シナリオ詳細
<巫蠱の劫>不定形の一ツ目
オープニング
●呪術の萌芽
野馬、というあやかしがいる。
一つ目であるという以外一切の正体を知られぬたぐいの者だが……少なくとも、その男が捕らえたのは一つ目のカワウソであった。
「ギィィィィィィィ……!!」
野馬が恨めしげに苦鳴をあげる。その前足は一本切り取られ、胴や他の四肢は拘束されていた。
「貴様の血肉は我が呪いの糧となる。……奴を殺さねばいずれこちらが殺される。そうでなくても立場を追われる」
野馬を切り刻んだ八百万の男は狂気に塗れた目で切り取った前足を掴むと、血を絞り出して呪術の準備に入る。
野馬は目の前で、自らの前足が己の似姿に変わっていくのを怒りと悔いに満ちた目で見ていた。
……暫くして、野馬の姿をとった半透明の呪い、『忌』はその場から何処かへと去り。野馬は、八百万によって野に放たれた。やがて野馬は――。
●不定形となりし一つ目
「……まさか、祭りの際の一件以来、ここまで事態が悪化していたとは予想外でした」
『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)は手にした資料を見て、あまりの状況に顔を顰めた。
『肉腫(ガイアキャンサー)』と呼ばれる存在が祭りと時を同じくして現れ、カムイグラの地を荒らしている。『滅びのアーク』より生まれ落ちたそれが活動を活発化させたのと時を同じくして、高天京では異常事態が進行していた……呪詛による祟りが頻発していたのだ。
「聞いた話だと、宮内庁でさえ呪詛が流行しているといいます。皆、何かに取り憑かれたような、追い立てられるような様子で呪詛をかけあっていると。それを恥ずかしげも無く公言する者が出ている現状は、明らかに異常です」
そして、呪詛に用いられるのは低位の怪異であるという。そして、呪詛の儀式によって切り刻まれた連中が以前より凶悪、凶暴になって人々を襲っているのだという。
呪いが満ちるほどに無辜の民が傷つき、凶悪な妖が増えるのだ。場当たり的な対処には限界があるかもしれないが、今は少しでも被害を減らしたい。
「今回皆さんに対処して頂くのも、切り刻まれた『呪獣』と呼ばれる妖です。名は野馬。本来は一つ目のカワウソの妖でしたが、野に放たれて凶暴化し、不定形の煙をまとった獣になっています。体躯も小型獣から羆を超えるサイズになり、それが実態であるかも定かではありません。さらに、その不定形の煙を分身にして人々を包囲して食らっている……と」
できるだけ早急な対処をお願いします。そう言うと三弦は資料を投影し、目的地の情報を示した。
- <巫蠱の劫>不定形の一ツ目完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月26日 23時00分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「可哀想にねぇ。何てことなく生きてただけでってのに、そんな玩具にされちゃうなんて」
「なぁ、公家はんらの呪いが原因の事件、何度目や?」
「さあねぇ。アタシは初めて聞いたけど」
『baby blue』レイニー・サーズデイ(p3p008784)は己の獄人としての身の上を野馬に照らし合わせ、苦い顔を見せた。他方、『神使』陰陽 秘巫(p3p008761)は近頃頻発する呪いの件、その多さに辟易としているのは確かなようで。レイニーが意味ありげに仲間達に向けた視線はしかし、秘巫による発光により逸らすに至る。
「呪詛なんて、一体どういう意図で誰が始めたのだか……」
「大抵は秘事であるはずだが。それが、こうも横行するとは」
『四季遊み』ユン(p3p008676)妖の不幸を嘆きつつも、無辜の人々が傷つくことが許せず、気付けばこの場に身を投じていた。光を発しつつ周囲を軽快する『餌付け師』恋屍・愛無(p3p007296)の言葉通り、呪いの本質は秘めて溜め込み知られぬうちに解放することが肝要となる。それを公言する者まで現れるとは、尋常な状況ではないのは確かだ。
「あれこれ気になることはあるが……終わってからじゃ」
「そうね、人喰いだっていうなら私達があっちを『喰らう』番よ!」
