シナリオ詳細
微睡みは羊皮紙の香り
オープニング
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数日間降り続いた雨が止んだ、夏の日。
うんざりする暑さは、幻想王都の一角に建つ喫茶店のテラス、その外に並ぶパラソルの下に身を寄せる少女達にとっても例外ではなく。
「あ、あつい……」
『放火犯』アカツキ・アマギ (p3p008034)は、椅子に背中を預け、後ろへだらりと伸びていた。生まれ育った深緑は、夏とて木々が生い茂る故か、ここまでではなく――つまり、初夏にしてもう暑さの許容量が限界なのであった。
「本当に、妬ましいわ……!」
グラスの底のアイスティーを啜り、『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)は店内の――空調の効いた席に座る客を見つめる。あと一歩のところで先客が室内最後の一席を埋めてしまったのだから、小さな妬みの言葉も零れるもので。
「本当に、もうすっかり夏ですね……」
ぱたぱたと手で顔を仰ぎ、『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は溶けかけのアイスをスプーンで掬う。口では暑いと言いながら、きっちりと黒の修道服を着込んでいるのは信仰ゆえか、生来の几帳面さか。
「こうも暑いと、涼しい場所で一日のんびりと過ごしたいものです」
『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)の手元のグラスも、もう空になって久しく。額に浮いた汗をそっと拭うも、すぐにまた滲む汗に眉を顰める。
書籍に汗が落ちる心配もなく、好きなだけ新たな物語に耽ることが出来たらどれだけ幸せだろうか。
「――そういえば、風の噂で聞いたのですが」
ごちそうさまでした、と小さく手を合わせるクラリーチェはふと記憶の片隅――ローレットで小耳にした話を思い出す。
「境界図書館から行ける世界に、『泊まれる図書館』があるようです」
「何ですかそれは、一日中本が読めるという事でしょうか!」
前のめりになるリンディスはさておき。エンヴィもアカツキも、興味をそそられた様子でクラリーチェを見る。
「一面本棚に囲まれているのですが、食事も可能でシャワー、ベッドまであるとか」
「おお、本に飽きてもそのまま寝てしまえるのじゃな」
「お泊り会……楽しそうだわ」
ここよりきっと涼しい(はず)の世界に、少女達は目を輝かせ――話に華を咲かせるのだった。
- 微睡みは羊皮紙の香り完了
- NM名飯酒盃おさけ
- 種別リクエスト(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年08月03日 22時10分
- 参加人数4/4人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
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「まぁ……」
『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)がほぅ、と息を吐けば『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)も隣で目を丸くする。
「これは……凄いわ……」
先程までの暑さは何処へやら。幾重にも並ぶ見渡す限りの本棚は、二人が思わず声を漏らす程の、まさしく読書の為の本の楽園。
クラリーチェが通路の間を覗くと、本棚は遥か奥まで続いていて――きっとここは、生まれた世界や、まだ見ぬ世界。無数の世界の、無数のジャンルを網羅した図書館なのだろうと気付けば、口から疑問も零れるもので。
「ここにある本を全部読むとすれば、何年かかるのでしょうか……」
そう零せば、一歩前を行く『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)が何やら小刻みに震えている。
「リンちゃんどうしたのじゃ、さむ」
「……住みます!」
寒いならば羽織でも――友人を気遣おうと『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)がリンディスに掛けようとした声は、本人の高らかな宣言に掻き消された。
「なんじゃって?」
「私、ここに住みます!」
聞き返したアカツキに再び宣言するリンディス。
(ああ、一目見て判ります――これは本が好きな人が本の為に作った、ただ人の為ではなく本と共にある為の図書館……!)
書物の言葉をなぞることが力となる、文字録保管者(レコーダー)たる彼女にとって、この読まれて、そして大切にされて光る本達のための世界は楽園だ。
(ああ、あそこの棚はSFジャンル、あそこには伝奇、そしてあそこにはミステリー……)
「うーん、今日はダメな方のリンちゃんじゃな」
今にも本棚に飛び付きそうなリンディスをアカツキは手で制するも、リンディスはもうすっかり臨戦態勢。そんな中、ぽんと手を叩きクラリーチェが提案を。
「……そうです、皆好みの本のジャンルはあると思いますが……折角ですしお食事は一緒に取りませんか?」
「そうね。折角皆で来たのだから、1人で本を読むだけで終わってしまうのは、流石に勿体ないわ……」
それに、皆で話しながらの食事は、やはり楽しいものだから――そんな願望をエンヴィが声色に滲ませれば、残る二人も反対する理由などなく。
「では昼時に再集合じゃの」
「ではまた後程。……居なかったら呼んでください!」
アカツキの声を背に、リンディスはもう本棚に齧り付いていたのだった。
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「これはもう立てないのじゃ……」
ふかふかのクッションにもたれ掛かり、アカツキは本を読み進める。
手元には犬の本に、ミステリに、料理本にとジャンルも様々。
「ふむ、これは……この犬はポメ太郎に似ているが、少し違うの」
愛犬――ポメ太郎のもふもふの毛並みには一歩劣る犬のページを捲る。友達を作ってあげたいが、いかんせんあの犬は何処出身なのか――謎は深まるばかり。
ミステリで脳を働かせたら、息抜きに料理本へ。
デキる百一歳のレディは、自炊もお菓子作りもするのだから!
