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シナリオ詳細

<果ての迷宮>世界滅亡一時間前

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●果ての迷宮
 『果ての迷宮』――。
 幻想王都メフ・メフィートの中心に存在する、広大なりし地下迷宮である。
 この迷宮の踏破こそが、幻想を建国した勇者王の悲願であり、幻想王侯貴族の義務となっている。
 この地下迷宮において、既存の常識と言う物は一切通用しない。
 階層によって、まさにさまざまな姿を見せる――時には異世界に来たのではないかと錯覚させるほどの――不可思議な作り。そこを踏破するための様々な条件。
 パトロンたる幻想貴族たちの支援を受け、イレギュラーズ達は幾度にわたり、その階層を踏破してきた。
 未だ底の見えぬ地下迷宮、果たして此度はどのような姿を見せるのか――。

●世界滅亡一時間前
「この世界は、一時間後に滅亡を迎えるのよ」
 くすくすと笑って『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)以下探索隊のイレギュラーズ達に告げるのは、妖艶な女性の肉体と、クモの下半身が融合した、半人半魔のアラクネーと呼ばれるモンスターである。
 新たな階層へと足を踏み入れたイレギュラーズ達の前に広がっていたのは、真っ白な何かが降り積もる、夜の廃墟であった。真っ白なそれは雪か何かかと思ったが、それは高熱によりありとあらゆるものが燃やされたが故に生じた灰の山であることに気づく。
 困惑する一同を迎えたのは、廃墟の真中でセーターを編んでいた彼女、アラクネーであった。
「ええと、つまり?」
 ペリカが尋ねるのへ、アラクネーは微笑む。
「空を視た? 気まぐれな竜王様が、空を飛んでいるのは分る?」
 その言葉に空を見上げてみる。月光輝く闇の中に、一匹の――巨大な竜のようなものが飛んでいるのが、見て取れた。
「今から一時間後に、竜王様が地に向って巨大な焔を吐くわ。それで――」
 世界は終わるのだ、と言う。
 俄かには信じがたい話である。と言うか、そう簡単に世界と言うのは終わるものなのか。それに、世界が終わるにしては、アラクネーはあまりにも――平然とし過ぎている。
「信じられない、って顔してる。良いわね、新鮮な反応。でも本当よ。この世界に生きる私達は、何回も――この滅亡の夜を繰り返しているのだから」
 複数ある肩をすくめた。アラクネーの話によれば、つまりこの世界は、一時間ごとに滅亡し、すぐさま再生し、そしてまた一時間後に滅亡する。
 そのようなサイクルで、動いているのだという。
「ちょっと待つわさ、理解が追い付かない……」
 ぷるぷる、とペリカは頭を振ってから、続ける。
「つまり、次の階層に行くには――一時間以内に階段を見つける、っていう事わいね?」
「あら、階段ならあるわよ? 竜王様こそが階段なのよ」
 はぁ? とペリカは思わず声をあげた。けたけたと、楽し気にアラクネーは笑う。
「つまり貴方達が次の階に行きたいならば、竜王様を呼んで――呼んだら降りてきてくれるわよ、意外とフレンドリーだから――どうにかして倒す必要がある、ってわけね。まぁ、無理だと思うけれど」
 だから、とアラクネーはちくちくとセーターを編み始めた。首元辺りが出来上がって、いくつもある袖をこれから作る所である。
「諦めて……世界が滅亡するのを待ってみるのはどうかしら。なかなかできない体験よ、こういうの。外に戻った時の土産話になるかもしれないわね」
「そりゃ困るわいね。あたし達は、諦める気はないわさ」
 ムッとした表情で語るペリカに、アラクネーは笑った。とはいえ、諦める気はない――それは、同行しているイレギュラーズ達もまた、同じくする思いである。
 どうにかしてこの階層を突破し、果ての迷宮を踏破する。少なくともその点においては、メンバーの意見は一致している。
「じゃあ、ちょっとだけ教えてあげる。竜王様はね、この付近にいる四人の配下からエネルギーをもらっているの。こいつらを倒せば、竜王様も少しは弱くなって、あなたたちにも倒せる手が出てくるかもしれないわね」
 アラクネーの言葉によれば、それぞれの配下は、この廃墟の街を中心にして、東西南北に、片道五分ほどの距離のある場所にいるのだという。
「四人の配下をやっつけて、竜王様もやっつける――一時間以内に。それができる時間があるかは知らないけれど、無策で元気な竜王様と戦うよりはいいんじゃないかしら?」
「ふむぅ」
 ペリカは唸った。となれば、これから考えるべきは、四人の配下をどれくらいの戦力で、どの程度倒すか……という事になるのだろう。
「わかったわさ。助言助かったわよ。じゃあみんな、少し作戦会議をしてから、実際に――」
「所で」
 ペリカの言葉を、アラクネーが遮った。
「もうじき一時間たつわよ」
 途端――。
 上空にて、なにかとてつもなく嫌な気配が膨れ上がった。刹那、月光よりもはるかに輝く――さながら夜の太陽のような火球が生まれ、膨れ上がった。
 唖然としてそれを見上げる一同を気にも留めず、その火球は解き放たれる――それが廃墟目がけて落着した瞬間、暴力的な熱と衝撃が周囲を駆け回った。焼かれる――すべてが。肉体が、精神が。意識は刹那にして爆ぜて、痛みを感じる間もなく消失する。これは皆には知る由もないが、そのまますこしの時間をかけて、炎は大地を飲み込んだ。灼熱の地獄と化した世界が、やがてふとその熱量を失って真っ暗になるまで、それはトータルで見たら、さほど長い時間ではなかった。

