PandoraPartyProject

シナリオ詳細

パサジールの友人

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング



 いつだって私たちは長距離の移動を繰り返す。だってそういう民族だもの。

 沢山の情報を頭の中へ仕入れて、沢山の物品をパカダクラに乗せて。向かう先はまた別の国だ。
「次はラサ……あ、その前に幻想を通るのか」
 黒髪が潮風になびいて広がる。きっと後に髪がゴワゴワするのだろうが、"彼女"はきっと気にすることもないのだろう。
「じゃあローレットに寄れるかな? 挨拶したいし、人手があるなら護衛してもらいたいし」
 1人ぶつぶつ呟く彼女は地図を確認しながら器用に人混みを避け、露店を避けて進んでいく。幻想を経てラサへと向かうなら、宿屋に留めてあるパカダクラを回収に行かねばならない。
 これから向かうルートではならず者が出るのだと情報を得ている。物資の関係上で遠回りはできないが、海洋大号令を成し遂げたイレギュラーズたちが護衛に着くのなら安心だ。
 数々の大事件を解決し、魔種と渡り合い、海洋王国の悲願まで達成したイレギュラーズたち。一体どのような猛者なのだろうか、何か話は聞けるだろうかと彼女の頬は束の間緩んで。
 よぉし、と顔を上げた彼女が黒い瞳を輝かせる。海洋は新天地に沸き立っているが、彼女が興味を向けることはない。今は大号令達成よりも興味を持つものがあるのだ。
「まずは──いざ行かん、幻想!」


●パサジール・ルメス
 少数民族の1つ──パサジール・ルメス。それは混沌各国を渡り歩く者たちの呼称である。様々な情報や物資を運んでいく彼らはローレットとも繋がりを持っていた。
 その1人たる『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)はイレギュラーズを見るとこんにちはっす! と明るく声をかけてくる。その手に持つ羊皮紙からして、何かの依頼を抱えているようだった。
「先輩たち、お時間あるっすか? 良かったら友人の手伝いをしてほしいっす!」
 ばさりと広げられた羊皮紙。リヴィエールの友人たる少女を幻想からラサまで護衛する依頼らしい。ならず者がいるルートを通るが、物資の関係上どうしてもそのルートへと譲らないそうだ。
「パサジール・ルメスにとって情報も物資も大切っすからね。それに彼女は尚更運ぶモノを大事にするっす」
 情報やモノと共に世界を渡り歩く彼女らだが、特に友人は『自らが気に入ったもの』を収集して運び、売ることで人々に広めるのだと言う。お気に入りを運ぶとなれば毎回厳重に、安全なルートを選ぶのだが──今回は特例のようだ。
「その友人と落ち合うのは?」
「あ、それはここっす。海洋からラサへ向かうので、寄っていくって届いてるっす。だからそろそろ……」
 来るはず、というリヴィエールの言葉に被さり、ローレットの扉が開く。一様に振り返った一同は、独特な衣装に身を包んだ黒髪の少女へと視線を集めた。少女もまた一同を見て、その中にリヴィエールの姿を認めるとにっこり笑う。

「やあ、こんにちは。友人からの依頼は……うん、ちゃんと届いたみたいだね!」

GMコメント

●成功条件
 リヴィエールの友人『レーヴェン』をラサまで送り届ける

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。

●エネミー
・リーダー
 ならず者たちを統率する頭です。ラサと他国での出入りを部下へ張らせ、急襲しているようです。
 部下への指示を出しながら自らも戦います。槍使いです。好戦的な性格をしています。中距離レンジ。
 槍には毒が仕込んであります。

号令:部下を動かす鶴の一声。時に攻め、時に守り、時に撤退指示を出す。自身とレンジ2の範囲にある味方が該当行動にプラス補正。
呪縛:神秘的な力で縛り付けます。【足止】

・ならず者×8
 剣や槍、斧を持った男たちです。ラサの過酷な土地で鍛えられており、忍耐力があります。至〜中距離レンジ。
 寄ってたかって確実に数を減らそうとします。

掠め取り:携行品を持っていかれる可能性があります。

●行程
 ローレットからラサの国境を越えるまでの道のり。
 今回通るルートは森を抜け、草原から砂地へ変わり、近くにあるオアシスで解散となります。とはいえ全行程を1日で済ませるのはとても不可能でしょう。途中休憩や野宿を挟みつつ、彼女と他愛もない話をしながら進みましょう。
 ならず者たちがよく見られるのは、森を抜けたばかりの草原です。草原に出る直前でエンカウントすることもあるでしょう。
 各フィールド情報は以下となります。

