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シナリオ詳細

再現性東京2010:ほんとうのともだち

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 朝、太陽の光が差し込んで目が覚める。
 寝ぼけ眼を擦って着替えを済ませていると、階下から自分を呼ぶ声が聞こえた。
 下へ降り挨拶を済ませ、なんてないことを話しながら温かな朝ご飯を食べ終わり、食器を片付ける。
 それから時間が来るまでのんびりした後、荷物を持って学校へと歩き出した。
 夏休みだからか人は少ないけれど、制服姿はまばらに同じ方向へと向かっている。
 部活か、それとも補習、生徒会活動……僕のように、植物や動物の世話に来ている人だっているかもしれない。
 先生方も何人か見かけた。
 休みの間でも先生たちは働いている、本当にお疲れ様です。

 夏休みが始まってから、僕は毎日のように学校へと足を運んでいた。
 理由は至極単純なもので、クラスで育てている植物や動物の世話のためだ。
 7月に入ったくらいで植えたヘチマやニンジンは既に芽を出し、ヘチマなんか張った網にくるくると蔦を絡ませ窓の外でぐんぐんと伸びていっている。
 ニンジンも日を追うごとに成長していて、収穫時期がとても楽しみだ。
 自分たちで建てた小屋の中ではウサギが4羽遊んでいた。
 敷いていた藁を一旦外に出し新しいものを入れる、その時ウサギには空だったもう一つの小屋に入れておく。
 掃除を終え柔らかな藁の中で草を食むウサギを見ていると思わず心が和んだ。
 初めの方は義務感と止むを得ない出来事から引き受けた世話だったけれど、今では楽しんですらいる自分に小さく笑う。
 夏休み前に投げかけられた言葉が不意に蘇る。
 ――友達だから代わってくれるよな、と。
 今考えれば、夏休みの世話をすべて代わるだなんてどうかしていた。
 けれど相手は爽やかなスポーツ万能の人気者で。
 かたや僕はお弁当も一人で食べているほどの引っ込み思案で。
 断りにくいし変に目立ちたくはないしで了承したら、他のクラスメイトも次々に僕を訪れた。
 ……わかっている、利用されているだけなんだ。
 彼――彼らは要領がよくて、僕は要領が悪いだけなのだ。
 それでも苛められていた昔からは本当にマシになったのだと思う。
 信じていた友達に裏切られて、クラス中の笑いものになっていたあの時よりは。
 でもきっと、今日からは違う。
 ほんのちょっと違って、たぶん、僕の人生の中でとても大きな変化が訪れるはずだ。

 学校から帰り、夕ご飯を食べてからこっそり家を抜け出て、足早に目的地へと向かった。
 太陽はすっかり沈んでいるが、熱の染みこんだアスファルトは熱気を放ち蒸し暑い夏の夜になっている。
 虫避けの香りを纏いながら公園に着くと、aPhoneを起動させて時刻を確認した。
 ――22時ちょっと前。
 何度か操作し一つの電話番号を表示して息を吐く。
 これはいつの間にか流れ始めた噂――『本当の友達が出来る』電話番号。
 絶対に裏切らなくて、優しい言葉をくれて、悲しい時は寄り添ってくれて――ずっと側にいてくれる。
 
 友達のいない人に送られてくるだの、でっち上げの電話番号がSNSで飛び交ったりしていたけれど、本物だと思える番号を、掃除当番だった時に机の裏から見つけてしまった。
 本当に信じている訳じゃない、けれど試してみたい気持ちが消えない。
 そんな葛藤を抱えながら夏休みを過ごして、ついに今日決行する。
 少しの期待と何も起こらないという諦め、そして小さな不安と緊張で画面を押し震える手を耳に当てた。
 ――しばらくの静寂の後に電子音が届く。
 緊張で詰まった息を吐いていると、ぷつっとそれが途切れた。
『もしもし?』
 小さな男の子の声がした、もしかしたら僕と同じくらいの。
「も、もしもし!」
『あはは、緊張しなくて大丈夫。ボクは鳴無(おとなし)、君は?』
「僕は、秋良(あきら)。その……」
『わかってるよ秋良くん。大丈夫、ボクは嘘をつかない。それを証明するために今からそこに行くよ』
 優しげな響きが耳の中で木霊する。
「うん……うん! あ、えっと、今いる場所はね、」
「もう着いたよ」
 その声に振り返ると、一人の男の子がこちらを見ていた。
 半袖のシャツに膝までのズボン、短めの髪型で優しげな顔に笑みを浮かべていて。
「秋良くん、もう大丈夫。人間の世界は疲れたでしょう」
 小さな手がこちらに差し出される。
 ――友達になろう?