「あ、この材料であれば近所のお店で似たようなものが揃いそうですね……」
小脇に『ねこまっしぐらレシピ集』を抱えるクラリーチェの頭には、沢山の猫の姿。シェキャル・ツキェル・シュクル、それから――教会脇の陽だまりで暮らす猫達は、きっと喜んでくれるだろう。
本棚の隙間を抜け、机に戻ろうとし――病にかからない身体づくり、の文字を見つける。
(これも読んでみましょう)
皆が元気でいられるように――クラリーチェは祈る。
颯爽と飛び出したリンディスはといえば、歴史書の棚の一角にひっそり佇む机に本の山を作っていた。
見知らぬ異世界の歴史書は、リンディスにとっては極上の『物語』。
(世界が紡いだ物語を、見せて貰いましょう……!)
未曽有の危機の戦争も、たった一行の政治家の話も。その文章の裏には、無数の物語があるはずで――そんな物語に思いを馳せれば、あっという間に時は過ぎる。
「これは……?」
エンヴィはこの図書館屈指の長編――ドラゴンと少女の物語を手に取る。
思えば元の世界ではファンタジーを読んでいたが、今の世界はそれと同じ、いやそれ以上のファンタジーに溢れていて。
真っ青なドラゴンと、目の見えない少女の出会いから始まる冒険は――エンヴィの心を捉えて離さず――ふと気が付けば、すっかり昼食時なのだった。
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「それでは皆、声を合わせて」
「いただきます!」
アカツキの音頭で始まった昼食。流石に空腹では本の内容も頭に入りにくいのか、自然と昼時には皆が食事をとるべくキッチンカウンターへと集まっていた。
「本に囲まれてご飯を食べるのは初めてですね……」
クラリーチェがオムライスにスプーンを刺すと、半熟の卵がぷるりと揺れる。沢山文字を追って頭も疲れたのだ、元気溢れる色、黄色と赤のオムライスを口に運ぶと、思わず笑みも零れるもので。
「そういえば皆、どんな本を読んでいたのですか?」
「妾はわんこの資料にミステリに……そうじゃ、料理本も読んだの」
フォークでパスタを巻きながら答えるアカツキ。ひき肉のソースが口元に付いているのはご愛敬。
「食べたことがない料理ばかりでとっても興味深かったのじゃ!」
「私はうっかり食事の時間を忘れる所だったわ……」
シリーズものの物語ゆえ、切り上げ時を失い滑り込んだエンヴィは、サンドイッチを一口。フルーツに、ツナに、タマゴに。目移りするほどの種類の中、選んだ野菜サンドを食べながらも頭の片隅には続きがちらつく。ああ、盗賊に連れ去られた少女はどうなってしまうのか。
「……はっ、シリーズものはダメね……ついつい先が気になってしまって」
「シリーズものもいいですね……しかしここで読んでしまわないと続きが気になってしまいます!」
ふんふん、と片手には栞を挟んだ本のように具材が挟まったおにぎり、もう片手にペンを持つリンディスは頷く。手元のメモは三人が語っていた本のタイトルでぎっしり埋まっていて――そうです、とそのペンが止まる。
「あの、もしよろしければこちらの本をお借りしてもよろしいでしょうか――!」
丁度近くを通りがかった司書へとリンディスは『貸出』の交渉をする。実物は外へ持ち出せないと告げられるも、彼女の力――『文字録生成』を説明すれば、司書は一つの条件をもって許可する。
「よかったのう、リンちゃん」
「はい!」
共に交渉したアカツキの手を取るリンディス。
司書が告げた条件は――『また遊びに来てくださいね』。
食事と、食後のデザートもしっかり楽しんで。そうしてまた、各々本を堪能する。
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そうして、図書館の夜は更ける。
シャワーを浴びて屋根裏部屋へとやって来た四人は、各々就寝前のひと時をゆったりと過ごしていた。
「ほれっ、そわそわしても本は逃げなかったじゃろ?」
「さぁ、続きを……」
アカツキの声すらもう届かないリンディスは、床に広げた本の中心で夜更かしの体制に。
「これは寝ない構えじゃな……まあ、妾ももう少し読もうとするかの」
階下から持ち込んだ『ポメラニアン大全』のページを、ベッドでぱらぱらと捲るアカツキは――いつの間にやら夢の中。うつ伏せで眠ったアカツキのその日の夢は、ふかふかのポメラニアンに埋もれていたとか。
「……このシリーズ、まだまだ続くのね……」
エンヴィが読み進める冒険譚は、まだまだ終わる気配が見えない。もしかすると、冒険は今も続いているのかもしれないと思えば、次ここへ来る時の楽しみにするのもよいかもしれない。
