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シナリオ詳細

再現性東京2010:或いは、女子学園の吸血鬼…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●女学園の吸血鬼
 練達の一区画。再現性東京の外れにあるとある女子校。
 私立希望ケ浜女学園。
 広大な土地と、厳重な警備。
 白を基調とした校舎と、敷地内にある学生寮。
 そして、校舎棟から幾分離れた位置にポツンと建つ古い礼拝堂。
 そこで、その少女は見つかった。
 礼拝堂の真ん中で、眠るように倒れ伏していたという。
 穏やかな、幸福そうな寝顔であった。
 冷たく白い肌。まるで全身の血を抜かれたようだと誰かは言った。
 以来、少女は目覚めないまま数日の時間が経過した。
 けれど、彼女は生きている。
 心臓の鼓動も呼吸も微か。
 目を覚ますこともないままに、まるで時が止まったかのようにただ静々と眠り続けているのであった。
「ねぇ……やっぱり、あの噂は本当だったのではないの? ほら」
「あの噂と言うと、学園に住むという吸血鬼のお話しかしら?」
「えぇ……あの方。鷹見沢さんがそうだって」
 人の口に戸は立てられない。
 女子生徒たちの噂する人物、鷹見沢という女子生徒はひどく目立つ生徒であった。
 生まれつきの白い髪。ビスクドールのような、整い過ぎたその容貌。
 件の女子生徒が見つかった日から、彼女は行方をくらませている。
 その白い肌ゆえか、学園では高見沢こそが吸血鬼だと噂されていた。
 だが、しかし……。
「行方不明というのなら、ほかにも二人……」
「櫻井さんと、茶菓崎さんね」
 先に述べた鷹見沢に劣らず、この2名も学内では有名な生徒である。
 櫻井は180に近い長身の女子生徒だ。
 陸上部に所属しており、全国大会でも優勝するほどの脚力を誇る。
「聞くところによると、櫻井さんの運動神経は常人のそれを凌駕するとか」
「吸血鬼だから、とそう言いたいの? それに、だったら茶菓崎さんの方だって」
 茶菓崎は、黒く艶やかな長髪の女子生徒である。
 学業優秀であり、真面目な生徒として有名だ。
 けれど、彼女には1つの噂があった。
「あの方は、夜な夜な何処かに出かけているとか」
「私は空き教室で、新入生に怪我をさせたと聞いたわよ。何でも血を舐めていたとか」
 ひそひそと、噂は急速に広まっていく。
 当の3名は、未だに行方不明のままだ。

●夜廻り
「女の園で起きた事件……あぁ、まるでワインのようなレッドね」
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はそう呟いた。
 彼女の指すワインレッドとは、血の色のことなのだろう。
「依頼の内容は、鷹見沢、櫻井、茶菓崎の捜索と吸血鬼の討伐よ」
 吸血鬼の正体は、夜妖(ヨル)と呼ばれる怪異であろう。
 人知れず学園内に紛れ込んだ夜妖によって、件の生徒は襲われたのだ。
「3名のうち誰かが吸血鬼で間違いはないと思うけど……さて、どこへ隠れているのかしら」
 3名が揃って行方不明になっている。
 その事実が、事件と無関係とは思えない。
 おそらく、うち2名は吸血鬼に捕らえられているのだろう。
 或いは、人知れず何処かで眠っているのかもしれない。
「幸いなことに、こちらの学園は希望ヶ浜学園との交流があるそうよ。生徒や教師であれば日中から学内へ侵入することも可能でしょうね」
 また、学園関係者でなくとも、潜入に適した立場を用意できたのなら学園内をある程度堂々と散策することができる。
 そうでない場合は、夜闇に紛れ忍び込むことになるのだろうが……。
「日中に潜り込むメリットとしては、生徒や教師から事件について聞き出せることね。3名の好む場所や、趣味など聞ければきっと何かの役に立つわ」
 と、プルーは言った。
 生徒たちは皆、女性だ。
 ゆえに、同性……あるいは、同年代の方が話は聞き出しやすいだろうか?
「それと日中であれば吸血鬼に襲われる心配もないでしょうしね」
 とはいえ、吸血鬼の活動が活発になるのは夜の時間だ。
 実際に戦闘が行われるのは、夜間の学園内となるだろう。
「夜の時間帯、蝙蝠を見たら要注意よ。吸血鬼の使役する蝙蝠でしょうから」
 蝙蝠は学園中に散らばっており、数が多い。
 ダメージは少ないが、数の暴力によって進路や視界を塞がれることもあり得るだろう。
「吸血の攻撃には【出血】や【暗闇】が付与されているわ。真正面から戦闘を挑んでくるとは思えないから、追走戦となるかしら?」
 情報はこんなところかしら、とプルーは言った。
 行方不明の女生徒3名の捜索と、吸血鬼の討伐。
 それが今回の任務の内容となる。
「皆、無事に救出できれば良いけれど」
 まずは居場所を見つけることからよね、と。
 静かな声でプルーは告げた。

