PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>きっと何者にもなれなかった私とあなたと、わたし

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●「この世界に愛はあるの? 私が生まれたことに意味なんてあったの?」
 凍てついた下水道を、少女達は白い息をはいて歩く。
 淀泥のごとく崩れかけた少女が、朽ちた自分の足につまづいたように転んだ。
 慌てて振り返り、駆け寄る灰のような少女。
 長い髪と、とろけた蜜のように甘い目元。しかし片目は包帯に覆われ、紙も酷く乱れていた。
「――ッ」
 名前を呼ぼうとして、『それ』に名前がないことに詰まった。
 抱え起こした泥の少女が、彼女を見て笑う。
 顔へ伸ばした手が泥そのもののように崩れ、びしゃんと泥水にとけていった。
 それでも泥をすくいあげ、少女は自らの白い頬に泥を塗りつけて見せた。
「置いていかないで、おねがい、ずっとずっと――」
 言葉を、最後まで聞いてはくれなかった。
 少女は泥となり果てて、腕は泥にまみれただけになった。
 ぴしゃん、ぴしゃん。彼女たちが来た方向から、まるで追いかけるように足音がする。
「……」
 泥の少女のひとりが、まだ無事な腕で肩を叩いた。
 白い少女に、名前はない。
 あったはずだけれど、もう誰も呼んではくれなかった。
 アルベド・タイプゼファー……そんな名が、あったはずだけれど。

 ある生命の話をする。
 悪しき錬金術師によって、目的のための副産物としてある種偶発的に産み落とされた泥人間がいた。
 彼女に自意識や自我や、思想や哲学などなく、ただそういうふうに動く機械の如く錬金術師の道具として動いていた。
 やがて妖精を核にした装置とある人間の遺伝子情報を埋め込まれ、彼女は少しだけ人間に近づいた。
 はじめは急速に目覚める意識や思考に戸惑ったが、彼女には寄り添える辺があった。遺伝子の中に刻み込まれていたのだろうか。それこそ偶発的に注ぎ込まれた『ゼファーという少女』の記憶……その断片。
 広い混沌世界を旅しながら、出会いと別れを繰り返し、そのたびに『きっともう二度と交わらぬ』と背を向けた記憶である。
 何度も何度も反芻し、何度も何度も空想した。
 あの日あの場所で別れたあの子に会いに行って、一緒にココアを飲んでもう一度友達になる空想。あの夜あの家へ行って、眠れぬ夜について語らう空想。自分の居場所はそこにあるはずだ。『彼女』が前にだけしか進めないなら、世界がそれしか許さなかったのだとしたら、彼女の姿と『わすれもの』を得た自分の居場所は、彼女の足跡にあるはずだ。
 そう考えれば、冷たい夜も眠ることができた。
 けれど、そんなのは空想でしか……いや、ていのいい妄想でしかなかったのだと、思い知ることになった。
 ついに目の前に現れた『彼女』は、まるで触れさせてもくれずに自分の前から通り過ぎていった。
 風のように、自分もまた、置いて行かれてしまったのだった。
 唯一寄り辺であったはずの、足跡さえも消し去って。

「かぁわいそうねぇ」
 甘くとろけるような、テーブルを流れる蜜のように高く色づいた声が反響した。
 人のようなシルエットこそしていたものの、表面は古代甲冑魚に近く、顔面は硬いうろこ状のシェルターにぴったりと覆われている。ただシルエットだけが、細身の女性のそれに近い。表面装甲は冷凍されたかのように霜がはり、いまも白くもやを吐いている。
 はるか古代のできごとを記した書には、これの名がある。
 曰く、『フリーズ』。
 自らの腹から胸へを手でなめらかに撫でて、ソレは『はぁぁ』と甘いため息をついた。
「勝手に作られて勝手に産み落とされて勝手に嫌われて勝手に捨てられて勝手に殺されちゃうのねぇ……かぁわいそう、かぁわいそう」
 アルベドのそばについていた泥の少女、もといニグレドたちがたちあがる。
 明らかな敵意が表情として浮かび、しかしアルベドはただ戸惑って立ち尽くすのみだった。
 腕を剣の形にして一斉に飛びかかるニグレド。首を、腕を、足を、胸を、その全てを同時に攻撃――したはず。
 しかし、斬ったのはフリーズの残像だけだった。既にフリーズはニグレドたちをすり抜け、そして彼女の右腕には鋭いナイフような氷塊ができていた。
「――ッ」
 振り返る……暇はない。
 ニグレドたちは全身をバラバラに解体され、泥にとけて落ちていく。
 ゼファーに似たアルベドは、『ぁ』としか声をだせなかった。
「うふ」
 フリーズは自らの手を頬にあて、かざしたもう一方の手に銃身のごとき氷塊を生み出した。
「ほんと、かぁわいそう」