・森
 視認性・足元ともに悪いです。敵も同じことですが。探せば洞窟などもありそうです。
・草原
 見晴らしが良く、体を隠せる場所はありません。逃げる場所もありません。

●NPC
・レーヴェン・ルメス
 パサジール・ルメスの1人であり、リヴィエールの友人。鴉のスカイウェザー。
 特定のものを大層気に入り、相棒のパカダクラと共に収集と売買へ力を入れているそうです。
 戦う力は持ちません。道中は話しかけてくれれば気軽に答えるでしょう。

●ご挨拶
 愁と申します。
 パサジールの民と交流しつつ、無事に送り届けてあげましょう!
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • パサジールの友人完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月28日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


「改めてよろしくね、イレギュラーズ」
 パサジール・ルメスの民であるという少女、レーヴェン・ルメス。彼女の護衛が本日の──いや、数日に渡る依頼のオーダーだった。
「たまにはこういうのもいいものですわねー」
「あ、イレギュラーズはこうやって移動しないんだっけ?」
 隊の前方を行く『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は森の匂いをすんと嗅ぐ。彼女の言葉にレーヴェンは首を傾げた。
 イレギュラーズが召喚されて最初に出会う人物、ざんげ。彼女のいる空中庭園は各首都のギルドへと通じている。故にそこを介してローレットから最寄りの首都へ、そこからは通常の移動手段を用いて現地へ向かうわけだが──イレギュラーズ限定なのである。一般人はおろかローレットの情報屋とて『空中庭園に踏み入れられない』。イレギュラーズと、ほんの僅かばかりの例外しか入れないのだ。
「便利そうだなあ」
「長距離の移動も大変そうだねー」
「でもレーヴェンさんは色々なところを見て回ってるんでしょ?」
 後方を守る『二律背反』カナメ(p3p007960)が苦笑を浮かべ、けれどヴァレーリヤと前方を歩いていた『新たな可能性』笹木 花丸(p3p008689)が「いいなぁ」と肩越しにの後方を見る。ぱっちりおめめのパカダクラと目があった。彼──いや彼女だろうか──もレーヴェンと共に各地を回っているのだろう。
 花丸の視線は怪しいものを見逃さないと鋭く、微かな音も聞き逃さないその耳はレーヴェンの声もしっかり拾った。
「あとで話してあげる。イレギュラーズの話の方がワクワクしそうだけれど。
 それに色々なところを見て回るって言っても、快適な旅じゃないよ?」
「野宿とか?」
 カナメの目がきらりと光る。普段ならできないようなこと──ああ、楽しみになってきた!
 しかし遊びに来ているわけではないのだ、と『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)は気を引き締める。ラサが関わるのだとあれば、特に。
「ラサへの護衛は任せてちょうだいね!」
「頼りにしてるよ。旅に慣れていそうな人もいて心強いな」
 レーヴェンがそう告げて見たのは後方の馬車。『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)のそれには『不退転の敵に是非はなし』恋屍・愛無(p3p007296)が水や食料、防寒具などの物資を入れている。
「まだまだ森が続いていそうだし、休めるところでは休んで行こう」
「そうね。水分補給も大切だわ!」
 マルク・シリング(p3p001309)が鳥の視界を借りて見る上空は、まだどこまでも緑が続いて見える。彼の言葉にErstineが頷いた。
「ひゃっ!?」
 不意に声をあげたカナメが尻餅をつく。さっと緊張の糸を張る一同に、カナメは震える手で茂みを指差した。
「い、今あっちでガサッてしたの! お、お化けとか……ないよね?」
 示されるままに皆でそちらを向けば、静かで少し薄暗い木々の空間があるばかり。けれど暫くするとまたガサガサと聞こえてきて。
「……鹿?」
「鹿ですわね」
 マルクの声にヴァレーリヤが同意する。カナメは「はへ?」と目を瞬かせた。
 そんな一同の様子をグリーフ・ロス(p3p008615)は眺める。混沌に来てまだ1月足らずのグリーフにとって、護衛依頼は良い刺激を与えてくれる旅だ。
(様々なモノとの出会いが、ワタシにも色をくれるでしょうか)
 その瞳に移される多彩な色が自身にも移りやしないか、なんて。その一方でグリーフはオーダーを忠実に守るべく、木陰の暗がりまでしっかりと目を光らせていた。
 彼らの旅は順調で、途中に休憩や野宿を挟みながらも着実に行程を消化していた。野宿中に野生動物との遭遇はあれど、持ち回りで見回りをこなすイレギュラーズのおかげで大事には至っていない。
「旅と言ったらこういうのも必要でしょ?」
 と花丸がひと口チョコレートを配ったり、
「皆、暑いしそろそろ水分取りましょ!」
 とErstineが皆の様子を見ていたり、とパーティ全体への気配りも十分だ。
 そんな何日目かの晩──明日には森を抜けるという日。