GMコメント

●ターゲット
・吸血鬼(夜妖)×1
学園に潜む吸血鬼。
行方不明の女子生徒のうち、誰かがそうであるらしい。
日中にその姿を確認することは難しいが、捜索の仕方や得た情報によってはおよその潜伏場所に目途をつけることは可能だろう。

緋色の口づけ:神中貫に中ダメージ、暗闇or出血
血液で形成した杭による攻撃。

ヴァンピー:物至単に小ダメージ
使役する蝙蝠による攻撃。蝙蝠は夜の学内に無数に飛び回っている。


●場所
私立希望ヶ浜女学園。
再現性東京の外れにある女子高。
大きな校舎と体育館、運動場、図書館棟、礼拝堂、学年別の寮などの施設が存在している。

寮館      礼拝堂
    校舎、図書館
            体育館、運動場

    正門

大まかに上記のような配置となっている。


●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
 

  • 再現性東京2010:或いは、女子学園の吸血鬼…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月10日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
銀城 黒羽(p3p000505)
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
フローリカ(p3p007962)
砕月の傭兵
薫・アイラ(p3p008443)
CAOL ILA
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
九白 洋子(p3p008851)

リプレイ

●捜索ヴァンプ
 月の明かりがフロアを照らす。
長く伸びる細い影。
「さぁ、楽しい体育の時間だ」
そう呟いて『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は薄い唇を笑みの形に歪めてみせた。
 左右の手に持つ2本の刀。紫電を纏う2刀を構え、汰磨羈はまるで弾丸のように跳び出した。

 練達の一区画。再現性東京の外れにあるとある女子校。
 私立希望ケ浜女学園。
場所は1階。生物学教室の片隅で『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)は1人の教師と相対していた。
「はぁ? 行方不明の女子生徒について……ですか?」
 と、そう問うたのは白衣を纏った女教師である。その瞳には、アランの真意を窺うような懐疑の色が浮いていた。
「なァに、個人情報を悪用しようってワケじゃねーさ。こう見えても生徒第一のセンセイなんでな?」
「悪用するとまでは思っていませんが……そうですね、たとえば茶菓崎さんなんかはよく授業の後に質問に来ていましたよ。彼女は真面目で頭の良い生徒でしたから。授業で教える内容のさらに先の事柄に興味があったようですわ」
 チラ、と女教師は資料室へと視線を向けた。
「立ち入らせることは規則があるので不可能でしたけど……」
 
 淑女の通う女子高で、金の髪は良く目立つ。
 その日、2年A組に短期転入生としてやって来た彼女の名は九白 洋子(p3p008851)
 彼女はひどく〝友好的〟で、そして物怖じをしない性格だった。
「どうもー。アタシ九白ってんだー。この学校のことまだ良くわかってないからさー、よかったら色々教えてほしいなって。いや、ほら、ここってめっちゃカタそうだけど、そこんとこってぶっちゃけどうなん?」
 転校早々、背後の席の女子生徒へと声をかけ、友誼を結ぼうと試みる。
 声をかけられた女生徒は、ほんの一瞬驚いたような顔をして、けれどすぐに声をひそめて言葉を返した。
「そうですね。外から見えるほどには実際のところ〝カタい〟ということはありませんよ。生徒の中には、こっそりと夜遊びに出かけている者もいますもの」
 これ、内緒でお願いしますね、なんて。
 その言葉を聞いて、洋子はぐいと身を乗り出す。彼女が声をかけた生徒は、どうやらそれなりに情報通で、そして口が軽そうだった。