 うだるような夏の夜に、aPhoneの光が瞬いた。
 画面に届いた1通は夜妖<ヨル>の出現を知らせるもの。
『緊急指令。希望ヶ浜の公園に夜妖<ヨル>が出現、対応を求む』
 指を滑らせ画面をなぞっていくと、詳細な情報とその場所までの地図が添付されている。
『少年が一人行方不明になっている。まだ助けられる可能性は高い』
 確認後にカフェ・ローレットから、家から、はたまた学校から、イレギュラーズは蒸し暑い再現性東京の夜に飛び出していった。

GMコメント

●達成条件
 夜妖<ヨル>の討伐
 少年の救出

●エネミー情報
・夜妖<ヨル> 鳴無くん
 電話をすると現れる少年の幽霊。
 幽霊の世界で『ほんとうのともだち』になるために、電話をかけた人に襲い掛かってきます。
 暗闇が付与される『まっくらやみ』、呪い状態になる『のろってあげる』に加え、呪殺効果のある『もうやすんでいいよ』といった言霊を主に使います。

・火の玉 5体
 鳴無くんが発生させた火の玉です。炎を伴う範囲攻撃を行ってきます。

●秋良(あきら)くん
 小学4年生。
 小さい頃に嫌なことがあって人を信じにくくなっている素直な少年です。
 鳴無くんを倒せば戻ってきます。

 秋良くんを見かけたことがある、電話番号の噂を聞いたことがある、番号が送られてきたことがあるなどは可能です。

●フィールド
 夜の公園。大きめの広場のほか、一般的な遊具があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされている裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●ご挨拶
 こんにちは。白葉うづきです。まだまだホラーの季節ですね。
 今回もちょっと怖い、夏の夜のお話です。
 皆さまのご参加をお待ちしております。

  • 再現性東京2010:ほんとうのともだち完了
  • GM名白葉うづき
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月25日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
小烏 ひばり(p3p008786)
笑顔の配達人

リプレイ

●calling
 身体にまとわりつくような湿気が重く肺に溜まっていく。今夜は特に蒸し暑いでしょうという予報に違わず風もなく息苦しい、夏休みの真っ只中。
「狡猾な妖異は、精神的に未熟な者を良く狙う。なるほど、よく『再現』されているな……」
「夏休みなのに毎日毎日学校に行ってる子がいるとは思ったけれど、こういう理由があったんだね。こんな暑くて過ごし難い夜なのに、トモダチ作りとは感心するよ」
「秋良くん……無事だと、いいんです、が」
 柔らかな猫の耳と尾を持つ『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は涼しげな瞳を曇らせ、夜空に瞬く星のような金を細めた『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は汰磨羈と対の色を持つ黒の尾をしならせる。『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)も心配そうに水の色を湛えた瞳で公園を見渡した。
「ほんとうのともだち、ねぇ。サンディ様も子ども扱いされっぱなしだし、難しーもんだよな。ま、何にせよ、バケモンは取っ払わなきゃはじまんねーけどさ!」
「わっちも、そんな方に出会いたいという想いは抱いたことがありますよ。だからか、件の番号が手紙と言う形で送られてきました」
 『レディの味方』サンディ・カルタ(p3p000438)も呟きながら頬を掻き青く光る瞳にやる気を滲ませ、滑り台に明るい懐中電灯を括りつけながら『想い出渡り鳥』小烏 ひばり(p3p008786)は振り返って愛嬌のある顔で少し笑う。届ける側である自分に来たことで印象に残っていたかもしれない、何にしても想いがこもっていない手紙は少し残念ではあるけれど。
(最初に説得が必要そうだと思ったけど大丈夫そうか。まあ、必要でもボクがする気はないけど)
 透きとおった肌に誰もが称賛するであろう整った顔立ちを備えた『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は溜息を吐く。人間が信用できないのも、世の中がクソなのも事実だというのに、一体何を説得しろというのだろうか。しかも今どきのガキがはいそうですかと素直にかしこまるとも思えない。
「――さて。両方ともいないということは一番面倒な事態だ」
 緊急指令と言われたが公園には気配がない、ゆえにこちらから働きかける必要がある。
「誰か……ああ、うん。お願い」
 腕を軽く組みながら見回したセレマの瞳が、携帯端末の画面をよどみなくタップしている『天駆ける神算鬼謀』天之空・ミーナ(p3p005003)を捉えて頷いた。
「もしや、ミーナさんもわっちと同じく?」
「ああ、いや……調べたらかけるべき番号はすぐにわかったよ」
 ひばりの問いに小さく首を振り、文明が発達するのも良し悪しだよなぁ……と苦さの混じった顔を向けた後、ミーナはaPhoneを耳に当てた。
 とぅるるるる、とぅるるるる。
 耳の奥で電子音が鳴る。しばらくして呼び出し音が止まり、幼い男の子の声が聞こえてきた。
『もしもし? やあ、キミは』
「今からここへ来い」
 返ってくるのは無言、ミーナは構わず続ける。
「秋良を連れてくるのを忘れるな、必ず取り返す」