●かわいそうなおとぎ話
 妖精郷アルヴィオンが魔種たちに蹂躙されるという事件は、女王の救出と街エウィンの解放という転換を迎えた。
 その一方で魔種なる錬金術師タータリクスは妖精城アヴァル=ケインに立て籠もり、進化段階であったアルベドを上位段階であるキトリニタスを作り上げていた。
 だが進軍は容易ではない。いくつかの事件の結果として妖精英雄ロスローリエン&エレインがかつて封印したという『冬の王』が解放され、その力と封印の力双方が持ち去れてしまうという事態へ発展した。
 これにより妖精郷は冬に堕ちた。花は氷空は閉ざされ人々の笑顔は凍り付く未曾有の大災害に見舞われたのだった。
 妖精郷には今も『冬の王』から生み出されたモンスターが跋扈し、出歩くことすら困難だ。
 だがこれらを突破し、妖精城アヴァル=ケインを攻略。冬の力を打ち払わねばならない。

「そのために、また貴女に力を借りたいのよ。ゼファー?」
 黒い和服姿の妖精が、ゼファー(p3p007625)の手の甲に腰掛けて長い髪を払った。
 はじめは妖精郷への門を守るため、次にはフェアリーシードに変えられそうになった所を巣くわれる形で、ゼファーはこの妖精と少なからぬ縁があった。
 妖精は小さな地図の上に飛び乗ると、バレエシューズのようなつま先でつつぅと経路の線をひいてみせる。
「お城の地下には使われてない下水道があるの。ずっと昔の遺跡ね。
 あそこからなら城へ侵入できるわ。
 けど、きっと強力なモンスターが徘徊しているはず……。
 突入する作戦とは別に、この場所を通行可能にするための作戦が必要よね?」
 ゼファーは頷いて、妖精のひいたラインを爪でつうぅとなぞっていく。
「私たちはこのエリアでモンスターを排除して、安全を確保すればいいのかしら?
 オーケー。おねえさんに任せなさい」
 とろんと笑って、立てかけていた槍をとる。
 再開の運命を、まだ知らずに。

●「私って、なんだったの?」
 空間が氷結し、そして即座に爆発した。
 衝撃波に吹き飛ばされたアルベドは石の壁を突き破って転がり、広い空間へと出る。
 すぐそばに転がった槍を必死に掴み、杖のようについて立ち上がるも、彼女の身体を無数の氷の槍が貫いた。
「ァ――!」
 声すらまともに出せぬまま、のけぞるアルベド。
 倒れることも許されず氷の槍にひっかかった彼女に、手をかざしたままフリーズが姿をみせた。
 一体だけの話ではない。見えるかぎり五体のフリーズが、新たな氷の槍を形成して立っていた。
「あなたの胸に、面白いものが埋まってるでしょう?
 妖精から作った魂の代替品。フェアリーシード。
 ねえ、どうせあなたには要らないでしょうから、私たちにくれない?」
 一人が首をかしげて、そしてフリーズたちはクスクスと笑った。
「ああ、違ったわね。
 『要らないあなた』だから、私に中身だけ頂戴な」