「では見回りを。何かあれば発光して知らせる」
「この距離であれば、周辺警戒を強化する必要がありますね」
 愛無とグリーフがペアで見回りに向かう。あとは明日に──人によってはこの後の見回りに──備えて睡眠を取るも、もうすぐ別れだからとパサジール・ルメスの民に話しかけるも自由であった。
「そういえば最近、花嫁の護衛や荷物の護衛をしたよ。パサジール・ルメスの皆さんとはご縁があるね」
「私たちは色々な場所を回り続けているからね。危険なところを通るならって護衛依頼は多いかもしれない」
 そう告げるレーヴェンも傭兵や冒険者に護衛を頼むことは多いらしい。危険地域を通過する際だけでなく、情勢の揺らぐ国を通る時なども頼むのだと。
「私は随分久しく思えるな。商売はどうだい?」
 自ら作った野菜スープを仲間たちへ回しながらラダが問いかける。レーヴェンはそこそこ、と肩を竦めた。
「やっぱり、海洋は色々あったから?」
「そうだね。大変な時期だったし、何より皆が大号令に力を注いでいるって感じ」
 レーヴェンはあまり振るわなかったようだが、海洋で出会ったパサジール・ルメスの民たちは懐を温めていたようだ。こればかりは運もあるため、羨ましいとは思えど仕方ないともレーヴェンは言う。
「リサーチ不足ってやつだよねぇ。あはは」
「それなら、ラサで挽回するということになるのかしら? 私としては、ラサに新たな風が流れるのならとても素敵な事だと思うわ」
 苦笑を浮かべるレーヴェンに、でもとErstineが言い募る。自分の大好きなラサの地に海洋より運ばれた新たな商品、新しい風が吹き込んでいく。それでラサが発展するのなら、それはErstineにとって非常に喜ばしいことだった。
「やっぱりリサーチ失敗しちゃうと辛い?」
 カナメの言葉にレーヴェンは考え込む。商品が売れないということは商人たちにとって死活問題だ。当然辛いことの1つでもある。しかしそれよりも辛いのは『商品がダメにされること』なのだそうだ。
「商品の中には高価なものもあるし、そうじゃなくたって使えるものはたくさんある。そういったものを汚したり壊したり……とか」
 うわぁ、と顔を顰める一同。懐だけではなく心にも大きな痛手である。故に商人やパサジール・ルメスの民は護衛を雇うのだ。そんな彼女が何を運んでいるのか、これは少なからず気になる事であろう。
「知らない産物なら興味がある」
「見せてもらえるのなら私も!」
「カナもー♪」
 目を輝かせ始めるイレギュラーズにレーヴェンは「特別だよ」と笑い、荷から厳重に梱包されたそれを取り出した。彼女の両腕で収まってしまうほどの、随分と小さな荷であるが──。
「あ、ひんやりしてるね」
 それが解かれる最中、マルクは冷気が漂ってきたことに気づく。荷は冷やされた状態で運搬されているらしい。
「ふふ、果物なんだ。鮮度が命だからね」
 この季節、そして向かう場所を考えればさもありなん。その包みは熱や冷気を逃がさない特殊な繊維で出来ているらしい。
 そうして出てきたのはまるで宝石のような光沢を放つ、鮮やかな紫の果実。中々珍しい色味であるが、海洋で採れる貴重な果物なのだと言う。
「いいでしょこの色、このツヤ! ここまで傷ひとつない綺麗な肌は珍しいんだ。もちろん農家が丁寧に保護しているんだけれど、自然に出来てしまうものもあるからね。ちなみにこの宝石みたいな果物の色はね──」
「レ、レーヴェンさん! 果物が温まってしまうのではないかしら?」
 語りが長くなりそうだと察したErstineが咄嗟に言葉を挟む。レーヴェンはおっと、と口を手で覆うといそいそ果物をしまった。
「ごめんね、つい商品のことになると」
「自分で商品を買い付けているんだね? それなら熱も入っちゃうよ」
 花丸が笑いかける。果物が悪くなってしまうから遮りはしたものの、時間さえあれば聞いてみたいところだ。この旅路とて話す機会は沢山あったはずなのに、あっという間にラサが近づいてきている。
「そういえばご家族も皆、何処かで何かを運んでいるのかな?」
「うん。独り立ちしてからは会ってないけど、手紙は送りあってるよ」
 パサジール・ルメスは少数民族だ。この広い混沌で会うとなれば示し合わせないと難しい。さらに各々が何かを運び生活をしているのだから、その機会もなかなか巡ってこないだろう。少なくともレーヴェンの家族は幾つかの中継ポイントを決めており、もしそちらへ向かう同志がいれば手紙を預けるのだそうだ。
「まあ、他の家族は他のやり方で会ったりしているのかもしれないけれどね。……あ、おかえり」
 レーヴェンの視線が上がる。そこには見回りから戻ってきた愛無とグリーフの姿があった。誰も眠っておらず、こうして囲むように座っているあたり話をしていたのかと愛無は察する。何か聞きたいことがあればと言われ、愛無はひとつ目を瞬かせた。
「そうだな。ラサは好きか、くらいだろうか」
「ラサ? うん、好きだよ! 色んな物や人が集まってくるし、気になるような情報だってやってくるからね」
 からりと笑うレーヴェンに愛無はそうかと頷いた。その表情にはなかなか出てこないものの、レーヴェンの答えは彼女にとって少しは嬉しいもので。
(依頼という以上に、守る理由ができる)
 ラサが好きだと言ってくれたから。愛無は明日に備えなければと見回りを交代し、就寝の準備をするため馬車へ向かったのだった。



