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シナリオ詳細

再現性東京2010:濁った濁った水たまり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 希望ヶ浜。それは練達の一区画に存在する領域――
 旅人の世界における『東京』なる都市を再現した場所だ。
 ここに住まう彼らにとっては異世界たる混沌……などという非日常は受け入れがたいものがあったのだ。或いは、何かの間違いだと思わなければ心が保てなかったか。
 いずれにせよ成り立ちとしては『そういう』場所だ。
 ここに『東京』という日常を再現し、そこに『日常』を送る世界……いや、領域。

 練達の科学技術をもって作り上げられたかの地は今日も『東京』の夢に沈んでいる。

 ――その、一角。
「な、なんだぁこの水たまりは……?」
 ある男がマンションの地下駐車場に降り立った。
 さればそこに広がっていたのは駐車する車の数々とコンクリートの区画……
 ではなく。巨大な『水たまり』であった。
 雨の水でも入り込んだか――? いや今日も昨日も記憶している限り快晴だった。そうでなくても、こんなにこの場所が水浸しになった事など今までない。大雨が降った時に多少水が入り込んだ事があった気はするが……
 水面の下を覗いてみる。随分と濁った水たまりだ。
 下が見えない――もしや水道管でも破裂してこんな事になっているのか――いやしかし――
 そんな事を思考していた直後。
「うぁ」
 水たまりをのぞき込んでいた男の身体に『何か』が巻き付いた。
 それは水の底から。見えたのはタコの触手の様な――異質な『何か』
 抵抗する暇もなく体が引き寄せられる。その時間は一秒と無く、暴れる隙間もない。
 水の音。水面が乱れる波が広がり、そして。

 後に聞こえてくるのは『何か硬いモノ』が砕ける音。

 水の底から。まるで、まるで。ああ――『骨』が折られているような。
 やがて静まる水の波。静寂を取り戻すマンションの地下駐車場。
 其処には只、水たまりだけが広がっていた。

 近付いたモノをまるで獲物の様に引きずり込む――怪異と共に。


「夜妖<ヨル>というものを知っていますか? 知っていますよね――ええ。
 そういう訳で話を進めていきます」
 話を省こうとするのは、音呂木・ひよの。彼女はこの近辺に作られた希望ヶ浜学園に所属する人物で、夜妖<ヨル>という怪異――混沌的な言い方では『魔物』と言った方が分かりやすいだろうか――とにかくソレの専門家を自称している。
 先述した様にこの地は『東京』なる都市を模して造られているが、当然大枠でいえばここも混沌世界の一角である。魔物は突如として出現する事もあり、そんな存在達を此処では『夜妖<ヨル>』と呼んでいるのだ。

 ともあれ本題であるが、その夜妖の出現が確認された。

 当然人に害成す存在であれば打倒する必要がある。ひよのは夜妖の目撃情報があればギルド・ローレット――なんでもここではカフェ・ローレットとも呼ばれているみたいだが――話を持ってくる事もある訳である。
「夜妖はマンションの地下駐車場に現れています。しかも夜、僅かな時間。
 ああ僅かと言っても一時間程度はあるらしいですけど……
 なんでもタコだとかイカだとか。そういう水生生物っていう情報ですよ」
 何の変哲もない地下駐車場……の筈が、ある一時間、水で満たされるらしい。
 それは夜妖の仕業。自らの領域を造り出し、そこに人を引きずりこむ。
 地下駐車場に降りた者が行方不明になっているという話が相次ぎ、ひよのが調べて発覚したそうだ。多分、いるのはタコらしい。
「まぁなんでそんなのが出てきたのかは知らないですけどね。とにかくこの地は『東京』って言う平和な都市なんで。そーいう怪異だとかが出たら困るんですよ」
 行方不明者がどこへ行ったかはともかく。
 それの原因は怪異などという不可思議なものではない、と。
 成程。この地は『そういう場所』なのか……ひよのが言うには、このタコ野郎は地下駐車場を変質させて自分の領域を造り出しているらしい。その範囲は段々と広がっているらしく、やがては地下駐車場から出てくるかもしれない、と。
「その前に『何もなかった』事にしてほしいんです」
 異界化した地下駐車場――特に水たまりから下は多少広い空間が広がっているらしい。
 そこに夜妖が潜んでいるとの事だ。
 水中戦になるのは覚悟しないといけないだろう。水中で行動出来る類の者はいいが、そうでない者は些か準備が必要か……? まぁ最低限息継ぎさえ何とかなれば戦う事は出来るだろうが。
 さてさて再現されたこの都市――『再現性東京』とやら。
 ここでもイレギュラーズの力は存分に必要なようだった。