GMコメント

 やまない雨はないと旅人は言った。
 きっと雨しか降らぬ星に生まれなかったのだろう。

■オーダー
・成功条件:フリーズ全固体の撃破
・オプション:アルベド・タイプ×××を??する。

■シチュエーション
 城の地下道をクリアリングするため、この場所をかためているモンスター『フリーズ』たちを撃滅します。
 戦闘は石で覆われたひろーいドーム状の空間で行われます。
 古代遺跡の一部らしいですが、この空間がなぜ存在していたのかは特にわかりません。
 皆さんが駆けつけた段階でアルベドが倒されかけています。HP1割程度の状態にあるので、このまま放っておいても1ターンとかからず倒されると思います。

・フリーズ(五体ほど)
 『冬の精』にカテゴライズされる古代の怪物です。
 冬の王の力から生み出されたモンスターで、冬姫イヴェルテータの配下にあたります。
 個体戦闘力はとても高く、メンバー同士で協力して戦わなければ最悪敗北することになるでしょう。タイマンだとだいぶ分が悪い敵です。
 戦闘方法は氷の武器を作り出して格闘や射撃を行うというもので、レンジ0~2での戦闘に優れているようです。(といってもあまり死角や隙はありません)

・アルベド
 ゼファーの遺伝子を使用して作られたホムンクルスです。
 自我をもち創造主であるタータリクスに何かしらの問いかけをしたことで不良品扱いされ、ニグレドたちもろとも処分されそうになったところを城から逃亡したところのようです。
 大体ゼファー一人分の戦闘力があるといえばありますが、ほぼ戦意を喪失しており今まさに倒されようとしています。
 身体の中にはフェアリーシードが入っており、倒すことでこれを獲得できます。
 特に理由は分かりませんが、フリーズたちもこれを得るためにアルベドを狙ったらしいので倒すに当たって核を傷つけたりはしないでしょう。

※フェアリーシード
 妖精を閉じ込めて作られた魂の代替品。これと誰かの遺伝子情報を用いることでニグレドはアルベドへと進化できます。
 現在はフェアリーシードから妖精を助け出す手段が確立しているため、獲得イコール救出となります。

  • <夏の夢の終わりに>きっと何者にもなれなかった私とあなたと、わたし完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月31日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
放浪の騎士
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
あなたの虜
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
魔風の主
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
ゼファー(p3p007625)
never miss you
かんな(p3p007880)
カピブタ好き
グリーフ・ロス(p3p008615)
その色の矛先は

リプレイ

●続かなかった物語
「『要らないあなた』だから、私に中身だけ頂戴な」
 片腕を剣に変え、高く振り上げたフリーズ。
 クスクスと嘲笑する声のなか、アルベドは目を瞑った。
 これで終わりか。なにも得られずに。
 夢ばかり、みせたくせに。
 覚悟していた痛みは。
 しかし。
「まったく。なんてシケた面してんだか」
 夢にまで見た声に、遮られた。

