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シナリオ詳細

藤花腐し

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 魔種を討伐して欲しい――

 その依頼がローレット宛に飛び込んだと聞いたラグラ=V=ブルーデン (p3p008604)は真っ先に建葉・晴明へと謁見を求めた。つまりは「セーメーも行きましょ」と言うことだ。
「社会見学ですよ。社会見学」とラグラがセーメーこと晴明に告げれば彼は「確かに」と同行を了承した。『魔』なる存在を見たいという中務卿と共に訪れるは人口にして30人にも満たない村『羅刹獄』である。
 山間盆地に存在するこの村には鬼人種が多い。晴明とてこの村のことはよく知っている。一年を通して紫藤が咲き乱れ、他の樹木は存在しないのだ。その美しさ故に霞帝の代には藤ノ郷などと親しまれることもあったらしいが――現在は『獄人』を捕らえる奇っ怪な牢(はな)が如く扱われている。
 美しきその場所に突如として現れた魔種というのは紫鬼と言う名の男であったという。槍の名手である彼は刑部省への入省も期待され居た村の若手である。鍛錬に励む好青年であった彼が――ある日どうしたことか『突然』魔種となったそうだ。
 藤の花咲く山の中の何処かを拠点とし、今より力を付けるが為に近くを訪れる武者や自信を討伐して欲しいと雇われた者を『狩』っている。
 村長の言を元にすればどうして彼が魔に転じたのかは分からない。だが、その様相は言葉の通り『鬼』であったと言う。
 神使――それに遠足気分でついて来た中務卿には村長は大層驚いたが――を山へと見送る村長は深々と頭を下げる。
「これ以上他所に迷惑をかける前に討伐してくれませんか」
 そう願う彼にとっても村の優秀な人材を幼き頃から知っている彼を『討伐』するのは苦渋の決断であっただろうと神使の誰もが考えていたはずだ。
 しかし――神使を山へ見送る村長の顔は酷く、晴れやかであった。


「――と言うことでして」
 ラグラはそう言った。中務卿のポケットマネーで一先ずは情報を収集した結果、かの村は排他的ではあるが敵意や嫌悪からの物ではないと言うことと、村には武芸の修練を積んだ者が多く見られたが若者が極端に少ないと行ったことが判明した。
 それがどういったことを表すかは分からないが一先ず耳に入れておこうと言うのが彼女の判断なのだろう。
「セーメーは何か知りません?」
「藤が美しい村であることは把握している。だが、それ以上は分からない」」
 首を振る晴明にラグラはふうん、とそう言った。省庁のトップである彼も数多い村々については余り知らぬのだろう。
「済まない」
「謝ることはねーですけど。それで、調査の結果はセーメーに読んで欲しいって渡しましたよね」
 読むのが面倒くさかっただけではない。晴明の金で雇った情報屋だから晴明にこそ情報は渡るべきだとラグラはそう言った。
「ああ、魔と化した男は紫鬼と言うらしい。彼は槍の名手であったことで、魔と化した後もその力は健在であるそうだ。
 ……成程、討伐隊を出そうとも返り討ちにされるが故に、諸兄達へと声が掛かったのか」
 流石は『龍を撃退した英雄だ』と晴明は満足そうに頷いている。それは良いから、とラグラが急かした声に晴明は「ああ」と書類に視線を落とす。
「どうやら、何か目的があるようだな。その目的は定かでなく。
 ……ふむ、紫鬼による『何らかの影響』が村を中心に山々に薄く響いているか――その影響も少なからず注意せよと言うことである」
 そこまで行った晴明は詳しくは諸兄も確認してくれ、と書類の束を差し出した。
 遠足気分では居られないぞ。自分の身は自分で守れよ。と、そう言ったラグラに晴明は柔らかに頷いたのだった。