 そして、翌日。朝から出発したイレギュラーズは、少しばかり先から敵意を感じ取る。
「すぐそこだ」
 森から草原へ。暗所から明所へ移動した直後は目が慣れるための時間を要する。ラダは仲間たちへ警告するように小声で告げた。
 進まなければオーダーはクリアできない。一同は意を決して森を抜け──。
「──荷を捨てていきな!」
「うーん、絵に描いたようなならず者集団って感じ!」
 決まり切ったような文句に花丸はすかさず評価を付ける。ならず者集団という事は、合法的に殴ってもお咎めなしである。
「あァん!? なんだこのクソガキ!」
「やっちまえ! 1人ずつ徹底的にだ!」
 頭領らしき人物の言葉に賊が湧く。しかし彼らの思うようには進まない。敵かと目をまん丸にしたカナメは次の瞬間、一転して満面の笑みを浮かべて。
「じゃあいっぱい痛めつけてもらおーっと!」
 カナメの発言を聞いた賊が思わず動揺する。正体不明の何かを見るような目つきにカナメはぷくぅと頬を膨らませた。こんなに可愛い女の子をそんな目で見るなんて!
「おじさんたち、カナと遊ぼー! それとも……女の子1人倒せないざこざこおじさんなのかな~?」
 にたりを煽り顔のカナメに、動揺し困惑していた周囲の賊が引っかかる。ちょろい。一部の賊が頭領の命令に背き、煽ってきたカナメへと殺到する。それに対してカナメの表情は──まあ御察しであろう。頭領の神秘攻撃による縛りだって気にも留めない。
「私は水しかもっていないけれど……あなた方に譲るわけにはいかないわね?」
 ラサでは命に関わる大切なもの。皮水筒を懐に、Erstineは大鎌に全魔全力を込めて攻めていく。グリーフは不動の構えでレーヴェンとその荷を守らんと立ちはだかる。自らの使命は彼女を守り切る事。賊たちのことは仲間たちに託すのだ!
 自らも毒を含んだ槍を振り回す頭領の耳に、マルクの冷たく昏い歌が忍び込む。ゾワリと悪寒を走らせるそれは、しかし同時にどこか引き込まれてしまいそうな響きを含んでいた。
「私達に狙いを定めた事、後悔させて差し上げますわー!」
 ヴァレーリヤは素早く移動するなりメイスから炎を噴き上げさせる。蛇のようにのたうつそれは草原上を暴れまわり始めた。その直後にラダの放った弾が爆風と奇妙な音を発し、賊たちを草原へ転がしていく。賊たちが悲鳴と呻き声を上げる中、愛無は蛇のような姿へ擬態していた。最も完全なる蛇ではなく──体表に無数の眼球を持つ百目蛇だが。
(9人いるようだ)
 ぎょろ、ぎょろぎょろろ。蠢く目は伏兵がいないことを確認し、賊の1人と目を合わせる。直後、男は鼻血を出した。
「な、なんだ!? とまらな……ッ」
 ボタボタと血を流す賊。しかしこの戦いが終わらなければ手当の1つも満足にできないだろう。賊たちもイレギュラーズたちも、まずは1人ずつという戦法は同じだ。けれども煽りに煽っていくカナメの存在により、賊たちのターゲットが誘導されていることは否めない。
「もっともっと痛めつけて欲しいなぁ……うぇへへ……」
「こ、こいつ……!」
 ゆらりと立ち上がったカナメが恍惚とした表情で賊たちを見る。どれだけ血を流そうと傷を得ようと構わない。だってそれがキモチイイんだもの!
「さて……そろそろ片付けていきましょ!」
「ね! 花丸ちゃんが相手になるよっ!」
 Erstineの大鎌がその切っ先を頭領へと向け、花丸が引き付けんと声を上げる。気づけば賊の手下も半数ほど。けれど自分さえ押し切れれば良いのだろうか、頭領は自らへ敵意が向いたことににやりと笑みを浮かべた。
「いいね、好戦的な女は好きだぜ」
 その言葉にErstineは顔を顰める。その言葉、あの人にならいくらだって言われたい。けれどもそれ以外に相手に言われると総毛がよだつようだ。
「皆、もう少しだ!」
 マルクの支援が皆の力を押し上げる。ヴァレーリヤは毅然と前を見据えると、メイスを構えて聖句を口にした。
『主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え──』
 聖句により力を帯びたメイスを頭領へ向かって突き出す。直後には抗いがたい引力で視線が後方のヒトならざるもの、愛無の擬態へと吸い寄せられた。さらに後方には狙いの商人であるレーヴェンがいるのだが、グリーフがいかなる者も通さないと言わんばかりに立ちはだかっている。そしてその前にはイレギュラーズというあまりにも強大な壁が立ちはだかっていた。
「店仕舞いの頃合いじゃないか?」
 ラダが的確な狙いで標的を撃ち抜く。敵はもう半分もいない。こちらはカナメが大分消耗しているが、それでもまだ戦える。その状況を察した頭領は──頭は悪くないのだろう。舌打ちをすると、残った面子へ声を上げた。
「──撤退だ! 野郎ども、死ぬ気で逃げろ!」
 その言葉に花丸は「はぁっ!?」と声を上げるが、賊の逃げ足は速い。その姿は追うまでもなく、あっという間に見えなくなってしまったのだった。