 水平にかざした槍が、フリーズの剣を受け止めていた。
 彼女はいつも、風のように現れる。
「ゼ……ファー?」
「そんな顔されちゃあ、放っておけないじゃないの?」
 甘くとろけるシロップのような目をして、『never miss you』ゼファー(p3p007625)は振り返った。
 何が起こったのかまだ理解できていないアルベドを攫うように高速で走り抜ける『未来に幸あれ』アイラ(p3p006523)。
 ゼファーが用いたのと同じブースターユニットをパージ。ガシャンと凍った床に落ちるユニットをよそに、アイラは自らの手の甲にくちづけをした。
「あのね……」
 きらきらと舞い踊る蒼い蝶の幻影が、破壊され穴だらけになったアルベドの肉体へと少しずつ群がっては穴を塞いでいく。
 アイラは脳裏によぎった悲しみと喜びの記憶をかみしめて、アルベドへの微笑みにかえた。
「生まれてきて良かったって思える日がいつか、来るの。
 ボクの命に誓うよ。
 紛い物の命だって、きっと……生まれてきた意味も、理由も、あるんだよ」
「あらあら。あらあら。その人形、あなたのオモチャだったのかしら?」
 フリーズのうち数人振り返り、のっぺらとした顔部分に裂けるように大きな口を開いて無理矢理笑みを作って見せた。
 間へ割り込むように立ちはだかり、治癒術の魔方陣を開く『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)。
 小さく振り返り、困惑するアルベドの顔を見た。
「以前は大暴れだった君達だけど、こういう終わり方は寂しいね。
 それにしても生まれてきた意味か……さて、何だろう。僕も自分の意味なんてよく分からないからな」
「考えなくていいわ。ここで死ぬもの」
 フリーズたちが一斉に槍を構え、ウィリアムへ一斉投擲しよう――としたその瞬間。
 巨大な斬撃と炎が彼女たちの間を交差していった。
 すばやく飛び退き回避するフリーズ。
 追って駆けつけた『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が、まだ燃え上がるメイスを突きつける形で割り込んだ。
「ご無事ですわね?」
 顕現武装を槍形態へ戻し、くるくると回してから構え直す『カピブタ好き』かんな(p3p007880)。
「出遅れては、いないみたいね」
 二人はフリーズと、アルベドと、そしてゼファーたちをそれぞれ見た。
「作られた存在、ね。
 ……思うところが、無いわけではないのだけれど、今回はお手伝いをさせてもらうわ。
 というか、妖精さんを渡すワケにもいかないし」
「妖精とアルベド、どちらの命を取るべきなのか。私達は何をするべきなのか……。
 私の中で答えは見つかっていないけれど、今回はゼファーの意志を尊重しましょう。
 願わくばその結末が、誰にとっても救いのあるものでありますように」
 そんな彼女たちの頭上を飛び越え、宙返りをかけてズドンと力強く着地する『放浪の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)。
 剣を抜いて突きつけると、フリーズたちへと吠えた。
「我が名はフェルディン! さぁ、お相手願おうか!」

 涙すら流せなかった。
 選択だってできなかった。
 縋った藁すら消え去って、自分でいることすら許されなくなってから。
 どうやって生きていたのかも分からなくなってしまった。
 少なくとも犠牲の上に生まれた命。
 消え去るほうがいいに決まってる。
 けれど、なぜ。
 こうも生き足掻きたい。

「おやまったく、先ので『赤子』が学べたのは悲しみと虚しさだけだった、って事かナ。
 戦闘経験と半端な記憶で作られた心じゃ寄る辺も作れなんだとサ…それじゃあ、助けてお話をしようじゃあないカ」
 うつむくばかりのアルベドに、『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)が声をかけながら弓をひいた。
 放った矢がフリーズたちへ浴びせられ、取り囲もうと反対側へ迂回したフリーズは槍を回転させて彼の矢を弾き始めた。
 反撃にと連射したアームキャノンからの氷塊を、両腕をクロスした『自分にはない色』グリーフ・ロス(p3p008615)がジュナットとアルベド双方のぶんをまとめて受け止める。
「アルベドはこちらにとって脅威。同士討ちで排除されるなら、むしろ望ましいこと。ですが、フェアリーシードを回収されることは避けるべき……」
 理性が平坦なトーンで語る。けれどグリーフはわかっていた。
(……いえ、違います。フェアリーシードは関係なく、ワタシが。私が。彼女を無視できない。それが、手を伸ばす理由です。
 何かを模して産み出され、けれど完璧にはなれず、手を離される。それは、私そのもの。
 自我が、感情がないならば、製作者の意思に抗うことも、今生きようとすることもないはず。なら、彼女にはソレがある。そして、私にも……)
 激しい爆発が連続し、壁一つ吹き飛ばすような衝撃が走ったにもかかわらず、グリーフはあまりにも平常に白衣をなびかせていた。
 振り返るとアルベドの心が見える。
 自分の理解できない、この色はなんだ。

