夢想月転禄　～神々の消えた藪で～

オープニング

●神隠しの藪
　『神隠し事件』は、なにも大陸側だけでおきたことではない。
　豊穣郷カムイグラ国内でも往々にして『神隠し』は起きていた。
　はじめは他の神使（イレギュラーズ）同様此岸ノ辺に召喚されたものと思われていたが、大陸のイレギュラーズたちが豊穣国内で活動し注目が集まるようになってから、新たな事実が発覚した。
「本当に『神隠し』にあった人々がいます」
　集められたイレギュラーズの眼前。スクリーンで阻まれた先に、人影がある。
　この正体不明の人物が、今回の依頼人である。
　如何なる法術によるものか加工された声で語る『何者か』は丁寧な口調で説明をした。
「ある『藪』に入ったひとが、それきり二度と帰らないという事件が起きています。
　此度の大来訪にあたり此岸ノ辺への召喚者を編纂しましたが、そのような人物はひとりも召喚されていないことが分かったのです」
　つまりは先述したように、ほんとうの神隠しが起きてしまったのである。
　スクリーンの下から封書を滑らせる。
　書に書かれていたのは『不解森神社』という場所をしるした地図であった。
　神社は藪の北側に位置しており、神社といっても10メートル四方を柵で囲い石鳥居と高さ1ｍ強の小さな境内社があるのみの場所である。管理人もおらず、神社としても機能していないというが……。
「専門家に見せたところ、この神社周辺には『けがれ』が多く貯まっているとのことでした。藪へ入った者が行方知れずになることにも、関係しているのかもしれません」
　その専門家は今どこに？　という問いに、依頼人は首を横に振った。
「調査のために藪へ立ち入り、それ以来見た者は誰も……」

　イレギュラーズたちに託されたのは、この『不解森』の調査である。
「参考になるかはわかりませんが。昔この場所である少女が行方知れずになったことが、噂の始まりであったといいます。
　親のお使いに出た少女が藪を通ろうとし、親切にも反対側で待っていた店の主人はいつまでも現れぬことを不思議がり、どこにも居なくなってしまったことに気づいて村の者たちが探しに出たといいます。
　もちろん藪に入った者もいましたが、その『半数ほど』が同じく行方不明になったそうです。
　この話の真偽はわかりませんが、地元に伝わる怪談話として残っているそうです。それゆえ地元民もこの藪には近づかないようにしているとか……」
　現時点では分かっていることがあまりにも少なすぎる。
　まずは調査員を派遣し、藪周辺の情報を様々な方法で探らねばならないだろう……。

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第1章

第1章 第1節

「うう、怪談……お化けとかそういうものは実はすごーく、苦手なんだけど……」
　『不解森神社』の前に立ったアーリアは、露出した肩を自分で抱くように両手でさすった。
　星模様のラメが入った爪が、提灯のあかりでてらてらと揺れるようにひかる。
　なぜこうもびくつくかといえば、『この藪に入った者は帰ってこない』とすら言われる藪に今まさに入るからだ。
　懐から日本酒の小瓶を取り出すと、親指だけでキュポンとコルクボトルを開いて顔の上でひっくりかえした。
　注ぎ落ちる酒を全部飲み干し、手の甲でぐいっと拭う。
「何よりもまずはインタビューよねぇ。動物たちに尋ねてみれば……」
　藪へとおそるおそる立ち入るアーリア。
　生暖かい風が肩をなで、ぼおうという遠い風の音すら人の声に聞こえるかのようだ。
「狸さん、狸さん、いらっしゃるかしらぁ？　狸さん？　狸さぁ――」





　これ以降、アーリアは藪から出ては来なかった。

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アーリア・スピリッツ（p3p004400）は行方不明になりました。
これは当シナリオ内限定の処理であり、他シナリオ等々には影響を及ぼしません。
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成否

成功

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第1章 第2節

●？？？？？
『知らないひとが来たね』
『外国のひとかな』
『話しかけてみる？』
『人間だよ？』
『あのー』
「何かしら？」
『うわあ通じた！？』

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第1章 第3節

「ようおめーら、飲んでるかぁ！？」
　かえるの鳴く夜。村の酒場に酒樽を担いだゴブリンが現れた。
　ゴブリン慣れ（？）していない村人の一部はすわモンスター襲来かと驚いたが、彼がウォーカーであることを知ってすぐに警戒を解いてくれた。
　イレギュラーズが世界崩壊を回避するパンドラを集めているという話は、どうやらこういった村々にも伝わっているらしい。信じているかどうかは微妙なところだが、少なくとも差別的な目では見られていないようだ。
　というか、なによりも。
　キドーがいきなり酒を振る舞ったことが、人々の心を開かせたように見えた。
「そう、俺は気を使えるイケゴブ」
「そうイケゴブイケゴブ」
　昆布じめ食えよつって地元の発酵食品を振る舞われるキドー。
　そっとそれを横によけながら、キドーは彼らに尋ねることにした。