「おかえり。どうだった? 世界の滅亡ってやつ」
 ふと気が付くと、一同は再び、夜の廃墟のただなかにいた。目の前には、複数ある肩をすくめるアラクネーの姿があった。
「次の滅亡はまた一時間後。其れまでに何とか頑張ってみなさいな……ところで、編みかけのセーターも一緒に消滅しちゃうのが悩みの種なのよね。世界の滅亡と同時に焼き消えちゃうから、編んでも編んでも中途半端にリセットされちゃう。ねぇ、私、セーター編み終わると思う?」
 挑発するように笑うアラクネーに、ペリカは確実に一度迎えた死の感触にゾッとしつつも、しかし怯えた表情など見せずに言い切る。
「任せるわさ。この一時間で、ループもラストだわよ」

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 果ての迷宮、今回は一時間後に滅亡する階層です。

●成功条件
 次の階層へと進む。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 もたらされた情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●このシナリオについての捕捉
※セーブについて
 幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
 セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。

※名代について
 フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
 誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。

●状況
 一時間後に滅亡する世界――イレギュラーズ達が降り立ったのは、そんなループを繰り返す奇妙な階層でした。
 世界の滅亡のトリガーとなるのは、竜王と呼ばれる巨大なモンスター。そしてその竜王こそが、次の階層へと向かうための階段そのものです。
 四人の配下からエネルギーの供給を受けている竜王は強力ですが、四人の配下を撃破できれば竜王も相応に弱体化します。
 この特性を上手く利用し、竜王を弱体化させたのちに撃破を目指してください。
 階層は『夜』の時間帯のようですが、明かりには不自由しない程度には月が明るいです。

●エネミー
 竜王 ×1
  世界の中央にある廃墟の上空を飛んでいる、ドラゴンのようなモンスターです。混沌世界の龍種とは関係のない生物です。
  空を飛んでいますが、呼べば降りてきて戦闘に突入できます。
  主に複数回ヒットする高威力のブレス攻撃が驚異的なモンスターです。
  基本的に高いパラメーターを誇りますが、前述の通り、下記の配下たちを撃退すれば、その分弱体化します。

 北の竜 ×1
  世界の中央の廃墟より北に存在する、竜王の配下です。ドラゴンのようなモンスターですが、混沌世界の龍種とは関係のない生物です。
  強力ですが、戦闘にフルメンバーが必要というほどではないです。
  主に炎を用いた攻撃を使用してきます。
  この敵を倒すことで、竜王の神秘・物理攻撃力が低下します。

 東の竜 ×1
  世界の中央の廃墟より東に存在する、竜王の配下です。ドラゴンのようなモンスターですが、混沌世界の龍種とは関係のない生物です。
  強力ですが、戦闘にフルメンバーが必要と言うほどではないです。
  主に毒を用いた攻撃を使用してきます。
  この敵を倒すことで、竜王の反応・回避能力が低下します。

 南の竜 ×1
  世界の中央の廃墟より南に存在する、竜王の配下です。ドラゴンのようなモンスターですが、混沌世界の龍種とは関係のない生物です。
  強力ですが、戦闘にフルメンバーが必要と言うほどではないです。
  麻痺などを用いた攻撃を使用してきます。
  この敵を倒すことで、竜王のEXA・EXFが低下します。

 西の竜 ×1
  世界の中央の廃墟より、西に存在する、竜王の配下です。ドラゴンのようなモンスターですが、混沌世界の龍種とは関係のない生物です。
  強力ですが、戦闘にフルメンバーが必要と言うほどではないです。
  魅了と呪いを用いた攻撃を使用してきます。
  この敵を倒すことで、竜王の最大HPが低下します。

 なお、配下が生存していても、竜王との戦闘中に援軍でやって来るようなことはありません。

●味方NPC
 『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)
  タフな物理系トータルファイター。
  特に指示等なければ、頑張って皆さんの援護を行うようです。
  本当はあたりの調査を行いたいというのが本音のようですが、状況的にそんな時間もないという事は理解しています。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <果ての迷宮>世界滅亡一時間前完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月23日 22時16分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
主人=公(p3p000578)
ハム子
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
アト・サイン(p3p001394)
観光客
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海