GMコメント

 夏あかねです。リクエスト有り難うございます。
 お言葉に甘えて晴明君も遊びます。

●補足
 当依頼の難易度はハード相応となります。宜しくお願いします。

●成功条件
 魔種の撃破

●羅刹獄
 人口30人にも満たぬ村です。山間盆地に存在するこの村は鬼人種が多く一年中紫藤が咲き乱れ他の樹木が存在しないことで藤ノ郷とも呼ばれていました。
 現在は獄人を捉える奇っ怪な牢(はな)咲く郷と揶揄されています。
 武人が多く存在し、若人は数少ないようです。村及びその周囲の山には『憤怒の呼び声』が響いています。

●現場情報
 羅刹獄の近隣の山。紫鬼の位置は大体は判明しています。
 足場は少々の不安があります。視界は良好です。
 また、後述する『呼び声』によってBSを受けることがあります。

●魔種『紫鬼』
 鬼人種の青年。どうしたことか『反転』しました。何かに猛り、何かの目的のために力を求めます。
 藤色の眸を持った槍の名手です。非常に強力な敵となります。
 近接攻撃を主体とし、必中や必殺、ブレイクを所有。
 フィジカルが高く、体力も豊富です。槍での単体、範、貫も所持。

 ・憤怒の呼び声:絶えず響く彼の呼び声です。この効果により彼の周辺40mでは『乱れ』と『泥沼』のBSを受けます。

●『呼び声に感化されし者』*10
 5ターン経過で5体追加。獣や村人、そして周囲を通りかかった者達が呼び声を受けて狂気に混乱し、襲いかかってきます。
 多くがそれ程の力を持ちませんが何かに憤ったように襲いかかってきます。
 攻撃は単体攻撃が主体ですがフィールド内の何処からやってくるかは分かりません。不意を突いて襲いかかってくるでしょう。

●建葉・晴明
 此度は皆さんの活躍を拝見させて頂きたく足を運びました。
 自らの身は自らで守りますが紫鬼討伐には参加しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

どうぞ、宜しくお願いします。

  • 藤花腐し完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月30日 00時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
彼岸会 空観(p3p007169)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)
星飾り
陰陽 秘巫(p3p008761)
神使

