PandoraPartyProject

シナリオ詳細

とこよのおもいかねのかみ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●信仰はなににやどるか
 七扇各省庁が並ぶ土地を、一人の仕女が歩いている。
 高貴な人々にあわせ顔を幕によって隠した彼女たちは、一部の建物で見受けられる子女だった。異国より流れ込んだ『修道女』という考え方に則ったものであり、彼女たちは召使いであると同時に清いものとされ、手を触れることすら禁じられた。時に家庭内暴力から逃げた妻の駆け込み寺めいた役割をはたすとされ、(市民への体面もよいことから)昨今注目をあびつつあるしくみである。
 ――と、ここまで説明してはみたが、実のところいま歩いている仕女は、フェイクである。
「親方様。『金』、参上いたしました」
 膝をついて戸を開き、頭を垂れて室内へと入った彼女は、すぐさまかぶりものを脱いで片膝立ちの姿勢をとった。
 頭を垂れ畳の目だけを見つめる彼女の装束はとてもではないが仕女のそれではない。強いて言うならシノビのそれである。
 そんな彼女のむかい。
 シルエットのみがかろうじて見えるブラインド越しに、人影があった。
「ご苦労様です」
 男性とも女性ともとれる、加工処理された声だった。
「折神衆はいかほど動けますか」
「は。ただいま私『金』と『木』二名。『木』は祭りに際して動く天香家の動向探らせておりますが、呼び戻すことはできます。他は各地へ……」
「いいえ、そのままで結構。あなたに行って貰います」
「……」
 『行く』という表現に、『金』――もとい白金 錺(シロガネ カザリ)は耳をぴくりと動かした。
 白金の役目はこの振る舞いから分かるとおりに諜報である。
 七扇に所属し市民やライバルになりそうな豪族の動きを観察、報告し続けるのが業務……だが、そのかたわら秘密裏に『中務省』へ情報を流す一種の二重スパイを行っていた。
 そんな彼女がわざわざ動いてどこかへ出向くとなれば相当なリスクを伴う。
「これを」
 幕の下から滑らせた封書を、白金はトンと指でとめた。
 四角い十字の物体が描かれている。紐をとおして首にさげるさまも。
「『ロザリオ』という、大陸側の品です」
 それがなにか? などとは問わない。
 意味のない問いかけを、この人物はしないからだ。
「祈りを力に、もしくは力を祈りに変える道具です。それが天香家の命によって習志集落に流されました。逢坂家を通して」
 逢坂家は、天香家と犬猿の仲だった筈。いかにして……と考えていたところで、白金は自分自身のような存在が両家に存在したのだろうと断定した。
 政治の世界は敵も味方も繋がっているものである。完全に断絶すれば見えない敵になりうるからだ。
 だが表向きに反発している派閥を通すということは、少なからず責任を追及されたくない品ということ。
「これを追えばよい、のですね」
「はい。ですが……」
 思わせぶりな間。
 白金は眉をしかめて顔をわずかに上げ、シルエットを見た。
「先に向かった者が、いるのですね?」
「はい。その者は――」
「藁に包まれて帰った、と」
「……」
 沈黙が最大の答えだ。
 白金は深く深くため息をついた。
「今回は、あなたに信頼できる外部の人間をつけます。彼らは知っていますか」
 新たに複数の紙が入った封書が滑り、白金はその中身をたしかめた。
 知っている顔、知らない顔、わずかながら知っている顔がそれぞれ並んだが……その中に一枚。
「この者はよく知っています。神竜退治の折に海上で船をこしらえたという」
「ええ。きっとあなたの役に立つでしょう」