『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)の懸念混じりの声に、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は全く気にした風もなく軽快に返す。呪いや妖の凶悪化は気になるが、今の彼女はその背後事情より、現れる敵を淡々と倒すことを目当てにしているように見えた。
「この負のループはどういうことでしょうね。まるで誰もが誰もを信じられずに呪いに手を染めて……」
「此処までが、俺達の敵のシナリオだったのかも知れん」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)の言葉にそう返した『Black wolf = Acting Baron』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は苦虫を噛み潰したような表情で応じた。彼に落ち度は何一つない。無論、この場に居並ぶ誰にだって、無い。
だが、実力を付けてきた彼なればこそ、『どうにか出来たのでは』という――一種傲慢ともいえるが――後悔と懸念がわき上がるのである。
「ここで『キャー! こわーい♪』なんて言って肩を貸してくれるイイ男でもいれば、そりゃもうアタシはウッキウキになれるんですけど……なれるんですけどぉ~?」
「ウッキウキでなくとも全力で戦ってくれるだろう? 期待しているぞ」
レイニーの熱視線を受けたベネディクトは、鼻で笑ってこともなげに受け流してみせた。この場に男は彼とレイニーだけである。必然、狙った相手も絞られるわけで。すげなく断られても一切表情を変えないレイニーもレイニーである。
「獣の匂い、血の匂い……そして唸り声か。もう隠れるつもりもないのだろう? 出てきたらどうだ」
ユンは嫌悪混じりの表情で闇に語りかけた。
暗視能力を道具、ないし身体能力で補っている者達にとって、それは闇の中でしかない。
光を手にした者、その恩恵にあやかる者達が見れば、なるほど、影かと見紛うほどの漆黒だ。
どちらの恩恵も受けている者が見れば――『不自然な闇だ』と理解できよう。
「ィィィィィイイイィィイッ!!」
大気が、獣の咆吼に揺れた。
爪と思しき一撃で地面が抉れ、着地に合わせ草木が潰され、それが動いたことで一同は既に、野馬の術中にあったことを悟る。四方を囲うように配された煙獣達は、本体よりもなお希薄な存在感で佇んでいる。そこにいるという事実を忘れてしまうほどに。
「あれがヒトの都合で生まれた歪ならば、ヒトの手で終わらせてやるのが、せめてもの道理でしょうや?」
「妾(わたし)にはこぉんなに雅なことは理解できんわぁ、公家はんらの悪趣味もここまで来ると芸術やねぇ」
レイニーと秘巫は声音に確かな意志を乗せ、各々の得物を構える。
「人を殺した時点で、野馬に道理は通りません。可哀想ですが、ここで死んで頂きましょう」
「効きにくいんだかなんだか知らないけど、倒れるまで叩き込んでやるまでよ!」
幻が残念そうに首を振ると、イナリは堂々たる所作で野馬に指を突きつけた。強い意志の下、イレギュラーズ達は不定形の獣を討つべく挑む。
●
「囲んで来はったんはお利口やねぇ。妾(わたし)には好都合やわ」
秘巫は野馬と煙獣達に笑みを向けると、己を狙うように誘いかける。が、野馬は気にした様子もなく視線を逸らすと、イナリ目掛け煙を吐き出す。彼女の反応があと一歩遅れていれば、煙に巻かれていただろう。
が、その煙を打ち払うようにイナリの一撃が放たれれば、さしもの野馬も僅かに焦るか。
「正確に位置を把握出来ている者は指示を!余り時間は掛けては此方が不利だ──!」
「秘巫さんが雑魚を引きつけてるけど、野馬は樹の上を飛び回ってるわよ! あの図体で器用な……!」
ベネディクトは声を張り上げながらも無駄に動くことはせず、槍を構え周囲に視線を飛ばす。イナリは生み出した閃光を避けた影を追い、嗅覚を合わせ辛うじて野馬の姿を捕捉する。
「見えているんだ、逃がすつもりはないよ」
ユンは野馬が飛び移った樹に連撃を叩き込むが、帰ってきたのは枝が折れた感触のみ。だが、野馬の逃げ場を潰したという意味では、今の一撃も十分、有効だ。