リプレイ


 藤の花は堅牢なる獄が如く。降るかほりはその脳をもぐらりと揺らがせる。人口にして30人にも満たない村『羅刹獄』――突如として舞い込んだ『魔種』の討伐依頼へと向かうのはラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)を始めとした神使一行と中務卿であった。
「突然魔種にねえ……はン、あんまいい気分で聞ける話じゃなさそうだ。
 まあ、詳しいいきさつは後で気になれば聞いてみればいい。まずは魔種をぶちのめさないとね」
 藤の牢の中を進んだ『C級アニマル』リズリー・クレイグ(p3p008130)は脳を揺さぶる花の香りに目を細める。
「実に、シンプルな目的ではあるが気になる部分もある。
 だが、今はこれから望む相手を目に捉えねばならん。
 ……間違いなく、強敵だ。勝つ為にも、今は揺らいでいる場合では無い、か」
 羅刹獄に蔓延る異質な空気に『Black wolf = Acting Baron』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はそう吐き出した。目的たる相手は『依頼人が魔であり、討伐せねばならぬ』と求めた存在だ。
「なんだか、こういうのは怪物退治とは違って少し気が重いですわね……」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は唇を震わせる。これは、人に非ず『魔物』であると認識せよと言う様に村長は討伐して欲しいと告げていた。然し、魔種という存在がどのようなものであるかを身を以て知るヴァレーリヤにとって、それを獣を狩る様に安易に討伐する事はできない。
「助けてあげることはできないけれど、せめて少しでもその罪を軽くできるように頑張りましょう。後悔は、少ないほうが良いですものね」
「後悔ねえ……。まあ、気になることは多いさ。
 憤怒の呼び声に、龍を撃退した英雄…ね。
 身を変える程の怒りとは、それこそ怒髪天すら生ぬるいと言える程の怒り、だったろうな……。
 それに、村長は何かを隠していそうだ。中務卿、後で調べて見ても良いんじゃないかな」
『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)が呟いたその言葉に、晴明は「ああ……」と何かを考え込むようにそう呟く。美しき藤はその美しさ故に恐れを感じさせる。晴明の横顔を眺めながら「まあ、不思議な空間だよな、ここ」と行人は咲き誇る藤をその視線でなぞった。
「美しい藤に、若人の少ない村。それで、突然魔種に……ねぇ。
 ええ、依頼主の様子と良い、諸々引っかかりはするのだけど。
 ……まぁ、依頼は依頼。どのみち魔種は見過ごせないわ。討伐しなくてはね。それに――『槍の名手』として名高いのでしょう? 私としても望む所ですもの」
『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)にとって、強者との『死合い』は好ましい。気分は高揚し、山間へ進む。響き渡る『呼び声』を畏れるように間口をぴたりと閉じた村の人々に違和感を隠せずに居た『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は「この山に響いている声が憤怒なんだね」と静かに呟いた。
「憤怒……憤怒か……。彼に何が有ったのかな。
 村長の反応もちょっと変だったけど……いや、止そう。どんな事情であっても、魔種になったのなら討つしかない」
「ええ。紫鬼なる者の目的は今ひとつ分からず、そして魔種と相成ったというならば……。
 魔種――……ああ、いけませんね。あの子のような者は『特殊』であると言うのに」
 深海の色彩が『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)の美しい月光色の瞳には滲んだ。首を振る。懸念するべきは皆が言う『村長』の様子だ。
「まるで邪魔者が居なくなる事を喜ぶかの様な……立身し村から出ようとした彼を疎んじ入省を邪魔した?
 其れ故に力を求めた……考えすぎでしょうね」
「まあー……どうでしょうかね。目的の重なんとか君……まあいや紫鬼君以外の呼び声が原因とみてよさそうですね、今回の反転。しかし、変わりませんねこの藤も」
 ラグラの言葉に「重なんとか」と唇に音乗せて『神使』陰陽 秘巫(p3p008761)はぱちりと瞬いた。
「ああ、いや」
 首を振ったラグラは「知り合いだったんですけど、名前は忘れました」とそう告げた。紫鬼と、そう名乗った『魔種』――村人達への調査で『得た情報』である以上、本来の名を隠匿されている場合も想定される。ラグラが忘れたというならば姫巫もそれ以上は問いかけない。
「ひとが我を忘れて憤るんは、怨みか辛みか憎しみか。はたまた妬み嫉みの肥やしにされてもうたか。
 ――昔は知らんけんど、今あの村で一番強いんは間違いなく紫鬼はんやろなぁ」
 魔種とは、そう言う存在なのだから。


