シナリオ詳細
<禍ツ星>侵されし神の器具
オープニング
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豊穣郷カムイグラ某所。
日暮れ時、祭りで活気づく街中から少し離れ、ほとんど人が足を踏み入れない小さな社へとやってきたのは、黒い着物を着崩した妖狐の女性。
長い金の髪に金色の毛並みをした獣耳、もふもふした4本の尻尾を持つ彼女は、楓と言う名を持つ。
彼女はモノクルを吊り上げ、満面の笑みでそれらの神具を珍しそうに眺める。
「一見、普通の神具に見えるのだけれどね」
この場へと案内してくれた鬼人種男性によれば、怪しげな気配が感じされたことで利用を止め、離れたこの社へと移動させたのだという。
呪具とされた7つの陶器に並々ならぬ興味を抱き、楓は調査を名乗り出ていた。
見るからにそれらの器具は禍々しい気を感じていたのだが、彼女もこれくらいでは臆することもなく近づいていく。
楓自身も妖力、妖術と言った神秘の力を4本の尾に宿しており、戦いこそ好まないが、怨霊程度なら自分の身を護る程度の力は持っている。
だからこそ、彼女は呪われた器具にも恐れることはなかった。
「ふむふむ……何かの影響を受けているようだね……」
しかし、それらの呪具の傍にはすでに、強い力を持つ危険な存在が潜んでいて。
暗がりの中に身を隠していた獣が何かを一閃させると、飛び退いた楓の髪が数本切り裂かれてしまう。
「ヒヒッ……」
身を躍らせたのは、人の姿を取る凶悪な面構えをした妖怪鎌鼬。そいつの全身、周囲には多数の刃が浮かんでおり、異形ともいえる姿をしていた。
その力を肌で感じた楓。上手く裂けたかと思いきや、頬に赤いものが走る。
赤い液体と同時に流れ落ちる汗。楓は蛇に睨まれた蛙のように体を硬直させてしまう。
「観念したかァ? ヒヒッ……」
くいっとその妖怪が片手をあげると、ひとりでに浮かび上がった呪具から新たな鎌鼬達が姿を現した。
「「ヒヒヒ……」」
凶悪な面構えをしたそれらは目の前の楓と案内役の鬼人種を威嚇してくる。
「……きみは助けを呼んでくるんだ」
「す、すみません……!」
楓は鬼人種男性に退避するよう促すと、彼は悲鳴を上げながらダッシュして社から外へと逃げ出す。
呪具を持った鎌鼬が男性を追おうとするが、楓が睨みを利かせた楓が気を放って制止する。
「ヒヒッ、いい力を持っているじゃないか……」
ペロリと舌なめずりする鎌鼬の親玉。
凶悪な面構えをしたそいつは楓を着物ごと切り裂き、寸止めしてみせる。余計なことをするなと言わんばかりに、傷つけるのを止めていて。
「オマエは『複製』とするにふさわしい」
奇妙な引き笑いをする敵に、刃を突き付けられた楓は思わず身震いしてしまうのだった。
●
『黄泉津』のカムイグラにて行われる夏祭り。
そこに、『怪しげな呪具が出回っている』という知らせがローレット所属の情報屋からもたらされている。
「思った以上に危険な状況だと思われます」
此岸ノ辺『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は神妙な表情でローレット・イレギュラーズ達へと今回の事態について語る。
今回の夏祭りは、海洋と豊穣による合同祭事。
存分に楽しみたいところだが、大きな問題が発生していたようなのだ。
「夏祭りに使用される祭具の中に、呪具が紛れ込んでいたようなのです」
呪具を手にしたものは狂気に駆られるという話もあるが、幸い今回の事態は事前に異常が判明した為、お清めを行う為にと少し離れた社へと運ばれた。
それに興味を抱いたのが、豊穣の地に在住する妖狐の獣種、楓だ。
薬師、研究者、学士、識者と様々な側面を持つ彼女は全てにおいて高い能力を持っている。
今回、呪具について興味を抱いた楓はお祓いの前に、その調査を買って出ていたのだが……。
社へと置かれていた呪具の周囲に肉腫種『凶刃鼬』が姿を現し、さらに7つの呪具それぞれを複製肉腫となった鎌鼬達7体が手にしている。
楓は身を挺して案内役の鬼人種を避難させたが、その後、彼女は凶刃鼬に捕まってしまっている。
「凶刃鼬は楓さんを複製肉腫とするつもりかもしれません」
敵の能力など、詳しく分からない部分も多いが、できるだけ早く彼女を救出したい状況である。
「肉腫種の力は魔種ほどにあると聞いています。……くれぐれもご注意を」
アクアベルは最後にイレギュラーズ達の身を案じながらも、説明を終えて小さく頭を下げたのだった。