GMコメント

■依頼達成条件
 夜妖<ヨル>の撃破。

■戦場
 とある地下駐車場。
 後述する夜妖により異界化する時間があるそうで、その際には水たまりが発生します。
 水たまりの中は非常に濁っており、非常に見え辛い環境と成っています。不思議な事ですが、それなりに広い空間が広がっているそうです。

 この中での戦闘が想定されています。
 水中行動などのスキルが無い場合、『息継ぎ』をする必要がありそうです。強引に潜り続けて戦う事も不可能ではありませんが、ある一定以上の時間が立ち始めるとHPとAPが少しずつ減り始める効果がありますのでご注意ください。

■夜妖<ヨル>
 地下駐車場に出没している夜妖です。
 正確に姿は見られてないのですが、恐らく巨大なタコだと思われます。

 水たまりに近付いた者を触手で引きずり込み、捕食する行動があるようです。
 一般人であれば抗う事も出来ず全身の骨を折られ餌となります……触手に捕まれれば【足止】や【乱れ】【崩れ】などのBSが付与される確率が高い事でしょう。その他の攻撃方法があるかは現段階では分かっていません。

 敵は一体なのですが、触手が八本あり実質敵は『九体』だと思ってください。
 触手それぞれにHPがあり、独自に行動してきます。頭と言うか――本体と呼称しますが、本体を倒すと全ての触手も同時に消滅します。本体を倒す前に触手を倒すと、触手は動かなくなります。

■その他
・夜妖を無事に倒せると、異界化した水たまりは消滅しますが――その中から弾き出される様に脱出できるので、倒した後即座に脱出行動する様な必要はありません。
・一般人は行方不明の噂に怖がっている様なので近付い来る人物はいないでしょう。

■再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

  • 再現性東京2010:濁った濁った水たまり完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月23日 22時16分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
久泉 清鷹(p3p008726)
新たな可能性

リプレイ


 再現性東京――練達の一区画にある、その領域。
 ここはまた変わった空間だ。なんでも『東京』なる都市を再現したのだとか?
「はー……わたくし初めてですが、練達ともちょっと違った雰囲気ですわねー
 あちらこちら灯りがあって、なんて明るい……」
「はっはっは――とは言え、此度の依頼では地下の方に行くんじゃがの」
 物珍しい光景に『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は思わずお上りさんの様に周囲を眺めて。『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)は一方で現場の――地下駐車場の方を覗き込む。
 この先に居るという。人を引きずり込んで喰らう、タコの化物が。
「おお、何やら床が不思議な感じになっておるぞ。先んじた情報通りじゃのう……
 じゃがこれも住民の為。希望ヶ浜学園生としてのアカツキ・アマギ、初のお仕事じゃ!」
「ふむ。大きなタコ……か。人を喰らい、仇名す存在ならば退治しなくてはな」
 危険極まると久泉 清鷹(p3p008726)もまた水を眺めて呟くように。
 まだ多少距離を取っている故か引きずり込まれるような感覚はないが、近付き敵に気取られればいつ襲われるとも分からぬ。海の民でもなければ水たまりに引きずられる感覚など『良い』感覚はしないものだが。
「海に慣れてても泥水なんて冗談じゃねぇけどな。凝集剤でもぶち込んでやりたい所だ」
 顎の辺りをさすりながら『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は言を紡ぐ。しかし近付けば引きずり込むと情報にはある……迂闊に近付けば戦闘の開始が先だろうし、戦闘が始まれば効果が出るよりも決着が先かと頭を悩ませ。
「だが考えてても仕方ねぇな……こうなったら一刻も早く終わらせる方のが最善か」
「ええ! 怪異の奴には覚悟してもらいましょう!! 今まで散々人を狩って来た怪異に……狩られるモノの気持ちを教えてやる番です!! ――エイヴァンさんとかが!!」
「俺がかよッ!!」
 だって僕支援型ですしー! と『特異運命座標』ヨハン=レーム(p3p001117)は叫び、さてさて如何に攻略したものかと思案を巡らせ。
 聞いてはいたがやはり深そうだ。息継ぎの暇がどれだけある事か……持ち込んだ小波の短剣が水中での呼吸も可能とするだろうが――あくまで微弱なる効果。戦闘が激しくなり息も激しくなった際、さてどうなるかと。
 しかしどうであれ必ず奴を打倒しなければならない。
 今まで幾人犠牲になったというのか。こんな暗い海の中に引きずり込まれて。
「これ以上被害を広げない為にも、今日で終わらせよう!」
「ええ――このヨルは、ここで潰します」
 そして強い決意と共に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)と『壊れる器』リア・クォーツ(p3p004937)が水たまりの方へと進んで往く。リアは――この再現性東京の、特に希望ヶ浜学園において教師のような立場。あのクソ騒がしい馬鹿なガキどもが巻き込まれないようにする為にも。
 必ず潰す。犠牲者などこれ以上出させるか。
 敵は『たかが』タコ。自分に有利な領域を造り出すのは中々器用なモノだが。
「――それは私にも同じなのだがな」
 その合理性、対峙した時実際如何程かと。
 『艦斬り』シグ・ローデッド(p3p000483)は薄い笑みを浮かべていた。
 さぁ――お前の能力を見せてみよ、と。