 紫苑。鮮やかなる藤の色。それは『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)にとっては違う意味合いが存在している。紫色は特別な色彩だ。恋人の象徴である色。藤色の眸を持つからこそ『紫鬼』とその名を称されたのだろうか。
「……紫の鬼なんてのは業腹なんですよね」
 呟き、山の中で目を伏せ佇む男が一人。そして、その周辺には複数人の影が見える。紫鬼、と口にしたときラグラは奇妙な違和感を感じた。矢張り、晴明のポケットマネーで調査をしたが彼は『紫鬼』という名ではないはずだ。
(まあ、いいですか。取り敢えずはブチ殺さねーと何も始まりませんし)
 ラグラをちら、と見てから行人は溜息を吐いた。反転に至るまでに何かしらの原因があったようにしか思えない。ゆっくりと向き直り蔦纏う刀の切っ先を向けた行人は凜とした声音で男へと問いかける。
「お前が――羅刹獄の『魔種』か?」
「ああ、お前も俺を魔であると言うのか……」
 低く、唸るような声音であった。悲しげに、そして僅かな苛立ちを孕んだその声にびりりと背筋に焦げ付くような気配を感じ取りヴァレーリヤは息を飲んだ。
 聖句刻んだ魔術戦闘用のメイスを手に、信仰の基盤なる『聖なる書』の言葉を思い返す。信仰は無力だ。それでも尚、人々の心に寄り添うことが出来るのも信仰の良さであるのだと知るように彼女は堂々とその声を響かせる。
「魔だなんて――ええ、魔種と申しました。けれど、それはあくまで『種』がそうであるだけ。
 鎮まりなさい! どうしてこんな事を! 貴方の周りに存在するその人々は村の者ではないのですか」
 声を震わせる。すとん、と心の奥底に落ちるようにその言葉を紡ぐ事こそ宣教者の教えであるかとでも言う様に。然し、魔種は『狂化』された存在だ。毅然とした行人へと飛び込む槍の穂先が鋭い軌跡を描く。
 嗚呼、と佐那は呟いた。力を求める者同士、言葉無くとも求めるのは『死合い』だ。自身の戦い方を槍相手に適応させるように、双刀を振り上げる。魔的に冴え渡る勘を生かし前線まで距離を詰めた。振り下ろすは火炎の刃。
「貴方の事情は知らないわ。けれど、此方は『魔種を見過ごせない』――分かる?」
「成程。八百万が我ら鬼を迫害するよりも尚深い溝が底には存在すると言うことか」
「ふふ、案外利口なんやね」
 ころころと鈴鳴るように笑みを零す。黄泉還り、現世が傍らに存在する幽世に手を伸ばすが如く朧気に境界線を指先描く秘巫の唇が薄らと色を乗せた。
「嗚呼、強ぉて怖いわ。紫鬼はんの攻撃に当たると、下手したら死んでまうから……」
 何度死んでも『痛い』のだから。ゆたりと乗せた艶なる笑みで感化された者達を呼び寄せる。
「感化されちゃった人達は自分の運命を嘆いといて、端的に換言するなら容赦しないぜ」