- <禍ツ星>侵されし神の器具Lv:15以上完了
- GM名なちゅい
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年08月06日 22時35分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
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カムイグラが祭りで活気づく中、ローレットイレギュラーズ達はその喧噪から離れていく。
「カムイグラに来たばかりだが、早速か……」
隻眼、オールバックの大男、銀城 黒羽(p3p000505)がこれまで聞いた話を思い返す。
呪具に肉腫、それと『怪しげな呪具が出回っている』という噂……。
「休まるときなんかありはしないもんだ」
ローレットイレギュラーズを取り巻く現状に、黒羽は思わず嘆息してしまう。
まだ全然詳しくない土地、未知の敵、呪具との関係性……。
小柄でスレンダーな海種少女、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)も知らないことが多すぎて、不安は拭えずにいる。
「でも、やってみせる」
リスクは大きいことはココロも承知。
だが、皆を救けに向かわぬようなら、自身の目指す目標にはいつまで経っても届かない。
そう考えているからこそ、ココロはこの依頼の解決の為に一歩踏み出す。
「肉種かぁ……魔種が滅びのアークを増やした結果がこんな形でも現れるんだね」
銀髪の風来坊、故郷の鉄帝で拳闘士として名を馳せたこともある『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が口にした肉腫こそ、豊穣の地で交戦する主たる敵となりそうである。
「妖相手なら何度か戦った事はあるけれど、肉腫は初めてかな」
自然の中で生きていたオッドアイの瞳で柔和な笑みを浮かべる『特異運命座標』Binah(p3p008677)としても、厄介な相手には間違いない。
「殴ってなんとかなるって点はラクなんだけれど、イロイロと悪賢いのは困りものだね」
何からでも発生しうるその存在は、パンドラを持たぬ生物全てに感染しうる。そして、混沌にあるものの破壊の為に働くのだ。
「神具を侵蝕するとは肉腫とやら、捨て置けないな」
「肉腫に感染した、文字通りの呪具ですかー……」
前髪で片目を隠す鍛冶師の青年、『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)がこの事態に危険を感じていたようで、対処すべきと主張すれば、シロイルカ型の海種である『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)が呟く。
現状、そうしたことに詳しい者が『純正肉腫』(オリジン)である凶刃鼬によって捕らわれている。
ユゥリアリアはこの事件に、相当の根深さを感じていたようだ。
「はわわ、なんだか大変そうね。……いえ、他人事にするのは良くないわ」
天義の騎士見習い『聖少女』メルトリリス(p3p007295)は小さく首を振って。
「さくっと倒して、その狐のお姉さんを助け出さないと、大変なことになってしまうようね?」
メルトリリスは反転みたいなことをしているのだろうかと疑問を抱いていたが、純正肉腫は相手を傷つけたり、魔力干渉を行ったりすることで、相手に傷や魔力的干渉を行って『複製肉腫』(ペイン)を生み出すことが出来る。
「まさか楓さんが捕まる事になるとはね」
多数の世界を冒険し続ける青年、『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は想像以上に純正肉腫という存在が危険なものだと認識する。
それだけでなく、事件としての難易度が高く不明点も多い。
だからといって、荷が大きすぎるなどとカインも泣き言をいうつもりはなく。
「以前の礼はまだ返せてないんだ、こんな形でだけど――此処で返させて貰おうか!」
カインにとって、捕まった四尾の妖狐の獣種である女性、楓とは豊穣を探検していた間に出会い、意気投合した縁だ。
カムイグラにまつわる蘊蓄話を多数語ってもらった恩がカインにはある。
「余り悠長な事は言ってはおれん状況だが……。先ずは後顧の憂いを断つ為の布石を打たねばな」
