シナリオ詳細
灰掘る魔性は這って寄り
オープニング
●飢える魔性と差し伸べる悪ノ手
灰坊主(あくぼうず)は飢えていた。
うだるような暑さの中、彼の住処となる囲炉裏は往々にして放置され無視され、顧みられることがない。
つまりは、囲炉裏の灰を弄って『こちら側』をのぞき込んだ者が彼にとっての主食というやつであり、灰など目もくれないこの季節というのは彼らにとっては鬼門なのである。
……が、この日は少々事情が違った。
灰坊主がその日目を覚ますと、あたり一帯が灰に包まれていた。どうやら、住処にしていた囲炉裏がある家ごと焼け落ちたようなのだ。
その原因は(家の者達はついぞ気付かなかったが)何処かから現れた鬼火のたぐいであったことは明らかで。しかし、灰坊主にとってそれは些事である。
「うぅ……うぅ……熱い、痛い……」
「助けて……」
家人達は寝込みを焼かれたのだろう。今際の際といった風情で焼け跡に転がっていた。それでも生きているとは、鬼人種というのはしぶとい。
彼らは焼け跡を這っていた。灰の中を、這っていた。
「助けてやろうぞ。苦しみを『とってやる』」
ずるずると灰は渦を巻き、抵抗できない家人達を引きずっていく。ややあって、家人達のうめきは消えた。
それから、燃え落ちた家のようすを見に来た者達も何人か、次いで灰の中に、消えた。
……そしてまた、別の家に火の手が上がった。
●火と灰の魔性
「ここ暫く、周囲の村々で家が焼け落ちる事案が増えている。そして、家人とその周囲の住民が遺体も残さず消えている……人が骨も残さず燃える規模ではないにも関わらず、だ」
鬼人種の男は、高天京に集まっていたイレギュラーズにそう話を切り出した。
カムイグラの夏は湿気が多い。そう頻繁に火事が起きるか、といわれれば、自然発生的には考えづらい。人為、事故、あるいは怪異。前後して起きている失踪を考えるに、最後である可能性が高いと彼は言ったのだ。
「家の燃え方は激しく、調査に向かった者も何名か行方を眩ましているが。火の手が上がった場所が一定しないことを考えても鬼火のたぐいが絡んでいる可能性は高い。そして、失踪には別の怪異が絡んでいるとみていいだろう」
灰坊主と呼ばれる怪異がいる、と男は続けた。なんでも、囲炉裏の灰を弄っていると現れて人を浚って灰のなかに消えるのだという。
この季節には聞かない類いの怪異だが、鬼火とつるんで家々を燃やしている斗考えればそれも合点がいく。
「問題が起きている村の周囲は封鎖している。放置すれば火事の規模は広がり、周辺の自然をも灰に変える可能性すらある。放置した灰坊主がより強力な魔物にならないとも限らない。――早急な撃破を期待する」
- 灰掘る魔性は這って寄り完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月25日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●灰の底から見る月
歪んで淀んだ視界の隅に、見慣れぬ姿が揺らいで見えた。
この国の身なりに『寄せた』姿をした者達は、しかし異郷の者であることを思わせる佇まい。下等な連中は騙されるだろうが己はそうはいかぬぞと、灰坊主はにたりと笑ってみせた。
……みせたが、所詮は彼とて妖怪変化の類に過ぎぬ。本能混じりの思考にどれほどの知性があるかは別として、今は手を出すときではない――と、彼は灰の底に沈んでいく。
「別々の怪異が協力するなんてこともあるんだね。一種の共生……みたいなものかな?」
「雷鬼火にはなんらメリットが無い辺り、共生関係とは言えなさそうだが……にしても、灰坊主はいい相棒を見つけたもんだ」
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が首を傾げると、『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)はいまいち釈然としないような表情で呟く。こんな連中が現れたのが、深緑でなかったことは2人にとって幸運だった。なまじ炎と灰の眷属など現れれば、あの地域は一堪りもないであろうから。
「世界は変わろうと和の国に妖怪変化はつきものって事かしら」
「……妖と言う物は人の想いの集合体に御座います。此度の灰坊主であれば、子が囲炉裏の灰を触り怪我をせぬ様にと言う想いから生まれたモノ」