リプレイ

●世界救済一時間前
 イレギュラーズ達は、二手に分かれて東西南北に控える配下、それぞれを討伐するために移動を開始した。
 内訳としては、『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)、『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)、『ハム子』主人=公(p3p000578)、『Enigma』ウィートラント・エマ(p3p005065)、『ヴァイスドラッヘ』レイリ―=シュタイン(p3p007270)、そしてペリカの総計六名を擁するAチーム。
 そして『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)、『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)、『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)、『観光客』アト・サイン(p3p001394)、『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)のBチームだ。
 Aチームはまず北へ。Bチームは西へと、それぞれ向かった。Aチームはレイリ―の用意した『馬車』の御者をウィートラントが、ルル家の軍馬型ロボット『レクセル』を使い、速度を上げて北へと向かう。Bチームは西へ、ジョージの運転する『オフロード車』を駆り、廃墟の街を爆走する。攻略迄の時間を指定されている以上、移動時間もなるべく短縮した方が良い。
「がんばってね~」
 ひらひらと手を振りながら、廃墟のアラクネーが一同を見送る。さておき、まずはAチームの様子から確認していこう。
「果ての迷宮には異世界が存在するとは聞いていましたが、まさかいきなり死を体験するとは思いませんでしたね!」
 レクセルを駆り、ルル家がぼやく。階層に降り立ったイレギュラーズ達は、世界の滅亡による死、という手厚い歓迎を受けたわけだ。果たしてそれが本当の死なのかはわからない。少なくとも、可能性が消費された感覚は無かったのだ。
「しかし、忙しない世界ですね。一時間ごとに滅び、時間が巻き戻るとは。やはり滅茶苦茶ですね、果ての迷宮は!」
 ルル家の言葉に、
「実際に時間を巻き戻しているという訳でもないでしょう……恐らくこの空間そのものが魔術的概念的なシミュレーター、なのではないかと」
 アリシスが答えた。
「シミュレーター……という事は、あの滅亡も模擬実験(シミュレーション)、って事でありんす?」
 ウィートラントが首をかしげる。
「ええ。その時点で存在する異物を含め、特定タイミングを以て予め設定されている状況を再構築する……輪廻転生宇宙観における、始まりから終わりを一時間と見立てた再現モデル、のようなものでしょうか」
「つまり――ボクたちは、一度死んで生まれ変わった、と?」
 思わず寒気を覚えつつ、主人=公はいう。普通に死んで、時間が巻き戻って生き返った……と考えるよりも、些かゾッとする話である。
「あくまで仮説ですよ」
 ふふ、とアリシスは笑う。事実、果ての迷宮とその階層は得体が知れない。アリシスの仮説も、当たっているのか外れているのか。其れは今は、確認のしようがないのだ。
「確実なのは……少なくともまた一時間後に、破滅が訪れる事。これがシミュレーションだろうと幻だろうと、この世界に生きて、その破滅に巻き込まれる存在がいるって事だね」
 気を取り直しつつ、主人=公は言った。アラクネーをはじめとする、この世界に生きる生命は、確かに存在するのだろう。ならば。
「だとしたら、ボクとしては放っておけないよ。何にしても、この世界を救う英雄になってやろうじゃないか」
「そうね。世界を滅ぼす存在、竜王……申し訳ないけれど、ヒーローとしてはワクワクしてしまうわ」
 レイリ―が言った。
「彼の竜種ほどではないとはいえ、敵は竜と、その王。相手にとって不足はないわね」
「しっかりと楽しませてもらうとしましょう。さぁ、見えてきんしたよ」
 ウィートラントの言葉に、一同は進行方向を見やる――そこには、祭壇のような場所にたたずむ、一匹の赤い竜の姿があった。

●世界救済タイムアタック
 馬車が急停車する。一同は馬車から飛び降りて、駆けだした。その姿に、赤い竜はゆっくりと、その首をもたげる。
 外見は、赤い、羽の生えたトカゲ――テンプレートじみたドラゴンと言う姿である。北の竜、北竜はその口を大きく開き、威嚇の咆哮をあげた。
「我が王の祭壇に、何用か」
「決まってる! この世界を救うため――お前を倒す!」
 主人=公が叫び、仲間達は足を止めることなく武器を構えた。一分一秒でも惜しい。要らぬ言葉は不要だ。
「私はヴァイスドラッヘ! 竜の騎士だ! さぁ、私を倒せるか?」
 レイリ―が叫び、その盾と、白のランスを掲げた。ぐぎ、と竜の口角が上がる。
「英雄気取りが、上位種たる竜に勝てると思うてか!」
 がぁ、と北竜が吠える。途端、その周囲に焔が巻き起こり、一斉に周囲へと撃ちだされる!
 レイリ―はその炎に盾を掲げて突撃。その身を焼く熱量に身を晒しながらも、炎の弾丸を受け止めて見せる。
「なるほど、威力は充分――だが!」
 白のランスを、鋭く突き出す。北竜の赤い鱗が衝突し、ぎりぎりと火花を散らした。切り裂かれた鱗が、傷跡を晒す。
「竜王に力を送ってるだけあって、攻撃力は相当高いみたいですね!」
 ルル家が叫んだ。着弾した焔の弾丸は土を抉り、高温度故にガラスめいて変質している。ルル家はその腕を振りかぶり、スーパーノヴァの閃光を、北竜へと叩き込んだ。刹那の内に爆発する衝撃が、ぐらり、と北竜の身体を揺らせる。
 ルル家の言う通り、北竜の攻撃能力は相当高いようだ。一撃は重く、イレギュラーズ達を傷つけていく。とはいえ、そこはまだまだ序盤の戦い。イレギュラーズ達は倒れることなく、奮戦を続けていた。
「なるほど――前情報通り。私達だけでも、戦えないほどではありません」
 アリシスは宝珠を掲げた。途端、巻き起こる漆黒の、死の呪いの風。巻き起こる黒いそれが、北竜の左前脚の皮膚を焼き、『殺して』ゆく。
「ですが、時間かける余裕はこちらにはありませんので。速やかに討伐させていただきます」
「ぬぅ――ぅ!?」
 北竜が悲鳴を上げた。殺された皮膚がぐずぐずと壊死していく。左前脚から徐々に力が抜け、北竜はその身体を傾けた。傷口があらわになる。それを逃すイレギュラーズではない。
「マーナガルム」
 ウィートラントが、静かに、声をあげる。手に掲げるは『MTG30-FOREST』――放たれた銃弾にのせられた『黒い狼』が実体化し、壊死した北竜の皮膚をかみちぎり、その内部をさらけ出す!
「おおおおっ! 下等種族が!」
「ボクたちが下等種族なら――それに倒される、オマエはなんだッ!」
 主人=公のが拳を突き出す。魔術触媒の指輪から放たれた強力な魔術の弾丸が、北竜の傷口をさらに深く抉り取った――。