肉腫は今回の相手だけではないし、呪具となった神具についても気になるところ。
「これ以上、感染を拡大させる訳には行かない。ここで絶対に食い止めるぞ」
イレギュラーズとして、それ以前に鍛冶師として錬は祭器を放置できないと依頼解決に意気込みを見せる。
「今の俺にはちょうど良い。依頼は完遂させてもらうさ」
「僕は僕にできることを頑張るとするよ」
黒羽は休む間もなく依頼に当たれるこの状況が丁度良いと事務的な態度で依頼に臨めば、豊穣の良い部分を見たBinahはこの地の平和の為にと身を乗り出す。
「人質を助けるように頑張ろう!」
「それだけではない。今後の為にも俺達の力を奴らに示してやらねばならん──行くぞ」
気合いを入れるイグナートに合わせ、ファンタジー世界から召喚された男性騎士『Black wolf = Acting Baron』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は仲間達へと促し、現場である社へと向かっていくのである。
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現場近くまでは鬼人種青年が案内してくれていたが、足手纏いと判断した彼は社に続く道の途中で立ち止まり、現場である社までの行き方だけ告げて待機する。
その際、楓救出の手助けをさせるべく、錬がその青年の姿を模した練達上位式を作成していた。
救出といえば、ベネディクトがファミリアーの鳥を救出実行役のカインへと渡す。突入に最適と思われるタイミングで合図を出す為だ。
また、協力してくれる錬の知人である情報側の人間が1人。
「この肉腫とやら、もしやかの件の『ロザリオ』と似たようなものか──?」
兵部省に務める忍びとして、夏祭りの警備をしていた白金 錺は別件で関わったロザリオとも今回の呪具は関連があると判断していたのだ。
その為、豊穣側の助力として今回は影ながら協力してくれるとのこと。
簡単な打ち合わせの後、カインは皆と別れ、錬の知人である精霊種女性、白金 錺と共に行動することに。
他メンバーは正面から社へと慎重に近付いていく。
「いるね。敵対する反応が7つ……8つ」
外に2つ、中に6つ。どうやら、オリジンと思われる反応が社内にいることをメルトリリスは仲間達へと伝える。
一行が社へと近づくと相手もこちらの接近を察したのか、社に出ていた敵が4体に増えていた。
妖である鎌鼬達は肉腫に侵されて狂暴性を強化され、狂ったように近づいてくるイレギュラーズ達へと牙を剥き、鋭く研ぎ澄ました刃を煌めかす。
「複製肉腫である鎌鼬をどうにかしないとね」
Binahに同意し、皆、交戦状態に入る。
「…………」
それを、カインは物陰から見つめ、モンスター知識を総動員して社内部にいる凶刃鼬の隙を窺う。
獲物を狩るべく、両目を光らせた鎌鼬達が襲い掛かってくる。
「「シャアアアアアアアアアッ!!」」
鎌鼬と言えば、つむじ風に乗って現われて切りかかってくる妖怪だ。
様々な伝承が残っているが、今回現れているのは肉腫の影響もあって理性などはまるで感じさせない相手。
「まずは周りの鎌鼬の対処か」
向かい来るそれらの敵と対する黒羽はネガティブな感情の一切を封印。闘気を全て守りに使用することで強靭な鎧を……【剛毅の型】を展開して身を固める。
そして、黒羽は別途闘気を鎖状にして放ち、多くの鎌鼬を巻き込むように撃ってその身を縛り付け、強く自らに気を引こうとする。
壁役としては、巨躯の白熊の獣人『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)も存在感を示す。
この場で彼が行うのは、メイドの中のメイドが誇るサポート体制を戦闘へと流用したもの。
構えをとったエイヴァンは個別に敵の注意を引く。
精神に作用された鎌鼬は勝手に体が動き、エイヴァンへと襲い掛かっていく。
本当なら、鎌鼬全員を纏めて捕らえたかったココロだが、この場は外にいる4体全員を捕捉してうねる雷撃を浴びせかけていく。
守りに、攻めに動き出す仲間達をユゥリアリアが支援する。
「…………♪」
訥々と零すように、旋律を口にするユゥリアリアの声に、皆精神を落ち着かせて動きが幾分か素早くなる。
「必ず、この戦いを勝利へと導きますわー」
それだけではなく、ユゥリアリアは全軍銃帯の号令を発する。応援が得意だからこそ仲間達が実力以上の力を出せるよう彼女は全力を尽くす。