『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)は故郷の世界を思い出しつつ、豊穣の各所に現れる妖達の存在を思考の端に思い浮かべた。海向こうの世界では見たこともないタイプの連中がのさばるのは、それだけの理由があるのだろうか……とも。
が、『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)はそんな疑問に自分なりの回答を持ち合わせていた。
人の想いから生まれ、そして人の想いより重篤な存在と化してしまったモノ。教訓を失って一人歩きした『畏れ』である、と。或いは2人の元の世界の概念の違いか。何れにせよ、両者ともにこのテの手合いは珍しくもないのだろう。
「灰の中の魔も、鬼火も、人に害をなすのであれば討伐しなければなりません」
「ああ。放置すれば被害を増すのが明らかなら、俺達がここで押し止めるしかない」
『竹頭木屑』天月・神楽耶(p3p008735)のシンプルだが決断的な理解は、『Black wolf = Acting Baron』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)も同意するところであった。その起源がなんであれ、何かの祈りを体現したものであれ、結果として人の世を乱すのならば排斥されて然るべきなのである。イレギュラーズとはそういう使命があり、妖とはそういう宿命にある。
「ボク、火事は大っ嫌い! とっても怖いよ……」
「うむ。これ以上被害が増えても不味い。鬼火もろとも早々に片を付ける事に致そうか」
『雷虎』ソア(p3p007025)は『蒼海の語部』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)の服の裾を素押しだけ掴むと、歯を食いしばりつつ、絞り出すように言葉を紡いだ。すぐに手を離したのは気恥ずかしさもあったろうが、恐らく戦闘に備えておく必要を覚えてのことだ。
一同が足を踏み入れた集落の有様は酷いものだ。崩れ落ちた家屋は原形をとどめておらず、灰と土との境界が曖昧な状態にある。
「特に大きい家屋跡に鬼火達が点在している、か。灰は……空から見る限り薄く広くといったところか。家の規模の割に灰の積もり方が浅いところが多いのは気になるな……」
ベネディクトは使い魔を通して廃墟群の外から偵察をかけ、状況判断を試みる。鬼火達は鳥一羽如き意に介さぬのか、それを狙う様子など歯見受けられなかった。
「ねえ、見通しがよくて鬼火が集まってるような場所とかある?」
「一箇所、焼け方が特に激しい建物はある。鬼火もそこに3体固まっているな。……だがそうなると、灰坊主が隠れている可能性も高いぞ」
ソアは何事か考えがある様子で、ベネディクトに問う。彼の返答から滲む懸念は尤もで、当然ながらソアもそれは承知の上で聞いているらしい。
「終わらせましょう、今、此処で」
無量を始めとしたイレギュラーズ達は得物を抜き、ベネディクトの先導を受けて前進する。狙うは一番手前の廃墟から顔を出す雷鬼火。それから順次掃討を試みつつ、灰坊主の出現を待つ……時間こそかかるが確実で、且つ手抜かりの無いやり方だ。
ばちりと爆ぜた火花が廃墟の燃えかすに赤く火を灯したのと同時に、神楽耶が前に出る。敵意を察知できる彼が前に出た――その意味は明白。
その意図を汲んだシガーも続けて前に出、2体の雷鬼火と対峙する。
「もう十分に燃やしたでござろう。そろそろ火遊びの時間は終わりでござる」
咲耶は間合いを詰めずに鬼火へと攻撃を仕掛け、順当に鬼火の力を奪いにいく。灰坊主が介入する隙を生み、以て引きずり出す為に。まずは、鬼火を断つ。
●雷鳴、業火、獣性
「我が剣は闇を裂く決意と恩赦の刃。覚悟してその身に受けよ!」
神楽耶は得物を鬼火に突き立て、一気に引き下ろす。神経を研ぎ澄ませた一撃は、初陣ながらも十二分に己の役割を果たす。指先に走った痺れは、彼にとってはあろうがなかろうが大差ないものだ。
「打って出たってことは、灰坊主はこっちにいないんだろ? 信じるぞ」
シガーは神楽耶が斬った鬼火に追撃をかけると、相手に問う。敵の存在を察知できる能力を持つ彼なればこそ、信じるのだと言わんばかりに。神楽耶は小さく頷きを返した。
「2人とも、気が逸るのはいいけどあんまり無茶しないでよね。私達に頼ってもいいんだから」
「そうは言っても――頼もしいのは事実だが、なッ!」