 一方、Bチーム。此方は西竜、紫色の皮膚をした、二足の肉食恐竜のような姿をした竜と激闘を繰り広げていた。
「おや? 竜がいると聞いてきたけれど、まさかアナタのことかな? あまり強そうには見えなかったから、大きなトカゲかと思ってしまったよ」
 呼気裂帛、鋭い呼吸とともに放たれたメートヒェンの一撃が西竜の横面を思い切り殴りつける――ぐらり、と一瞬、頭を揺らす西竜は、しかしすぐに態勢を整えると、その顎をいっぱいに開き、メートヒェンへと噛みついてきた。
「ちいっ!」
 舌打ち一つ、寸前で飛びずさるメートヒェン。刹那、その空間を巨大な顎が噛みついた。
「意外とタフだね……竜王の体力を増強させているのも頷けるよ」
「妾の命、そう容易く取れはせぬ」
 西竜が息を吸い込む――。
「散開しろ! 纏まっていると一気にやられるぞ!」
 ジョージが叫んだ。同時に、イレギュラーズ達は散開――西竜の吐き出したブレスが、周囲にまき散らされた。桃のような、甘い香りがする。吸いこめば瞬く間に当惑し、その心をかき乱されるだろう、幻惑のブレス。
「――けど、その手の攻撃は効かないようになっていてね」
 アトが、『波間に没したる国の剣』を振るい、ブレスを切り裂き、散らした。そのまま駆け出し、振るわれるツイン・ストライクの連撃――貫かれる剣の煌きに、西竜すら恍惚と気を奪われる。
「そしてタフならば――何度でも切り裂くまで、ってね」
 全身全霊の一撃が、西竜の顔面を切り裂いた。轟、吠える西竜の右目とほほに剣閃が走り、深い傷を残していく。
「今だ。畳みかける」
 エクスマリアが声をあげる――途端、その身体を髪が包み込み、内部で振動する髪が激しい電気を巻き起こす。
「 轟け、迅雷」
 そして最大まで蓄えられたその電気は、地を走る雷のごとく、西竜へと襲い掛かった。ばぢばぢ! 空気すら焼く雷が、西竜の身体を飲み込み、激しくスパークする雷球が次々と西竜の身体を焼き切っていく!
「おおおおっ!」
 西竜が、けいれんじみて身体を震わし、悲鳴を上げる――。
「とどめよ……っ!」
 ココロの放つ裁きの光が、西竜の身体を焼いた。じゅう、と煙をあげて焼き切られていく西竜。やがてその巨大な生命力も、死に手を伸ばす時が来た。
「おお、おお……竜王様……」
 断末魔の声をあげ、西竜の身体がぐらりと揺れる。ずん、と地に音を響かせ、その身体が横たえられた。
 数秒。それが動かなくなったことを、イレギュラーズ達は確認する。
「やったな……よし、乗ってくれ! すぐに戻るぞ!」
 ジョージが叫ぶと同時に、オフロード車のエンジンに火を入れた。仲間達は頷くと、一気に車へと飛び乗る。
「飛ばしてく、舌をかむなよ!」
 ジョージがアクセルを踏み込む。爆音を響かせて、車がスタートした。
「どうだい、アト殿。ペース配分としては」
 メートヒェンが尋ねるのへ、アトは頷いた。
「うん、良いペースだ。このままなら二体目の戦闘にも余裕をもって取り掛かれる」
 これは皆の実力もあっただろう。戦力分散というリスクはあったが、それを補えるほどしっかりと立ち回れたことが大きい。
「しかし……60分勇者、と言った階層だね。随分と無茶を言うもんだと思ったけれど、まぁ、噂だと30秒で世界を救った、なんて話もある。それに比べたらまだ有情かな」
 アトが肩をすくめる。高速で過ぎ去っていく廃墟の景色が、窓から見えた。
 この世界は何度滅亡し、何度復活したのだろう。エクスマリアが考えるように、幻想の勇者王の時代から、既にこの階層は存在していて、其れからずっと、世界の滅びと再生を繰り広げ来たのだろうか。中々にスケール感がおかしくなる話だが、中で生きる者たちにとっても、溜まったモノではあるまい。
「この世界……一日に24回滅亡する、って事なのかな。よくわからない……」
 ココロの言葉に、ジョージは頷く。
「外から見れば、そう言う事なんだろう。中から見れば――一時間を延々と繰り返しているだけだ。まったく、ここで暮らしてる連中は良く正気を保っていられるもんだ。死……面白い経験をさせてもらったもんだが、一回で充分だよ」
 竜王の火は、煙草をつけるには大きすぎる。そう言いながら、ジョージはアクセルを踏み込んだ。
 正気を保っている――アリシスの考察によれば、この世界はシミュレーション世界であるわけだから、正気を失う、と言う行動がそもそも実装されていないのかもしれない。
 あるいは――深い諦観と言う精神状態そのものが、狂気の産物ともいえるのではないだろうか。いずれにせよ、この階層の正体についての正解は未だつかめないのだから、どれもこれも憶測の域は出ないのだが。
 さて、徒歩五分の距離を大幅に速度をあげて、イレギュラーズ達は廃墟の中央部へと一目散に移動する。
「中央だ。アラクネーもいるぞ」
 エクスマリアの言葉に、一行は前方を確認した。果たして出発地点、中央エリアに戻ってきたイレギュラーズ達は、一度、そこで車を止めて立ち止まる。
「あら、お帰りなさい。速かったのねぇ」
 明確に驚きの感情を見せるアラクネー。どうやら、イレギュラーズ達の帰還は予想外の事だったらしい。そうだろう。アラクネーは世界の救済などとっくに諦めている口だ。それを実行しようと動き、そしてその過程を踏んで戻ってきたものなど、まさに生まれて初めて見たのだろう。
「ん。教えて欲しい。仲間達は、戻ってきたか?」
 エクスマリアが尋ねるのへ、アラクネーは頭を振ってこたえた。
「いいえ、帰ってきたのはあなた達が先」
「そうか、ありがとう」
 エクスマリアがぺこり、と頭を下げる。そのまま仲間達へと向き直ると、
「手こずっている、のだろうか。此方は……どうしよう、か」
「待つか、進むか、ね。向こうのチームが時間がかかっているなら、合流して竜王と戦うのも手だけど……」
 ココロが言う。もしも時間がかかりすぎるようなら、すべての配下の討伐を諦め、竜王との決戦に臨む……と言うのが、此方の作戦プランだ。
「けれど、此方は時間的に余裕がある、よね。ただそれを浪費するのは、勿体ないんじゃないかな」
 メートヒェンが言うのへ、アトが頷く。
「もし向こうのチームが戦闘に20分を超過するなら、帰ってきた後ここで待っていてもらった方がいいだろうね。此方がもう一体倒す間、向こうのチームが休憩できるし、2体より3体倒しておいた方が、より竜王戦で有利になれるはずだ」
 つまり、此方の方針としては、このまま少し休憩し、3体目の配下を倒す……と言う事だ。
「アラクネー、伝言を頼めるかい?」
「いいわよ、勇者様がた。せっかくだもの、最後までお付き合いするわ」
 にこり、とアラクネーが微笑む。アトは頷いた。
「よし、少し休んだらまた出発しよう。ジョージ、運転は任せた。目的地は東。東竜が相手だ」