●信仰と、希望と、愛と――
「でェ? なんで俺様が呼ばれてんだ。金だけ貰って帰っていいか?」
 鼻に指を突っ込んでおおきなゲップをする山賊オブ山賊。その名もとどろくグドルフ・ボイデル(p3p000694)。
「いや、帰らないでくれ。私の首が飛ぶ」
「知るか。ペッ!」
 全力でおちょくった顔をしながら地面につばをはいてみせるグドルフに、白金は頭を抱えた。
「親方様、なぜこのような男を……」
「なんか言ったか」
「まあまあ」
 目を左右非対称に開いてインネンをつけようとした山賊をやんわりとなだめて、天目 錬(p3p008364)が間に入った。
「天目 錬。鍛冶師だ。製作なら大体できる。よろしく頼む」
「ふむ、噂は聞き及んでいる。神竜退治では活躍したそうだな」
 いやあそれほどでもと照れ笑いする錬と、『俺様か! 俺様のことだな! ゲハハハハ!』と割り込み返しをかけるグドルフ。そして大体事実なのでツッコミづらい白金。
「まあ、いい……」
 改めて、その場に集まったイレギュラーズたちの顔ぶれを確認する白金。
「貴殿等に依頼するのは物品の回収だ。集落を襲撃し、特定の物品を回収してもらいたい」
「「襲撃」」
 途端に錬の顔が曇り、逆にグドルフが目を光らせた。
 小さく手を挙げる錬。
「もしかして俺たち、山賊になれって言われてるのか?」
「概ねその通りだが」
「概ねその通りなのか!?」
 目をかっぴらいた錬を軽くなだめて、白金は話を続ける。
「あくまで正体不明の山賊として村を襲い、ドサクサ紛れで物品を手に入れるのが目的だ。
 金品を奪ったり村を焼いたりしなくていい。してはいけないとは言わないが……まあ、そう容易にいくとはおもえんからな。アクシデントは許容せざるをえないというのが本音だ」
 どこか含んだ言い方だが……あえて要約して、簡潔に説明することにしよう。

 習志集落はカムイグラの北にある山に囲まれた集落である。
 主に稲作を行っており、年齢層に偏りもなく犯罪率や失業率もあまりないごく普通の集落だ。
 しかし天香家のさしがねである物品が送り込まれて後、集落が急に閉鎖的になり調査に向かった人間がひどい拷問を受けた状態で山の麓に捨てられたという。
「調査員の身体には『我々の祈りを邪魔するな』という旨の詩が綴られていた。ナイフでな」
「う……」
 集落が暴走したのかもしれないと考えた刑部省は兵を送って様子をみさせたが、全く同じ状態で麓に捨てられたらしい。
「武装した兵隊がその有様ってことは、かなりヤバいことになってるな。で、まかり間違って報復されても困るから『謎の山賊集団』ってことにしたいわけだ」
「ま、俺様ァ元から山賊も山賊、大山賊様だけどな! ゲハハハハハハ!」
 豪快に笑うグドルフ。
 その一方で、錬はあまりにも不穏な空気にううむと唸っていた。

GMコメント

■オーダー
 習志集落を襲撃し、その結果として『ロザリオ』を回収すること。
 情報では複数個あるとされ、集落じゅうを探す必要があるでしょう。
 尚、その間に発生するあらゆるトラブルは関知しないと言われています。

 尚、これらの活動は隠蔽されるため悪名としては記録されません。

●集落の状態
 山に囲まれているため入っていくための道が一つしかありません。
 兵士達が何の成果も得ずに返り討ちにあった所から察するに、入り口に既にバリケードなりなんなりが作られ侵入自体が困難になっているものと思われます。
 集落の家々はそんなに多くありません。全員で手分けすれば全ての家を回れる程度です。

 また、道中には兵士達や調査員が使っていたであろう装備や馬車、たいまつ用の油壺などが打ち棄てられています。
 今回はこれらを修理ないし改造することで集落を襲撃するのに便利なアイテムを作ってよいものとします。(効果は当人のスキルやプレイングによります)

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • とこよのおもいかねのかみ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
ユン(p3p008676)
四季遊み