 容赦しては此方が酷い目に遭うのだとラグラは星幽魔術を用いて落ちていた石ころに宙の色と星を映す。鮮やかな色彩が貫くは『不運』を呪うが如く。
「ああ。敢えて問おう――『紫鬼』に違いないな」
「ああ」
「貴様が何に猛っているかは知らぬ。だが──魔種は倒さねばならん、覚悟して貰う」
 ベネディクトは覚悟をしたように黒狼の外套を揺らし、鬼の前へと躍り出る。風斬る音と共にぶつかり合う槍と槍。ぎ、とグロリアスが奏でた音に奥歯をぎりと音鳴らす。その身を反転させ、違えた栄光(グロリアスペイン)を紫鬼のその懐へと投げ入れる。風を斬る、宙を割く、その一撃に続くように、リズリーは無骨なる宝剣を大きく振り上げた。
「並の戦士じゃ歯が立たないって程の武術家を相手しようって言うんだ。出し惜しみは無しで行くよ!」
「そうか……そう『評価』してくれるか」
 リズリーの言葉に僅か好感を抱いたような紫鬼の声に、ベネディクトが眉を寄せる。『有り得るはず』の可能性を幾つも連ね、その勢いの儘放つ猛獣の一撃。振り下ろしたそれに槍が僅かに音鳴らす。
「勿論、『受け止め』るんだ。其れで弱い訳がない」
 リズリーがにい、と小さく笑った。その傍ら、その身に僅かな重さを感じながらウィズィは「くそ」と小さく呻く。下手に戦場を広げると『追いつけない』可能性もある。ならば、紫鬼を中心に陣を敷くのが最適だ。視線をちら、と『紫苑の眸』に向ける。その色彩は美しい藤のようで――愛しい恋人のように――腸が煮えくり返る。
「さあ、Step on it!! 持久戦なら負けませんよ!」
 堂々と声を張る。感化された者達を誘うように、乙女は望まぬ者に触れられることを厭うが如く荊をその身に纏う。その心は突き進め、突き進めと炎を滾らせる。其れは止まらないと言うこと、進むという事、そうありたいと言う心は絶対に負けない。ウィズィと秘巫が引き寄せる感化されし者へと向かい、変幻の邪剣を振り下ろすウィズィは宙を蹴る。一歩、二歩――中央に飛び込めば仲間を巻き込まぬように業に満ちたその刀を旋回させる。暴風域を畏れることはない、ウィズィは幾重も手招いた。さあ、その足を止めることは無きように――ウィリアムの巡る魔力が淡く光を帯びる。天地自然に満ちあふれる魔素は狂気に触れ感化されし者達に向けて神聖なる光を放つ。邪悪を裁いたその光の下で『鬼』は小さく笑った。
「この者達は、俺の『声』に呼び寄せられたのか」
「……ああ、そうだ」
 ウィリアムは静かに答える。くつくつと喉を鳴らした『紫鬼』の紫苑の眸が愉快げに細められる。強者との戦いに血が滾るか、それとも、その身の内に存在する『人の心』が嬉々とした何かに気付いたのかは分からない。ただ、その深い笑みだけが奇妙な感覚として行人を捉えた。