竜胆は2人が手傷を負わせた雷鬼火から間合いを取って斬撃を放ち、ベネディクトは手にした槍を全力で投擲し、手透の鬼火諸共一気に貫いていく。
無傷だった者こそ仕留め損ねたが、もう一方は2人の連携で消滅する。
「火事を起こすような悪いやつはボクが吹き飛ばしちゃうんだから!」
「少しくらい怪我する程度なら経験だよ、私がいるから気にしないで」
ソアは残った雷鬼火を一瞬で消し飛ばすと、次にそれらがたむろする廃墟――ベネディクトが予め特定していた場所へと駆け出す。アレクシアは神楽耶とシガーの不調も含め治療を終えると、ソアが駆けていった方に視線を向ける。火から免れた草花から響く感情に、彼女の肌がひりついた。
「逸っているのは、ソア殿でござったかな……?」
手を出す前に第一陣が蹴散らされた様子に顔を顰めつつ、咲耶はソアが向かった先へと向かっていく。
「ソアが簡単にやられるとは思わないが、確かに厄介なことになりそうだな……」
「ベネディクトさん、そんなことを言っている場合では」
ないのでは、と無量が口にするのと、重い雷鳴が轟いたのとはほぼ同時。
続いて、飛来物が爆ぜるような音……咲耶の手裏剣だろうか? 明らかに戦闘音、つまりは『当たり』か。
「……ベネディクト君」
「敵が見つかったならそれでいい、すぐに追いかけるぞ!」
複雑な表情を見せたシガーに、ベネディクトは首を振って問題ないと応じた。ソアだけならいざ知らず、咲耶もいる。如何な強敵でも、2人が揃って後れを取ったとて、救援に向かう間に戦闘不能に追い込まれるなどあり得る筈もなし。
「ッ……!!」
「ソア君、後ろに!」
ソアが全身に纏う稲妻が、途切れがちに爆ぜる。思い通りにならない肉体を無理に動かしている……そんな印象。
アレクシアが入れ替わりに前進すると、その鼻先に灰が覆い被さるが、首を軽く振っただけでこともなげにその攻撃の主を見やった。
「キシ、八百万の娘と他一匹を奪ってやろうと欲をかいたら思わぬ多勢よな。だが構わぬ、この――」
「灰と火を畏れさせる謂れの象徴が、蓋を開ければ無駄話の多い、血に酔った語り部ですか。つまらぬ顛末もあったものです」
灰坊主が小汚い笑みを浮かべ、イレギュラーズを挑発しようとした。知恵が足らない? その通りだろう。
神楽耶とシガーを始めとして、アレクシアの前に現れた彼に対し、一同は一斉に打ちかかった。それを流麗に避けて見せた、までは彼が上手だ。
『だからこそ理解が遅れた』。それがたった一発、灰坊主の有利を打ち砕くベネディクトの一手に繋ぐ布石であることを。
窮地に陥った灰坊主を守るように、でもあるまいが。周囲の廃墟から彼等を取り囲むように現れた鬼火達は、灰坊主などどうでもよさげに一同へと襲いかかる。
「私は未熟ですが、考え無しではありません。……この状況、読めていないとでも?」
一見すれば不利極まり無い状況、だがそれも織り込み済みだと、神楽耶は不敵に笑ってみせた。恐らくは強がりだろう。だが、先輩達が弱音を吐いたか、傷に対して痛みをわめき散らしたか? そうではあるまい。だからこそ、彼は鬼火達の所在を伝えていたのだから。
「お主は少々派手にやり過ぎた。無辜の命を喰らった対価、ここで払って頂く!」
血を地面に吐き捨てると、咲耶は灰坊主へと幻術の嵐を叩き付ける。ソアと自身に襲いかかる直前に見せた灰による隠遁。あれが強化術の一種なら、これで剥ぎ落とす。……その顔に貼り付けた余裕ごと、全て奪い去る。
「貴様の怒りが手に取るように見えるぞ。灰の中でしか粋がれぬあやかしが、随分と大きく出たものだな?」
「貴様等こそ、この状況でよくも壮語を吐くものよ。ワシにとってこの程度、傷でも不利でもありゃあせん!」
ベネディクトは灰坊主の猛攻――といってもただの打撃だが――を凌ぎながら、いきおい、さらなる一撃を加えようとする。が、やはり相手もさるもの。彼が貫いたのは、灰坊主が身に纏った砂一粒だ。
「お二人には灰坊主をお願いします。鬼火はこちらで引き受けます」
無量は雷鬼火達に近付きすぎぬよう立ち回りつつ、シガーと神楽耶に指示を飛ばす。ベネディクトほどの手練れでも中てられぬなら、可能性を上げるしかない。……そして、攻撃がかわされ続けてしまえば灰坊主が再び姿を消す危険性も必然、増すのだ。
「ソア君、傷は大丈夫?」
「ありがとう、すっかり元気だよ! ……それと、ボクもやられっぱなしじゃないんだ」