 夜妖は感じていた。訪れた『獲物』の存在を。
 ああ今宵もまた食料が向こうからやってくる。
 伸ばす足は食欲の証。掴んで壊して噛み砕いてやろう――としたが。
「それでは行くぞ、皆のものー! 今日はタコ焼きじゃ――!」
 小声。近所迷惑に配慮した声量の一声があったと感じたと同時――水たまりの中に生じたのは雷撃。アカツキの放った雷はうねり、捕えんとしていた足達を纏めて焦がし焼くのだ。
 思わず生じた、いつもの『狩り』と異なる自らへの痛み。
 夜妖は戸惑い――同時に憤慨する。
 喰われるべき存在が何を齎しているのか、と。
「ハッ。その程度で捕食者気取りとは笑わせてくれるな……身の程を思い知ってもらうぜッ!」
 同時。エイヴァンの一撃がその足達を包む。
 衝撃の波は纏めて捉えて。流氷押し寄せる大波が如き一撃に――気を取られるものだ。
 潰さねばならぬこいつはと。で、あればその狭間の駆けるのは。
「食べられた人たちの仇だよ! 全部倒してあげるんだから……!!」
 水中でも行動出来る加護を備えた海ブドウをひと齧りした焔である。水の中でも彼女が纏う炎に衰えはなく、駆ける軌跡は流星の様に。捕まえんとしてくる触手に殴打一撃。
 闘気を火焔に。見据える瞳から繰り出される猛撃は犠牲者の追悼が如く。
 ああ暗い。ここはとても暗い。奥を眺めようとしても濁った全てに視界が阻まれる。
 そこに確かに敵が『いる』のは分かるのだが――
『――!!』
 本体は更に奥底か。響いた声は夜妖のモノ。
 濁りの先から多くの触手が侵入者を薙ぎ払わんと振るわれる。
 ああ、ああいるのだなやはりそこに。聞こえるぞその耳障りな雑音。
「皆気を付けて――なるべく引き付けるけれど、全部とはいかないかもしれないから!」
 故にリアは前へ。あえて触手らの攻撃の対象となる様に立ち回る。
 自らに施された聖なる加護が奴の害悪を阻害しよう。迂闊に攻撃して来れば茨の様に反射する事も出来る――後は水霊と意志を交わす事が出来れば最上だったのだが。
「……いないわね。ここは夜妖の作った空間だからかしら」
 『此処』には何もいない。魚も微生物も精霊も。
 夜妖が独自に作り出した場所だからか――自然空間であれば彼らもいたかもしれないが、やむを得ない。しかし作られた空間とはいえ、ここは確かに水中空間。であればやはりイレギュラーズと言えどいつもと同じに戦える……とはいかない。
 微かに鈍る動きが、変幻自在に繰り出される触手の衝撃に巻き込まれる。
 一撃一撃が確かな威力を伴っている。リアやエイヴァンの引き付けによってイレギュラーズの被害は今の所比較的全体に及んでいる訳では無いが――敵に有利な空間と言う事もあってか、侮れる様な状況ではなく。
「ですがそうはいきませんよ……アウェイなフィールドとはいえやりようはあるものです!」
「ええ動きづらいのはなんともですが……それだけで戦えなくなる程弱くはありませんわー」
 されどそこへ一喝するのがヨハンとユゥリアリアだ。
 ヨハンの分析の号令が味方に力を与える――翻弄してくる触手による負を打ち払い、活力をも与えるのだ。足止めされる力も払ってしまえばよいとばかりに。そしてしかと見据えれば触手の動きも躱しやすくなるものだ。
 更にユゥリアリアの声が味方の力を向上させる。
 彼女の祝い歌は例えどこであろうと響き渡るのだ……濁った水の中であろうと、そんなモノが彼女の輝きを阻害できるモノか。歩を進めるものたちに幸あれ。歩みを止めぬ、希望の持ち主たちに光あれと。
「うふふ、そちらですねー見えないけれど、分かりますよー」
 そして彼女の耳は音の反響を捉える。
 エコロケーション。その真価は閉鎖空間や、或いはこのような水中でこそ発揮するものだ。例えばクジラが海の中で音を反響させる事により魚の位置を捉える様に。今のユゥリアリアには敵の位置が『視えて』いる。
 故にそちらへ歌を。敵を呪う冷たき声を。決して逃さぬ――絶望を。
「敵はタコ……タコといえば足が切り離されても動く特徴がありますね。 
 ならば最後の一撃は『確実』なモノとしておいた方がいいかと……!」
「成程、道理だ……タコの特性を宿していても、確かにおかしいことではない」
 では、と。ヨハンの一声を聞き、触手の一撃を弾いた清鷹はそのまま前へと。
 いや『奥』へと潜っていき。
「――悪いが邪魔な物は切り伏せさせて貰おうか!」
 敵の本体を討つべく――邪魔な触手共を纏めて斬り裂かん。
 極度の集中から放たれる一閃はまるで紫電の如く。薙ぐ斬撃は根本すら叩き斬らんと複数を捉え。
 更に怒る夜妖の本体。骨を砕きその行動力を奪わんとすれば。
「さて……感情のままに行動するのは結構だが自慢の異空間ごと、切断されても知らんぞ?」
 生じる激痛。それはシグの身の変化が故。
 彼の本来の姿……『剣』の刀身が輝いている。
 それは意思の塊の証。勝利を、そして打倒を願う意思が輝きを示し――濁り水の中に確かにあらん。
「砕けるがいい。生きているならまだもう少し相手をしてやろう」
 触手にあえて巻き込まれ、距離を詰める。
 彼の狙いはただ一つ。本体へと少しでも近づき、その身を叩き斬る事。
 深く潜れば潜る程仲間もおらぬから。何一つ遠慮することなく巨大なる刃を天井に向け。