●捨ててきたのはなんのため
 連続で突き刺さる無数の槍。
 衝撃に吹き飛ばされるも、フェルディンは激しく転がりながらも姿勢を復帰。かかとに仕込んだ小さなローラーを回転させてブレーキとすると、再びフリーズへと突進した。
 かざした剣が槍の一本をうちはじき、強引にフリーズへと衝突。
 そんな彼の首に氷のチェーンがかかし、後方へとまわったフリーズによって鎖をひかれる。
「ぐ……っ」
 歯を食いしばってこらえるフェルディン――の一方で、ヴァレーリヤの燃えさかるメイスが鎖をもったフリーズの側頭部を粉砕した。
 あまった衝撃で転倒――せずに手を突き、片手側転をかけたフリーズはすぐに自らの頭部を再生。片腕をメイスにかえるとヴァレーリヤの二撃目へと正面から衝突させた。
「こっちは引き受けましたわ。かかって来――痛!? 良い度胸ですわー!」
 激しい激突の音と小さな爆発が幾度となく連続。
 広がる波紋のような衝撃に手をかざして耐え、アイラはアルベドを振り返った。
 舞い散る蝶が、周囲の汚れた風景をキラキラと照らしていく。
「貴女はゼファーのレプリカかもしれない。
 それでも、ボクは出逢えて良かったと思うから。
 だから貴女も、ボクらの仲間。
 ……大丈夫。怖くたって、独りじゃないよ」
 舞飛ぶ蝶たちの中を、ウィリアムは魔術障壁を次々に展開。
 飛来する槍を空中で停止させては破壊していく。
「しかし君もちょっと白いだけでもう普通の女の子だね。みんな若い頃は同じような悩みを持つものさ。
 君に残された時間があとどのくらいか分からないけれど、頑張って探してみると良いよ。
何かと邪魔なあのいけ好かない氷像は片付けておいてあげるからさ」
 ウィリアムはアイラの治癒術を取り込んでエネルギーに変えると、渦巻く光の砲弾を直列式魔方陣から発射した。
 放物線を描いて飛んだ光が爆発を起こし、フリーズは盾のように広げた氷で防御。
 だがその氷を貫いて、かんなのナンバーレスがフリーズへ迫った。
 と同時に形態変化。純黒の大鎌となった顕現武装をもって、かんなは至近距離から斬撃を放つ。
「対抗できないほどじゃないけれど……一対一に持ち込まれたら厄介よ。皆、孤立しないようね」
 フリーズごと吹き飛ばし、斬撃は衝撃波となって突き進んでいく。
 別のフリーズはそれをスライド移動で回避。
 そして回避した先に置くようにジュルナットが大量の矢を放った。
「さてお話だけれども、君は本当にゼファーチャンに成りたかったのかイ?
 いや、記憶を埋め込まれて出来上がった結果が先の件だったからその時の目的はそうだったんだろうネ。
 じゃあ、今自分自身を見つめ直して、考えておくれヨ。
 君は、“誰”だイ?
 ゼファーチャンじゃない、大正解だネ。
 これで君は全く別の“誰か”になったネ、名も無い“誰か”に成ったのサ。
 “要らないと思われない”、誰かにネ」
 呼びかけられたアルベドは小さく首を振った。
 理解はできるはずだ。できるのに。
 一方でグリーフもまた、彼らの語る内容を理解しきれずにいた。
 知識として知っている、スーパーエゴ。
 グリーフは小さく首を振り、あらためてフリーズへと挑みかかった。
「冬の王の力が零れてできただけの、道端の水たまりのような存在ですもの。5体も集まらなければ戦えないのですね。アルベドは1人でも脅威でしたのに」
 正面から殴りかかってくるフリーズ。
 グリーフはそれを手のひらで受け止め、ぱきぱきと凍り付く腕をちらりと見た。
 見たが、全く意に介さないかの如くフリーズの拳を握りしめ、ぐいぐいと相手に向けて押し込んでいく。
「そんなに頑張っちゃって」
 フリーズはのっぺらとした顔にグリーフと同じ顔を浮かべると、ひどくシニカルに笑って見せた。
「そんなに欲しいなら、もう一個作ればいいじゃない」
「…………!」
 グリーフの中で、何かが弾けたような気がした。

 誰かの答えを待っていた。
 誰かのそばにいて。
 誰かの代わりに何かをして。
 それが自分の居場所になると思っていた。
 きっとそれが、アルベドというものの生まれた意味なんだと。
 けれどどうだ。
 『オリジナル』はこんなにも遠い。