リプレイ

●山河に遠く
 恐ろしく刃渡りの長い直刀を背にかつぎ、茂みを抜けて歩く『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)。
 顔にかかる葉をてでどかしながら、眼前に見える風景に目を細めた。
 高い丘から見える村。
 それも集落と表現するのがやっとの土地である。
 山に囲まれた土地ゆえか、都会からはるか遠く離れたこの場所にはぽつんと数件の家がならぶだけで、住民もそう多いようには見えなかった。
 彼らは細々と暮らしているようで、庭で畑仕事をしたり山に入って食べ物を採ったりといった最低限の生活スタイルを維持しているようにみえる。
「見たところ、ただの平和な村人ですね。できればあまり被害を与えたくはないですが……」
「安心してくれ。可能な限り殺さないつもりだ」
 『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は偵察に放っていた蛇を呼び戻して腕に巻き付けると、背負っていた槍のロックを外した。
 村人の状況観察は彼の仕事だが、できるのはあくまで『行って見る』が限度だった。茂みからぬけて村の中へ侵入するには発見のリスクが大きいと踏んだためである。
 蛇に驚く程度で済めばいいが、不自然な侵入によって人為的な偵察とバレては意味が無い。
「可能なら、ね……」
 木により掛かり、槍のこじり部分に手をかけてリラックスしていた『never miss you』ゼファー(p3p007625)がため息交じりに言った。
 彼女のテンションに何かを感じたのか、ぼうっと草の上に腰を下ろしていたユン(p3p008676)が振り返る。
「どういう意味?」
「武装した兵士が暑中見舞いみたいに送り返されたんでしょう? 信仰キメてちょっと気合が入った程度の素人にそこまでできるかしら」
「……できないの?」
「たまたまできるケースはあるだろうがな。それがおかみに対する決定的な挑発って部分が我には引っかかった」
 空の鞘をぶらさげて、頭の後ろで組んだ両手で木によりかかっていた『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)が、身体を起こした。
「それだけのことをしても平気なバックボーンがあるってことだからな。
 『鬼をあがめた村』なんてのはその典型であろ?」
 であろー? と繰り返しながらユンの角を凝視する頼々。
 ユンは『僕は鬼じゃ無いよ』と角を隠すように手をかざしながら、半歩引いた。
 その様子に微笑むゼファー。
「ま、なににせよ……つついて見ればわかるでしょ。『彼ら』の仕込みと合図をまちましょ」

 まるで地を這うかのように両手をつき、猫のごとく足音を消して茂みのなかを進む『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)。
 妙にせわしなくうろうろと歩き続ける村人の様子をちいさな鏡越しに伺い、注意がそれた瞬間にとぶように転がって別の遮蔽物へと隠れる。
 村人がその際に生じた物音に振り返るが、じっと石のように固まることで村人はやがて注意をやめた。
(祈りを力に。力を祈りに。よく分かんねえよけどよ、ロクでもない匂いがプンプンする
だってよ。ロクでもない事の筆頭の反転だって、元は願いや祈りだろ。
 お館様とやらが山賊の野郎をわざわざ指名したのもよく分かんねえ……くそ、分かんねえ事だらけだ)
 キドーは先んじて村へ侵入し、人々の配置を観察していた。
 丘の上から観察する限りはただの村人だが、キドーがこうして仲間で侵入してみると内側の異常さがわかる。
 まず農具を改造した武器が発見された。各家々に配備されているのだろうとキドーは予測し、少ない家々すべてを『要注意施設』と認めた。
 村にひとつしかない倉の周りにはいつも必ず村人がなにかしらの行動をとりながらおり、侵入者に警戒しているように見える。
 更には、畑を荒らす獣をとるためのトラバサミめいた罠が『村を囲むように』設置され、これが獣から畑を守るのではなく何者かから村を守ろうとしている意思に見て取れた。
 といってもキドーはマナガルムがあらかじめ発見した罠を手動で解除し、数個を回収していたのだが。
(下手に回り込んだりしてたらヤバかったかもな。この村、おとなしい顔して狂暴だぜ……)

 一方こちらは村への道中。『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は打ち棄てられた馬車を修理し、油壺等々を使って馬車に限定的な自走能力を付与していた。
 端から見ると槍や刀を前方に突き出した殺人マシーンに見えるのだが……。
「なんだこりゃあ。虐殺ゲームでもはじめんのかよ」
 作業を手伝っていた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)がスキットルから何かをがぶ飲みして口元を乱暴にぬぐった。
「じゃあいっそ馬車に『グドルフ山賊団参上』って書こうぜ」
「書くな書くな。それにこいつの目的はバリケードの破壊であって殺人じゃあないぞ」
 突き出た槍や刀は人力で突撃を防ごうとする者への牽制であり、大事なのは馬車の中身である。
 詰め込んだ油やあらかじめ持ち込んだああれこれによって、馬車は自爆特攻兵器と化していた。
「こいつが勝手にバリケードに突っ込んでいって爆発するんだ」
「マジかよすげえな。じゃあ早速村まで走らせ――」
 ビッと村の方向へ剣を突き出しポーズをとったグドルフ……の後ろで、錬が必死になって馬車を後ろから押していた。
「……なにやってんだ」
「見て分かるだろ。村まで押すんだよ」
「……自走は?」
 しょぼーんとしたデフォルメ顔になったグドルフに、錬が集中線つきで返した。
「馬のない馬車がそう何十メートルも走るわけ無いだろ!」
「たしかにィ!!」