 この異空間諸共断絶せしめん意思を――振り下ろした。


 絶叫。絶叫。絶叫――
 夜妖は震えていた。なんだこいつらは、と。
 誰も彼も楽だった。誰も彼も叩けば砕けて壊れるだけの存在だった。

 なのにこいつらは――

「ふふふ今更臆しましたか? ですが遅いですよ! 逃げられるとは思わない事です!」
 ヨハンの一声。それが響く度に仲間へと加護が齎される。
 それは彼の放つ聖なる盾の加護。齎されれば鉄壁と成る守護の証。
 如何に触手がぶん殴ってこようが超耐久でゴリ押せば問題ないのだ。そう、特に元から耐久を優れている者はコキ使う心算で! このタコを、倒す!
「結局タコ本体をぶっ叩かないと意味がないしね……オラッ! どきなさいよ!
 タコならタコらしく――蛸踊りでもしてなさい!!」
 ほら、ブチ抜いてあげる! と。リア先生ーこわいです!
 ともあれリアは自らに引き寄せている触手を相手に――その隙を見つければ、自らの魔力を叩き込む。いや、正確には魔力を励起して繰り出す剣技を、だ。
 一振りすれば生み出される魔法の剣筋。脅威なりし斬撃が水の中でも確かに紡がれ。
 斬り裂く。穿つ。惚れ惚れとするばかりの一撃で。
 しかし――激しい動きを伴えば呼吸が心もとなくなってくるものだ。水中で行動する為の術式はリアのみならず複数人備えていたが……それはほとんど微弱なる効果。真実の意味で水中で行動できるのはユゥリアリアぐらいなものだろう。
 故に隙を見て息継ぎを。水面に向かって順に空気を求めて。
「じゃが脚共の動きも鈍ってきた気がするの。実質九体分の夜妖と思っておったが……
 そろそろ一気に攻めても良い時か!」
 そしてアカツキが視たのは幾度と雷で焼いてきた触手達。
 時にその巨大な存在で薙ぎ払わんとして来ていたが……ついにその勢いも衰え始めたようだ。初期よりも明らかに弱っている感覚があり、故にアカツキが繰り出すは雷撃ではなく――光の球。
「そろそろおねんねするのじゃぞ。そろそろ頭の方を見たいでな!」
 投じる。されば高速の一閃が濁りの中を突き進んで。
 穿つ。触手の身を。
 あらゆる防御を貫通せん。巨大な肉も穿ちて只の塊と変えてみせよう。
 ――段々と触手が減れば見通しもよくなるものである。無論、濁った水は健在であり遠くが見据え辛いというのはあるが、それでもその中で『動く』気配あらばそこに敵がいるとは分かるものであり。
「あそこですわーいましたよー!」
 故にそこへユゥリアリアが往く。引き続きエコロケーションで位置を捉えつつ――
 彼女の持つ手甲が光り輝くのだ。
 それはまるで灯台の様に敵の位置を知らせる。『明るいところに敵がいる』と分かれば、水で見え辛かろうがそちらへ攻撃を投じる事は可能なのだ。名付けて灯台下暗し作戦……
「……いや暗くないですねこれ。むしろ灯台明るし作戦……?」
「なんでもいいさ――奴を叩けるんなら、良しってな!」
 そんなユゥリアリアを排除せんと触手が向かう。が、それはエイヴァンが封じるものだ。
 戦闘の初めから常に防御の構えをし続けるエイヴァンは正に鉄壁。怒りによっての引き付けも、仲間の庇いもお手の者である。彼の防御を突破するのは困難だし、ユゥリアリアもまた仲間への治癒術を振るえば――尚更に。
 確実に追い詰める。タコを、夜妖を。
 触手達は段々と動かなくなり、イレギュラーズ達は本体への距離を詰めるのだ。
 もはや逃がさぬ。誰の目にもついに頭の姿が見える程になって。