 槍と槍が八分音符の速度でぶつかっていく。
 ひときわ大きな金属音と火花をあげて、ゼファーとフリーズは距離をとる。
 槍を構えて突撃してくるフリーズ。防御の構えをとって穂先を打ち落としたゼファー……だがしかし、素早く槍をはなしたフリーズが身体をくるくるとひねり、ゼファーの顔面めがけて鉤爪を繰り出してくる。
 身体をわずかに傾けて直撃を回避。頬を大きく切られながらも、ゼファーは立てた親指を素早く放った。
 相手の喉を潰しててこの原理で首の骨を外すという殺人術である。
 フリーズの首はおかしな方向へねじまがったが、幾度かのバウンドの末すぐに元の位置へとこきりと戻してしまう。
 厄介ねとつぶやいてから、ゼファーはアルベドへと振り返った。
「貴女は私じゃないし、私は貴女じゃない。
 人は、別の誰かになれやしないわ。
 でも。私の記憶を垣間見て、其処に貴女が貴女なりの想いを抱いて、願いを抱いたのなら……其の気持ちはもう、貴女だけのものなのよ」

 生きていたいなら。
 生き足掻くなら。
 問いかけるのをやめてはならない。
 唯一すがったそれすらも、捨ててしまったのはなぜ?

「それに。こんな性悪そうな連中にやられっぱなしじゃ、首の座りが悪いでしょ?」
 ゼファーにそう言われて、アルベドは反射的に自分の喉元に手を当てた。
 初めて出会ったあの日のこと。

●名前のない徒花
「『主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に』」
 メイスに刻まれた聖句をなぞり、目を閉じるヴァレーリヤ。
 真正面から迫るフリーズの打撃がなされるその寸前になって、燃えるように目を開いた。
 炎をひいてくりださた衝撃がフリーズの腕を破壊し、もう一回転をかけたヴァレーリヤのメイスが今度はフリーズの胴体を粉砕した。
 その一方で、両腕を押さえつけられつつも歯を食いしばって取っ組み合いに持ち込むフェルディン。
 彼の周囲を光の蝶が舞い始める。
「……これは」
「フェルディンさん、伏せて」
 蝶の光が連鎖的な爆発を起こし、フリーズの両手首だけを破壊する。
 解放されたフェルディンは素早くその場に身を伏せ、背後から急速に迫っていたアイラが対面を代わる形となった。
 地を蹴り、宝石剣に氷の魔法をかけるアイラ。
 大きな雪銀の剣へと姿を変えると、繰り出した横一文字の斬撃がフリーズの胴体を切り裂いていく。
 内包されたエネルギーが破裂し、二体のフリーズが大きな爆発を起こした。
 衝撃をマントで防ぎつつも、さらなる
矢を放つジュルナット。
 彼の射撃を盾で防ぎながら、フリーズはアームキャノンによる反撃を……とその時、至近距離まで迫ったグリーフがフリーズの砲身を自らの腹に押しつけた。
 無表情に、しかし大きく目を見開いて顔を近づける。
「『もう一つ』など作れはしないのです。失ったものは」
 射撃を至近距離ですべて受け、グリーフは握った拳をフリーズへと叩きつける。
 幾度も殴りつけ、フリーズの顔面を破壊した。
 その直後、ウィリアムの放った『鎧貫』の空圧弾がフリーズの胴体を貫通。ため込んだネルギーを暴走させ、小爆発を起こさせた。
「これで三体。残るは……」
「まかせて。仕留めてみせるわ」
 かんなは『ナンバーレス』を無数に顕現させると、その全てを連続投擲。
 槍の回転でもって弾きながら迫るフリーズが、その槍をかんなの胴体へ深々と突き刺した。
 対するかんなは柄を握り、すぶりと更に深く踏み込んでいく。
 手を離――す暇はなかった。
 伸ばしたかんなが手首を掴み、もう一方の手がフリーズの胸元へと当てられる。
「武装顕現――『天墜』」
 フリーズを中心に無数の刃や柄が滅茶苦茶に突き出て、内側から爆発する。