すでに仲間達の攻撃が集中する鎌鼬目がけ、イグナートは鉄騎の拳を叩き込む。
鎌鼬が持つ呪具も気になるところ。その1体も陶器製の神具を肌身離さず所持している。
イグナートはそれを巻き込むように拳を叩きつけていくと、殴打を受けた鎌鼬は傷つきながらも斬撃を持って反撃を繰り出す。
時に彼らの刃は衝撃波となり、全身に斬撃を浴びて苦しむ鎌鼬。
「──どうした、その程度の風の刃では俺を倒しきる事は出来んぞ」
そいつにベネディクトが肉薄し、軽槍グロリアスを全力で振りぬく。
ベネディクトによって腹を大きく切り裂かれた鎌鼬が倒れると、持っていた神具が地面へと転がった。
「まず1人!」
イグナートが叫ぶと、社から残りの鎌鼬が飛び出す。
数は3体から6体に増えるが、それでも数ではイレギュラーズが優勢。
仲間達が鎌鼬と交戦する間に、カインは錺と共に、敵に気配を気取られぬよう隠密行動をとって社へと近づいていくのである。
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刃を煌めかせて襲い来る肉腫と成り果てた鎌鼬どもの対処の為、イレギュラーズ達は各自が自身の役割を果たすべく立ち回る。
「こっちを見なさーい!!」
声を荒げて叫ぶメルトリリスに、社から飛び出してきた2体が飛び掛かっていった。
メルトリリスはそれらの敵の攻撃を引きつけつつ、社へと視線を向ける。
現状、凶刃鼬が社から出てくる素振りは見られないが、Binahもそいつに名乗り口上を仕掛けることを想定しながら、防御、反撃態勢をとる。
フリーになっている敵を含め、彼は2体鎌鼬のブロックへと当たっていく。
社前の交戦は激しさを増す。鎌鼬は狂ったように刃で切りかかってくるが、エイヴァンはそいつを含めて周囲の敵と纏めて斧砲を叩きつけていく。
「おおおおっ!!」
白熊の巨躯を持って、鎌鼬達に衝撃波を叩きつけていくエイヴァンの打撃は、流氷押し寄せる大波を思わせる威力。
纏めて殴りつけた鎌鼬のうち1体が崩れかけると、仲間達も追撃をかける。
絶望の海を歌うユゥリアリアの音色に魅了された1体へと鉄騎の拳をイグナートが叩きつけ、雷撃に変換した闘気を軽槍に纏わせて鋭い一撃を突き出す。
だが、鎌鼬は死力を尽くして抑えるエイヴァンの体を裂こうとしたが、彼はどっしりと構えてそいつの意識を肉体から完全に切り離してしまう。
地面へと落ちる呪具。
「2人目!」
鎌鼬を倒す度、イグナートがカウントを進めて叫ぶ。
彼はそうして、社内にいるはずの凶刃鼬へとプレッシャーをかけようとしていたのだ。
なおも戦いは続き、イレギュラーズと鎌鼬が入り乱れて乱戦状態に。
前線で壁となるエイヴァン、黒羽、メルトリリス、Binah。
イレギュラーズ達の壁は厚いが、肉腫化した鎌鼬どもの刃は鋭く、その壁を砕きかねない力がある。
前線を支えるのは、魔法式医術を使うココロだ。絶え間なく仲間達は鎌鼬の刃に傷付く状況もあり、ココロはまるで美しい大鐘を鳴らすような音を鳴らし、仲間達に祝福を与えていた。
同じく、前線を強化支援するユゥリアリアは背に生み出した光翼を羽ばたかせ、仲間を癒し、鎌鼬には光刃で切りかかっていく。
錬は傷つく身体を再生してから式符を手にし、陽光の鏡を創鍛してから一気に光線を放つ。
そのタイミング、錬は鎌鼬が持つ呪具にも光線を与えるよう意識する。
(不殺付きだし浄化できれば最良、庇うように動きが鈍るなら良し) 鎌鼬もまさか呪具を狙われるとは思ってなかったらしく、無理な態勢をとってしまう。
そこで、イグナートが全身の気を爆発させながら突進し、雷光と共に右腕を叩き込むと、その鎌鼬は白目をむいて倒れていく。
「これで3体……、そろそろ出てこないとこっちは全部倒し切っちゃうよ!」
そこまで大きな動きを見せない純正肉腫へとイグナートが叫び、出てくるように誘いかける。
社の方から外の戦いを見ているのは間違いない。
「そこで最後までお前は見守り続けるのか?」
そう判断したベネディクトは社へと視線を向けて
「──貴様もこ奴らの頭ならば、在る筈だろう。獲物を切り裂く為の刃が」
「ヒヒ、言わせておけば……」
そんな声が聞こえ、姿をさらす凶刃鼬。
鎌鼬以上に凶悪な面構えをしたそいつの全身と周囲の空中には、無数の刃が。
ただ、相手が外へと出てきてくれたならこちらのもの。
「今だ!」
そのタイミング、ベネディクトがファミリアーを使って嘴でカインを2度突く。