 ―――ふふっ。

 小さく笑う気配がした後、ぷつりとそれは途切れた。
 暗闇が深くなる。
 夜妖<ヨル>がやってくる――

●みんないっしょに
「こんにちは。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 公園の灯りが届かない闇の中から、少年は突然現れた。そのよく透る声は真夏の熱帯夜だというのに薄ら冷たい何かが背筋を這い上ってくるような、まとわりつくような寒気を感じさせた。
「ごきげんよう、鳴無君。一緒に遊ぼうじゃないか」
「本当? みんな『ともだち』になってくれるんだね。こっちへ来て……握手しよう?」
 彼はセレマの言葉に屈託のない笑顔を浮かべ手を差し出した――が、臨戦態勢で動く様子のないイレギュラーズに頬を膨らませる。
「もう、君たちは、仲良くしてくれないの? 秋良くんは手を握ってくれたのに」
「おい! 鳴無の後ろ……横? 誰かいる!」
「!」
 サンディが指差した闇に、同じく微かに漏れる声なき叫びを聞いた『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)が素早く気配を探る。
 どろどろと蠢く暗闇の中から確かに伝わってくる。生きている、助けを呼んでいる。
「彼はもうすぐボクらのともだちになるんだ」
 笑いかけた少年の身体が暗闇にゆっくりと宙に浮かぶ。公園の灯りが明滅すると、周りに溶けた暗闇までもが迫ってくる。ぼ、ぼ、周りに赤い炎が灯る。
「きみたちもいっしょになろう?」

 最初に飛び出したラヴは暗闇に駆け、次に動き出したセレマは浮かぶ少年と暗闇に灯る炎を見つめる。
「キミもなかなか話が通じなさそうだ。まあ――話し合う気はないけれど、ね?」
 目を柔らかく細め、とろけそうなほど甘い笑みを浮かべたセレマに鳴無が言霊を向けた――けれど呪を受けてもセレマは平然と笑っている。この身がキミに傷つけられることなんてないんだよ、と言わんばかりの美しい微笑み。
「きれいだなぁ、早くともだちになりたいな」
「そっちにばかり見惚れていていいのか?」
 希望の剣と呼ばれる青の刀身を閃かせ、ミーナが魔術を放つ。夜妖に突き刺さり鳴無の身体が揺れる。
「おもしろいねぇおにいちゃん、おねえちゃん! 楽しい!」
「サポートは、わたし、が……!」
 フェリシアは杖を掲げると生命力と引き換えに仲間たちを強化し、攻撃しやすい位置に接近したひばりは槍を構えて防御態勢を整える。
「ありがとうございますフェリシアさん、これで戦えます! 火の玉はわっちたちが請け負いますよ!」
「援護は助かるな」
 能力強化に加えセレマの引き付けで単調になった火の玉の動き、汰磨羈は双刀を輝かせ霧を発生させる。見極めた場所へ気弾を打ち込んだ瞬間空気が破裂、生まれた衝撃波が次々に火の玉を襲っていった。
「俺のことを忘れてもらっちゃ困るぜ」
 叫んだサンディの周りに風がそよいだ。呼び出した風はやがて渦を巻きその速度を増して突き進んでいく、火の玉全部を巻き込んで!
「一気に倒してくぞ!」