「あらあら、困ったわねぇ」
 味方が次々に破壊されたにもかかわらず、しかし最後の一体となったフリーズは余裕そうに槍を地に突いていた。
 対抗するように、向かい合って立つゼファー。
 その後ろに庇われるようにして膝を突いていたアルベドは。
「ゼファー……私、私は……」
「ほら」
 ゼファーは自分の持っていた槍を放り投げると、アルベドへとパスした。
 片眉をあげ、首をシニカルにかしげてみせる。
 慌てて受け取ったアルベドは……ゆっくりと立ち上がった。
「なにをするつもり?」
 ふと、フリーズに余裕がなくなったのが分かった。
 途端。アルベドはゼファーの槍を投擲。
 咄嗟に両手で穂先を受け止めたフリーズへ、ゼファーとアルベドは高速で迫った。
 同時跳躍。同時にソバットキックが繰り出され、フリーズの上半身を消し飛ばす。

●恋で終わる物語
「誰に成ろうというのかしらね。
 自分の意思と心があるなら、自分に成れば良いでしょうに。
 なんて、記憶の無い私に言えた義理はないけれど。
 ……だからこれは、ただの独り言」
 氷の散った地下道で、かんなは手を払いながら言った。
 傷を負いながらも、フェルディンとアイラが振り返る。
「姿形などというものは、ただの『外見』に過ぎない。
 キミは、キミという、一つの命だ。
 恥じる事無く、堂々と、為したい事をすれば良いんじゃないかい?」
「生まれてきた理由がないなら、ボクに会うためとか、どう?
 私は貴女のこと、覚えてるよ。
 ボクはずっとずっと貴女を忘れない。
 だから心配しないで。だって、貴女はたった一人の、貴女なんだから」
「一期一会だなんて言葉があるだろウ?
 この出会いは忘れられない思い出になったのサ。
 この思い出を棄てたいとはおじいちゃんは思わないヨ。
 こうやって、心を作っていくのサ。
 今、君にあるものも、心さナ」
 肩をすくめて語るジュルナット。
 そんな中で、グリーフはボロボロの身体を意にも介さずアルベドへと一歩あゆみよった。
「貴女はゼファーさんではない。名前は分からない。だから呼んであげることはできない。でも、貴女は貴女。呼んでほしいなら、声を出して。
 私はグリーフです。ニーヴィア(ニア)ではない。けれど、生きています。ほら」
「でも、私は……」
 喉を押さえ、アルベドはうつむいた。
 振り返ると。
「好きにすればいいわ」
 ゼファーは槍を拾い上げて、苦笑した。
「私の名前だって、おじいちゃん(師匠)からのもらい物ですしね?」

 通り過ぎていった、いろんなもの。
 手に入らないと、わかったからって。

「全く、なによ。勝手に助けてあとは放っておくなんて。釣った魚に餌をあげないタイプね? あなた」
 アルベドは腰に手を当てると、ゼファーへつかつかと歩み寄って彼女の胸に指を突き立てた。
「もういい。好きにさせて貰うわ。
 あなたが嫉妬するくらい素敵な私になってあげるから。
 あなたが『出会ったことのない』人に沢山であって、思い出を山ほど作って、いっぱい泣いて笑って。そうね、世界中を駆け巡るのもいいわね。
 けど、その前にひとつだけ……」
 指をはなし、すれ違い。
「挨拶しておかないといけない子がいるのよね」
 振り向きざまに、アルベドはゼファーの首を狙って立てた親指を放った。
 反射的に振り返り、相手の手首を払って首を掴むゼファー。
 べきん。という、あっけない音がした。
「いい人生だったわ。最後に、素敵な恋も出来たしね」
 首のほとんどが崩壊した状態で、崩れ落ちるアルベド。
 咄嗟にゼファーが抱えると、彼女の顔を見上げた。
「ねえゼファー。私、貴女のことが――」

 風が抜けていく。
 ウィリアムは背を向け、祈るヴァレーリヤとすれ違った。
「主よ、貴方の元へと旅立つ魂にどうか慈悲を……」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――地下通路の侵攻ルートを確保しました
 ――『フェアリーシード×1』を獲得しました

PAGETOPPAGEBOTTOM