からだった。
 あの現場に行かなければ、アルテミアの髪を採取されることもなく、このアルベドの素体が培養されることもなく、ネームプレートの友がフェアリーシードに加工されることもなかった。
 ネームプレートの友の名は、ドントフォーゲットミー。
 私を忘れないで。と呟きながら咲く小さな青い花。
 今、アルベドの胸元で魂を削っている。とろけそうな命を保持するために。

「ネームプレートの友達だったのなら……」
今日の『妖精の守り手』サイズ(p3p000319)は、いつもの三分の一。妖精が持ってちょうどいい大きさだ。
 困っている妖精を見ると無条件で助けたくなる衝動があるのは妖精の魔鎌の宿命で、もはや体と心が勝手に全力で動くレベルなのは自認している。
 実際、そんな感じでネームプレートの依頼を受け、肉は溶かさず装備を融かす不倶戴天の天敵が錬金術モンスターの中にいるのを知った。
 床にも壁にも粘着性のある黒いものがアルベドを守るようにずるずるはい回っている。あれは、装備を溶かすスライムではない。形状も違えば色も違うと自分に言い聞かせる。大丈夫だ。あれは「鎌」を融かさない。
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)キリキリと張り詰めるサイズを絶妙の強さでサイズをつついた。
「言っておくがな、フェアリーシードの妖精を助けたいってのは俺も皆も同じ気持ちなんだぜ」
 サイズが本能なら、ジェイクの場合は情念だ。ロマンチストだからして。
「もっと俺達を信用して欲しいもんだ」
 少々芝居めいたため息とともに無造作に引き絞られる引き金。
 群体であるアルベドの白い髪をかすめていく魔力弾。
 こんな打ち方をされたら、まずオマエヲコロスと矛ならぬ双剣が向く。
 腰だめに構えられていた切っ先がぞうんと唸り、白い炎の鳥が火の粉を散らしながらローレット・イレギュラーズの心臓をついばんでいく。
 アルテミアが仲間を巻き込むから使用は控えようと事前に決めていた飛朱雀。
 自分の髪が焼ける嫌なにおいがする。のぞき込んだアルベドの白目に同化しそうな真っ白い瞳孔。
 ふっと、たんぱく質が焦げる臭いを押しのけて、緑のにおいがした。気道を塞いでいた甘重さが森の気配にすすがれていく。
「スピード勝負だ。後顧の憂い無く味方が最初から全力を出して行けるよう、支援していく。 やっちゃえ、アルテミア!」
 アルベドにはまだフェアリーシードへの攻撃を返り討ちするだけの余力がある。それで使い切りフェアリーシードが枯渇したら元も子もない。
 アルテミアは大振りできないように間合いを詰めた。鼻先でかみ合わさる四本の剣。
 様子をうかがう余裕はない。突っ込んでから調整だ。
 白と黒と氷の世界に青と白の炎の羽毛が飛び散る。氷の床にしたたる赤い血と白い血。
(対峙した時から感じていた違和感は何なのか……)
 交える剣に迷いはないが、森で感じたのと違う違和感がある。あの時にはなかったものがある。
(稼働停止への恐怖? 喪失感?)
 自分の成り立ちを知らなかったわけではない。フェアリーシードの枯渇で死ぬことは知っていた。だが、アルテミアからの更なる素材調達で更なる進化ができると信じていた。あの日、アルテミアの血を浴びて踵を返したアルベトは誇らし気でもあったのだ。
(これは諦めと悲しみ?)
 だが、それが毒になった。皮肉なことに。アルベドの私室がアルテミアに追いつかなかった。更なる進化の見込みなし。製造ラインの停止。
(創造主に簡単に見限られ、誰にも覚えてもらえずに消えていく事が無念なのね……)
 ガンガンとかみ合う双剣。白い刀身。まだ粘りを保っている。
(それが核となった妖精の思いなのか、貴女自身の思いなのかは分からない)

 無念だわ。この先があると信じていたのに。もっと先があると、好みに宿る力があるなら、もっと長く生きられるようになると思っていたのに!