 頁を手繰る微かな音と、至極微かな吐息の音。
小柄な体に黒い髪。『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)は何冊かの本を積み上げ、貸出カードを確認していた。
「茶菓崎さんの名前がこっちにも……彼女、随分な読書家なのですね」
「うん? 茶菓崎さん?」
 思わず、といった様子で呟いた綾姫の言葉に反応したのは図書委員らしき生徒であった。積まれた本に視線を走らせ、女子生徒は綾姫の隣に立った。
「茶菓崎さん、早く見つかるといいわね。彼女におすすめしたい本が入ったのよ」
「あら、それはどういった本ですか?」
「彼女、女性が主人公の物語がお好きみたいなの。これもそうよ。女同士の〝濃い〟友情の物語」
「女性同士の友情ですか……なるほど」
 と、そう言って綾姫はチラと視線を泳がせる。
 視線を向けた先には、たった今図書室を出て行こうとする女子の集団。先頭を歩む『高貴なる令嬢』薫・アイラ(p3p008443)と綾姫の視線が交差した。
 アイラは小さく頷きを返し、静々と図書室を後にする。

 アイラを中心とした女子生徒の一団の前に、1人の教師が通りかかった。
 白い髪の小柄な教師。汰磨羈である。
「おや? 随分と楽しそうだな。何かいいことでもあったのか?」
 からかうような口調で、汰磨羈は告げる。それを受け、アイラは花の咲くような笑みを浮かべた。
「これから寮館と礼拝堂を案内していただく予定ですの。何でも彼女たちが〝女性の呻き声を聞いた〟とか〝真夜中に人影を見た〟とか……」
「へぇ、それはそれは…・…実は、その手の話が好きでね。もっと聞かせてくれないか?」
「えぇ、もちろん。先生もぜひご一緒しましょう。妖しい場所は、昼間のうちに確認しておきませんとね」
 なんて、言って。
 アイラと寮館と汰磨羈は、その口元に笑みを浮かべて視線を交わす。
 そうして2人は、女子生徒たちの案内で〝噂〟の現場の視察へ向かう。

 時刻は放課後。
グラウンドの片隅で、『砕月の傭兵』フローリカ(p3p007962)は宙を舞っていた。鉄棒を掴み、身体を回転させるその技の名は大車輪。
 スタン、と地面に着地してフローリカは挑発的な笑みを浮かべた。
 一拍遅れて、見物していた生徒たちが拍手を降らせる。
 喝采の中、フローリカは近くの生徒に声をかけた。
「私もなかなかやるもんだろ? ところでさ、この学校には櫻井っていうすげぇ生徒がいるんでしょ? 今日はいないの? その子と勝負してみたいんだけどさ」
「櫻井さんは、実は少し前から行方不明なの」
「ふぅん? ぜひとも競い合ってみたいんだけど、ねぇ、櫻井さんが頻繁に出入りしている場所とか交友関係とか……知ってたら教えてくれない?」
「知ってどうするの?」
「うん? それはもちろん、探すんだよ。ぜひ勝負してみたいし……場合によっては完膚なきまでに負かしてしまいたいしね」
 なんて、言って。
 フローリカは、獣のような笑みを浮かべる。

「それでは、俺はこれで。礼拝堂の掃除がまだ終わっていないので」
そう言っては銀城 黒羽(p3p000505)は深く一礼。踵を返すと、迷いのない足取りでグラウンドを後にする。
そんな黒羽の背に向けて『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は手を振って。
「っス! 用務員さん、案内ありがとうっした!」
 葵の立場は“見学に来た他校の生徒”というものだ。本来であれば私立希望ケ浜女学園は男子禁制の園なのだが、そこはそれ、用務員として潜り込んだ黒羽が教師と掛け合い、特別に見学の許可をもぎ取ったのだ。
 女の園に、男性である葵の存在は異質なものだ。
 ゆえに彼は、ただそこにいるだけで注目を集める。
 注目されれば、それだけ有用な情報も手に入りやすくなるだろう。それを期待し、葵の口元には笑みが浮かんだ。
 そんな葵に、黒羽は鋭い視線を向ける。目が口ほどに物を言うのなら「油断をするな」と、彼の視線はそう告げていた。
「構わない。それより、あまりおかしなことをしないようにな。ここは女子高なのだから」
「分かってるっスよ。用務員さんも、頑張ってくださいっス!」
 葵の声は良く通る。
 帰宅途中の女子生徒たちが、その声に反応し葵へと視線を向けた。女子高のグラウンドにどうして男が混じっているのか。
 そんな彼女たちの疑問を解消したのは黒羽だった。
「櫻井君の実力が気になって、わざわざ訪ねてきたそうだ。特別に見学許可が出てね」
「用務員さん。なるほど、そう言う事情なのですね……でも、櫻井さんは」
「わかっている。櫻井君は行方不明だと伝えたんだが……俺も心配しているのだが、彼女の行きそうな場所に心当たりはないか? 櫻井君だけでなく、鷹見沢君や茶菓崎君の行方や行動、何でもいいから教えてくれると助かるのだが」
「そうですね。私たちも心配してますの。私たちの知っている範囲で良ければ……そうだわ。他の生徒にも聞いてみて、ご連絡しますので、連絡先を教えてもらってもいいですか?」
「あぁ、よろしく頼む」
 ポケットからaphoneを取り出しながら、黒羽は小さく頭を下げた。