「さて、随分暴れてもらったが……そろそろ観念して貰おうか」
「終わりの時だ。お前さんに『恐怖』なる概念があるかは不明だが……どちらにしろ、だな」
 清鷹の斬撃が振るわれ、更にシグの白き蝶の陣が――夜妖を追い詰める。
 勿論本体も抵抗はするが……触手を含めなければ八体一の状況なのだ。数の差は如何ともし難く、頭に傷が段々と増え始める。されば抱いたのは……
 シグの言う『恐怖』だろうか?
『――■■!!』
 理解出来ぬ言語を撒き散らし。同時にイレギュラーズの目前に出現したは『闇』
 いやこれは『墨』か。タコが持つ緊急用の手段の一つ。
 煙幕にもなり、纏わりつけば暫くの視界不良ともなろう。その隙に致命となる一撃を撃ち込まんと。
「無駄だ」
 しかし予測していたものである。相手がタコであれば。
 シグは躱す様に潜りつつ、それでも纏わりつかんとする闇のカーテンに衝撃波一閃。
 全てを薙ぐとはいかぬが――手で払うかのように押しのけタコを常に捉えるのだ。
 ああ浅はか。この程度で逃げれるとでも思ったか?
「背後を狙う――逃げ道を塞いで、このまま斬り捨てよう」
「うん――こんなモノを苦し紛れに出してきたって事は、もう手段がないって言ってるようなモンだよね!」
 清鷹もまた予測しておりタコの背後に回る様に軌道を描けば。
 追い詰める様に真っすぐ行くのは――焔だ。
 奥歯を噛み締める。絶対に逃がさないとばかりにタコの下へと。
「怖い? 皆、きっと皆怖かったよ! だから――」
 力を込めて。
「君も思いしれッ!! 皆の無念を!!」
 槍を振るう――
 それは神々の力で炎そのものを鍛えて作られた神造武具。カグツチの名を冠する彼女の力。
 その先端に宿った炎の意志が夜妖の内側を焼く。
 爆ぜる様に、咲かせるように。絶叫絶叫絶叫――それでもより深く、より抉る様に。
 仕留める為に。
『■、■■、■■■■■――!!』
 タコの巨大な目が裏返った。
 それは死の証――であれば、夜妖の作ったこの世界もまた終焉を迎える。
 イレギュラーズの身体に衝撃波が生じた。
 それに痛みはない。ただ圧があるだけ――弾き出されるかのような――
「ぬわーっ、想像より何倍も乱暴な排出――! もうちっと安全にならんもんかの――!」
 しかし水場である故か、場合によっては身体が何回転も。
 アカツキは滅びつつある夜妖に抗議しつつ――地下駐車場へと排出された。
 どわー! という声と共に。口の中に入った水を吐き出していれば、皆もまた次々と地上へと。
「やれやれ――終わったか。しかしこう……やはりあまりよくない水だったようだな。まだぬるぬるとした感覚が残っているようだ……」
 頬を袖で拭いつつ、清鷹は体に残る感覚に些か苦い顔を。
 ああ早く湯船で流したいものだ。出来るなら近くに銭湯でもないだろうか……
「皆無事かのう、欲しい者はタオルを鞄に入れてきたので使うと良いのじゃ」
「あーくそ、びしょっびしょ……まぁ疑似的な空間とはいえ水の中ならこうもなるわよね。あーブラウスがぺたぺたくっ付いて気持ち悪っ」
 そしてリアはアカツキからタオルを受け取りつつ己が身を確認。
 なんともはや、実に『宜しくない』状態である。水を吸ったブラウスは体のラインに沿ってべったりと。胸元は特に目立ち……くっ! とにかくこの有り様ではとても東京の街は出歩けない……以下に夜とは言え、万が一学園の馬鹿ガキ共に視られ様ものならアレである。