それに応じ、他メンバーも楓救出の支援を優先して動こうとする。
「妖力が複製肉腫として得た力であれば武具も肉腫に頼ったモノ、他力本願とは畜生どころか家畜だな」
楓の無事についてはまだ視認できぬ状況であり、エイヴァンやBinahが相手に怒りを付与させる隙も狙うが、鎌鼬もまだ4体が残り、そちらの抑えの手を緩めることができない。
そこで、錬がさらに凶刃鼬を煽りつつ、戦闘前に形作っていた鬼人種青年の姿をとった式を社へと向けさせる。
凶刃鼬はその式へと刃を飛ばしてくるが、切り裂かれたそれは式符へと戻るだけ。
「何……!?」
そこで、カインが錺とタイミングを合わせて左右から社内へと飛び込む。
錺が社内の奥を目指す間、カイン自身はノーモーションで衝術を放ち、凶刃鼬を外へと弾き飛ばそうとするが、敵はさらりと逃れてみせた。
鎌鼬の動きを見ながら、固唾を呑んで見守っていたイグナートも、一気に近づいて雷を纏わせた拳を叩き込む。
そこに、ココロが激しく瞬く神聖なる光を飛ばし、さらに、隠密行動をとっていた錺も苦無を投げつけて凶刃鼬の動きを止めようとする。
「タイミングはばっちりでございますー」
ユゥリアリアも同時に氷の鎖を伸ばし、敵を社から引きずり出そうとしていた。
追撃を考えていたカインは彼女達に助けられながらも、そのまま奥で縛り付けられていた楓を救出する。
「遅ればせながら――助けに来たよ!」
「やれやれ、これでは貸しが大きすぎて外の世界の話が聞けないじゃないか」
こんな時でも、知識について優先する当たり、さすがと思ってしまうカインである。
ともあれ、このまま逃れようとしたカインだったが、そこに多数の刃が飛んできて彼の体を傷つけていく。
「ヒヒヒ……」
不意を突かれたその一撃は身を抉られる痛みを感じさせ、社の床に赤い血塊を作っていく。
だが、パンドラにすがるカインは気をしっかりと持って。
「いくよ、しっかり捕まって……!」
抱えた楓へと告げ、カインは簡易飛行で社の外へと飛び出す。
その外からも、凶刃鼬の気を引くべくメンバー達が働きかける。
「人質をとって立て篭もるだけなのかな? 心の弱い醜い肉腫だね!」
ここぞとBinahが気を引こうと名乗りを上げ、防御態勢を固めて対していた。
すると、社を飛び出した凶刃鼬は残る鎌鼬に指示を出して。
「全力で仕留めろ……!」
そこで前衛陣の抑えていた4体の鎌鼬が荒ぶり、刃を振るって激しく抵抗を始める。
凶刃鼬も攻撃対象を同じくすることで、自らを煽ってきたBinahを八つ裂きにしようとした。
目まぐるしい動きで戦場を動き回る凶刃鼬。本気を出した純正肉腫の力は恐ろしい。
瞬く間にBinahは追い込まれ、パンドラに縋ってしまう状況へと陥ってしまう。
なんとか倒れず、神秘の霊薬を使って立っていた彼を守るように、他メンバー達も立ち塞がって。
「はっ、つまんねぇ引きこもり野郎が今回の親玉か」
あっさり仲間を追い込む力を持つ肉腫の力に強い警戒心を抱く黒羽だが、この場はできる限り敵の注意を引くべく煽り役に徹して。
「今まで相手にしてきた中でも、中の下ってとこか」
「ヒヒ、その認識、すぐに改め直してやるよ」
爛々と輝かせる瞳は見るだけで寒気を抱かせる。
「それ以上、好きにはさせないわ!」
さらに、凶刃鼬のマークへと、両腕に手甲をはめたメルトリリスが動く。
「貴方の思惑、不正義として裁かせて頂きます!!」
一方で社の外へと出たカインはココロの手当てを受けていた。体に残る傷は相当に深く、この場だけで完全な治癒には至らなかったが……。
「早速だけど、また借りを作っちゃおうかな! 楓さん、あいつについて何か分かる事はっ!?」
それでも、戦おうとするカインに、楓は呆れた笑いを浮かべて。
「この状況で、わたしに花を持たせてくれるとはね」
笑いながらも、楓が言うのは、敵の弱点。
鎌鼬は呪具を破壊せぬよう言われている為、そちらを攻撃せれば必ず無理な態勢をとる。そこが狙い目だ。
「凶刃鼬は刃を操れば隙ができる。連携して体の刃がない部分を狙うんだ」
それらの情報を耳にしたカインは、すぐさま仲間達とその情報を共有するのである。
●
楓を救出し、イレギュラーズ達による純正肉腫である凶刃鼬と肉腫化した鎌鼬達との戦いは本格化して。
凶刃鼬の力は事前にあった通り魔種相当。
物理と神秘の刃を広範囲に舞わせたかと思えば、集中して特定メンバーへと襲い掛からせ、隙がない。
主にそいつを防ぐのは、エイヴァンやイグナート、それに黒羽だ。