●追走ヴァンプ
 それぞれに散開して夜の校舎を探す8人。
 校舎の外周を歩いていたアランは、そこで何かの羽音を聞いた。
「しかし、夜の学校っつーのは不気味だな。そりゃ怪談なんて出来るわけだ」
 目や口などの存在する異形の剣を引き抜いて、アランは周囲へ視線を巡らす。
 アランが聞いた羽音は鳥のそれとは微妙に違った。学園に巣食う吸血鬼の使役する蝙蝠の羽音だと当たりをつける。
 やがて……。
「見つけた!」
 窓の向こう。廊下の角から駆け出した小さな人影を視界に捉えた。
 そして、その影を追う洋子の姿も。
「ちょっと待ってよ! ってか、何であんなことしてたの? やっぱ押し込められるとさ、女同士でもそういう関係になったりとかすんの?」
 人影へ向け洋子は問うた。
 疾、っと素早く腕を振る。閃いた火炎は、しかし少女にぶつかる前に蝙蝠の群れに防がれる。炎に焼かれた蝙蝠たちを払いのけ、洋子はさらに速度をあげた。
「あっちは……寮館の方向か」
 少女の進路を封鎖し、体育館へと誘導することが目的だ。それを成功させるため、アランもまた追走に加わるのだった。

 図書室の奥、廃棄予定の本や閲覧禁止に指定された書架を仕舞う倉庫の中で綾姫はそれと遭遇した。
 月明りの差し込む埃っぽい部屋。その真ん中。
 床に横たわる2人の女生徒。青白い肌……そして。
「貴女のこと、見ていたの。その2人は食べちゃったから、次は貴女にしようと思って」
 首筋に走る悪寒。細く冷たい指が、綾姫の首に触れていた。
「私に不意打ちは成功しません」
 吸血鬼の指が首に食い込むその直前、振り抜かれた竹刀袋がその右腕を強かに打つ。【エネミーサーチ】により敵の接近を察知していた綾姫は、吸血鬼が射程に入るのを待っていたのだ。
 舌打ちを零し、吸血鬼は身を翻す。追撃をかけようとした綾姫の眼前を、無数の蝙蝠が塞いだ。魔力を纏った斬撃で蝙蝠たちを打ち落とし、綾姫はaphoneで仲間たち……校舎内の探索を行っていた洋子たちへと連絡を入れた。

 桃色の髪をふわりと揺らし、アイラは笑う。
 いかにも淑女然とした佇まい。
 吸血鬼の進路を塞ぐアイラの前には、影を具現化したかのような異様が控える。それはアイラの影だった。明らかに異常……少なくとも、これまで餌食として来た少女たちとは違った存在。
「寮制の女学校、乙女の花園に咲くミステリー、噂の花は吸血鬼。いかにも古典怪奇文学めいた舞台立てですのね」
 吸血鬼と相対し、余裕を崩さないことにも恐怖を感じる。踵を返し、吸血鬼はアイラを避けて逃げ出した。
 背後で空気を切り裂く音。アイラの影が、蝙蝠を引き裂いたのだ。