●強襲
 村の入り口は実質的にひとつきり。
 その守りを固めるように、槍に改造した農具をもった農民が二人バリケード前に立っていた。
 見るからに厳戒態勢だが、兵士を数人返り討ちにした後となれば当然のことだろう。
 そこへ。
「山賊様のお通りだぜェ! ゲハハハハ!! オラ、金目のもん全て寄こしなあ!」
 殺意満点の魔改造を施した馬なし馬車が現れた。
 その上で斧をぐるんぐるん回転させて叫ぶグドルフ。
「一緒に押してくれるんじゃないのかよ! まあいい……行け!」
 馬車の後ろに隠れるようにして押していた錬が起動スイッチにあたる導火線に火をつけた。
 多段爆発が起こり前方へと無理矢理走り出す馬車。
 上に乗っていたグドルフが暴風でおかしな顔になったが、それだけだった。馬車は順調にバリケードへ突進。直撃をおそれた門番が左右に飛び退き、バリケードに激突した馬車は時限で爆発を起こした。
 大量の木の板や尖らせた竹などで組まれたバリケードが半壊し、爆発音につられて村人たちが武器を手に飛び出してくる。
「冒涜者か!」
「いや、違う、山賊だ!」
「そのとぉ~り」
 崩れた瓦礫の下からダブルバイセップスポーズで立ち上がる能面グドルフ。
 反射的に改造鉈で斬りかかる二人組の村人相手に、馬車を遮蔽物にしながら接近していたゼファーとマナガルムがそれぞれ飛びかかる。
 崩れたバリケードを跳躍によって越えると、村人たちよりずっと高所からそれぞれの槍をあえて投擲。
 かするようなコースをわざととったつもりだが、村人はそれを鉈を素早く振り込むことによって槍を弾いた。
 波の反射神経ではないが、兵士達を返り討ちにしたと聞いた後ではそう意外でもない。カラクリが分からないだけだ。
 ゆえに。
「邪魔っ」
「どいていろ」
 『そうなること』をあらかじめ想定していたゼファーとマナガルムの跳び蹴りが村人たちの顔面に炸裂。村人たちはまるでシンバルのようにたがいの頭をぶつけあい、その場に崩れ落ちた。
 ゼファーたちが反動をおさえながら着地したその左右を、頼々とユンが駆け抜ける。
「やーやー我こそはみなも……通りすがりの鬼殺山賊団!!」
「村に入られたぞ!」
「殺せェ!」
 数人の村人が建物を遮蔽物にしながらちらりと顔を出し、妖術による射撃をしかけてきた。
 魔術によって作られた尖った骨のような弾丸がユンたちを襲うが、転がって槍を回収したマナガルムたちが素早くそれを弾き落とす。
「おいおい殺意が高いな。こちとら源ぞ?」
 頼々は余裕そうに笑いながら空鞘に架空の柄を握り込む。
 架空抜刀。在らぬ刃が追撃をしようと顔を出した村人の首をはねていく。
「命中。いいぞ、同じようにやれ」
 ビッと親指で別の村人をしめす頼々に、ユンは刀を派手に抜刀。在らぬ刃が遮蔽物から飛び出して別の場所へうつろうした村人の足を斬った。
 思わず転倒する村人へ、呪われた杭のようなマジックアイテムが突き刺さる。
 ドサクサ紛れでこっそり近づいていたキドーによる射撃である。
「『道』が開いた、ステラ突っ込め!」
 キドーの呼びかけにこたえ、ステラはまっすぐに走って遮蔽物に隠れていた村人へと接近。
 途中で地面に鞘の先端をつっかけるようにして無理矢理抜刀すると、慌てて近接武器へと持ち替えようとした相手の肉体を強引にぶった切った。
 遠心力のかかった、刃がまるでヘリコプターのプロペラよろしく水平に走り、村人とそのそばにあったベニヤ板を同時に破壊し上下に分割したのである。
 できることなら手加減を……と思っていたステラだが、至近距離に迫った時しっかりと包丁に手をかけていた村人を見てその余裕なしと素早く判断したようだ。
 その判断は正しく包丁には意図的にくぼみが作られそこに汚泥が塗られていた。刺し傷を破傷風めいた状態にして死にやすくするための加工である。
 いくらなんでも外敵に対して殺意が高すぎる。農民一揆だってここまではやるまい。
 気づけば村人からの攻撃はやんでいた。
 彼らは村の奥へと進んだようで、どうやら侵入を阻むのはやめたらしい。
「奥には?」
「倉だな。中に何があるのかはわからねえ」
 キドーが顎をさすって唸った。
「けどこのタイミングで行くってことは、よっぽど中身に自信があるんだろうぜ」
「……マナガルムさん。ここから先は注意を深めましょう」
「もちろんだ」
 八人はそれぞれ2人ずつのペアとなり、まずは家々の物色を始めることにした。