 ともあれこれでこの場の怪異は終焉を迎えた。

 これ以上ここで犠牲になる者はいなくなる事だろう……
 勿論、亡くなった命が返ってくる訳ではないが。
「……せめて、安らかに」
「……うん。安らかに、ね」
 焔と共に祈りを捧げよう。
 この場で散った命が、迷うことなく――成仏できるように。



 その後。
 此処での怪異は無事『無かった事』になった。行方不明者が出ただけの、不思議な場所。
 その一角には――誰が供えているのか分からないが。
 一束の花が、隅に添えられているという。
 犠牲になった者がいる事を知っている誰かが残した、優しさの一筋……

 そして、行方不明者の噂もまた自然と潰えて行っていた。
 『噂を確かめようと行ったけれども何もなかった』と言う情報がどこかに流れ。
 実際に行っても何もないのだから――当然でもあるが。
「なんだかこういうの、懐かしいですわねー」
 それはユゥリアリアが流した情報。こういう工作は――昔、やった事があるのだ。
 探偵業を手伝っていたというか、なんというか。
 懐かしくも、悲しい思い出。
 あらゆるを暴いた過去の残滓……

 カフェにいる、彼女が外を眺めればそこにあるのは平穏な光景。
 これからもここは続いていくのだろう。
 東京と言うとある世界の都市を再現した――この不思議な領域は。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 再現性東京の怪異……その一つがまた解決されました。
 これ以上の犠牲者は無く、またこの地区は平穏になる事でしょう。

 それでは、ありがとうございました!

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