「もうちょっと大人しくしてくれりゃあ、アタシも楽なんですけどねぇ」
「本当に忙しないね、落ち着きのないことだ……だからこそ見えて来るものもあるんだがね」
レイニーが苦い顔で樹上目掛け魔力を放つと、愛無は魔力の着弾点に陣取り、腕……を形成していた粘膜を鋏に変え、野馬を挟み込む。魔力が掠めたことでバランスを崩した野馬が、まんまと誘い込まれた格好だ。
「お前が黒煙に包まれるのならその黒煙ごと吹き飛ばすのがわかりやすかろう?」
「皆様に狙われることで動きが読まれ、避けることが困難になっていく。如何にその姿を煙に巻いても、限度があるというものです」
瑞鬼の一撃、続けざまに幻による奇術が連続して叩き込まれていく。
相当数の攻勢を浴びた。避け続けるには困難に過ぎるほどに。
強烈な力を受けた。手練れのイレギュラーズが束となってかかってきたのだからそれも当然だ。
「我が前に立ち塞がりし敵を喰らい潰せ、黒顎……!」
ベネディクトの一撃が、煙を打って野馬の本体を叩いた感触を返す。
打撃としては重く浸透したのだろう。野馬の叫びがひときわ大きく響き渡った。
……翻って。それはより多くの獣を生み出す結果となる。
「これ、増えるんは嫌やなぁ……妾(わたし)一人ではそろそろ、抱え切れんよ?」
秘巫はさらに増えた煙獣を前に、表情は笑みを浮かべたまま、苦々しい声を吐き出した。
少なくとも、秘巫が煙獣相手に倒れることはない。仮に魔力が目減りして、彼等の打撃が重く感じたとしても、『首が落ちようが倒れはしない』。
だが、敵を引きつけるのが秘巫一人というのは如何にその技量が卓越していたとて、『万に一つ』が『十万に十』ほどに蓄積する。
「ギギギギギギギィィィ!!」
煙に巻かれた前肢を振るい、野馬がイレギュラーズを打ち据える。勢い、幻覚の煙はユンを打ち据え、その魔力を削りとる。
秘巫の手を逃れた煙獣達は、そのままユンに群がり、次いでイナリへと殺到する。
両者ともに容易く倒される手合いではないが、それでも蓄積する傷は少なくない。
「叩かれっぱなしは趣味じゃないわ。そんなの、効かないのよ……!」
イナリは自らの魔力で煙獣達の攻撃をシャットアウトし、窮地を脱するべく動く。その判断の早さは特筆すべきものだが、同時に、その対策のみでは十分に己を守れないことも、彼女は気付いている筈だ。――その為の野馬の能力。
「相手の手駒は増え続ける、か。全く面倒な駆け引きをさせられる」
「織り込み済みのつもりだったが、存外厄介な性質だな……否、俺達の策に手抜かりがあったか……?」
愛無とベネディクトは互いの能力を駆使し、仲間にとりついた煙獣達を貫いていく。両者の連携と技術力で倒せぬほどの強靱さを持ち合わせていなかったことは、ひとつの救いであろうか。
だが、野馬に注力しすぎたあまり、一同の、特に戦闘経験に乏しい者にとって受ける不意打ちの衝撃はあまりに大きすぎる。
「これが人の憎しみを受けた末路ですか。余りに哀れ、余りに……もの悲しいもので御座います」
だが、この状況をして幻は迷わず野馬へと幻術を向け続ける。彼女の反射速度と手練手管であれば、彼女一人で対峙したとて十分な手傷を負わせよう。
「皆が身体張ってくれてるワケじゃない。此処でアタシも気概ってヤツを見せなきゃぁ、男? 女? が廃るってモンよ。とっとと野馬を倒しちゃいましょ」
レイニーも、野馬から視線を切らなかった。自分に煙獣が向けば。仲間が倒れ、継戦能力と爆発力が落ちれば。不安要素は一つならず。されど、彼……『彼女』か? 兎角己の役割を忘れぬその身が吐き出す神秘の打撃は、確実に野馬を追い詰め、仲間の一撃へと繋いでいく。
「煙が群がってくるだけで傷が増えていく、なんてぞっとしないね。倒しても倒しても増えるなんて厄介な――」
厄介、なのだが。ユンは群がるそれらを排除しながら、想像以上に被害が少ないことに思い至る。分かっている、秘巫が十分に引きつけているからこそのこの状況であることは。
「ふふ、さぁ、何べんでも来てええよ。妾(わたし)がぜぇんぶ、受け止めたげるけん……ね」
ぞっとするような低い声で誘いかけるその姿は、魔性という言葉が実に似合う。ここまでくれば楽しんですら居るのだろうが、それにしたって悪趣味がすぎる。