●配下竜全滅レギュレーション
「Bチームよりは少し遅かったみたいだね……!」
 走る馬車の荷台にて、主人=公が声をあげる。北竜を討伐し、戻ってきたAチームは、アラクネーからBチームの伝言を聞いていた。Bチームから多少遅れることにはなったモノの、予定撃破タイムである20分には間に合っている。となれば、予定通り次なる配下の討伐に向かうべきだろう。
 少しばかり早めに休憩を切り上げて、一行は南、南竜の潜むエリアへと駆けだす。
「しかし、休む間もないね。大忙しだ。昔見た、ゲームのRTAを思い出すよ」
 主人=公が苦笑するのへ、ルル家が頷いた。
「RTA……リアルタイムアタックなのですかね? まぁ、実際タイムアタックじみたことはやらされているわけですが!」
「ふふ、それも加味したシミュレーション世界なのかもしれませんね……つくづく、底の読めない迷宮ですこと」
 アリシスが笑った。もしかしたら、異物たるイレギュラーズ達の存在も、シミュレーション上の必要な要素なのかもしれない、と、アリシスは考えた。もしそうならば、つくづく、この世界をシミュレートしている存在――おそらくそれは神と呼ばれるものなのだろうが――は理解しがたい。
「なんにしても、タイムアタックが必要と言うなら乗ってやるだけよ。さぁ、到着よ。南竜、討伐させてもらうわ!」
 レイリ―の言葉と同時に馬車は速度を下げて、イレギュラーズ達はそのタイミングで飛び降りた。馬車とレクセルは、戦場から離れた場所で立ち止まる。
「北と西がやられた……東も戦闘状態に入っている。そうか、お前たちが」
 南竜は、つるりとした皮膚を持つ、さながらウツボやウナギなどの魚類に近しい外見をしていた。
「分かってるなら話は早い。わっちらも、時間に余裕はないでごぜーますよ」
 ウィートラントが叫び、武器を抜き放つ。仲間達もすぐに臨戦態勢を取り、駆けだした。
「愚かな……此処が貴様らの墓場ぞ」
「そう言うセリフ、聞き飽きたっ!」
 主人=公が放つ魔力弾と、南竜が放つ雷球が衝突。激しいスパークをまき散らして爆発した。爆風を切り裂いて、レイリ―とルル家が南竜へと接敵する。
「宇宙警察忍者殺法――っ!」
 ルル家が放つ超新星爆発の閃光――南竜の皮膚でさく裂したそれが、つるりとした南竜の皮膚を焼き、収縮させる。
「王の一部に過ぎない竜なぞが、私を倒せはしない!」
 レイリ―の白きランスが収縮した皮膚を突き破った。ぶしゅ、と吹き上がる粘性の血液が、レイリ―の白い装甲を赤黒く汚す。
「おのれ――!」
 南竜が吠えた。途端、その周囲に発生した雷が、ばぢばぢと音を立ててあたりを嘗め尽くすように放たれる。連続して放たれる無数の雷が、イレギュラーズ達の身体を打ち据える。その衝撃に、手がしびれるのを感じた。
「麻痺――ですね。大丈夫です、すぐに立て直します」
 アリシスの立て直しの大号令が、辺りに響いた。回復の魔力を乗せた声が、仲間達のしびれを瞬く間に取り去っていく。
「相手は素早い……やはり攻撃される前に倒すのが一番でごぜーますか!」
 ウィートラントが叫び、マーナガルムをけしかける。鋭い牙が南竜の皮膚を切り裂き、その肉を食らい、裂いた。
「くおおおっ! 貴様らぁっ!」
 南竜が身をくねらせ、その巨大な体で周囲を薙ぎ払う――イレギュラーズ達はそれを跳躍して回避。空中から、さらに激しく攻撃を加えた。
「お前達に、この世界はもう滅ぼさせないっ!」
 主人=公の放つ魔力弾が、雨あられのように、次々と南竜に着弾していく。圧倒的な衝撃と圧力に、南竜は地に縫い付けられていく!
「こんな、こんな……ッ!」
 南竜は呻きながら、身体を蠢かした。何とか立ち上がろうと試みるが、イレギュラーズ達の一斉攻撃が、それを許さない。
「とどめですよっ!」
 ルル家の放ったクナイが、南竜の眉間に深く突き刺さった。それが内部まで到達し、重要な器官を次々破壊していく。ぐぉ、と南竜が呻く。それを断末魔として、南竜は地へと倒れ伏したのである――。