サポートに当たる魔法式医術によって手厚く回復に当たるが、どんなに防御態勢を固めていても、凶刃鼬の強力な一撃はそれすら軽く破って切り刻む。
「ヒヒッ、無駄だァ……!」
物理の刃は見える刃。それに気をとられていると、見えざる神秘の刃が襲い来る。
(親玉の凶刃鼬か)
鎌鼬を全て撃破する前に、黒羽達の前へと純正肉腫は姿を晒していた。
すでに仲間達が社から引きずり出したことで、救出対象の確保に成功はしたが、その分戦闘での負担が増える。
ならば、黒羽はその前に立ち塞がるのみだ。
「考えも浅い。魔種相当って言うが……どうしても見劣りするな」
「よくわからんが、お前を倒せば力を証明できるんだろう? ヒヒ……」
飛ぶ刃だけでなく、その身から生えた刃と合わせて踊りかかってくる凶刃鼬の斬撃を、黒羽はじっと耐えてみせる。
皆が残りの鎌鼬を撃破するまではと、イグナートは全力で防御態勢をとって凌ごうとするが、とても個人で凌ぎきれる相手ではない。
純正肉腫と言う存在はイレギュラーズをもってしても危険な存在であり、完全防備のイグナートですらもやすやすとその体を切り刻む。
パンドラに頼って身構え続けるイグナートだが、全身に刻まれる傷は徐々に深くなっていく。
序盤から防御態勢を取り続けていたエイヴァンは、すでにパンドラを使ったイグナートらを庇いつつ防御態勢を崩さない。
その際、彼も合間に今なお残る鎌鼬が所持したままの呪具を気にかけて。
「呪具を狙えば、隙を突けるとのことだったな」
彼は続けて、倒した鎌鼬が持っていた呪具が地面に転がっていたのも視認する。
せめてこれだけは移動させるべきと判断したエイヴァンが呪具を拾おうとしたその瞬間、凶刃鼬が素早く刃を飛ばして。
「ヒヒ……」
不可視の刃に貫かれ、エイヴァンの巨躯が揺らぐ。
「やはり、リスクが大きいか……」
口元から血を垂らし、僅かなパンドラが砕けたことを察しながらも、エイヴァンはなお敵の気を引き、身構えていた。
その間に進む鎌鼬どもの掃討。
敢えて呪具を狙うことで、鎌鼬の動きを制することができるという楓の情報もあり、メンバー達はそれを狙いつつ撃破を目指す。
戦いの中にあって、楓は自力で防衛には回れる上、安全確保まではと錺もついている。
それもあってカインは全力で鎌鼬の排除に当たり、無数の見えない糸で鎌鼬の動きを縛り付けつつ、1体の命まで断ち切ってしまう。
すでに鎌鼬も、序盤からイレギュラーズ達の範囲攻撃を浴びてかなり傷んできている。
「もうひと踏ん張りですわー」
ユゥリアリアは号令による仲間の支援強化を続けながら、鎌鼬どもへと舞い踊る光刃を浴びせかけて1体を屠っていった。
さらに、討伐は加速する。
敵の気を引いていたBinahもこの場は敵の討伐を優先すべく、自らの意志抵抗力を破壊の力に変えて氷の魔術を浴びせかけていき、1体の命の灯を消し去ってしまう。
錬は式符より光線を放ち続けていたが、それが最後の鎌鼬を穿つと、呪具を庇うように身をよじらせたそいつは苦しみ悶えながら地面へと倒れていった。
「さて、子分たちは全員倒れたぞ? どうやって潜りこんだか聞きたいところだがな」
錬が残る凶刃鼬に告げるが、すでにメンバー達は疲労の色が濃くなってきている。
一番参戦が遅かった凶刃鼬は力を温存していたことも大きく、余り疲れた素振りはない。
その上で、惜しみなく自らの力を使いこなしてイレギュラーズ達を追い込んでくる。
「成程、確かに──強いな、貴様は」
鎌鼬からターゲットを凶刃鼬へと移したベネディクトは、鎌鼬との交戦中もその恐るべき強さを実感してはいた。
すでに壁役すらも追い込まれてきている状況だ。仲間を守るべく、ベネディクトも敵の侵攻を食い止めようと構えをとって。
「我慢比べと行こう」
ここまで、パンドラを使うことなく耐えていた黒羽も相手の進退の妨害に当たって。
「進みたきゃ、俺を殺してみな」
黒羽はたとえ相手が誰であろうと、攻撃を行わない。
とある出来事もあって、その行いに信条、信念を感じさせぬようになっていたが、障壁の如く黒羽が敵の動きを阻害するのは変わらない。
Binahも再び防御を固め、凶刃鼬の攻撃にじっと耐えながらも反撃を繰り出して凶刃鼬の自滅を待つ。
防御能力に優れる彼だが、ジリ損になっていたのは否めない。
「この氷鎖、見た目通りの氷と思わないことですわー」
再度、敵を氷の鎖で縛り付けようとしたユゥリアリアだが、そちらを避けた凶刃鼬は肉薄してきたイグナートに対処できず。