「妾(わたし)は必殺攻撃さえ受けへんかったら殺しても死なん――死ねんのよ。
 やから幾らでも集めたる。ほぅら、妾はここよ。さぁさ、いらっしゃい」
 手招いた。苛立つように狂気に駆られて飛び込む者達を手招けば小さく笑う。山より響く憤怒は何処までも強い。それでも、秘巫は『事情』を知らぬ、『事実』を知らぬ――何も知らぬからこそ、目の前の敵を屠ることしか出来ない。
「泣いているようだ」とベネディクトが呟いた。彼自身は『影響を受けない』呼び声はまるで泥沼だ。心を乱す。それでも、秘巫は「呼び声?」とこてりと首を傾げる。
「呼び声? 嗚呼、体に纏わりつくよなこれのことやろか。
 ちぃとばかり体の動きは乱れるけんど、そんくらいやわ……妾(わたし)の足は止まらへんのよ」
「ええ、止まっている暇などないですから」
 器用に獲物を旋回させて、呼び寄せる。ウィズィが呼び寄せた者達に向けて暴風を纏い飛び込む無量は真っ直ぐに刃を振い込む。
 一方で紫鬼を相手取る行人は『先へ行きたければ俺をどうにかして見ろ』と声を発して魔種を引きつけ続けた。耐える。神秘の霊薬を飲み干して、自身の脚に力を籠める。不滅の如く強烈に自身を修復する治癒に、堅牢なるその身を盾に仲間が傷つくことを厭い続ける。然し、相手は強力なる魔種だ。耐え続けることになるというのか。
「このまま暴れたら、貴方の大切な人達まで巻き込むことになりますのよ!
 分かったら、せめて戦場を遠くに移しなさい!!」
「この小山より去ることは出来ない」
「何故……っ」
 此の儘では彼の呼び声に感化される者が更に増える。ヴァレーリヤの説得に紫鬼はつい、と顎で眼窩に臨んだ『羅刹獄』を差した。その意味は分からぬままに、狂気に駆られた者達に言葉は通じぬと聖句を諳んじる。
「伏せて下さいまし! ぶっ放しますわよ!!
『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』」
 ちりり、とその腕に重すぎる痛みが走る。それでも『どっせえーい』と勢い付けて攻撃重ねるヴァレーリヤに重ねる聖光のはウィリアムの魔力が吹き荒れた証左であった。
(アレは所詮は狂気に触れただけ……しかし、槍の名手の相手は中々に骨が折れるわね。
 けれど、彼は正気じゃない。本来なら槍の軌道を読むのは容易ではないけれど……怒りに囚われている今なら、)
 佐那が地を踏み締める。至近距離まで飛び込んで「此処!」とその声を凜と発する。踏み込んだ一刀両断。振り下ろせば槍と僅かに掠めた刃が擦れ違う音を立てる。きん、と鋭く鳴るその音色に臆することなくリズリーが一撃と叩き付ける。
「長物相手には手元を狙えってね! 喰らえ、一発お見舞いしてやるよ!」
 致命的な隙を突く、獣の一撃は鋭く深く。青き血の本能は衝動的にその身を突き動かした。
 一方で、狂気に触れた者達が飛び込んできたその刹那に気付いたように秘巫が顔を上げる。
「来た」と囁くその声に、ラグラは「あーあ」と溜息吐いた。
「正義側からすれば、他にどれだけ大きな魔がいようと目についた魔を放っておく理由にはならねーんですよ」
 こうして感化された者が増えると言うならば――それこそ『他者』を巻き込む悪人に他ならない。毒に毒を入れて清水が手に入るとしても、手を出しちゃいけないものがある。続く言葉は、『重之君』
「あ」とラグラは小さく呟いた。そうか、と合点がいったように目を伏せる。
「重之君だったね」
 紫鬼なんて、そんな呼び名ではなかった筈。この村の特異さに身を染めきった男を哀れに見遣ったラグラはあらゆる苦痛を相手へと与えた。それでも、この『憤怒』以上の苦痛はないのかと目を細める。
「……っ、御免……!」
 殺さずに済むならば其れで良かった。けれど、それに構っていられるほどの余裕も猶予も底には存在していなかった。ウィズィは唇を噛みしめる。『不殺』を選択している暇も無い。その身より溢れた赤が焼けるような色彩で大海の色彩の眸へと映り込む。
 ちらりと其方に視線を送りながらも無量は真っ直ぐに紫鬼へと向き直る。
「神槍と言える程の槍捌き……実に惜しい。何故魔に心身を窶したのですか」
「……どうして――だろうな」
 男は小さく小さく囁いた。彼にも又、惑いがあったか。手を伸ばさねばならぬ理由があったか。痛いほどの『憤怒』が響く。
「きっと彼の怒りは、彼だけの怒りじゃあないんじゃないかと思う。
 例えば、紫鬼を含む若者達を龍へ向かうように唆した結果、結構な数の友人、親友、もしくは恋人が死んだ、とかね? ……これは推測だ。理由を問うても君は答えないんだろう」
 ふらりとその足場に不安を覚えながら行人はそう言った。まだまだ、苛烈なる攻撃は――怒りのように降りかかる。
「死ぬときはアイツの腕の中って決めてんだよ……!」
 海賊帽を深く被り直した。心から脳まで伝わるように可笑しそうに微笑んだ声が反芻する。