「配下とはいえ、油断はせん。確実に滅する!」
 ジョージが放つ、破壊力の一点突破。シンプルな、最大限の破壊力を伝達するという一点にのみに集中した、ジョージの海洋式格闘術、奥義が壱。
 ぎゅお、と声をあげて、東竜がその身体を震わせる。醜悪なカエルのような外見の竜である。ぶよぶよとした皮膚を貫いて、ジョージの一撃がその内部を破壊した。
 Bチームの、東竜との戦闘は佳境へと突入していた。毒による攻撃は確実にイレギュラーズ達の身体を蝕んでいたが、しかしまだ、イレギュラーズ達が倒れるには遠い。
「毒は任せて、すぐに全部治すわ!」
 ココロの放つ医術魔法が、ヒールの音共に仲間達を癒していく。
「その身体、電気の通りは、良さそうだ」
 跳躍するエクスマリア、その髪が球状にエクスマリアを包み、すぐさま超高圧の電気の球を作り上げる。間髪入れず射出。圧力すら伴う高圧電気が、東竜の身体を上から押しつぶす!
 ぎゅぎゅぎゅ、と口から空気を吐き出すように、東竜は悲鳴を上げた。
「おまえたちー、こんなことをして……ただで、すぅむぅとぉ!」
 東竜が怒りの声をあげる。吐き出される毒のブレス。イレギュラーズ達はそのブレスを切り裂いて、東竜へと接敵する!
「アト殿、決めよう!」
「了解、あわせるよ」
 メートヒェンの提案に、アトは頷く。メートヒェンは東竜のカエル面、その額に強かな蹴りを叩き込む。ぶわ、とたるんだ皮膚が衝撃で後ろへとめくれ上がり、べぎり、と頭骨にひびを入れる。
「これで、お終い、って奴だ」
 アトは間髪入れずに、そのひびの入った頭骨部分に、刃を突き立てた。文字通りの渾身の一撃が、頭部のひびをこじ開け、その内部機関まで衝撃を与える。
 きゅる、と声をあげて、東竜が白目をむいた。同時に、その巨体がだらしなく地へと投げ出された。一度、二度、大きく痙攣したからだが、やがて動かなくなる。
「目標タイム、達成だ」
 アトが言う。一行は、無事に二体目の配下を撃退した――Aチームがもう残る配下と交戦しているのであれば部下を全滅できているだろう。
「休みたい所、だが。早く戻ろう。時間は、余裕があるだけ良い」
 エクスマリアの言葉に、仲間達は頷いた。
「さあ、帰って仕上げをするとしよう」
 アトの言葉に、仲間達はジョージの運転する車に飛び乗り、中央エリアへと帰還する。
「お帰りなさい。お仲間から伝言。予定通り、南の竜の討伐に向かう……信じられないわね。本当に、配下の竜を倒しちゃうなんて。それも、3体」
 アラクネーの言葉には、驚きと、僅かながらの希望が浮かんでいた。もしかしたら。この人達なら、竜王を倒してしまうのかもしれない。そんな希望。
「ペリカが言ったろう? 今回でループも終わり、とね」
 メートヒェンが言った。仲間達も頷いて見せる。
「ひとまず、あちらが戻って来るまで休息を取ろう。少しでも、身体を休めておいた方がいい」
 ジョージの提案に、仲間達は適当な箇所へ腰を下ろす。
「ケガが残ってる人はいるかしら? 救急箱があるから、些細なものでも言ってね」
 ココロの言葉に、
「では、すこし、お願いする」
 エクスマリアが頷いて、とことことココロの下へと向かった。その腕についた傷を、ココロは消毒して、包帯を巻き始めた。
「凄いわね、あなた達。何処かの世界の英雄様だったりするの?」
 くすくすと笑いながらアラクネーが尋ねるのへ、アトは肩をすくめて頭を振った。
「まさか。ただの観光客だよ」
 謙遜ではなく、それは本心だろう。とはいえ、どこかの世界の英雄である、と言うのもあながち間違いではないのだ。
 アトは空を見上げる。竜王は、未だ空にある。だが、心なしか、その影が先ほどより小さく見えるのは気のせいだろうか?
「見える? ちょっとイライラしてるみたいね」
「分かるのかい?」
 メートヒェンが尋ねるのへ、アラクネーは笑った。
「どれだけの時間、ここで竜王様を眺めてると思ってる? あんなに疲弊している竜王様は初めて見たわ」
「となると……配下を討伐した結果は、しっかり出ているという訳だ」
 ジョージが言った。
「このままのペースでいけば、竜王も、討伐できる」
 腕に巻かれた包帯を撫でながら、エクスマリアが言う。アラクネーは頭を振った。
「どうかしらね……ああ、ごめんなさい。別に気を殺ぐつもりじゃないわ。でも、長いコトここに居るとね」
 どうしても、不安はぬぐえないのだろう。
「大丈夫よ。そのセーターも、きっと完成できるわ」
 ココロの言葉に、アラクネーは笑った。
「あら、じゃあ張り切らないとね……」
 一行がささやかな休憩を楽しんでいた時、南から馬の走る音が聞こえてきた。先頭を走るレクセル……ルル家の姿が見える。その後追うように、馬車を操るウィートラントの姿見えた。
「おっとと、少し時間がかかりましたか! 余裕は残ってますか?」
 ルル家が尋ねるのへ、アトは答えた。
「大丈夫。充分想定範囲内だ。少しくらい休む時間もある」
「では、私が活力を回復させましょう。それくらいなら、よろしいですよね?」
 アリシスが言うのへ、仲間達は頷く。
 アリシスの回復術式が仲間達を癒す中、レイリ―が声をあげた。
「流石にドラゴンと連戦となると疲れるわね……でも、それもここまで」
「ついに竜王との決戦か。腕が鳴るね」
 主人=公が笑う。
 長い戦いに、イレギュラーズ達も決して無傷とは言えない状況だ。だが、その士気は衰えることなく、むしろ高まっている。
 見え始めた、攻略のゴール……否が応でも、胸が躍ると言う物だ。
「では、アラクネー様。しばらく隠れていてくだせー。戦場はここになるのでありんす」
 ウィートラントの言葉に、アラクネーが頷く。
「ええ。気休めだけど、頑張ってね。期待してるわ」
 避難していくアラクネーの背中を見ながら、イレギュラーズ達は頷き合った。
 いよいよ、この階層の、最後の敵との闘いが始まろうとしている。
「じゃあ、呼ぶよ?」
 ココロの言葉に、仲間達は頷いた。それぞれ武器を構え、戦闘態勢を取る。
 アラクネーの言によれば、竜王は呼べば降りてくる。それを信じて、ココロは声を張り上げた。
「竜王様ー! 時間がないから早く降りてきてくださーーい!」
 周囲に、ココロの声の残響が響き渡る――数秒の沈黙。途端、巨大な影が地へと降りてきて、それが巻き起こした突風が、イレギュラーズ達の肌を叩いた。思わず、身構えて風から身を守る。
「我を呼びしは汝らか。その戦い、空よりみせてもらった。見事と言ってやろう。だが、些か不遜であるな」
 ぐるる、と竜王が唸る。巨大な、黒鱗の竜。それが竜王と呼ばれるドラゴンであった。配下のドラゴン達も、強敵としてのプレッシャーを持ち合わせていたが、竜王のそれは配下の比ではない。弱体化してこれほどであるのだから、無策で突っ込んでいたらどうなっていたことか、と、イレギュラーズ達は内心冷や汗を流す。
「ずっと見てた――なら、ボクたちが急いでいるのもわかってるはずだろ?」
 主人=公が声をあげて、改めて武器を構えなおす。此方は準備万端だ。始めよう。そう言うように。
「然り。では始めよう、勇者たちよ。予定通りの滅びを迎えるか、それとも世界を救うか――試してみるが良い」
 竜王は咆哮した。衝撃が、イレギュラーズ達の肌を叩く。しかしイレギュラーズ達はひるむことなく、最後の戦いへと赴くのであった。