「絶招・雷吼拳!」
「ヒッ……!」
全身に駆け巡る雷撃に表情を歪める。
「何が目的か知らないけど、まるで魔種とおんなじね! 呼び声を彼女に使うなら、許さないわよ」
メルトリリスが相手の真意を探りながらも、確実に叩こうと敵の能力の封印に当たる。
ここで力を奪えば、有利になっただろうが、純正肉腫はそれに抵抗してみせて。
「無駄だと言ったァ……!」
ここぞと刃を操り、神秘の力で可視不可視全ての刃を操り、その場のイレギュラーズ達の体を切り裂いてくる。
倒れることを拒絶したメルトリリスは運命の力が解き放たれるのを実感する一方、すでにその力を使っていたBinahは堪えることができず、崩れ落ちてしまう。
これ以上戦えば、イレギュラーズの被害は増えるばかり。討伐できても、呪具や楓が再度奪われ返されては意味がない。
「──これ以上は貴様にも俺達にも益は無い。退くなら追わん、どうする?」
そこで、ベネディクトが凶刃鼬に問う。
相手を倒しきるか分からないなら、ハッタリを利かせて退散させるべきとベネディクトは判断したのだ。
「最後まで戦うというなら、俺は構わん。だが、その時に立っている貴様の怪我は容易く治る様な物かどうか──」
凶刃鼬の身体の傷も決して小さくはないはずだ。それ以上に、イレギュラーズの方が疲弊してはいたが、相手もこちらの状態全てを把握はしていないだろう。
「──考えれば解る事では無いか?」
ベネディクトの問いは攻撃の手を止めたメンバー達に体力回復の時間を与えてくれる。
「雌雄は、何れ決しよう。だが、今はその時ではない」
「ヒ、ヒヒッ……!」
すると、ベネディクトの一言によって引き笑いをした凶刃鼬が身を引き、大きく飛び退く。他メンバー達も状況を察してか、その抑えを解く。
「後悔するぞォ……」
空中へと身を翻したそいつは木々の枝を足場とし、いずこともなく去っていったのだった。
●
全ての肉腫を撃退し終えて、イレギュラーズ達はまず救出した楓の容態をチェックする。
一応、救急箱を用意していたココロが楓の身体に傷がないかとチェックする。念の為、カインもまた楓が肉腫化させられていないかと、モンスター知識などを駆使して注意深く観察していた。
どうやら、楓には傷はなく、複製肉腫化の兆候も見られなかったこともあって、皆胸を撫で下ろす。
さて、鎌鼬を倒したことで、残された7つの呪具。
イレギュラーズ達が肉腫化することは無いという話なので、この場のメンバー達が呪具を集める。元々は神棚などにお供え物などを並べる為に使う陶器製の器具だが、現状は禍々しい気を放っていた。
「では、お願いしていいかな?」
カインは知見ある楓へと呪具の調査を頼む。
「ああ、任せてくれ。お礼は忘れてないだろうね?」
しっかりと楓はカインへと見返りを約束してから、呪具をチェックしていく。
とはいえ、彼女も肉腫化の危険が拭えないということで、直接触っての調査ができず難儀していた。
「神に捧げるべき器にこれだけの呪いが込められているなんて。興味深いね」
……と思いきや、思った以上に強い興味を抱いて持論を呟き続ける。
「妖や怨霊を呼び出すこともこれなら容易だろう。悪意と力を備える者がいれば、ね」
「…………」
ココロはそんな専門家の意見に耳を傾け、黙って見つめていた。
ここで何かが分かれば、今後の対処も楽になると、ココロは考えていたのだ。
「なぜ神具がこんなことに、天義の私としては悲しいのよ。さあ、その声を聞かせて頂戴」
メルトリリスもその呪具に不吉な気配を感じていたが、情報が手に入るならとアナザーアナライズを試みる。
「ものすごい呪い……本来の用途で使われずに神具も可哀想……」
「わたくしのギフトで少し見てみますねー」
合わせて、ユゥリアリアが呪具に触れつつギフト「追憶のアリエッタ」を使う。
そのギフトは、起こった出来事を自らの思い出のように追体験することができるそうだが……。
「……何かが見えますー。これは、天香・長胤?」
それらの呪具は天香家当主である天香・長胤の指示によって、「妖避けの祭具」として民草へと配布されたもの。
しかも、その天香・長胤に何者かが指示を出したのまでは垣間見えたが、そこまでは分からなかったようだ。
「「ううっ……」」
直接調査に当たったメンバー達が呻く。
「そこまでです。わたしには皆さんの安全の方が大事!」
ココロは異変を感じ、調査を中断しに入る。
呪いはあまりにも強力であり、祓うのは厳しいと皆判断していた。