雷鬼火の一撃を難なく弾きつつ、アレクシアはソアや咲耶を含め、仲間達を全力で治療していく。アレクシアの背後から、ソアは己のそれが上回る、とばかりに雷撃で雷鬼火達に痛烈な一撃を放っていく。痛みと屈辱がないわけではない。が、ソアは『してやったり』という笑みを忘れない。
まるで、既に全て終わらせたと言わんばかりに。
●一片の知性と異なる道理
「キシ、ワシの勝ちだな猪武者よ。その瑪瑙の如き鎧、忘れぬぞ――」
「そうか。なら覚えたまま、ここで死ぬといい」
灰坊主は己の身を灼く怒りの感情が薄れたのを認識する。挑発がてらベネディクトに言葉を残し、灰の渦でもって彼等を翻弄したまま、灰に沈んで遁走しようとした。そこまでは、まあ。この強敵にとっては完璧な動きだったのだろう。
だが、ベネディクトは驚きもしない。
ぴん、ぶつん。
その音は小さかった。並の聴力を持つ者では、その音も、それが意味するものも理解できなかっただろう。
だが、その音源に――竜胆の斬撃と、咲耶の手裏剣が届いた。無量の第三眼の圧力が、灰の上を撫ぜた。灰の塊は、思わず蠢く。
「ハァァァァアッ!」
「そこか……手間取らせるな!」
さらに、掘り返すような神楽耶とシガーの攻勢は、いよいよもってその塊、その下に潜んだ灰坊主を掘り返した。
何故だ、何故だ。完璧に逃げ果せる筈だったのに、あからさまに誘い込める絶好の立地であったはずなのに。
自問自答を繰り返した灰坊主はしかし、終ぞ周囲を取り巻く細い糸と、その正体に気付くことは能わず。
「引っかかったね!」
思い切り跳んだソアの爪が、灰坊主の胴に突き刺さる。握り込んだ逆の手が、傷を抉るように深々と打ち込まれる。
「まさかお主、ここの集落の者を全て喰ろうたのならば随分と大喰らいでござるな。これだけの人数だ、どこかに隠してはおらぬのか?」
血を吐いた灰坊主の襟を掴んで引き倒した咲耶は、鬼のような形相で問う。集落一つまとめて食った? 馬鹿なことを言うな。祈るような、脅すような声は有無を言わさぬ圧があった。
「……キシ。常識も何もかもをが異なるワシらに人の道理でものを問うか。一度で食いかねるなら、日を置けば佳かろうが。この村が焼けて、何日あった?」
「人も妖も生きる為には食らうモノである事に違いはないのでしょう。けれど、納得できるかどうかはまた別の話よ。楽しむ為に殺した、殺された者も居たのでしょうね。……死なせてあげるわ、覚悟なさい」
「キキキキシキシシィィィイィ、ィ」
ざくり。
竜胆の業物が、なおも騒ぐ痴れ者の首を断ち切って黙らせた。
「この土地での弔いの礼儀が分からない。神楽耶、手伝ってくれないか」
「無論です。お任せを」
ベネディクトと神楽耶が村の人々を弔う準備をする中、イレギュラーズ達は灰と瓦礫にまみれた中から骨を拾い上げ、着物や遺品を回収し一所へと集めた。
そして、それらを纏めて一つの塚として丁重に葬った。
……今はそれしか出来ないけれど。
そして、救われる者はいなかったけれど。
彼等の誠実さが救う『魂』が、この地にあらんことを。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
奇策ゆえのリスクはありましたが、面白いしちゃんと連携出来る状況だったのでOKだと思います。
GMコメント
●依頼達成条件
・灰坊主の殲滅
・雷鬼火の撃破(6割以上)
●灰坊主
本来は囲炉裏の灰に潜む妖怪。今回は瓦礫や灰と化した家屋跡に潜むまでに行動範囲を広げている。
基本的に灰の中に潜んでおり、不意打ちや奇襲を得意とし、灰の中にいる限り回避に大幅な上方修正がかかる。
また、戦場内での移動は灰を通して行うためマーク・ブロック不可。
・灰渦(物近域・足止、封印)
・灰投げ(物遠単・暗闇・ブレイク)
・灰被り(自付)
●雷鬼火×10
鬼火の結構強い版のようなアレ。
全身に電気が走っており、「マーク・ブロック・至近攻撃」を行った相手に痺れor火炎のBSを付与してくる。
・紫電針(神至単・感電、必殺)
●戦場
家の焼け落ちた集落。
ほぼすべての家が瓦礫と灰になっており、灰坊主は家と家の間を移動することもあるため広範なフィールドでの戦闘が想定される。
瓦礫が至る所にあるため、超機動を駆使しての引き撃ち戦術は相応の対策や注意を要する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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