「まったく、ここまで敵が厄介なのも、味方が頼もしいのも有り難いのやらなんなのやら……だな。だが、これ以上お前の好き勝手にはさせんぞ、野馬!」
「本ッ当に厄介ね! そろそろ終わりにして……あ、げ……?」
ベネディクトの声に呼応するように気を吐いたイナリは、しかし次の瞬間にはふらりと身を傾ぎ、そのまま何かに躓いたように転がって動けなくなっていた。意識はあるが、体が付いてこない。魔力が減った間隙を煙獣が叩き、その肉体に着実に負荷を蓄積せしめたのだ。
その一挙に野馬は強い喜びを覚えた。これで勝利は目前に迫ったと、憎い相手を倒せるのだと。
「人を呪わば穴二つ。本来呪いとは大なり小なり己へと帰ってくるものだ……つまりは、僕の仲間を傷つけたことを喜ぶような性質(タマ)なら、その嘲笑は自らにも返るってことさ」
愛無はぐにぐにと不定形に変容すると、全盛期の実力でもって野馬を激しく打ち据え、傷つけ、崩しにかかる。
広げた鋏の圧力はいや増し、影を切って本体を握り込み、勢い、そのまま重々しく閉じられる。
悲鳴。絶叫。不定形の煙から両腕が削ぎ消え、そのまま戻らない……野馬は破れかぶれに暴れ回り、或いは一転、逃げに転じようとする。
逃げようとした先で、かつて己が想ったなにかの姿を見た。追い求めるように身を伸ばした野馬は、しかしなにも掴めぬまま、煙から転がり落ちるように吐き出される。
元の姿と比べれば相当に大きいのだろう。並の川獺の数倍はゆうにある。だが、煙の貫目に比べれば随分と小さく。
「最期が、せめて安らかな夢のなかであったのなら、僕はそれ以上は望みません」
幻は野馬の為にと墓を掘ると、そのなかに野馬の遺体を放り込み、再び土を盛り始めた。
彼女の言葉は、半ば以上が嘘だ。
それ以上は望まない? 然り、『この事件には』望まない。
安らかであれ、と願った? 然り、安らかならざる理由を見てまで、歪む理由はないだろう。
「或いはこの国の者であれば、呪詛については詳しいのだろうか?」
「詳しいと思うけどぉ、あんまり触れないほうが良いこともあるのよ。こいつが畜生だったのは認めるけど、こんな呪術に使われる謂れもないはずよね」
怪訝そうに土が盛られた墓をしげしげと眺めたベネディクトは、レイニーの言葉にそんなものなのか、と返した。
「だから此れは自己満足よ。この豊穣にも、畜生を供養する物好きが独りぐらいいたっていい」
「ああ。わしらとて物好きなんじゃろうな。呪術とやら、面倒じゃがわしの目の届く範囲でやっておるのが気に食わぬ。そしてなにより―――やり口が美しくない」
自嘲気味に墓を見つめたレイニーを見て、自身もそうだと瑞鬼は笑う。
その上で……この手合いは許せぬと、決意をあらたにするのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
やや偏りが強いように見受けられましたが……まあNORMALですしこんなものかと思います。
GMコメント
また厄介そうな案件が増えた……。
●達成条件
・野馬の撃破
●野馬
一つ目のカワウソの妖。現在は羆を超える大きさの不定形の煙に包まれた獣と化し、本体のサイズがどうなっているか定かではない。
煙が不定形であるため回避が高く、物理攻撃のダメージは半減される。
呪詛に用いられてから相当数の人間を食っており、その実力は確かなレベルに達している。
・煙幕(パッシブ。毎ターン『煙獣』3体~6体を生成)
・幻煙(神超単・窒息、Mアタック中)
・不定形の前肢(物中扇・スプラッシュ3、麻痺、攻勢BS回復)
●煙獣(初期5)
野馬の煙から生まれた小型の獣。
機動5、ちょこまかと動き回る(非戦『跳躍』相当)。
物近単・喪失、窒息の通常攻撃のみを使う。
●戦場
高天京近郊、夜の森。
光源はなく森のため月明かりも乏しく、野馬も配下も黒煙に包まれているため最低限の対策は必要(暗視などだと地形把握は可能だが、敵の姿を把握しづらい。把握不可能ではないが若干不利)。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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