 暗闇に辿り着いたラヴは境界線と思しき場所で立ち止まった。
(こんな怪異に縋るほど辛い想いをゆっくりと溜め込んできたのね)
 悲しみ、諦め、猜疑――それはきっと想像だけでは掴みきれない想い。目尻から雫が零れるのも構わずラヴは微笑んだ。
「知らない人の甘い言葉に釣られてはいけませんって、習ったでしょう? 起きて、手を伸ばして秋良さん」
 何も起こらずとも諦めずに声をかける、大丈夫、声は消えていない。
 どろ。
 闇に小さな指先が現れた。躊躇わずに手を突っ込むと力の限り引き、暗闇の底から引っ張り上げる。すぐに脈を調べると静かな音が聞こえた。顔色は悪いが命に別状はなさそうだ。
「怪我は?」
「なさそうだけど、意識がはっきりしてないみたい。……大丈夫、私が側にいて守ってあげる」
 庇うように2人を背にしたバスティスにラヴが応える。秋良の身体を木に寄りかからせ立ち上がると、ラヴは夜妖たちへ向き直る。
「そうか、何よりだ。――ああ、鳴無くんと言ったかな? この子を連れて行くのは止めてもらうよ」
「だぁめ、みんなともだちになるんだから」
 バスティスの言葉にくすくすと笑う夜妖、それに呼応するよう火の玉は燃えさかる。いくつかはセレマに向かっていたが2体の炎が膨れ上がり、ひばりとフェリシアを焼いた。
「あっつい!」
「ぅあ……っ!」
 燃えさかる炎の閃光、ひばりは持ち前の頑強さで踏ん張ったがフェリシアの周囲に炎が燻る。
「先に火の玉をどうにかしたいね」
 うっとうしそうに炎を払い、2人を襲った2体にセレマは玉虫色の絵の具を放つ。魔性の色彩は蠢くように炎に絡みつきその存在を揺らがせた。
「まだだよ」
 狙いを定め夜妖はフェリシアに言霊を送る、しかし咄嗟に身を翻したフェリシアにその言葉は届かない。詰まらなそうに顔を歪めた鳴無は続けてひばりに言霊を放った。聞こえてきた呪詛のような言葉に力が抜けるような感覚が襲う。
「フェリシア、ひばり、無事か!」
「わたしはだいじょうぶ、です……!」
「わっちも……! けどフェリシアさんのが痛そうです!」
 バスティスが手をかざすとフェリシアの傷が見る見るうちに癒える。安堵の息を吐いたバスティスは鳴無を見据えた。
「どうして邪魔するのかわからない、といった顔だね? 簡単な事だよ。夜妖にはトモダチが理解できないからだ」
 そうだよね? と問いかける彼女の言葉に、夜妖は不満そうに口を尖らせた。

●手を引く呼び声
 火の玉の炎が周囲を焼き払う。間一髪で炎を避けた汰磨羈が獣の如き刃をもって火の玉を引き裂き、返す刀でもう一度刀を振るえば灯っていた炎は露のように消えた。
「一体目は終いだ、あと五体」
「まだまだ! 俺の攻撃はキッツいぜぇ!」
 サンディが呼び寄せた嵐が炎を薙いでいく。暴風は相手を削るだけではない、動きを鈍らせじわじわと体力を削りほんのちょっぴりアンラッキーに――とその身にさまざまな災いを残す。風前の灯火のような火に狙いを定めたひばりは槍を持って勢いよく飛び込み、横に薙ぎ払って蝋燭の灯りを吹き消すようにひゅっと火を消し去った。
「二体目も討伐です!」
「気を付けて、ください……また来ます、よ……っ!」
 吹きつける炎に両腕を翳して耐え、フェリシアは息を吸い込んだ。消えかけの赤を水色に映し、心の中で空白の時間を夢見て旋律を奏でる、セイレーンの歌声が響く。響いた跡には何も残らない。溺れるように炎は掻き消えた。その一方で一体の炎がゆらゆら、ラヴと気絶している秋良に近づく。吐き出される炎がラヴを焦がさんばかりに肌の上を撫ぜた。
「ラヴ、秋良!」
「大丈夫……秋良さんも無事。私がいる限り、傷つけさせはしないから」
 バスティスが火の玉と二人の間に立ちふさがる。ラヴは目を閉じている秋良を振り返ると、安心させるかのごとく微笑んだ。この力は、こうして人を守るために在る。
「そろそろ仕上げだ、行くぜっ!」
 サンディがまた嵐を呼ぶ。激しい風が吹き荒れると動きの鈍った炎たちが巻き込まれ、小さくなった火は汰磨羈とひばりが刈り取っていった。