●竜王討伐タイマーストップ
「さぁ、来い竜王! 私達がお相手するよ!」
「私はヴァイスドラッヘ! 白竜の騎士を名乗るヒーローだ。世界を滅ぼす竜王よ、討たせてもらう!」
 メートヒェンが構え、レイリ―が竜の意匠の盾を掲げる。二人は敢然と、竜王の前に立ちはだかった!
「良かろう、小さき勇者たちよ。だが、簡単に倒れてくれるなよ!」
 竜王は深く息を吸い込み、途端、それを吐き出す。吐き出されたものは、灼熱の炎、高温度の吐息。なんども体に叩きつけられる破滅の炎が、二人の身体を強かに打ち据えた!
「く――うっ!」
 メートヒェンがたまらずうめいた。
「無事か、メートヒェン殿!」
 盾をかざし、心配する様子を見せるレイリ―だが、しかしその兜の奥の額には脂汗がにじむ。
「大丈夫……しかし、配下を討伐しておいた良かったよ。弱体化しておいてなお、そう何度も耐えられそうにない……!」
 メートヒェンは微笑んで見せたが、しかしそのダメージは深刻である。アトはその様子を確認しつつ、叫んだ。
「やはり、こっちも時間との勝負だ! なるべく早く突破するんだ!」
「さぁ、勇者様のお出ましですよ!」
 ルル家は虎の子の超新星爆発を討ち放つ。何度も竜王の身体の上で破裂する閃光が、竜王の鱗に深く傷を付けて行く。
「たとえ竜王と言えど……死からは逃れられません……!」
 その傷口に叩き込まれるは、『告死天使の刃』だ。アリシスの放つ黒の魔術が、傷ついた鱗に死と言う概念を付与、腐られ、殺し、落としていく。
「我が体に傷をつけるか! 良いぞ、英雄!」
 竜王の振るうしっぽが、アリシスとルル家を捉えた。とっさに自らの身体を庇う二人だが、その衝撃は殺しきれずに強く叩きつけられる。
「くうっ、ほんとに弱体化してるんですか!? 滅茶苦茶元気じゃないですか!」
 思わず苦情の声をあげるルル家。
「まずい。マリアも、回復、援護に回る」
「わたしも全力で術式を編むわ! だから、頑張って!」
 エクスマリアとココロ、二人が回復術式を編み上げ、仲間達をサポートする。敵の攻撃に何とか耐えることは出来たが、戦いが長引けば、いつ決壊するかはわからない。
「流石に竜の王を名乗るだけのはある……だが、彼の竜種に比べれば!」
 ジョージは全霊を以って、一撃を叩きつけた。その破壊力が、竜王の鱗を砕き、肉に傷をつける。確かに、目の前の敵は強い。だが、かつて戦った彼の竜種は、さらに強かった。
 強くならなければならない。また、彼の竜種のような災厄が現れた場合――自らの力で打ち勝つために。
「例え迷宮の一端に過ぎぬとしても、滅亡など踏み倒す!」
 再び叩き込まれる拳が、竜王へと叩き込まれた。蒼白く輝くイサリビ。妖刀を鋳潰して作り上げたそのガントレットが、その妖火ともに、竜王の肉を抉る。
「ぬぅ……やる! だが!」
 再び竜王のブレスが、仲間達を襲った。とっさに立ちはだかるメートヒェン、レイリ―、そしてウィートラント――恐るべきほどの衝撃が身体を駆け抜け、その意識を手放しそうになる。吹き飛びそうになる意識を、皆は可能性を使って無理矢理引き留めた。
「まだまだ、だよ!」
「わたしがいる限り、今の世界は滅ぼさせぬ!」
「やはり……相手のし甲斐がある!」
 三者三様の叫び。再び立ち上がり、竜王へと立ち向かう。
「ここまで来たんだ……ゲームクリアと行きたいね」
「もちろん、ハッピーエンドで、だよ!」
 アトの刃が竜王の腕を切り裂いた。あらわになった傷口に、主人=公の魔力の銃弾が突き刺さる。
「ぐおおおっ!!」
 激痛に、竜王は吠えた。わずかに体から力が抜ける――だが、すぐに踏みとどまると、竜王はイレギュラーズ達を睨みつける。
「終わり、だ。竜王。世界ではなく、お前が、燃えつきろ」
 エクスマリアが奏でる絶望の青を謳う歌が、竜王の脳裏に叩きつけられた。肉体的、精神的な打撃を受けた竜王が眩めき、
「大したものだ、英雄どもよ……! 返礼だ! その肉体、灼熱に焼かれよ!」
 再び息を吸い込む竜王――だが、メートヒェンが動いた。
「させない……よっ!」
 跳躍からの、鋭い回転蹴り――それが、竜王のあごに直撃した。ブレスを吹き出す瞬間、強制的に閉じられた口の中で、灼炎が踊り狂う。がふ、と竜王は爆風を口から吐き出した。口の中が炎でただれた竜王が、たまらず目を見開く。
「貴方に奪われ続けたこの世界を……取り返しましょう!」
 ルル家は投擲やりを『秘密の宇宙警察忍者武器』から取り出した。そのまま多重銀河分身したルル家が、一斉に投擲やりを投げ放つ。無数の投擲やりが竜王の身体に、そして口へと突き刺さった。口を縫い付けるように突き刺さったそれに、竜王はたまらずうめく。
「これで……終わりだ!」
 主人=公の放つ魔力の弾丸が、竜王の顔面へと突き刺さった――激しく、爆発する魔力が、ついに竜王の命へと手を伸ばした。ぐらり、と竜王は地に倒れ伏す。
 それを見届けたアトは、静かに跪いた。
「畏く申し上げる。ただ殺生を成したに之はあらず。そなたの肉を貪り、糧として生きることを許し給え」
「よか……ろう……英雄……よ……」
 喉を焔に焼かれ、口を縫い付けられ、竜王は静かに、喘ぐように赦しの言葉を述べた。そのまま、全身から力が抜けていく。ずし、と地を振動させて、果たして竜王は地に落ち、その命を手放した。
 その光景を照らすように――夜闇に閉ざされた世界に、一筋の光が差し込んだ。それはやがて天に上る太陽になって、廃墟の街とイレギュラーズ達を照らしていくのだった――。