「なあ、この村で行方不明になったっつーのは、どんな奴らなんだ？」

　その途端、酒場に座っていた全員が、全く同じ顔をして、キドーへと振り向いた。

成否

成功

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第1章 第4節

「神隠しとはこれはまたそう言った話はあちらでも良く聞くが大抵は人攫いの仕業だったりしてがっかりする事もあるんだが何しろ何しろ此処はカムイカグラだ」
　チェルカは早口にまくしたてながら、積み上がった本や紙束を右から左へとうつしていた。もちろんただ移動させるだけではない。中身を読み込み、神隠し事件に関係のありそうな事件記録や言い伝えを洗い出そうとしているのだ。
「神隠しにあってしまった人たちが、無事であれば良いのだけれど……」
　その横では、作業を分担した文が同じく資料をあさっている。
「そもそも、けがれが溜まる原因は何だろうね。けがれが溜まっているという社ではなく藪のほうで人が消えるのも、気になるところだよ」
「ふむ……事件の『起源』になにかありそうだな」
　モノクルをきらりと光らせるチェルカ。
　文もまた振り返り、彼に頷いた。
　出身も種族も大きく異なる二人だが、どうやら才能に関しては似たところがあるらしい。

　結果として、彼らは大量の資料の中から『何も見つけなかった』。
　見つからなかったのでは、ない。
　彼らは極めて適切に、そしてただただ事実だけが書かれた数件の行方不明事件の記録をあさるのをやめ、あえて『隣の村の』事件記録をあさりはじめたのだった。
　その中で見つけたのは、村の人間が度々社会的に成功を収めているという噂話や表彰ニュースであった。
　村でも特に有名な怠け者があるときから急に熱心に働くようになり、隣の村の女と結婚して現地で畑を栄えさせただとか、遊び人で有名な庄屋の息子が急に心を入れ替えて勉強にはげむようになっただとか。
　彼らに共通しているのはある日突然人が変わったように真面目になったという点と、不解森がある村へ嫁ぐなり居を移すなりしてその村の住人になっているという点だった。

　なぜそんな話を見つけるに至ったのか？
　それは、『最初の事件』をひもとくことで知ることが出来る。

成否

成功

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第1章 第5節

「変っすね。誰かが手入れしたわけでもないのに藪がここでぴったり止まってるみたいっす」
　慧は藪の中ではなく、あえて周辺をまわってそれぞれの植生を調べるというアプローチを行っていた。
「なぜそんなことが分かる？」
　慧を護衛する目的で同行していたマナガルムが、槍を手に同じ場所へかがみ込む。
「見てください、これ」
　慧が指さしたのは雑草だった。
　藪の周りには、このあたりの地域では一般的に自生している雑草が花をつけ、たかく背を伸ばしているのがわかる。
　しかし不解森のなかで生えている植物はごく一般的な植物でありながら、きっぱりと柵の内側だけで止まっていた。
「誰かが手入れするなら雑草だけ残すなんてことしないはずっす。でもって、自然に生えるなら柵で繁殖が止まるなんてこともあえないっす。この二つのことから……」
「『藪が意思をもっている』んだねぇ」
　後ろで声がして、二人ははたと振り返った。
　形だけの翼をぱたぱたとやりながら、シルキィが立っていた。
　頷く慧。
「大体、変だと思わないっすか。おつかいに出ただけの小さい子供が、わざわざ鬱蒼とした藪のなかに入っていくはずがないっす。理由こそ違うけど、俺ァこんな藪には入りたくないっすね。せめて草が刈られたり木がなかったりっていう舗装された広い道でもないと」
「…………つまり」
　マナガルムは立ち上がり、槍を強く握りしめる。
「今見えているように、か？」

　藪を見れば、そこには綺麗に整えられた道ができていた。
　草は刈り取られ難く踏み固められたであろう土がうねるような広い道を作っている。大きな馬程度なら簡単に通れるほどだ。
「入ってみるしか、ないねぇ」
　シルキィ歩き出し、マナガルムはそれに続くようにして歩き出した。

　それだけ歩いただろう。
　曲がりくねったせいで分かりづらいが、とっくに藪のむこうに出ていてもおかしくない頃だ。
　シルキィが不思議に思って振り返ると、あとからついてきたはずのマナガルムの姿がなかった。
「あれぇ？」
　小首をかしげる。置いてきてしまっただろうか。
　一人で進んでも仕方ない。シルキィはきびすを返して来た道を戻った。
　戻って。
　戻って。
　戻り続けたが。

　藪はどこまでも続いていた。
　永遠に。

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シルキィ（p3p008115）は行方不明になりました。
これは当シナリオ内限定の処理であり、他シナリオ等々には影響を及ぼしません。
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成否

成功