 グラウンドを駆ける青年の影。
 綾姫からの連絡を受け、葵は急ぎ体育館へと向かう。
「こっちは外れっスか……それなら、先に体育館に移動しておくべきっスかね」
 彼の走力を持ってすれば、グラウンドから体育館までの移動には大して時間はかからない。走りながら、葵は右の腕を掲げた。
 ガントレットを纏った拳。裏口の扉を殴りつけて、葵は体育館へと飛び込んだ。
 葵が館内に立ち入ると、そこにはすでに2人分の人影が相対している。
「さぁ、楽しい体育の時間だ」
 それは、2刀を構えた汰磨羈と……。
 表情を歪めた茶菓崎であった。

「無事に体育館へと誘導できたな。私もそっちへ向かうとするか……姿を表さないのは厄介だが、見つけてしまえば容易だな」
 吸血鬼を体育館へと追い詰めるべく、通路の封鎖を担当していたフローリカはハルバードを担ぎ走り出す。
 体育館へと辿り着いたフローリカは、入口付近で立ち止まっている黒羽を見つける。輝く鎧を纏った彼に訝し気な視線を向けるフローリカだが。
「行け。俺はここで吸血鬼の逃走ルートをブロックする。また逃げられては面倒だからな」
「あぁ、なるほど。そういうことね……っし、あっちは任せときな!」
 短く意志の疎通を済ませ、ハルバードを大上段へと振りかぶる。
 進路を阻む蝙蝠の群れを物ともせずに、彼女はまっすぐ茶菓崎目掛けて切り込んだ。
 
●討伐ヴァンプ
 夜闇を切り裂き、無数の蝙蝠が飛来する。
 メイドロボット橘さんは、主である黒羽に蝙蝠の方向を指示。それに従い、輝く鎧を纏った黒羽は顔の前で腕を交差し衝撃に備える。
 黒羽が防衛を担う扉は、体育館の正面入り口。もっとも出入りしやすい扉だが、黒羽のガードはまさに鉄壁。
「吸血鬼自体は特異運命座標の中にも何人かいるし、敵としても対峙したことはあるが……まぁいい、さっさと終わらせよう」
 そう呟いて、黒羽はアランと、そしてフローリカへ視線を向けた。
 頷きを返し、それぞれの得物を肩に担ぐ。異形の大剣とハルバード。阻むように、蝙蝠の群れが飛来した。
 鋭い牙が肌を引き裂く。体当たりを喰らい、体勢を崩す。
 それでも2人は前へと進み……。
「元生徒を潰すのは心苦しいが、死ねやクソがァ!」
 先に吸血鬼のもとへたどり着いたのはアランであった。アランの大剣が紅く輝き、不気味な気配を刀身に纏う。表情を歪めた茶菓崎は地面を蹴って宙へと跳んだ。
 咄嗟に振られた汰磨羈の刀が空を切る。
「女の子には優しくするべきじゃない?」
 形成された血の杭が、アラン目掛けて疾駆する。
 けれどそれが、アランの胸を穿つことはない。
「大技を出す瞬間にカウンターを合わせるとかってさー……ありそうじゃん?」
 杭を打ち砕いたのは洋子の【焔式】。
 炎を纏った拳を突き上げ、洋子はにこりと笑って見せる。けれど、その額や肌にはおびただしい血が滲んでいた。
 着ていた制服もボロボロなうえに血塗れだ。洗濯しても二度と着れはしないだろう。
 驚愕に目を見開く茶菓崎。
 その肩から胸にかけてを、アランの剣が切り裂いた。
 
 血飛沫を散らし、茶菓崎は床に落下する。
 そこへ駆け込んだのはフローリカ。大上段に振り上げられたハルバードを見て、茶菓崎は短く舌打ちを零した。
 人間のそれを遥かに超えた反射速度で、茶菓崎は素早く立ち上がり、ハルバードによる一撃を回避。斧の刃が床を砕いて、木っ端を散らす。
「ちっ……速いな」
 遠心力を利用して、フローリカはさらなる一撃を振るう。けれど、その時にはすでに茶菓崎は斧の射程の外へ退避していた。
「ねーねー、これ修理とかってどうすんの?」
 そんな洋子の問いかけに、フローリカの返す答えは「……」気まずそうな沈黙だった。