「僕も賛成だね。破壊できるのであれば、個人的には破壊しておきたいかな」
Binahが破壊に票を投じると、黒羽、エイヴァンは皆に同調すると無効票を投じる。破壊するのであれば手を貸すとのことだ。
「少しだけ待ってほしい」
錬だけは浄化修復できないかと諦めず、試してみたいと仲間達に訴える。
彼が本気であることもあり、皆黙って何かあればすぐさま破壊できる構えをとったまま成り行きを見守ろうと決めた。
エスプリで無機疎通を強化し、修理スキルで肉腫による感染を取り除こうとしていく錬。
「八百万に宿るのだろう? 今までの祈りを思い出せ、そんなものに負けるな……!」
呪具、もとい神具が発する呪いの声を耳にする錬はそれに耐えながら、遺物調律師としての力を働かせて丁寧に肉腫感染を取り除こうとしていく。
「ううっ……」
錬が呻けば皆が構えるが、彼は手を広げて遮る。
まだ足りないと判断した錬は邪悪を照らす光線で浄化を試みて。
カタ、カタカタ、カタカタカタカタ……。
呪われた神具が全て小刻みに震え始める。
そこからどす黒いものが噴き出し、光に灼かれて消えていく。
しばしの攻防に目を見張るメンバー達。錬は諦めずにその浄化に力を尽くす。
「ふう……」
力を使い果たして脱力する錬。
その場に残された器具全てから呪いが解け、神具としての力を取り戻していた。
「これは……あれほどの禍々しい力が完全に霧散されている……」
楓が触っても全く問題はない。
一応、彼女はそれを持ち帰ることにしたようだ。
ともあれ、これまでの状況を見守っていた錺が肉腫についての報告の為と帰還していく中、社を離れることにした一行は道中で待っていた鬼人種の青年と合流しつつ、事後報告へと帰還していくのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お世話になります。なちゅいです。
MVPは神具の力を取り戻そうと尽力したあなたへお送りさせていただきます。
ご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様、こんにちは。なちゅいです。
豊穣の地で新たな事件が起こっております。皆様の力をお貸し願います。
●目的
楓さんの救出、純正肉腫種「凶刃鼬」の撃退。
●状況
豊穣の地某所の社で、呪いを帯びたという陶器製の神具の調査に当たっていた楓さんが純正肉腫に捕らえられてしまうようです。
現場までは、OPにも登場した鬼人種男性が案内してくれます。彼は邪魔にならぬよう離れた位置で待機しますので、この男性の保護については考えなくてOKです。
社は全員が入るとかなり狭い為、基本的には社前の広場での交戦になるかと思います。
ただ、凶刃鼬は戦闘開始時、社から出ようとしませんので、社から誘い出す等の手段が必要となるでしょう。
事後、回収できた呪具をどうするかは皆様に委ねられます。
調査の為に楓さんへと託すか、ここでお祓いするか、このまま破壊するか。他の対処法も状況によって選択可能です。
●呪具
陶器製の神具。白皿×2、瓶子×2、水玉、榊立×2
いずれもお供えの為に使う神具が凶刃鼬によって肉腫に感染、呪具となっております。
複製肉腫種とされた鎌鼬たちが1つずつ所持しております。
●敵
○凶刃鼬
純正肉腫(オリジン)。着物を着用した鼬の獣種を思わせる容姿をしております。
強さは魔種相当で、全身から物理、神秘の刃を発して相手を切り裂いてくるようです。
〇鎌鼬×7体
凶刃鼬の部下であり、複製肉腫(ベイン)とされた妖達です。
両腕と尻尾の刃を使う他、神秘の力によって起こす疾風の刃、竜巻と、呪具の力によってその強さは強化され、かなりの強さを持ちます。
●NPC
○楓……豊穣に住まうモノクルをつけた四尾の妖狐女性。
カイン・レジスト(p3p008357)さんの関係者。
様々な分野に造詣が深い女性ですが、今回は呪具に興味を示したことで、凶刃鼬に捕らえられてしまいます。
戦闘は好みませんが、4本の狐尾に異なる神秘の力、『識』『見』『変』『軽』の力を宿し、行使することができます。
自衛する力はございますので、凶刃鼬から解放さえできれば問題ありません。援護攻撃や支援回復など戦いの援護もしてくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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