「ずっと側にいてくれるのが『ともだち』だよ。だからいっしょになれば寂しくない。どんな言葉でもその裏側を疑わなきゃ自分が傷付くかもしれない。ちっぽけな自分を見つけ出してくれる人なんていないよ。でも、ボクなら手を差し出してあげられる。寂しいのは嫌でしょ?」
 鳴無の言霊に身体が重くなる、視界が暗くなる。歯を食いしばって猛攻を耐えると、ミーナは剣を構え不敵に笑ってみせた。
「雄弁な幽霊だ。お前の主張に興味はないが……人の弱みに付け込んだ悪霊を許すことはできないな」
 剣に空間が震えるほどの膨大な力が集まる。夜妖に向かって開放したその巨大な力はそのまま炎――地獄の業火となり、常人であれば骨すら残らないような熱が夜妖の身体を襲う。
「幽霊には……やっぱ火葬だよなぁ?」
「ッ!!」
「やれやれ……どうやらキミは相当面倒な“クソガキ”みたいだね」
 セレマの冷えた視線に、夜妖は声にならない呻き声を上げながらぶんぶんと頭を振る。火の玉をせん滅した仲間たちが集まってきた頃には存在がおぼろげになったかのように薄く揺らいでいた。
「やり方を間違えたな。貴様の所業は、秋良を利用した奴等と大差ないぞ?」
 汰磨羈が死角であろう背後から流れるような連撃を繰り出す。フェリシアの歌が鎮魂歌のように夜の公園に響く。
「どうして! ボクはただ、さびしくてさびしくて、だから、だから……っ!」
「悪いな、私は死神なもんでよ」
 見えざる鎌が回転しながら飛び夜妖の胸に突き刺さる。
「お前みたいなさまよう魂を狩るのが仕事なんだ」
 泣きじゃくった鳴無はぼやっとした靄に変わり、やがて消えた。