 語らぬ口元。白い唇をかみしめる歯。無念であると。太刀筋が。重い。叩きつけられる。創造主が去った今、受け止めさせたいのは、アルテミアしかいない。
「それが、私の細胞を元に生まれてきてしまった命への責任なのだから」
 ぎりっと握り直すグリップ。風牙に付与した刹那の魔石が呼応する。瞬間を切り取る生命の鼓動。アルテミアがアルベドのガードをこじ開けた。
「ここは俺達に任せろ! お前は早くフェアリーシードを引っこ抜きやがれ!」
 ジェイクがサイズを駆り立てた。その頭上を通過していく慈悲を帯びた一撃はアルベドの手から長剣を跳ね飛ばす。
「あああああああああっ!」 
 アルテミアの裂帛。アルベドの詠嘆。サイズの雄叫び。
 喉元に埋まったフェアリーシードに食い込む白い組織を、妖精を守護する鎌が切り飛ばす。返せ。妖精を返せ。本能に根差した真っ直ぐな衝動の発露。
 小さな妖精がアルベドに襲い掛かるたび、喉元から吹きあがる白い飛沫。アルベドは血まで白い。
 繰り返すたび、技の苛烈さがフェアリーシードを壊さないために捻じ曲げた力のバックラッシュでサイズどころか妖精体までひどく傷つける。
 フェアリーシードにされた妖精を救うための技。今この苦境を打開するために編み出された技。
 妖精は殺さず、アルベドやキトリニタスの悪あがきを許さない技。妖精を守護するための鎌ができる精一杯が結実した。
 武器の本能に従い、妖精とそれ以外を厳密に分けて、刹那の間に壮絶な選定のエッジが刻まれる。妖精は助ける。後は斬る。命と魂の均衡を破り、錬金術による完成された人口の調和に騒乱をもたらし――。
「ドントフォーゲットミー! 足掻け! もう一度ネームプレートに会いたいのならば! 俺も……妖精鎌サイズも足掻くから!」
 ブリリアントカット。
 思ったよりずっと深く深くフェアリーシードはアルベドの体に根差していた。その全貌が明らかになり、小さな四肢を駆使してあるべどの喉元をえぐり、引きちぎる刹那。
 救けて、殺した感触が典型のようにサイズ本体をしびれさせた。
「誰にも傷つけさせやしない――!」
 自分にできる最高速度で移動して、サイズは抱えたフェアリーシードごと凍てついていく。
 アーマースミスが疑似再現したためか、敵を封じ込める魔法は自分を包む氷のバリアに変貌を遂げた。
(撤退するよ……ニグレドは倒しきれるか怪しいし……俺は妖精の生存第一だからな! フェアリーシードを二グレドに破壊されたらたまったもんじゃないからな!)
 アイススフィア。今は、氷のゆりかごだ。
「よくやった! 対象確保だ!」
 ジェイクが叫んだ。ルフナが寄り添い、研究エリアの外を目指す。ここの空気は妖精には悪すぎる。
「離脱するぞ!」
 黒い波のようなニグレドをせき止めていたローレット・イレギュラーズ達は、口の端に笑みを浮かべて徐々に後退する。
「アルテミア! 下がれ!」
 クロバがふと気が付いて叫んだ。
「アルテミアのところには私が行きます。戦線を支えてください」
 シフォリィが踵を返した。

 魂を失い、循環している分がなくなれば終わりだ。眼球はすでに石灰化している。
「シードがなければすぐ死ぬわ。今、死んでいるの」
 それが理。性能限界。
 モロモロと崩れていく指の先。はらはらとほどけていく長い髪。天人五衰。紅茶の中で溶けていく角砂糖。アルテミアが何で騎士服ではなくそんな恰好で。と、内心憤っていた装備も一緒に崩れていく。
「私は貴女の事を忘れないわ」
 アルテミアは、アルベドの構成要素のうち、ドントフォーゲットミーとそうではないアルテミアを素体とした「私」を明確に違う単語を使って呼び分けた。
 ドントフォーゲットミーに対しては、一般的二人称の「アナタ」
「私」に対しては、それよりも親密な、家族や恋人に使う「貴女」を。
 崩れぬバベルを通してさえ、その熱量には明確な区別があることが伝わった。
「――アルテミア以外なら、少なくとも私は覚えておきます。その短い命を奪う事になった者として、貴方の姿の元となった人の友として」
 アルテミアと共闘できる間合いに入ったシフォリィが言う。サーベルから手にかけたニグレドの残滓がしたたり落ちてつずれて消える。アルテミアのそれとどこか似た装備。親密な関係なのがはたからもよくわかる。
 二人覚えていれば、まあいいだろう。何かの折に口の端に上らせるといい。
 真っ白い唇が、弧を描いて虚空にほどけて、一握りの粉になって氷の床に落ちた。


 ジュルナットは、ジェイクとサイズ、ルフナが廊下に出たとを確認すると、再び中に戻った。
「先にお行き。おじいちゃんはネームプレートのこともドントフォーゲットミーのこともよく知りないんだヨ。おじいちゃんが吐けるのは薄っぺらい一方通行の心だけだからネ」
 