 怨嗟の声を吐きながら、疾駆する矢が茶菓崎の進路を的確に阻む。
 ならば、と射手を狙って蝙蝠を飛ばすが、それはどこからともなく召喚されたアンデッドにより阻まれた。
「なに、それ? 死体?」
「使用人ですわ。わたくし、戦いは使用人に任せておりますの」
 アイラの足元から伸びる影が、地面を這って茶菓崎の眼前へと迫る。血の杭を撃ち出し、影を牽制する茶菓崎だが、アイラは余裕の笑みを崩さない。
 アイラの攻撃は、茶菓崎にダメージを与えられていない。茶菓崎の逃亡を阻むことに注力しているからである。
 けれど、しかし……。
「隙だらけ。終わりっスよ! 吸血鬼の名を騙ったバケモン!」
 杭を放った直後の隙を、葵は正しく狙い撃つ。
 壁を蹴って跳んだのだろう。体育館の壁面には、大きな罅が走っていた。急加速からの急接近。葵の蹴りが、吸血鬼の腹部を穿つ。
 血を吐き、床を転がる吸血鬼。
 床に散った血液は、即座に蝙蝠へと姿を変えた。
 イレギュラーズたちの視界を封鎖するように、蝙蝠たちが舞い踊る。蝙蝠に襲われた葵は、たまらず数歩後ろへ下がった。
「脱出経路を封鎖しますわ!」
「了解っス!」
 鋭い足刀で、蝙蝠を木っ端に粉砕しながら葵はそう言葉を返した。
 これ以上の追撃は難しいと判断したのか、フローリカと葵は扉の前へと移動を開始した。
 見ればアランや洋子、フローリカもまた窓や倉庫の前を封鎖している。
 そんな中、少しでも茶菓崎の軌道を削ぐべく汰磨羈は姿勢を低くして、茶菓崎の元へと駆け寄った。
 茶菓崎に思考の時間を与えてはならない、と彼女の勘が告げていたのだ。
「B級ホラーはこれで終いだ。吸血鬼らしく、灰になるがいい!」
 まるで、それは流れるように。
 水を纏った汰磨羈の刀が夜の闇に閃いた。
 一閃、二閃と続く斬撃。その軌道に淀みはなく、それゆえに酷く避けづらい。
「くぅ!」
 一瞬、月を雲が覆い隠して辺りは闇に包まれた。
 数秒後、雲は流れ光が戻る。
 床に零れた膨大な血と下半身……茶菓崎の上体は、そこになかった。

「上だ!」
 と、そう叫んだのは黒羽であった。戦場から幾分離れた位置で茶菓崎の動向を注視していた彼だけが、消えた上体の行方に気付いた。
 蝙蝠に引きずられるように、体育館の上方……明り取りの窓から脱走しようと茶菓崎は宙を泳ぐ。
 そんな茶菓崎に視線を向けて、綾姫は静かに剣を構えた。
 顔の横に掲げるような大上段。
 構えた剣に宿る魔力が、リィンと鐘に似た音を鳴らす。
 そして……。
「真面目で頭の良い生徒……ゆえに、本来であれば立ち入り禁止の書庫や資料室の鍵を借りることもできたと聞いています」
 書庫や倉庫、資料室。あるいは空き教室などで、彼女は静かに勉学を……時には、他の女子生徒との友誼を深めていたそうだ。
「鷹見沢さんや櫻井さんはよほど美味しそうだったのでしょうね。彼女たちのためにも……逃がしません!」
 なんて、言って。
 綾姫は刀を振り下ろす。
 放たれたのは魔力の斬撃。
 空気を切り裂き飛ぶそれは、茶菓崎の上半身を真っ二つに切り裂いた。血に戻った蝙蝠たちが床に零れる。
 重力に引かれ、落下しながら茶菓崎は綾姫へ手を伸ばした。
 血に濡れた白い手……それが綾姫に届くことはなく。
「貴女も……美味しそうだったのに」
 それが吸血鬼……茶菓崎が残した最後の言葉。
 床に落ちた茶菓崎は、灰と化してこの世を去った。

成否

成功

MVP

蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
吸血鬼、茶菓崎は討伐され鷹見沢と櫻井は無事に救助されました。
眠っていた他の女子生徒と併せ、いずれ目を覚ますことでしょう。
依頼は成功となります。

此度はご参加ありがとうございました。
吸血鬼捜索とその討伐、お楽しみいただけましたでしょうか?
また縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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