 ――まあ、無事に帰ってこられるわよ。

 自己満足の祈りだって、君の声ならば何倍にだってなるさ。踏み締める。体が、前へ前へと進み行く。
 その様子に無量は迷うことは出来ないのだと紫鬼を見た。最早人として救うことは叶わない。相手は魔種(けだもの)であると認識しなくてはならない。けれど、猛る思いを晴らす一助となれば。
 理解することが出来ずとも嚥下することも儘ならぬその痛みを、受け止めてやることは出来るはずだから。
 出来る限りの命を救いたかった。それでも、急場を凌ぎきることは出来無かった。ヴァレーリヤは悔しげに唇を噛む。

 ――苛烈なる攻撃の涯へと辿り着く。
「最後に願いくらいは聞いておきましょう。私に叶えられる事であれば、だけれど」
 ヴァレーリヤがそう告げた言葉に紫鬼は首を振った。武人として自身の不始末は自身で片を付けるとでも、そう言うかのように男は傷だらけのその身をどかりと木へと横たえる。
「藤は」
「……はい?」
「藤は、綺麗であったか」
 そう告げた後、男はピタリと動きを止めた。まるで、眠るように眼をぴたりと閉じて。
「何はともあれ、これで村の人も改めて戒めるでしょ。人のまま人らしく戦いましょうね」
 もう、その声は届くことはない――ラグラは重之君と本来の名を呼んだ。甘くもなく辛くもなく、淡々としたその声音に感情の色はない。目的の『槍の名手』はこれほどまでに鮮やかな藤の色の眸をしていただろうか。
 唇が静かに、静かに音を孕んだ。

 ――本当に鬼になってちゃ、元も子もないんですから。


「……また、人殺しちゃった」
 ウィズィは小さく、そう無量に呟いた。どんな顔をすれば良いのか分からない。ぽつ、と呟いたときのその表情はのっぺりとしたのっぺらぼうのようにどのような色も乗っては居なかった。
 経を唱えていた無量はウィズィの呟きに「そうですね……」と小さく返す。その眸は平静を装いながらも僅かに揺らぐ。閑かな湖面が揺らぐような気配を感じながら無量は何も云う事はできなかった。上辺だけの取り繕う言葉は屹度彼女にとって何の意味も存在しない。
 無量はただ『貴女は一人ではない』と告げるように傍らに立ち続けるだけ、ただ、それだけだった。
 救えやしない。それが魔種という存在だった。強ければ救えたのだろうかとベネディクトはやるせなさを掲げる。藤の美しさがひた隠した忌むべき真実がのっぺりとした影を落とす。その中で、英雄のその名を冠する槍を握りしめた槍士は『重之』を見下ろした。
(強ければ――救えたのだろうか)
 迷う。惑い。其れを胸に、足を止めるわけには行かないと山より『羅刹獄』を見下ろした。
 まだ、命が生まれた意味を、自我が芽生えた意味を、その答えを探せていないのに――
「何が有ったんだろうな。これだけの槍術なんだ。きっと、七扇でも引く手数多だろ」
 リズリーが眉を顰める。彼女のその言葉に、居心地が悪そうに頷いた晴明は「ああ」と小さく言った。
「……ラグラ、貴殿の知り合いであったのか?」
「まあね」
 ちら、と視線が向けられる。晴明はそうかとだけ零した。ウィリアムは彼が怒りを忘れ『ただの重之』として眠れるようにと願わずには居られない。
「………良い戦いだったわ。ただ……力と目的を生む、あのひりつく様な怒気。
 一剣士として楽しくはあったけれど、武道を往く者としては少し勿体なくはあるかも。
 魔種に堕ちなければ、怒りで振るう歪な槍術なんてなく……もっと先もあったでしょうに。何が彼をこうまでさせたのやら」
 佐那は刃交えた戦士として、弔いを送ろうと目を伏せる。『何が有ったのか』。それを気にせぬ者はここには居ないだろう。その魂の行く先に主の慈悲有らんことをとさいわいを願ったヴァレーリヤでさえ、彼の胸中に沸き立った憤怒への疑問を拭えない。
「中務卿、どうする?」
 問いかける行人に晴明は首を振った。自身が全てを調べるのは立場が邪魔でならない。幸いにして羅刹獄に関して詳しい者が一人居る。重之君と親しげに『紫鬼』を呼んだ桃色の乙女――ラグラ。
「この藤が全てを隠してしまっていたのだろうか」
「さあ、どうでしょうね。人ってのは見たくねーもんは見ないでしょ。セーメーだってそうだ」
 重之君もそうだ、とラグラはそう言った。見たくない者を隠す藤の獄。『獄人』を閉じ込める花の牢獄。その中に――屹度、知らぬ儘のことが存在している。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

伏見 行人(p3p000858)[重傷]
北辰の道標
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)[重傷]
私の航海誌

あとがき

リクエスト有難うございました。
さて……藤の花咲くこの村で、またお会いすることがございましたならば。

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