 踏みしめる土が砂へ変わってどの程度歩いたか。一面になだらかな砂丘ばかりだったところへ、一同はそれ以外のものを見つけた。
「建物でしょうか」
「植物も見えますわよ」
「オアシスだな」
 口々に言い募るそこはどうやら目的の場所であるようで。まだ些か距離はあるが、目的地が見えただけでも足取りは軽くなる。
「到着だー!」
 オアシスへ足を踏み入れ、レーヴェンが両手を握りしめて天へ突き上げる。海洋から旅してきた彼女からすれば──常日頃から移動する民族だとしても──達成感があるのだろう。そして到着したということはイレギュラーズもここまでとなる。
「レーヴェンさん、色々お話出来て良かったわ!」
「こちらこそ楽しかったよ! 話にしか聞いたことがなかった君たちの活躍も見られたしね」
 Erstineの言葉にレーヴェンが笑みを見せる。彼女の目にイレギュラーズがどう映ったのか、詳しくはわからない。けれども輝く瞳を見る限り悪いものではなさそうだ。
 それじゃあね、とレーヴェンが相棒のパカダクラを連れて踵を返す。自分たちも帰ろうかとイレギュラーズたちは来た道を振り返って、不意に背後からの大声に呼び止められた。
「みんなー!」
 肩越しに振り返れば、レーヴェンが大きく腕を振っている。彼女は大きく息を吸って──。

 ──またいつか、どこかで!

成否

成功

MVP

カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し

状態異常

カナメ(p3p007960)[重傷]
毒亜竜脅し

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 また彼女とはどこかで会えることでしょう。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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