●ともだち
 夜妖が消滅した跡――正確には何も残ってはいないが、暗がりの宙を見つめてセレマは思考に耽る。この怪異は以前であった魔性の類と似たものなのだろうか。数多の人間から特定の手順を踏んだ者の前だけに現れ、最終的には接触した相手を殺害ないし誘拐する。――異界を覗きこみ、自分たちの存在を認めてくれた者を引き込むように。
「う、……」
「目が覚めたのね」
「お怪我はありません、か……?」
「心配しなくていい。お前を救いにきた者だ」
 覗き込んでいたラヴとフェリシアはほっと胸を撫で下ろし、目覚めた秋良には汰磨羈が声をかける。自分の身に何が起こっていたかはわからないようだが、もう心配はいらないというバスティスの説明に安心したようだ。そして自分の言葉で覚えていることをなぞっていく。
「秋良君」
 それが一通り終わった後、秋良の目の前にしゃがむとセレマは金色の瞳で見つめる。
「キミは、『友達』と『都合のいい相手』をはき違えているんじゃあないか。少なくともお前は後者を望んでいるようだぜ。ボクも後者のが欲しいからわかってしまうのさ」
 居てほしい時に側に居てくれる、欲しい言葉を欲しい時にくれる、決して裏切らない――全部自分にとって都合の良いことだらけだ。それだけの相手は本当に友達と呼べるのか?
 言いたいことだけ言って去ったセレマの背中を秋良は考えるように見つめていた。その秋良の肩をぽんと力強い掌が叩く。
「よう、少年! 今回はまー残念だったな」
 顔を覗きこみながら目の前で膝を折り、サンディはぴっと一本指を立てた。
「サンディ様からひとつアドバイスだ。真のトモダチってのがほしいなら、『声かけてきたヤツ』しか見ないようじゃダメだぜ。自分から動くんだ」
「自分から……、うん」
「それができたらトモダチだってすぐできる。諦めんなよ」
 最後にぱぁんと背中を叩いて笑うサンディに、秋良も釣られるように表情が柔らかくなった。
「嫌な事があったら逃げたい、信じたくないってのは私も痛いほどわかる」
 腕を組んで難しい表情をしたミーナも自分の黒歴史――過去を絡めながら秋良へと言葉を贈る。彼女もまた力強い掌で秋良の肩に触れ、真っ直ぐに彼を見つめた。
「だけどな、逃げてばっかじゃ駄目なんだ。お前は男だろ? 立ち上がれ! 立ち向かえ!」
「は、はい!」
「よし!」
「類は友を呼ぶという。お前が望むモノを、お前自身が体現してみせろ。そうすれば、望む友を得られるだろうさ」
 神妙な面持ちの秋良に、汰磨羈は一枚のメモを渡す。そこに書かれていたのは彼女の持つaPhoneのアドレス。
「信じる信じないはお前次第……では無責任だな。困った事があったら、ここに掛けろ。相談に乗るぞ」
「お節介とは思うかもしれないが、皆、君を心配している。おっと、私は『近所の猫好きお姉さん』だよ」
「猫好き……」
 バスティスの言葉に、耳と尻尾を交互に見て納得したような顔の秋良。恐らく汰磨羈のこともそう認識した。
「うむ、素直だ。ただその素直さが曲者なのかもしれないな。上手く生きられない君だから、周りの大人にだって素直に頼らないといけないよ」
 いくつもの小さなハコの中で子どもたち全員が上手くは生きられないだろう。この地域の真実や世界から目を背けていた事よりも大切なことがある。
「まずは上手く助けてを言う練習からだ。友達作りはそのあとで、だよ」
 君を大事に思ってる大人は君に失望したりしないから。その言葉にはっと息を呑んだ秋良は、泣きそうになってから渡されたメモを大切そうに両手で握った。
「秋良さん……」
 おずおずとフェリシアが声をかけた。彼女が話すのは、彼女自身の経験から来る話。
「わたし……昔のことを覚えていなくて、そういう人が何を言うんだって思うかも、ですが。嫌なことと良いことって、大体セットになってると、思うのです」
 今日みたいな体験も、色々あった嫌なこともきっと、良いことになって返ってくる。
「その、良いことは絶対に来るはず、なので。元気だして、ということ……です」
 ふわりと微笑むフェリシア。横でひばりがあっと声を上げる。
「わ、もうこんな時間。そろそろ帰宅しないとですね。ご家族もきっと心配してます」
 優しげに笑いかけ、ひばりもまた秋良に想いを贈る。
「わっちもお友達作るのが得意ではありませんし良いアドバイスが言えません。ただ、頼まれごとだとしても投げずに続ける意思はすごいですよ!」
「……うん」
 元気づけるようなひばりの言葉に、秋良も嬉しそうに頷く。すると側に居たラヴがぽろりと雫を落としたのを見て心配そうに見上げた。
「お姉さん、大丈夫? どこか痛い?」
「いいえ。あなたが無事で、笑顔も浮かべられるようになって安心したの。これからも大丈夫よ。あなたを見ている人は必ずいるわ。……私達、とかね」
「え、と……あ! その、助けてくれてありがとう、ございました。えと、あの、あなたたちは……」
 頬を赤らめた秋良は、気付いたように全員の方を向き礼を告げる。何か聞きたそうな彼の瞳に、ラヴはイタズラっぽくウインクしてみせた。
「私達は、……そうね。お節介の集まりよ」

 ――数日後、汰磨羈のaPhoneに一通のメールと一枚の写真が届く。そこには元気そうな秋良の姿と、同い年くらいの少年がピースをして写っていた。
『今度、友達を紹介するね。ありがとう。僕、ぜったい忘れないよ』

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)[重傷]
うつろう恵み
ラヴ イズ ……(p3p007812)[重傷]
おやすみなさい
小烏 ひばり(p3p008786)[重傷]
笑顔の配達人

あとがき

秋良は夏休みを楽しく過ごしているみたいです。
大人っぽくなったね、と周囲から言われています。

後のことまでケアいただいた方へMVPを。
ご参加いただきありがとうございました!

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