「すごいわね。お見事。他に言う言葉が見つからないわ」
 ぱちぱちぱち、と複数の拍手の音が聞こえた。ふりかえってみれば、複数の腕を使って、アラクネーが一人、拍手をしていた。みて、とアラクネーは言う。
「太陽が昇ったわ。破滅の夜が終わったの。私、こんな光景観たの初めてよ。今は隠れて出てこない、他の住民たちも、きっとそう」
 にこやかに――微笑んだ。
「これで……破滅は防がれた、って事でいいんだよね?」
 主人=公が言う。アラクネーは頷いた。
「よかった。という事は、私達も目的クリア……この階層の踏破に成功したという事だ。階段は、竜王様そのものなんだっけ?」
 メートヒェンが尋ねるのへ、アラクネーが頷いた。アラクネーが指さすと、竜王の身体に陽光が差し、そこから魔法陣のようなものが出現した。それはふわり、と浮かんでから、廃墟の大地に落着すると、光の柱を巻き上げる。
「これは……階段か。なるほど、竜王が階段、とはこういう事だったのか」
 ジョージの言葉へ、アラクネーが頷いた。
「そう。お目当ての階段よ、英雄様方」
「英雄、と言うのはやめて欲しいね……さっきも言ったけど、僕はただの観光客さ」
 アトが苦笑しながら言う。アラクネーは楽しげに笑った。
「とは言え、世界の破滅を救ったのは事実よ? 少しは誇ってもいいんじゃない?」
 レイリ―が笑う。アトは肩をすくめた。
「……ところでドラゴンのお肉って美味しいのでごぜーますかね? できればいくらか貰っていきたいとかでありんすが」
 ウィートラントがそう告げるのへ、アラクネーもさすがにびっくりした様子をみせた。
「あら、怖いこと考えるのね……でも、良いんじゃないかしら? お腹壊さないと良いけれど」
 ウィートラントがさっそく、とばかりに肉を切り離しにかかる……そんな様子を見ながら、
「アラクネー様、あなた達は……これからどうするのですか?」
 アリシスが尋ねるのへ、アラクネーは首をかしげた。
「さぁ、こんなことって初めてだから……分からないわ。でも、分からないって素敵ね。ドキドキしちゃう」
 その言葉に、アリシスは微笑んだ。
「それじゃあ、わたし達、次の階層に向かうね。此処でお別れだけど……色々、ありがとう」
 ココロがそう言うのへ、アラクネーは微笑んで、手を振った。
「素敵なセーター、編み上げて下さいね!」
 ルル家が笑った。
「良いセーターが、出来ると良い、な。」
 リズムよく波打つ髪。エクスマリアが頷いて、アラクネーへと告げる。
「ええ。もし――できたら、また遊びにいらっしゃい。皆に似合うセーター、プレゼントしてあげるから」
 そう言ってほほ笑むアラクネーを残して、一行は階段へと触れた。
 光が一行を包み、次なる階層へと導いていく。
 果ての迷宮、次なる階層。
 そこに待つものは、果たして――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 アラクネーは今日も、11人分のセーターを完成させるべく、滅亡なく巡る一日の中頑張っています。

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