「おいクソ山賊」
「あァ? なんだクソ盗賊。クソしてえのか」
「なわけねえだろ。ロザリオはあったか?」
「それなんだけどよ……」
 グドルフはポケットに手を突っ込むと、十字のシンボルを取り出した。
「それっ――」
「ちげえよ」
 キドーのいわんとしたことを遮って、グドルフはそれを力強く握りつぶす。
「偽モン。いや……レプリカだな。ここの連中、流れ着いた『ロザリオ』のレプリカを作って一人一人が装備していやがる」
「奴らがやけに戦えてたのはそいつが理由ってか?」
「そんな単純な話にゃあみえねえがな……ケッ」
 一瞬だけ目に悲しみが浮かんだように見えたが、グドルフはキドーに背を向けてしまった。
 何かある。キドーは直感的にそう思ったが、しかしあえて追求することはしなかった。
(もう『知ったこっちゃねえ』と言う気はねえ。鬱陶しがられようと関わってやらあ)

 彼らが数件の家を物色したところで、マナガルムとステラは奇妙なものを発見した。
「なんだと思いますか?」
「見たままだと思うが……」
 二人のまえにあったのは木で作られた大きな十字架であった。
 高さはマナガルムよりも高く、左右の端にそれぞれ太い釘のようなものが刺さっている。
「ここは教会かなにかなんでしょうか。それにしてはひどく汚れていますし……」
 そして酷く生臭い。生ゴミをいつまでも放置したような臭いがして、ステラは鼻に布を当てた。
「いや、違うな。見たままというのは……この部屋全体のことだ」
 マナガルムは数歩後退し、部屋を見回した。
 赤黒く染まった床。生臭く変色した壁。そしてそびえたつ『架台』。
「拷問部屋だ」

「撤退時の準備は?」
「それはもちろん。けど、なぜこのタイミングで聞く?」
 ゼファーと錬は民家をあら探ししながら顔を見合わせた。
「この依頼を受けた段階で、村の戦力は分からなかったわよね」
「そうだな」
「これは経験で言うんだけど、『分からない敵』が自分たちより弱いと決めつけると最悪死ぬわよ」
「…………ああ」
 棚を開いて顔をしかめる錬。
 返事としての『ああ』に、気持ちの悪いものを見て思わず声が出たという様子が重なった。
 その様子に棚をのぞき込むと……。
 大きな骨が大量に棚に詰め込まれていた。
 それも白骨化した死体ではなく、骨から無理矢理肉を引きちぎったばかりのものが大量にである。おぞましくたかる虫に、錬が後じさりする。
「ここを出よう。ロザリオをすぐにでも見つけて……」

「頼々さん」
「うむ」
「僕、これなんていうか知ってます」
 頼々とユンは、倉の前に立っていた。
「貧乏くじですね?」
 キドーがあらかじめ危機感を抱いていた倉。他の家々よりも大きく、本来なら農具やなにかをしまい込む場所だが襲撃された村人たちがここに閉じこもったことがどうにもひっかかった。
 扉に手をかけるユン。
「いきましょうか……?」
「……うむ」
 頼々は鞘に手をかけ……ようとして、反射的に『角』へと手をかけた。
 かけておいて正解だった。