「それなら繋がりが深いみんなに任せて、おじいちゃんは攻撃で支援に回るサ。どちらにしろ、破壊しなくちゃいけないからね」
 適材適所だヨ。と、ジュルナットは笑った。
 ブレンダは、フェアリーシードをのぞき込んだ。
「以前は助けられなくてすまなかったな。今度こそお帰りだ。君の名の通り、誰も忘れてはない」
 やかしく囁き、今北方向に向き直る。
「ジュルナット殿、お供する。この体まだ動くからな。囮として殺陣の役割を果たそう」
「そうかい。おじいちゃん、嬉しいヨ」
「では拙も微力ながらご同道仕ります。御快癒をお祈り致しますが何分不調法で――」
 氷菓も続いた。
「背中は任せて」

 幾分ましな区画まで全力で走る。フェアリーシードに影響が出ない速度で少しづつアイススフィアは溶かされ、シードに張り付いたアルベドの組織をルフナは服の袖で拭った。
 透明に近い青をまとったシードの結晶組織の向こうで妖精の影が揺らいでいる。
 しっかりしろ。と、サイズの妖精体の唇が動いた。呟きはやがて叱咤の叫びとなる。
 髪も瞳も白じゃない。体だってあんなに巨大じゃない。剣を握る手なんて持っていないし、羽根がなくて、飛べない体なんて信じられない。
「しっかりしろ! ドントフォーゲットミー! お前の友達が待っているんだ! ここで死ぬなんてネームプレートも俺も許さないからな!」
 ネームプレートが許さない。
「ネームプレート――」
「そうだ。ネームプレートだ!」
 ウィリアムがここが肝心だ。と、強く言った。
 アルベドは妖精『ネームプレート』を知らなかった。「名札をしょった=茗荷」の妖精なんて、名前からわかる訳もない。ローレット・イレギュラーズだって脱力した。氷菓だって一厘の確率でしか出てこない揺らぎを載せて「如何」といった。なんだそれ。
アルベドの魂ではない、妖精としてのドントフォーゲットミーを他ならぬ本人が意識しなくては。
「だから、それが分かっているドントフォーゲットミー、自分を忘れてはいけない」
 はく。と、妖精の色のない唇が動く。
「あのこは、大丈夫? 元気にしているかしら。フラフラしていてとても心配――」
「フラフラしてるけど、元気だよ! お前を助けてって頼まれたから来たんだ!」
 ルフナが叫んだ。
 薄い薄い結晶組織。叩き割って救け出してやりたいが、急激な環境の変化が瀕死の妖精にどれだけ負担になるかわからない。自分で割れるようになるまで待っている方がいいように思えた。すでに妖精を搾取するアルベトとは切り離した。外部からの癒しを受け入れることができるくらいの土台ができるのを待つ。
「覚えてた?」
 私を。
「忘れちゃいないさ」
 ジェイクの声が本人が思っていたよりずっと優しく響いたので、当の本人が一番ぎょっとした。
 再三焚き付け、火に油を注いだ結果、ニグレドとアルベドから受けた傷を、今、ルフナが癒している。絶対に倒れるわけにはいかなかったアルテミアとサイズを優先したためだ。異存はない。
「ええ」
 そうね。と、結晶の中の妖精がほほ笑む気配がする。
「ああ」
「でも、ドントフォーゲットミーを助けてっていうのがちょっと遅かった。誰かに頼るのを忘れてたよ」
 ルフナが告げ口した。前の戦闘の、せめて直後に言ってくれれば、もう少しはらはらしなくて済んだかもしれない。忘れんぼめ。少し反省しろ。愛のムチだ。一晩話に付き合った分はこれで清算してもらう。
「だから、たしなめておやりよ。自分で」
 その一晩でネームプレートがどれだけドントフォーゲットミーが大切なのかは分かったから。
「そうよ。帰ってあげなくちゃ。あの子に『どなたでしたっけ』って言われたら堪えるわ」
 薄い薄い結晶組織がひび割れた。ローレット・イレギュラーズは息をのんだ。このまま結晶と一緒に砕けた事例があったという。
 癒し手たちは、すぐに出な対応できるよう癒しの術の準備をする。
 白い手、青い髪、黄色い瞳。石のようにひび割れることのない生きた組織。
「叱って、皆さんにお礼を言わせて、抱きしめて上げなきゃ、私のことを忘れないように」
 抜けるように青い妖精が、塗りこめられた白から切り出されて自らの色を取り戻した。
「あの子は待っていてくれるかしら。フラフラとどこかに行ってしまっていないかしら」
 そんな心配はいらないと思う。うすぼんやりした白ピンクの妖精は、きっとなにをしているのか忘れる間もなくずっと帰りを待っている。

成否

成功

MVP

サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌

状態異常

サイズ(p3p000319) [重傷]
カースド妖精鎌
アルテミア・フィルティス(p3p001981) [重傷]
翼片の残滓

あとがき

お疲れ様です。そう来たか。意表を突かれました。ドントフォーゲットミー救出です。ネームプレートに出迎えられて鼻水でもつけられてください。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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