(きっと、今日の夢でも物語が見られそうね……)
四人の勇者の、世界を救う物語。きっと夢では、その四人は――よく見た顔かもしれない。
(まさかこの広い図書館で、この本に巡り合えるなんて)
クラリーチェは、ベッドの上で絵本を捲る。幼い頃に読んだ童話は、ストーリーを語れるくらい読んだものだ。懐かしさに、ふふと笑みが零れれば――隣でエンヴィが、小さく寝息を立てていた。
(そろそろ私も眠りましょうか)
「おやすみなさい」
微かに零した声は、優しい夜へと溶ける。
……なお、もう一人の女子はと言えば――睡眠欲より読書欲が勝っていたことを、ここに記す。
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屋根裏の窓の外は、いつのまにか白みを帯び――そうして昇った朝日が、一日の始まりを告げる。
「うーむ、最高の一日じゃったな」
「えぇ、本当に。また皆さんで遊びに来ましょう」
「そうね、夏は涼しいし……きっと冬は暖かいでしょうし」
身支度を整え、この世界を後にしようとした三人。そう、一名足りない。
「……ちゃん」
「……ちょっとまってください」
「リンちゃん」
「も、もうちょっと……」
「帰るぞリンちゃーん?」
「あ、あと20冊程読み終わったら帰りま――むぎゅ!?」
アカツキは手のひらでぎゅう、とリンディスの頬を挟み正気に戻そうと挑む。
しかしリンディスの根はどうやら深くこの図書館にと根付いてしまったようで、一向に立つ気配がない。
「ほら、立つのじゃ!」
普段本ばかり読んでいる友人の、一体どこにこんな力が隠されていたのか。ともあれ、このまま置いて帰るわけにもいかず。ついにアカツキは、リンディスの脇へと手を回し羽交い絞めにする。
「そ、そんな! 私もうあの暑い外になんて帰りたくないです!」
「ええい我儘言うでない! 帰るのじゃ!」
「ダメですか……残りますー!!」
ずるずるとアカツキに引きずられていくリンディスの嘆きが消えて――
「……これ、片付けていかないと駄目よね」
「えぇ、中々骨が折れそうですけど……」
リンディスが広げた本を前に、エンヴィとクラリーチェは困り顔で顔を見合わせるも、すぐにふっ、と笑みを零す。
「けれどもう少し、この涼しさを堪能できそうですね」
「えぇ、それなら片付けも悪くないわ」
そう、もう少しだけ。羊皮紙とインクの香りに包まれるこの空間を堪能しよう――
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
リクエストありがとうございます、飯酒盃おさけです。
空調ばっちり、適温で快適な場所でごろごろしたいですね。
●目標
図書館でのんびり過ごす。
●舞台
壁一面、高い天井まで本に溢れた大きな図書館。
様々な物語や写真集、料理本までありとあらゆるジャンルの本が並んでいます。
大机だけでなく、ラグでのごろ寝や人をダメにするふかふかのクッション、ハンモックも完備。
『おはようからおやすみまで本と過ごせる』がコンセプトのようで、他にも様々な設備が整っています。
●設備
・キッチンカウンター
珈琲、紅茶や搾りたてのフレッシュジュースなどのドリンクから、各種ケーキやクッキー等のスイーツ。
お腹が減ってもサンドイッチやおにぎり、オムライスにパスタまで取り揃えています。
図書館内の本には不思議な魔法がかけられているようで、食べ零しで汚れる事はありません。
・シャワー室
タオル、石鹸その他完備。
自由に着られるパジャマ(かわいらしい物から首を傾げるような謎のTシャツまで)も用意されています。
・ベッド
本棚横の梯子の先には、屋根裏部屋めいたベッドルームがあります。
そこにも勿論本はぎっしり。
その他、ありそうなものはきっとあります。
要するに、この空間を思い切り楽しんでしまえばOKです。
本を読み耽るもよし、おしゃべりするもよし、ごろ寝するもよし。ただし火気厳禁。
●備考
描写は昼過ぎ~翌朝を予定していますが、皆さんのプレイング次第でリプレイの時間帯は変更します。
お好きな時間帯をどうぞ。
また、このシナリオの相談はOPの続きを想定しています。
余裕があれば、ちょっとしたRPを挟んでみるのも楽しいかもしれませんね。
それでは、本の世界へいってらっしゃいませ。
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