 倉が内側から爆発した――ように見えた。
 余りに激しい暴力によって扉が壁ごと崩壊し、入ろうとしていたユンたちが吹き飛ばされたのである。
「サンゾク」
 くぐもったような声がする。
 前後左右がわからなくなるような回転とバウンドの後、ユンは頭をおさえながら起き上がった。
 そんなユンの前に立っていたのは。
「コロス」
 金属でできた人間大の十字架をまるで棍棒のように振り上げた、異形の巨人であった。
「――!」
 目を見開くユン――を素早く抱えて走り抜ける頼々。
 間一髪のところで、それまでユンがいた場所に十字架がぶちこまれ、地面の土が爆発したように吹き上がった。
「聞いてない聞いてない我あんなの聞いてない!」
「ぼ、僕もです……」
 全力逃走。が、丁度後ろが見える姿勢になっていたユンは巨人の首に金色のロザリオがかかっていることを発見した。
「見つけました! あれです!」
 次の瞬間。
 流星の如く突っ込んできたゼファーが巨人の脇腹へと槍を突き刺した。
 先端で肉をえぐるよにねじり、足をかけて即座に離脱。
 反撃を回避――しきれず、足を捕まれて振り回された。
 地面と水平に飛んでいったゼファーが民家の壁を突き破って囲炉裏を滅茶苦茶にし、骨だらけの棚を粉砕しながら逆側の壁から飛び出して転がった。
 目を見開いてゼファーの入ってきた方角と出て行った方角をそれぞれ二度見する錬。
 ゼファーは頭を起こして眉をあげた。
「ね、言ったでしょ?」

 この瞬間より、事態を把握した全員の中でミッションが書き換わった。
 山賊の振りをしてロザリオを奪い取ることから、謎の巨人からロザリオをもぎ取ってなんとしても生きて逃げることにである。
「よっしゃかかってこいオラァ!」
 グドルフがロープと接続した剣を頭上でぐるぐる回転させ巨人を挑発。
 顔の形も定かで無いような、あまりにもいびつな巨人はグドルフの姿を見るとヴォオウという猛牛のような声をあげて突進をかけてきた。
 が、それが彼の狙いである。
 あらかじめ回収しておいた数個のトラバサミが踏まれたことで一斉起動し、巨人の足へと食らいつく。
 本来なら足を破壊しかねない衝撃だが、巨人はそれを『邪魔だから』程度の理由で改めて踏み砕いた。
 無論そこまでの拘束力など期待していない。一秒そこらの隙ができればいいのだ。
 近くに身を潜めていたキドーが飛び出し――。
「ユン、頼々ィ!」
 叫びに答え、頼々はがっつりと溜めたエネルギーを抜刀によって解き放った。
 同じく抜刀によって斬撃を飛ばすユン。
「やはり鬼だったであろ? 角見えぬが!」
 X字に走った斬撃が巨人の首へと命中。
 首を切断するには至らなかったが、その衝撃でロザリオをとめていたながい紐が切れた。
 それをキャッチし、一目散に走り出すキドー。
「後ろに。一撃入れてから逃げる」
 マナガルムは槍をぐるりと回すと、防御の構えをとった。
 その後ろで刀を構えるステラ。
「入るでしょうか、一撃」
「今ならば」
 二人は息を合わせ、キドーを追いかけて走る巨人の『足首』だけを狙って斬撃を繰り出した。
 足首から先を失って派手に転倒する巨人。
 しかしすぐに足首と首の傷を再生。巨人は立ち上がって取り落とした十字架を掴んだ。
 これ以上の戦闘は無意味。
 全員一目散に撤退し、錬はあらかじめセットしておいた仕掛けで沢山の廃材を道ばたに流し込んだ。
 それを頭から被って止まる巨人。
「やったか!?」
「それやってないやつ」
「だろうな!」
 錬は振り返らずに走った。
 目的は達した。それでいい。
 この後あの村がどうなるかなど、いまは考えたくなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――目標達成
 ――『ロザリオ』の回収に成功しました

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